(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について、詳細に説明する。 ≪インク≫ まず、本発明のインクについて説明する。 ところで、昇華転写を利用した布帛等に対する染色が、広く行われている。このような昇華転写を利用した染色方法としては、紙等のシート状の記録媒体に昇華性染料を含むインク(昇華転写用インク)をインクジェット方式により付与することにより中間転写媒体を得、布帛等の被染色物に前記中間転写媒体を重ねて、加熱により昇華転写する方法が用いられている。
【0013】
そして、昇華転写用インクにおいては、鮮明な色相が得られること、被染色体に対する染色特性(例えば、染色再現性、堅牢性、耐白場汚染性等)等の観点から、昇華性染料としては、分散染料が好ましく用いられている。しかしながら、従来においては、分散染料を用いた場合、インク中に分散染料を含む材料の凝集体としての異物が発生するという問題が発生し易かった。
【0014】
そこで、本発明者は、上記のような問題の発生を防止する目的で、鋭意研究を行った。その結果、以下に詳述するような本発明に至った。 すなわち、本発明のインクは、(A)水と、(B)分散染料と、(C)分散樹脂と、(D)下記式(1)で表される化合物又はHLBが15以上で下記式(2)で表される化合物の少なくとも1種とを含み、前記(C)の含有質量に対する前記(D)の含有質量の比率が、4%以上50%以下であることを特徴とする。
【0015】
RO(CH
2CH
2O)
mSO
3−M
+ ・・・ (1) RO(CH
2CH
2O)
mH ・・・ (2)(式(1)、式(2)中、Rは炭素数が8以上20以下のアルキル基またはアルケニル基、式(1)、式(2)中、mは2以上50以下の整数、式(1)中、M
+はアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンを表す。) これにより、上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、発色性に優れた染色物の製造に好適に用いることができるとともに、保存安定性に優れ、長期にわたって異物の発生が効果的に防止されるインクを提供することができる。
【0016】
以下、本発明のインクを構成する各成分について詳細に説明する。 <成分(A)> 本発明のインクは、成分(A)としての水を含む。 水は、後に詳述する分散染料を分散させる分散媒として機能するものである。 このように、インク(昇華転写用インク)が水を含むことにより、インクの粘度、表面張力が、好ましい範囲に含まれるように好適に調整することができ、インクのインクジェット方式による吐出性を優れたものとすることができる。また、水は、インクジェット方式による吐出後に容易に除去することのできる成分であるため、染色物の生産性を高めるうえでも重要である。また、水は、人体等に対する安全性が極めて高い物質であるため、染色物の製造において、作業者の安全を確保する上でも重要である。 インク中における水の含有率は、特に限定されないが、60質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、70質量%以上85質量%以下であるのがより好ましい。
【0017】
<成分(B)> 本発明のインクは、成分(B)としての分散染料を含む。 分散染料は、インク中において分散媒中に分散するものであり、加熱により昇華する性質を有する染料(昇華性染料)である。 分散染料は、各種着色剤の中でも、鮮明な色相が得られること、被染色体に対する染色特性(例えば、染色再現性、堅牢性、耐白場汚染性等)等の点で優れている。
【0018】
その一方で、従来のインクにおいては、分散染料を含む場合に、インク中に分散染
料を含む材料の凝集体としての異物が発生するという問題が発生し易かったが、本発明においては、このような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、本発明によれば、分散染料を用いることの利点を発揮させつつ、上記のような問題の発生を防止することができる。
【0019】
分散染料の具体例としては、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0020】
中でも、インクの保存安定性の観点からは、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ20、25、25:1、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、53、55、55:1、59、60、65、70、75、146、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー26、26:1、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111等が好ましい。
【0021】
インク中における分散染料の含有率は、特に限定されないが、1.0質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、2.0質量%以上8.0質量%以下であるのがより好ましい。これにより、十分な染着濃度と、吐出性や放置回復性といったインクジェット特性とを、より高いレベルで両立できる。また、インク中に複数種の分散染料が含まれる場合、これらの含有率の総和が前記範囲内の値であるのが好ましい。
【0022】
<成分(C)> 本発明のインクは、成分(C)としての分散樹脂を含む。 このような分散樹脂を含むことにより、インク中における分散染料の分散安定性、インクの保存安定性、インクジェット方式による液滴の吐出安定性を優れたものとすることができる。特に、本発明においては、分散樹脂とともに、後に詳述する成分(D)を所定の割合で含むことにより、インク中における分散染料の分散安定性、インクの保存安定性、インクジェット方式による液滴の吐出安定性を非常に優れたものとすることができる。
【0023】
分散樹脂としては、例えば、公知の分散樹脂を用いることが可能であり、好ましい具体例としては、スチレン−アクリル共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリカルボン酸塩等のアニオン系分散樹脂が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。インクは、前記した分散樹脂の中でも、スチレン−アクリル共重合体を含むものであるのが好ましい。これにより、高温環境下でのインクの保存安定性を特に優れたものとすることができる。
【0024】
インク中における分散樹脂の含有率は、特に限定されないが、0.3質量%以上7.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましい。これにより、前述のインクの保存安定性を特に優れたものとしつつ、且つインク粘度を適正に保つことができ、インク吐出性を特に良好に維持できる。また、インク中に複数種の分散樹脂が含まれる場合、これらの含有率の総和が前記範囲内の値であるのが好ましい。
【0025】
分散染料(成分(B))の含有質量に対する分散樹脂(成分(C))の含有質量の比率、すなわち、インク中における分散染料(成分(B))の含有率をX
B[質量%]、インク中における分散樹脂(成分(C))の含有率をX
C[質量%]とした場合における、(X
C/X
