特許第6036022号(P6036022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036022
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】サーモスタット
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20161121BHJP
   F16K 31/68 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F01P7/16 502A
   F01P7/16 502H
   F01P7/16 502B
   F16K31/68 Q
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-191965(P2012-191965)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-47725(P2014-47725A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】橘川 功
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−028267(JP,A)
【文献】 特開2010−196670(JP,A)
【文献】 特開2005−214075(JP,A)
【文献】 特開2009−052506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F16K 31/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を流通させる第一の開口部、第二の開口部及び、第三の開口部を有し、前記第一の開口部と前記第二の開口部とが対向して形成されたハウジングと、
前記ハウジング内に収容されると共に、閉弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を阻止する一方、開弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を許容させるバルブと、
前記バルブを閉弁方向に付勢するスプリングと、
前記バルブに固定されると共に、少なくともその一部を前記第二の開口部側に位置させたケース及び、前記第二の開口部側の前記ケース内に収容され、冷却水温に応じて凝固縮小・溶融膨張するワックスを有する感温部と、
一端を前記第一の開口部側の前記ハウジングに固定されると共に、他端を前記ケース内に収容されて前記ワックスの溶融膨張時に前記バルブを開弁方向に移動させるロッドと、
前記バルブもしくは前記ケースの外周面に固定され、前記バルブと前記ワックスを収容した前記ケースとの間の前記ハウジング内を仕切る遮蔽部材と、を備えることを特徴とするサーモスタット。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、前記バルブもしくは前記ケースの外周面から前記第二の開口部側に向けて円錐状に拡張するスカート部を有する請求項1に記載のサーモスタット。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記バルブを摺動可能に収容すると共に、前記第三の開口部を前記バルブが摺動する側部に形成された請求項1又は2に記載のサーモスタット。
【請求項4】
冷却水を流通させる第一の開口部、第二の開口部及び、第三の開口部を有し、前記第一の開口部と前記第二の開口部とが対向して形成されたハウジングと、
前記ハウジング内に収容されると共に、閉弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を阻止する一方、開弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を許容させるバルブと、
前記バルブを閉弁方向に付勢するスプリングと、
前記バルブに固定されると共に、少なくともその一部を前記第二の開口部側に位置させたケース及び、前記第二の開口部側の前記ケース内に収容され、冷却水温に応じて凝固縮小・溶融膨張するワックスを有する感温部と、
一端を前記第一の開口部側の前記ハウジングに固定されると共に、他端を前記ケース内に収容されて前記ワックスの溶融膨張時に前記バルブを開弁方向に移動させるロッドと、を備え、
