(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036206
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】車両のトーションビーム式サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 9/04 20060101AFI20161121BHJP
B60G 7/02 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
B60G9/04
B60G7/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-251610(P2012-251610)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-97771(P2014-97771A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 優司
【審査官】
倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−137087(JP,A)
【文献】
特開2004−239376(JP,A)
【文献】
特開2009−216136(JP,A)
【文献】
実開平05−091950(JP,U)
【文献】
特開平08−219210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端に円筒状のボスが結着された左右一対のトレーリングアームを車幅方向に配されたトーションビームによって連結し、左右の前記トレーリングアームをその前端の前記ボスに挿通するブッシュを介して車体側のブラケットに揺動可能に支持し、
内筒と外筒との間に弾性体を充填して構成される前記ブッシュの外筒における軸方向の一端の外周に、前記弾性体を介して前記ブラケットに力を伝達するためのフランジを形成して成る車両のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記外筒の軸方向のフランジ側に相当する一端側に位置する前記ボスのフランジ側端部を、前記外筒の径方向にて前記外筒と間隔を空けるように拡径して大径部を形成し、前記外筒の軸方向の一端側と対向する他端側に位置する前記ボスの小径部を、前記外筒と接するようにその内径を定めて形成し、前記外筒の軸方向にて前記大径部の端面を前記外筒のフランジの外周縁部に当接させ、前記ボスの大径部と前記外筒との間に閉空間を形成したことを特徴とする車両のトーションビーム式サスペンション。
【請求項2】
前記ボスの一端側の大径部と他端側の小径部との間に両者を連結する段部を形成し、前記左右のトレーリングアームの各前端部を前記ボスの段部を跨いで大径部と小径部とに溶接したことを特徴とする請求項1記載の車両のトーションビーム式サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対のトレーリングアームを車幅方向に配されたトーションビームによって連結して成る車両のトーションビーム式サスペンションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、前輪駆動車用のリヤサスペンションとしてトーションビーム式サスペンションが採用されている。このトーションビーム式サスペンションは、前端に円筒状のボスが結着された左右一対のトレーリングアームを車幅方向に配されたトーションビームによって連結し、左右の前記トレーリングアームをその前端の前記ボスに挿通するブッシュを介して車体側のブラケットに揺動可能に支持している。そして、このブッシュは、内筒と外筒の間に弾性体を充填して構成され、前記ブッシュの外筒の一端外周に、前記弾性体を介して前記ブラケットに力を伝達するためのフランジを形成して構成されている。ここで、従来のトーションビーム式サスペンションの左右のトレーリングアーム先端のボス部の構造を
図5及び
図6に基づいて以下に説明する。
【0003】
即ち、
図5は従来のトレーリングアーム式サスペンションのボス部の平断面図、
図6は
図5のC部拡大詳細図であり、左右一対のトレーリングアーム102(
図5には一方のみ図示)の各前端には円筒状のボス104がそれぞれ結着されており、各ボス104にはブッシュ105がそれぞれ挿通している。ここで、各ブッシュ105は、同心状に配された金属製の内筒105aと外筒105bの間にゴム等の弾性体105cを充填(焼き付け)して構成されており、路面からの振動等の車体への伝播が弾性体105cによって抑制される。
【0004】
又、車体の左右には車両後方に向かって開口する平面視略横コの字状のブラケット151(
図5には一方のみ図示)が結着されており、各ブラケット151には、ボス104とこれに挿通するブッシュ105を介して左右のトレーリングアーム102の各前端がボルト108によって取り付けられ、トレーリングアーム102がそれぞれ上下に揺動可能に取付支持されている。
【0005】