B)×100の値は、30%以上70%以下であるのが好ましく、35%以上65%以下であるのがより好ましい。このような関係を満足することにより、高温環境下でのインクの保存安定性を特に優れたものとしつつ、且つインク粘度をより適正に保つことができ、インク吐出性をより良好に維持できる。
【0026】
<成分(D)> 本発明のインクは、成分(D)として、下記式(1)で表される化合物、および/または、HLBが15以上で下記式(2)で表される化合物を含む。 RO(CH
2CH
2O)
mSO
3−M
+ ・・・ (1) RO(CH
2CH
2O)
mH ・・・ (2)(式(1)、式(2)中、Rは炭素数が8以上20以下のアルキル基またはアルケニル基、式(1)、式(2)中、mは2以上50以下の整数、式(1)中、M
+はアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンを表す。)
【0027】
本発明では、このような成分(D)を、所定の割合で、前述した成分(C)(分散樹脂)とともに含むことにより、インク中における分散染料の分散安定性、インクの保存安定性、インクジェット方式による液滴の吐出安定性を非常に優れたものとすることができる。 本発明において、分散樹脂(成分(C))の含有質量に対する成分(D)の含有質量の比率、すなわち、インク中における分散樹脂(成分(C))の含有率をX
C[質量%]、インク中における成分(D)の含有率をX
D[質量%]とした場合における、(X
D/X
C)×100の値は、4%以上50%以下である。これにより、インク中における分散染料の分散安定性、インクの保存安定性、インクジェット方式による液滴の吐出安定性を非常に優れたものとすることができる。これに対し、分散樹脂(成分(C))の含有質量に対する成分(D)の含有質量の比率((X
D/X
C)×100の値)が小さすぎる場合には、期待する異物抑制効果が十分に得られない。また、分散樹脂(成分(C))の含有質量に対する成分(D)の含有質量の比率((X
D/X
C)×100の値)が大きすぎる場合には、インク粘度が高くなり過ぎ、吐出の安定性に悪影響を及ぼす。
【0028】
上記のように、本発明において、分散樹脂(成分(C))の含有質量に対する成分(D)の含有質量の比率((X
D/X
C)×100の値)は、4%以上50%以下であればよいが、10%以上30以下であるのが好ましい。これにより、インク保存安定性をさらに優れたものとすることができ、インク保存時等における異物の発生を大幅に抑制できる。 特に、成分(D)として式(1)で表される化合物を含む場合、インクの粘度をより低く抑えることができるため、インクジェット法により吐出されるインクの設計の自由度が増す。 また、成分(D)として式(2)で表される化合物を含む場合、インク中における分散染料の分散安定性、インクの保存安定性、インクジェット方式による液滴の吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0029】
式(1)中のM
+は、アルカリ金属イオンまたはアンモニウムイオン(第一級アンモニウムイオンのほか、第二級アンモニウムイオン、第三級アンモニウムイオン、第4級アンモニウムイオンを含み、さらに、アルカノールアミンのアンモニウムイオンも含む)であればよいが、アンモニウムイオン(特に、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンによるアンモニウムイオン)であるのが好ましい。これにより、インクジェット方式によるインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができる。 式(2)で表される化合物は、HLBが15以上である。これにより、インク保存性を確保しつつ、且つ異物の発生を抑制できる。なお、本発明において、HLBは、グリフィン法により算出される値であり、HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量で定義される。
【0030】
式(1)、式(2)中のRは、炭素数が8以上20以下のアルキル基またはアルケニル基であればよいが、特に、オレイル基またはラウリル基であるのが好ましい。これにより、インク中における成分(D)の溶解性を特に優れたものとし、インクの吐出安定性を特に優れたものとしつつ、インク中における分散染料の分散安定性(特に長期にわたる分散安定性)を特に優れたものとすることができる。 式(1)、式(2)中のmは、2以上50以下の整数であればよいが、20以上30以下の整数であるのが好ましい。これにより、インクの粘度を最適なものとし、インクジェット方式による液滴の吐出安定性を特に優れたものとしつつ、インク中における分散染料の分散安定性(特に長期にわたる分散安定性)を特に優れたものとすることができる。
【0031】
インク中における成分(D)の含有率は、0.1質量%以上1.0質量%以下であるのが好ましい。これにより、異物の発生をより効果的に抑制しつつ、且つインク粘度をより適正に保つことができ、インク吐出性を特に良好なものとして維持できる。また、インク中に複数種の成分(D)が含まれる場合、これらの含有率の総和が前記範囲内の値であるのが好ましい。
【0032】
<その他の成分> 本発明のインクは、前述したような成分(成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D))以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、このような成分としては、例えば、水以外の溶剤(分散媒成分)、トレハロース類、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、ポリシロキサン化合物、トレハロース類以外のポリオール化合物等が挙げられる。
【0033】
トレハロース類とは、2分子のグルコース同士が還元性基同士で結合した二糖類のことをいい、α,α−トレハロース(O−α−D−グルコピラノシル α−D−グルコピラノシド。以下、「トレハロース」という)、α,β−トレハロース(以下、「ネオトレハロース」という)、および、β,β−トレハロース(以下、「イソトレハロース」という)等が挙げられる。トレハロース類を含むことにより、加熱時(転写工程等)において煙状の蒸気(スモーク)が発生しにくく、染色物の製造時の作業性を特に優れたものとすることができる。
【0034】
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えば、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられ、ピリジンオキシド系化合物としては、例えば、ソジウムピリジンチオン−1−オキサイド、ジンクピリジンチオン−1−オキサイド等が挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば、1−ベンズイソチアゾリン−3−オンのアミン塩、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネ
シウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0035】
