(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036008
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】油圧式無段変速機用スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 19/12 20060101AFI20161121BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20161121BHJP
F16H 39/14 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
F16C19/12
F16C33/64
F16H39/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-186844(P2012-186844)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2013-64496(P2013-64496A)
(43)【公開日】2013年4月11日
【審査請求日】2015年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-186368(P2011-186368)
(32)【優先日】2011年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】立山 千聡
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真人
【審査官】
尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−069322(JP,A)
【文献】
特開2003−254339(JP,A)
【文献】
特開2002−188649(JP,A)
【文献】
特開2000−199555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/12
F16C 33/64
F16H 39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式無段変速機に組み込まれ、可変容量ポンプのピストン室のピストンと接触する内輪と、斜板に固定される外輪と、内輪と外輪との間に保持器を介して保持される複数の転動体と、を備えるスラスト軸受であって、
前記内輪の溝底厚(Ti)を前記転動体の直径の40%以上、前記外輪の溝底厚(Te)を前記転動体の直径の15%以上とし、
前記内輪の溝底厚(Ti)の上限が前記転動体の直径の40%の1.2〜1.5倍であり、
前記内輪の溝底厚(Ti)と前記外輪の溝底厚(Te)との比(Ti/Te)を1以上、3以下とし、
前記外輪の溝底厚(Te)の上限が前記転動体の直径の15%の1.2〜1.5倍である
ことを特徴とする油圧式無段変速機用スラスト軸受。
【請求項2】
前記内輪の溝底厚(Ti)の上限が前記転動体の直径の40%の1.2倍であり、
前記外輪の溝底厚(Te)の上限が前記転動体の直径の15%の1.2倍である
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
【請求項3】
前記内輪の溝底厚(Ti)の上限が前記転動体の直径の40%の1.5倍であり、
前記外輪の溝底厚(Te)の上限が前記転動体の直径の15%の1.5倍である
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
【請求項4】
前記内輪の溝底の深さをX1とし、
前記外輪の溝底の深さをX2とし、
前記転動体の直径をDとしたとき、
(X1/D)比を0.15より大きく、0.3より小さくし、
(X2/D)比を0.15より大きく、0.3より小さくした
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
【請求項5】
前記保持器の厚さをYとしたとき、
(Y/D)比を0.4より大きく、0.6より小さくした
ことを特徴とする請求項4に記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式無段変速機用スラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインやトラクター、田植え機、芝刈り機等の農業機械では、ギアミッション方式から油圧式無段変速機への移行が進んでいる。このような油圧式無段変速機では、軸の回転力を油圧に変換させる際、または油圧を軸の回転力に変換させる際のピストン圧力を受ける部分に、スラスト軸受が採用されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−194183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、油圧式無段変速機の小型化に伴って、それに組み込まれるスラスト軸受も小型化され、高荷重条件下で使用されている。特に、スラスト軸受の油圧式無段変速機のピストンと当接する内輪には、大きな荷重が加わり、場合によっては破損することがある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内輪の破損を防止して長寿命の油圧式無段変速機用スラスト軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 油圧式無段変速機に組み込まれ、可変容量ポンプのピストン室のピストンと接触する内輪と、斜板に固定される外輪と、内輪と外輪との間に保持器を介して保持される複数の転動体と、を備えるスラスト軸受であって、
