(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記データ処理部は、前記拡張期雑音区間として、II音からI音区間の信号の0〜1500Hzの周波数範囲に含まれる一または複数における周波数帯域中の周波数分布の特徴に基づいて抽出した分析信号を生成する、
ことを特徴とする請求項3に記載の心音情報処理装置。
前記心雑音症例分類部は、前記第二の周波数成分を、0〜200Hz、50〜600Hz、および、150〜800Hzの周波数成分のうちのいずれかの周波数成分を含むものとして心雑音の症例を分類する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の心音情報処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、心音情報処理装置の第1実施形態を示す図である。なお、心音情報処理装置は、コンピュータにより実行可能なプログラムとして実施するようにしてもよい。
【0013】
心音情報処理装置100は、信号入力部110と、信号処理部120と、心雑音検出部130と、データ処理部140と、心雑音症例分類部150と、表示情報生成部160と、を備える。
【0014】
所定のマイク等を用いて聴診位置2RSBで集音された心音信号は、信号入力部110に入力される。
ここで、2RSBは第二肋間胸骨右縁の意である。
本実施形態において、処理対象となるのは、聴診位置2RSBで集音された心音信号だけである。
信号入力部110は、入力された信号を信号処理部120に出力する。
【0015】
信号処理部120では、信号入力部110から入力された信号に基づいて、必要な信号を生成する。本実施形態においては、信号処理部120は、信号入力部110から入力された信号を所定の時間長のフレームで分割し、所定の通過帯域のバンドパスフィルタを用いて入力信号をフィルタリングし、FFT等を用いて周波数領域に変換した信号を生成するとする。
なお信号処理部120は、この他に心雑音検出に用いる信号などを生成してもよく、生成する信号は一つに限られない。
信号処理部120では、生成した信号をデータ処理部140に出力する。
【0016】
データ処理部140は、まず、信号処理部120から入力された信号を心雑音検出部130に出力する。そして、データ処理部140は、心雑音検出部130で処理された結果を利用し、心雑音検出部130で検出された心雑音区間を抽出した信号Sを生成する。次に、この信号Sを心雑音症例分類部150へ出力する。
【0017】
心雑音検出部130には、データ処理部140から信号が入力される。心雑音検出部130は、入力された信号から心雑音を検出することにより心雑音区間を抽出し、データ処理部140に出力する。心雑音検出部130による心雑音の検出方法は既知の方法を用いればよい。例えば、本発明と同じ出願人による特願2011−173291号に記載の方法を用いても良いが、限定されるものではない。なお、心雑音検出部130で心雑音が検出されなかった場合は、処理は終了となる。
【0018】
心雑音症例分類部150は、データ処理部140から入力された前記信号Sに基づいて症例の分類を行う。心雑音症例分類部150は、周波数帯域のパワーを抽出する周波数帯域パワー抽出部151と、周波数帯域パワー割合算出部152と、症例の分類を行う症例判定部153と、を備える。
【0019】
周波数帯域パワー抽出部151は、データ処理部140から入力された信号Sから、所定の周波数帯域のパワーを算出し、周波数帯域パワー割合算出部152に出力する。
ここで「所定の周波数帯域」とは、
図2に示すような、正常心音の周波数帯域である0〜200Hz内の所定の周波数帯域や、駆出性雑音の周波数帯域である50〜600Hz内の所定の周波数帯域や、逆流性雑音の周波数帯域である150〜800Hz内の所定の周波数帯域である。周波数帯域パワー抽出部151は、各帯域のパワーを算出し、それぞれP0、P1、P2とする。
【0020】
なお、周波数帯域パワー抽出部151で抽出する周波数帯域パワーは上記に例示したP0、P1およびP2の組み合わせに限るものではなく、症例に応じての明確な違いが表れるように周波数帯域のパワーを選択すればよいのであるが、他の例は第2実施形態として後述する。