インクがpH調整剤を含むことにより、インクの保存安定性等を特に優れたものとすることができる。また、インクを用いて製造される染色物の信頼性を特に優れたものとすることができる。 pH調整剤としては、例えば、インクのpHを6.0以上11.0以下の範囲に制御できるものを好適に用いることができる。このようなpH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸等が挙げられる。
【0036】
キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。 防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0037】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物、いわゆる蛍光増白剤(ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物)等が挙げられる。 消泡剤としては、例えば、高酸化油系化合物、グリセリン脂肪酸エステル系化合物、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、アセチレン系化合物等が挙げられる。 表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えば、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0038】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。 両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0039】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。 ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系界面活性剤;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
インクがポリシロキサン化合物を含むことにより、インクジェット方式による液滴吐出の吐出応答性を向上させることができる。ポリシロキサン化合物としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。 インクは、トレハロース類以外のポリオール化合物を含むものであってもよい。トレハロース類以外のポリオール化合物としては、例えば、分子内の炭素数が2以上6以下であり、かつ、分子内にエーテル結合を1つ有してもよいポリオール化合物(好ましくはジオール化合物)等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられ、これらの中でも、スモーク抑制の観点から、沸点が200℃以下であるポリオールが好ましく、例えば、プロピレングリコールが挙げられる。
【0041】
インクの表面張力(25℃における表面張力)は、20mN/m以上70mN/m以下であるのが好ましく、20mN/m以上50mN/m以下であるのがより好ましい。なお、インクの表面張力は、例えば、表面張力計CBVP−A3(協和界面科学株式会社製)を用いた、JIS K3362に準拠した測定により求めることができる。 また、インクの粘度(25℃における粘度)は、2mPa・s以上20mPa・s以下であるのが好ましい。これにより、インクの吐出安定性(吐出量の安定性、液滴の飛行特性等)、吐出応答性(応答速度、高周波対応性(周波数特性)等)等を特に優れたものとすることができる。なお、インクの粘度は、振動式粘度計を用いた、JIS Z8809に準拠した測定により求めることができる。
【0042】
また、本発明のインクは、再充填(リフィル)可能なインク収容容器(インク収容部)を備えた液滴吐出装置に適用されるものであるのが好ましい。再充填可能なインク収容容器を備えた液滴吐出装置では、インクを構成する水が揮発し固形分濃度が上昇し易いため、インク中における異物の発生や、これに伴う問題(インクジェット法による液滴の吐出安定性の低下等)を引き起こし易かった。これに対し、本発明のインクは、再充填可能なインク収容容器を備えた液滴吐出装置に適用されるものであっても、上記のような問題の発生を効果的に防止することができる。したがって、再充填可能なインク収容容器を備えた液滴吐出装置に適用されるものである場合に、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0043】
以下、本発明のインクが適用される液滴吐出装置の具体的な構成の一例について説明する。
図1は、インク収容容器を備えた液滴吐出装置(プリンター)の一例を示す斜視図、
図2は、インク収容容器が装着部に装着された状態を示す斜視図、
図3は、インク収容容器をスライダーが分離された状態で示す斜視図、
図4は、開閉カバーが開蓋位置に位置した状態のインク収容容器を示す図であって、(a)は、注入口を被覆体で被覆している状態を示す斜視図、(b)は、注入口から被覆体を取り外した状態を示す斜視図、
図5は、インク収容体の平面図、
図6は、インク収容体の断面構造を示す図であって、
図5におけるA−A線矢視断面図、
図7は、インク収容体の断面構造を示す図であって、(a)は
図5におけるB−B線矢視断面図、(b)は
図5におけるC−C線矢視断面図、
図8は、フィルムが接着された収容体ケースの側面図、
図9は、インクを注入する際のインク収容容器とインク収容源の位置関係を示す斜視図、
図10は、インクを注入する際のインク収容容器とインク収容源の位置関係を示す部分断面側面図、
図11は、インク収容容器が備える被覆部材の固定部を中心とした回動範囲を示す平面図である。
【0044】
図1に示すように、本実施形態のプリンター(液滴吐出装置)11は、車輪12が下端に取り付けられた脚部13と、脚部13上に組み付けられる略直方体状の装置本体14とを備えている。なお、本実施形態においては、重力方向に沿う方向を上下方向Zとし、この上下方向Zと交差(本実施形態では直交)する装置本体14の長手方向を左右方向Xとする。また、上下方向Zおよび左右方向Xの双方と交差(本実施形態では直交)する方向を前後方向Yとする。
【0045】
図1に示すように、装置本体14の後部には、上方に向けて突出する給送部15が設けられている。給送部15内には、長尺の媒体としての用紙(記録媒体)Sが円筒状に巻き重ねられたロール紙Rが装填されている。装置本体14の外装を構成する筐体部16において、給送部15の前側となる位置には給送部15から送り出される用紙Sを筐体部16内へ導入するための挿入口17が形成されている。
【0046】
一方、装置本体14の前面側には、用紙Sを筐体部16外に排出するための排出口18が形成されている。なお、筐体部16内には、給送部15から給送された用紙Sを挿入口17側から排出口18側に向けて搬送する図示しない媒体搬送機構が収容されている。そして、装置本体14の前面側において排出口18よりも下方となる位置には、排出口18から排出された用紙Sを受ける媒体受けユニット19が設けられている。
【0047】
また、装置本体14の上部において、左右方向Xで用紙Sの搬送経路の外側となる一端側(
図1では右端側)には、設定操作や入力操作を行うための操作パネル20が設けられている。さらに、装置本体14の下部において、左右方向Xで用紙Sの搬送経路の外側となる一端側(
図1では右端側)には、インクを収容可能なインク収容容器21が固定されている。
【0048】
