(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
搭載したエンジンの駆動力によりプロペラを回転して推進力を発生する船外機本体と、この船外機本体を船体に取り付ける取付装置との間に配置されて、防振手段及び変位規制手段を備えた船外機のマウント装置であって、
前記防振手段は、低回転時における前記エンジンの振動が前記船体へ伝達することを防止する防振用マウントであり、
前記変位規制手段は、前記エンジンの高回転時で且つ前記船体の前進時における前記船外機本体の変位を規制する前進側変位規制用マウントと、前記船体の後進時における前記船外機本体の変位を規制する後進側変位規制用マウントと、前記船外機本体の左右方向及びヨー方向の変位を規制する左右方向等変位規制用マウントとを有し、
前記左右方向等変位規制用マウントに対向する対向部材と前記左右方向等変位規制用マウントとが互いに当接するそれぞれの当接面が、前記船外機本体の前後方向に対して傾斜して構成されたことを特徴とする船外機のマウント装置。
前記左右方向等変位規制用マウントは、前進側変位規制用マウント及び後進側変位規制用マウントが設置される芯金部材における左右の両側面に設置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の船外機のマウント装置。
前記左右方向等変位規制用マウントは、対向部材であるアッパマウントブラケットに対向して、エンジンを支持する船外機本体のエンジンホルダに設置されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船外機のマウント装置。
前記左右方向等変位規制用マウントは、船外機本体のドライブシャフトハウジングの一部を対向部材として、ロアマウントブラケットに設置されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船外機のマウント装置。
前記各マウントのばね定数は、防振用マウント<前進側変位規制用マウント=後進側変位規制用マウント<左右方向等変位規制用マウントに設定されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の船外機のマウント装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る船外機のマウント装置における一実施形態が適用された船外機を示す左側面図である。
【0015】
図1に示すように、船外機10は、搭載したエンジン14の駆動力によりプロペラ15を回転して、船外機の前方または後方への推進力を発生する船外機本体11と、この船外機本体11を支持して船体16のトランサム16Aに取り付ける取付装置としての取付ブラケット装置12と、船外機本体11と取付ブラケット装置12との間に配設され、アッパマウントユニット17及びロアマウントユニット18を備えてなるマウント装置13と、を有して構成される。
【0016】
船外機本体11は、エンジンホルダ20を備え、このエンジンホルダ20にエンジン14が搭載される。エンジンホルダ20の下方にはオイルパン21が配置され、このオイルパン21の下部にドライブシャフトハウジング22が、このドライブシャフトハウジング22の下部にギアケース23がそれぞれ設置される。そして、エンジン14、エンジンホルダ20及びオイルパン21がエンジンカバー24により覆われる。
【0017】
このエンジン14は、船外機の前方から後方へ向かってクランクケース25、シリンダブロック26、シリンダヘッド27が順次配置されてなる。シリンダブロック26に、ピストンが往復運動するシリンダ(共に図示せず)が略水平方向に形成されると共に、クランクケース25とシリンダブロック26との間にクランクシャフト28が略垂直方向に配置される。
【0018】
エンジン14のクランクシャフト28の下端部にドライブシャフト29が同一直線状に連結される。このドライブシャフト29は、エンジンホルダ20、オイルパン21、ドライブシャフトハウジング22及びギアケース23内を略垂直方向に延び、ギアケース23内のベベルギア30を介してプロペラシャフト31に連結される。これにより、エンジン14の駆動力(即ちクランクシャフト28の回転力)がドライブシャフト29、ベベルギア30及びプロペラシャフト31を介して、このプロペラシャフト31に結合されたプロペラ15へ伝達される。
