(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジカルボン酸成分と主として1,4−ブタンジオールからなるジオール成分とから構成されたポリエステルからなるハードセグメントと、主として炭素数が5〜12の脂肪族ジオールをジオール成分とした脂肪族ポリカーボネートからなるソフトセグメントが結合されてなる熱可塑性ポリエステルエラストマーであって、ハードセグメントに用いられる全ジカルボン酸成分に対して、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸を90〜70モル%、イソフタル酸を10〜30モル%含有する熱可塑性ポリエステルエラストマーを用いて構成される制振材料。
【背景技術】
【0002】
近年、交通機関の発達や工業地帯への居住地の接近に従って、騒音や振動の問題が公害として、社会問題化されるようになっている。また、生活空間においても、騒音や振動を抑制し、快適な生活環境になるように改善を求める傾向にある。これに対応して、騒音源や振動源である金属材料に接触する部材に、制振性能を付与することが求められている。
【0003】
ここで、制振性能とは、騒音や振動を発生する部材自体の振動エネルギーを吸収して、熱エネルギーに変換し、振動速度あるいは振動振幅を減衰させて、音響放射や振動を少なくする機能のことである。
【0004】
制振性を付与する方法の一つとして、金属材料間に粘弾性を有する中間層を挟み込んだ複層構造の複合型制振材料等が提案されている。一般に、このような制振材料の制振性能は、その中間層の粘弾性に依存している。この制振性能は損失係数(tanδ(δは損失角)、外部からの振動エネルギーが内部摩擦により熱エネルギーに変換する尺度を示す)で評価でき、tanδは、個々の樹脂のガラス転移温度(Tg)付近で極大値を示し、この極大ピーク温度近傍で、もっとも制振性能が発揮されることが知られている。しかし、損失正接(tanδ)の極大ピーク温度領域は通常の樹脂では狭い。
【0005】
従来、このような制振材料の粘弾性中間層としては、ポリエステル樹脂を単独(例えば、特許文献1参照。)、或いは、可塑剤を添加した材料(例えば、特許文献2参照。)、有機過酸化物を配合して架橋した材料(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)が提案されている。しかしながら、これらの制振性能は低い。
【0006】
その他にも、発泡ポリウレタン樹脂(例えば、特許文献5参照。)、ポリアミド樹脂を(例えば、特許文献6参照。)を使用する技術等が知られている。しかしながら、これらは吸水性を有し、加工が限定され、耐久性が低い問題がある。
【0007】
制振材料の有効温度範囲を拡大する方法として、Tgの異なる2つもしくは3つの樹脂を複合化する技術(特許文献7、特許文献8参照。)や、ゴムをブレンドする技術(特許文献9、10参照。)が検討された。しかしながら、当該樹脂組成物では、各々の樹脂との相溶性が悪く、主成分中に他の成分を均質に分散させることが難しく、さらに樹脂/樹脂もしくは樹脂/ゴム界面の相互作用力が低く、不均一となり、結果として、当該樹脂組成物は制振材料としての機械強度が低下する場合があった。
【0008】
さらに、Tgの異なる樹脂を複合化する技術として共重合があり、以前よりポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)をはじめとする結晶性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などのポリオキシアルキレン類及び/又はポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンアジペート(PBA)などのポリエステルをソフトセグメントとした熱可塑性ポリエステルエラストマーが知られている。(例えば、特許文献11)しかしながら、これらは制振性能を向上させるためにソフトセグメントの重量パーセントを上げるほど、耐熱性が低下するという問題がある。また、これら従来の熱可塑性樹脂ではtanδの半値幅が狭いため、狭い温度範囲でしか制振性能を発揮できないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の樹脂や樹脂組成物の問題点を解決し、優れた制振性能と耐熱性を兼備した熱可塑性ポリエステルエラストマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための鋭意検討した結果、ジカルボン酸成分と主として1,4−ブタンジオールからなるジオール成分とから構成されたポリエステルからなるハードセグメントに用いられる全ジカルボン酸成分に対して、イソフタル酸を特定の範囲内で共重合することが重要であることを見出して本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
[1] ジカルボン酸成分と主として1,4−ブタンジオールからなるジオール成分とから構成されたポリエステルからなるハードセグメントと、主として炭素数が5〜12の脂肪族ジオールをジオール成分とした脂肪族ポリカーボネートからなるソフトセグメントが結合されてなる熱可塑性ポリエステルエラストマーであって、ハードセグメントに用いられる全ジカルボン酸成分に対して、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸を90〜70モル%、イソフタル酸を10〜30モル%含有することを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマー。
【0012】
[2] 上記ハードセグメントの量が65〜95質量%であり、該熱可塑性ポリエステルエラストマーの損失正接(tanδ)の極大値が0.18以上である[1]記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー。