インク収容容器21は、インクの種類や色に対応して、複数(図示の構成では4つ)設けられている。そして、複数のインク収容容器21が左右方向Xに並ぶように配置されることでインク収容ユニット22を構成している。なお、インク収容ユニット22は、装置本体14に各インク収容容器21が固定された状態において、装置本体14の前方側(外方側)に露出した部分を有している。そして、インク収容ユニット22は、その露出した部分の左右方向Xの両側および上下方向Zの下側が、装置本体14側に固定された断面略U字状をなすフレーム部材23により覆われている。
【0049】
また、筐体部16内には、インク吐出ヘッド24を搭載したキャリッジ25が主走査方向となる左右方向Xに往復移動可能な状態で収容されている。なお、筐体部16内には、インク収容容器21に収容されたインクをインク吐出ヘッド24に向けて供給するための図示しないインク供給機構が収容されている。そして、媒体搬送機構によって搬送される用紙Sに対してインク吐出ヘッド24からインク滴を噴射することで記録(印刷)が行われ、こうしたインク滴の噴射を通じてインク収容容器21内のインクが消費される。
【0050】
次に、インク収容容器21を装置本体14に対して固定状態に装着する装着部31および該装着部31を介して装置本体14に固定されるインク収容容器21について説明する。なお、
図2では、図の複雑化を回避するため、各インク収容容器21からインク吐出ヘッド24側へインクを供給するインク供給機構の一部である供給部32が一つのみ図示されているとともに、その図示された一つの供給部32に対応するインク収容容器21
が、二点鎖線および白抜き矢印で示されるように装着部31に装着される前の状態で図示されている。また、
図3では、インク収容容器21を構成するインク収容体33とスライダー(副保持部材)34とが分離した状態で図示されている。
【0051】
図2に示すように、プリンター11には、鉛直方向(上下方向Z)において所定の間隔を空けて配設された上枠35と下枠36とを有する装着部31が設けられている。また装着部31には、インク供給機構の一部である供給部32が、各インク収容容器21に対応して取り付けられている。なお、
図2では、上枠35は左右方向Xにおいて一部を破断して除去した状態で図示されている。
【0052】
インク収容容器21は、この装着部31内に長手方向の一端側(
図2では右端側)を位置させた状態でプリンター11に対して移動不能に固定される。そして、プリンター11に固定された状態で、インク収容容器21に収容されたインクが、装着部31における各インク収容容器21の一端側に対応して取り付けられた供給部32によって、インク吐出ヘッド24側へそれぞれ供給される。したがって、本実施形態では、インク収容容器21がプリンター11の装着部31に装着されてプリンター11に対して移動不能に固定された状態が、インク収容容器21の使用時の姿勢状態となる。
【0053】
さて、
図2および
図3に示すように、インク収容容器21は、インクを収容するインク収容体33と、このインク収容体33に対して鉛直方向における反重力方向となる上側に重なって配設されたスライダー34とを備えている。 インク収容体33は、略水平方向において装置本体14の長手方向と直交する方向を長手方向(前後方向Y)とし、これと略水平方向において直交する短手方向(左右方向X)に一定幅を有する側面視略L字形状の直方体形状をしている。すなわち、インク収容体33は、その短手方向(左右方向X)から見たその側面形状が、略正方形を呈する第1収容体部37と、第1収容体部37よりも後側で前後方向Yに長い略長方形を呈する第2収容体部38とを有している。そして、インク収容体33の上面39には、長手方向(前後方向Y)に段差なく連続して延びる平坦面部41,42が短手方向の両端部において形成され、この平坦面部41,42に沿ってスライダー34が摺動可能とされている。一方、インク収容体33の下面40は、その長手方向(前後方向Y)において、第1収容体部37の方が第2収容体部38よりも下がった段差面を呈する形状とされている。
【0054】
そして、本実施形態では、第1収容体部37の下面に設けられた被固定部37a(
図8参照)が装置本体14側に設けられた固定部(図示略)に対してねじを用いてねじ止めされることにより、インク収容容器21はプリンター11に対して移動不能に固定される。そして、ねじ止めにより固定されたインク収容体33は、第2収容体部38のおよそ全部がプリンター11の装置本体14内に位置する第2部位となる一方、第1収容体部37がプリンター11の装置本体14外に位置することによって装置本体14の前方に露出する第1部位となる。
【0055】
さらに第2収容体部38には、その長手方向において第1収容体部37側とは反対側となる後端側に、インク収容体33を構成する筐体部材(
図5に示す収容体ケース130)とは別部材で形成され、第2収容体部38に対して相対移動可能に取り付けられた接続部43が備えられている。この接続部43には、装着部31側に取り付けられた供給部32が備えるインクの供給針44へインク収容体33内に収容されたインクを導くインク流路と、同じく供給部32が備えるインクの残量検出棒45へインク収容体33内のインクの有無状態を伝達する伝達機構が形成されている。
【0056】
次に、スライダー34について説明する。
図3に示すように、インク収容体33においてプリンター11外に位置する第1部位には、インク収容体33の上面39に、インク収容体33内にインクを注入する注入口(注入口部)73が設けられている。本実施形態では、第1収容体部37が第1部位に相当し、注入口73は、この第1収容体部37に設けられている。そして、プリンター11外に位置する注入口73がインクの注入時以外は露出しないように、スライダー34によって覆うことが可能な構成とされている。
【0057】
すなわち、スライダー34は、長手方向を有する略矩形形状であって、インク収容体33の上面39と略重なる外形形状で形成されている。そして、スライダー34は、その一端側が装着部31内に挿入されることによりインク収容体33の上面39と略重なった状態に配設された際に、インク収容体33に設けられたインクの注入口73の上方を、開閉自在な開閉カバー74によって覆う構成とされている。具体的には、スライダー34には、その長手方向の端部において、注入口73を被覆する位置と開放する位置との間で変位する開閉カバー74が備えられている。なお、以下の説明において、「挿入方向」という場合は、特にことわらない限り、装着部31に対するスライダー34の「挿入方向」を示すものとする。
【0058】
本実施形態では、開閉カバー74は、注入口73を覆う状態で注入口73よりも第2収容体部38(第2部位)側となる位置において、インク収容体33の短手方向に沿って延びる軸線が回転中心となるようにスライダー34に回動自在に軸支されている。したがって、
図3において二点鎖線で示すように、注入口73を開放する場合は、使用者が、スライダー34の長手方向の前端側となる開閉カバー74の手前側を持ち上げて第2収容体部38側となるプリンター11側へ約180度回動させることが可能とされている。
【0059】
この結果、開閉カバー74を、
図3において実線で示す注入口73の被覆状態から、
図3において二点鎖線で示すように注入口73の開放状態とすることによって、注入口73に対して後側に位置させるように変位可能とされている。なお、本実施形態では、注入口73はインク収容体33の第1収容体部37における前側の端部付近に設けられ、開閉カバー74が注入口73を覆うために必要な前後方向Yの長さが、長くならない構成とされている。
