(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態にかかる負極活物質について説明する。
本実施形態にかかる負極活物質は、Si、O、H、及び、Nを含む化合物を主成分とする粒子である。具体的には、この化合物は、O及びNを含む水素化アモルファスシリコンであることができる。O及びNは主として水素化アモルファスシリコン中にドープされている。
【0014】
上記化合物において、Siに対するOのモル比は0.05〜0.8であることが好ましく、0.1〜0.4であることが好ましい。
上記化合物において、Siに対するHのモル比は0.01〜0.3であることが好ましく、0.03〜0.05であることが好ましい。
上記化合物において、Siに対するNのモル比は0.003〜0.1であることが好まく、0.01〜0.02であることが好ましい。
【0015】
なお、化合物は、さらに、CaSi
2、酸、ドープ剤などの原材料に由来する不可避の不純物を含むことができる。例えば、F、Cl等のハロゲン元素、Fe、Cu、Ni、Co、Mn、Ti、Zr、Sc、Y等の遷移元素、Zn、Al、Sn、Sb等の12〜15族の金属又は半金属元素、Li、Na、K等のアルカリ金属元素、Ca、Mg等のアルカリ土類金属元素などである。これらの化合物中の不純物元素のSiに対するモル比は、0.1以下であることが好ましい。
【0016】
本明細書の「主成分」とは、最大質量の成分を意味し、通常、90mass%以上を占める。上記化合物以外の成分は、表面などに形成される微量のSiO
2等である。
【0017】
活物質粒子の粒径は特に限定されないが、レーザー回折法による重量基準の頻度分布におけるD50が、0.1〜50μmであることが好ましく、1〜20μmであることが好ましい。ここで、D50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径を指す。つまり、D50とは、体積基準で測定したメディアン径を指す。
【0018】
また、
図1のように、Nは、粒子の表面付近に偏って存在することができる。すなわち、この例の負極活物質3は、コア部(中心部)2、及び、コア部2を覆うNドープ部(表層部)1を有する粒子である。コア部2は、Si,O,Hを含む化合物であり、好ましくは、Nを含む水素化アモルファスシリコンである。表層部1は、Si,O,H,Nを含む化合物であり、好ましくは、O及びNを含む水素化アモルファスシリコンである。Nドープ部1内でも、表面に向かってN濃度が高くなることができる。Nドープ部1の厚みは、例えば、10〜500nmであることができる。
【0019】
続いて、上述の負極活物質の製造方法の一例を説明する。
まず、CaSi
2を酸と接触させて、CaSi
2からCaを除去し、層状ポリシランを得る。酸の例は、HCl水溶液、HF水溶液である。得られた層状ポリシランは、水素原子の一部が、水酸基で置換されている。
【0020】
続いて、得られた層状ポリシランを窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス中などの、酸素を含まない不活性ガス中で焼成する。焼成温度は300〜800℃が好ましい。焼成時間は、1〜24hrが好ましい。これにより、酸素を含む水素化アモルファスシリコンを主成分とする粒子が得られる。酸素は、層状ポリシランに含まれる水酸基に由来すると考えられる。
【0021】
続いて、得られた粒子に、Nをドープする。ドープ方法は特に限定されない。例えば、このケイ素化合物と、窒素を含む有機化合物との混合物を不活性ガス中で焼成する方法が挙げられる。
【0022】
窒素を含む有機化合物の例は、フタロシアニン、フタロシアニンの金属錯体(例えば、フタロシアニン銅、フタロシアニン鉄)、及び、これらの誘導体、ポルフィリン、ポルフィリンの金属錯体(例えば、ポルフィリン銅、ポルフィリン鉄)、及び、これらの誘導体等である。
【0023】
粒子と窒素を含む有機化合物との混合比は特に限定されないが、例えば、ケイ素化合物に対して重量比で0.01〜0.05とすることができる。
【0024】
窒素を含む有機化合物が固体の場合、乾式で粒子と窒素を含む有機化合物を混合しても良いが、窒素を含む有機化合物を非水溶媒に溶解又は分散させてドープ用液体を得、ドープ用液体と上記粒子とを接触させ、その後、溶媒を除去することが好ましい。非水溶媒の例は、テトラヒドロフランである。