【0021】
周波数帯域パワー割合算出部152は、周波数帯域パワー割合を算出する。
ここで周波数帯域パワー割合とは、信号Sにおける周波数帯域パワー(ここではP0、P1、P2)のそれぞれの割合を表した値で、例えば、100〜200Hzの周波数帯域のパワーを、0〜1000Hzの周波数帯域のパワーで割るなど、ある周波数帯域(第一の周波数帯域)において、第一の周波数帯域の一部を構成する周波数帯域(第二の周波数帯域)が占める割合を示す値とする。
なお、第二の周波数帯域は100〜200Hzに限らず、0〜100Hz、100〜500Hz等他の周波数帯域を用いても良いし、前記第一の周波数帯域は0〜1500Hz、0〜2000Hz等他の周波数帯域を用いても良い。
また、連続した周波数帯域ではなく、100〜150Hzと180〜200Hzとの和など、断続的な周波数帯域や特定の周波数成分の和などを用いても良い。
【0022】
より具体的には、周波数帯域パワー割合算出部152では、周波数帯域パワー抽出部151から入力されたP0、P1、P2のそれぞれの割合を式(1)により算出する。
【0024】
図3(a)は、あるMR(僧帽弁閉鎖不全症)の心雑音の各周波数分布区間の割合を表し、
図3(b)は、あるAS(大動脈弁狭窄症)の心雑音の各周波数分布区間の割合を表している。
MR(僧帽弁閉鎖不全症)の心雑音の各周波数分布区間の割合としては、P0が87%、P1が11%、P2が2%となる。
これに対し、AS(大動脈弁狭窄症)の心雑音の各周波数分布区間の割合としては、P0が52%、P1が41%、P2が7%となる。
この他のデータにおいても、MR(僧帽弁閉鎖不全症)とAS(大動脈弁狭窄症)とでは、P0とP1との割合に顕著な違いが見られる為、P0とP1とを比較対象とすればよい。
【0025】
ここで症例の違いによる周波数帯域パワー割合に関し、いくつかサンプルを挙げる。
図4は、MR(僧帽弁閉鎖不全症)と、AS(大動脈弁狭窄症)と、心雑音のその他の症例と、でP0の割合を表した図である。また、
図5は、MR(僧帽弁閉鎖不全症)と、AS(大動脈弁狭窄症)と、心雑音のその他の症例と、でP1の割合を表した図である。
MR(僧帽弁閉鎖不全症)とAS(大動脈弁狭窄症)とその他の症例とでは、P0の割合やP1の割合に差があることがわかる。
【0026】
症例判定部153は、周波数帯域パワー割合算出部152により得られた各周波数帯域パワー割合に基づいて、心雑音の症例を分類する。
図6は、症例判定方法のフローチャートである。
図6(a)に示すように症例判定部153は、まずP0の割合が75%以上の範囲にあるかどうかを判定し(ステップS701)、その範囲にあれば症例をMR(僧帽弁閉鎖不全症)とする。
また、P0の割合が75%以上の範囲になければ、P0の割合が60%以上75%未満の範囲にあるか判定し(ステップS702)、P0の割合が60%以上75%未満の範囲になければ症例をAS(大動脈弁狭窄症)と判定し、P0の割合が60%以上75%未満の範囲にあればその他の症例と判定する。あるいは
図6(b)のフローチャートを用いてもよい。
すなわち、症例判定部153は、P1の割合が30%以上の範囲にあるか否かを判定し(ステップS711)、その範囲にあれば症例をAS(大動脈弁狭窄症)と判定する。
【0027】
また、P1の割合が30%以上でなければ、P1の割合が15%以上30%未満の範囲にあるか判定し(ステップS712)、P1の割合が15%以上30%未満の範囲になければ症例をMR(僧帽弁閉鎖不全症)と判定し、P1の割合が15%以上30%未満の範囲にあれば症例をAS(大動脈弁狭窄症)と判定する。
この様に、P0、P1どちらを用いても症例を判別することが可能である。
【0028】
なお、症例を分類するにあたって、P0およびP1の割合に例えば75%や30%といった判断閾値を設定したが、このような判断閾値の具体的な値は設計的な事項であり、心雑音を含むデータを収集してP0、P1を算出し、それらを用いて統計的に算出するようにしても良い。
【0029】
症例判定部153は、判別した結果を表示情報生成部160に出力する。
