特許第6036006号(P6036006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6036006内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036006
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/32 20060101AFI20161121BHJP
   F02B 75/04 20060101ALI20161121BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F02B75/32 A
   F02B75/04
   F01M1/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-184697(P2012-184697)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-40822(P2014-40822A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】田辺 孝司
(72)【発明者】
【氏名】牛嶋 研史
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−185329(JP,A)
【文献】 特開2010−007620(JP,A)
【文献】 特開2007−239791(JP,A)
【文献】 特開2010−185328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/32
F01M 1/06
F02B 75/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパリンクと、このアッパリンクの他端にアッパピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに回転可能に取り付けられたロアリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、かつ他端が上記ロアリンクにコントロールピンを介して連結されたコントロールリンクと、を備えてなる内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造において、
上記クランクピンの内部を径方向に延在し、一端がクランクピンの外周面に開口し、所定圧の潤滑油が供給されるクランクピン油路と、
上記ロアリンクに形成され、上記アッパピンが回転可能に嵌合するアッパリンクのピンボス部もしくは上記コントロールピンが回転可能に嵌合するコントロールリンクのピンボス部に対向するピンボス対向面と、上記クランクピンの軸受面と、を貫通するロアリンク油路と、を有し、
上記クランクピン油路とロアリンク油路とが連通する所定のクランク角のときに、クランク軸方向視で、上記クランクシャフトの回転中心と、上記ロアリンク油路のピンボス対向面側の端部と、を結ぶ直線上に、上記ピンボス部が配置されており、
かつ、上記ピンボス部の軸方向端面に、軸方向に窪んだ凹部が設けられ
上記凹部は、上記ピンボス部の外周面側が内周面側に比して拡大するように形成されていることを特徴とする内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項2】
ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパリンクと、このアッパリンクの他端にアッパピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに回転可能に取り付けられたロアリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、かつ他端が上記ロアリンクにコントロールピンを介して連結されたコントロールリンクと、を備えてなる内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造において、
上記クランクピンの内部を径方向に延在し、一端がクランクピンの外周面に開口し、所定圧の潤滑油が供給されるクランクピン油路と、
上記ロアリンクに形成され、上記アッパピンが回転可能に嵌合するアッパリンクのピンボス部もしくは上記コントロールピンが回転可能に嵌合するコントロールリンクのピンボス部に対向するピンボス対向面と、上記クランクピンの軸受面と、を貫通するロアリンク油路と、を有し、