【0019】
ギアケース23内には、遠隔操作によってプロペラシャフト31の回転方向を正転(前進)、逆転(後進)または中立(ニュートラル)状態に切り換えるシフト装置32が設けられている。このシフト装置32から図示しないシフトロッドが上方へ向かって延び、このシフトロッドが図示しないクラッチロッドを介して、船外機本体11外から操作される。
【0020】
前記取付ブラケット装置12は、クランプブラケット35、スイベルブラケット36、ステアリングシャフト37、アッパマウントブラケット38及びロアマウントブラケット39を備えてなる。上記クランプブラケット35は、船体16のトランサム16Aを把持可能に設けられる。また、上記スイベルブラケット36は、クランプブラケット35に枢支軸40を介して上下方向に回動可能に支持される。
【0021】
ステアリングシャフト37は、スイベルブラケット36に鉛直方向に延在されて回動可能に設けられる。このステアリングシャフト37の上端に、ステアリングブラケット41の基端部を兼ねる前記アッパマウントブラケット38が、またステアリングシャフト37の下端に前記ロアマウントブラケット39がそれぞれ回転一体に結合される。アッパマウントブラケット38に前記アッパマウントユニット17を介して、またロアマウントブラケット39に前記ロアマウントユニット18を介して船外機本体11が取り付けられる。
【0022】
これにより、船外機本体11は、ステアリングシャフト37を中心にクランプブラケット35及びスイベルブラケット36に対して左右方向に回動可能に枢支され、且つ、スイベルブラケット36と共に、枢支軸40を中心にクランプブラケット35に対して上下方向に回動(チルト動作、トリム動作)可能に枢支される。
【0023】
さて、マウント装置13を構成するアッパマウントユニット17は、エンジンホルダ20の前部に設置され、
図2〜
図5を用いて後に詳説するが、アッパマウントボルト42によってアッパマウントブラケット38(ステアリングブラケット41)に連結される。また、マウント装置13を構成するロアマウントユニット18は、
図6〜
図9を用いて後に詳説するが、ドライブシャフトハウジング22の両側部にそれぞれ設けられる。各ロアマウントユニット18は、ロアマウントボルト43によってロアマウントブラケット39に連結される。符号44は、ロアマウントユニット18を覆うロアマウントカバーである。これらのアッパマウントユニット17及びロアマウントユニット18により、船外機本体11のエンジン14の振動が船体16へ伝達することが防止されると共に、船外機本体11の船体16に対する過剰な変位が規制される。
【0024】
尚、
図1に示すように、船外機10においては、プロペラ15で発生する前進方向推進力によって、アッパマウントユニット17及びロアマウントユニット18で支持された船外機本体11は傾斜角θだけ傾斜し、アッパマウントユニット17で支持されるエンジンホルダ20を含めた上半部分が後方へ変位し、ロアマウントユニット18で支持されるドライブシャフトハウジング22を含めた下半部分が前方へ変位する。
【0025】
図2及び
図3に示すように、エンジンホルダ20の前部には、アッパマウントユニット17を収納するアッパマウント収納部45が形成され、このアッパマウント収納部45にアッパマウント保持部46が、エンジンホルダ20と一体に形成されている。アッパマウントユニット17は、エンジンホルダ20のアッパマウント収納部45内に収納された状態で、アッパマウントボルト42の前端部がアッパマウントブラケット38(ステアリングブラケット41)を貫通し、その前端部に締付ナット47が螺合されることでアッパマウントブラケット38に固定される。
【0026】
アッパマウントユニット17は、左右一対のアッパマウントボルト42が挿通するそれぞれのインナチューブ48の周囲に巻装されると共にアッパマウント保持部46に嵌合され、ゴムなどの弾性体からなる第1アッパマウント51と、左右一対のアッパマウントボルト42の後端部に架設された芯金部材49の前面とアッパマウント保持部46との間に介装され、ゴム等の弾性体からなる第2アッパマウント52と、芯金部材49の後面とアッパマウント収納部45の後壁50Aとの間に介装され、ゴム等の弾性体からなる第3アッパマウント53と、芯金部材49の左右両側面とアッパマウント保持部46との間に介装され、ゴム等の弾性体または樹脂材料からなる第4アッパマウント54と、アッパマウント収納部45の前部とアッパマウントブラケット38(ステアリングブラケット41)との間に介装され、ゴム等の弾性体または樹脂材料からなる第5アッパマウント55と、を有して構成される。