前記ハウジングは、前記バルブを摺動可能に収容すると共に、前記第三の開口部を前記バルブが摺動する側部に形成され、前記ハウジングと前記バルブの摺動箇所において、前記ハウジングと前記バルブの間には、前記バルブの摺動移動を許容し冷却水の流通を阻止するクリアランスが形成されていることを特徴とするサーモスタット。
【請求項5】
前記ケースの前記ワックスを収容した部分は、前記第二の開口部が臨む冷却水回路の内径よりも小径に形成されると共に、少なくともその一部を該冷却水回路内に位置させた請求項1から4の何れかに記載のサーモスタット。
【請求項6】
前記冷却水回路は、ラジエータからウォータジャケットに冷却水を供給するエンジン入口側流路と、前記ウォータジャケットから供給される冷却水を前記ラジエータから迂回させるバイパス流路とを含み、
前記ハウジングは、前記第一の開口部を前記ラジエータ側に臨ませ、かつ、前記第二の開口部を前記バイパス流路側に臨ませ、かつ、前記第三の開口部を前記ウォータジャケット側に臨ませて、前記エンジン入口側流路と前記バイパス流路との合流部に配置される請求項1からの何れかに記載のサーモスタット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーモスタットに関し、特に、ラジエータからウォータジャケットに冷却水を供給するエンジン入口側流路と、ウォータジャケットから供給される冷却水をラジエータから迂回させるバイパス流路との合流部に設けられるサーモスタットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンの冷却水回路に設けられるサーモスタットとして、ウォータジャケットからラジエータに冷却水を供給するエンジン出口側流路と、ラジエータから冷却水を迂回させるバイパス流路との分岐部に設けられるもの(以下、出口側サーモスタットともいう)が知られている。
【0003】
また、サーモスタットの配置位置を、ラジエータからウォータジャケットに冷却水を供給するエンジン入口側流路と、ラジエータを迂回するバイパス流路との合流部に設けるもの(以下、入口側サーモスタットともいう)も知られている。このような入口側サーモスタットを備えた冷却水回路は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−90726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、入口側サーモスタットの場合、開弁するとラジエータからの低温冷却水と、バイバス流路(エンジン)からの高温冷却水との両方が、サーモスタットの感温部に流れ込む。結果として、バイパス流路からの冷却水が高温にも関わらず、低温の冷却水がサーモスタットの感温部に流れ込むためサーモスタットが適切に作動しない可能性がある。そのため、オーバヒートを回避するためにはサーモスタットの設定温度を低く設定する必要がある。
【0006】
結果として、入口側サーモスタットは、エンジン内部の冷却水温が低下する傾向にあり、エンジンオイルの粘度硬化により摩擦損失も増大して、燃費を悪化させる可能性がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、その目的は、エンジン内部の冷却水温低下を抑制して、エンジンの摩擦損失を低減することで、燃費の悪化を効果的に防止するサーモスタットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明のサーモスタットは、冷却水を流通させる第一の開口部、第二の開口部及び、第三の開口部を有し、前記第一の開口部と前記第二の開口部とが対向して形成されたハウジングと、前記ハウジング内に収容されると共に、閉弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を阻止する一方、開弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を許容させるバルブと、前記バルブを閉弁方向に付勢するスプリングと、前記バルブに固定されると共に、少なくともその一部を前記第二の開口部側に位置させたケース及び、前記第二の開口部側の前記ケース内に収容され、冷却水温に応じて凝固縮小・溶融膨張するワックスを有する感温部と、一端を前記第一の開口部側の前記ハウジングに固定されると共に、他端を前記ケース内に収容されて前記ワックスの溶融膨張時に前記バルブを開弁方向に移動させるロッドと、前記バルブもしくは前記ケースの外周面に固定され、前記バルブと前記ワックスを収容した前記ケースとの間の前記ハウジング内を仕切る遮蔽部材とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、前記遮蔽部材は、前記バルブもしくは前記ケースの外周面から前記第二の開口部側に向けて円錐状に拡張するスカート部を有するものであってもよい。