上記クランクピン油路とロアリンク油路とが連通する所定のクランク角のときに、クランク軸方向視で、上記クランクシャフトの回転中心と、上記ロアリンク油路のピンボス対向面側の端部と、を結ぶ直線上に、上記ピンボス部が配置されており、
かつ、上記ピンボス部の軸方向端面に、軸方向に窪んだ凹部が設けられ
上記凹部は、上記ピンボス部のうち、上記アッパリンクもしくはコントロールリンクの両端部のピンボス部を結ぶロッド部に近い側に配置されていることを特徴とする内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項3】
上記クランクピン油路とロアリンク油路とが連通する所定のクランク角のときに、クランク軸方向視で、上記クランクシャフトの回転中心と、上記クランクピン油路の外周面側の端部と、上記ロアリンク油路のピンボス対向面側の端部と、を結ぶ直線上に、上記潤滑油供給対象部位が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項4】
上記クランクピンの軸受部分に、周方向に延在する周方向油路が形成されており、
この周方向油路を介して上記クランクピン油路とロアリンク油路とが連通するように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項5】
上記ロアリンク油路が、荷重入力の低い位置に配置されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項6】
上記クランクピン油路が、燃焼荷重入力位置を避けて配置されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項7】
上記凹部は、上記ピンボス部の軸方向視で、上記ピンボス部の中心を通ってリンク中心線に直交するピンボス直交線を避けるように配置されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項8】
上記ピンボス部の外周側の隅角部分に湾曲部が設けられていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【請求項9】
上記ピンボス部の各軸方向端面に、複数の凹部が設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構に関し、特に、ピン軸受部分の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式内燃機関のピストンピンとクランクピンとの間を複リンク式ピストン−クランク機構で連結した従来技術として、本出願人が先に提案した特許文献1等が公知となっている。これは、ピストンのピストンピンに連結されるアッパリンクと、このアッパリンクとクランクシャフトのクランクピンとを連結するロアリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、かつ他端が上記ロアリンクに連結されるコントロールリンクと、を備えている。上記アッパリンクと上記ロアリンクとは、アッパピンを介して互いに回転可能に連結され、上記コントロールリンクと上記ロアリンクとは、コントロールピンを介して互いに回転可能に連結されている。
【0003】
このような複リンク式のピストン−クランク機構におけるロアリンクは、ピストンが受けた燃焼圧力(筒内圧)をアッパリンクを介してアッパピンより受け取り、コントロールピンを支点とする一種の”てこ”のような動作でクランクピンに力を伝達する。従って、ロアリンクには、ピストンが受けた大きな燃焼圧力や慣性荷重が、ピストンピン、アッパリンク、アッパピンを介して、アッパピン軸受部から入力される。それと同時に、この荷重とつりあうように、クランクピン軸受部やコントロールピン軸受部にも荷重が発生する。従って、各々の軸受部の面圧は、一般的な単リンク式のレシプロエンジンに比べて厳しいものとなり、摩耗や焼き付きを防ぐために、十分な潤滑状態を維持することが求められる。
【0004】
特に、ロアリンクとアッパリンクとを連結するアッパピンの軸受部分の潤滑については、機関運転中にはクランクシャフトの回転に応じてロアリンクがクランクピンとともにクランクシャフトの周りを公転しつつ、このクランクピンに対して回転方向に変位することから、油圧を利用して潤滑油を強制的に供給することが構造的に難しい。
【0005】
