特許第6036087号(P6036087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036087
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20161121BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20161121BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20161121BHJP
【FI】
   B25J19/06
   G05B19/18 X
   H02M7/48 M
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-209989(P2012-209989)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-65086(P2014-65086A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 広志
【審査官】 木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−189430(JP,A)
【文献】 特開2006−238560(JP,A)
【文献】 特開2007−267512(JP,A)
【文献】 特開2002−165499(JP,A)
【文献】 特開2008−206256(JP,A)
【文献】 特開平10−014267(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0288067(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0069570(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
G05B 19/18
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ及び前記モータにより駆動される被駆動部を有するロボットと、
第1スイッチング素子と第4スイッチング素子との直列接続体と、第2スイッチング素子と第5スイッチング素子との直列接続体と、第3スイッチング素子と第6スイッチング素子との直列接続体と、が並列接続されたブリッジ回路を有し、前記第1,第2,第3スイッチング素子が電源の高電位側に接続され、前記第4,第5,第6スイッチング素子が前記電源の低電位側に接続され、各直列接続体における2つの前記スイッチング素子の間が前記モータのU相,V相,W相にそれぞれ接続された3相インバータと、
前記スイッチング素子の開閉状態を切り替えることにより、前記モータの各相に印加する電圧を制御する制御部であって、前記U相,V相,W相のうち1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間を超えて継続したことを条件として、前記被駆動部の位置を維持しつつ、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替える前記制御部と、
を備え
前記制御部は、前記被駆動部の位置を維持しつつ、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替える態様として、前記第1,第3,第5スイッチング素子を閉じた状態と、前記第2,第3,第4スイッチング素子を閉じた状態と、前記第1,第2,第6スイッチング素子を閉じた状態と、を順に切り替えることを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記被駆動部の動作が追従できない速さで、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替えることにより、前記被駆動部の位置を維持させる請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記スイッチング素子の少なくとも1つに流れる電流が定格電流よりも大きいことを更に条件として、前記被駆動部の位置を維持しつつ、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替える請求項1又は2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記制御部は、前記U相,V相,W相の1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間よりも長く継続した場合に、前記被駆動部が障害物に衝突して動作が強制的に停止させられた状態であると判定する請求項1〜のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記U相,V相,W相の1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間よりも長く継続した場合に、前記被駆動部が所定重量よりも重いワークを保持して静止している状態であると判定する請求項1〜のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3相インバータによりロボットのモータへ電圧を印加するロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットのアーム(被駆動部)と物体との衝突を検知した場合に、モータへの電流を停止させるとともに、ブレーキによりモータを停止させるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012―110971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のものにおいて、ロボットのアームが物体に衝突しても衝突が検知されなかった場合は、アームの動作が強制的に停止させられた状態でモータに電流が流れ続けることとなる。一般に、ロボットのアームを駆動するモータは、6個のスイッチング素子を3相ブリッジ接続し、各スイッチング素子と並列にフラホイールダイオードを接続した3相インバータから電力が供給される。上記の場合、3相インバータにおいて、特定の相のみにより電流を流す状態で平衡することがある。その結果、インバータにおいて印加電圧を制御する素子のうち、一部の素子に過大な電流が流れ続け、素子が損傷するおそれがある。
【0005】
また、アームが所定重量よりも重いワークを保持して静止している状態においても、同様にインバータの特定の相のみにより電流を流す状態で平衡し、インバータの一部の素子に過大な電流が流れ続けるおそれがある。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ロボットの被駆動部に過大な負荷の掛かった状態が継続したとしても、インバータの素子が損傷することを抑制することのできるロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0008】
第1の手段は、ロボットシステムであって、モータ及び前記モータにより駆動される被駆動部を有するロボットと、第1スイッチング素子と第4スイッチング素子との直列接続体と、第2スイッチング素子と第5スイッチング素子との直列接続体と、第3スイッチング素子と第6スイッチング素子との直列接続体と、が並列接続されたブリッジ回路を有し、前記第1,第2,第3スイッチング素子が電源の高電位側に接続され、前記第4,第5,第6スイッチング素子が前記電源の低電位側に接続され、各直列接続体における2つの前記スイッチング素子の間が前記モータのU相,V相,W相にそれぞれ接続された3相インバータと、前記スイッチング素子の開閉状態を切り替えることにより、前記モータの各相に印加する電圧を制御する制御部であって、前記U相,V相,W相のうち1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間を超えて継続したことを条件として、前記被駆動部の位置を維持しつつ、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替える前記制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上述したように、ロボットの被駆動部が障害物に衝突して強制的に停止させられたり、被駆動部が所定重量よりも重いワークを保持して静止したりすると、インバータにおいて特定の相のみにより電流を流す状態で平衡することがある。
【0010】
この点、上記構成によれば、モータのU相,V相,W相のうち1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間を超えて継続した場合に、被駆動部の位置が維持されつつ、閉状態にするスイッチング素子が順に切り替えられる。したがって、停止させられている被駆動部の位置を維持しつつも、通電で発熱する素子を順に切り替えて、各素子に熱負荷を分散させることができる。その結果、被駆動部に過大な負荷の掛かった状態が継続したとしても、インバータの素子が損傷することを抑制することができる。
【0011】
第2の手段では、前記制御部は、前記被駆動部の動作が追従できない速さで、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替えることにより、前記被駆動部の位置を維持させる。
【0012】
上記構成によれば、被駆動部の動作が追従できない速さで、すなわち所定速度よりも速い高速で、閉状態にするスイッチング素子が順に切り替えられることにより、被駆動部の位置が維持される。一般に、ロボットのアーム(被駆動部)ではモータの回転が減速機により減速されており、例えばモータが3回転(1080°回転)した場合に、アームは1°回転する程度となる。このため、3回転以内でモータを交互に正転及び反転させたとしても、アームは見た目上ほとんど動かない。したがって、高速でスイッチング素子を切り替えることにより、被駆動部の動作がスイッチング素子の切り替えに追従できないようにすることができ、被駆動部の位置を維持させることができる。その結果、通電された素子の温度が連続して上昇する時間を短くすることができ、各素子の最高温度を抑制して、各素子の熱負荷を軽減することができる。
【0013】