【0060】
また、スライダー34には、装着部31への挿入方向奥側の端部34aにおいて、注入口73からインク収容体33に注入されたインクに関する関係情報を記録した記憶部の一例としての記録チップ75を載置可能な記憶部保持部材の一例としてのチップホルダー76が取り付けられて備えられている。そして、スライダー34がインク収容体33の上面39と重なる状態で装着部31内に挿入された際に、このチップホルダー76に取り付けられた記録チップ75が、プリンター11の装着部31側に設けられた通信部77と係合可能とされている。この通信部77との係合によって、チップホルダー76に載置された記録チップ75が通信部77に備えられた電気端子78と接触して電気的に接続される。この結果、記録チップ75に記録された関係情報がプリンター11側に伝達される。
【0061】
なお、本実施形態のプリンター11では、スライダー34は、インク収容体33の上面39と重なった状態でプリンター11の装着部31内へ挿入された際に、接続部43とともに、装着部31に取り付けられた一対の板ばね79によって、プリンター11内において位置決めされる。 すなわち、
図2に示すように、鉛直方向において、上枠35と下枠36とに、それぞれ挿入方向に向かって互いの間隔が狭くなる斜め形状を有する板ばね79がねじによって固定されている。そして、上枠35の板ばね79が、スライダー34に備えられたチップホルダー76に設けられた突起部位80と付勢状態で当接する一方、下枠36の板ばね79が、接続部43に設けられた突起部位(図示せず)と付勢状態で当接する。この結果、スライダー34(チップホルダー76)および接続部43は上下方向Zにおいて一対の板ばね79によって位置決めされる。
【0062】
また、インク収容体33と重なった状態で挿入されたスライダー34とインク収容体33の第2収容体部38とは、ともに装着部31において位置決めされた状態とされる。すなわち、
図2に示すように、装着部31の上枠35には、スライダー34の上面側に長手方向に沿って延設された凸条部82が摺接しながら挿入される案内溝(不図示)が下面に設けられている。また、装着部31の下枠36には、インク収容体33の下面側において長手方向に沿って延設された凸条部(図示せず)が係合する案内溝84が上面に設けられている。したがって、スライダー34および第2収容体部38は短手方向がそれぞれの凸条部と案内溝との係合によってそれぞれ位置決めされる。この結果、スライダー34(およびこのスライダー34に取り付けられたチップホルダー76)と、第2収容体部38に備えられた接続部43とは、それぞれ短手方向において位置決めされる。
【0063】
インク収容容器21では、スライダー34に備えられるチップホルダー76および開閉カバー74は、スライダー34に対して着脱自在に取り付けられる。そして、これらが取り付けられた状態で、スライダー34はインク収容体33の上面39に対して摺動可能に構成されている。換言すれば、インク収容体33がプリンター11に固定された状態で、スライダー34は装着部31に対して挿抜可能に構成されている。
【0064】
次に、インク収容容器21における注入口73の周辺構成について説明する。
図4(a)に示すように、インク収容体33の上面39における前側部分には、上下方向Zと交差する方向に沿って延びる液受部としての液受面116が形成されている。液受面116は、その平面視において略矩形形状をなし、その左右方向Xにおける幅寸法はインク収容体33の左右方向Xにおける幅寸法に対しわずかに小さくなっている。
【0065】
また、インク収容体33の上面39には、液受面116の周囲を囲うようにして、液受面116と交差する上方向(反重力方向)に周壁部117が突設されている。そして、周壁部117の前側の壁部分には、その左右方向Xにおける略中央において、周壁部117の他の部分よりも下方に凹む切り欠き溝118が形成されている。すなわち、本実施形態では、凹部としての切り欠き溝118は、注入口73の周辺位置としての周壁部117に形成されている。一方で、周壁部117の後側の壁部分には、該壁部分と交差しつつ後方に延びる一対の補強リブ119が形成されている。
【0066】
また、液受面116には、略円筒形状をなすとともに注入口73(
図4(b)参照)を被覆したり開放したりすることができる被覆体120を備える被覆部材121が載置されている。被覆体120には、その上側面から上方向に突出する略円柱状をなす、つまみ部122が形成されている。つまみ部122は、使用者が注入口73から被覆体120を取り外したり、逆に注入口73を被覆体120で被覆させたりする際に把持される部位となっている。
【0067】
また、被覆部材121は、
図4(a)に示す状態において、被覆体120を備えている前側とは反対側となる後側に、被覆部材121を液受面116に固定するための固定部123を備えている。固定部123は、液受面116に開口形成される固定孔124(
図5参照)に、該固定孔124の軸線を回転中心に回転可能かつ、液受面116から脱離不能に固定されている。従って、被覆部材121は、液受面116に対し固定部123を回転中心に回転可能とされる一方、液受面116から容易に取り外れないようになっている。ただし、被覆部材121は、固定部123を含めて新たな被覆部材121に交換することは可能とされている。
【0068】
また、被覆部材121は、液受面116上に載置された状態で、上下方向Zと交差する方向に複数回(本実施形態では左右方向Xに3回)屈曲されつつ被覆体120および固定部123を連結する連結部125を備えている。連結部125は、その延設方向における断面形状が矩形形状をなすとともに、その矩形断面形状において液受面116と
交差する方向(上下方向Z)の長さよりも液受面116と沿う方向の長さのほうが長くなっている。このため、連結部125は液受面116に載置された際に、該液受面116との接触面積が大きくなり、液受面116上に安定して載置されている。
【0069】
また、被覆部材121を構成する被覆体120、連結部125、および固定部123はゴムや樹脂等のエラストマー等で形成され弾性変形可能とされている。従って、
図4(a)に示す状態において、被覆体120は弾性変形した状態で注入口73に嵌合することで、被覆体120および注入口73の間に隙間が生じないように注入口73を被覆している。
【0070】
図4(b)に示すように、開蓋位置にある開閉カバー74の裏面(底面)74aには、注入口73から取り外された被覆体120を載置することが可能とされている。また、開閉カバー74の裏面74aの面積は、被覆体120を上下方向Zと沿う方向に投影した場合の投影面積よりも大きくなっているため、被覆体120をより安定して載置することが可能とされている。
【0071】
さらに、開閉カバー74の裏面74aは、該開閉カバー74が開蓋位置に位置した状態(
図4(a)に示す状態)において、注入口73のある前方に向かって下り勾配の面となっている。また、開蓋位置に位置した開閉カバー74の裏面74aの両側端では、カバー側壁部91a,92aが上方向に向かった状態となっている。従って、カバー側壁部91a,92aは、開蓋位置に位置する開閉カバー74の裏面74aにインクが付着した被覆体120を載置した際に、該インクが開閉カバー74から外部に漏れ出ることを抑制する遮蔽部としても機能する。
【0072】