【0010】
また、前記ハウジングは、前記バルブを摺動可能に収容すると共に、前記第三の開口部を前記バルブが摺動する側部に形成されてもよい。
【0011】
また、本発明のサーモスタットは、冷却水を流通させる第一の開口部、第二の開口部及び、第三の開口部を有し、前記第一の開口部と前記第二の開口部とが対向して形成されたハウジングと、前記ハウジング内に収容されると共に、閉弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を阻止する一方、開弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を許容させるバルブと、前記バルブを閉弁方向に付勢するスプリングと、前記バルブに固定されると共に、少なくともその一部を前記第二の開口部側に位置させたケース及び、前記第二の開口部側の前記ケース内に収容され、冷却水温に応じて凝固縮小・溶融膨張するワックスを有する感温部と、一端を前記第一の開口部側の前記ハウジングに固定されると共に、他端を前記ケース内に収容されて前記ワックスの溶融膨張時に前記バルブを開弁方向に移動させるロッドとを備え、前記ハウジングは、前記バルブを摺動可能に収容すると共に、前記第三の開口部を前記バルブが摺動する側部に形成されたことを特徴とする。
【0012】
前記ケースの前記ワックスを収容した部分は、前記第二の開口部が臨む冷却水回路の内径よりも小径に形成されると共に、少なくともその一部を該冷却水回路内に位置させてもよい。
【0013】
また、本発明のサーモスタットは、冷却水を流通させる第一の開口部、第二の開口部及び、第三の開口部を有し、前記第一の開口部と前記第二の開口部とが対向して形成されたハウジングと、前記ハウジング内に収容されると共に、閉弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を阻止する一方、開弁時に前記第一の開口部の冷却水流通を許容させるバルブと、前記バルブを閉弁方向に付勢するスプリングと、前記バルブに固定されると共に、少なくともその一部を前記第二の開口部側に位置させたケース及び、前記第二の開口部側の前記ケース内に収容され、冷却水温に応じて凝固縮小・溶融膨張するワックスを有する感温部と、一端を前記第一の開口部側の前記ハウジングに固定されると共に、他端を前記ケース内に収容されて前記ワックスの溶融膨張時に前記バルブを開弁方向に移動させるロッドとを備え、前記ケースの前記ワックスを収容した部分は、前記第二の開口部が臨む冷却水回路の内径よりも小径に形成されると共に、少なくともその一部を該冷却水回路内に位置させたことを特徴とする。
【0014】
前記冷却水回路は、ラジエータからウォータジャケットに冷却水を供給するエンジン入口側流路と、前記ウォータジャケットから供給される冷却水を前記ラジエータから迂回させるバイパス流路とを含み、前記ハウジングは、前記第一の開口部を前記ラジエータ側に臨ませ、かつ、前記第二の開口部を前記バイパス流路側に臨ませ、かつ、前記第三の開口部を前記ウォータジャケット側に臨ませて、前記エンジン入口側流路と前記バイパス流路との合流部に配置されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のサーモスタットによれば、エンジン内部の冷却水温低下を抑制して、エンジンの摩擦損失を低減することで、燃費の悪化を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一実施形態に係るサーモスタットが適用される冷却水回路の全体構成を示す模式的な部分断面図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るサーモスタットの全体構成を示す模式的な部分断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係るサーモスタットが開弁した状態を示す模式的な部分断面図である。