表示情報生成部160は、判定結果を示す表示情報を生成して表示部170に出力し、表示部170は判定結果を表示する。
判定結果をどのように示すかは設計的事項であるが、例えば、本発明と同じ出願人による特願2011−173291号に記載の方法を用いてもよい。
【0030】
上記に説明したように、第1実施形態では、一箇所の聴診位置で取得した心音についてのみ周波数解析を行った。
そして、このような第1実施形態の構成であっても、心雑音の症例であるMR(僧帽弁閉鎖不全症)、AS(大動脈弁狭窄症)および心雑音のその他の症例を正しく判定できる。すなわち、本第1実施形態によれば、複数の聴診位置で心音を取得しなくても良いので短時間で症例の判定ができ、さらに、装置を小型化できることになる。したがって、在宅医療などで利用しやすく、医療の拡充に多大に貢献できるという格別の効果を奏する。
【0031】
(第2実施形態)
第1実施形態では、周波数帯域のパワーの割合から、MR(僧帽弁閉鎖不全症)、AS(大動脈弁狭窄症)および心雑音のその他の症例、を判断する方法を説明した。
本第2実施形態では、周波数帯域のパワーの比較からAS(大動脈弁狭窄症)を判別する方法を示す。
図7に第2実施形態に係る心雑音症例分類部157の構成を示す。
なお、第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。
第2実施形態においては、
図7に示すように、心雑音症例分類部157は、周波数帯域パワー抽出部151と、周波数帯域パワー割合算出部155と、AS判定部156と、を備える。
【0032】
周波数帯域パワー抽出部151は、データ処理部140から入力された信号Sから、所定の周波数帯域のパワーを算出し、周波数帯域パワー割合算出部155に出力する。
ここで本実施形態における所定の周波数帯域について補足する。
0〜150Hz内の周波数帯域のパワーをP3とし、100〜250Hz内の周波数帯域のパワーをP4とする。
図8は、症例ごとのP3とP4とを示すであるが、
図8で示されるように、MR(僧帽弁閉鎖不全症)のピークは0〜150Hzにあり、AS(大動脈弁狭窄症)のピークは100〜250Hzに存在する。
(逆にいうと、このことから0〜150Hz内の周波数帯域のパワーをP3とし、100〜250Hz内の周波数帯域のパワーをP4とした。)
【0033】
周波数帯域パワー割合算出部155は、周波数帯域パワー抽出部151から入力されたP3とP4とを比較する。
図8で示したように、MR(僧帽弁閉鎖不全症)ではP4はP3に比べて減少している。これに対し、AS(大動脈弁狭窄症)のP4はP3に比べて増加する。これは、2RSB(第二肋間胸骨右縁)において、AS(大動脈弁狭窄症)にはP3の周波数帯域と比較してP4の周波数帯域に強いパワーがあることを示している。そこで、周波数帯域パワー割合算出部155は、式(2)からP4とP3との比R1を算出し、AS判定部156に出力する。
【0035】
AS判定部156では、周波数帯域パワー割合算出部155から入力されたR1の情報を基に心雑音の症例を分類する。
図9は、いくつかのMR(僧帽弁閉鎖不全症)、AS(大動脈弁狭窄症)および心雑音のその他の症例に関してR1の分布の例を示したものである。この図から、MR(僧帽弁閉鎖不全症)やその他の症例のR1の分布は、AS(大動脈弁狭窄症)のR1から分かれていることがわかる。このことから本実施形態では、AS判定部156は、R1の値が1以上であればAS(大動脈弁狭窄症)と判定する。
【0036】
なお、第1実施形態で説明した判定とこの第2実施形態で説明した判定とを組み合わせることで、判定精度の向上に繋げることができるのは言うまでもない。
【0037】
以上のように、一箇所の聴診位置で取得した心音についてのみ周波数解析を行うことで、心雑音の症例であるASの判断が正確にできる。
【0038】
(第3実施形態)
第3実施形態として、心雑音検出、心雑音症例分類に関して説明を加える。
上記第1実施および第2実施形態のなかで説明した心雑音検出の方法は、心雑音が強く、I音II音が弱い、いわゆる収縮期雑音と呼ばれる心雑音の検出に適していた。
本第3実施形態では更に、心雑音が弱く、I音II音が強い、いわゆる拡張期雑音と呼ばれる心雑音の検出処理を追加することによって、より精度の高い心雑音の検出が可能となっている。
