(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036227
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】連続鋳造設備の油圧シリンダー
(51)【国際特許分類】
B22D 11/128 20060101AFI20161121BHJP
B22D 11/126 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
B22D11/128 340L
B22D11/126 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-262283(P2012-262283)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-108428(P2014-108428A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智之
(72)【発明者】
【氏名】池永 智親
【審査官】
深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−159261(JP,A)
【文献】
実開昭51−130730(JP,U)
【文献】
実開昭59−006047(JP,U)
【文献】
特開2000−280091(JP,A)
【文献】
米国特許第04001051(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 15/00−15/02
B22D 11/00−11/22
B23K 7/00−7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブを切断する範囲に設けられた搬送ロールを、上下に昇降する油圧式シリンダーであって、
前記搬送ロールを回転可能に支持するロッドと、
前記ロッドの外周において、連続鋳造設備の幅方向中央側および前記連続鋳造設備の搬送方向の前後に配され、前記連続鋳造設備の幅方向端部が開口された保護カバーを備え、
前記保護カバーは、前記連続鋳造設備の幅方向中央から見た搬送方向の長さが、前記ロッドの直径よりも大きいことを特徴とする連続鋳造設備の油圧式シリンダー。
【請求項2】
前記保護カバーは、前記連続鋳造設備の幅方向中央から見た上下方向の長さが、前記ロッドが伸長した状態において、前記ロッドの上端から下端までを覆う長さに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造設備の油圧式シリンダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造設備の油圧シリンダーに関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備では、スラブの上方に設置されたカッター台車によって、スラブをガス溶断により所定の長さに切断している。スラブは、底面側に設置された複数の搬送ロールにより搬送されているが、カッター台車によってスラブを切断する際には、切断部に位置する搬送ロールを下降させて、搬送ロールを損傷させないようにしている。
【0003】
しかしながら、スラブ切断時には、切断部から多量のノロが飛散し、このノロにより、搬送ロールを昇降させる油圧シリンダーのロッドやパッキンが損傷し、油圧シリンダーのグランド部より油漏れが発生する。
【0004】
特許文献1及び2には、油圧シリンダー等におけるパッキン部の損傷を防ぐ技術が開示されている。
【0005】
特許文献1には、相対運動を行う運動部材間を密閉するシール部材と共に、運動部材間にバックアップリングを設けることが開示されている。バックアップリングを設けることで、シール部材が被密封流体の圧力により、相対運動部材間の隙間にはみ出すことを防止することができる。
【0006】
また、特許文献2には、油圧シリンダーの軸方向両端部の固定シール収納溝に、従来のO型ゴム製パッキンに代えて、U型耐熱性・高剛性パッキン材を嵌め込むことが開示されている。薄板をU型に折り曲げたU型耐熱性・高剛性パッキン材を、固定シール収納溝に嵌め込むことで、U型に曲げ加工した反発力で、固定用チューブカバーシールを固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−69792号公報
【特許文献2】特開2002−250305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、引用文献1に開示されたバックアップリングや、引用文献2に開示されたU型耐熱性・高剛性パッキン材は、いずれも油圧シリンダーの内部空間に設けられているため、依然として、外部に露出する油圧シリンダーのロッドを保護することができない。そのため、特許文献1及び2を連続鋳造設備の油圧シリンダーに適用した場合であっても、ロッドや、ロッドとシリンダーとの摺動部に設けられるパッキンが、切断部から多量に発生するノロによって損傷するという問題がある。そのため、従来では、複数設置されている油圧シリンダーのうちいずれか1本を、3ヶ月に一度程度、連続鋳造設備の操業を停止した状態で、ロッドやパッキンを補修や交換を行うために、油圧シリンダーを取り替える作業を行っていた。
【0009】