そこで、上記の特許文献1では、クランクピン,ロアリンク及びアッパリンクのピンボス部にそれぞれ油路を形成し、所定のクランク角のときに、クランクピンの油路とロアリンクの油路とが連通して、ロアリンクの油路からピンボス部の油路へ向かって潤滑油を噴射させることで、このロアリンクの油路を通してアッパリンクのピンボス部の軸受部分へ潤滑油を供給するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−185329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1に記載のものでは、ロアリンクからの潤滑油の噴射時におけるクランクシャフトの回転による慣性力の影響が考慮されておらず、高回転時にロアリンクの油路から噴射された潤滑油が、供給先のピンボス部の油路の位置からずれてかかり、供給油量が減少するおそれがある。
【0008】
また、上記特許文献1のようにアッパリンクのピンボス部に油路を貫通形成した場合、油路の周囲に応力集中が発生し易くなり、強度が低下するために、耐久性や信頼性の確保が困難となる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ロアリンクの油路からアッパリンクやコントロールリンクのピンボス部へ潤滑油を噴射供給する構造において、ロアリンクから噴射される潤滑油の多くをピンボス部のピン軸受部分へ良好に案内して、その潤滑油量を確保することにより潤滑性能を向上を図り、かつ、ピンボス部の強度を確保し得る新規な内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の潤滑構造に関するもので、この複リンク式ピストン−クランク機構は、ピストンにピストンピンを介して一端が連結されたアッパリンクと、このアッパリンクの他端にアッパピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに回転可能に取り付けられたロアリンクと、一端が機関本体側に揺動可能に支持され、かつ他端が上記ロアリンクにコントロールピンを介して連結されたコントロールリンクと、を備えている。
【0011】
上記クランクピンには、その内部を径方向に延在し、一端がクランクピンの外周面に開口し、所定圧の潤滑油が供給されるクランクピン油路が形成されている。ロアリンクに形成されるロアリンク油路は、上記アッパピンが回転可能に嵌合するアッパリンクのピンボス部もしくは上記コントロールピンが回転可能に嵌合するコントロールリンクのピンボス部に対向するピンボス対向面と、上記クランクピンの軸受面と、を貫通している。
【0012】
クランクピン油路とロアリンク油路とが連通する所定のクランク角のときに、クランク軸方向視で、クランクシャフトの回転中心と、ロアリンク油路のピンボス対向面側の端部と、を結ぶ直線上に、潤滑油供給対象となるピンボス部が配置されている。この潤滑供給対象となるピンボス部の軸方向側面には、軸方向に窪んだ凹部が設けられている。
【0013】
これにより、クランクピン油路とロアリンク油路とが連通する所定のクランク角のとき、クランクピン油路へ供給される所定圧の潤滑油が、ロアリンク油路のピンボス対向面側の端部より噴射・噴出され、その一部がピンボス部の軸方向側面に凹設された凹部を経由して、アッパピンやコントロールピンの軸受部分へ供給される。ここで、クランクシャフトの回転中心と、潤滑油が噴射されるロアリンク油路のピンボス対向面側の端部と、を結ぶ直線上に、潤滑油供給対象となるピンボス部が配置されているために、クランクシャフトの回転による慣性力によって、ロアリンク油路のピンボス対向面側の端部から噴射される潤滑油の多くが潤滑油供給対象であるピンボス部へ向かう形となり、ピンボス部へ供給される潤滑油量を十分に確保することができる。
【0014】
また、ピンボス部へ噴射供給された潤滑油をピン軸受部分へ案内する構造として、ピンボス部の軸方向側面に凹部を形成しているために、油路を貫通形成する場合に比して、応力集中を抑制し、ピンボス部の強度低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クランクピン油路,ロアリンク油路及びピンボス部の軸方向側面に形成された凹部を通して、アッパリンクやコントロールリンクのピン軸受部分へ潤滑油を供給することで、ピン軸受部分への潤滑油量を確保し、潤滑性能を向上することができる。また、ロアリンクから噴射された潤滑油をピンボス部のピン軸受部分へ案内する構造として、ピンボス部の軸方向側面に凹部を形成しているために、ピンボス部に油路を貫通形成する場合に比して、応力集中を抑制し、ピンボス部の強度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明係る内燃機関の複リンク式ピストン−クランク機構の一例を示す断面対応図。