図4】本発明の第二実施形態に係るサーモスタットの全体構成を示す模式的な部分断面図である。
図5】本発明の第三実施形態に係るサーモスタットの全体構成を示す模式的な部分断面図である。
図6】他の実施形態に係るサーモスタットの全体構成を示す模式的な部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本発明に係るサーモスタットの各実施形態を説明する。
【0018】
[第一実施形態]
図1〜3に基づいて、本発明の第一実施形態に係るサーモスタット1Aを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0019】
まず、図1に基づいて、本発明の第一実施形態に係るサーモスタット1Aが適用されるエンジンEの冷却水回路30から説明する。冷却水回路30は、エンジンEのシリンダブロック内に形成されたウォータジャケット31と、冷却水と外気との熱交換を行うラジエータ32と、ウォータジャケット31からラジエータ32に冷却水を供給するエンジン出口側流路33と、ラジエータ32からウォータジャケット31に冷却水を供給するエンジン入口側流路34と、冷却水をラジエータ32から迂回させるバイパス流路35とを備えている。また、ウォータジャケット31の入口部と隣接するエンジン入口側流路34には、エンジンEの動力で駆動して冷却水を圧送供給するウォータポンプPが介装されている。
【0020】
本実施形態において、バイパス流路35は、エンジン入口側流路34が屈曲(本実施形態では、約90度)した部分に接続され、この屈曲部分がエンジン入口側流路34を流れる冷却水とバイパス流路35から流入する冷却水との合流部Mを形成する。そして、本実施形態のサーモスタット1Aは、この合流部Mに設けられている。
【0021】
次に、図2に基づいて、本実施形態のサーモスタット1Aの詳細構成を説明する。サーモスタット1Aは、メインハウジング2と、メインロッド3と、サブハウジング4と、メインバルブ5と、メインスプリング6と、バイパスバルブ7と、バイパスロッド8と、バイパススプリング9と、感温部10と、遮蔽部材20とを備えている。なお、説明の便宜上、必要に応じて図2中のラジエータ側を上方、エンジン出口側を下方として定義する。
【0022】
メインハウジング2は、エンジン入口側流路34の内径よりも大径の環状に形成された固定フランジ2aと、固定フランジ2aに架設された縦断面略円弧状のメインフレーム2bとを備えており、ラジエータ32からの冷却水の流通を妨げない形状で形成されている。固定フランジ2aは、その外縁部を合流部Mよりもラジエータ32側のエンジン入口側流路34に固定されている。この固定フランジ2aの中心開口は、本発明の第一の開口部に相当する。メインフレーム2bの円弧中央位置には、メインロッド3の上端が固定されている。
【0023】
サブハウジング4は、略円筒状に形成されており、上端から外方に突出形成された環状の固定フランジ4aと、下端から内方に突出形成された環状の支持フランジ4bとを備えている。このサブハウジング4の側部には、複数の開口穴が設けられており、メインハウジング2と同様にラジエータ32からの冷却水の流通を妨げない形状で形成されている。また、サブハウジング4の筒内には、メインバルブ5が相対移動可能に収容されている。さらに、固定フランジ4aはメインハウジング2の固定フランジ2aに固定され、支持フランジ4bのフランジ面はメインスプリング6の下端を支持する。なお、本実施形態において、支持フランジ4bの中央開口は本発明の第二の開口部に相当し、サブハウジング4の側部に形成された複数の開口穴は本発明の第三の開口部に相当する。
【0024】
感温部10は、冷却水温の高低に応じて凝固収縮・溶融膨張する公知のワックス10aと、ワックス10aを収容する有底円筒状のワックスケース10bとを備えている。また、ワックスケース10bの上面部には、メインロッド3を摺動自在に挿通させる貫通穴が形成されており、そのケース内にはメインロッド3の下端部が収容されている。
【0025】
メインバルブ5は、固定フランジ2aの開口穴よりも大径の平板円形状に形成されており、その中央部にはワックスケース10bと略同径の貫通穴が形成されている。この貫通穴の周縁部には、ワックスケース10bの外周面(ワックス10aよりも上方の外周面)と嵌合する円筒フランジ5aが形成されている。また、メインバルブ5の上側平面には、環状のシール部材5bが設けられている。さらに、メインバルブ5と支持フランジ4bとの間には、メインバルブ5を固定フランジ2aに向けて付勢するメインスプリング6が介装されている。