図4(b)は、被覆体120を注入口73から取り外すとともに、該被覆体120を開閉カバー74の裏面74aに載置した状態のインク収容容器21を示している。
図4(b)に示すように、液受面116の一部に開口形成された注入口73が露出することで、使用者は該注入口73を介してインク収容体33の内部(第1インク室151(
図8参照))にインクを注入することが可能とされている。また、注入口73の上端縁となる開口縁73aは、面取りされることで斜状に形成され、インクを注入する際に該インクが注入口73内へ流動し易くなっている。
【0073】
また、
図4(b)に示すように、被覆部材121の連結部125の長さは、開蓋位置に位置した状態の開閉カバー74の裏面74aに被覆体120を載置可能なだけの長さとされている。なお、
図4(b)に示す状態において、連結部125はわずかに伸張された状態にある一方、被覆体120は開閉カバー74の裏面74aに載置された状態かつ開閉カバー74のフック部位110と当接した状態にある。
【0074】
図5に示すように、液受面116における周壁部117の後側(
図5では右側)の壁部分近傍には、被覆部材121の固定部123が挿入されて固定される固定孔124が液受面116と交差する方向に開口形成されている。固定孔124は、該固定孔124の左右方向Xにおける中心位置が、注入口73の左右方向Xにおける中心位置と略一致するように設けられている。なお、固定孔124は、注入口73と同様に液受面116上に開口形成されているが、第1インク室151には連通していない。
【0075】
図6に示すように、液受面116は前後方向Yにおいて、注入口73に向かって下方(重力方向)に傾斜するように形成されている。従って、注入口73から離れた位置となる固定孔124の近傍は、液受面116において最も高い位置となっている。つまり、固定孔124に固定される被覆部材121の固定部123は、液受面116において注入口73の周囲よりも高い位置に位置しているため、注入口73にインクを注入する際等にインクが液受面116上を流動しても該インクが付着し難くなっている。 また、
図7(a)に示すように、液受面116は左右方向Xにおいても、注入口73に向かって下方に傾斜するように形成されている。さらに、
図7(b)に示すように、液受面116は注入口73から離れた固定孔124寄りの位置においては、左右方向Xにおける中央に向かって下方に傾斜するように形成されている。
【0076】
次に、インク収容容器21におけるインク注入に係る作用について説明する。 さて、インク収容体33にインクを注入する際には、
図4(a)に示すように開閉カバー74を開蓋位置に変位させるとともに、
図4(b)に示すように開閉カバー74の裏面74aに被覆体120を載置して注入口73を露出させる。 このとき、使用者は、被覆体120を注入口73から取り外した後に、被覆部材121を液受面116に対し固定部123を回転中心に任意の角度(本実施形態では180度)だけ回転させて、開閉カバー74の裏面74aに被覆体120を載置させる。また、
図4(b)に示す状態では、開閉カバー74の裏面74aは、液受面116よりも上下方向Zにおいて高い位置に位置することから、被覆体120を開閉カバー74の裏面74aに載置した状態では、連結部125はわずかに伸張された状態にある。すると、連結部125の弾性変形(伸張)に伴う復元力が、被覆体120を開閉カバー74から前方に向かって作用する。この点、本実施形態では、被覆体120は、開閉カバー74のフック部位110と当接しているため、被覆体120が開閉カバー74から転落等することが抑制される。また、開蓋位置に位置する開閉カバー74の裏面74aは、フック部位110が形成される側が最も低くなる状態となるため、例えば、インクが付着した被覆体120を開閉カバー74の裏面74aに載置したとしても、該インクが開閉カバー74の全面に(特に後方の面域に)拡がってしまうことが抑制される。
【0077】
そして、
図9および
図10に示すように、重ね合わせたフィルム等の縁部128を溶着するとともに注ぎ口127を形成したインク注入源126からインク収容体33にインクが注入される。このように、本実施形態では、インクは、再充填可能なインク収容容器21(インク収容体33)を備えたプリンター(液滴吐出装置)11に適用されるものであるが、上述したように、本発明のインクは、このようなプリンター(液滴吐出装置)に適用されるものであっても、インク中における異物の発生や、これに伴う問題(インクジェット法による液滴の吐出安定性の低下等)等の問題の発生が効果的に防止される。
【0078】
インクを注入する際には、インク注入源126の注ぎ口127近傍における縁部128を、インク収容体33の周壁部117に形成された切り欠き溝118に差し入れて当接させることで、インク注入源126をインク収容体33に対して位置決めさせる。そして、
図10に示すように、インク注入源126およびインク収容体33が当接する点を傾動中心に、インク注入源126を該インク注入源126の注ぎ口127が下方を向くように傾けることで、インク注入源126内のインクがインク収容体33の注入口73を介して第1インク室151内に注入される。
【0079】
このとき、使用者が勢いよくインク注入源126を傾けてしまうと、インク注入源126の注ぎ口127から流れ出るインクが注入口73から逸れ、液受面116における注入口73の周囲に注がれてしまうことがある。こうした場合にも、液受面116の周囲を囲う周壁部117が液受面116に注がれたインクを堰き止めることで、該インクが液受面116から外側に流れ出ることが抑制される。そして、液受面116は左右方向Xおよび前後方向Yにおいて、それぞれ注入口73に向かって下方に傾斜しているため、液受面116に付着したインクはその傾斜に沿って注入口73まで案内される。 インクの注入が終わると、
図4(a)に示すように開閉カバー74の裏面74aに載置された被覆体120でインク収容体33の注入口73を被覆させるとともに、
図2に示すように開閉カバー74を閉蓋位置に変位させて、注入作業が終了となる。
【0080】
また、
図11に示すように、複数のインク収容容器21を並設させて使用する状態において、一つのインク収容容器21(例えば左端)における被覆部材121の固定部123(固定孔124)から注入口73までの距離L6は、一つのインク収容容器21における固定部123から、当該一つのインク収容容器21と並設される他のインク収容容器21における注入口73までの距離L7よりも短くなっている。こうすることで、
図11に示すように、左端に位置するインク収容体33に対応して設けられる被覆部材121の被覆体120を、固定部123を回転中心として、並設されるインク収容体33の注入口73に向けたとしても(
図11では二点鎖線で図示)、該被覆体120は該注入口73を被覆することはできない。なお、距離L6,L7とは、
図11に示すように平面視における、固定部123(固定孔124)と注入口73との中心位置を結んだ距離を示している。
【0081】
次に、注入口73からインクを注入する際のインク収容体33内の作用について説明する。 さて、
図8に示すように、注入口73からインクが注入されると、第1インク室151の液面が上昇するとともに、壁連通開口155を介して第2インク室152にインクが流入する。なお、第1インク室151に形成された凹部154は、注入口73と前後方向Yに位置をずらして形成されるため、凹部154に異物が堆積していた場合であっても、異物の舞い上がりは抑制される。 なお、第1インク室151と第2インク室152は、壁通気開口156を介して連通している。そのため、第1インク室151と第2インク室152内の圧力が略同じとなるため、第1インク室151と第2インク室152におけるインクの液面は上下方向Zにおいて互いに略同じ高さとなるように上昇する。