【0025】
焼成温度は特に限定されないが、300〜800℃とすることができる。焼成雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど、酸素を含まない不活性雰囲気であることが好ましい。
【0026】
(リチウムイオン二次電池)
続いて、本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100の1例を、
図2を参照して説明する。リチウムイオン二次電池100は、正極10、セパレータ20、負極30、及び、ケース70、及び、電解液を主として備える。
【0027】
(正極)
正極10は、正極集電体12、及び、正極集電体12上に設けられた正極活物質層14を有する。なお、正極活物質層14は正極集電体12において活物質が塗工された領域を指す。正極活物質層14は、正極集電体12の一方面のみにあっても良いし、
図2の(a)に点線で示すように正極集電体12の両面に設けられていても良い。
【0028】
正極集電体12は導電材料からなる。正極集電体12の材料の例は、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂である。特に、正極集電体12の材料として、アルミニウムが好適である。正極集電体12の厚みは特に限定されないが、例えば、箔状(15〜20μm)とすることができる。
【0029】
正極活物質層14は、正極活物質、及び、バインダーを含む。正極活物質の例は、酸化リチウム、Ni、Mn及びCoから成る群から選択される少なくとも1つの元素及びLiを含む複合酸化物である。上記複合酸化物の例は、リチウムコバルト複合酸化物LiCoO
2、リチウムニッケル複合酸化物LiNiO
2、リチウムマンガン複合酸化物LiMnO
2,LiMn
2O
4、リチウムニッケルコバルト複合酸化物LiNi
aCo
bO
2(a+b=1、0<a<1、0<b<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物LiMn
aCo
bO
2(a+b=1、0<a<1、0<b<1)、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物LiCo
pNi
qMn
rO
2(p+q+r=1、0<p<1、0<q<1、0<r<1)である。
【0030】
バインダーは、活物質を集電体に固定する。バインダーの例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリノレ基含有樹脂である。バインダーの量は、活物質100質量部に対して、1〜30質量部とすることができる。
【0031】
正極活物質層14は、必用に応じて、さらに導電助剤を含むことができる。導電助剤の例は、カーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB) 、気相法炭素繊維(VaporGrown Carbon Fiber : VGCF)等の炭素系粒子である。これらは、単独で、または2種以上組み合わせて添加することができる。導電助剤の使用量については、特に限定されないが、例えば、100質量部の活物質に対して、1〜30質量部とすることができる。
【0032】
正極集電体12はその端部に、正極活物質層14が形成されていないタブ部12tを有する。タブ部12tには、後述するリード16が電気的に接続される。
【0033】
(負極)
負極30は、負極集電体32、及び、負極集電体32上に設けられた負極活物質層34を備える。なお、負極活物質層34は負極集電体32において負極活物質が塗工された領域を指す。負極集電体32は導電材料からなる。負極集電体32の材料の例は、銅などの金属である。
【0034】
負極活物質層34は、負極活物質、及び、バインダーを有する。負極活物質層34は、必用に応じて導電助剤を含んでも良い。バインダーや導電助剤の例及び配合量は、正極10で記載したのと同様とすることができる。負極活物質は、上述の負極活物質を含む。
【0035】
負極集電体32はその端部に、負極活物質層34が形成されていないタブ部32tを有する。タブ部32tには、後述するリード36が電気的に接続される。