本発明は、このような問題点に対してなされたものであり、スラブの切断部から発生する多量のノロから油圧シリンダーを保護し、生産性を向上させることができる油圧シリンダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するためになされたものであり、以下のような特徴を有している。
[1]スラブを切断する範囲に設けられた搬送ロールを、上下に昇降する油圧式シリンダーであって、
前記搬送ロールを回転可能に支持するロッドと、
前記ロッドの外周において、少なくとも連続鋳造設備の幅方向中央側に配される保護カバーを備え、
前記保護カバーは、前記連続鋳造設備の幅方向中央から見た搬送方向の長さが、前記ロッドの直径よりも大きいことを特徴とする連続鋳造設備の油圧式シリンダー。
[2]前記保護カバーは、前記連続鋳造設備の幅方向中央から見た上下方向の長さが、前記ロッドが伸長した状態において、前記ロッドの上端から下端までを覆う長さに形成されていることを特徴とする[1]に記載の連続鋳造設備の油圧式シリンダー。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る連続鋳造設備の油圧シリンダーによれば、スラブの切断部から発生する多量のノロから油圧シリンダーを保護し、油圧シリンダーを取り替える作業頻度を低減することで、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用される連続鋳造設備の概要を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備におけるロッド伸長時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを搬送方向前方から見た図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備におけるロッド伸長時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを連続鋳造設備の幅方向中央から見た図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備のロッド収縮時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを搬送方向前方から見た図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備のロッド収縮時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを連続鋳造設備の幅方向中央から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明が適用される連続鋳造設備の概要を示す図である。この連続鋳造設備では、紙面の左方向から右方向に向かって、スラブ23が、複数の搬送ロール21、22によって搬送されている。
【0015】
スラブ23の上方には、スラブを所定の長さに切断するカッター台車24が設けられている。カッター台車24は、連続鋳造設備の幅方向両端に設置されたレールを、スラブ23の搬送速度と同じ速度で移動しながら、スラブ23を切断する。
【0016】
スラブ23が切断される範囲に設けられている搬送ロールには、搬送ロールを昇降させるための油圧シリンダー25が設けられている。
図1では、スラブ23が切断される範囲外に設けられている搬送ロールを21とし、スラブ23が切断される範囲に設けられている搬送ロール(#1〜#4)を22として示している。
【0017】
搬送ロール22は、スラブ23の切断箇所が通過するタイミングより前から下降し、スラブ23の切断箇所が通過した後に、元の高さまで上昇する。具体的には、#1の搬送ロール22が下降し、スラブ23の切断箇所が#1の搬送ロール22を通過すると、#1の搬送ロール22が上昇して元の位置まで戻り、#2の搬送ロール22が下降する。その後、#3及び#4の搬送ロール22についても順次同様の動作が行われる。
【0018】
次に、
図2〜
図5を用いて、本実施の形態に係る油圧シリンダーの構成について説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備におけるロッド伸長時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを搬送方向前方から見た図である。また、
図3は、本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備におけるロッド伸長時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを連続鋳造設備の幅方向中央から見た図である。
【0019】
さらに、
図4は、本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備のロッド収縮時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを搬送方向前方から見た図である。また、
図5は、本発明の実施の形態に係る連続鋳造設備のロッド収縮時の油圧シリンダーの構成を示す図であり、油圧シリンダーを連続鋳造設備の幅方向中央から見た図である。
【0020】
