(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
<レーザー加工装置>
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザー加工装置100の構成を概略的に示す模式図である。レーザー加工装置100は、装置内における種々の動作(観察動作、アライメント動作、加工動作など)の制御を行うコントローラ1と、被加工物10をその上に載置するステージ4と、レーザー光源SLから出射されたレーザー光LBを被加工物10に照射する照射光学系5とを主として備える。
【0018】
ステージ4は、石英などの光学的に透明な部材から主として構成される。ステージ4は、その上面に載置された被加工物10を、例えば吸引ポンプなどの吸引手段11により吸引固定できるようになっている。また、ステージ4は、移動機構4mによって水平方向に移動可能とされてなる。なお、
図1においては、被加工物10に粘着性を有する保持シート10aを貼り付けたうえで、該保持シート10aの側を被載置面として被加工物10をステージ4に載置しているが、保持シート10aを用いる態様は必須のものではない。
【0019】
移動機構4mは、図示しない駆動手段の作用により水平面内で所定のXY2軸方向にステージ4を移動させる。これにより、観察位置の移動やレーザー光照射位置の移動が実現されてなる。なお、移動機構4mについては、所定の回転軸を中心とした、水平面内における回転(θ回転)動作も、水平駆動と独立に行えることが、アライメントなどを行う上ではより好ましい。
【0020】
照射光学系5は、少なくとも、レーザー光源SLと、落射ミラー51と、集光レンズ52とを備える。なお、本実施の形態においては、
図1に示すように、落射ミラー51がハーフミラーである場合を例示しているが、これは必須の態様ではない。
【0021】
レーザー加工装置100においては、概略、レーザー光源SLから発せられたレーザー光LBを、落射ミラー51にて反射させて水平方向から鉛直下方へとその進行方向を変化させたうえで、該レーザー光LBを、集光レンズ52にてステージ4に載置された被加工物10の被加工部位に合焦するように集光させて、被加工物10に照射するようになっている。そして、係る態様にてレーザー光LBを鉛直下方に向けて照射しつつ、ステージ4を移動させることによって、被加工物10に対し所定の加工予定線に沿った加工を行えるようになっている。すなわち、レーザー加工装置100は、被加工物10に対しレーザー光LBを相対的に走査することによって、加工を行う装置である。
【0022】
ただし、本実施の形態に係るレーザー加工装置100においては、落射ミラー51に入射する際のレーザー光LBの入射経路を含む鉛直平面内において落射ミラー51を所定の角度範囲内で回転させることによって、落射ミラー51の姿勢(より厳密には落射ミラー51に備わるレーザー光LBの反射面の姿勢)を調整することにより、落射ミラー51からステージ4に向かうレーザー光LBの光軸の向きを、意図的に鉛直方向からずらすことが出来るようにできるようになっている。これは、落射ミラー51に当接するように設けられた図示しない姿勢調整用ネジを手動またはコントローラ1による駆動制御によって適宜に進退させる態様その他、公知の手法によって実現される。このようにレーザー光LBの光軸をずらすことに関する詳細については後述する。
【0023】
レーザー光源SLとしては、Nd:YAGレーザーを用いるのが好適な態様である。レーザー光源SLとしては、波長が500nm〜1600nmのものを用いる。また、上述した加工パターンでの加工を実現するべく、レーザー光LBのパルス幅は1psec〜50psec程度である必要がある。また、繰り返し周波数Rは10kHz〜200kHz程度、レーザー光の照射エネルギー(パルスエネルギー)は0.1μJ〜50μJ程度であるのが好適である。
【0024】
なお、レーザー加工装置100においては、加工処理の際、必要に応じて、合焦位置を被加工物10の表面から意図的にずらしたデフォーカス状態で、レーザー光LBを照射することも可能となっている。本実施の形態においては、デフォーカス値(被加工物10の表面から内部に向かう方向への合焦位置のずらし量)を0μm以上30μm以下の範囲に設定するのが好ましい。
【0025】
また、レーザー加工装置100において、ステージ4の上方には、被加工物10を上方から観察・撮像するための上部観察光学系6と、被加工物10に対しステージ4の上方から照明光を照射する上部照明系7とが備わっている。また、ステージ4の下方には、被加工物10に対しステージ4の下方から照明光を照射する下部照明系8が備わっている。
【0026】
上部観察光学系6は、落射ミラー51の上方に設けられたCCDカメラ6aと該CCDカメラ6aに接続されたモニタ6bとを備える。また、上部照明系7は、上部照明光源S1と、ハーフミラー71とを備える。
【0027】
これら上部観察光学系6と上部照明系7とは、照射光学系5と同軸に構成されてなる。より詳細にいえば、照射光学系5の落射ミラー51と集光レンズ52が、上部観察光学系6および上部照明系7と共用されるようになっている。これにより、上部照明光源S1から発せられた上部照明光L1は、ハーフミラー71で反射され、さらに照射光学系5を構成するハーフミラーである落射ミラー51を透過した後、集光レンズ52で集光されて、被加工物10に照射されるようになっている。また、上部観察光学系6においては、上部照明光L1が照射された状態で、集光レンズ52、落射ミラー51およびハーフミラー71を透過した被加工物10の明視野像の観察を行うことが出来るようになっている。