図2】ロアリンクの近傍を示す断面図。
図3】ピンボス部に凹部を設けた実施例(A)と貫通孔を設けた比較例(B)とで応力集中係数(C)を比較した説明図。
図4】ロアリンクに作用する最大トルクや最大出力を示す荷重線図(A)、及びロアリンク油路の形成位置を示す説明図(B)。
図5】クランクピンに作用する燃焼荷重を示す荷重線図(A)、及びクランクピン油路の形成位置を示す説明図。
図6】アッパ側ピンボス部へのU噴射期間及びコントロール側ピンボス部へのC噴射期間の一例を示す説明図。
図7】上記凹部の一例を示すピンボス部近傍の正面図(A)、側面図(B)、及び斜視図(C)。
図8】上記凹部の他の例を示すピンボス部近傍の正面図(A)、側面図(B)、及び斜視図(C)。
図9】上記凹部の更に他の例を示すピンボス部近傍の正面図(A)、側面図(B)、及び斜視図(C)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の好ましい実施例を図面に基づいて説明する。図1は、複リンク式ピストン−クランク機構を可変圧縮比機構として構成した構成例を示す構成説明図である。この機構は、ロアリンク4とアッパリンク5とコントロールリンク10とを主体とした複リンク式ピストン−クランク機構を備えている。クランクシャフト1は、複数のジャーナル部2とクランクピン3とを備えており、シリンダブロック9の主軸受に、ジャーナル部2が回転自在に支持されている。上記クランクピン3は、ジャーナル部2から所定量偏心しており、ここにロアリンク4が回転可能に取り付けられている。
【0018】
上記ロアリンク4は、クランクピン3に後から組み付け可能なように、ボルト(図示省略)により締結される一対のロアリンク分割部材31,32により分割構成されている。アッパリンク5は、下端側のアッパ側ピンボス部5Aがアッパピン6によりロアリンク4の第1ロア側ピンボス部4Aに相対回転可能に連結され、上端側がピストンピン7によりピストン8に相対回転可能に連結されている。上記ピストン8は、燃焼圧力を受け、シリンダブロック9のシリンダ9A内を往復動する。
【0019】
ロアリンク4の運動を拘束するコントロールリンク10は、上端側のコントロール側ピンボス部10Aがコントロールピン11によりロアリンク4の第2ロア側ピンボス部4Bに相対回転可能に連結され、下端側が制御軸12を介して機関本体の一部となるシリンダブロック9の下部に相対回転可能に支持されている。詳しくは、制御軸12は、回転可能に機関本体に支持されているとともに、その回転中心から偏心している偏心カム部12Aを有し、この偏心カム部12Aに上記コントロールリンク10下端部が回転可能に嵌合している。上記制御軸12は、図示せぬエンジンコントロールユニットからの制御信号に基づいて作動する図示せぬ圧縮比制御アクチュエータによって回動位置が制御される。
【0020】
このような複リンク式ピストン−クランク機構を用いた可変圧縮比機構においては、上記制御軸12が圧縮比制御アクチュエータによって回動されると、偏心カム部12Aの中心位置、特に、機関本体に対する相対位置が変化する。これにより、コントロールリンク10の下端の揺動支持位置が変化する。そして、上記コントロールリンク10の揺動支持位置が変化すると、ピストン8の行程が変化し、ピストン上死点(TDC)におけるピストン8の位置が高くなったり低くなったりする。これにより、機関圧縮比を変えることが可能となる。つまり、上記の偏心カム部12Aを備える制御軸12,圧縮比制御アクチュエータ及びエンジンコントロールユニット等が、機関圧縮比を可変とする可変圧縮比手段を構成している。
【0021】
ロアリンク4の第1ロア側ピンボス部4Aは、アッパ側ピンボス部5Aを挟み込むように二股状に構成されており、中空状のアッパピン6は、アッパ側ピンボス部5Aを回転可能に嵌合・挿通し、両端で二股状の第1ロア側ピンボス部4Aに圧入により固定されている。従って、ロアリンク4の二股状の第1ロア側ピンボス部4Aの間に設けられるピンボス対向面4Cが、アッパ側ピンボス部5Aの外周面に対向・対面する形となる。
【0022】