【0082】
第3横斜リブ部158cと第4横斜リブ部158dには、両端にリブ連通開口161が形成されているため、インクはリブ連通開口161を通過し、インクの液面は第3横斜リブ部158cおよび第4横斜リブ部158dの両側で略同じ位置に位置する。さらに、インクは、第1横斜リブ部158aと第2横斜リブ部158bとフィルム133との間に形成される隙間を通過し、インクの液面が第1横斜リブ部158aおよび第2横斜リブ部158bよりも上方位置まで移動する。そして、さらにインクの液面が上昇すると、傾斜した底面152aを上るようにインクが広がるとともに、第4〜第9交差リブ部157d〜157iのリブ連通開口161をインクが通過して液面が上昇する。 さらに、交差リブ部157a〜157iには、それぞれリブ通気開口160が形成されている。そのため、第2インク室152において交差リブ部157a〜157iの両側の空間の圧力は略同じとなる。そのため、第2インク室152におけるインクの液面も上下方向Zにおいて互いに略同じ高さとなるように上昇する。
【0083】
ところで、注入口73を有するインク収容体33は、塵や埃などの異物が注入口73から混入し、異物自体が堆積したり、気液界面でインクが乾燥するなどしてインクそのものが異物となったりすることがある。なお、第1インク室151では、異物が対向面153および凹部154に堆積する。そして、壁連通開口155は、凹部154から離れて形成されているため、第2インク室152へのインクの流入に比べて異物の入り込みが抑制される。すなわち、注入口73から入った異物のうち、特にサイズが大きな異物や重量が大きな異物は第1インク室151に滞留しやすい。
【0084】
また、第2インク室152では、時間の経過に伴って前側の領域では横斜リブ部158a〜158dに異物が堆積するとともに、後側の領域では底面152aに異物が堆積する。そして、異物が堆積する横斜リブ部158a〜158dおよび底面152aは、前後方向Yと交差するように傾斜しているため、導出口(図示せず)からインクが導出されてインクの液面が低下すると、液面の移動に伴って堆積した異物が一方向(下る方向)に移動する。
【0085】
さらに、注入口73からインクを注入すると、インク
の注入に伴って気泡が入り込むことがある。そして、気泡が第2インク室152に侵入したり、溶け込んだ気体が第2インク室152で気泡になったりすると、気泡は上方へ移動し、横斜リブ部158a〜158dに到達する。この点、本実施形態では、横斜リブ部158a〜158dは、前後方向Yに対して交差しているため、気泡は傾斜した横斜リブ部158a〜158dに沿って移動して液面へ誘導される。 また、第2インク室152のインクは、流路開口(図示せず)から導出流路138を流動して導出口から導出される。
【0086】
≪染色物の製造方法≫ 以下、本発明のインクを用いた染色物の製造方法について説明する。 本実施形態の染色物の製造方法は、インクジェット法により本発明のインクを転写媒体に付与するインク付与工程と、布帛と、記録媒体に本発明のインクが付与されてなる転写媒体とを対向させた状態で、転写媒体を加熱することにより、分散染料を布帛に転写させる転写工程とを有する。
【0087】
<インク付与工程> まず、インクジェット方式により、転写媒体に本発明のインクを付与する。本発明のインクの付与は、例えば、上述したような液滴吐出装置(プリンター)を用いて行うことができる。 本工程において、インクは、最終的に形成すべき印刷パターンに対応するパターン(反転パターン)で付与される。
【0088】
なお、本発明のインクは、保存性に優れており、長期にわたって異物の発生が効果的に防止されるものであるため、インクジェット方式によるインクの吐出を安定的に行うことができ、不本意な、経時的な吐出インク量の変動等を効果的に防止することができる。これにより、不本意な品質のばらつきが効果的に防止された染色物を長期間にわたって安定的に製造することができる。
【0089】
転写媒体としては、布帛に対向する面側に粘接着剤層を有さないものを好適に用いることができる。粘接着剤層を有さないことにより、染色後の布帛の触感が損なわれてしまうことを防止しつつ、布帛に所望の形状の染色部をより確実に形成することができる。 記録媒体としては、例えば、普通紙、インク受容層が設けられた記録媒体(インクジェット用専用紙、コート紙等で呼称される)等を用いることができ、特に、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が設けられた紙を好適に用いることができる。これにより、記録媒体に付与したインクが乾燥する過程で、滲み等が抑制された中間記録物を得ることができ、また、加熱時においては、分散染料の昇華がより円滑に進行する。 また、転写媒体の製造(インク付与工程)では、複数種のインクを用いてもよい。これにより、例えば、表現することのできる色域をより広いものとすることができる。
【0090】
<転写工程> その後、布帛と、記録媒体に本発明のインクが付与されてなる転写媒体とを対向させた状態で、転写媒体を加熱する。これにより、転写媒体に付与されていた分散染料が布帛に転写され、目的とする染色物が得られる。 本工程での加熱温度は、140℃以上250℃以下であるのが好ましく、180℃以上200℃以下であるのがより好ましい。これにより、本工程において、分散染料を効率よくかつ確実に昇華・転写させることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。また、本工程において、必要以上に転写媒体を加熱しないことから、省エネルギーの観点等からも好ましい。
【0091】
また、本工程での加熱時間は、加熱温度にもよるが、20秒以上90秒以下であるのが好ましく、30秒以上60秒以下であるのがより好ましい。これにより、分散染料を効率よくかつ確実に昇華・転写させることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。また、染色物の製造全体におけるエネルギー使用量を抑制することができるため、両エネルギーの観点からも好ましい。
【0092】
また、本工程は、転写媒体を、布帛(被染色物)と対向させた状態で加熱することにより行えばよいが、転写媒体と布帛とを密着させた状態で加熱することにより行うのが好ましい。これにより、転写に要するエネルギーをより少なくすることができ、染色物の生産性を特に優れたものとすることができる。また、所望の形状の染色部をより確実に形成することができ、染色物の信頼性を特に優れたものとすることができる。
【0093】
布帛としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維等の繊維で構成されたものを用いることができる。また、前記から選択される2種以上の繊維の混紡品であってもよい。また、これらとレーヨン等の再生繊維あるいは木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡品を用いてもよい。 また、布帛は、反物等のシート状のものであってもよいし、Tシャツ等のような立体的な形状を有する物であってもよい。
【0094】