【0028】
また、下部照明系8は、下部照明光源S2と、ハーフミラー81と、集光レンズ82とを備える。すなわち、レーザー加工装置100においては、下部照明光源S2から出射され、ハーフミラー81で反射されたうえで、集光レンズ82で集光された下部照明光L2を、ステージ4を介して被加工物10に対し照射出来るようになっている。例えば、下部照明系8を用いると、下部照明光L2を被加工物10に照射した状態で、上部観察光学系6においてその透過光の観察を行うことなどが可能である。
【0029】
さらには、
図1に示すように、レーザー加工装置100においては、被加工物10を下方から観察・撮像するための下部観察光学系16が、備わっていてもよい。下部観察光学系16は、ハーフミラー81の下方に設けられたCCDカメラ16aと該CCDカメラ16aに接続されたモニタ16bとを備える。係る下部観察光学系16においては、例えば、上部照明光L1が被加工物10に照射された状態でその透過光の観察を行うことが出来る。
【0030】
コントローラ1は、装置各部の動作を制御し、後述する態様での被加工物10の加工処理を実現させる制御部2と、レーザー加工装置100の動作を制御するプログラム3pや加工処理の際に参照される種々のデータを記憶する記憶部3とをさらに備える。
【0031】
制御部2は、例えばパーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどの汎用のコンピュータによって実現されるものであり、記憶部3に記憶されているプログラム3pが該コンピュータに読み込まれ実行されることにより、種々の構成要素が制御部2の機能的構成要素として実現される。
【0032】
記憶部3は、ROMやRAMおよびハードディスクなどの記憶媒体によって実現される。なお、記憶部3は、制御部2を実現するコンピュータの構成要素によって実現される態様であってもよいし、ハードディスクの場合など、該コンピュータとは別体に設けられる態様であってもよい。
【0033】
記憶部3には、プログラム3pの他、加工対象とされる被加工物10の個体情報(例えば、材質、結晶方位、形状(サイズ、厚み)など)の他、加工位置(もしくはストリート位置)を記述した被加工物データD1が記憶されるとともに、個々の加工モードにおけるレーザー加工の態様に応じた、レーザー光の個々のパラメータについての条件やステージ4の駆動条件(あるいはそれらの設定可能範囲)などが記述された加工モード設定データD2が記憶される。また、記憶部3には、被加工物データD1に記述された加工位置へのレーザー光LBの照射に際し、落射ミラー51から被加工物10へと向かうレーザー光LBの光軸を後述する理由から鉛直方向から所定角度だけずらす必要がある場合に参照される、光軸ずらしデータD3も、適宜に記憶される。
【0034】
制御部2は、移動機構4mによるステージ4の駆動や集光レンズ52の合焦動作、あるいはさらに、必要な場合には、落射ミラー51の姿勢制御動作など、加工処理に関係する種々の駆動部分の動作を制御する駆動制御部21と、上部観察光学系6や下部観察光学系16による被加工物10の観察・撮像を制御する撮像制御部22と、レーザー光源SLからのレーザー光LBの照射を制御する照射制御部23と、吸引手段11によるステージ4への被加工物10の吸着固定動作を制御する吸着制御部24と、与えられた被加工物データD1および加工モード設定データD2に従って加工対象位置への加工処理を実行させる加工処理部25と、加工処理に先立ってレーザー光LBの光軸調整に係る条件を設定する処理を担う光軸設定部26とを、主として備える。
【0035】
以上のような構成のコントローラ1を備えるレーザー加工装置100においては、オペレータから、被加工物データD1に記述された加工位置を対象とした所定の加工モードによる加工の実行指示が与えられると、加工処理部25が、被加工物データD1を取得するとともに選択された加工モードに対応する条件を加工モード設定データD2から取得し、当該条件に応じた動作が実行されるよう、駆動制御部21や照射制御部23その他を通じて対応する各部の動作を制御する。例えば、レーザー光源SLから発せられるレーザー光LBの波長や出力、パルスの繰り返し周波数、パルス幅の調整などは、照射制御部23により実現される。これにより、対象とされた加工位置において、指定された加工モードでの加工が実現される。
【0036】
ただし、本実施の形態に係るレーザー加工装置100においては、例えば被加工物10がパターン付き基板W(
図3および
図4参照)であり、係るパターン付き基板Wに対して次述する亀裂伸展加工を行う場合に、上述した態様によるレーザー加工に先立ち、必要に応じてレーザー光LBの光軸を鉛直下方からずらすことができるようになっている。係るレーザー光LBの光軸ずらしの詳細については後述する。
【0037】
また、好ましくは、レーザー加工装置100は、加工処理部25の作用によりコントローラ1においてオペレータに利用可能に提供される加工処理メニューに従って、種々の加工内容に対応する加工モードを選択できるように、構成される。係る場合において、加工処理メニューは、GUIにて提供されるのが好ましい。
【0038】
以上のような構成を有することで、レーザー加工装置100は、種々のレーザー加工を好適に行えるようになっている。
【0039】
<亀裂伸展加工の原理>
次に、レーザー加工装置100において実現可能な加工手法の1つである亀裂伸展加工について説明する。
図2は、亀裂伸展加工におけるレーザー光LBの照射態様を説明するための図である。より詳細には、
