(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載されるパワーユニット支持構造では、車両走行時に生じるパワーユニットの揺動を1つのトルクロッドで支持しているため、パワーユニットからトルクロッドに伝達される荷重が大きい。従って、パワーユニットの揺動を規制できるようにトルクロッドの剛性を高める必要が生じ、その分、パワーユニットのトルクロッド連結部分の剛性を高める必要が生じ、設計の自由度を低下させる。
【0005】
更に、特許文献1に記載される構造で、パワーユニットとダッシュパネルとの間に燃料フィルタが配置された場合に、パワーユニットが車両前方から外力を受けると、パワーユニットとトルクロッドが一緒に車両後方に移動する。その結果、パワーユニットとダッシュパネルとの間の空間を潰してしまう虞があり、この空間内に配置された燃料フィルタがパワーユニットと干渉する可能性がある。
【0006】
一方、前記特許文献2に記載されるパワーユニット支持構造では、車両走行時に生じるパワーユニットの揺動を2つのトルクロッドで支持しているため、パワーユニットからトルクロッドに伝達される荷重を分散できる。しかしながら、この特許文献2に記載されるパワーユニット支持構造でも、パワーユニットとダッシュパネルとの間に燃料フィルタを配置し、パワーユニットが車両前方から外力を受けた場合、その外力が過大となると2つのトルクロッドと共にパワーユニットが車両後方に移動する。その結果、パワーユニットとダッシュパネルとの間の空間を潰してしまう虞があり、この空間内に配置された燃料フィルタがパワーユニットと干渉する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、1つのトルクロッドに入力される荷重を低減すると共に、車両前方から外力が作用した場合でもパワーユニット後方に配置される燃料フィルタを保護することが可能な車両用パワーユニット支持構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、発明の一態様は、連結されたエンジン本体及び変速機からなるパワーユニットをエンジンルーム内に搭載し、
前記エンジンルームの車両後方側下部に車両幅方向に長手なサブフレームを配置し、前記エンジンルームの後部に配置されるダッシュパネルに取り付けられ、且つ前記パワーユニットの車両後方側に燃料フィルタを配置し、前記パワーユニット
の車両幅方向両端部を
マウント装置を介して車体に支持する
一方、前記パワーユニットの下部をトルクロッドを介して前記サブフレームに支持する車両用パワーユニット支持構造において、
前記パワーユニットの前記変速機側端部を前記パワーユニットの車両幅方向一端部としたとき、前記トルクロッドは、前記パワーユニットの車両幅方向他端部寄りに配置される第1トルクロッドと、前記パワーユニットの車両幅方向中央部で前記第1トルクロッドと並んで配置される第2トルクロッドとを有し、
前記第2トルクロッドを前記第1トルクロッドの材料よりも強度の低い材料で形成し、前記パワーユニットを車両上方又は車両下方から見た場合、前記第1トルクロッドと前記第2トルクロッドとの間に前記燃料フィルタを配置し、該燃料フィルタを前記パワーユニットと前記ダッシュパネルとの間に形成される空間のうち前記第1トルクロッド寄りで、且つその上部に配置したことを特徴とする車両用パワーユニット支持構造である。
【0010】
また、前記第2トルクロッドの車両前後方向長さを前記第1トルクロッドの車両前後方向長さよりも長くしたことを特徴とする車両用パワーユニット支持構造である。
【0011】
また、前記パワーユニットを車両側面から見た場合に、前記マウント装置を中心とするパワーユニットの移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に沿う方向に前記第1トルクロッドの長手方向を設定すると共に、前記マウント装置を中心とするパワーユニットの移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に対して前記第2トルクロッドの長手方向を傾斜させたことを特徴とする車両用パワーユニット支持構造である。
【0012】
また、前記第2トルクロッドの中間部に脆弱部を形成したことを特徴とする車両用パワーユニット支持構造である。
【発明の効果】
【0013】
