特許第6036049号(P6036049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6036049-処理方法および処理装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036049
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】処理方法および処理装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20161121BHJP
   C22B 34/32 20060101ALI20161121BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 1/04 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 9/02 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 9/04 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 9/10 20060101ALI20161121BHJP
   C01F 17/00 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B34/32
   C22B7/00 G
   C02F1/04 C
   C02F1/28 B
   C02F1/28 J
   C02F1/62 B
   C02F1/62 Z
   C02F9/02
   C02F9/04
   C02F9/10
   C01F17/00 G
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-198867(P2012-198867)
(22)【出願日】2012年9月10日
(65)【公開番号】特開2014-51730(P2014-51730A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀樹
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−052007(JP,A)
【文献】 特開2004−002920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
B01D 9/02
C23F 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液の処理方法であって、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液から硝酸を回収する硝酸回収プロセスと、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液からセリウムを回収するセリウム回収プロセスと、を含み、
前記硝酸回収プロセスは、前記クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液から少なくとも一部の前記クロムを除去する工程と、
前記少なくとも一部のクロムが除去された硝酸セリウムアンモニウム溶液から蒸留によって硝酸水溶液を得る工程と、
塩効果を利用する蒸留によって前記硝酸水溶液を濃縮する工程と、を含み、
前記セリウム回収プロセスは、前記硝酸水溶液を得る工程での蒸留によって得られる缶出固体に、アンモニア水を添加して水酸化セリウム(III)を得る工程と、
セリウムを酸化して前記水酸化セリウム(III)を水酸化セリウム(IV)にする工程と、
前記水酸化セリウム(IV)に硝酸アンモニウムを加えて硝酸セリウムアンモニウムを析出させる工程と、を含んでいることを特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記硝酸水溶液を濃縮する工程では、2種以上の金属塩を含む複合塩を前記硝酸水溶液に添加する請求項に記載の処理方法。
【請求項3】
前記硝酸水溶液を濃縮する工程では、イオン液体を前記硝酸水溶液に添加する請求項に記載の処理方法。
【請求項4】
前記クロムを除去する工程では、前記クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液に、チタン、ジルコニウム、およびセリウムの少なくとも1つを含む水和物を添加し、前記水和物と前記クロムが吸着することにより前記クロムを除去する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液からクロムを回収するクロム回収プロセスを含んでいる請求項1ないしのいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液の処理装置であって、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液から硝酸を回収する硝酸回収機構と、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液からセリウムを回収するセリウム回収機構と、を含み、