図2は、亀裂伸展加工の際のレーザー光LBの繰り返し周波数R(kHz)と、レーザー光LBの照射にあたって被加工物10を載置するステージの移動速度V(mm/sec)と、レーザー光LBのビームスポット中心間隔Δ(μm)との関係を示している。なお、以降の説明では、上述したレーザー加工装置100を使用することを前提に、レーザー光LBの出射源は固定され、被加工物10が載置されたステージ4を移動させることによって、被加工物10に対するレーザー光LBの相対的な走査が実現されるものとするが、被加工物10は静止させた状態で、レーザー光LBの出射源を移動させる態様であっても、亀裂伸展加工は同様に実現可能である。
【0040】
図2に示すように、レーザー光LBの繰り返し周波数がR(kHz)である場合、1/R(msec)ごとに1つのレーザーパルス(単位パルス光とも称する)がレーザー光源から発せられることになる。被加工物10が載置されたステージ4が速度V(mm/sec)で移動する場合、あるレーザーパルスが発せられてから次のレーザーパルスが発せられる間に、被加工物10はV×(1/R)=V/R(μm)だけ移動することになるので、あるレーザーパルスのビーム中心位置と次に発せられるレーザーパルスのビーム中心位置との間隔、つまりはビームスポット中心間隔Δ(μm)は、Δ=V/Rで定まる。
【0041】
このことから、レーザー光LBのビーム径(ビームウェスト径、スポットサイズとも称する)Dbとビームスポット中心間隔Δとが
Δ>Db ・・・・・(式1)
をみたす場合には、レーザー光の走査に際して個々のレーザーパルスは重ならないことになる。
【0042】
加えて、単位パルス光の照射時間つまりはパルス幅を極めて短く設定すると、それぞれの単位パルス光の被照射位置においては、レーザー光LBのスポットサイズより狭い、被照射位置の略中央領域に存在する物質が、照射されたレーザー光から運動エネルギーを得ることで被照射面に垂直な方向に飛散したり変質したりする一方、係る飛散に伴って生じる反力を初めとする単位パルス光の照射によって生じる衝撃や応力が、該被照射位置の周囲に作用するという現象が生じる。
【0043】
これらのことを利用して、レーザー光源から次々と発せられるレーザーパルス(単位パルス光)が、加工予定線に沿って順次にかつ離散的に照射されるようにすると、加工予定線に沿った、個々の単位パルス光の被照射位置において微小な加工痕が順次に形成されるとともに、個々の加工痕同士の間において亀裂が連続的に形成され、さらには、被加工物の厚み方向にも亀裂が伸展するようになる。このように、亀裂伸展加工によって形成された亀裂が、被加工物10を分割する際の分割の起点となる。なお、レーザー光LBが所定の(0ではない)デフォーカス値のもと、デフォーカス状態で照射される場合は、焦点位置の近傍において変質が生じ、係る変質が生じた領域が上述の加工痕となる。
【0044】
そして、例えば公知のブレイク装置を用い、亀裂伸展加工によって形成された亀裂をパターン付き基板Wの反対面にまで伸展させるブレイク工程を行うことで、被加工物10を分割することが可能となる。なお、亀裂の伸展によって被加工物10が厚み方向において完全に分断される場合、上述のブレイク工程は不要であるが、一部の亀裂が反対面にまで達したとしても亀裂伸展加工によって被加工物10は完全に二分されることはまれであるので、ブレイク工程を伴うのが一般的である。
【0045】
ブレイク工程は、例えば、被加工物10を、加工痕が形成された側の主面が下側になる姿勢とし、分割予定線の両側を2つの下側ブレイクバーにて支持した状態で、他方の主面であって分割予定線の直上のブレイク位置に向けて上側ブレイクバーを降下させるようにすることで行える。
【0046】
なお、加工痕のピッチに相当するビームスポット中心間隔Δがあまりに大きすぎると、ブレイク特性が悪くなって加工予定線に沿ったブレイクが実現されなくなる。亀裂伸展加工の際には、この点を考慮して加工条件を定める必要がある。
【0047】
以上の点を鑑みた、被加工物10に分割起点となる亀裂を形成するための亀裂伸展加工を行うにあたって好適な条件は、おおよそ以下の通りである。具体的な条件は、被加工物10の材質や厚みなどによって適宜に選択することでよい。
【0048】
パルス幅τ:1psec以上50psec以下;
ビーム径Db:約1μm〜10μm程度;
ステージ移動速度V:50mm/sec以上3000mm/sec以下;
パルスの繰り返し周波数R:10kHz以上200kHz以下;
パルスエネルギーE:0.1μJ〜50μJ。
【0049】
<パターン付き基板>
次に、被加工物10の一例としてのパターン付き基板Wについて説明する。
図3は、パターン付き基板Wの模式平面図および部分拡大図である。
【0050】
パターン付き基板Wとは、例えばサファイアなどの単結晶基板(ウェハ、母基板)W1(
図4参照)の一方主面上に、所定のデバイスパターンを積層形成してなるものである。デバイスパターンは、個片化された後にそれぞれが1つのデバイスチップをなす複数の単位パターンUPを2次元的に繰り返し配置した構成を有する。例えば、LED素子などの光学デバイスや電子デバイスとなる単位パターンUPが2次元的に繰り返される。
【0051】
また、パターン付き基板Wは平面視で略円形状をなしているが、外周の一部には直線状のオリフラ(オリエンテーションフラット)OFが備わっている。以降、パターン付き基板Wの面内においてオリフラOFの延在方向をX方向と称し、X方向に直交する方向をY方向と称することとする。
【0052】
単結晶基板W1としては、70μm〜200μmの厚みを有するものが用いられる。100μm厚のサファイア単結晶を用いるのが好適な一例である。また、デバイスパターンは通常、数μm程度の厚みを有するように形成される。また、デバイスパターンは凹凸を有していてもよい。