【0039】
一般的に心雑音の症例であるMS(僧帽弁狭窄症)とAR(大動脈弁閉鎖不全症)とでは拡張期雑音が聴取される。拡張期雑音を検出できればMS(僧帽弁狭窄症)とAR(大動脈弁閉鎖不全症)との症例を分類することができ、したがって、心雑音の症例分類の精度を向上させる為には拡張期雑音を検出することが有効であることがわかる。また、AR(大動脈弁閉鎖不全症)を例に説明するとAR(大動脈弁閉鎖不全症)は一般的に3LSB(第三肋間胸骨左縁)または4LSB(第四肋間胸骨左縁)が最強点とされており、2RSB(第二肋間胸骨右縁)では聴感上聞き取りにくい場合があるので、結果として3LSB(第三肋間胸骨左縁)および4LSB(第四肋間胸骨左縁)も聴診することになる。しかし、本第3実施形態を追加することで第1実施形態および第2実施形態と同様に2RSB(第二肋間胸骨右縁)の一箇所から取得した心音信号で正確に拡張期雑音を検出でき、症例を分類することができる。
【0040】
第3実施形態における心雑音検出部130を
図10に示す。
(なお、心音情報処理装置を構成するその他の要素は、第1実施形態の
図1や第2実施形態の
図7と同様であるので、図示および説明を省略する。)
【0041】
本第3実施形態における心雑音検出部130は、第1実施形態および第2実施形態で説明したのと同様の方法で心雑音を検出する収縮期雑音検出部131と、拡張期雑音を検出する拡張期雑音検出部132と、を有する。収縮期雑音検出部131は、第1実施形態および第2実施形態と同様の方法なのでここでの説明は省略する。
【0042】
拡張期雑音検出部132での拡張期雑音検出方法を
図11のフローチャートを用いて説明する。
まず、S01にてI音II音検出を行う。
ここで拡張期雑音の特徴を説明する。
図12(A)に拡張期雑音の周波数特性を示す。このように拡張期雑音はI音とII音とが強くはっきりと聞き取れる。
そしてII音の後の点線で囲んだ部分に雑音としては弱く、聴感上聞き取りにくいが「サーッ」という雑音が存在している。
これが拡張期雑音である。これに対し、拡張期雑音のない心音データの周波数特性は、
図12(B)に示すように、II音の後に雑音が存在しない。
【0043】
以上のことから拡張期雑音を検出するにはII音〜I音区間の特徴を調査する必要がある為、まずはS01にてI音II音の位置を取得する。I音II音の位置検出方法は既知の方法を用いればよい。例えば、本発明と同じ出願人による特願2011−173291に記載の方法を用いても良いが、限定されるものではない。
【0044】
I音II音の検出後、S02にて拡張期雑音があるとされるII音〜I音区間の各周波数帯域の平均信号FAを求める。このS02の処理では、信号処理部120でFFTを用いて周波数領域に変換した信号Sを用いる。
【0045】
さて、信号Sの周波数帯域毎にII音〜I音区間の平均パワーを算出すると、
図13(A)の拡張期雑音がある信号FAの周波数分析結果や
図13(B)の拡張期雑音がない信号FAの周波数分析結果のように周波数分析できる。
図13(A)と
図13(B)とを比較してみると、
図13(A)は100〜1000Hzにかけて周波数帯域毎の傾き(差分)は一定を保ち緩やかに信号が弱くなっているが、
図13(B)では100Hz付近で傾きが大きく信号が弱く、200Hz以降は傾きが小さくなっている、という違いがある。このことから拡張期雑音の信号には200〜1000Hzに雑音信号が含まれており、拡張期雑音でない信号には200Hz以降は信号が弱いことがわかる。よって聴感上は聞き取りにくい信号でも、周波数分析を行うことで、200〜1000Hzの周波数分布の特徴から拡張期雑音が存在するかしないかを判断することが可能である。
【0046】
S03では、拡張期雑音の特徴を検出する。すなわち、上述の特徴を考慮して、拡張期雑音の特徴が検出されるように周波数分布の解析を行う。
第一の方法としては、200〜1100Hzの線形近似曲線(回帰直線)の傾きを算出することが挙げられる。
本実施形態では線形近似曲線の傾きは公知である最小二乗法を用いて算出する。
図14(A)が