≪染色物≫ 本発明の染色物は、上述したような本発明のインクを用いて製造されたものである。これにより、発色性に優れた染色物を提供することができる。 本発明の染色物の用途は、いかなるものであってもよく、例えば、Tシャツ、トレーナー等の衣料品、のぼり旗等が挙げられる。
【0095】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。 本発明の染色物は、本発明のインクを用いて製造されたものであればよく、前述したような方法を用いて製造されたものに限定されない。 例えば、本発明の染色物は、上述したような工程に加え、さらに他の工程(前処理工程、中間処理工程、後処理工程)を有する方法を用いて製造されたものであってもよい。
【0096】
また、前述した実施形態では、液滴吐出方式(インクジェット法の方式)として、ピエゾ方式を用いる場合について中心的に説明したが、例えば、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いてもよい。 また、前述した実施形態では、インクが適用される液滴吐出装置(プリンター)として、再充填可能なインク収容容器を備えたものを中心に説明したが、本発明のインクが適用される液滴吐出装置は、例えば、使い捨てカートリッジが適用されるものであってもよい。
【実施例】
【0097】
[1]インク(昇華転写用インク)の製造 (実施例1) 以下のようにして、インクを製造した。 まず、分散染料としてのC.I.ディスパースレッド60と、分散樹脂としてのスチレン−アクリル共重合物と、式(2)で表される成分(D)(ただし、式(2)中のRがオレイル基、mが26、HLBが16.2の化合物)と、イオン交換水とからなる混合物を、0.2mm径ガラスビーズを用いてサンドミルにて、冷却下、約15時間分散化処理を行った。分散処理後、イオン交換水を加えて希釈し、次いで、該分散液をガラス繊維濾紙GC−50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径0.5μm)で濾過し、粒子サイズの大きい成分を除去した水性分散液を得た。 次に、上記のようにして得られた水性分散液をイオン交換水で希釈することにより、インク(昇華転写用インク)を得た。 得られたインクの組成は以下の通りである。
【0098】
C.I.ディスパースレッド60 5.0質量% スチレン−アクリル共重合物 2.5質量% 成分(D) 0.3質量% トリエチレングリコールモノメチルエーテル 3.0質量% グリセリン 15.0質量% トリエタノールアミン 0.5質量% イオン交換水 73.7質量% 合計 100質量%
【0099】
(実施例2〜9) インク組成を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてインクを得た。 (比較例1〜10) インク組成を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてインクを得た。
【0100】
前記各実施例および比較例のインクの組成を表1にまとめて示す。なお、表1中、C.I.ディスパースレッド60を「DR60」、C.I.ディスパースブルー359を「DB359」、C.I.ソルベントバイオレット13を「SV13」、分散樹脂としてのスチレン−アクリル共重合物を「StAc」、式(1)と同様のアニオン性化合物であるドデシジルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Diphenyl Ether Disulfonate)を「SDDED」で示した。
【0101】
また、重量平均分子量の欄には、HLC−8320GPC(池田理化社製)を用いた測定により求めた重量平均分子量の値を示した。また、前記各実施例のインクについての25℃における表面張力(表面張力計CBVP−A3(協和界面科学株式会社製)を用いた、JIS K3362に準拠した測定により求められた表面張力)は、いずれも、25mN/m以上40mN/m以下の範囲に含まれるものであった。また、前記各実施例のインクについての25℃における粘度(振動式粘度計を用いた、JIS Z8809に準拠した測定により求められた粘度)は、いずれも、2mPa・s以上20mPa・s以下の範囲に含まれるものであった。
【0102】
【表1】
【0103】
[2]インクの保存安定性の評価 [2.1]気液界面での異物の発生 前記各実施例および比較例のインクを、それぞれ、30mLをガラス瓶に入れ、大気開放状態の下40℃の環境下で7日間放置した。 その後、目視による観察を行い、気液界面での異物の発生について、以下の基準に従い評価した。 A:異物の発生が全く認められない。 B:異物の発生がわずかに認められる。 C:異物の発生がはっきりと認められる。
【0104】
[2.2]粘度変動量 前記各実施例および比較例のインクを、それぞれ、密閉したガラス瓶に入れ、70℃の環境下で7日間放置した。 その後、振動式粘度計を用いたJIS Z8809に準拠した測定により、各インクの粘度を求め、以下の基準に従い評価した。 A:加熱前後における粘度の変化量(変化率)が5%未満である。 B:加熱前後における粘度の変化量(変化率)が5%以上10%未満である。 C:加熱前後における粘度の変化量(変化率)が10%以上である。
【0105】
[2.3]分散質の粒径変動量 前記各実施例および比較例のインクを、それぞれ、密閉したガラス瓶に入れ、70℃の環境下で7日間放置した。 その後、インク中に含まれる分散質の粒径を測定し、加熱処理前からの分散質の粒径の変動量について、以下の基準に従い評価した。なお、分散質の粒径の測定は、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製)を用いて行った。 A:加熱前後における分散質の平均粒径の変化量(変化率)が5%未満である。 B:加熱前後における分散質の平均粒径の変化量(変化率)が5%以上10%未満である。 C:加熱前後における分散質の平均粒径の変化量(変化率)が10%以上である。
【0106】
[3]染色物の製造 以下のようにして、前記各実施例および比較例のインクを用いた染色を行い、染色物を製造した。 まず、インクを
図1〜
図11に示すような構成のプリンター(液滴吐出装置)に投入した。
【0107】
その後、粘接着剤層を有さない転写媒体として、昇華用転写紙Transjet Classic 831(チャーム社製)を用意し、所定のパターンでインクを吐出して、転写媒体を得た(インク付与工程)。 その後、ポリエステル繊維で構成された布帛(被染色物)に、転写媒体のインク受容層を密着させ、この状態で、180℃×60秒の条件で加熱処理を施し、昇華転写を行った(転写工程)。これにより染色物を得た
。
【0108】
[4]染色物のOD値の評価 上記[3]で製造された染色物について、SpectroScan(グレタグ社製)を用いた測定により、染色部のOD値を求め、以下の基準に従い評価した。 A:OD値が1.4以上。 B:OD値が1.35以上1.4未満。 C:OD値が1.35未満。 前記各実施例および比較例について、上記の各評価の結果を表2にまとめて示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2から明らかなように、本発明では、発色性に優れた染色物を好適に製造することができた。また、本発明では、インクの保存安定性に優れ、長期にわたって異物の発生が効果的に防止されていた。これに対し、比較例では、満足な結果が得られなかった。