【0053】
例えば、LEDチップ製造用のパターン付き基板Wであれば、GaN(窒化ガリウム)を初めとするIII族窒化物半導体からなる、発光層その他の複数の薄膜層を、サファイア単結晶の上にエピタキシャル形成し、さらに、該薄膜層の上に、LED素子(LEDチップ)において通電電極を構成する電極パターンを形成することによって構成されてなる。
【0054】
なお、パターン付き基板Wの形成にあたって、単結晶基板W1として、主面内においてオリフラに垂直なY方向を軸としてc面やa面などの結晶面の面方位を主面法線方向に対して数度程度傾斜させた、いわゆるオフ角を与えた基板(オフ基板とも称する)を用いる態様であってもよい。
【0055】
個々の単位パターンUPの境界部分である幅狭の領域はストリートSTと称される。ストリートSTは、パターン付き基板Wの分割予定位置であって、後述する態様にてレーザー光がストリートSTに沿って照射されことで、パターン付き基板Wは個々のデバイスチップへと分割される。ストリートSTは、通常、数十μm程度の幅で、デバイスパターンを平面視した場合に格子状をなすように設定される。ただし、ストリートSTの部分において単結晶基板W1が露出している必要はなく、ストリートSTの位置においてもデバイスパターンをなす薄膜層が連続して形成されていてもよい。
【0056】
<パターン付き基板における亀裂伸展とレーザー光の照射態様>
以下、上述のようなパターン付き基板WをストリートSTに沿って分割すべく、ストリートSTの中心に定めた加工予定線PLに沿って亀裂伸展加工を行う場合を考える。
【0057】
なお、本実施の形態では、係る態様での亀裂伸展加工を行うにあたって、パターン付き基板Wのうち、デバイスパターンが設けられていない側の面、つまりは、単結晶基板W1が露出した主面Wa(
図4参照)に向けて、レーザー光LBを照射するものとする。すなわち、デバイスパターンが形成されてなる側の主面Wb(
図4参照)を被載置面としてレーザー加工装置100のステージ4に載置固定して、レーザー光LBの照射を行うものとする。なお、厳密にいえば、デバイスパターンの表面には凹凸が存在するが、当該凹凸はパターン付き基板W全体の厚みに比して充分に小さいので、実質的には、パターン付き基板Wのデバイスパターンが形成されてなる側には平坦な主面が備わっているとみなして差し支えない。あるいは、デバイスパターンが設けられた単結晶基板W1の主面をパターン付き基板Wの主面Wbとみなすようにしてもよい。
【0058】
これは、亀裂伸展加工の実施において本質的に必須の態様ではないが、ストリートSTの幅が小さい場合や、ストリートSTの部分にまで薄膜層が形成されてなる場合など、レーザー光の照射がデバイスパターンに与える影響を小さくしたり、あるいは、より確実な分割を実現するという点から、好ましい態様である。ちなみに、
図3において単位パターンUPやストリートSTを破線にて表しているのは、単結晶基板が露出した主面Waがレーザー光の照射対象面であり、デバイスパターンが設けられた主面Wbがその反対側を向いていることを示すためである。
【0059】
また、亀裂伸展加工は、レーザー光LBに対し所定の(0ではない)デフォーカス値を与えるデフォーカス状態で行われるものとする。なお、デフォーカス値は、パターン付き基板Wの厚みに対して充分に小さいものとする。
【0060】
図4は、レーザー加工装置100において、亀裂伸展を生じさせる照射条件を設定したうえで、オリフラOFと直交するY方向に延在するストリートSTの中心位置に設定された加工予定線PLに沿ってレーザー光LBを照射して、亀裂伸展加工を行った場合の、パターン付き基板Wの厚み方向における亀裂伸展の様子を示す模式断面図である。なお、以降においては、パターン付き基板Wの主面Waをパターン付き基板Wの表面とも称し、パターン付き基板Wの主面Wbをパターン付き基板Wの裏面とも称することがある。
【0061】
係る場合、パターン付き基板Wの厚み方向において主面Waから数μm〜30μmの距離の位置に、加工痕MがY軸方向に沿って離散的に形成され、それぞれの加工痕Mの間において亀裂が伸展するとともに、加工痕Mから上方(主面Waの側)および下方(主面Wbの側)に向けてそれぞれ、亀裂CR1および亀裂CR2が伸展する。
【0062】
ただし、これらの亀裂CR1およびCR2は、加工痕Mの鉛直上方もしくは下方に向けて、つまりは、加工予定線PLからパターン付き基板Wの厚み方向に延在する面P1に沿って伸展するのではなく、面P1に対して傾斜し、加工痕Mから離れるほど面P1からずれる態様にて伸展する。しかも、X方向において亀裂CR1と亀裂CR2が面P1からずれる向きは相反する。
【0063】
加えて、係る態様にて亀裂CR1およびCR2が傾斜しつつ伸展する場合、その傾斜の程度によっては、
図4に示すように、亀裂CR2の終端T2が、(その後のブレイク工程によって伸展する場合も含め、)ストリートSTの範囲を超えて、デバイスチップをなす単位パターンUPの部分にまで伸展してしまうことが起こり得る。このように亀裂CR1およびCR2が伸展した箇所を起点としてブレイクを行うと、単位パターンがUPが破損してしまい、デバイスチップは不良品となってしまうことになる。しかも、このような亀裂の傾斜は、同じパターン付き基板Wにおいて同じ方向に加工を行う限り、他の加工位置においても同様に生じることが、経験的にわかっている。それぞれのストリートSTにおいてこのような厚み方向における亀裂の傾斜が生じ、さらには単位パターンUPの破壊が引き起こされてしまうと、良品であるデバイスチップの取り個数(歩留まり)が低下してしまうことになる。
【0064】