前記内輪の溝底厚(Ti)を前記転動体の直径の40%以上、前記外輪の溝底厚(Te)を前記転動体の直径の15%以上とし、
前記内輪の溝底厚(Ti)の上限が前記転動体の直径の40%の1.2〜1.5倍であり、
前記内輪の溝底厚(Ti)と前記外輪の溝底厚(Te)との比(Ti/Te)を1以上、3以下とし、
前記外輪の溝底厚(Te)の上限が前記転動体の直径の15%の1.2〜1.5倍である
ことを特徴とする油圧式無段変速機用スラスト軸受。
(2)
前記内輪の溝底厚(Ti)の上限が前記転動体の直径の40%の1.2倍であり、
前記外輪の溝底厚(Te)の上限が前記転動体の直径の15%の1.2倍である
ことを特徴とする(1)に記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
(3)
前記内輪の溝底厚(Ti)の上限が前記転動体の直径の40%の1.5倍であり、
前記外輪の溝底厚(Te)の上限が前記転動体の直径の15%の1.5倍である
ことを特徴とする(1)に記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
(4) 前記内輪の溝底の深さをX1とし、
前記外輪の溝底の深さをX2とし、
前記転動体の直径をDとしたとき、
(X1/D)比を0.15より大きく、0.3より小さくし、
(X2/D)比を0.15より大きく、0.3より小さくした
ことを特徴とする(1)〜(3)の何れか1つに記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
(5) 前記保持器の厚さをYとしたとき、
(Y/D)比を0.4より大きく、0.6より小さくした
ことを特徴とする(4)に記載の油圧式無段変速機用スラスト軸受。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油圧式無段変速機用スラスト軸受では、油圧式無段変速機の可変容量ポンプのピストン室のピストンと接触する内輪を、斜板に固定される外輪よりも厚肉にしたため、ピストンによる高荷重を受けても破損が抑えられ、長寿命となる。また、内輪、外輪及び玉を合わせたスラスト軸受全体の高さを薄くすることもでき、省スペース化を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】油圧式無段変速機の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の油圧式無段変速機用スラスト軸受について詳細に説明する。
【0010】
図1は油圧式無段変速機構の一例を示す断面図であるが、油圧式無段変速機30は、図示しないエンジンから入力軸31に伝達された回転駆動力を油圧力に変換する可変容量ポンプ32と、油圧力を回転駆動力に戻して出力軸40に伝達する可変容量モータ41と、を備えており、入力軸31に伝達された回転駆動力を前進側、後進側の駆動力に無段階に変更して出力軸40から出力したり、この出力を停止したりする。
【0011】
可変容量ポンプ32は、入力軸31と一体回動するシリンダブロック33と、シリンダブロック33の周方向複数箇所に配置され、ピストン室34内を往復動するノーズピストン35と、ガイドブロック36のガイド面に沿って回動する斜板37と、を備えている。可変容量ポンプ32は、斜板37が回動操作することで、ノーズピストン35の往復動ストロークを変化し、ピストン室34が吐出する油量を変化している。斜板37には、スラスト軸受10がノーズピストン35の先端部と接触する位置に配置されており、スラスト軸受10は斜板37と共に回動する。
【0012】
スラスト軸受10は、
図2に示すように、内輪軌道面11を有する内輪12と、外輪軌道面13を有する外輪14と、を対向配置し、内輪軌道面11と外輪軌道面13との間に、転動体である複数の玉15を転動自在に配置したものである。さらに、スラスト軸受10は、複数の玉15を円周方向に亘って等間隔に保持する保持器16を備える。
【0013】
また、内輪12は回転可能であり、内輪軌道面11が形成された面とは反対側の端面21にノーズピストン35の先端部が接触する。一方、外輪14は、斜板37に固定される。そのため、スラスト軸受10はノーズピストン35から受ける高荷重を内輪12で受け、玉15を介して、斜板37に固定された外輪14側へ逃がしている。
【0014】
なお、スラスト軸受10の寸法は、油圧式無段変速機用として好適となるよう、内径が30〜72mm、外径が52〜113mm、高さ(H)が12〜24mmの範囲内において、それぞれ適宜設定される。
【0015】
本発明では、高荷重が加わる内輪12を、外輪14よりも厚肉にすることにより、ノーズピストン35からの荷重に対する耐久性を高め、破損を防止する。具体的には、内輪12の溝底厚(Ti)を玉15の直径(D)の40%以上とし、外輪14の溝底厚(Te)を玉15の直径(D)の15%以上とし、かつ、(Ti/Te)比を1以上、3以下とする。
【0016】
上記の寸法は、内輪12または外輪14の両端を玉15で支持し、ノーズピストン35により荷重を負荷した梁を想定し、内輪12及び外輪14の材料や厚さ、荷重、曲げ応力の関係をシュミレーションして求めることができる。
【0017】
(実施例1)
具体的には、内輪12、外輪14及び玉15をSUJ2製とし、玉15の直径(D)を14.288mmとし、ノーズピストン35による荷重を790kgf/cm
2としたとき、内輪12については玉15の直径(D)に対して溝底厚(Ti)を40%以上、外輪14については玉15の直径(D)に対して溝底厚(Te)を15%以上、かつ、(Ti/Te)比を2.67としたときに、曲げの計算から内輪12及び外輪14が破断しないことを算出した。