前記硝酸回収機構は、前記クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液から前記クロムを除去する分離器と、蒸留によって前記クロムが除去された硝酸セリウムアンモニウム溶液から硝酸水溶液を得る第1蒸留装置と、塩効果を利用する蒸留によって前記硝酸水溶液を濃縮する第2蒸留装置と、を含み、
前記セリウム回収機構は、前記第1蒸留装置の缶出固体にアンモニア水を添加して水酸化セリウム(III)を晶析させる第1晶析装置と、セリウムを酸化して前記水酸化セリウム(III)を水酸化セリウム(IV)にする酸化反応器と、前記水酸化セリウム(IV)に硝酸アンモニウムを加えて硝酸セリウムアンモニウムを晶析させる第2晶析装置と、を含んでいることを特徴とする処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理方法および処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硝酸水溶液は、硝酸濃度68重量%において硝酸と水の共沸混合物を形成するため、希硝酸を通常の蒸留により濃縮して濃硝酸を得ようとしても、濃度68重量%以上の硝酸水溶液を蒸留液として得ることはできない。すなわち、希硝酸を単に蒸留しても68重量%以上の濃度に濃縮することはできない。そこで、濃度68重量%以上の硝酸水溶液を得る方法(濃縮方法)として種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1では、濃縮対象である硝酸水溶液に硝酸金属塩および硫酸金属塩の少なくとも一方を溶解し、これを蒸留する方法が記載されている。このような方法によれば、塩効果によって硝酸に対して水が揮発し難くなるため、硝酸の濃縮が可能となり、濃度68重量%以上の硝酸水溶液を得ることができる。
【0003】
ここで、硝酸水溶液である硝酸セリウムアンモニウム:(NH[Ce(NO]は、クロムやクロム酸化物などのクロム化合物で構成された皮膜をエッチングするためのエッチング液として広く用いられている。このようなエッチングに供されたエッチング廃液について、上述のような特許文献1に示す濃縮方法を適用することにより、エッチング廃液から濃硝酸を回収することができる。しかしながら、このような方法では、レアアースとして高価なセリウム(Ce)を回収することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−250294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウムから硝酸とセリウムとを別々に回収することのできる処理方法および処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明の処理方法は、クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液の処理方法であって、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液から硝酸を回収する硝酸回収プロセスと、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液からセリウムを回収するセリウム回収プロセスと、を含み、
前記硝酸回収プロセスは、前記クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液から少なくとも一部の前記クロムを除去する工程と、
前記少なくとも一部のクロムが除去された硝酸セリウムアンモニウム溶液から蒸留によって硝酸水溶液を得る工程と、
塩効果を利用する蒸留によって前記硝酸水溶液を濃縮する工程と、を含み、
前記セリウム回収プロセスは、前記硝酸水溶液を得る工程での蒸留によって得られる缶出固体に、アンモニア水を添加して水酸化セリウム(III)を得る工程と、
セリウムを酸化して前記水酸化セリウム(III)を水酸化セリウム(IV)にする工程と、
前記水酸化セリウム(IV)に硝酸アンモニウムを加えて硝酸セリウムアンモニウムを析出させる工程と、を含んでいることを特徴とする。
これにより、クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウムから硝酸とセリウムとを別々に回収することができる。