同様に、ロアリンク4の第2ロア側ピンボス部4Bは、コントロール側ピンボス部10Aを挟み込むように二股状に構成されており、コントロールピン11は、コントロール側ピンボス部10Aを回転可能に嵌合・挿通し、両端で二股状の第2ロア側ピンボス部4Bに圧入により固定されている。従って、ロアリンク4の二股状の第2ロア側ピンボス部4Bの間に設けられるピンボス対向面4Dが、コントロール側ピンボス部10Aの外周面に対向・対面する形となる。
【0023】
クランクピン3にはクランクピン油路21が形成されている。クランクピン油路21は、半径方向に直線状に延在して、その一端がクランクピン3の外周面に開口している。このクランクピン油路21には、クランクシャフト1の軸方向に延びる軸方向油路20を経由して、図外のオイルポンプにより加圧された所定圧の潤滑油が供給されている。ロアリンク4にはロアリンク油路22が形成されている。このロアリンク油路22は、クランクピン3の軸受部分にはめ込まれた軸受メタル(図示省略)を含めて、アッパ側ピンボス部5Aの外周面に対向する上記のピンボス対向面4Cとクランクピン軸受面、つまり軸受メタルの内周面とを貫通している。
【0024】
次に、図示実施例の特徴的な構成及び作用効果について、以下に列記する。なお、以下の説明では、主にアッパリンク5のアッパ側ピンボス部5Aの潤滑構造について説明しているが、コントロールリンク10のコントロール側ピンボス部10Aについても同様の潤滑構造を適用することが可能である。
【0025】
[1]図2に示すように、アッパリンク5のピンボス部5Aの軸方向両側面には、それぞれ、軸方向に窪んだ凹部23が設けられている。この凹部23は、ピンボス部5Aの外周面からアッパピン6の軸受面となる内周面にわたって径方向に延在している。そして、所定のクランク角、例えば、慣性荷重が大きくなる下死点近傍のクランク角のときに、後述する周方向油路24を介してクランクピン油路21とロアリンク油路22とが連通し、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aよりピンボス部5Aへ向けて潤滑油が噴射供給される。このように潤滑油が噴射供給されるクランク角のとき、クランク軸方向視で、クランクシャフト1のジャーナル部2の回転中心2Aと、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aと、を結ぶ直線25上に、ピンボス部5Aが配置され、より詳しくは、このピンボス部5Aの軸方向側面に凹設された凹部23が配置されるように構成されている。
【0026】
従って、クランクピン油路21とロアリンク油路22とが連通する所定のクランク角でのリンク配置では、クランクピン油路21へ供給される所定圧の潤滑油が、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aより噴射され、ピンボス部5Aの凹部23を経由して、アッパピン6の軸受部分へと供給される。
【0027】
ここで、クランクシャフト1の回転中心2Aと、潤滑油が噴射されるロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aと、を結ぶ直線25上、つまりクランクシャフト1の回転に伴う慣性力が作用する方向(25)に沿って、潤滑油供給対象となるピンボス部5Aの凹部23が配置される形となるために、クランクシャフト1の回転に伴う慣性力を利用して、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aから噴射される潤滑油の多くが、潤滑油供給対象であるピンボス部5Aの凹部23へ案内されることとなり、凹部23からピン軸受部分へ供給される潤滑油量を十分に確保することが可能となり、ピン軸受部分の潤滑性能を向上することができる。
【0028】
また、ロアリンク油路22から噴射された潤滑油の多くを凹部23へ導く構造として、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aを、慣性方向に沿う直線25上に配置すれば良く、ロアリンク油路22の通路形状や方向等は、ロアリンク4の強度等を勘案して適宜に設定することが可能であるために、レイアウトの自由度が高く、潤滑油量の確保と強度の確保との両立を容易に実現可能である。
【0029】