第3の手段では、前記制御部は、前記スイッチング素子の少なくとも1つに流れる電流が定格電流よりも大きいことを更に条件として、前記被駆動部の位置を維持しつつ、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替える。
【0014】
上記構成によれば、被駆動部の位置を維持しつつ、閉状態にするスイッチング素子を順に切り替える制御を行うにあたって、スイッチング素子の少なくとも1つに流れる電流が定格電流よりも大きいことが更に条件とされる。このため、スイッチング素子に流れる電流が定格電量以下である場合には、不必要に上記制御が行われることを抑制することができる。
【0015】
第4の手段では、前記制御部は、前記被駆動部の位置を維持しつつ、閉状態にする前記スイッチング素子を順に切り替える態様として、前記第1,第3,第5スイッチング素子を閉じた状態と、前記第2,第3,第4スイッチング素子を閉じた状態と、前記第1,第2,第6スイッチング素子を閉じた状態と、を順に切り替える。
【0016】
上記構成によれば、第1〜第6スイッチング素子は、遅くとも2回閉状態に切り替えられた後には開状態に切り替えられるため、特定の素子に熱負荷が集中することを抑制することができる。さらに、2つの相からの電流が流れる第5,第4,第6スイッチング素子では、閉状態にされた後に2回の開状態を挟んで閉状態に切り替えられるため、熱負荷の大きい素子の温度上昇を抑制することができる。
【0017】
具体的には、第5の手段のように、前記制御部は、前記U相,V相,W相の1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間よりも長く継続した場合に、前記被駆動部が障害物に衝突して動作が強制的に停止させられた状態であると判定するといった構成を採用することができる。
【0018】
また、具体的には、第6の手段のように、前記制御部は、前記U相,V相,W相の1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間よりも長く継続した場合に、前記被駆動部が所定重量よりも重いワークを保持して静止している状態であると判定するといった構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ロボットシステムを示すブロック図。
図2】電流ロック状態を示すタイムチャート。
図3】電流ロック状態におけるスイッチング素子の温度を示すグラフ。
図4】熱分散制御の処理手順を示すフローチャート。
図5】閉状態のスイッチング素子を順に切り替える態様を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、多関節ロボットの動作を制御するロボットシステムとして具体化している。
【0021】
図1は、ロボットシステム10を示すブロック図である。ロボットシステム10は、ロボット11、電源ユニット20、インバータ回路30、制御部60等を備えている。ロボット11は、複数の関節を有するアーム50を備えている。なお、電源ユニット20、インバータ回路30、及び制御部60は、ロボットコントローラを構成する。
【0022】
電源ユニット20(電圧調節部)は、3相200Vの商用交流電源14(電源)に接続されている。電源ユニット20は、整流回路、コイル、コンデンサ21、スイッチング素子22,23等を備えている。コンデンサ21は、電源ライン15a,15bに並列に接続されている。スイッチング素子22,23は、電界効果トランジスタ(FET)等で形成されている。スイッチング素子22は電源ライン15a,15bに直列に接続されており、スイッチング素子23は電源ライン15a,15bに並列に接続されている。そして、電源ユニット20は、スイッチング素子22をONにした状態で、スイッチング素子23をPWM制御(デューティ制御)することにより、電源14から電源ライン15a,15bへ供給される電源電圧Vbの高さを調節する。
【0023】
抵抗25(回生抵抗)及びスイッチング素子26(スイッチ部)を直列に接続した直列接続体が、電源ライン15a,15bに並列に接続されている。スイッチング素子26は、電界効果トランジスタ等で形成されている。また、電源ライン15a,15bには、電圧センサ27が並列に接続されている。電圧センサ27(電圧検出部)は、電源ライン15a,15b間の電源電圧Vbを検出する。
【0024】
電源ライン15a,15bには、複数のインバータ回路30(1つのみ図示)が並列に接続されている。複数のインバータ回路30(3相インバータ)には、アーム50(被駆動部)における複数の回転部51をそれぞれ駆動する複数のモータ52が、それぞれ接続されている。各モータ52には、モータ52の回転を減速させる減速機が設けられており、例えばモータ52が3回転(1080°回転)した場合に、回転部51は1°回転する。各モータ52には、回転位置を検出するエンコーダ53(位置検出部)が設けられている。
【0025】
各インバータ回路30は、6個のスイッチング素子SW1〜SW6を3相ブリッジ接続するとともに、各スイッチング素子と並列にフライホイールダイオード32を接続した周知のものである。スイッチング素子SW1〜SW6は、バイポーラ型パワートランジスタ等で形成されている。各インバータ回路30は、各モータ52へ供給される電流を検出する電流センサ35を備えている。