[3] 該熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点が、175〜225℃であることを特徴とする[1]、[2]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステルエラストマー。
【0013】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステルエラストマーからなるシートまたは成形体。
[5] [1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステルエラストマーを用いて構成される制振材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、ハードセグメントの全ジカルボン酸成分に対して、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸を90〜70モル%、イソフタル酸を10〜30モル%含有するという単純な方法で下記特性を有した高品質な熱可塑性ポリエステルエラストマーを経済的に、かつ安定して製造できるという利点を有する。
本発明で得られたポリエステルエラストマーは優れた制振性能を有し、耐熱性に優れているという特徴を有する。該特性により、シートをはじめとする各種成形材料として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーについて詳細に説明する。
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーにおいて、ハードセグメントのポリエステルを構成するジカルボン酸は、通常の芳香族ジカルボン酸が広く用いられ、主たる芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸又はナフタレンジカルボン酸である必要がある。該共重合成分の含有量としては、90〜70モル%である必要があり、好ましくは90〜75モル%、より好ましくは90〜80モル%である。さらにイソフタル酸は10〜30モル%である必要があり、好ましくは10〜25モル%、より好ましくは10〜20モル%である。イソフタル酸量が10モル%未満である場合、制振性能が低くなり、30モル%を超える場合、融点が下がり、耐熱性が低下する。
その他の酸成分としては、ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは樹脂の融点を大きく低下させない範囲で用いられ、その量は全酸成分の20モル%未満、より好ましくは10モル%未満である。20モル%以上含有すると、結晶性が低下し、エラストマー特性を有さない。
【0016】
また、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーにおいて、ハードセグメントのポリエステルを構成するジオールは、主たる構成成分が1,4−ブタンジオールである必要がある。主たるとは80モル%以上を意図しており、それ以外のジオール成分としてはエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどが挙げられる。ハードセグメントのポリエステルを構成するジオールとしては、1,4−ブタンジオールが90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、100モル%であっても良い。
【0017】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する成分としては、ブチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレート単位あるいはブチレンナフタレート/ブチレンイソフタレート単位よりなるものが、物性および成形性の点で好ましく、ブチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレートはコスト面でより好ましい。なお、ナフタレート単位の場合は、2,6体が好ましい。
【0018】
また、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーにおけるハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。また、かかるポリエステルは、一般に数平均分子量10000〜40000を有しているものが望ましい。
【0019】
また、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーにおけるソフトセグメントを構成する脂肪族ポリカーボネート鎖は、主として炭素数5〜12の脂肪族ジオール残基からなるものである必要がある。炭素数5〜12の脂肪族ジオール残基は、脂肪族ポリカーボネートの全脂肪族ジオール残基のうち、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%であっても良い。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどが挙げられる。得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの柔軟性や低温特性の点より、炭素数5〜12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、以下に説明する事例に基づき、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。これらの脂肪族ジオール以外として、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなども20モル%以下であれば、使用可能である。
【0020】