図13(A)の周波数分析から求めた200〜1000Hzの線形近似曲線であり、
図14(B)が
図13(B)の周波数分析から求めた200〜1000Hzの線形近似曲線である。拡張期雑音の線形近似曲線は200〜1000Hzに雑音の信号が存在し、信号が弱まる1000Hz以降との変化が大きいので
図14(A)の様に傾きが大きくなる。反対に、拡張期雑音でない信号の場合200〜1000Hzに雑音の信号が存在しない為、信号が弱くなり、1000Hz以降との変化が少ないので、
図14(B)のように傾きが小さくなる。
【0047】
以上のことから
図14(A)と
図14(B)とで線形近似曲線の傾きを比較してみると、拡張期雑音の存在する
図14(A)の傾きの方が大きいことがわかる。
最小二乗法での傾きを求める場合、想定する関数が測定値に対してよい近似となるように、残差の二乗和を最小とするような係数を決定する為、200〜1000Hzに雑音信号が含まれる拡張期雑音は傾きが大きくなる。
【0048】
この他に第二の方法としては、100〜1000Hzにおける周波数帯域毎の傾き(差分)のバラツキを算出することが挙げられる。
上述したように拡張期雑音の信号は100〜1000Hzにかけて周波数帯域毎の傾き(差分)は一定を保ち緩やかに信号が弱くなっているが、拡張期雑音でない信号は100Hz付近で傾きが大きく、200Hz以降は傾きが小さくなっている。これは周波数帯域毎の傾きを求めてみると、拡張期雑音の信号ではバラツキが小さく、拡張期雑音でない信号はバラツキが大きいということが言える。
【0049】
更に第三の方法としては、0〜2000Hzの最大値、最小値から正規化を行い、正規化後の信号200〜1000Hzの値の和を算出することが挙げられる。拡張期雑音の信号には200〜1000Hzに雑音が存在し、信号が強い為200〜1000Hzの値の和は大きくなる。反対に拡張期雑音のない信号は200〜1000Hzの値が弱いため小さくなる。
【0050】
なお、周波数分布の特徴から拡張期雑音の特徴を算出する方法は上記第一から第三の方法に限定されるものではない。
【0051】
S04では設定した拡張期雑音を判定する所定の閾値とS03で算出した値とを比較する。比較した結果、II音の後に拡張期雑音があると判断すれば、S05にて拡張期雑音のカウントを一つプラスする。II音の後に拡張期雑音がないという判断をすれば拡張期雑音のカウントは変化させず、次のS06に進む。
【0052】
上記処理を一つのII音〜I音区間の信号だけに行なうだけだと、拡張期雑音がないにも関わらず偶発的なノイズによって拡張期雑音と認識してしまう可能性がある。これを防ぐ為に心音データの総てのII音〜I音区間の周波数分析結果を調査し、拡張期雑音が周期的に発生しているか調査する。S06では総てのII音〜I音区間の周波数分析結果を確認していなければ再度S02に戻り、上記処理を繰り返す。総てのII音〜I音区間の周波数分析結果を確認していればS07に進む。
【0053】
S07では、S05でカウントした拡張期雑音の数が心音データ内の総てのII音〜I音の数に対してどの程度の何割を占めているかを次式で算出する。
【0054】
([拡張期雑音の数]/[II音〜I音の数])×100 ・・・式(3)
【0055】
例えば、拡張期雑音としてカウントした数が3で、II音〜I音の全数が5だとすると、
(3/5)×100=60%
という値が算出できる。
【0056】
S08では周期性があるかどうかを判断する為所定の閾値と比較する。本実施形態ではS07で算出した値が閾値以上の場合に周期性があると判断する。周期性があると判断されれば、拡張期雑音と決定する(S09)。周期性がないと判断されれば拡張期雑音でないと決定する(S10)。
【0057】
以上のような処理を行ったのち、拡張期雑音検出部132は、心音データに拡張期雑音が含まれているかの結果と、信号FAと、をデータ処理部140に送る。
【0058】
次に、本第3実施形態における心雑音症例分類部に関して説明する。
心雑音症例分類部の構成は、第1実施形態で述べた心雑音症例分類部(すなわち