【0008】
[適用例
本発明の処理方法では、前記硝酸水溶液を濃縮する工程では、2種以上の金属塩を含む複合塩を前記硝酸水溶液に添加することが好ましい。
これにより、金属塩の組み合わせ方によって、例えば、硝酸の濃縮効果を十分に維持しつつ、処理コストを抑えることができる。
【0009】
[適用例
本発明の処理方法では、前記硝酸水溶液を濃縮する工程では、イオン液体を前記硝酸水溶液に添加することが好ましい。
これにより、少量の塩で硝酸の濃縮を効率的に行うことができる
【0010】
[適用例
本発明の処理方法では、前記クロムを除去する工程では、前記クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液に、チタン、ジルコニウム、およびセリウムの少なくとも1つを含む水和物を添加し、前記水和物と前記クロムが吸着することにより前記クロムを除去することが好ましい。
これにより、クロムをより確実に除去することができる。
【0011】
[適用例
本発明の処理方法では、前記硝酸セリウムアンモニウム溶液からクロムを回収するクロム回収プロセスを含んでいることが好ましい。
これにより、例えば、クロムの再利用が可能となる。
[適用例
本発明の処理装置は、クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液の処理装置であって、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液から硝酸を回収する硝酸回収機構と、
前記硝酸セリウムアンモニウム溶液からセリウムを回収するセリウム回収機構と、を含み、
前記硝酸回収機構は、前記クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウム溶液から前記クロムを除去する分離器と、蒸留によって前記クロムが除去された硝酸セリウムアンモニウム溶液から硝酸水溶液を得る第1蒸留装置と、塩効果を利用する蒸留によって前記硝酸水溶液を濃縮する第2蒸留装置と、を含み、
前記セリウム回収機構は、前記第1蒸留装置の缶出固体にアンモニア水を添加して水酸化セリウム(III)を晶析させる第1晶析装置と、セリウムを酸化して前記水酸化セリウム(III)を水酸化セリウム(IV)にする酸化反応器と、前記水酸化セリウム(IV)に硝酸アンモニウムを加えて硝酸セリウムアンモニウムを晶析させる第2晶析装置と、を含んでいることを特徴とする。
これにより、クロムを含有する硝酸セリウムアンモニウムから硝酸とセリウムとを別々に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の好適な実施形態に係る処理方法および処理装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の処理方法および処理装置を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係る処理方法および処理装置を示す概略図である。
以下、処理装置100の説明とともに、この処理装置100を用いた処理方法を説明する。
【0014】
処理装置100は、クロムエッチングに供されたエッチング廃液900であって、クロム(Cr)を含有する硝酸セリウムアンモニウム:(NH[Ce(NO]を処理する装置である。この処理装置100によれば、エッチング廃液900から濃硝酸、クロム(Cr)、セリウム(Ce)を分離、回収することができる。
図1に示すように、処理装置100は、エッチング廃液900から、硝酸(HNO)を回収する硝酸回収機構200と、セリウム(Ce)を回収するセリウム回収機構300と、クロム(Cr)を回収するクロム回収機構400とを有している。このような3つの機構200〜400を有することにより、簡単な装置構成で効率的に濃硝酸、クロム(Cr)、セリウム(Ce)を分離、回収することができる。なお、処理装置100は、回分式(バッチ式)の装置であってもよいし、連続式の装置であってもよい。
【0015】
−硝酸回収機構−
図1に示すように、硝酸回収機構200は、エッチング廃液900から少なくとも一部のCrを除去するための第1沈殿分離器(分離器)210と、第1沈殿分離器210によってCrが除去されたエッチング廃液900から蒸留によって硝酸水溶液を得る第1蒸留装置220と、第1蒸留装置220から得られた硝酸水溶液を、塩効果を利用して濃縮する第2蒸留装置230とを有している。
【0016】