発明の一態様によれば、パワーユニットの車両後方に第1トルクロッドと第2トルクロッドを車両幅方向に並べて配置することで、車両幅方向に長いパワーユニットの後部を2つのトルクロッドで安定して支持することができる。また、車両走行時に生じるパワーユニットの揺動を第1トルクロッド及び第2トルクロッドの2つのトルクロッドで支持できるため、パワーユニットから伝達される荷重を2つのトルクロッドで分散でき、各トルクロッドに入力される荷重の負担を低減することができる。その結果、1つのトルクロッドの強度を過度に高める必要がなく、トルクロッドが連結されるパワーユニット側の構造又は形状の剛性を過剰に高める必要がなくなり、設計の自由度を高めることができる。
【0014】
また、第1トルクロッドと第2トルクロッドは強度の異なる材料からなる。そのため、2つのトルクロッドでは、曲げ・引張・圧縮に対して強度の差が生じる。そして、パワーユニットの後方で、且つ第1トルクロッドと第2トルクロッドとに挟まれた空間内に燃料フィルタを配置している。そのため、パワーユニットに車両前方からの外力が作用してパワーユニット全体が車両後方に押された場合に、強度の低い第2トルクロッドのみが弾性変形して荷重を吸収し、強度の高い第1トルクロッドに入力される荷重を低減する。これにより、車両前方から作用する外力が小さい場合には2つのトルクロッドによってパワーユニットと2つのトルクロッドで囲まれた空間を確保することができ、空間内に配置される燃料フィルタを保護することができる。
【0015】
更に、強度の低い第2トルクロッドの弾性変形を超える外力が車両前方からパワーユニットに作用した場合は、強度の低い第2トルクロッドが塑性変形し又は破断し、パワーユニットのうちの第2トルクロッド側のみを車両後方へと移動させて、第1トルクロッドへの荷重の負担を低減する。その結果、2つのトルクロッドとパワーユニットとダッシュパネルとで囲まれた空間は、パワーユニットのうちの第2トルクロッド側のみが後方へと移動した第1トルクロッドとパワーユニットの後部とダッシュパネルとで囲まれた空間に変形するが、空間としては確保されるので、空間内に配置される燃料フィルタを保護することができる。
【0016】
また、第2トルクロッドをパワーユニットの車両幅方向中央部に配置し、第1トルクロッドをパワーユニットの車両幅方向他端部寄りに配置している。従って、パワーユニットの後部は、車両幅方向中央部から車両幅方向他端部にかけて2つのトルクロッドで支持される。つまり、第2トルクロッドは、パワーユニットの車両幅方向においてパワーユニットの重心位置或いは重心位置に近接して配置し、第1トルクロッドはパワーユニットの車両幅方向他端部側に配置している。そのため、パワーユニットの後部は、第2トルクロッドから車両幅方向一端部までの距離寸法を、第1トルクロッドから車両幅方向他端部までの距離寸法に比べて十分に大きく設定できる。即ち、第2トルクロッドからパワーユニットの車両幅方向一端部までのオーバーハング量を、第1トルクロッドからパワーユニットの車両幅方向他端部までのオーバーハング量に比べて大きくでき、パワーユニットの車両幅方向で2つのトルクロッドをパワーユニットの重心位置或いは重心位置近傍から車両幅方向他端部側に配置できる。
【0017】
これにより、車両前方からの外力がパワーユニットに作用した場合、パワーユニットを平面図又は底面図で見た際、パワーユニットの重心を中心にパワーユニットの車両幅方向一端部を車両後方に移動又は回転させることができる。そして、パワーユニットの車両幅方向一端部が車両後方へ移動又は回転しようとすることで、パワーユニットの車両幅方向中央部に取付けられる第2トルクロッドが弾性変形する。その後、外力が第2トルクロッドの弾性変形量の許容範囲を超えた場合は、第2トルクロッドに塑性変形が生じ、ひいては第2トルクロッドが破断する。これによって、車両前方からパワーユニットに加わる外力が大きい場合には、第1トルクロッドとの連結点を支点としてパワーユニットの車両幅方向一端部が回転するように車両後方に移動する。
【0018】
このパワーユニットの車両幅方向一端部の移動に伴って第2トルクロッドの車両前端部の移動量を車両後端部の移動量よりも大きくし、前端部と後端部との間で移動量の差を生じさせ、第2トルクロッドにのみ過大な引張・圧縮・捻れを発生させて、第2トルクロッドのみを確実に破断させることができる。この結果、パワーユニットの車両幅方向一端部のみを車両後方に移動させて、第1トルクロッドが塑性変形するのを回避し、第1トルクロッドとパワーユニットの後部とダッシュパネルとで燃料フィルタが配置される空間を確保することができ、燃料フィルタを外力から保護することができる。