図1参照)と同様で、周波数帯域パワー抽出部151と、周波数帯域パワー割合算出部152と、症例判定部153と、を有している。しかし、心雑音検出部130にて拡張期雑音と判断されたか否かで、参照する周波数帯域を変更する。拡張期雑音が存在しない場合は、上記第1実施形態と同様の処理になるので説明は省略する。
以下では、拡張期雑音と判断された場合の症例分類方法を説明する。
【0059】
まず、拡張期雑音の症例について述べると、一般的に拡張期雑音が存在する場合はMS(僧帽弁狭窄症)かAR(大動脈弁閉鎖不全症)という症例であると言われており、MS(僧帽弁狭窄症)の拡張期雑音には0〜200Hzの低域に強い信号が存在し、AR(大動脈弁閉鎖不全症)には0〜200Hzの低域に強い信号は存在しない。そこで、心雑音症例分類部150において、0〜200Hzの低域に強い信号が存在するかどうかでMS(僧帽弁狭窄症)とAR(大動脈弁閉鎖不全症)との症例を分類する方法を示す。
【0060】
周波数帯域パワー抽出部151では、データ処理部140から入力された信号FAから所定の周波数帯域のパワーの和を算出し、周波数帯域パワー割合算出部152に出力する。
ここで本第3実施形態の所定の周波数帯域について説明する。
MS(僧帽弁狭窄症)は0〜200Hzに強い信号が存在し200Hz以降は徐々に信号が弱まる。これに対しAR(大動脈弁閉鎖不全症)は0〜400Hzのパワーの差は少なくなっている。よって、0〜200Hzのパワーと200〜400Hzのパワーを比較することで症例を分類することが可能となる。
0〜200Hzの周波数帯域のパワーの和と200〜400Hzの周波数帯域のパワーの和とをそれぞれをP5、P6とする。
【0061】
周波数帯域パワー割合算出部152では、周波数帯域パワー抽出部151から入力されたP5とP6の割合を求める。式(4)からP5とP6とのパワー比であるR2とR3とを求める。
【0063】
図15はR2とR3とを比較した図である。
図15(A)に示すように、MS(僧帽弁狭窄症)ではR2の方が割合が大きいことがわかる。これは、より低域に強いパワーが存在していることを証明している。これに対し、
図15(B)に示すように、AR(大動脈弁閉鎖不全症)ではR2とR3との割合がほぼ同じとなっており、0〜200Hzの帯域に特別強い信号は存在していないことを示している。
【0064】
症例判定部153では、R2の割合を症例を分類する為の所定閾値と比較する。本第3実施形態では、R2の割合が閾値以上あればMS(僧帽弁狭窄症)、閾値未満であればAR(大動脈弁閉鎖不全症)であるという判断を行う。
【0065】
MS(僧帽弁狭窄症)とAR(大動脈弁閉鎖不全症)との症例分類の方法はこれに限らず、別の方法を用いても良い。例えば、拡張期雑音を検出する際に用いたII音〜I音区間の平均パワーの線形近似曲線の傾きを用いても良い。低域に強い信号があるということは、それに比例して傾きも大きくなる。これを利用して、MS(僧帽弁狭窄症)とAR(大動脈弁閉鎖不全症)との症例を分類するなどしても良い。
【0066】
第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態による症例分類を
図16にまとめた。
図16(A)は、第1実施形態および第2実施形態による症例分類である。
第1実施形態と第2実施形態とでは収縮期雑音を検出し、MR(僧帽弁閉鎖不全症)と、AS(大動脈弁狭窄症)と、その他に症例と、を分類することが可能であった。
【0067】
一方、
図16(B)は、第3実施形態を第1実施形態および第2実施形態に追加した場合の症例分類を示し、第3実施形態の拡張期雑音検出を追加することによってMS(僧帽弁狭窄症)およびAR(大動脈弁閉鎖不全症)という症例も分類することができ、より詳細に心雑音の症例を分類することができる為、心雑音症例分類精度の向上にも繋がる。また、第3実施形態の拡張期雑音検出を追加することによって心雑音の検出精度をより向上させることができる。
【0068】
以上の様に心雑音検出精度を向上させる事で心雑音の検出精度を向上させ、MR、MS、AR、AS、その他の症例を正確に分類でき、心雑音症例分類精度を向上させる事ができる為、医療の拡充に貢献することができる。
【0069】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。