本発明における熱可塑性ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを構成する脂肪族ポリカーボネートジオールとしては、融点が低く(例えば、70℃以下)かつ、ガラス転移温度が低いものが好ましい。一般に、熱可塑性ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを形成するのに用いられる1,6−ヘキサンジオールからなる脂肪族ポリカーボネートジオールは、ガラス転移温度が−60℃前後と低く、融点も50℃前後となるため、低温特性が良好なものとなり、好ましい。その他にも、上記脂肪族ポリカーボネートジオールに、例えば、3−メチル−1,5−ペンタンジオールや1,9−ノナンジオールと2−メチル−1,8−オクタンジオールを適当量共重合して得られる脂肪族ポリカーボネートジオールは、元の脂肪族ポリカーボネートジオールに対してガラス転移点が若干高くなるものの、融点が低下もしくは非晶性となるため、低温特性が良好となる場合があるため、好ましい。
【0021】
上記の脂肪族ポリカーボネートジオールは、必ずしもポリカーボネート成分のみから構成される必要はなく、他のグリコール、ジカルボン酸、エステル化合物やエーテル化合物などを少量共重合したものでもよい。共重合成分の例として、例えばダイマージオール、水添ダイマージオール及びこれらの変性体などのグリコール、ダイマー酸、水添ダイマー酸などのジカルボン酸、脂肪族、芳香族、または脂環族のジカルボン酸とグリコールとからなるポリ又はオリゴエステル、ε−カプロラクトンなどからなるポリエステル又はオリゴエステル、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール又はオリゴアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0022】
上記共重合成分は、実質的に脂肪族ポリカーボネートセグメントの効果を消失させない程度用いることができる。具体的には、脂肪族ポリカーボネートセグメント100質量部に対して好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。共重合量が多すぎる場合、得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーの耐熱性が劣ったものになる。
【0023】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーにおいて、ハードセグメントを構成するポリエステルとソフトセグメントを構成する脂肪族ポリカーボネート及び共重合体成分との質量比(ハードセグメントの含有量)は以下が好ましい。ハードセグメントは65質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上である。ハードセグメントは95質量%以下が好ましく、より好ましくは90質量%以下が好ましく、88質量%以下がさらに好ましい。ハードセグメントが95質量%より上であれば、エラストマー特性を有さず、65質量%より下であれば耐熱性に劣る。
【0024】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーにおいて、損失正接(tanδ)の極大値が0.18以上であることが好ましく、より好ましくは0.20以上である。tanδの極大値が0.18より下であれば、制振性能に劣る。上限は本発明のポリマー組成の場合、0.40以下である。
【0025】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、上記のようなポリエステルからなるハードセグメント及び脂肪族ポリカーボネートからなるソフトセグメントが結合されてなるポリエステルエラストマーである。ここで、結合されてなるとは、ハードセグメントとソフトセグメントがイソシアネート化合物などの鎖延長剤で結合されるのではなく、ハードセグメントやソフトセグメントを構成する単位が直接エステル結合やカーボネート結合で結合されている状態をいう。たとえば、ハードセグメントを構成するポリエステル、ソフトセグメントを構成するポリカーボネート及び必要であれば各種共重合成分を溶融下、一定時間のエステル交換反応及び解重合反応を繰返しながら得ることが好ましい(以下ブロック化反応と称することもある)。
【0026】
上記、ブロック化反応は、好ましくはハードセグメントを構成するポリエステルの融点ないし融点+30℃の範囲内の温度において行われる。この反応において、系中の活性触媒種はポリエステル重合に用いられる任意の触媒が用いられる。その濃度は、反応の行われる温度に応じて任意に設定される。すなわち、より高い反応温度においてはエステル交換反応及び解重合は速やかに進行するため、系中の活性触媒濃度は低いことが望ましく、また、より低い反応温度においてはある程度の濃度の活性触媒が存在していることが望ましい。
【0027】
上記反応は、反応温度、触媒濃度、反応時間の組み合わせを任意に決定して行なうことができる。すなわち、反応条件は、用いるハードセグメント及びソフトセグメントの種類及び量比、用いる装置の形状、攪拌状況などの種々の要因によってその適正値が変化する。
【0028】
上記反応条件の最適値は、例えば得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点及びハードセグメントとして用いたポリエステルの融点を比較し、その差が2℃〜60℃となる場合である。融点差が2℃未満の場合、両セグメントが混合又は/及び反応しておらず、得られたポリマーは劣った弾性性能を示す。一方、融点差が60℃を超える場合、エステル交換反応の進行が著しいため得られたポリマーのブロック性が低下しており、結晶性、弾性性能などが低下する。
【0029】
上記反応によって得られた溶融混合物中の残存触媒は、任意の方法によってできる限り完全に失活しておくことが望ましい。触媒が必要以上に残存している場合、コンパウンド時、成形時などにエステル交換反応がさらに進行し、得られたポリマーの物性が変動することが考えられる。
【0030】
本失活反応は、例えば前述の様式、すなわち亜燐酸、燐酸、燐酸トリフェニル、燐酸トリストリエチレングリコール、オルト燐酸、ホスホン酸カルベトキジメチルジエチル、亜燐酸トリフェニル、燐酸トリメチル、亜燐酸トリメチルなどの燐化合物などを添加することによって行われるが、これに限られるわけではない。