【0019】
また、第1トルクロッドの全長に対して第2トルクロッドの全長を長くすることで、パワーユニットに車両前方からの外力が作用したときに、第2トルクロッドの弾性変形を促進させることができる。これにより、第2トルクロッドで荷重を吸収し、同時に第1トルクロッドに入力される荷重を低減できる。更に、パワーユニットに加わる車両前方からの外力が大きい場合には、第2トルクロッドを容易に塑性変形させることができ、また第2トルクロッドを確実に破断させて、第1トルクロッドとの連結点を支点にパワーユニットの車両幅方向一端部のみを車両後方へと移動させて燃料フィルタが配置される空間を確実に確保することができる。
【0020】
また、マウント装置によってパワーユニットの車両幅方向両端部の上部が車体に取付けられるペンデュラムマウント方式であることから、車両前方から外力が作用した場合に、パワーユニットへの外力入力時は、パワーユニットはマウント装置を中心にパワーユニットの下部が車両後方に移動又は回転する。このパワーユニットの移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に沿うように第1トルクロッドの長手方向を設定すると共に、パワーユニットの移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に対して第2トルクロッドの長手方向を傾斜させる。その結果、第2トルクロッドには曲げモーメントが生じやすく、第1トルクロッドには曲げモーメントが生じにくい。従って、強度の低い第2トルクロッドを積極的に変形させて当該第2トルクロッドのみを確実に破断させることができる。
【0021】
また、第2トルクロッドの車両先端部と車両後端部の間の中間部に脆弱部を設けることで、車両後端部に対する車両先端部の移動量が大きい場合には、中間脆弱部に引張・圧縮・捻れなどを生じさせて中間脆弱部に局所的な応力集中を生じさせる。これにより、脆弱部である中間部を基点に第2トルクロッドを破断させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の車両用パワーユニット支持構造の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の車両用パワーユニット支持構造が適用された車両前部の平面図、
図2は、
図1の車両前部の側面図、
図3は、
図1の車両前部の後面図、
図4は、
図1の車両前部の底面図である。本実施形態の車両は、車両前方にエンジンルーム1を持ち、エンジンルーム1内にエンジン本体2を搭載する。本実施形態のエンジン本体2は、直列4気筒エンジンであり、クランクシャフトを車両幅方向に向けて配置した横置きエンジンである。このエンジン本体2に、横置きの変速機3を連結して、本実施形態のパワーユニット4が構成される。従って、本実施形態のパワーユニット4は、車両幅方向に長い。なお、エンジンルーム1は、ダッシュパネル10によって車室と区画されている。
【0024】
エンジンルーム1内の上部にあって車両幅方向両側には、
図3に明示するように、車両前後方向に長手なサイドフレーム5が配置されている。このサイドフレーム5は、車体の一部であり、パワーユニット4の車両幅方向両端部の夫々は、マウント装置6を介して、左右のサイドフレーム5に支持されている。マウント装置6は、パワーユニット4の車両幅方向両端部の上部を吊り下げるようにしてサイドフレーム5、即ち車体に支持していることから、一般にペンデュラムマウント方式と呼ばれる車体支持構造となっている。
【0025】
一方、ダッシュパネル10の下方にあってエンジンルーム1の車両後方には、サスペンションメンバなどのサブフレーム7が配置されている。このサブフレーム7も車体の一部であり、本実施形態のサブフレーム7は車両幅方向に長手である。本実施形態では、パワーユニット4の車両後方下部をサブフレーム7に連結して支持する。後段に詳述するように、ペンデュラム方式のパワーユニット車体支持構造では、パワーユニット4の下部が車両前後方向に回転するように揺動する。この揺動を支持するために、パワーユニット4の車両後方下部をサブフレーム7に連結して支持する。
【0026】