【0026】
詳しくは、インバータ回路30は、スイッチング素子SW1,SW4の直列接続体と、スイッチング素子SW2,SW5の直列接続体と、スイッチング素子SW3,SW6の直列接続体とが並列接続されたブリッジ回路である。そして、スイッチング素子SW1〜SW3は、電源14の正極側(高電位側)と接続され、スイッチング素子SW4〜SW6は、電源14の負極側(低電位側)及びGNDと接続されている。さらに、直列接続体におけるスイッチング素子SW1とスイッチング素子SW2との間がモータ52のU相に接続されている。同様に、直列接続体におけるスイッチング素子SW2とスイッチング素子SW5との間がモータ52のV相に接続されており、直列接続体におけるスイッチング素子SW3とスイッチング素子SW6との間がモータ52のW相に接続されている。
【0027】
そして、各インバータ回路30において、スイッチング素子SW1〜SW6がPWM制御されることにより、各インバータ回路30から各モータ52へ供給される電圧が制御される。各モータ52へ供給される電流が電流センサ35により検出される。なお、1つ直列接続体の2つのスイッチング素子、例えばスイッチング素子SW1,SW4が同時に閉状態にされると短絡状態となる。このため、1つの直列接続体の一方のスイッチング素子が閉状態にされた場合には、他方のスイッチング素子は開状態にされる。
【0028】
制御部60は、電源制御部61、軌道生成部62、位置・速度制御部63、電流制御部64、PWM回路65、及びドライブ回路66等を備えている。
【0029】
各モータ52に設けられたエンコーダ53の出力は、軌道生成部62、位置・速度制御部63、及び電流制御部64へそれぞれ入力される。軌道生成部62は、アーム50が行う動作、及び各エンコーダ53により検出された各モータ52の回転位置(各回転部51の回転位置)に基づいて、アーム50の動作軌道(目標位置)及び各モータ52の目標回転位置(各回転部51の目標回転位置)を算出する。位置・速度制御部63は、軌道生成部62により算出された各モータ52の目標回転位置、及び検出された各モータ52の回転位置に基づいて、各モータ52の目標回転速度(各回転部51の目標回転速度)、及び各モータ52の目標トルクを算出する。電流制御部64は、位置・速度制御部63により算出された各モータ52の目標トルク、各電流センサ35により検出された電流、並びに検出された各モータ52の回転位置に基づいて、インバータ回路30からモータ52へ供給する目標電流を算出する。PWM回路65は、電流制御部64により算出された目標電流に基づいて、各インバータ回路30の各スイッチング素子SW1〜SW6を制御するPWM信号を出力する。ドライブ回路66は、PWM回路から出力されたPWM信号に基づいて、各インバータ回路30の各スイッチング素子を開閉駆動する。これにより、各モータ52(アーム50)を目標回転位置(目標位置)まで動作させるように、各モータ52の駆動が制御される。
【0030】
ここで、ロボット11のアーム50が障害物に衝突した場合には、アーム50がそれ以上動作することができず、強制的に停止させられた状態となることがある。その場合、各モータ52の回転位置が変化しないため、各インバータ回路30の各スイッチング素子を開閉させる状態が変化しなくなる。このため、インバータ回路30において特定の相のみにより電流を流す状態で平衡し、電流を流す相が固定された電流ロック状態となる。また、各モータ52の目標回転位置と検出される各モータ52の回転位置との偏差が大きくなるため、位置・速度制御部63は、各モータ52の目標回転速度及び各モータ52の目標トルクを増大させる。このため、インバータ回路30からモータ52へ供給する目標電流が、電流制御部64により増大されることとなる。
【0031】
図2は、電流ロック状態を示すタイムチャートである。例えばモータ52のU相からW相へ電流を流す状態で平衡すると、スイッチング素子SW1,SW6が閉状態となり、スイッチング素子SW2〜SW5が開状態となる。その結果、同図に示すように、スイッチング素子SW1,SW6に印加される電圧が高電圧(例えば280V)となり、スイッチング素子SW1,SW6に流れる電流が大電流(例えば10A)となる。これに対して、スイッチング素子SW2〜SW5に印加される電圧が低電圧(例えば0V)となり、スイッチング素子SW2〜SW5に流れる電流が小電流(例えば0A)となる。したがって、スイッチング素子SW1,SW6の温度が過度に上昇する一方、スイッチング素子SW2〜SW5の温度は低下することとなる。なお、通常時のインバータ回路30の制御では、U相,V相,W相に流れる電流の和が0となるように、スイッチング素子SW1〜SW6が開閉駆動される。
【0032】
図3は、図2の電流ロック状態におけるスイッチング素子SW1,SW6の温度を示すグラフである。同図に破線で示すように、従来の制御において電流ロック状態になると、閉状態になっているスイッチング素子SW1,SW6の温度が、時間経過に伴って上昇して上限温度Thを超えるおそれがある。そこで、本実施形態では、電流ロック状態になった場合に、ロボット11のアーム50の位置を維持しつつ、開状態にするスイッチング素子を順に高速で切り替える熱分散制御を実行する。その結果、スイッチング素子SW1〜SW6に分散して熱が発生するようになり、同図に実線で示すように、スイッチング素子SW1〜SW6の温度を上限温度Thよりも低くすることができる。なお、アーム50の位置を維持するトルクを発生させることにより、アーム50が重力により下降することを防ぐことができる。