【0026】
すなわち、冷却水温が低くワックス10aが凝固収縮している場合、メインバルブ5はメインスプリング6の付勢力によって固定フランジ2aにシール部材5aを介して着座(すなわち、閉弁)するように構成されている。一方、冷却水温が高くワックス10aが溶融膨張する場合、メインバルブ5は感温部10と共にメインスプリング6の付勢力に抗して固定フランジ2aから離間移動(すなわち、開弁)するように構成されている。
【0027】
バイパスバルブ7は、バイパス流路35の内径よりも大径の平板円形状に形成されており、その中央部にはワックスケース10bに固定されたバイパスロッド8を摺動可能に挿通する貫通穴が形成されている。また、バイパスバルブ7とワックスケース10bの下面部との間には、バイパスバルブ7をバイパス流路35側に向けて付勢するバイパススプリング9が介装されている。
【0028】
遮蔽部材20は、略円錐状のスカート部20aと、スカート部20aの頂部に設けられた円筒頂部20bとを備えている。円筒頂部20bは、メインバルブ5の円筒フランジ5aと略同径で形成されており、その筒内には円筒フランジ5aの外周面が嵌合されている。なお、円筒頂部20bは、ワックス10aよりも上方のワックスケース10bの外周面に嵌合されてもよい。
【0029】
スカート部20aの外径(スカート下端外周の外径)は、遮蔽部材20が合流部M内を摺動移動できるように、合流部Mの内径よりも僅かに小さく形成されている。すなわち、スカート部20aの下端縁部と合流部Mの内周面との間には、冷却水の流通を僅かに許容しうる微小クリアランスのみが設けられている。これにより、合流部Mの領域は遮蔽部材20によってメインバルブ5側とバイパス流路35側とに区分けされ、メインバルブ5と遮蔽部材20との間には円環状の冷却水流路が形成される。
【0030】
次に、本実施形態に係るサーモスタット1Aによる作用効果を説明する。
【0031】
バイパス流路35から合流部Mに流入する冷却水温が所定温度(例えば、約70℃)まで上昇すると、ワックス10aは溶融膨張を開始する。これに伴い、ワックスケース10bの外周面に円筒フランジ5aを介して固定されたメインバルブ5は、メインスプリング6の付勢力に抗してバイパス流路35側に移動して開弁される(図3参照)。すなわち、ラジエータ32からメインハウジング2を通過してメインバルブ5に到達する低温状態の冷却水は、メインバルブ5と遮蔽部材20との間の合流部Mに流入する。
【0032】
ここで、本実施形態のサーモスタット1Aは、メインバルブ5の環状フランジ5aに、円錐状のスカート部20aを有する遮蔽部材20が設けられている。この遮蔽部材20により、図3に示すように、合流部Mはメインバルブ5と遮蔽部材20との間で円環状の流路が形成される領域αと、感温部10が配置されるバイパス流路35側の領域βとの二つの領域に区分けされる。
【0033】
すなわち、メインバルブ5が開弁した際にラジエータ32から流入する低温状態の冷却水は、メインバルブ5と遮蔽部材20とで形成される円環状の流路を流れてウォータポンプPに引き込まれ、感温部10が配置された遮蔽部材20よりもバイパス流路35側の合流部M(領域β)への流入が阻止される。その結果、感温部10にはエンジンEからバイパス流路35を介して流れ込む冷却水のみが到達し、ラジエータ32からの低温冷却水の影響は効果的に抑制される。
【0034】
したがって、本実施形態のサーモスタット1Aによれば、サーモスタット1Aの設定温度を低く設定する必要がなくなり、エンジン内部の冷却水温低下傾向を抑制することが可能となる。結果として、エンジンオイルの粘度硬化や摩擦損失の増大が防止され、燃費を効果的に向上することができる。
【0035】
[第二実施形態]
以下、図4に基づき、本願発明の第二実施形態に係るサーモスタット1Bについて説明する。
【0036】
第二実施形態のサーモスタット1Bは、第一実施形態のサーモスタット1Aにおいて、図4に示すように、遮蔽部材20を省略すると共に、サブハウジング4の形状及び、合流部Mの形状を変更したものである。したがって、第一実施形態と同一の構成要素については同一の符号を用いてそれらの説明は省略する。
【0037】