パワーユニット4の車両後方下部のサブフレーム7への連結は2つのトルクロッドを使用する。2つのトルクロッドのうち、第1トルクロッド8は、例えば金属製であり、全長(連結杆部分)が比較的短い。そのため、第1トルクロッド8は機械的強度が比較的高い。例えば変速機3側をパワーユニット4の車両幅方向一端部としたとき、第1トルクロッド8はパワーユニット4の車両幅方向他端部寄りに配置され、その位置でパワーユニット4の車両後方下部をサブフレーム7に連結する。一方、2つのトルクロッドのうち、第2トルクロッド9は、例えば樹脂製であり、全長(連結杆部分)が第1トルクロッド8の全長よりも長い。そのため、第2トルクロッド9は、第1トルクロッド8よりも機械的強度が低い。第2トルクロッド9は車両幅方向一端部から離れたパワーユニット4の車両幅方向中央部で第1トルクロッド8と並んで配置され、その位置でパワーユニット4の車両後方下部をサブフレーム7に連結する。
【0027】
エンジン本体2に供給する燃料を濾過するための燃料フィルタ11はエンジンルーム1内に配置する。燃料フィルタ11をエンジンルーム1内に配置するのは、整備性、安全性、合理性に優れているためである。本実施形態では、第1トルクロッド8と第2トルクロッド9の間に燃料フィルタ11を配置する。燃料フィルタ11はダッシュパネル10に取付けられる。従って、燃料フィルタ11は、パワーユニット4(の後部)と2つのトルクロッド8,9とダッシュパネル10で囲まれる空間に配置される。燃料フィルタ11は、燃料供給配管12によって車両後部の図示しない燃料タンクに接続される。
【0028】
本実施形態では、パワーユニット4を車両上方(平面視)又は車両下方(底面視)から見た場合に、燃料フィルタ11をエンジンルーム1の車両幅方向で第2トルクロッド9よりも第1トルクロッド8に近づけて配置している。前述のように、第1トルクロッド8に比べて第2トルクロッド9は機械的強度が低い。
図5は、車両前方からの外力がパワーユニット4に作用する状態を示す底面図、
図6は、車両前方から大きな外力がパワーユニット4に作用した状態を示す底面図、
図7は、
図6の模式図である。なお、図中の実線の矢印は車両前方からの外力を、破線の矢印は変速機3から斜めに作用する車両前方からの外力を示す。パワーユニット4に車両前方からの外力(斜め前方からの外力を含む)が作用してパワーユニット4全体が車両後方に押されると、強度の低い第2トルクロッド9のみが先に弾性変形して荷重を吸収し、強度の高い第1トルクロッドに入力される荷重を低減する。従って、車両前方から作用する外力が小さい場合には、第2トルクロッド9が弾性変形しながら、2つのトルクロッド8,9によってパワーユニット4と2つのトルクロッド8,9で囲まれた空間を確保することができ、空間内に配置される燃料フィルタ11を保護することができる。
【0029】
車両前方からパワーユニット4に作用する外力が第2トルクロッド9の弾性変形領域を超えると、第2トルクロッド9が塑性変形又は破断する。その結果、パワーユニット4の第2トルクロッド9側のみが車両後方へ移動し、第1トルクロッド8への荷重の負担が低減される。
図5に示す2つのトルクロッド8,9とパワーユニット4とダッシュパネル10で囲まれた空間は、パワーユニット4の第2トルクロッド9側のみが後方へと移動した第1トルクロッド8とパワーユニット4とダッシュパネル10とで囲まれた空間に変形するが、空間としては確保されるので、空間内に配置される燃料フィルタ11を保護することができる。しかも、車両平面視又は底面視で、第2トルクロッド9よりも、変形しにくい第1トルクロッド8寄りに燃料フィルタ11を配置しているため、このようにパワーユニット4の後方の空間が変形しても、燃料フィルタ11を確実に保護することができる。
【0030】
また、本実施形態では、第2トルクロッド9をパワーユニット4の車両幅方向中央部に配置し、第1トルクロッド8をパワーユニット4の車両幅方向他端部寄りに配置している。従って、第2トルクロッド9は、車両幅方向においてパワーユニット4の重心位置O或いは重心位置Oに近接して配置され、第1トルクロッド8はパワーユニット4の重心位置Oから離れた車両幅方向他端部側に配置されている。そのため、
図7に明示するように、パワーユニット4の後部では、第1トルクロッド8から車両幅方向他端部までの距離寸法L4に比べて、第2トルクロッド9から車両幅方向一端部までの距離寸法L3が十分に大きい。つまり、車両前方からの外力に対して、パワーユニット4の車両幅方向一端部側は、第2トルクロッド9で支持される重心位置Oに対して自由端状態となっている。従って、車両前方からの外力がパワーユニット4に作用した場合、パワーユニット4の重心位置Oを中心にパワーユニット4の車両幅方向一端部が車両後方に移動又は回転する。これにより、前述した第2トルクロッド9の塑性変形や破断が生じやすくなり、車両前方からパワーユニット4に加わる外力が大きい場合には、第1トルクロッド8との連結点を支点としてパワーユニット4の車両幅方向一端部が回転するように車両後方に移動する。この結果、第1トルクロッド8が塑性変形するのを回避し、第1トルクロッド8とパワーユニット4の後部とダッシュパネル10とで燃料フィルタ11が配置される空間を確保することができ、燃料フィルタ11を外力から保護することができる。