【0027】
第1アッパマウント51は、エンジン14の低回転時に発生する振動が船体16へ伝達することを防止する防振用マウントとして機能し、前後及び左右方向に振動可能な非常に小さな(柔らかな)ばね定数を有する。この第1アッパマウント51は、船外機本体11の重心位置G付近に配置され、船外機本体11のチルトまたはトリム操作時に船外機本体11の荷重を保持し易い位置にある。このため、第1アッパマウント51の上下方向のばね定数は、船外機本体11の荷重を保持するに必要な適切な値に設定される。
【0028】
第2アッパマウント52は、芯金部材49の前面に取り付けられ、この第2アッパマウント52の前面に対向する対向部材としてのアッパマウント保持部46の後面46Aと第2アッパマウント52の前面との間に若干の隙間が形成される。船外機本体11のエンジンホルダ20は、前進時におけるエンジン14の高回転時にプロペラ15にて発生する前進方向推進力により後方(
図4の矢印A方向)へ変位する。第2アッパマウント52は、このエンジンホルダ20の後方への変位を規制する前進側変位規制用マウントとして機能する。例えば、船外機本体11のエンジンホルダ20が後方へ変位したとき、第1アッパマウント51が最初に変形し、それを超えた変位を、第2アッパマウント52の前面がアッパマウント保持部46の後面46Aに当接することで規制する。
【0029】
このため、第2アッパマウント52のばね定数は、一定レベルの振動伝達を防止でき、且つプロペラ15の前進方向推進力による変位を規制できる程度のばね定数、即ち、第1アッパマウント51のばね定数よりも大きな中程度に設定される。また、プロペラ15による前進方向推進力の発生時には、第2アッパマウント52の前面がアッパマウント保持部46の後面46Aに当接した状態に維持されて、操舵力はエンジンホルダ20を介して船外機本体11全体に伝達される。
【0030】
第3アッパマウント53は、芯金部材49の後面に取り付けられ、この後面に対向する対向部材としてのアッパマウント収納部45の後壁50Aと、前記第3アッパマウント53の後面との間に若干の隙間が形成される。船外機本体11のエンジンホルダ20は、後進時にプロペラ15の後進方向推進力によって前方(
図5の矢印B方向)へ変位する。第3アッパマウント53は、このエンジンホルダ20の前方への変位を規制する後進側変位規制用マウントとして機能する。
【0031】
例えば、船外機本体11のエンジンホルダ20が前方へ変位したとき、第1アッパマウント51が最初に変形し、それを超えた変位を、第3アッパマウント53の後面がアッパマウント収納部45の後壁50Aに当接することにより規制する。また、この第3アッパマウント53のばね定数は、第2アッパマウント52と同様に中程度に設定される。
【0032】
第4アッパマウント54と第5アッパマウント55は、
図2及び
図3に示すように、第1アッパマウント51を挟んで船外機本体11の前後方向αのそれぞれに配置される。つまり、第4アッパマウント54は、芯金部材49の左右の両側面とこの両側面近傍の上面及び下面を覆うように取り付けられ、対向部材としてのアッパマウント保持部46の後面46B、アッパマウント収納部45の後側面50B、上面45A及び下面45Bとの間に若干の隙間が形成される。また、第5アッパマウント55は、アッパマウント収納部45の前部の左右両側面とこの両側面近傍の上面及び下面を覆うように取り付けられ、対向部材としてのアッパマウントブラケット38(ステアリングブラケット41)の側面38A及び38B、並びにアッパマウント収納部45の上面45A及び下面45Bとの間に若干の隙間が形成される。
【0033】
これらの第4アッパマウント54及び第5アッパマウント55は、操舵時や船体16がジャンプ後に着水したときなどに発生する船外機本体11の船体16に対する左右方向、上下方向及びヨー方向への変位を規制する左右方向等変位規制用マウントとして機能する。例えば、操舵時には、船外機本体11の水中にあるギアケース23に揚力が発生し、この揚力により船外機本体11が左右方向及びヨー方向に変位するが、このとき第1アッパマウント51が最初に変形し、更に大きな荷重が作用したときに、第4アッパマウント54がアッパマウント保持部46の後面46B、アッパマウント収納部45の後側面50Bに、第5アッパマウント55がアッパマウントブラケット38の側面38A、38Bにそれぞれ当接して変位を規制する。ここで、ヨー方向とは、船外機本体11がその重心位置Gを中心として水平面内で回転する方向をいう。