サブハウジング4は、メインハウジング2の環状フランジ2aに固定される環状の固定フランジ4aと、固定フランジ4aから略垂直に下方に延びる上側円筒外周部4bと、上側円筒外周部4bの下端から略垂直に内側に延びる円環状外周部4cと、円環状外周部4cの内側端から略垂直に下方に延びる下側円筒外周部4dと、下側円筒外周部4dの下端から略垂直に内側に延びてメインスプリング6の下端を支持する環状の支持フランジ4eとを備えている。
【0038】
上側円筒外周部4bは、メインバルブ5を摺動可能に収容するように、その内径をメインバルブ5の外径よりも僅かに大きく形成されている。すなわち、上側円筒外周部4bの内側面とメインバルブ5の外周縁部との間のクリアランスは、メインバルブ5の摺動移動のみを許容して冷却水の流通を阻止しうる微小クリアランスとして形成されている。また、エンジン入口側に臨む上側円筒外周部4bには、ラジエータ側から合流部Mに流入する冷却水及び、バイパス流路35から合流部Mに流入する冷却水のエンジン入口側への流通を許容する開口部4fが形成されている。
【0039】
下側円筒外周部4dの内径は、メインバルブ5の外径よりも小さく、かつ、メインスプリング6の外径よりも大きく形成されている。すなわち、下側円筒外周部4dの筒内は、感温部10及びメインスプリング6の一部(下方端部)を収容する一方、メインバルブ5の侵入を許容しない大きさで形成されている。
【0040】
エンジン入口側流路34の合流部Mは、縦断面L字状の上側屈曲部34aと、上側屈曲部34aから連続する縦断面L字状の中間屈曲部34bと、中間屈曲部34bから連続する下側屈曲部34cとを備えている。
【0041】
上側屈曲部34aの上端には、メインハウジング2の環状フランジ2aが固定されている。この上側屈曲部34aの内側面は、メインバルブ5が開弁した時に、メインハウジング2の環状フランジ2aとメインバルブ5のバルブ平面との間で円環状の流路を形成する。
【0042】
中間屈曲部34bは、上側円筒外周部4b及び円環状外周部4cの形状に合わせて略直角に屈曲して形成されている。すなわち、サーモスタット1Bを合流部M内に配置した状態で、中間屈曲部34bの内側面には、上側円筒外周部4b及び円環状外周部4cの外側面が密接される。
【0043】
下側屈曲部34cは、内径を下側円筒外周部4dの外径よりも大きく形成されると共に、上下方向の長さを下側円筒外周部4dよりも長く形成されている。すなわち、サーモスタット1Bを合流部M内に配置した状態で、下側屈曲部34cの内側面には下側円筒外周部40dの外側面が密接される。また、下側屈曲部34cの内部には、下側円筒外周部4d、バイパスバルブ7、バイパスロッド8及び、バイパススプリング9が収容されるように構成されている。
【0044】
次に、本実施形態に係るサーモスタット1Bによる作用効果を説明する。
【0045】
本実施形態のサーモスタット1Bは、メインバルブ5が開弁すると、上側屈曲部34aの内側面、メインハウジング2の環状フランジ2a及び、メインバルブ5のバルブ平面により円環状の流路が形成される。また、上側円筒外周部4bの内側面とメインバルブ5の外縁部との間隔は、メインバルブ5の摺動移動のみを許容して冷却水の流通を阻止しうる微小クリアランスで形成されている。そして、エンジン入口側に臨む上側円筒外周部4bには、ラジエータ側から合流部Mに流入する冷却水の流通を許容する開口部4fが形成されている。
【0046】
すなわち、メインバルブ5が開弁した際にラジエータ側から流入する低温状態の冷却水は、メインバルブ5の上方に形成される円環状の流路から開口部4fを介してウォータポンプPに引き込まれ、感温部10が配置されたメインバルブ5よりもバイパス流路35側の合流部Mへの流れ込みは阻止される。その結果、感温部10にはエンジンEからバイパス流路35を介して流入する冷却水のみが到達し、ラジエータ32からの低温冷却水の影響は効果的に抑制される。
【0047】
したがって、本実施形態のサーモスタット1Bによれば、サーモスタット1Bの設定温度を低く設定する必要がなくなり、エンジン内部の冷却水温低下を抑制することが可能となる。結果として、エンジンオイルの粘度硬化や摩擦損失の増大が防止され、燃費を効果的に向上することができる。
【0048】
[第三実施形態]
以下、図5に基づき、本願発明の第三実施形態に係るサーモスタット1Cについて説明する。
【0049】