【0018】
尚、内輪12の溝底厚(Ti)及び外輪14の溝底厚(Te)とも、玉15の直径(D)に対する比率の上限には制限はないが、必要以上に厚くしてもコスト増を招くだけである。そのため、内輪12の溝底厚(Ti)及び外輪14の溝底厚(Te)ともに、上記した最小厚の1.2〜1.5倍が適当である。
【0019】
また、上記の寸法とすることにより、内輪12、外輪14及び玉15を合わせたスラスト軸受全体の高さ(H)を薄くすることもでき、省スペース化を図ることもできる。具体的には、内輪12及び外輪14を同じ溝底厚にした場合に比べて、内輪12の溝底厚(Ti)を玉15の直径の40%、外輪14の溝底厚(Te)を玉15の直径の15%、かつ、(Ti/Te)比を2.67にした場合は、スラスト軸受全体の高さ(H)を15%低減しても、同じ荷重で内輪12の破損を防止することができる。
【0020】
(実施例2〜4)
次に、実施例2〜4として、スラスト軸受10の寸法を表1に示すように設定し、上述のシュミレーションを行った。表1には、実施例2〜4と併せて、比較例1〜6に係るスラスト軸受の寸法が記載されていると共に、それぞれのスラスト軸受の内輪溝底厚(Ti)の玉径(D)に対する比率と、外輪溝底厚(Te)の玉径(D)に対する比率と、内輪溝底厚(Ti)の外輪溝底厚(Te)に対する比率と、が記載されている。なお、これら実施例2〜4及び比較例1〜6に係るスラスト軸受は、内径が40mmであり、外径が68mmであり、玉径(D)が10.319mmであり、スラスト軸受全体の高さ(H)が16.5mmである。
【0022】
表2には、これら実施例2〜4及び比較例1〜6に係るスラスト軸受について上述のシュミレーションを行った結果が示されている。
【0024】
シュミレーションの結果、内輪溝底厚(Ti)が玉径(D)の40%以上である実施例2〜4及び比較例4〜6に係るスラスト軸受の内輪は、破断が発生しなかった。また、外輪溝底厚(Te)が玉径(D)の15%以上である実施例2〜4及び比較例1〜3に係るスラスト軸受の外輪は、破断が発生しなかった。また、(Ti/Te)比については、ピストンからの荷重に対する耐久性を高めるために、ピストンによる高荷重を受ける内輪の溝底厚(Ti)を外輪溝底厚(Te)以上とすること、すなわち1≦Ti/Teとすることが好ましい。特に、Ti/Te=1の場合、内外輪を同等な厚さにすることで、生産コストを低減することが可能である。さらに、内外輪の厚さのバランスを考慮すると、Ti/Te<3とすることが好ましく、実施例2〜4及び比較例2及び3に係るスラスト軸受の(Ti/Te)比が良好であった。そして、上記3つの判定結果に基づいて総合的に判定した結果、実施例2〜4に係るスラスト軸受10が、油圧式無段変速機用として特に好適であることが明らかとなった。
【0025】
なお、従来のスラスト軸受(単式スラスト玉軸受 型番51208 (ISO))においては、内径が40mm、外径が68mm、玉径が10.319mmであって実施例2〜4のスラスト軸受と等しく、内輪12及び外輪14を同じ溝底厚であり(Ti=Te)、スラスト軸受全体の高さ(H)が19mmである。一方、実施例2〜4に係るスラスト軸受10においては、スラスト軸受全体の高さ(H)が16.5mmであり、従来のスラスト軸受に比べて約13.2%薄くすることができるので、内輪12の破損を防止しながら省スペース化を図ることができる。
【0026】
また、本実施形態のように油圧式無段変速機30に用いられるスラスト軸受10は、径方向及び軸方向への合成荷重が負荷される状態で使用されるため、内輪12及び外輪14の溝肩に玉15が乗り上げる虞がある。より詳細には、油圧式無段変速機30のノーズピストン35と接触するスラスト軸受10は、ノーズピストン35との接触角度が変化することにより内輪12に方向が変化する荷重を受け、玉15と各軌道溝の接触点が軌道溝の肩部へと近づいて行く場合がある。この結果、接触楕円が軌道溝の肩部に乗り上げてしまういわゆるエッジロード状態が発生し、溝肩及び玉15に塑性変形が生じてしまう場合がある。そこで、
図2に示すように、本実施形態に係るスラスト軸受10では、内輪12の溝底の軸方向深さをX1とし、外輪14の溝底の軸方向深さをX2としたとき、玉15の直径Dとの関係について、(X1/D)比を0.15より大きく、0.3より小さくすると共に(0.15<X1/D<0.3)、(X2/D)比を0.15より大きく、0.3より小さくすることによって(0.15<X2/D<0.3)、通常品よりも溝底の深さX1及びX2が大きく設定される。なお、一般に、通常品における(X1/D)比及び(X2/D)比は0.1程度である。このとき、保持器16の軸方向における厚さをYとすると、(Y/D)比は、保持器16と内輪12及び外輪14の溝肩との干渉が生じない範囲(X1/D+X2/D+Y/D<1)において十分な厚みとなるように、0.4より大きく、0.6より小さく設定される(0.4<Y/D<0.6)。
【0027】
尚、(X1/D)比及び(X2/D)比は、0.15以下の範囲では玉15の溝肩への乗り上げを抑制することができず、0.3以上の範囲では保持器16の厚さYが小さくなってしまい、玉15の保持が不十分となってしまう。
【0028】
また、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上述の実施形態においてはスラスト玉軸受を例示して説明したが、転動体として円筒ころや円錐ころを用いることもできる。
【符号の説明】
【0029】
10 スラスト軸受
12 内輪
14 外輪
15 玉(転動体)
16 保持器
35 ノーズピストン
30 油圧式無段変速機
D 玉の直径(転動体の直径)
Ti 内輪の溝底厚
Te 外輪の溝底厚
X1 内輪の溝底の深さ
X2 外輪の溝底の深さ
Y 保持器の厚さ