【文献】
中村賢治ら,認知症発見のためのスキンラインを基準とした頭部MRI画像の位置合わせの研究,DEW2008論文集,2008年,DEWS2008,E10-4,URL,http://www.ieice.org/iss/de/DEWS/DEWS2008/proceedings/files/e10/e10-4.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組織分離手段は、前記組織分離処理として脳画像から白質または灰白質を分離する処理を行い、組織画像として白質画像または灰白質画像を得るものであることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の到来により、認知症疾患の患者が年々増加している。認知症疾患には様々な種類があり、診断においてはそれらを区別して、疾患に応じた適切な処置を施すことが必要である。
【0003】
一方、このような要請に応えるべく、近年、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)やPET(Positron Emission Tomography)等の核医学検査や、CT(Computerized Tomography)やMRIによって脳の状態に関する情報が取得可能になってきている。
【0004】
その結果、脳の特定部位の血流や代謝が低下したり、組織が萎縮したりする現象が、疾患によって異なることが明らかになってきており、これらに対する定量的な評価方法が求められている。
【0005】
例えば、脳の局所的な部位の血流や代謝の低下は、SPECTやPETの画像によって比較することにより検定することができる。
【0006】
又、組織の萎縮に関しては、MRI画像によって特定部位の容積を求め、その相対的な大きさを比較して異常の有無を判別できる。
【0007】
このような脳画像を用いて脳の萎縮を評価する方法としては、被験者の頭部を撮像して取得された脳画像を三次元の画素であるボクセルを単位に画像処理して行なうVBM(Voxel Based Morphometry)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
このVBM手法は、アルツハイマー病の識別には有効な評価方法であり、健常者とアルツハイマー病の識別において、87.8%の診断能があったという報告がなされている(非特許文献1参照)。
【0009】
また、白質に対しての精度が低いという従来のVBM手法を改善するため、入力した被験者のMRI脳画像から組織分離により抽出した白質の萎縮の程度を正確に評価する技術が開発されている(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来の技術では、経年による脳内の組織の変化を正しく把握することができなかった。
【0013】
そこで、本発明は、経年による脳内の組織の変化を正しく把握し、診断の支援を行うことが可能な医用画像処理装置、およびプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明第1の態様では、同一健常者の撮影時期の異なる2つの脳画像に対して、組織分離処理を行った後、両画像の変化量を表現した健常者変化量画像を記憶した健常者変化量画像データベースと、同一被験者の撮影時期の異なる2つの脳画像それぞれに対して組織分離処理を行って組織画像を得る組織分離手段と、得られた2つの組織画像間において、組織画像を構成する各ボクセル同士の差分演算を行い、変化量画像を得る変化量演算手段と、前記変化量演算手段により得られた変化量画像と前記健常者変化量画像データベースに記憶された健常者変化量画像との統計比較を行い、所定の評価値を算出し、前記変化量画像の各ボクセルの値を前記算出された所定の評価値に置き換えた統計処理画像を得る統計比較手段と、前記統計処理画像を表示する表示手段と、を有することを特徴とする医用画像処理装置を提供する。
【0015】
統計比較により算出される所定の評価値としては、被験者の変化量画像のボクセル値と、健常者変化量画像群の対応するボクセルのボクセル値平均との差を、標準偏差でスケーリングした値であるZスコア、他の一般的な検定で用いられるtスコアを採用することができる。
【0016】
本発明第1の態様によれば、同一被験者の撮影時期の異なる2つの組織分離画像間において、各ボクセル同士の差分演算を行って変化量画像を得て、得られた変化量画像と健常者の変化量画像である健常者変化量画像との統計比較を行い、各ボクセルが所定の評価値で表現された統計処理画像を表示するようにしたので、健常者に比較して経年変化の大きい箇所を容易に把握することが可能となる。
【0017】
また、本発明第2の態様は、本発明第1の態様の医用画像処理装置において、前記健常者変化量画像データベースは、各健常者変化量画像に対応付けて経過期間を記憶したものであり、前記被験者の2つの脳画像間の経過期間を特定するための情報を入力する手段と、前記健常者変化量画像に対応付けられた経過期間と、前記被験者の脳画像間の経過期間を用いて、前記健常者変化量画像の各ボクセルの値を補正する健常者変化量画像補正手段と、を更に有することを特徴とする。
【0018】
本発明第2の態様によれば、健常者変化量画像に対応付けて経過期間を記憶しておき、この健常者変化量画像の経過期間と、入力された被験者の2つの脳画像間の経過期間を用いて、健常者変化量画像の各ボクセルの値を補正するようにしたので、変化量に大きな影響を与える経過期間を揃えた状態で、健常者に比較して経年変化の大きい箇所を容易に把握することが可能となる。