このような不具合の発生を回避するべく、本実施の形態においては、レーザー光LBの照射態様を工夫することにより、亀裂CR2の傾斜を抑制してその終端T2がストリートSTの範囲内に収まるようにする。概略的にいえば、Y方向に平行な回転軸51Aの周りで落射ミラー51を回転させ、その姿勢(傾き角度)を調整することによって、落射ミラー51から被加工物10へと向かうレーザー光LBの光軸を、鉛直方向から亀裂CR2の傾斜が打ち消される方向へとずらすことにより、亀裂CR2の傾斜を抑制する。なお、落射ミラー51を回転軸51Aの周りで回転させるということは、つまりは、上述したように、落射ミラー51に入射する際のレーザー光LBの入射経路を含む鉛直平面内において落射ミラー51を回転させるということである。
【0065】
図5は、レーザー光LBの光軸をずらす様子を示す模式断面図である。例えば、
図4に示したように、亀裂CR1が−X方向に傾斜して伸展し、亀裂CR2が+X方向に傾斜して伸展する場合は、
図5(a)に示すように、落射ミラー51を矢印AR1にて示すように時計回りに回転させることによって、落射ミラー51から被加工物10へと向かうレーザー光LBの光軸を、一点破線にて示す鉛直方向A0から矢印AR2にて示すように時計回りにずらすようにする。
【0066】
一方、
図4に示した場合と反対に、亀裂CR1が+X方向に傾斜して伸展し、亀裂CR2が−X方向に傾斜して伸展する場合は、
図5(b)に示すように、落射ミラー51を矢印AR3にて示すように反時計回りに回転させることによって、落射ミラー51から被加工物10へと向かうレーザー光LBの光軸を、一点破線にて示す鉛直方向A0から矢印AR4にて示すように反時計回りにずらすようにする。
【0067】
より一般的にいえば、亀裂CR2の傾斜を抑制するには、亀裂CR2の傾斜がレーザー光LBの落射ミラー51に対する入射方向と一致する方向に生じている場合は、落射ミラー51を(より厳密には落射ミラー51に備わるレーザー光LBの反射面を)起立姿勢に近づく方向に回転させ、亀裂CR2の傾斜がレーザー光LBの落射ミラー51に対する入射方向と反対の方向に生じている場合は、落射ミラー51を水平姿勢に近づく方向に回転させるようにする。なお、幾何学的関係より、落射ミラー51を角度δ回転させると、レーザー光LBの光軸の向きは角度2δ変化する。
【0068】
以降、落射ミラー51から被加工物へと向かうレーザー光LBの光軸が鉛直方向と一致するときの落射ミラー51の姿勢を基準姿勢として、当該基準姿勢よりも起立姿勢に近づくように落射ミラー51を回転させる際の回転方向を起立姿勢方向と称し、基準姿勢よりも水平姿勢に近づくように落射ミラー51を回転させる際の回転方向を水平姿勢方向と称することとする。
【0069】
図6は、
図4に示したのと同一のパターン付き基板Wに対して
図5(a)に示す態様にて光軸をずらして亀裂伸展加工を行った場合の、パターン付き基板Wの厚み方向における亀裂伸展の様子を示す模式断面図である。
図5(a)に示すように落射ミラー51を起立姿勢方向に回転させてレーザー光LBの光軸をずらせば、
図6に示すように、光軸が鉛直方向と一致する場合(
図4の場合)と比して亀裂CR2の傾斜が打ち消される。すなわち、単位パターンUPの破壊は回避される。なお、レーザー光LBの光軸が鉛直方向に沿っている場合と鉛直方向からずれている場合とでは、レーザー光LBの入射角度が異なるために加工痕Mの形状は異なり得るが、回転角度が小さいこと、および形成される個々の加工痕Mのサイズ自体も小さいことから、それら2つの場合に加工痕Mの形状自体に実質的な差は生じない。
【0070】
ただし、起立姿勢方向に回転させる場合も、水平姿勢方向に回転させる場合も、回転角度を大きくしすぎると、レーザー光LBの形状の非対称性が顕著となり、亀裂伸展加工自体が良好に行われなくなる。
【0071】
実際のところ、亀裂伸展加工が可能であってかつ亀裂の傾斜抑制効果が得られる落射ミラー51の回転角度は、−0.1°〜+0.1°という、十分に小さな値で十分であることが、本発明の発明者によって確認されている。例えば、終端T1と終端T2とを結ぶ直線がX方向となす角についてみると、光軸を鉛直方向に一致させた場合はせいぜい84°程度であるのに対して、落射ミラー51に上述の角度範囲で回転を与えて光軸を鉛直方向からずらした場合には、終端T1と終端T2とを結ぶ直線がX方向となす角は、85°以上になり得る。このことは、落射ミラー51を上述の角度で回転させて光軸を鉛直方向からずらすことで、亀裂の傾斜が好適に抑制されることを意味している。
【0072】
また、上述の角度範囲をみたす場合、亀裂CR2の終端T2の位置が、加工痕Mの直下の方向へ数μm程度オフセットされる。ストリートSTの幅は20μm〜30μm程度であることから、このことは、光軸をずらすことで、亀裂CR2の終端T2が単位パターンUPに到達することによる単位パターンUPの破壊が好適に防止されることを意味している。
【0073】
ちなみに、レーザー光LBが鉛直下方に進行する場合を基準(角度原点)としたときの落射ミラー51の回転角度が上述の範囲内にある場合は、レーザー光LBの形状の非対称性は実質的には問題とならない。
【0074】
なお、上述したような亀裂の傾斜は、パターン付き基板Wに対し、そのオリフラOFと直交するY方向に沿って亀裂伸展加工を行う場合にのみ発生する現象であり、オリフラOFに平行なX方向に沿って亀裂伸展加工を行う場合には発生しないことが、経験的にわかっている。すなわち、X方向に沿って亀裂伸展加工を行った場合、パターン付き基板Wの厚み方向における亀裂の伸展は、加工痕から鉛直上方および鉛直下方に向けて生じる。
【0075】
<光軸ずらし条件の設定>