ところで、ブッシュ105の弾性体105cの内側端部には、ブラケット151の内面に当接するフランジ状のストッパ105c1が一体に形成されており、このストッパ105c1は、外筒105bの内側端部に形成されたフランジ105b1によって受けられている。そして、ブッシュ105の外筒105bのフランジ105b1は、ボス104の内側端面によって受けられている。このように構成することによって、車両が例えば右旋回したときには、後輪に作用する横力が左側のトレーリングアーム102を介してボス104からブッシュ105の外筒105bに形成されたフランジ105b1を経て弾性体105cのストッパ105c1に掛かり、横力は最終的にはブラケット151を介して車体によって受けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−137087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来、ボス104は内外径が一定のパイプ材によって構成されており、ブッシュ105の外筒105bのフランジ105b1の外径は弾性体105cのストッパ105c1のブラケット151への当接面積を確保するためにボス104の外径よりも大きく設定されている。このため、
図6に詳細に示すように、ブッシュ105の外筒105bのフランジ105b1がボス104よりも径方向外側に突出し、この突出した部分はボス104によって受けられていないために過大な横力でブラケット151の内面に当接することによって変形する可能性がある。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、ブッシュの外筒に形成されたフランジの変形を防ぐことができる車両のトーションビーム式サスペンションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、前端に円筒状のボスが結着された左右一対のトレーリングアームを車幅方向に配されたトーションビームによって連結し、左右の前記トレーリングアームをその前端の前記ボスに挿通するブッシュを介して車体側のブラケットに揺動可能に支持し、内筒と外筒の間に弾性体を充填して構成される前記ブッシュの外筒の一端外周に、前記弾性体を介して前記ブラケットに力を伝達するためのフランジを形成して成る車両のトーションビーム式サスペンションにおいて、
前記外筒の軸方向のフランジ側に位置する前記ボスのフランジ側端部を、前記外筒の径方向にて前記外筒と間隔を空けるように拡径して大径部を形成し、
前記外筒の軸方向のフランジ側に相当する一端側と対向する他端側に位置する前記ボスの小径部を、前記外筒と接するようにその内径を定めて形成し、前記外筒の軸方向にて前記大径部の端面を前記外筒のフランジ
の外周縁部に当接させ
、前記ボスの大径部と前記外筒との間に閉空間を形成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ボスの一端側の大径部と他端側の小径部との間に両者を連結する段部を形成し、前記左右のトレーリングアームの各前端部を前記ボスの段部を跨いで大径部と小径部とに溶接したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、左右のトレーリングアームの各先端に結着されたボスの一端(ブッシュの外筒のフランジ側端部)を拡径して大径部を形成し、該大径部の端面をブッシュの外筒のフランジに当接させたため、該ボスの大径部端面が外筒のフランジの外周縁近傍に当接し、フランジがボスの大径部から径方向外側に突出する長さ(量)を少なくする、又は、突出自体をなくす(フランジにオーバーハング部分が存在しない)ことができる。このため、後輪からの横力がボスから外筒のフランジに作用しても、該フランジの変形が防がれる。この結果、外筒のフランジから弾性体を介して車体側のブラケットに横力が確実に伝達され、当該トーションビーム式サスペンションの性能が高められるとともに、外筒のフランジの板厚を薄くすることができ、軽量化と生産性の向上を図ることができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、左右のトレーリングアームの各前端部をボスの段部を跨いで大径部と小径部とに溶接したため、トレーリングアームとボスとの溶接長が長くなり、溶接強度が高められてトーションビーム式サスペンションの耐久性向上が図られる。又、ボスの大径部と溶接トーチとの干渉を避けて溶接がし易くなるために生産性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンションの平面図である。
【
図4】本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンションにおけるトレーリングアームとボスとの溶接部分を示す部分平面図である。
【
図5】従来のトレーリングアーム式サスペンションのボス部の平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は本発明に係る車両のトーションビーム式サスペンションの平面図、
図2は
図1のA部詳細断面図、
図3は
図2のB部拡大詳細図、
図4は同トーションビーム式サスペンションにおけるトレーリングアームとボスとの溶接部分を示す部分平面図である。
【0016】
本発明に係るトーションビーム式サスペンション1は、車両の左右の後輪を車体50に対して上下に揺動可能に支持するものであって、
図1に示すように、車両前後方向(
図1の上下方向)に延びる左右一対のトレーリングアーム2を車幅方向(
図1の左右方向)に配されたトーションビーム3によって連結して構成されている。
【0017】
上記左右一対のトレーリングアーム2の各先端には円筒状のボス4がそれぞれ結着されており、
図2に示すように、各ボス4の内部にはブッシュ5が圧入によってそれぞれ装着されている。ここで、各ブッシュ5は、同心状に配された金属製の内筒5aと外筒5bの間にゴム等の弾性体5cを充填(焼き付け)して構成されており、路面からの振動等の車体への伝播が弾性体5cによって抑制される。
【0018】
ところで、
図2に示すように、各ブッシュ5の弾性体5cの内側端部には、後述するブラケット51の内面に当接するフランジ状のストッパ5c1が一体に形成されており、このストッパ5c1は外筒5bの内側端部に形成されたフランジ5b1によって受けられている。