【0036】
(セパレータ)
セパレータ20は、正極10と負極30とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ20は、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、あるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が使用できる。正極10の正極活物質層14と、負極30の負極活物質層34とがセパレータ20の各面に接触している。
【0037】
(電解液)
電解液は、電解質と、この電解質を溶解する溶媒とを含む。電解質は、正極活物質層14、セパレータ20、負極活物質層34内に含浸されている。
【0038】
電解質の例は、LiBF
4、LiPF
6、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩である。溶媒の例は、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類である。これらの溶媒を2種以上混合することもできる。電解液における電解質の濃度は、例えば、0.5〜1.7mol/Lとすることができる。電解液は、ゲル化剤を含んでいても良い。
【0039】
(ケース)
ケース70は、正極10、セパレータ20、負極30、及び、電解液を収容する。ケースの材料や形態は特に限定されず、樹脂、金属など公知の種々の物を使用できる。
【0040】
正極集電体12のタブ部12t、及び、負極集電体32のタブ部32tには、それぞれ、リード16、36が接続されている。リード16、36の一端は、ケース70の外に出ている。
【0041】
このようなリチウムイオン二次電池100は、上述の負極活物質を用いているため、初回クーロン効率に優れる。このことは、不可逆容量が小さいことを意味し、リチウムの節約などメリットがある。
【0042】
なお、本発明に係るリチウムイオン二次電池100は、上記実施形態に限られず様々な変形態様が可能である。例えば、正極、負極、及び、セパレータを複数有し、正極及び負極が交互に配置され、かつ、各正極及び負極の間にセパレータが配置されるように積層されているものでもよい。また、正極及び負極が、これらの間にセパレータが介在するように巻回されている物でも良い。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
(負極活物質の製造)
市販の25gのCaSi
2を、0℃に氷浴した1mol%HF−14mol%HCl水溶液20mL中に加え、1時間攪拌した。その後、水を加え5分攪拌し、濾過により水溶液から黄色粉体を分離した。得られた黄色粉体を、水及びエタノールで洗浄し、その後、真空乾燥して、層状ポリシランを5.5g得た。層状ポリシランのX線回折測定結果を
図3の(a)に示す。なお、X線回折結果において、丸印(○)はシリコン由来のピークを、菱形印(◇)は層状ポリシラン由来のピークを示す。
続いて、層状ポリシランをアルゴン雰囲気下で500℃で5時間焼成した。得られた焼成物のX線回折測定結果を
図3の(b)に示す。
続いて、アルゴン雰囲気下で、7.5mgのフタロシアニンを含有するテトラヒドロフラン溶液10mLに500mgの得られた焼成物を加え、60℃で3時間攪拌した。溶液から、テトラヒドロフランを真空により除去し、残った粉体をアルゴン雰囲気下で500℃で焼成し、実施例1の負極活物質を得た。得られた負極活物質のD50は、13μmであった。
【0044】
(電極の製造)
得られた負極活物質、天然黒鉛粉(粒径D50:20μm)、導電助剤(アセチレンブラック)、及びバインダー(ポリアミドイミド)を、それぞれ、32:50:8:10の質量比で混合し、さらに、溶媒(N−メチル−2−ピロリドン(NMP))を加えてスラリーを得た。
【0045】
このスラリーを、銅箔の片面に成膜し、溶媒をホットプレートにより80℃で15分乾燥させ、プレスし、さらに、200℃で2時間加熱した。このようにして、負極活物質層を有する電極を得た。
【0046】
(実施例2)
フタロシアニンを、フタロシアニン銅に替えた以外は実施例1と同様にして実施例2の負極活物質及び電極を得た。
【0047】
(比較例1)