【0019】
また、本発明第3の態様では、同一被験者の撮影時期の異なる2つの脳画像それぞれに対して組織分離処理を行って組織画像を得る組織分離手段と、得られた2つの組織画像を構成する各ボクセルの値同士の差分演算を行い、変化量画像を得る変化量演算手段と、前記変化量画像内のボクセルの標準偏差を算出し、算出された標準偏差で各ボクセルの値を除算することにより正規化された変化量画像を得る正規化手段と、前記正規化された変化量画像を表示する表示手段と、を有することを特徴とする医用画像処理装置を提供する。
【0020】
本発明第3の態様によれば、同一被験者の撮影時期の異なる2つの組織分離画像間において、各ボクセル同士の差分演算を行って変化量画像を得て、得られた変化量画像内のボクセルの標準偏差を算出し、算出された標準偏差で各ボクセルの値を除算することにより得られる正規化された変化量画像を表示するようにしたので、撮影機種の違いによる影響を軽減して経年変化の大きい箇所を容易に把握することが可能となる。
【0021】
また、本発明第4の態様では、本発明第1から第3のいずれかの態様の医用画像処理装置において、前記組織分離手段は、前記組織分離処理として脳画像から白質または灰白質を分離する処理を行い、組織画像として白質画像または灰白質画像を得るものであることを特徴とする。
【0022】
本発明第4の態様によれば、変化量を最も把握し易い組織である白質または灰白質の組織画像の変化量を変化量画像として作成するようにしたので、経年変化の大きい箇所をより容易に把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、経年による脳組織の変化を正しく把握し、診断の支援を行うことが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<1.装置構成>
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は,本発明の一実施形態における医用画像処理装置のハードウェア構成図である。医用画像処理装置は、汎用のサーバコンピュータで実現することができ、
図1(a)に示すように、CPU(Central Processing Unit)1aと、コンピュータのメインメモリであるRAM(Random Access Memory)1bと、CPUが実行するプログラムやデータを記憶するための大容量の記憶装置1c(例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等)と、キーボード、マウス等の入力機器で実現される入力部1dと、外部装置(データ記憶媒体等)とデータ通信するためのデータ入出力I/F(インタフェース)1eと、液晶ディスプレイ等の表示部1fを備え、互いにバスを介して接続されている。
【0026】
図1(b)は,本発明の一実施形態における医用画像処理装置の機能ブロック図である。
図1(a)に示したハードウェア構成において、CPU1aが記憶装置1cに記憶されたプログラムをRAM1bに読み込んで実行することにより、医用画像処理装置は、
図1(b)に示した各手段を機能させることが可能となる。
図1(b)に示すように、医用画像処理装置は、組織分離手段11、変化量演算手段12、統計比較手段13、健常者変化量画像補正手段14、正規化手段15、健常者変化量画像データベースD1、疾患者変化量画像データベースD2を有する。
【0027】
健常者変化量画像データベースD1は、健常者についての変化量を示す画像である健常者変化量画像を格納したデータベースである。疾患者変化量画像データベースD2は、疾患者についての変化量を示す画像である疾患者変化量画像を格納したデータベースである。健常者変化量画像データベースD1、疾患者変化量画像データベースD2は、記憶装置1c内に健常者変化量画像データ、疾患者変化量画像を記憶するための所定の領域を確保することにより実現される。健常者変化量画像は、同一健常者についての撮影時期の異なる2つの脳画像を基に、後述するステップS1〜S5の手順により生成される。また、疾患者変化量画像は、同一疾患者についての撮影時期の異なる2つの脳画像を基に、後述するステップS1〜S5の手順により生成される。健常者変化量画像の場合は、いずれの撮影時期も、疾患なしと判断された撮影画像を用いるが、疾患者変化量画像の場合は、先に撮影された画像として疾患なしと判断された撮影画像を用い、後に撮影された画像として疾患ありと判断された撮影画像を用いる。
【0028】
組織分離手段11は、処理対象の脳画像に対して組織分離処理を行い、組織画像を得る手段である。変化量演算手段12は、2つの組織画像間の対応するボクセル間で差分演算を行い、変化量画像を得る手段である。統計比較手段13は、変化量画像と、健常者変化量画像データベースD1内の健常者変化量画像との統計比較を行う手段である。健常者変化量画像補正手段14は、変化量画像と健常者変化量画像の経過期間に基づいて、健常者変化量画像のボクセル値を補正する手段である。正規化手段15は、変化量画像内のボクセル値の標準偏差を算出し、各ボクセル値を標準偏差で除算することにより正規化された変化量画像を得る手段である。組織分離手段11、変化量演算手段12、統計比較手段13、健常者変化量画像補正手段14、正規化手段15は、いずれもCPU1aが専用のプログラムを実行することにより実現される。
【0029】
<2.処理動作>
<2.1.