(第1の態様)
上述のように、パターン付き基板Wに対し亀裂伸展加工を行って個片化しようとする場合、オリフラOFと直交するY方向の加工に際しては、レーザー光LBの光軸をずらすことが必要となる場合がある。その場合において問題となるのは、
図4においては亀裂CR1が−X方向に傾斜して伸展し、亀裂CR2が+X方向に傾斜して伸展しているが、これはあくまで例示に過ぎず、両者の伸展方向は個々のパターン付き基板Wによって入れ替わり得るという点、および、個々のパターン付き基板Wにおいて亀裂の傾斜がどちら向きに生じるのかは、実際にレーザー光LBを照射して亀裂伸展加工を行ってみないとわからないという点である。少なくとも傾斜の向きがわからないと、実際にレーザー光LBの光軸をずらすということは行い得ない。
【0076】
加えて、デバイスチップの量産過程においては、生産性向上の観点から、レーザー光LBの光軸をずらす際の条件を、自動的にかつできるだけ迅速に設定することが求められる。
【0077】
図7は、以上の点を踏まえた、本実施の形態に係るレーザー加工装置100において行われるレーザー光LBの光軸ずらし条件の設定処理の流れを示す図である。本実施の形態における光軸ずらし条件の設定処理は、概略、個片化しようとするパターン付き基板Wの一部に対し実際に亀裂伸展加工を行い、その結果生じた亀裂の傾斜の向きを画像処理によって特定したうえで、その特定された向きに応じた向きに、あらかじめ設定された角度だけ落射ミラー51を回転させてその姿勢を変更する、という処理である。係る光軸ずらし条件の設定処理は、レーザー加工装置100のコントローラ1に備わる光軸設定部26が、記憶部3に記憶されているプログラム3pに従って、装置各部を動作させ、かつ必要な演算処理等を行うことによって実現される。
【0078】
なお、係る設定処理を行うに先立ってあらかじめ、パターン付き基板Wはレーザー加工装置100のステージ4の上に載置固定され、かつ、そのX方向とY方向とがそれぞれ、移動機構4mの移動方向である水平2軸方向に一致するように、アライメント処理がなされているものとする。アライメント処理には、特許文献1に開示されているような手法その他、公知の手法を適宜に適用可能である。また、被加工物データD1には、加工対象とされるパターン付き基板Wの個体情報が記述されてなるものとする。
【0079】
まず初めに、光軸ずらし条件設定用の亀裂伸展加工を行う位置(レーザー光LBの照射位置)を決定し(ステップSTP1)、当該位置に対しレーザー光LBを照射して亀裂伸展加工を行う(ステップSTP2)。以降、係る光軸ずらし条件設定用の亀裂伸展加工を仮加工と称する。
【0080】
係る仮加工は、その加工結果がデバイスチップの取り個数に影響を与えない位置で行うのが好ましい。例えば、パターン付き基板Wにおいてデバイスチップとなる単位パターンUPが形成されない外縁位置などを対象に行うのが好適である。
図8は、この点を考慮した、仮加工の際のレーザー光LBの照射位置IP1を例示する図である。
図8においては、X方向における位置座標が最も負であるストリートST(ST1)よりもさらにパターン付き基板Wの外縁寄りに(X方向負の側に)仮加工用の照射位置IP1を設定する場合を例示している。なお、
図8においては、照射位置IP1をパターン付き基板Wの2つの外周端位置に渡って示しているが、必ずしも両外周端位置の間の全範囲に渡ってレーザー光LBを照射する必要はない。
【0081】
具体的な照射位置IP1の設定の仕方は、特に限定されない。例えば、あらかじめ与えられたパターン付き基板Wの形状に関するデータに基づいてなされる態様であってもよいし、あるいは、画像処理によってストリートST(ST1)の位置を特定し、その特定結果に基づいてなされる態様であってもよい。
【0082】
照射位置IP1に対する仮加工が終了すると、続いて、下部照明光源S2によってパターン付き基板Wに対し主面Wbの側からの透過照明を与えた状態で、CCDカメラ6aの焦点位置(高さ)を、この場合におけるパターン付き基板Wの表面である主面Waに合わせた状態で、仮加工の加工位置を撮像する(ステップSTP3)。そして、得られた撮像画像に所定の処理を行うことにより、亀裂CR1の主面Waにおける終端T1のX方向における代表的な座標位置とみなせる座標X1を決定する(ステップSTP4)。
【0083】
図9は、ステップSTP3において得られたパターン付き基板Wの撮像画像IM1に基づく座標X1の決定の仕方を説明するための図である。
【0084】
より詳細には、
図9(a)は、ステップSTP3において得られた撮像画像IM1のうち、レーザー光LBの照射位置IP1の近傍の部分を示している。当該撮像画像IM1においては、加工痕MがY方向に延在する微小な点列もしくはほぼ連続線として観察されている。また、係る加工痕Mから主面Waの側に向けて伸展した亀裂CR1が加工痕Mよりも相対的に強いコントラストで(より高い画素値で、具体的にはより黒く)観察される。なお、加工痕Mよりも亀裂CR1の方が相対的にコントラストが強いのは、亀裂CR1の方が加工痕Mに比してCCDカメラ6aの焦点位置により近いところに存在するからである。
【0085】
このようにして得られた撮像画像IM1に基づく、座標X1の決定は、Y方向に長手方向を有し、かつ、これら加工痕Mおよび亀裂CR1の像を含む所定の矩形領域RE1を設定し、当該矩形領域RE1におけるX座標が同じ位置における画素値(色濃度値)を、Y方向に沿って積算したプロファイルを作成することによって行う。
図9(b)に示すのが、
図9(a)に示す撮像画像IM1を対象に、係る積算処理によって得られたプロファイルPF1である。
【0086】
上述のように、