第三実施形態のサーモスタット1Cは、第一実施形態のサーモスタット1Aにおいて、図5に示すように、遮蔽部材20とバイパスロッド8とを省略すると共に、感温部10の配置位置を変更したものである。したがって、第一実施形態と同一の構成要素については同一の符号を用いてそれらの説明は省略する。
【0050】
感温部10は、ワックス10aと、ワックス10aを収容する有底円筒状のワックスケース10bと、ワックスケース10bの上部に設けられたケース延長部10cとを備えている。
【0051】
ケース延長部10cは、ワックスケース10bと同径の円筒状に形成されており、その上方外周面にはメインバルブ5の円筒フランジ5aが嵌合されている。また、ケース延長部10cの中間外周面には、バイパススプリング9の上端を支持する環状の支持フランジ10dが設けられている。さらに、ケース延長部10cの上面部及び下面部には、メインロッド3を摺動自在に挿通させる貫通穴が形成されている。
【0052】
ワックスケース10bは、その外径をバイパス流路35の内径よりも小さく形成されており、その大部分(特に、ワックス10aを収容した部分)をバイパス流路35内に位置させている。また、ワックスケース10bの上面部には、メインロッド3を摺動自在に挿通させる貫通穴が形成されており、そのケース内にはメインロッド3の下端部が収容されている。さらに、ワックスケース10bのワックス10aよりも上方の外周面には、バイパスバルブ7を下方から支持する支持フランジ10eが設けられている。
【0053】
バイパスバルブ7は、バイパス流路35の内径よりも大径の平板円形状に形成されており、その中央部にはワックスケース10b及びケース延長部10cを摺動可能に挿通する貫通穴が形成されている。また、バイパスバルブ7と支持フランジ10dとの間には、バイパスバルブ7をバイパス流路35側に向けて付勢するバイパススプリング9が介装されている。
【0054】
次に、本実施形態に係るサーモスタット1Cによる作用効果を説明する。
【0055】
本実施形態のサーモスタット1Cは、ワックス10aを収容するワックスケース10bの外径をバイパス流路35の内径よりも小径に形成し、その大部分(特に、ワックス10aを収容した部分)をバイパス流路35内に位置されるように構成されている。
【0056】
すなわち、メインバルブ5が開弁した際にラジエータ32から流入する低温状態の冷却水は、バイパス流路35内に位置するワックスケース10bに到達することなく、合流部Mを流れてウォータポンプPに引き込まれる。その結果、ワックス10aを収容したワックスケース10bには、エンジンEからバイパス流路35を介して流入する高温冷却水のみが到達し、ラジエータ32からの低温冷却水の影響は効果的に抑制される。
【0057】
したがって、本実施形態のサーモスタット1Cによれば、サーモスタット1Cの設定温度を低く設定する必要がなくなり、エンジン内部の冷却水温低下を抑制することが可能となる。結果として、エンジンオイルの粘度硬化や摩擦損失の増大が防止され、燃費を効果的に向上することができる。
【0058】
なお、本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0059】
例えば、図6に示すように、第一実施形態の遮蔽部材20と、第二実施形態のサブハウジング4及び合流部Mの形状とを組み合わせてもよい。また、詳細な図示は省略するが、第一実施形態又は、第二実施形態もしくは、これら第一及び第二実施形態の組み合わせに、第三実施形態をさらに適用してもよい。これら何れの場合も、上述の各実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0060】
また、各実施形態のサーモスタット1A〜Cが配置される場所は、エンジン入口側流路34とバイパス流路35との合流部Mに限定されず、例えばエンジン出口側流路33とバイパス流路35との分岐部に設けられてもよい。
【0061】
また、上述の各実施形態において、バイパスバルブ7、バイパスロッド8及び、バイパススプリング9は省略することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1A,1B,1C サーモスタット
2 メインハウジング(ハウジング)
3 メインロッド(ロッド)
4 サブハウジング(ハウジング)
5 メインバルブ(バルブ)
6 メインスプリング(スプリング)
7 バイパスバルブ
8 バイパスロッド
9 バイパススプリング
10 感温部
10a ワックス
10b ワックスケース(ケース)
図1
図2
図3
図4
図5
図6