【0031】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、少量に限り三官能以上のポリカルボン酸、ポリオールを含んでもよい。例えば無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメチロールプロパン、グリセリンなどを使用できる。
【0032】
本発明においては、主たるハードセグメントがポリブチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレート単位である場合、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点が175〜215℃であることが好ましい。さらに好ましくは185〜215℃である。
【0033】
また、本発明においては、主たるハードセグメントがポリブチレンナフタレート/ブチレンイソフタレート単位である場合、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点が180〜225℃であることが好ましい。さらに好ましくは190〜225℃である。
【0034】
上記したように、エステル交換反応の進行が著しいとポリマーのブロック性が低下し、上記の融点を達成できない。本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、下記で説明するように、脂肪族ポリカーボネートジオールの分子量を予め高分子量化(5000〜80000が好ましい)して、ブロック化反応に供する。
【0035】
本発明における脂肪族ポリカーボネートジオール分子量の調整方法は限定されないが、例えば、市販されている脂肪族ポリカーボネートジオールの分子量は、本発明の好ましい分子量範囲よりも低い範囲であるので、該市販されている低分子量の脂肪族ポリカーボネートジオールを予め鎖延長剤で高分子量化して分子量を調整する方法が好ましい。すなわち、予め鎖延長剤で高分子量化して脂肪族ポリカーボネートジオールの分子量を上記最適化範囲になるように調整してからブロック化反応に供給して反応を行うのが好ましい。これらは低分子量の脂肪族ポリカーボネートジオールと鎖延長剤の仕込み比を変えるという単純な方法で、市販品の低分子量の脂肪族ポリカーボネートジオールを用いて嘱望される任意の分子量に対応できる。
【0036】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族又は脂環族ジオールとから構成されたポリエステルと上記高分子量化してなる脂肪族ポリカーボネートジオールを溶融状態で反応させて製造することが好ましい。該要件を満たせば、製造条件等は限定されないが、例えば、以下の方法で実施するのが好ましい。
【0037】
例えば、ポリ(ブチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレート)と高分子量化された1,6−ヘキサンジオールからなるポリカーボネートジオールとを所定量を一括して反応缶に仕込み、不活性ガスで反応缶内の酸素を除去した後、反応缶内の圧力を減圧にする。該反応缶内の圧力は400Pa以下が好ましい。270Pa以下がより好ましく、140Pa以下がさらに好ましい。減圧度を保ったまま、攪拌させ、徐々に昇温させていき、反応物を溶解させながら、ポリブチレンテレフタレートの融点に対して5〜40℃高い温度で反応を進行させる。該温度差は、7〜35℃高い温度がより好ましく、10〜30℃高い温度がさらに好ましい。該温度差が5℃より低いと、ポリ(ブチレンテレフタレート/ブチレンイソフタレート)が固化し、均一混合ができないため、得られる熱可塑性ポリエステル系エラストマーの品質にバラツキが出てしまう可能性がある。また、40℃よりも高い温度であると、反応の進行が早すぎるため、ランダム化され、耐熱性に乏しい熱可塑性ポリエステル系エラストマーができてしまう。反応時間としては、360分より短いことが好ましく、300分より短いことがより好ましく、240分より短いことがさらに好ましい。反応時間が長くなりすぎると、生産サイクルが伸び、製造コストが上がる要因となる。それぞれの原料が均一になった時点で反応を終了させ、攪拌を停止し、反応缶下部の取り出し口より溶融した熱可塑性ポリエステル系エラストマーを取り出し、冷却固化させて、ストランドカッターなどのチップカッターで熱可塑性ポリエステル系エラストマーのチップを得る。
【0038】
さらに、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマーには、目的に応じて種々の添加剤を配合して組成物を得ることができる。添加剤としては、公知のヒンダードフェノール系、硫黄系、燐系、アミン系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ニッケル系、サリチル系などの光安定剤、帯電防止剤、滑剤、過酸化物などの分子調整剤、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物などの反応基を有する化合物、金属不活性剤、有機及び無機系の核剤、中和剤、制酸剤、防菌剤、蛍光増白剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、有機及び無機系の顔料などを添加することができる。
【0039】
これらの添加物の配合方法としては、加熱ロール、押出機、バンバリミキサーなどの混練機を用いて配合することができる。また、熱可塑性ポリエステルエラストマー樹脂組成物を製造する際のエステル交換反応の前又は重縮合反応前のオリゴマー中に、添加及び混合することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明するがそれらに限定されるものではない。なお、本明細書において各測定は、以下の方法に従って行った。