まず、エッチング廃液900を第1沈殿分離器210に供給する。これとともに、エッチング廃液900に、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)から選ばれる一種の水酸化物を添加し、エッチング廃液900中のクロム(VI):Cr6+の吸着を行う。次に、クロム(VI)が吸着した水酸化物を沈殿物として分離、回収する。以上によって、エッチング廃液900からCr(VI)が除去される。なお、本工程では、Crを全て除去するのが好ましいが、全てのCrを除去しきれず、一部のCrがエッチング廃液900に残存していてもよい。
なお、上述のような固液分離が可能である限り、本工程に用いる装置としては、沈殿分離装置に限定されない。例えば、ろ過装置や遠心分離装置などを用いて固液分離を行ってもよいし、これらを適宜組み合わせて用いてもよい。
【0017】
水酸化物としては、Cr(VI)の吸着に用いることができれば特に限定されないが、特に、水酸化セリウム(III):Ce(OH)であるのが好ましい。セリウムは、エッチング廃液900中にも含まれている元素であり、さらには、セリウム回収機構300によって回収される元素でもある。そのため、水酸化セリウム(III)を用いることにより、エッチング廃液900中に新たな原素を混ぜることなく(すなわち、不純物の増加を防止しつつ)、さらには、資源の再利用を図ることができる。
【0018】
水酸化物の添加量としては、特に限定されないが、例えば、クロム(VI)100gに対して70〜80重量%程度であるのが好ましい。この数値範囲とすることにより、クロム(VI)を水酸化物に充分に吸着させることができるとともに、水酸化セリウム(III)が余剰となるのを防止することができる。そのため、少ない資源でエッチング廃液900からのクロム(VI)の分離を十分に行うことができる。
【0019】
次に、第1沈殿分離器210によってクロム(VI)が除去されたエッチング廃液900を第1蒸留装置220に供給し、減圧蒸留(真空蒸留)する。これにより、第1蒸留装置220から硝酸水溶液が留出する。なお、蒸留温度としては特に限定されないが、例えば、60°〜80°程度であるのが好ましい。これにより、過度な熱エネルギーを与えることなく、より短時間で蒸留を行うことができる。
【0020】
次に、第1蒸留装置220から留出した硝酸水溶液を第2蒸留装置230に供給する。さらに、第2蒸留装置230中の硝酸水溶液に、硝酸金属塩、硫酸金属塩、イオン液体のうちの少なくとも1つの塩を溶解させ、減圧蒸留を行う。これにより、第2蒸留装置230から、蒸留前に比べて濃縮された硝酸水溶液が留出する。これは塩効果によるものであり、塩が硝酸水溶液に溶解することによって水と硝酸の相対揮発度が変化し、水が揮発し難くなるため、その分濃縮された硝酸水溶液が留出する。
【0021】
なお、硝酸金属塩としては、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マンガン、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸銅、硝酸亜鉛が好ましく、これらの中から1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、特に、硝酸リチウムを用いるのが好ましい。この硝酸リチウムは、他の硝酸金属塩に比べて、硝酸水溶液に高濃度に溶解するため、より濃縮された硝酸水溶液を蒸留液として得ることができる。
【0022】
ただし、リチウムは、他の金属(ナトリウム、カリウム、マンガン等)と比較して高価である。そのため、処理コストを抑えるために、硝酸リチウムを単塩として用いるのではなくて、他の硝酸金属塩と共に複合塩として用いるのがより好ましい。硝酸リチウムと共に用いる硝酸塩としては、特に限定されないが、コスト面、硝酸水溶液の濃縮効果(塩効果)などの観点からすると硝酸マグネシウムを用いるのが好ましい。この場合、硝酸リチウム:硝酸マグネシウム(重量比)は、3:7〜4:6程度であるのが好ましい。このような硝酸リチウム/硝酸マグネシウム複合塩を用いることにより、硝酸リチウムを単塩として用いた場合と比較して、処理コストを低く抑えることができ、さらには、ほぼ同等の濃縮効果を発揮することができる。
【0023】
硝酸水溶液中の硝酸金属塩の濃度としては、特に限定されないが、20〜70重量%程度であるのが好ましく、30〜60重量%であるのがより好ましい。このような濃度範囲とすることにより、より濃縮された硝酸水溶液を得ることができるとともに、缶出液中での硝酸金属塩の過度な析出を防止することができる。
また、硫酸金属塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムが好ましく、これらの中から1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これら各硫酸金属塩は、他の硫酸金属塩と比較して、硝酸水溶液に高濃度に溶解させることができるため、より濃縮された硝酸水溶液を蒸留液として得ることができる。
【0024】