【0019】
而して、本実施の形態では、ボス4の軸方向内端部(ブッシュ5の外筒5bのフランジ5b1側端部)を拡径して大径部4aを形成し、該大径部4aの端面を
図3に詳細に示すようにブッシュ5の外筒5bの内端部に形成されたフランジ5b1の外周縁裏面に当接させている。つまり、ブッシュ5の外筒5bは、小径部4bの内径に圧入されて固定されており、大径部4a部分では、ブッシュ5の外筒5bの外径と大径部4a部分の内径との間には、フランジ5b1、ブッシュ5の外筒5b、大径部4a部分及び後述する段部4cに囲まれた空間が形成されている。ここで、ボス4においては、内端側に形成された大径部4aと他端側(外端側)の小径部4bとの間に両者を連結する段部4cが形成されており、
図4に示すように、左右のトレーリングアーム2の各前端部は、ボス4の段部4cを跨いで大径部4aと小径部4bに図示a,bの箇所で溶接されている。
【0020】
又、
図1に示すように、左右の各トレーリングアーム2の後端部には、内側に向かって水平に突出するショックアブソーバ取り付け6がそれぞれ結着されており、これらのショックアブソーバ取り付け6によって不図示の左右のショックアブソーバの下端がそれぞれ取り付けられている。又、左右の各トレーリングアーム2の後端部の上部には、後輪を回転可能に支持するスピンドルを取り付けるスピンドル用ブラケットが溶接されている。尚、
図1において、7は不図示のクッションスプリングの下端を受けるスプリング受けである。
【0021】
ところで、車両に高い走行安定性を確保するためには、ステアリング操作時に後輪のトーコントロールを行う必要がある。具体的には、車両走行時の僅かな角度の転舵に対しては後輪(正確には、転舵方向に対して外側に位置する後輪)をトーイン状態としてアンダーステア化することによって車両の走行安定性を高め、他方、車両がハードなコーナリングを行っている場合等には、後輪を逆にトーアウト状態として車両の向きを積極的に変更させるようにしている。これには、転舵に伴ってトーションビーム式サスペンション1に作用する横力によって、ブッシュ5のストッパ5c1をブラケット51の内面に当接させて、車両の左右方向に対して斜面となっているブラケット51の内面に沿ってボス4を車両の前後方向に移動させ、左右のボス4の車両の前後方向の位置を異ならせてトーションビーム式サスペンション1の姿勢を変化させる方法が採られる。
【0022】
従って、左右のトレーリングアーム2の各先端に結着されたボス4とこれに圧入されたブッシュ5は、
図1に示すように、車両前後方向に対して図示の角度αだけ外側に傾斜して設けられている。これに合わせて車体50の左右のブラケット51も図示のように車両前後方向に対して図示の角度αだけ傾斜して車体50に取り付けられている。
【0023】
上記各ブラケット51は、
図1に示すように車両後方やや車両の左右中央側に向かって開口する平面視略横コの字状に成形されており、その内部には各トレーリングアーム2の前端に結着されたボス4とこれに圧入されたブッシュ5が
図2に示すように嵌め込まれている。そして、左右の各ブラケット51とその内部に嵌め込まれたブッシュ5の内筒5aにはボルト8が外側方から通され、該ボルト8のブラケット51から内側に突出する端部に螺合するナット9を締め付けることによって、左右のトレーリングアーム2の前端部がブッシュ5を介してブラケット51に取り付けられ、トレーリングアーム2が上下に揺動可能に支持されている。従って、左右のトレーリングアーム2の後端部に回転可能に支持された左右の後輪はボルト8を中心として車体50に対して上下に揺動するが、左右の後輪の相対変位はトーションビーム3の捩れ抵抗によって規制される。
【0024】
而して、以上のように構成された本発明に係るトーションビーム式サスペンション1においては、左右のトレーリングアーム2の各先端に結着されたボス4の内端部(ブッシュ5の外筒5bのフランジ5b1側端部)を拡径して大径部4aを形成し、該大径部4aの端面をブッシュ5の外筒5aのフランジ5b1に当接させたため、該ボス4の大径部4aの端面が
図3に示すように外筒5bのフランジ5b1の外周縁近傍に当接し、フランジ5b1がボス4の大径部4aから径方向外側へのに突出量を減らす、又は、突出自体をなくす(フランジ5b1にオーバーハング部分が存在しない)ことができる。このため、後輪からの横力がボス4からブッシュ5の外筒5bのフランジ5b1に作用してストッパ5c1が強くブラケット51に当接しても、該フランジ5b1の変形が防がれる。この結果、ブッシュ5の外筒5bのフランジ5b1から弾性体5cを介して車体50側のブラケット51に横力が確実に伝達され、当該トーションビーム式サスペンション1の性能が高められるとともに、外筒5bのフランジ5b1の板厚を薄くすることができ、軽量化と生産性の向上を図ることができる。
【0025】
又、本実施の形態では、
図4に示すように左右のトレーリングアーム2の各前端部をボス4の段部4cを跨いで大径部4aと小径部4bとに溶接したため、大径部4aの周囲の長さが長い分だけトレーリングアーム2とボス4との溶接長が長くなり、溶接強度が高められてトーションビーム式サスペンション1の耐久性向上が図られる。そして、溶接作業に際しては、ボス4の大径部4aと不図示の溶接トーチとの干渉を避けて溶接がし易くなるために生産性が高められるという効果も得られる。
【符号の説明】
【0026】
1 トーションビーム式サスペンション
2 トレーリングアーム
3 トーションビーム
4 ボス
4a ボスの大径部
4b ボスの小径部
4c ボスの段部
5 ブッシュ
5a ブッシュの内筒
5b ブッシュの外筒
5b1 外筒のフランジ
5c ブッシュの弾性体
50 車体
51 ブラケット