図2に示すように、油圧シリンダー25は、ロッド12を備えている。ロッド12は、シリンダーの内部に設けられた図示しないピストンが駆動することにより伸縮する。ロッド12の上端には、搬送ロール22が回転自在に支持されている。ロッド12の伸長時には、搬送ロール22が上昇し、ロッド12の収縮時には、搬送ロール22が下降する。
【0021】
なお、図示しない紙面左側の搬送ロール22の他方の端部は、
図2に示す油圧シリンダーと紙面において左右対称となる油圧シリンダー25が設けられている。
【0022】
ロッド12の外周には、可動カバー14と固定カバー13を有する保護カバーが設けられている。ロッド12の上端には、可動カバー14の上端が接合されている。これにより、可動カバー14は、ロッド12の昇降に応じて、上下に移動する。
【0023】
なお、可動カバー14は、ロッド12を3方から囲む箱状に形成されている。しかしながら、可動カバー14は、このような形状に限られるものではなく、少なくとも、油圧シリンダー25の連続鋳造設備の幅方向中央側の面に設けられていればよい。
【0024】
可動カバー14は、連続鋳造設備の幅方向中央から見た搬送方向の長さLが、ロッド12の直径よりも大きくなるよう構成されている。また、可動カバー14の連続鋳造設備の幅方向中央側の上下方向の長さlは、ロッド12が伸長した状態で、ロッド12の上端から下端までを覆う長さに形成されている。
【0025】
なお、可動カバー14及び固定カバー13の材料としては、水に対する耐食性の優れたSUSを用いることができる。
【0026】
可動カバー14は、連続鋳造設備の幅方向端部の面が、油圧シリンダー25のメンテナンスを行うために開口している。
【0027】
油圧シリンダー25の下端は、トラニオン軸受15によって、回転可能に支持されている。可動カバー14の下端には、
図5に示すように、ロッド12が下降した際に、可動カバー14がトラニオン軸受15と干渉しないよう、開口部14aが設けられている。
【0028】
固定カバー13は、可動カバー14と同じように、ピストンの側面を3方向から囲むように配される。すなわち、固定カバー13は、連続鋳造設備の幅方向中央側の面と、搬送方向の前後の計3方向の面により構成され、連続鋳造設備の幅方向端部の面がメンテナンスを行えるよう開口している。固定カバー13は、可動カバー14の開口部14aを塞ぐことができるよう、開口部14aよりも高くなるよう構成されている。
【0029】
このように構成された油圧シリンダー25では、ロッド12の外周の幅方向中央側に、連続鋳造設備の幅方向中央から見た搬送方向の長さLが、ロッド12の直径よりも大きい可動カバー14を設けている。これにより、油圧シリンダー25側に飛散してくるノロを固定カバー13と可動カバー14によって遮断し、ロッド12やロッド12とシリンダーの摺動部にノロが付着、堆積することを低減させることができる。これにより、油圧シリンダー25のメンテナンス頻度を低減させ、生産性を向上することができる。
【0030】
また、可動カバー14の連続鋳造設備の幅方向中央側の上下方向の長さlを、ロッド12が伸長した状態で、ロッド12の上端から下端までを覆う長さに形成することで、ロッド12が最も伸長した状態から最も収縮した状態に至る間、ロッド12やロッド12とシリンダーの摺動部を可動カバー14によって保護することができる。
【0031】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々の設計変更を行うことができる。例えば、
図2〜
図5の例では、保護カバーが、分離された可動カバー14と固定カバー13により構成されていたが、保護カバーとして、1部材により構成されるテレスコ式のカバーを用いても良い。また、ロッド12の外周を、さらに、伸縮可能な蛇腹状の高耐熱材により覆うようにしてもよい。
【0032】
また、上記の実施の形態では、可動カバー14や固定カバー13が、メンテナンスを行うために、連続鋳造設備の幅方向側面において開口しているが、可動カバー14や固定カバー13を、ロッド12の外周すべてを覆うように構成してもよい。
【0033】
さらに、上記の実施の形態では、可動カバー14や固定カバー13の側面はすべて平面により構成されているが、可動カバー14や固定カバー13の少なくとも1つの面を、内周側又は外周側に凸面を有する曲面により構成してもよい。例えば、可動カバー14の幅方向中央側の面を曲面状に構成する場合には、連続鋳造設備の幅方向中央から見た可動カバー14の搬送方向の長さを、ロッド12の直径よりも大きくなるよう構成すればよい。
【実施例】
【0034】
本発明を既存の設備に適用し、本実施の形態の効果を検証した。2つのストランドのそれぞれにおいて、
図1の#1及び#2で示される搬送ロールの両端の油圧シリンダー4本、すなわち、2つのストランドで計8本の油圧シリンダーを、本実施の形態に係る保護カバーにより覆った。
【0035】
この結果、保護カバーの設置前では、4.6本/年の頻度で油圧シリンダーを取替えていたが、本発明による保護カバーを設置した場合では、油圧シリンダーの取替えは、2.5本/年の頻度まで低減することができた。これにより、本発明による保護カバーによって油圧シリンダーが保護され、メンテナンス頻度を低減させることができることが分かった。
【符号の説明】
【0036】
12 ロッド
13 固定カバー
14 可動カバー
14a 開口部
15 トラニオン軸受
21、22 搬送ロール
23 スラブ
24 カッター台車
25 油圧シリンダー