【0031】
また、本実施形態は、パワーユニット4の車両幅方向両端部の上部をマウント装置6によって吊り下げるように車体に取付けるペンデュラムマウント方式である。そのため、車両前方から外力が作用した場合には、
図8に示すように、パワーユニット4はマウント装置6を中心にパワーユニット4の下部が車両後方に移動又は回転する。本実施形態では、このパワーユニット4の移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に沿うように第1トルクロッド8の長手方向を設定すると共に、パワーユニット4の移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に対して第2トルクロッド9の長手方向を角度θで傾斜させている。従って、第2トルクロッド9には曲げモーメントが生じやすく、第1トルクロッド8には曲げモーメントが生じにくい。その結果、強度の低い第2トルクロッド9を積極的に変形させることができ、それにより第2トルクロッド9のみを確実に破断させることができる。
【0032】
また、本実施形態では、第2トルクロッド9の車両先端部と車両後端部の間の中間部に脆弱部13を設けている。このように第2トルクロッド9の中間部に脆弱部13を設けることで、第2トルクロッド9の車両後端部に対する車両先端部の移動量が大きい場合には、中間脆弱部13に局所的な応力集中を生じる。これにより、脆弱部13である中間部を基点に第2トルクロッド9をより一層確実に破断させることができる。
【0033】
このように本実施形態の車両用パワーユニット支持構造では、パワーユニット4の車両後方に第1トルクロッド8と第2トルクロッド9を車両幅方向に並べて配置することで、車両幅方向に長いパワーユニット4の後部を2つのトルクロッド8,9で安定して支持することができる。また、車両走行時に生じるパワーユニット4の揺動を第1トルクロッド8及び第2トルクロッド9の2つのトルクロッド8,9で支持できるため、パワーユニット4から伝達される荷重を2つのトルクロッド8,9で分散でき、各トルクロッド8,9に入力される荷重の負担を低減することができる。その結果、1つのトルクロッドの強度を過度に高める必要がなく、トルクロッドが連結されるパワーユニット4側の構造又は形状の剛性を過剰に高める必要がなくなり、設計の自由度を高めることができる。
【0034】
また、第1トルクロッド8と第2トルクロッド9は強度の異なる材料からなる。そのため、2つのトルクロッド8,9では、曲げ・引張・圧縮に対して強度の差が生じる。そして、パワーユニット4の後方で、且つ第1トルクロッド8と第2トルクロッド9とに挟まれた空間内に燃料フィルタ11を配置している。そのため、パワーユニット4に車両前方からの外力が作用してパワーユニット4全体が車両後方に押された場合に、強度の低い第2トルクロッド9のみが弾性変形して荷重を吸収し、強度の高い第1トルクロッド8に入力される荷重を低減する。これにより、車両前方から作用する外力が小さい場合には2つのトルクロッド8,9によってパワーユニット4と2つのトルクロッド8,9で囲まれた空間を確保することができ、空間内に配置される燃料フィルタ11を保護することができる。
【0035】
更に、強度の低い第2トルクロッド9の弾性変形を超える外力が車両前方からパワーユニット4に作用した場合は、強度の低い第2トルクロッド9が塑性変形し又は破断し、パワーユニット4のうちの第2トルクロッド9側のみを車両後方へと移動させて、第1トルクロッド8への荷重の負担を低減する。その結果、2つのトルクロッド8,9とパワーユニット4とダッシュパネル10とで囲まれた空間は、パワーユニット4のうちの第2トルクロッド9側のみが後方へと移動した第1トルクロッド8とパワーユニット4の後部とダッシュパネル10とで囲まれた空間に変形するが、空間としては確保されるので、空間内に配置される燃料フィルタ11を保護することができる。
【0036】