硝酸水溶液中の硫酸金属塩の濃度としては、特に限定されないが、30〜60重量%程度であるのが好ましく、50〜60重量%であるのがより好ましい。このような濃度範囲とすることにより、より濃縮された硝酸水溶液を得ることができるとともに、缶出液中での硝酸金属塩の過度な析出を抑制することができる。
また、イオン液体としては、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアセテート([BMIM]AcO)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリジシアナミド([BMIM]Dca)、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート([BMIM]SCN)などのイミダゾリウム系のものが好ましく、これらの中から1種を用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。このようなイミダゾリウム系のイオン液体は、常温で固体状となるため、常温で液体状のものと比較してその取扱いが簡単となる。
【0025】
硝酸水溶液中のイオン液体の濃度としては、特に限定されないが、5〜50重量%程度であるのが好ましく、5〜20重量%であるのがより好ましい。このような濃度範囲とすることにより、より濃縮された硝酸水溶液を得ることができる。これに対して、濃度が前記下限値未満であると、硝酸水溶液の濃縮が十分に行われず、例えば、留出した硝酸水溶液を再度、蒸留によって濃縮する必要が生じる場合がある。また、濃度が上記上限値を超えても、イオン液体が余剰となるだけで、それ以上の濃縮効果の向上が期待できない傾向にある。
【0026】
ここで、イオン液体の好ましい濃度は、硝酸金属塩(硫酸金属塩)の好ましい濃度と比較して低いのが分かる。そのため、同じ濃度に濃縮された硝酸水溶液を得る場合には、硝酸金属塩(硫酸金属塩)の使用量よりも、イオン液体の使用量の方が少なく済む。言い換えれば、イオン液体と硝酸金属塩(硫酸金属塩)が同じ濃度の場合には、イオン液体を用いた場合の方が、硝酸金属塩(硫酸金属塩)を用いた場合と比較してより濃縮された硝酸水溶液を得ることができる。したがって、イオン液体を用いることにより、省資源化を図りつつ、効率的に硝酸水溶液の濃縮を行うことができる。
【0027】
本工程の蒸留温度としては、特に限定されないが、例えば、常圧の場合には100〜120℃程度であるのが好ましく、減圧下の場合には、60〜80℃程度であるのが好ましい。このような温度範囲内で蒸留することにより、過度な熱エネルギーを与えることなく、より短時間で蒸留を行うことができる。すなわち、効率的に、濃縮された硝酸水溶液を得ることができる。
【0028】
このようにして、十分に濃縮された硝酸水溶液(HNO、HO)を高収率で回収することができる。具体的には、硝酸:53.5重量%、硝酸セリウムアンモニウム:7.02重量%、クロム:4.63mg/dmのエッチング廃液900を100g用いて実験を行った結果、濃度が40〜60%程度の硝酸を60〜70%程度の回収率で回収することができた。また、回収した硝酸水溶液には、セリウムおよびクロムが含有されていなかった。
【0029】
なお、硝酸回収機構200は、第2蒸留装置230から回収した硝酸水溶液をさらに濃縮する装置を有していてもよい。このような装置としては、例えば、第2蒸留装置230と同じ工程を行う蒸留装置が挙げられる。また、40〜60℃程度の第2蒸留装置230よりも低い蒸留温度で蒸留し、希硝酸を留出させることによって濃縮された硝酸水溶液を缶出液として得る蒸留装置が挙げられる。
なお、第2蒸留装置230内に残存する塩は、乾燥後、第2蒸留装置230に供給する塩として再利用可能である。
【0030】
−セリウム回収機構−
セリウム回収機構300は、第1蒸留装置220に接続されている。セリウム回収機構300は、第1蒸留装置220の缶出固体から水酸化セリウム(III):Ce(OH)を晶析(析出)させる第1晶析装置310と、第1晶析装置310で得られた水酸化セリウム(III)を酸化して水酸化セリウム(IV):Ce(OH)とする酸化反応器320と、酸化反応器320で得られた水酸化セリウム(IV)を硝酸に高温状態で溶解させた後、硝酸アンモニウム:NHNOを添加して硝酸セリウムアンモニウム:(NH[Ce(NO]を晶析(析出)させる第2晶析装置330とを有している。
【0031】
まず、第1蒸留装置220から回収した缶出固体(セリウム(III)を含む固体)を第1晶析装置310に供給するとともに、缶出固体に20〜40重量%程度のアンモニア水(NHaq)を必要量加える。これにより、水酸化セリウム(III)が晶析し、水酸化セリウム(III)を含有するアンモニア溶液が得られる。なお、水酸化セリウム(III)を析出させることができれば、アンモニア水以外のアルカリ性溶液を用いてもよい。