図9(a)に示す撮像画像IM1は、主面Waに焦点を合わせて得られたものであるので、亀裂CR1が多く存在している位置ほど、しかも、亀裂CR1が主面Waに近いところほど、
図9(b)に示すプロファイルPF1において、画素値が高くなっていると考えられる。そこで、本実施の形態では、当該プロファイルPF1において画素値が最大となる座標X1を、亀裂CR1の終端T1のX方向における座標位置とみなすことにする。
【0087】
このようにして座標X1が定まると、続いて、撮像画像IM1を撮像したときと同様に、下部照明光源S2によってパターン付き基板Wに対し主面Wbの側からの透過照明を与えた状態で、CCDカメラ6aの焦点位置(高さ)を、加工痕Mの深さ位置、つまりは、亀裂伸展加工の際のレーザー光LBの焦点位置に合わせた状態で、当該加工位置を撮像する(ステップSTP5)。そして、得られた撮像画像に所定の処理を行うことにより、加工痕MのX方向における代表的な座標位置とみなせる座標X2を決定する(ステップSTP6)。
【0088】
図10は、ステップSTP5において得られたパターン付き基板Wの撮像画像IM2に基づく座標X2の決定の仕方を説明するための図である。
【0089】
より詳細には、
図10(a)は、ステップSTP5において得られた撮像画像IM2のうち、レーザー光LBの照射位置IP1の近傍の部分を示している。
図9(a)に示した撮像画像IM1と同様、当該撮像画像IM2においても、加工痕MはY方向に延在する微小な点列もしくはほぼ連続線として観察され、また、係る加工痕Mから主面Waの側に向けて伸展した亀裂CR1も観察される。ただし、撮像の際の焦点位置が加工痕Mの深さ位置に設定されていることにより、撮像画像IM2においては、撮像画像IM1に比して、加工痕Mのコントラストが相対的に強く観察される。
【0090】
このようにして得られた撮像画像IM2に基づく、座標X2の決定は、ステップSTP4における亀裂CR1の終端T1の決定の仕方と同様、Y方向に長手方向を有し、かつ、加工痕Mおよび亀裂CR1の像を含む所定の矩形領域RE2を設定し、当該矩形領域RE2におけるX座標が同じ位置における画素値(色濃度値)を、Y方向に沿って積算したプロファイルを作成することによって行う。
図10(b)に示すのが、
図10(a)に示す撮像画像IM2を対象に、係る積算処理によって得られたプロファイルPF2である。なお、矩形領域RE2と矩形領域RE1とは同じサイズに設定してもよいし、それぞれの撮像画像における加工痕Mや亀裂CR1の存在位置に応じて違えてもよい。
【0091】
上述のように、
図10(a)に示す撮像画像IM2は、加工痕Mの深さ位置に焦点を合わせて得られたものであるので、加工痕Mに近いところほど、
図10(b)に示すプロファイルPF2において、画素値が高くなっていると考えられる。そこで、本実施の形態では、当該プロファイルPF2において画素値が最大となる座標X2を、加工痕MのX方向における座標位置とみなすことにする。
【0092】
なお、ステップSTP3〜STP6として示した処理の実行順序は適宜入れ替わってもよいし、適宜並行して行われてもよい。例えば、ステップSTP3およびステップSTP5における撮像処理を連続して行った後に、ステップSTP4およびステップSTP6における座標X1、X2の特定処理を順次に行うようにしてもよいし、ステップSTP3における撮像処理の後、ステップSTP4における座標X1の特定処理を行っている間に、これと並行して、ステップSTP5における撮像処理を行うようにしてもよい。
【0093】
以上の態様にて座標X1およびX2の値が定まると、続いて、これらの座標値の差分値ΔX=X2−X1を算出し、その結果に基づいて落射ミラー51を回転させる方向(光軸ずらし用ミラー回転方向、もしくは、単にミラー回転方向とも称する)が特定される(ステップSTP7)。
【0094】
具体的には、ΔXと光軸ずらし用ミラー回転方向との間には、以下の関係がある。
【0095】
ΔX>0 → 終端T1が加工痕Mより+X方向に到達 → 起立姿勢方向に回転;
ΔX<0 → 終端T1が加工痕Mより−X方向に到達 → 水平姿勢方向に回転;
ΔX=0 → 終端T1が加工痕Mの直上に到達 → 回転不要。
【0096】
図9および
図10に示した場合であれば、ΔX<0であるので、落射ミラー51を水平姿勢方向に回転させてレーザー光LBの光軸を鉛直方向からずらすべきである、と特定されることになる。
【0097】
このように光軸ずらし用ミラー回転方向が特定されることで、結果として、光軸をずらす方向が特定されたことになる。続いて、記憶部3に記憶されている被加工物データD1と、光軸ずらしデータD3とに基づいて、特定されたミラー回転方向に対する落射ミラー51の回転角度が決定される(ステップSTP8)。
【0098】
上述のように、被加工物データD1には、実際に加工対象とされる(つまりは光軸ずらし条件設定用の亀裂伸展加工が行われた)パターン付き基板Wの個体情報(結晶方位、厚みなど)が記述されてなる。一方、光軸ずらしデータD3にはあらかじめ、落射ミラー51の回転角度をパターン付き基板Wの個体情報に応じて設定可能な記述がなされている。光軸設定部26は、被加工物データD1からパターン付き基板Wの個体情報を取得し、光軸ずらしデータD3を参照して、当該個体情報に応じた回転角度を決定する。
【0099】
なお、光軸ずらしデータD3の記述内容から定まる回転角度は、その値で落射ミラー51を回転すれば、ほとんどの場合で