参考実施形態:単純差分評価>
図2は、本発明
の参考実施形態に係る医用画像処理装置の処理概要を示すフローチャートである。
図2においては、同一被験者についての撮影時期の異なる2つの脳画像を入力し、この2つの脳画像を用いて処理を行う。
図2においては、[入力1]として、より先(過去)に撮影した先撮影時の脳画像を入力し、[入力2]として、その後(最近)に撮影した後撮影時の脳画像を入力する。脳画像としては、T1強調MRI脳画像を入力する。このT1強調MRI脳画像は、ボクセルの集合である三次元画像である。ボクセル(voxel)とは、「厚さ」を持つ画像の座標単位であり、二次元画像におけるピクセルに相当する。ステップS1〜S4においては、[入力1]、 [入力2]から入力された脳画像に対して同一の処理を行う。
【0030】
次に、医用画像処理装置は、入力された脳画像に対して空間的なズレを補正する位置合わせを行う(ステップS1)。続いて、組織分離手段11が、位置合わせ後の脳画像から、組織分離処理により所定の組織が抽出された組織画像を作成する(ステップS2)。組織画像としては、灰白質を抽出して灰白質画像を作成しても良いし、白質を抽出して白質画像を作成しても良い。ステップS3以降の処理では、灰白質画像を利用する例について説明するが、白質画像を利用することも可能である。
【0031】
次に、医用画像処理装置は、組織画像として作成された灰白質画像に対して、非特許文献3に記載のダーテル(DARTEL)・アルゴリズムを適用する空間的標準化を行なう(ステップS3)と共に、標準化された灰白質画像に対して平滑化を行う(ステップS4)。この結果、平滑化された灰白質画像(組織画像)が得られる。灰白質画像は、灰白質部分のボクセルが高い値をもつ三次元画像として表現される。ステップS1〜S4の各処理は、特許文献2、非特許文献2〜4に記載された公知の技術により実現される。ステップS2の組織分離処理により、各ボクセルの値は、組織の存在確率となるため、この時点で、ステップS4の平滑化処理後のボクセルの値は、0.0〜1.0の範囲の値となる。
【0032】
[入力1]、 [入力2]から入力された脳画像それぞれに対して上記ステップS1〜S4の処理を行い、平滑化された灰白質画像が得られたら、次に、変化量演算手段12が、2つの灰白質画像(組織画像)の変化量を演算する(ステップS5)。具体的には、両画像の対応するボクセル間同士の差分を算出する。この結果、変化量画像が得られる。そして、得られた変化量画像を、各ボクセルの値に応じて色分けして表示する。色分けは、ボクセルの値を所定の範囲に区分して、各ボクセルの値に対応付けるが、変化の大きい部分を“赤”などの目立つ色で表現することが好ましい。また、この際、脳領域における部位を特定した画像である部位マップを重ねて表示するようにしても良い。部位マップは、各ボクセルが脳領域内のどの部位に含まれるかを記録した三次元画像である。部位マップを重ねた場合、変化量の大きい部分がどの部位であるかを一目で把握することが可能となる。
【0033】
図3は、ステップS5の処理による画像の変化の様子を示す図である。
図3(a)(b)は、それぞれステップS5の処理前の先撮影時、後撮影時の灰白質画像である。また、
図3(c)は、ステップS5の処理後の変化量画像に部位マップを重ねた状態を示した図である。
【0034】
また、変化量画像を用いた表示を行う場合、数値による表示を行うようにしても良い。この場合、部位別にボクセルごとの変化量の平均値を算出し、この平均値を、その部位の変化量として表示する。
図4は、変化量を部位別の数値により表示した例を示す図である。表示する数値の基準は適宜設定することが可能であるが、本実施形態では、上述のように、0.0〜1.0の範囲の値同士の差分で求められる。変化量が正常値に比べて大きい場合には、その数値を強調して表示する。
図4の例では、海馬と小脳の変化量が、正常値に比べて大きいことを示している。
【0035】
また、