【0034】
このため、第4アッパマウント54及び第5アッパマウント55のばね定数は、過大な荷重の作用に対しても船外機本体11の変位を規制できるばね定数、即ち第2アッパマウント52及び第3アッパマウント53のばね定数よりも大きなばね定数に設定される。
【0035】
ところで、第4アッパマウント54の当接面である側面54Aと、この側面54Aに対向するアッパマウント保持部46の当接面である後面46Bとは、船外機本体11の前後方向αに対し前方側に傾斜したテーパ形状に形成される。また、第4アッパマウント54の当接面である側面54Bと、この側面54Bに対向するアッパマウント収納部45の当接面である側壁面50Bとは、船外機本体11の前後方向αに対し平行に形成される。
【0036】
一方、第5アッパマウント55の当接面である側面55Aと、この側面55Aに対向するアッパマウントブラケット38(ステアリングブラケット41)の当接面である側面38Aとは、船外機本体11の前後方向αに対し平行に形成されるが、第5アッパマウント55の当接面である側面55Bと、この側面55Bに対向するアッパマウントブラケット38(ステアリングブラケット41)の当接面である側面38Bとは、船外機本体11の前後方向αに対し前方側に傾斜したテーパ形状に形成される。
【0037】
第4アッパマウント54の側面54A及びアッパマウント保持部46の後面46B、並びに第5アッパマウント55の側面55B及びアッパマウントブラケット38の側面38Bは、共に上述のようにテーパ形状に形成されている。このため、第4アッパマウント54の側面54Aとアッパマウント保持部46の後面46Bとの隙間Xと、第5アッパマウント55の側面55Bとアッパマウントブラケット38の側面38Bとの隙間Yとは、プロペラ15の前進方向推進力の小さなエンジン14の低回転時には比較的大きいが(
図2参照)、プロペラ15の前進方向推進力の大きなエンジン14の高回転時には、
図4に示すように、エンジンホルダ20が後方(
図4の矢印A方向)に変位することで減少する。
【0038】
従って、このプロペラ15の前進方向推進力の大きなエンジン14の高回転時には、左右方向またはヨー方向のわずかな変位でも、第4アッパマウント54の側面54Aがアッパマウント保持部46の後面46Bに当接し、第5アッパマウント55の側面55Bがアッパマウントブラケット38の側面38Bに当接する。この結果、プロペラ15の前進方向推進力の大きなエンジン14の高回転時における左右方向の変位規制機能及び操舵の応答性を共に向上させることができる効果を奏する。
【0039】
また、プロペラ15による前進方向推進力の小さなエンジン14の低回転時には、第4アッパマウント54の側面54Aとアッパマウント保持部46の後面46Bとの隙間X、及び第アッパマウント55の側面55Bとアッパマウントブラケット38の側面38Bとの隙間Yが、共に比較的大きく、具体的にはエンジン14の低回転時におけるエンジン14の振動によっても上記側面54Aと後面46B、側面55Bと側面38Bとがそれぞれ干渉しない程度に大きく設定されている。この結果、エンジン14の低回転時における第1アッパマウント51による振動伝達防止機能を良好に確保できると共に、第4アッパマウント54及び第5アッパマウント55の加工精度に余裕を持たせることができ、これらの第4アッパマウント54及び第5アッパマウント55の製造コストを低減できる効果を奏する。
【0040】
また、第4アッパマウント54の側面54B及びアッパマウント収納部45の後壁面50B、並びに第5アッパマウント55の側面55A及びアッパマウントブラケット38の側面38Aは、共に前述のように船外機本体11の前後方向αに対し平行に形成されている。このため、第4アッパマウント54の側面54Bとアッパマウント収納部45の後壁面50Bとの隙間Zと、第5アッパマウント55の側面55Aとアッパマウントブラケット38の側面38Aとの隙間Wとは、プロペラ15の後進方向推進力の発生によって、
図5に示すようにエンジンホルダ20が前方(