フタロシアニンとの混合、及び、その後の焼成を行わない以外は実施例1と同様にして比較例1の負極活物質及び電極を得た。
【0048】
(比較例2)
SiO、すなわち、SiO
2相中に、Si相が分散した負極活物質を用いる以外は実施例1と同様として、比較例2の電極を得た。
【0049】
(粒子の同定)
(組成)
負極活物質のSi,O,Nの量については、EPMA(日本電子製 JXA−8530F)を用いて定量した。Nについては、Si
3N
4を標準試料とし、ZAF補正法を用いた。
Hの量については、水素分析装置(堀場製作所製 EMGA−930)を用いて測定した。具体的には、サンプルの一部を黒鉛坩堝中で加熱してH
2を発生させ、その後ガスに酸素を与えてH
2Oに転化させ、赤外線吸収法(NDIR)によりH量を求めた。
【0050】
(化学結合状態及び結晶構造)
実施例1の負極活物質のSi原子をXPSで分析した結果を
図4に示す。点線は表面近傍、実線は深さ100nmにおける測定結果である。表面及び内部に共通して、99eVに強いピークを確認できることから、この粒子は、Si−Si結合を主成分として含むことが確認された。なお、表面には103.2eV不均にSiO
2を示すピークが確認され、表面にはシリコン酸化物が形成されていることがわかる。
【0051】
さらに、負極活物質のHR−TEM(高分解能透過型電子顕微鏡)写真を
図5の(a)に、及び、
図5の(a)と同視野の電子回折写真(SAED)を
図5の(b)に示す。TEM画像からは格子縞の存在は確認できず、電子回折写真は、ブロードな円環状パターン(ハローパターン)を示した。このことから、結晶性は非常に低いことが確認された。また、原子間距離はSi−Si結合の距離と一致した。
これらの結果から、得られた粒子は、O及びNを含む水素化アモルファスシリコン(α−SiNO:H)を主成分とすることが確認された。なお、表面近傍には、ごく微量のSiO
2等が存在した。
【0052】
(Nの不均一性)
オージェ電子分光法(AES)を用いて、活物質粒子の最表面と内部との間のNの量の比を測定した。具体的には、オージェ電子分光検出器としてCMA(円筒鏡型分析器)を使用したアルバック・ファイ株式会社製 PHI−680でN量を測定した。
【0053】
活物質粒子の表面に電子線を照射し、発生したオージェ電子を分光分析することにより、最表面のN量を測定した。また、Arイオンスパッタを用いて活物質表面をエッチングし、SiO
2換算で100nm掘り進めた後、最表面の分析と同様に電子線を照射し発生したオージェ電子を分光分析することにより活物質粒子の内部のN量の分析をした。ここでSiO
2換算としたのはArイオンスパッタによるエッチングレートの校正に酸化膜厚27nmのSiウェハを使用したためであり、SiO
2を100nmエッチングする条件と同一条件で活物質表面をエッチングしたということを示す。
測定条件:加速電圧10kV,プローブ電流10nA,ステージ傾斜30度
380eV付近の窒素のピーク強度の比から最表面と内部の窒素濃度比を求めた。
【0054】
実施例1の((表面のN量)/(内部のN量))の値は1.85であり、実施例2の((表面のN量)/(内部のN量))は1.43であった。Nは、少なくとも200nm程度の厚みまで存在していた。
【0055】
(初回クーロン効率の評価)
上記の各負極、ポリプロピレン多孔質膜(27mm×32mm、厚み25μm)、及び、Li対極をこの順に重ねて積層体を得た。この積層体を、アルミニウム箔の両面を樹脂でラミネートしたケース内に収容し、さらに、ケース内に電解液を供給し、ハーフセルを得た。電解液は、溶媒と電解質(LiPF
6)とを含み、溶媒は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートを、質量比で3:3:4含み、電解質濃度は1mol/dm
3であった。
このハーフセルに対して、初回の放電及び充電を以下のように行った。まず電圧が0.01Vとなるまでハーフセルを放電(Li対極から負極活物質へのLiイオンの供給)し、その後、電圧が1.0Vとなるまでハーフセルを充電(負極活物質からLi対極へのLiイオンの供給)した。放電時及び充電時の電極の重量あたりの容量を測定した。また、初回クーロン効率を、充電容量/放電容量により求めた。結果を表1に示す。また、実施例2及び比較例1の、電圧−容量カーブを
図6に示す。
【表1】