【0033】
図4は、熱分散制御の処理手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、上記制御部60により、所定の周期で繰り返し実行される。
【0034】
まず、U相,V相,W相に流れる電流をそれぞれ検出する(S10)。具体的には、電流センサ35の検出値に基づいて、U相,V相,W相に流れる電流をそれぞれ検出する。
【0035】
続いて、U相に流れる電流の大きさとW相に流れる電流の大きさとが等しいか否か判定する(S11)。この判定において、U相に流れる電流の大きさとW相に流れる電流の大きさとが等しいと判定した場合には(S11:YES)、V相に流れる電流が0であるか否か判定する(S12)。この判定において、V相に流れる電流が0であると判定した場合には(S12:YES)、U相(=W相)に流れる電流の大きさが定格電流(所定電流)よりも大きいか否か判定する(S13)。この判定において、U相に流れる電流の大きさが定格電流よりも大きいと判定した場合には、S11〜S13がいずれも肯定された状態(S11〜S13:YES)が、所定期間を超えて継続しているか否か判定する(S14)。この所定期間は、スイッチング素子SW1〜SW6に定格電流を超える大きさの電流の流れる状態が継続することで、スイッチング素子SW1〜SW6が損傷するおそれがあることを判定することのできる期間に設定されている。
【0036】
そして、S11〜S14がいずれも肯定された場合には(S11〜S14:YES)、ロボット11のアーム50が障害物に衝突していると判定する(S15)。続いて、閉状態にするスイッチング素子を順に高速で切り替える処理を実行する(S16)。
【0037】
具体的には、図5に示すように、(a)〜(c)の状態を、アーム50の動作が追従できない速さで順に切り替える。(a)は、スイッチング素子SW2,SW4,SW6が発熱しない状態、すなわちスイッチング素子SW1,SW3,SW5を閉にした状態である。この状態では、破線で示すようにU相からV相へ電流が流れるとともに、一点鎖線で示すようにW相からV相へ電流が流れる。(b)は、スイッチングSW1,SW5,SW6が発熱しない状態、すなわちスイッチング素子SW2,SW3,SW4を閉にした状態である。この状態では、破線で示すようにV相からU相へ電流が流れるとともに、一点鎖線で示すようにW相からU相へ電流が流れる。(c)は、スイッチング素子SW3,SW4,SW5が発熱しない状態、すなわちスイッチング素子SW1,SW2,SW6を閉にした状態である。この状態では、破線で示すようにV相からW相へ電流が流れるとともに、一点鎖線で示すようにU相からW相へ電流が流れる。そして、(a),(b),(c)へ順に切り替えた後は、再び(a)へ切り替える。
【0038】
図4に戻り、S11〜S14のいずれかで否定された場合には(S11〜S14のいずれかでNO)、U相,V相,W相の異なる組合せについて、S11〜S14に準じた処理を実行する(S21〜S24)。すなわち、U相,V相,W相のうち、2つの相の電流の大きさが互いに等しく、残りの1つの相の電流が0であり、電流の大きさが定格電流を超えている状態が、所定期間を超えて継続したか否か判定する。そして、S21〜S24がいずれも肯定された場合には(S21〜S24:YES)、ロボット11のアーム50が障害物に衝突していると判定する(S15)。続いて、開状態にするスイッチング素子を順に高速で切り替える処理を実行する(S16)。
【0039】
また、S21〜S24のいずれかで否定された場合には(S21〜S24のいずれかでNO)、U相,V相,W相の更に異なる組合せについて、S11〜S14に準じた処理を実行する(S31〜S34)。そして、S31〜S34がいずれも肯定された場合には(S31〜S34):YES、ロボット11のアーム50が障害物に衝突していると判定する(S15)。続いて、開状態にするスイッチング素子を順に高速で切り替える処理を実行する(S16)。
【0040】
そして、S15においてロボット11のアーム50が障害物に衝突していると判定している間は、S16の処理を継続して実行する。また、S31〜S34のいずれかで否定された場合には(S31〜S34のいずれかでNO)、S16の処理を停止し、この一連の処理を一旦終了する(END)。
【0041】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0042】
・モータ52のU相,V相,W相のうち1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間を超えて継続した場合に、ロボット11のアーム50の位置が維持されつつ、閉状態にするスイッチング素子が順に切り替えられる。したがって、停止させられているアーム50の位置を維持しつつも、通電で発熱する素子を順に切り替えて、各スイッチング素子に熱負荷を分散させることができる。その結果、アーム50に過大な負荷の掛かった状態が継続したとしても、インバータ回路30のスイッチング素子SW1〜SW6が損傷することを抑制することができる。