図4に示したような亀裂CR2による単位パターンUPの破壊が回避される値として、経験的に与えられるものである。例えば、ΔXの絶対値が大きいほど、および、パターン付き基板Wの厚みが大きいほど亀裂の傾斜の程度が大きい傾向があるということであれば、光軸ずらしデータD3には、ΔXの絶対値およびパターン付き基板Wの厚みが大きいほど大きな回転角度が設定されるように記述がなされる、などの対応が想定される。
【0100】
光軸ずらしデータD3の形式は、特に限定されない。例えば、パターン付き基板Wの材質種や厚み範囲ごとに設定すべき回転角度が記述されたテーブルとして光軸ずらしデータD3が用意される態様であってもよいし、あるいは、厚みと回転角度がある関数関係として規定される態様であってもよい。
【0101】
また、上述の決定の仕方から明らかなように、落射ミラー51の回転角度の決定は、ステップSTP1〜ステップSTP7にかけて行われる、ミラー回転方向の特定とは無関係に行い得るので、必ずしもミラー回転方向を特定したうえで決定する必要はなく、ミラー回転方向の特定に先立って、あるいは、ミラー回転方向の特定と並行して、行われる態様であってもよい。
【0102】
ステップSTP7における光軸ずらし用ミラー回転方向の決定と、ステップSTP8における回転角度の決定とがなされると、光軸ずらし条件設定処理は終了する。これに引き続いて、決定されたミラー回転方向および回転角度に基づいて落射ミラー51の姿勢を調整しつつ、パターン付き基板Wを個片化するための亀裂伸展加工処理が行われる。なお、オリフラOFに平行なX方向の加工の際には亀裂の傾斜は生じないので、落射ミラー51は、レーザー光LBの光軸が鉛直方向に一致するようにその姿勢が調整される。以上により、亀裂の伸展による単位パターンUPの破壊が好適に抑制された、パターン付き基板Wの個片化が実現される。
【0103】
なお、ステップSTP7で算出されたΔXの値に応じて落射ミラー51の回転角度を設定することも原理的には可能であるが、係る態様を採用することで必ずしも亀裂CR2の傾斜の抑制度合いが向上するものではない。なぜならば、上述の態様にて決定される座標X1やX2は、その算出原理上、必ずしも、亀裂CR1の終端T1や加工痕Mの実際の位置を正確に代表する値とは言えず、あくまで、落射ミラー51の回転方向を決定するために便宜的に求められる値であることから、その差分値ΔXが、必ずしも、当該パターン付き基板Wの全ての加工において適切な回転角度を与えるとは限らないからである。
【0104】
(第2の態様)
レーザー加工装置100における光軸ずらし条件の設定処理の仕方は、上述した第1の態様に限られるものではない。
図11は、第2の態様に係る光軸ずらし条件の設定処理の流れを示す図である。
図11に示す第2の態様に係る設定処理は、
図7に示した第1の態様における設定処理のステップSTP3およびステップSTP4に代えて、ステップSTP13およびステップSTP4を行う点と、これに伴い、ステップSTP7における差分値の算出に用いる座標値が第1の設定処理とは異なる点のほかは、第1の設定処理と同様である。
【0105】
具体的には、第2の態様においては、ステップSTP1〜ステップSTP2によって仮加工を行った後、下部照明光源S2によってパターン付き基板Wに対し主面Wbの側からの透過照明を与えた状態で、CCDカメラ6aの焦点位置(高さ)を、この場合におけるパターン付き基板Wの裏面である主面Wbに合わせた状態で、仮加工を行った位置を撮像する(ステップSTP13)。そして、得られた撮像画像に対し、
図9に基づいて説明した、亀裂CR1の終端T1を決定する画像処理と同様の画像処理を行うことにより、亀裂CR2の主面Wbにおける終端T2のX方向における代表的な座標位置とみなせる座標X3を決定する(ステップSTP14)。具体的には、
図9(b)のプロファイルPF1と同様のプロファイルを作成し、その中で画素値が最大となる座標X3を、亀裂CR2の終端T2の位置とみなすこととする。
【0106】
そして、これに引き続いてステップSTP5〜ステップSTP6の処理を行って座標X2を求めたうえで、ステップSTP7において、ΔX=X2−X3を算出し、その結果に基づいて光軸ずらし用ミラー回転方向が特定される(ステップSTP7)。
【0107】
具体的には、ΔXと光軸ずらし用ミラー回転方向との間には、以下の関係がある。
【0108】
ΔX>0 → 終端T2が加工痕Mより−X方向に到達 → 水平姿勢方向に回転;
ΔX<0 → 終端T2が加工痕Mより+X方向に到達 → 起立姿勢方向に回転;
ΔX=0 → 終端T2が加工痕Mの直下に到達 → 回転不要。
【0109】
また、回転角度の設定は、第1の態様と同様に行えばよい。
【0110】
第2の態様の場合も、第1の態様と同様、ステップSTP7における光軸ずらし用ミラー回転方向の決定と、ステップSTP8における回転角度の決定とがなされると、光軸ずらし条件設定処理は終了し、これに引き続いて、決定されたミラー回転方向および回転角度に基づいて、パターン付き基板Wを個片化するための亀裂伸展加工処理が行われる。これにより、亀裂の伸展による単位パターンUPの破壊が好適に抑制された、パターン付き基板Wの個片化が実現される。
【0111】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、亀裂伸展加工によってパターン付き基板を個片化する際に、オリフラと直交する方向の加工において亀裂が傾斜し得る場合に、レーザー光の光軸を鉛直方向からずらした状態で当該亀裂伸展加工を行うことにより、亀裂の傾斜を抑制することができる。これにより、パターン付き基板に設けられた、個々のデバイスチップを構成する単位パターンを個片化に際して破壊することが好適に抑制される。その結果として、パターン付き基板を個片化することで得られるデバイスチップの歩留まりが向上する。