また、第2トルクロッド9をパワーユニット4の車両幅方向中央部に配置し、第1トルクロッド8をパワーユニット4の車両幅方向他端部寄りに配置している。従って、パワーユニット4の後部は、車両幅方向中央部から車両幅方向他端部にかけて2つのトルクロッド8,9で支持される。つまり、第2トルクロッド9は、パワーユニットの車両幅方向においてパワーユニット4の重心位置或いは重心位置に近接して配置し、第1トルクロッド8はパワーユニット4の車両幅方向他端部側に配置している。そのため、パワーユニット4の後部は、第2トルクロッド9から車両幅方向一端部までの距離寸法L3を、第1トルクロッド8から車両幅方向他端部までの距離寸法L4に比べて十分に大きく設定できる。即ち、第2トルクロッド9からパワーユニット4の車両幅方向一端部までのオーバーハング量を、第1トルクロッド8からパワーユニット4の車両幅方向他端部までのオーバーハング量に比べて大きくでき、パワーユニット4の車両幅方向で2つのトルクロッド8,9をパワーユニット4の重心位置O或いは重心位置O近傍から車両幅方向他端部側に配置できる。
【0037】
これにより、車両前方からの外力がパワーユニット4に作用した場合、パワーユニット4を平面図又は底面図で見た際、パワーユニット4の重心位置Oを中心にパワーユニット4の車両幅方向一端部を車両後方に移動又は回転させることができる。そして、パワーユニット4の車両幅方向一端部が車両後方へ移動又は回転しようとすることで、パワーユニット4の車両幅方向中央部に取付けられる第2トルクロッド9が弾性変形する。その後、外力が第2トルクロッド9の弾性変形量の許容範囲を超えた場合は、第2トルクロッド9に塑性変形が生じ、ひいては第2トルクロッド9が破断する。これによって、車両前方からパワーユニット4に加わる外力が大きい場合には、第1トルクロッド8との連結点を支点としてパワーユニット4の車両幅方向一端部が回転するように車両後方に移動する。
【0038】
このパワーユニット4の車両幅方向一端部の移動に伴って第2トルクロッド9の車両前端部の移動量を車両後端部の移動量よりも大きくし、前端部と後端部との間で移動量の差を生じさせ、第2トルクロッド9にのみ過大な引張・圧縮・捻れを発生させて、第2トルクロッド9のみを確実に破断させることができる。この結果、パワーユニット4の車両幅方向一端部のみを車両後方に移動させて、第1トルクロッド8が塑性変形するのを回避し、第1トルクロッド8とパワーユニット4の後部とダッシュパネル10とで燃料フィルタ11が配置される空間を確保することができ、燃料フィルタ11を外力から保護することができる。
【0039】
また、第1トルクロッド8の全長L2に対して第2トルクロッド9の全長L1を長くすることで、パワーユニット4に車両前方からの外力が作用したときに、第2トルクロッド9の弾性変形を促進させることができる。これにより、第2トルクロッドで荷重を吸収し、同時に第1トルクロッドに入力される荷重を低減できる。更に、パワーユニット4に加わる車両前方からの外力が大きい場合には、第2トルクロッド9を容易に塑性変形させることができ、また第2トルクロッド9を確実に破断させて、第1トルクロッド8との連結点を支点にパワーユニット4の車両幅方向一端部のみを車両後方へと移動させて燃料フィルタ11が配置される空間を確実に確保することができる。
【0040】
また、マウント装置6によってパワーユニット4の車両幅方向両端部の上部が車体に取付けられるペンデュラムマウント方式であることから、車両前方から外力が作用した場合に、パワーユニット4への外力入力時は、パワーユニット4はマウント装置6を中心にパワーユニット4の下部が車両後方に移動又は回転する。このパワーユニット4の移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に沿うように第1トルクロッド8の長手方向を設定すると共に、パワーユニット4の移動軌跡又は回転軌跡の接線方向に対して第2トルクロッド9の長手方向を傾斜させる。その結果、第2トルクロッド9には曲げモーメントが生じやすく、第1トルクロッド8には曲げモーメントが生じにくい。従って、強度の低い第2トルクロッド9を積極的に変形させて当該第2トルクロッド9のみを確実に破断させることができる。
【0041】
また、第2トルクロッド9の車両先端部と車両後端部の間の中間部に脆弱部13を設けることで、車両後端部に対する車両先端部の移動量が大きい場合には、中間脆弱部13に引張・圧縮・捻れなどを生じさせて中間脆弱部13に局所的な応力集中を生じさせる。これにより、脆弱部13である中間部を基点に第2トルクロッド9を破断させることができる。