(1)熱可塑性ポリエステルエラストマーの還元粘度
熱可塑性ポリエステルエラストマー0.05gを25mLの混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比))に溶かし、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0041】
(2)熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点(Tm)
50℃で15時間減圧乾燥した熱可塑性ポリエステルエラストマーを示差走査熱量計DSC−50(島津製作所製)を用いて室温から20℃/分で昇温し測定し、融解による吸熱のピーク温度を融点とした。 なお、測定試料は、アルミニウム製パン(TA Instruments社製、品番900793.901)に10mg計量し、アルミニウム製蓋(TA Instruments社製、品番900794.901)で密封状態にして、窒素雰囲気で測定した。
【0042】
(3)熱可塑性ポリエステルエラストマーの引張り弾性率
80〜100℃で5〜12時間減圧乾燥した熱可塑性ポリエステルエラストマーのペレットを200〜220℃で加熱しながら鉄板ではさみこみ、厚さ0.2〜0.5mmのシートを得た。これを用い、ASTM D638に準拠して引張り弾性率を測定した。
【0043】
(4)制振性(tanδ)
80〜100℃で5〜12時間減圧乾燥した熱可塑性ポリエステルエラストマーのペレットを200〜220℃で加熱しながら鉄板ではさみこみ、厚さ0.2〜0.5mmのシートを得た。この成形品を用いて動的粘弾性測定装置(UBM社製Rheogel−E4000)で測定した。
測定温度範囲:−80℃〜150℃
昇温条件:2℃/min
ここで、tanδは、試験片に11Hzの周期的な刺激を加え、その応答として歪み(または応力)をみた場合に、式tanδ=E″(動的損失弾性率)/E′(動的貯蔵弾性率)で表される関係における損失角を示している。
【0044】
脂肪族ポリカーボネートジオールの製造方法:
脂肪族ポリカーボネートジオール(宇部興産社製カーボネートジオールUH−CARB200、分子量2000、1,6−ヘキサンジオールタイプ)100質量部とジフェニルカーボネート8.6質量部とをそれぞれ仕込み、温度205℃、130Paで反応させた。2時間後、内容物を冷却し、ポリマーを取り出した。分子量10000であった。
【0045】
脂肪族ポリカーボネートジオールの分子量
重水素化クロロホルム(CDCl
3)に脂肪族ポリカーボネートジオールサンプルを溶解させ、H−NMRを測定することにより末端基を算出し、下記式にて求めた。
分子量=1000000/((末端基量(当量/トン))/2)
【0046】
芳香族ポリエステルの数平均分子量(Mn)
上記の熱可塑性ポリエステルエラストマーの還元粘度測定方法と同様の方法で測定して求めた還元粘度(ηsp/c)の値を用いて下記式に従って算出した。
ηsp/c=1.019×10
−4 × Mn
0.8929−0.0167
【0047】
実施例1
数平均分子量30000で、11mol%イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート(PBTI)85質量部と上記方法で調製した数平均分子量10000を有するポリカーボネートジオール15質量部とを225℃〜245℃、130Pa下で1時間攪拌した。樹脂が透明になったことを確認し、内容物を取り出し、冷却し、ポリマーを得た。得られたポリマーの各物性を測定し、その結果を表1に示す。本実施例で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーはいずれの特性も良好であり高品質であった。
【0048】
実施例2〜5
実施例1のPBTIにおけるイソフタル酸共重合量を変更したものと脂肪族ポリカーボネートジオール(数平均分子量10000)の質量比を変更したものを用いて実施例2〜5の熱可塑性ポリエステルエラストマーを得た。PBTIにおけるイソフタル酸共重合量はイソフタル酸の仕込み量を調整することで得た。本実施例で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーは実施例1で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーと同等の高品質を有していた。結果は表1に示す。
【0049】
実施例6
数平均分子量30000で、16mol%イソフタル酸共重合ポリブチレンナフタレート(PBNI)85質量部と上記方法で調製した数平均分子量10000を有するポリカーボネートジオール15質量部とを225℃〜250℃、130Pa下で1時間攪拌した。樹脂が透明になったことを確認し、内容物を取り出し、冷却し、ポリマーを得た。得られたポリマーの各物性を測定し、その結果を表1に示す。本実施例で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーはいずれの特性も良好であり高品質であった。
【0050】
比較例1、2
イソフタル酸を共重合していないポリブチレンテレフタレートを用いて、実施例1と同様の方法で比較例1の熱可塑性ポリエステルエラストマーを得た。本比較例で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーはtanδが低く、制振性に劣る。
【0051】
比較例3、4
実施例1のPBTIにおけるイソフタル酸共重合量を変更したものを用いて、実施例1と同様の方法で比較例3、4の熱可塑性ポリエステルエラストマーを得た。比較例3で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーは制振性能が低く、比較例4で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマーは耐熱性に劣る。結果は表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】