【0032】
次に、第1晶析装置310で得られたアンモニア溶液を酸化反応器320に供給するとともに、アンモニア溶液に30〜40重量%程度の過酸化水素水(H)を必要量加える。すると、過酸化水素によって、セリウム(III)がセリウム(IV)に酸化され、水酸化セリウム(IV):Ce(OH)が沈殿する。沈殿後、この水酸化セリウム(IV)を回収する。なお、過酸化水素の添加に換えて、UV照射を行ってもよい。UV照射によってもセリウム(III)をセリウム(IV)に酸化することができる。
【0033】
本工程の上澄み液には、アンモニア水(NHaq)と硝酸アンモニウム(NHNO)とが含まれている。そのため、上澄み液から回収したアンモニア水を第1晶析装置310で用いるアンモニア水として再利用してもよい。また、上澄み液から回収した硝酸アンモニウムを後述する第2晶析装置330で用いる硝酸アンモニウムとして利用してもよい。これにより、資源を有効活用することができる。
【0034】
次に、酸化反応器320から回収した水酸化セリウム(IV)を硝酸水溶液に高温状態で溶解させた後、第2晶析装置330に供給する。また、これとともに、硝酸水溶液に硝酸アンモニウム(NHNO)を必要量添加する。そして、この溶液を冷却すると、硝酸セリウムアンモニウム:(NH[Ce(NO]が晶析し、沈殿する。沈殿後、この硝酸セリウムアンモニウムを回収する。これにより、セリウム(Ce)が高い収率で回収される。具体的には、硝酸:53.5重量%、硝酸セリウムアンモニウム:7.02重量%、クロム:4.63mg/dmのエッチング廃液900を100g用いて実験を行った結果、セリウムを80〜98%程度の回収率で回収することができた。
【0035】
特に、セリウム回収機構300によれば、セリウム(III)が硝酸セリウムアンモニウムとして回収されるため、簡単に(例えば、硝酸回収機構200で回収された硝酸水溶液と混ぜ合わせることにより)、クロムエッチング液として再利用することができる。なお、水酸化セリウム(IV)に加える硝酸水溶液として、硝酸回収機構200で回収した硝酸水溶液を用いてもよい。
【0036】
−クロム回収機構−
クロム回収機構400は、第1沈殿分離器210に接続されている。クロム回収機構400は、第1沈殿分離器210から回収された水酸化セリウム(III)からCr(VI)を脱着する第2沈殿分離器410と、第2沈殿分離器410で脱着されたCr(VI)を蒸留する第3蒸留装置420とを有している。
【0037】
まず、第1沈殿分離器210で沈殿物として回収されたCr(VI)が吸着した水酸化セリウム(III)を第2沈殿分離器410に供給するとともに、水酸化セリウム(III)に20〜40重量%程度のアンモニア水(NHaq)を加える。すると、Cr(VI)が水酸化セリウム(III)から脱着してアンモニア水中に分散し、水酸化セリウム(III)が沈殿する。沈殿後、Cr(VI)を含有するアンモニア水を上澄み液として回収する。なお、沈殿物である水酸化セリウム(III)は、第1沈殿分離器210に加える水酸化セリウム(III)として再利用することができる。
【0038】
次に、第2沈殿分離器410から回収された上澄み液を第3蒸留装置420に供給し、減圧蒸留する。これにより、アンモニア水(NHaq)が留出し、缶出液として高純度の(NHCrOが回収される。以上によって、安定な状態でクロム(Cr)を高収率で回収することができる。具体的には、硝酸:53.5重量%、硝酸セリウムアンモニウム:7.02重量%、クロム:4.63mg/dmのエッチング廃液900を100g用いて実験を行った結果、クロムを95〜100%程度の回収率で回収することができた。なお、留出したアンモニア水は、第2沈殿分離器410に加えられるアンモニア水として再利用することができる。
【0039】
以上、処理装置100およびこの装置を用いた処理方法を説明した。このような装置および方法によれば、エッチング廃液900から、硝酸、セリウム、クロムを別々に高い収率で回収することができるため、資源の再利用を効果的に図ることができる。
以上、本発明の処理方法および処理装置について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明の処理方法および処理装置は、これに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。
【符号の説明】
【0040】
100…処理装置 200…硝酸回収機構 210…第1沈殿分離器 220…第1蒸留装置 230…第2蒸留装置 300…セリウム回収機構 310…第1晶析装置 320…酸化反応器 330…第2晶析装置 400…クロム回収機構 410…第2沈殿分離器 420…第3蒸留装置 900…エッチング廃液
図1