図5の矢印B方向)に変位しても変化せず、略一定である。このため、プロペラ15による後進方向推進力発生時における左右方向の変位規制機能及び操舵の応答性の低下を防止できると共に、第1アッパマウント51による振動伝達防止機能を良好に確保できる効果を奏する。
【0041】
尚、第4アッパマウント54の側面54Bは側面54Aよりも面積が小さく、且つ第5アッパマウント55の側面55Aは側面55Bよりも面積が小さいが、プロペラ15による後進方向推進力発生時には、船体16の速度も遅く、操舵時にギアケース23に発生する揚力も小さいので、このときの左右方向またはヨー方向の変位を十分に規制できる。
【0042】
一方、
図1、
図6及び
図7に示すように、ドライブシャフトハウジング22の両側面部には、ロアマウントユニット18を収納するロアマウント収納部57が形成され、このロアマウント収納部57が、幅方向に着脱可能なロアマウントカバー44により閉塞されて構成される。これらのロアマウント収納部57及びロアマウントカバー44には、船外機本体11の幅方向に一対のロアマウント保持部58が、ロアマウント収納部57及びロアマウントカバー44と一体に形成されている。ロアマウントユニット18は、ドライブシャフトハウジング22のロアマウント収納部57内に収納された状態で、左右2本のロアマウントボルト43の前端部がロアマウントブラケット39を貫通し、後端部が芯金部材59に螺合されることでロアマウントブラケット39に固定される。
【0043】
ロアマウントユニット18は、左右一対のロアマウントボルト43が挿通するそれぞれのインナチューブ60の周囲に巻装されると共に、ドライブシャフトハウジング22及びロアマウントカバー44のロアマウント保持部58に嵌合され、ゴム等の弾性体からなる第1ロアマウント61と、芯金部材59の後面とドライブシャフトハウジング22のロアマウント収納部57の後壁66との間、ロアマウントブラケット39の後面中央部とドライブシャフトハウジング22のマウント保持部58の前面との間にそれぞれ介装され、ゴム等の弾性体からなる第2ロアマウント62と、芯金部材59の後面中央部分とドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の後面との間、芯金部材59の両側前端とロアマウントカバー44のマウント保持部58との間にそれぞれ介装され、ゴム等の弾性体からなる第3ロアマウント63と、芯金部材59の左右両側面並びにこの両側面近傍の上面及び下面とロアマウントカバー44との間に介装され、ゴム等の弾性体または樹脂材料からなる第4ロアマウント64と、ロアマウントブラケット39におけるロアマウントボルト43の挿通周囲とドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58、ロアマウントカバー44との間に介装され、ゴム等の弾性体または樹脂材料からなる第5ロアマウント65と、を有して構成される。
【0044】
第1ロアマウント61は、エンジン14の低回転時に発生する振動が船体16へ伝達することを防止する防振用マウントとして機能し、前後及び左右方向に移動可能な非常に小さな(柔らかな)ばね定数を有する。そして、この第1ロアマウント61の上下方向のばね定数は、船外機本体11の荷重を保持するに必要な適切な値に設定される。
【0045】
第2ロアマウント62は、芯金部材59の後面及びロアマウントブラケット39の後面中央部に取り付けられ、第2ロアマウント62の後面に対向する対向部材としてのロアマウント収納部57の後壁66、ドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前面との間に若干の隙間が形成される。船外機本体11のドライブシャフトハウジング20は、前進時におけるエンジン14の高回転時にプロペラ15にて発生する前進方向推進力により前方(
図8の矢印C方向)へ変位する。第2ロアマウント62は、このドライブシャフトハウジング22の前方への変位を規制する前進側変位規制用マウントとして機能する。
【0046】
例えば、船外機11のドライブシャフトハウジング22が前方へ変位したとき第1ロアマウント61が最初に変形し、それを超えた変位を、第2ロアマウント52の後面がドライブシャフトハウジング22のロアマウント収納部57の後壁66及びドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前面に当接することで規制する。