図3を参照して、図3(A)は、ピンボス部5Aのピン軸受部分へ潤滑油を案内する構造として、ピンボス部5Aの軸方向両側面に凹部23を形成した上記実施例の構造を模式的に示しており、図3(B)は、ピンボス部5Aに、ピンボス部5Aの外周面と内周面とを連通する油路としての貫通孔26を貫通形成した比較例の構造を模式的に示している。実施例(A)と比較例(B)とで、リンク幅2bは同等であり、また、凹部23と貫通孔26との流路断面積、つまり実質的な流量は同等である。この場合、実施例(A)のリンク最小幅L1が比較例(B)のリンク最小幅L2よりも大きくなり、かつ、凹部23の曲率半径R1が貫通孔26の曲率半径よりも大きくなる。従って、図3(C)に示すように、実施例(A)の構造では、比較例(B)の構造に比して、同等の入力荷重に対する応力集中係数が小さくなって応力集中が緩和され、リンク幅の増加(L1>L2)と相俟って、ピンボス部5Aの強度を大幅に向上することができる。
【0030】
[2]図2に示すように、クランクピン油路21とロアリンク油路22とが連通する所定のクランク角のときに、クランク軸方向視で、クランクシャフト1の回転中心2Aと、クランクピン油路21の外周面側の端部21Aと、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aと、を結ぶ直線25上に、潤滑油供給対象部位であるピンボス部5Aの凹部23が配置されている。つまり、潤滑油供給対象部位であるピンボス部5Aの凹部23へ向かうクランクシャフト1の慣性方向(直線25)に沿って、クランクピン油路21の外周面側の端部21Aと、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aと、が配置されている。従って、クランクシャフト1の回転による慣性力を利用して、クランクピン油路21からロアリンク油路22を経てピンボス部5Aの凹部23へ向かって噴射される潤滑油の流れを促進し、ピンボス部5Aのピン軸受部分へ十分な潤滑油量を確実に供給することが可能となる。
【0031】
[3]図2に示すように、クランクピン3の軸受部分に、周方向に延在する周方向油路24が形成されており、所定のクランク角の範囲では、この周方向油路24を介してクランクピン油路21とロアリンク油路22とが連通するように構成されている。周方向油路24は、本実施例ではクランクピン3の軸受面を構成するロアリンク4の内周面に凹設されているが、クランクピン3の外周面に凹設してもよく、あるいは、両者3,4間に介装される(半)円筒状の軸受メタルに周方向油路24を設けるようにしても良い。このように、クランクピン3の軸受部分に周方向油路24を設けることで、クランクピン油路21とロアリンク油路22とが連通するクランク角の範囲を拡大して、潤滑油の噴射期間を長くし、潤滑油の供給量を増加して潤滑性能を更に向上することができる。
【0032】
[4]図4を参照して、ロアリンク油路22は、荷重入力の低い位置に配置されている。つまり、図4(A)に示すように、最大トルクTaや最高出力Tbが作用する範囲を避けるように、クランクピン軸受面を中心とする所定角度αの範囲に配置されている。より具体的には、ロアリンク油路22は、クランクピン軸受面の中心からピン(6,11)の中心を結ぶ線を中心とした所定角度(約90度)の範囲α内に設定され、更に言えば、ロアリンク分割部材31,32の合わせ面34からピン(6,11)側に所定角度(約90度)の範囲α内に設定されている。このように、荷重入力の低い位置にロアリンク油路22を配置することで、ロアリンク油路22を形成した構造でありながら、荷重入力に対するロアリンク4の強度の確保が容易なものとなり、潤滑性能の向上とロアリンク4の強度確保との両立を図ることができる。
【0033】
[5]図5を参照して、クランクピン油路21は、燃焼荷重の入力位置を避けて配置されている。具体的には、クランクシャフト1の回転中心2Aからクランクピン中心に向かう方向を基準(0°)とした反時計回り方向を正回転方向とする座標系において、−25°付近に燃焼荷重入力のピークTcが位置するために、この燃焼荷重入力のピークTcを中心とした所定角度範囲β(約90度)、つまり約−70度から約+20度の範囲βを避けるように、クランクピン油路21の外周面側の端部21Aの位置が設定されている。このように、燃焼荷重入力位置を避けてクランクピン油路21を配置することで、クランクピン油路21を形成しているにもかかわらず、燃焼荷重入力に対するクランクピン3の強度確保が容易なものとなり、潤滑性能の向上とクランクピン3の強度確保との両立を図ることができる。
【0034】