【0043】
・アーム50の動作が追従できない速さで、すなわち所定速度よりも速い高速で、閉状態にするスイッチング素子が順に切り替えられることにより、アーム50の位置が維持される。アーム50ではモータ52の回転が減速機により減速されており、モータ52が3回転(1080°回転)した場合に、アーム50の回転部51は1°回転する。このため、3回転以内でモータ52を交互に正転及び反転させたとしても、回転部51は見た目上ほとんど動かない。したがって、高速でスイッチング素子を切り替えることにより、回転部51の動作がスイッチング素子の切り替えに追従できないようにすることができ、回転部51の位置を維持させることができる。その結果、通電されたスイッチング素子の温度が連続して上昇する時間を短くすることができ、各スイッチング素子の最高温度を抑制して、各スイッチング素子の熱負荷を軽減することができる。
【0044】
また、スイッチング素子SW1〜SW6を切り替えた場合、アーム50の回転部51が静止状態から動作を開始しようとしても、減速機のギア等でロストモーションや摩擦が生じる。このため、電気部分がもつ時定数(反応時間)と機械部分がもつ時定数(反応時間)とは、時間オーダで1000倍ほど異なる。例えば、数μs〜nsオーダで反応する電気部分の時定数に対して、機械部分の時定数は数msオーダである。この点からも、アーム50の動作が追従できない速さで、閉状態にするスイッチング素子を容易に切り替えることができる。
【0045】
・アーム50の位置を維持しつつ、閉状態にするスイッチング素子を順に切り替える制御を行うにあたって、スイッチング素子SW1〜SW6の少なくとも1つに流れる電流が定格電流よりも大きいことが更に条件とされる。このため、スイッチング素子SW1〜SW6に流れる電流が定格電量以下である場合には、不必要に熱分散制御が行われることを抑制することができる。
【0046】
図5(a)〜(c)に示すように、スイッチング素子SW1〜SW6は、遅くとも2回閉状態に切り替えられた後には開状態に切り替えられるため、特定のスイッチング素子に熱負荷が集中することを抑制することができる。さらに、2つの相からの電流が流れるスイッチング素子SW5,SW4,SW6では、閉状態にされた後に2回の開状態を挟んで閉状態に切り替えられるため、熱負荷の大きいスイッチング素子SW5,SW4,SW6の温度上昇を抑制することができる。
【0047】
・U相,V相,W相の1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間よりも長く継続した場合に、アーム50が障害物に衝突して動作が強制的に停止させられた状態であると判定することができる。
【0048】
なお、上記の実施形態を、以下のように変形して実施することもできる。
【0049】
・制御部60は、U相,V相,W相の1つの相に流れる電流が0であり、且つ残りの2つの相に流れる電流が等しい状態が所定期間よりも長く継続した場合に、アーム50が所定重量よりも重いワークを保持して静止している状態であると判定することもできる。このような場合も、電流ロック状態となることがあるので熱分散制御を実行するとよい。
【0050】
図4のフローチャートにおいて、S13,S23,S33の処理を省略し、S14,S24,S34における所定期間を、それぞれU相,U相,V相の電流の大きさに応じて可変としてもよい。詳しくは、各相の電流の大きさが大きいほど、所定期間を短くするとよい。この場合は、各相に流れる電流の大きさに応じて、各スイッチング素子が損傷するおそれがあることを適切に判定することができる。
【0051】
・上記実施形態では、アーム50の位置を維持する態様として、図5(a)〜(c)の状態を、アーム50の動作が追従できない速さで順に切り替えたが、アーム50が微小な振動をする速さで切り替えてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、図5(a)〜(c)の状態を順に切り替えたが、スイッチング素子SW1,SW6を閉じた状態と、図5(a)の状態と、図5(b)の状態と、を順に切り替えてもよい。この場合は、スイッチング素子SW1,SW6の閉じた状態から、図5(a)のスイッチング素子SW6が開いた状態に切り替えられ、次に図5(b)のスイッチング素子SW1が開いた状態に切り替えられる。したがって、スイッチング素子SW1,SW6が閉じた状態で電流ロック状態になった場合に、スイッチング素子SW1,SW6を順に開いた状態にすることができる。また、スイッチング素子SW1〜SW6を、更に他の組み合わせで順に閉状態(開状態)に切り替えることもできる。
【符号の説明】
【0053】
10…ロボットシステム、11…ロボット、14…電源、30…インバータ回路(3相インバータ)、50…アーム(被駆動部)、52…モータ、60…制御部、SW1…スイッチング素子(第1スイッチング素子)、SW2…スイッチング素子(第2スイッチング素子)、SW3…スイッチング素子(第3スイッチング素子)、SW4…スイッチング素子(第4スイッチング素子)、SW5…スイッチング素子(第5スイッチング素子)、SW6…スイッチング素子(第6スイッチング素子)。
図1
図2
図3
図4
図5