【0047】
このため、第2ロアマウント62のばね定数は、一定レベルの振動伝達を防止でき、且つプロペラ15の前進方向推進力による変位を規制できる程度のばね定数、即ち、第1ロアマウント61のばね定数よりも大きな中程度に設定される。また、プロペラ15による前進方向推進力の発生時には、第2ロアマウント62の後面がドライブシャフトハウジング22のロアマウント収納部57の後壁66及びドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前面に当接した状態に維持されて、操舵力はドライブシャフトハウジング22を介して船外機本体11全体に伝達される。
【0048】
第3ロアマウント63は、芯金部材59の前面中央部分及び芯金部材59の両側前端に取り付けられ、これらに対向する対向部材としてのドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の後面、ロアマウントカバー44のロアマウント保持部58との間に若干の隙間が形成される。船外機本体11のドライブシャフトハウジング22は、後進時にプロペラ15の後進方向推進力によって後方(
図9の矢印D方向)へ変位する。第3ロアマウント53は、このドライブシャフトハウジング22の後方への変位を規制する後進側変位規制用マウントとして機能する。
【0049】
例えば、船外機本体11のドライブシャフトハウジング22が後方へ変位したとき、第1ロアマウント61が最初に変形し、それを超えた変位を、第3ロアマウント63の前面がドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58及びロアマウントカバー44のロアマウント保持部58に当接することにより規制する。また、この第3ロアマウント63のばね定数は、第2ロアマウント62と同様に中程度に設定される。
【0050】
第4ロアマウント64と第5ロアマウント65は、
図6及び
図7に示すように、第1ロアマウント61を挟んで船外機本体11の前後方向αのそれぞれに配置される。つまり、第4ロアマウント64は、芯金部材59の左右両側面とこの両側面近傍の上面及び下面を覆うように取り付けられ、対向部材としてのロアマウントカバー44の側面44A、44B、ロアマウント収納部57の上面57A及び下面57Bとの間に若干の隙間が形成される。また、第5ロアマウント65は、ロアマウントブラケット39におけるロアマウントボルト43の挿通周囲に取り付けられ、対向部材としてのドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前部側面58A、並びにロアマウントカバー44の前部内面44Cとの間に若干の隙間が形成される。
【0051】
これらの第4ロアマウント64及び第5ロアマウント65は、操舵時や船体16がジャンプ後に着水したときなどに発生する船外機本体11の船体16に対する左右方向、上下方向及びヨー方向への変位を規制する左右方向等変位規制用マウントとして機能する。例えば、操舵時には、船外機本体11の水中にあるギアケース23に揚力が発生し、この揚力により船外機本体11が左右方向及びヨー方向に変位するが、このとき第1ロアマウント61が最初に変形し、更に大きな荷重が作用したときに、第4ロアマウント64がロアマウントカバー44の側面44A、44Bに、第5ロアマウント65がドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前部側面58A、ロアマウントカバー44の前部内面44Cにそれぞれ当接して変位を規制する。
【0052】
このため、第4ロアマウント64及び第5ロアマウント65のばね定数は、過大な荷重の作用に対しても船外機本体11の変位を規制できるばね定数、即ち第2ロアマウント62及び第3ロアマウント63のばね定数よりも大きなばね定数に設定される。
【0053】
ところで、第4ロアマウント64の当接面である側面64Bと、この側面64Bに対向するロアマウントカバー44の当接面である側面44Bとは、船外機本体11の前後方向αに対し後方側に傾斜したテーパ形状に形成される。また、第4ロアマウント14の当接面である側面64Aと、この側面64Aに対向するロアマウントカバー44の当接面である側面44Aとは、船外機本体11の前後方向αに対し平行に形成される。