図4(B)及び図6を参照して、θxは、クランクピン油路21から噴射するスプラッシュの向きであり、クランクピン3の中心に対するクランクピン油路21の外周側端部21Aの合わせ面34からの角度位置に相当する。θUは、潤滑油の噴射方向がアッパ側ピンボス部5Aを指向する角度区間である。θCは、潤滑油の噴射方向がコントロール側ピンボス部5Aを指向する角度区間である。θUoilは、ロアリンク油路22のピンボス対向面側の端部22Aの合わせ面34からの角度位置である。θpinは、ピン孔中心の合わせ面34に対する角度位置であり、予め設定される固定値である。また、図5及び図6を参照して、θCR1は、クランクピン3の中心に対するクランクピン油路21の外周側端部21Aの角度位置であり、θCR2は、クランク回転中心2Aに対するクランクピン油路21の外周側端部21Aの角度位置であり、θspは、油噴射角度(θCR2+90°)である。図6に示すように、アッパ側ピンボス部5Aへの噴射期間(U噴射期間)は、油噴射角度θspがθU区間内にある期間に設定される。同様に、コントロール側ピンボス部10Aへの噴射期間(C噴射期間)は、θspがθC区間内にある期間に設定される。
【0035】
[6]図7図9は、それぞれ、アッパリンク5(あるいはコントロールリンク10)の軸方向両側面に設けられる上記凹部の例を示している。アッパリンク5(あるいはコントロールリンク10)は、両端のピンボス部5Aをロッド部5Bで一体的に連結した構造となっている。このために、アッパリンク5の両端のピンボス部5Aの中心を通る線をリンク中心線27A、ピンボス部5Aの中心を通ってリンク中心線27Aに直交する線をピンボス直交線27Bとすると、このピンボス直交線27Bの付近で、引張応力が最大となる。従って、図7図9に示す例では、ピンボス部5Aの強度を確保するために、引張応力が最大となる上記のピンボス直交線27Bを避けるように凹部23を形成している。
【0036】
[7]凹部23は、ピンボス部5Aの外周面側が内周面側に比して拡大するように形成されている。具体的には、図7に示す凹部23Aは、内周側から外周側へ向けて徐々に拡大する扇状に形成されている。図8図9に示す凹部23B,23Cには、外周側の部分に周方向に延在する延長部28が設けられている。このように、潤滑油が噴射供給される凹部23の外周側を拡大することによって、潤滑油の流入量を確保して、潤滑性能を向上することができる。また、凹部23の内周側を相対的に小さくすることで、凹部23を設けたことに伴うピンボス部5Aの強度低下を抑制することができる。
【0037】
[8]ピンボス部5Aのうち、ロッド部5Bに近い側の部分は、ロッド部5Bから遠い側の部分に比して、ロッド部5Bによって強度が高くなっている。従って、凹部23は、ピンボス部5Aのうち、強度の高いロッド部に近い側、つまり上記のピンボス直交線27Bよりもロッド部5B寄りの位置に配置されている。具体的には、ロッド部5Bがピンボス部5Aに接続する付け根部分の近傍に凹部23を設けている。
【0038】
[9]ピンボス部5Aの外周側の隅角部分には、所定の曲率で湾曲する湾曲部29が設けられている。このように、湾曲部29を設けることで、湾曲部29に沿って潤滑油の一部が凹部23へ流れ込む形となり、凹部23への潤滑油の流入を促進し、潤滑性能を向上することができる。
【0039】
[10]図9に示す例では、ピンボス部5Aの各軸方向側面に、複数の凹部23B,23Cを設けている。この例では、リンク中心線27Aに対して対称に2つの凹部23B,23Cを配置している。一方の凹部23Bは、上述したように、ロアリンク4から潤滑油が噴射供給される位置に配置されており、ピン軸受部分へ潤滑油を供給する供給油路として機能する。他方の凹部23Cは、ピン軸受部分へ供給された潤滑油を排出する排出油路として機能する。このように、油供給用の凹部23Bとは別に、油排出用の凹部23Cを設けることによって、ピン軸受部分への潤滑油の供給・排出を促進して、ピン軸受部分の潤滑油の流量を増加し、潤滑性能を更に向上することができる。
【0040】
なお、図9の例ではピンボス部5Aの各軸方向側面に2つの凹部を設けているが、3つ以上の凹部を設けるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0041】
1…クランクシャフト
3…クランクピン
4…ロアリンク
5…アッパリンク
6…アッパピン
7…ピストンピン
8…ピストン
10…コントロールリンク
11…コントロールピン
21…クランクピン油路
22…ロアリンク油路
23…凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9