図4における正常値は、健常者変化量画像データベースD1に記憶された健常者変化量画像に対して、被験者の変化量画像と同様に、部位別にボクセルごとの変化量の平均値を算出し、この平均値を、その部位の変化量の正常値としたものである。健常者変化量画像データベースD1に記憶された健常者変化量画像は、健常者の2つの脳画像に対して上記ステップS1〜S5の処理と同一の処理を実行することにより得られたものである。正常値については、健常者1人のものだけでなく、できるだけ多くの健常者のデータを用い、その平均値を出力することが好ましい。また、各健常者の先撮影時と後撮影時の時間間隔が、被験者の先撮影時と後撮影時の時間間隔となるべく同等のものを選ぶことが好ましい。時間間隔は、診断の際に撮影されるものであるため、通常月単位から年単位である。
【0036】
<2.2.第2の実施形態:統計量評価>
図5は、第2の実施形態に係る医用画像処理装置の処理概要を示すフローチャートである。
図5においても、
図2と同様、同一被験者についての撮影時期の異なる2つの脳画像を入力し、この2つの脳画像を用いて処理を行う。ステップS11〜S14においては、 [入力1]、 [入力2]から入力された脳画像に対して同一の処理を行う。
【0037】
図5におけるステップS11〜S15の処理は、それぞれ
図2のステップS1〜S5の処理と同一である。従って、ステップS15における変化量演算処理の結果、灰白質変化量画像が得られる。
【0038】
変化量画像が得られたら、健常者変化量画像データベース内の健常者変化量画像との統計比較を行う(ステップS16)。本実施形態では、上記ステップS11〜15の各処理を通して標準化を行なった被験者の変化量画像と、健常者変化量画像データベースD1に記憶されている健常者変化量画像群との比較検定を行なう。使用する健常者変化量画像群は、被験者の年齢に近いものを選択することが望ましい。
【0039】
具体的には、
図6にイメージを示すように、このような健常者変化量画像群とボクセル単位で1:N(Nは健常者変化量画像の総数)の比較検定を行ない、統計的に有意な差が見られる(異常と推定される)ボクセルを検出する。
図6において、「X年」は、健常者の先撮影時を示す年(例えば、2005年)であり、「X+a年」は、健常者の後撮影時を示す年(例えば、2010年)である。また、「Y年」は、健常者の先撮影時を示す年(例えば、2007年)であり、「Y+a年」は、健常者の後撮影時を示す年(例えば、2012年)である。時間間隔は、どちらの場合も「a年」であり、同一である。
【0040】
まず、全てのボクセルについて、それぞれ次式で表わされるZスコアを算出する。
【数1】
【0041】
このように、Zスコアは、被験者の変化量画像のボクセル値と、健常者変化量画像群の対応するボクセルのボクセル値平均との差を、標準偏差でスケーリングした値であり、これは灰白質容積の相対的低下の度合を示すものである。
【0042】
次に、適当な臨界値Z’を定め、Zスコアが
Z’<Z …(2)
となるようなボクセルを求め、統計的に有意な差が見られるボクセルとする。臨界値には、約95%以上の確率で異常と推定できるZ’=2を用いる。また、健常者よりも容積が低下している部位全てを含む臨界値の指定方法として、下記の式も用いる。
0<Z’ …(3)
【0043】
そして、異常と推定されるZスコアを有するボクセルを他のボクセルと色分けしてZスコアマップとして表示する。手法1と同様に、異常と推定されるZスコアを有するボクセルを“赤”などの目立つ色で表現することが好ましい。また、手法1と同様に、部位マップを重ねて表示するようにしても良い。
【0044】
本実施形態においては、さらに、ROIによる解析を行なうようにしても良い。
【0045】
これは、脳画像を用いて異常の有無を判別する場合に、画像上に所定の大きさの関心領域(regions of interest:ROI)を設定する方法であり(例えば、非特許文献4参照)、脳画像上において、特定の疾患に関係するとして注目されている特定部位に所定の大きさのROIを設定して比較を行なうものである。
【0046】
この解析方法は、上記特許文献1に説明されているように、上記統計処理により健常者と有意な差が見られた座標位置のボクセルとそのZスコア(評価値)について、疾患に対応するROI(疾患特異的ROI)を適用することにより、罹患している度合を求めるものである。その特徴は次の2点である。
【0047】