【0054】
一方、第5ロアマウント65の当接面である側面65Aと、この側面65Aに対向するロアマウントカバー44の当接面である前部内面44Cとは、船外機本体11の前後方向αに対し平行して形成されるが、第5ロアマウント65の当接面である側面65Bと、この側面65Bに対向するドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の当接面である前部側面58Aとは、船外機本体11の前後方向αに対し前方側に傾斜したテーパ形状に形成される。
【0055】
第4ロアマウント64の側面64B及びロアマウントカバー44の側面44B、並びに第5ロアマウント65の側面65B及びドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前部側面58Aは、共に上述の如くテーパ形状に形成されている。このため、第4ロアマウント64の側面64Bとロアマウントカバー44の側面44Bとの隙間Qと、第5ロアマウント65の側面65Bとドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前部側面58Aとの隙間Rとは、プロペラ15の前進方向推進力の小さなエンジン14の低回転時には比較的大きいが(
図6参照)、プロペラ15の前進方向推進力の大きなエンジン14の高回転時には、
図8に示すように、ドライブシャフトハウジング22が前方(
図8の矢印C方向)に変位することで減少する。
【0056】
従って、このプロペラ15の前進方向推進力の大きなエンジン14の高回転時には、左右方向またはヨー方向のわずかな変位でも、第4ロアマウント64の側面64Bがロアマウントカバー44の側面44Bに当接し、第5ロアマウント65の側面65Bがドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前部側面58Aに当接する。この結果、プロペラ15の前進方向推進力の大きなエンジン14の高回転時における左右方向の変位規制機能及び操舵の応答性を共に向上させることができる効果を奏する。
【0057】
また、プロペラ15による前進方向推進力の小さなエンジン14の低回転時には、第4ロアマウント64の側面64Bとロアマウントカバー44の側面44Bとの隙間Q、及び第ロアマウント65の側面65Bとドライブシャフトハウジング22のロアマウント保持部58の前部側面58Aとの隙間Rが、共に比較的大きく、具体的にはエンジン14の低回転時におけるエンジン14の振動によっても上記側面64Bと側面44B、側面65Bと前部側面58Aとがそれぞれ干渉しない程度に大きく設定されている。この結果、エンジン14の低回転時における第1ロアマウント61による振動伝達防止機能を良好に確保できると共に、第4ロアマウント64及び第5ロアマウント65の加工精度に余裕を持たせることができ、これらの第4ロアマウント64及び第5ロアマウント65の製造コストを低減できる効果を奏する。
【0058】
また、第4ロアマウント64の側面64A及びロアマウントカバー44の側面44A、並びに第5ロアマウント65の側面65A及びロアマウントカバー44の前部内面44Cは、共に前述のように船外機本体11の前後方向αに対し平行に形成されている。このため、第4ロアマウント64の側面64Aとロアマウントカバー44の側面44Aとの隙間Sと、第5ロアマウント65の側面65Aとロアマウントカバー44の前部内面44Cとの隙間Tとは、プロペラ15の後進方向推進力の発生によって、
図9に示すようにドライブシャフトハウジング22が後方(
図9の矢印D方向)に変位しても変化せず、略一定である。このため、プロペラ15による後進方向推進力発生時における左右方向の変位規制機能及び操舵の応答性の低下を防止できると共に、第1ロアマウント61による振動伝達防止機能を良好に確保できる効果を奏する。
【0059】
尚、第4ロアマウント64の側面64Aは側面64Bよりも面積が小さく、且つ第5ロアマウント65の側面65Aは側面65Bよりも面積が小さいが、プロペラ15による後進方向推進力発生時には、船体16の速度も遅く、操舵時にギアケース23に発生する揚力も小さいので、このときの左右方向またはヨー方向の変位を十分に規制できる。
【0060】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。