(1)アルツハイマー等の疾患毎に対応する標準化された画像データとしてのROI(疾患特異的ROI)を用意しておき、被験者の症状から考えられる疾患について、被験者の変化量画像にそれぞれのROIを適用(設定)し、該ROIにおけるZスコアに基づいて最も有意性の高いものを診断結果とする。
【0048】
(2)ROIの部分のみのZスコアによって疾患を判断するだけでなく、ROIを適用しない場合の脳全体のZスコアマップと、ROIを適用した部分のみのZスコアマップとの比較を行なう。この目的は、脳全体の萎縮に対する注目部位の萎縮の割合を見ることにある。
【0049】
ここでは、まず、
図7にイメージを示すように、疾患A〜Cの疾患別の特異的ROIが用意されている場合を例として、被験者がある疾患Aを罹患しているか否かを判別する方法を説明する。なお、この方法に適用する各ROIについては後述する。
【0050】
上記ステップS16の統計的比較で得られた被験者のZスコアマップに対して、疾患Aに対応するROIを用いて、上記(2)および上記(3)式を使って、以下の5つのパラメータを算出する。
P1 =ROI部分において式(3)を満たすボクセルのZスコアの合計/ROI部分において式(3)を満たすボクセルの数
P2 =脳全体において式(2)を満たすボクセルの数/脳全体のボクセル数
P3 =ROI部分において式(2)を満たすボクセルの数/ROI部分のボクセル数
P4=P3/P2
P5 =ROI部分における全てのボクセルの中で最大のZスコア
【0051】
P1〜P5 の5つのパラメータについて、予め疾患Aを有する患者群における特性を求めておき、被験者のパラメータの値がそれに合致する場合に、被験者は疾患Aであると判別する。
【0052】
例えば、5つのパラメータについて疾患Aとみなす閾値(病態識別値)を定めておき、被験者の変化量画像から得られたパラメータの値がその閾値を超えた場合に、被験者は疾患Aであるとする。つまり、P1〜P4 のそれぞれの病態識別の閾値をそれぞれthP1 〜thP5とする場合、P1 >thP1、P2 >thP2、P3 >thP3、P4 >thP4、P5 >thP5 の少なくとも1つが満たされる場合に、被験者を疾患Aと判定する。具体的には、例えばP1 のように1つのパラメータのみに注目して判定する場合や、必要に応じてP1〜P5 の一部又は全部を参照して判定する場合を例に挙げることができる。
【0053】
また、ここに挙げたP1〜P5 のパラメータの他に、5つのパラメータについて、右半球側および左半球側に限定した値を求めてパラメータとして加えてもよい。更に、右半球側、左半球側の値に対して、式(4)によって求めた左右比又は式(5)によって求めた左右差をパラメータに加えてもよい。
左右比=(R−L)/(R+L)*200 …(4)
左右差=R−L …(5)
ただし、右半球側の値をR、左半球側の値をLとする。
【0054】
次に、これらの疾患別に設定されるROI(疾患特異的ROI)の作成方法について説明する。
【0055】
ROIは、次のようにして統計的処理に基づいて決定される。例えば、ある特定の疾患AのROIを決定するためには、
図8にイメージを示すように、疾患Aの患者のMRI画像群(疾患者変化量画像データベースD2内の疾患者変化量画像群)と、それ以外の人の画像群(健常者変化量画像データベースD1内の健常者変化量画像群)とについて、ボクセル単位で2群間の有意差を統計的に検定する2標本t検定を行なうことで求める。この検定によって有意差が認められたボクセルを、その疾患における特徴的なボクセルとみなし、その座標の集合をその疾患に対応するROIとする。
【0056】
<2.3.第3の実施形態:全脳標準偏差による正規化>
図9は、第3の実施形態に係る医用画像処理装置の処理概要を示すフローチャートである。
図9においても、
図2、
図5と同様、同一被験者についての撮影時期の異なる2つの脳画像を入力し、この2つの脳画像を用いて処理を行う。ステップS21〜S24においては、[入力1]、 [入力2]から入力された脳画像に対して同一の処理を行う。
【0057】
図9におけるステップS21〜S25の処理は、それぞれ
図2のステップS1〜S5、
図5のステップS11〜S15の処理と同一である。従って、ステップS25における変化量演算処理の結果、変化量画像が得られる。
【0058】
変化量画像が得られたら、得られた変化量画像に対して標準偏差による正規化を行う(ステップS26)。具体的には、まず、得られた変化量画像の全ボクセルの標準偏差を算出する。そして、算出された標準偏差で、変化量画像の各ボクセルの値を除算することにより各ボクセルの値を正規化する。そして、得られた正規化後の変化量画像を、各ボクセルの値に応じて色分けして表示する。手法1、2と同様に、変化の大きい部分を“赤”などの目立つ色で表現することが好ましい。また、手法1、2と同様に、部位マップを重ねて表示するようにしても良い。第3の実施形態では、標準偏差による正規化を行っているため、
参考実施形態のように単純な変化量の値を利用するよりも機種間の影響を軽減することが可能となる。
【0059】
<2.4.健常者変化量画像の補正>
第2の実施形態では、健常者変化量画像データベースD1に記憶された健常者変化量画像を利用した。健常者変化量画像の基礎となった先撮影時と後撮影時の経過期間(経過年数、月数等)が、変化量画像の基礎となった先撮影時と後撮影時の経時期間と等しい場合は、健常者変化量画像データベースD1に記憶された健常者変化量画像を、そのまま利用しても適正な比較を行うことができる。しかし、変化量は、経過期間に大きく左右されるものであるため、健常者変化量画像の基礎となった先撮影時と後撮影時の経過期間(経過年数等)が、変化量画像の基礎となった先撮影時と後撮影時の経過期間と等しくない場合は、適正な比較を行うことができない。そこで、両者の経過期間が等しくない場合には、健常者変化量画像の補正を行う。
【0060】
この場合、健常者変化量画像データベースD1内の各健常者変化量画像には、経過期間を対応付けて記憶しておく。そして、被験者の脳画像の入力時に先撮影時と後撮影時の経過期間を入力部1dから入力する。この際、先撮影時の日時と後撮影時の日時をそれぞれ入力部1dから入力し、CPU1aが経過期間を求めるようにしても良い。被験者の脳画像の経過期間が得られたら、健常者変化量画像補正手段14は、基準期間(例えば1年)当たりの健常者変化量画像の各ボクセルの変化量を求めて、経過期間において線形に推移したと仮定して基準期間当たりの変化量に経過期間/基準期間を乗じた値に健常者変化量画像の各ボクセルの値を補正する。例えば、被験者の脳画像の経過期間が5年、健常者変化量画像の経過期間が2年である場合、健常者変化量画像の各ボクセルの値は2.5倍に補正されることになる。
【0061】
<3.変形例等>
以上、本発明について具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、実施形態として、第1〜第3の実施形態について説明したが、第1〜第3の実施形態に含まれる要素を適宜組み合わせた形態としても良い。例えば、健常者変化量画像データベースD1に記憶された健常者変化量画像についても、標準偏差により正規化しておき、第3の実施形態において標準偏差により正規化された変化量画像を用いて、第2の実施形態のように統計比較を行っても良い。
【0062】
また、上記第2の実施形態では、評価値としてZスコアを使用する検定方法を示したが、これに限定されず、他の一般的な検定で用いられるtスコア等を用いても良い。
【0063】
また、上記
参考実施形態では、さらに脳の萎縮度を記録した萎縮度画像を利用して診断を支援することが可能である。この場合、
図10に示すような手順により行う。上記
参考実施形態において説明したように、[入力1]として入力された先撮影時の脳画像と、[入力2]として入力された後撮影時の脳画像から、変化量画像を得る。一方、上記特許文献2に記載の手法により、[入力2]として入力された後撮影時の脳画像から萎縮度を算出し、各ボクセルの値を萎縮度で置き換えた萎縮度画像を得る。そして、変化量画像、萎縮度画像それぞれに対して閾値を設定し、閾値より大きい値を有するボクセルを抽出する(閾値処理)。そして、変化量画像、萎縮度画像の双方において抽出されたボクセルのみを抽出し、当該ボクセルを“赤”などの目立つ色で強調表現する。この際、さらに、上記第2の実施形態で示したようなROIによる解析を行っても良い。