特許第6036257号(P6036257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036257
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】FMCWレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20161121BHJP
   G01S 13/93 20060101ALI20161121BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   G01S13/34
   G01S13/93 220
   G01S7/02 202
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-274827(P2012-274827)
(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公開番号】特開2014-119353(P2014-119353A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】行松 正伸
【審査官】 三田村 陽平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−085452(JP,A)
【文献】 特開2009−222472(JP,A)
【文献】 特開2005−221343(JP,A)
【文献】 特開平11−133144(JP,A)
【文献】 特開平10−020025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が第1変調傾きで順次上昇する第1上昇部(Tbu)、周波数が前記第1変調傾きで順次下降する第1下降部(Tbd)、および、周波数が前記第1変調傾きとは異なる第2変調傾きで順次変化する変動部(Tau、Tad)を有する送信信号を送信する送信部(11〜16)と、
前記送信信号が物標で反射された結果の受信信号を受信すると共に、前記送信信号と前記受信信号に基づくビート信号を出力する受信部(17、18a〜18x、19a〜19x)と、
前記ビート信号に基づいて物標を検出する制御部(22)と、
前記送信部、前記受信部、及び前記制御部のうちの少なくとも当該送信部と当該制御部に電源電圧を供給する電源バイアス回路(10)とを備え、
前記制御部は、
前記受信部が出力した前記ビート信号を取得する取得手段(110、135)と、
前記取得手段が取得した前記ビート信号の前記第1上昇部、前記第1下降部、および前記変動部のそれぞれに対して、離散フーリエ変換を行って周波数ビン−強度特性を得る離散フーリエ変換手段(115、140)と、
発振条件を満たすか否かを判定する発振判定手段(170)と、
前記発振条件が満たされたと前記発振判定手段が判定したことに基づいて、電源バイアス回路(10)に発振があることを通知する通知手段(180、190)と、を備え、
前記発振判定手段は、前記離散フーリエ変換手段によって得られた周波数ビン−強度特性に基づいて、前記第1上昇部と前記第1下降部とのうちいずれか一方、および前記変動部から1個ずつビート信号のピークを抽出してできる1個以上の組のうち、同じ組内の前記一方のピークの周波数ビン番号(Bbu)に前記第1変調傾きと前記第2変調傾きの比(Tau/Tbu)を乗算した量と、前記変動部のピークの周波数ビン番号(Bau)とが、同一のビン数範囲内に入る組が有ると判定したことに基づいて、前記発振条件が満たされたと判定することを特徴とするFMCWレーダ装置。
【請求項2】
前記発振条件は、前記離散フーリエ変換手段によって得られた周波数ビン−強度特性に基づいて、前記第1上昇部と前記第1下降部とのうちいずれか一方、および前記変動部から1個ずつビート信号のピークを抽出してできる1個以上の組のうち、同じ組内の前記一方のピークの周波数ビン番号(Bau)に前記第1変調傾きと第2変調傾きの比(Tau/Tbu)を乗算した量と前記変動部のピークの周波数ビン番号(Bau)とが同一のビン数範囲内に入る組が有ると判定し、かつ、前記離散フーリエ変換手段によって得られた周波数ビン−強度特性に基づいて、前記第1上昇部および前記第1下降部から1個ずつビート信号のピークを抽出してできる1個以上の組のうち、同じ組内のすべてのピークの周波数ビン番号が同一のビン数範囲内に入る組が有ると判定したことに基づいて、前記発振条件が満たされたと判定することを特徴とする請求項1に記載のFMCWレーダ装置。
【請求項3】
前記発振条件は、前記離散フーリエ変換手段によって得られた周波数ビン−強度特性に基づいて、前記第1上昇部と前記第1下降部とのうちいずれか一方、および前記変動部から1個ずつビート信号のピークを抽出してできる1個以上の組のうち、同じ組内のすべてのピークが同一のビン数範囲(Rb)内に入る組が有ると判定し、かつ、同一の前記ビン数範囲内に入ると判定された1個以上のピークの組のうち、同じ組内のすべてのピークのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入る組が有るという条件を含むと判定したことに基づいて、前記発振条件が満たされたと判定することを特徴とする請求項1または2に記載のFMCWレーダ装置。
【請求項4】
前記通知手段(180、190)は、前記発振条件が満たされたと前記発振判定手段が所定の複数回以上判定したことに基づいて、当該FMCWレーダ装置に電源電圧を供給する電源バイアス回路に発振があることを通知することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載のFMCWレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FMCWレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、FMCWレーダ装置において、ビート信号に定常的に印加されるノイズ(周波数およびレベルの時間変動が小さいノイズ成分)を除去する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−151852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、FMCWレーダ装置において、従来に無い方法でビート信号に定常的に印加されるノイズを検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、周波数が第1変調傾きで順次上昇する第1上昇部(Tbu)、周波数が前記第1変調傾きで順次下降する第1下降部(Tbd)、および、周波数が前記第1変調傾きとは異なる第2変調傾きで順次変化する変動部(Tau、Tad)を有する送信信号を送信する送信部(11〜16)と、前記送信信号が物標で反射された結果の受信信号を受信すると共に、前記送信信号と前記受信信号に基づくビート信号を出力する受信部(17、18a〜18x、19a〜19x)と、前記ビート信号に基づいて物標を検出する制御部(22)と、前記送信部、前記受信部、及び前記制御部のうちの少なくとも当該送信部と当該制御部に電源電圧を供給する電源バイアス回路(10)とを備え、前記制御部は、前記受信部が出力した前記ビート信号を取得する取得手段(110、135)と、前記取得手段が取得した前記ビート信号の前記第1上昇部、前記第1下降部、および前記変動部のそれぞれに対して、離散フーリエ変換を行って周波数ビン−強度特性を得る離散フーリエ変換手段(115、140)と、発振条件を満たすか否かを判定する発振判定手段(170)と、前記発振条件が満たされたと前記発振判定手段が判定したことに基づいて、電源バイアス回路(10)に発振があることを通知する通知手段(180、190)と、を備え、前記発振判定手段は、前記離散フーリエ変換手段によって得られた周波数ビン−強度特性に基づいて、前記第1上昇部と前記第1下降部とのうちいずれか一方、および前記変動部から1個ずつビート信号のピークを抽出してできる1個以上の組のうち、同じ組内の前記一方のピークの周波数ビン番号(Bbu)に前記第1変調傾きと前記第2変調傾きの比(Tau/Tbu)を乗算した量と、前記変動部のピークの周波数ビン番号(Bau)とが、同一のビン数範囲内に入る組が有ると判定したことに基づいて、前記発振条件が満たされたと判定することを特徴とするFMCWレーダ装置である。
【0010】
発明者は、第1上昇部(Tbu)および第1下降部(Tbd)から成る部分と変動部(Tau)から成る部分の両方で同じ現実の物標を検出した場合、両方で検出する距離(FMCWレーダ装置から当該物標までの距離)は同じになる。しかし、前者と後者の変調傾きが異なる場合は、前者と後者のビート信号のピークの周波数が異なる。周波数BIN番号に換算すると、第1上昇部(Tbu)および第1下降部(Tbd)のうち一方のピークの周波数BIN番号(Bbu)に第1変調傾きと第2変調傾きの比(Tau/Tbu)を乗算した量と、変動部(Tau)のピークの周波数BIN番号(Bau)とが異なる。
【0011】
一方、電源バイアス回路に一定周期の発振が発生し、その結果、ビート信号に発振ノイズが重畳された場合、その発振ノイズの影響に相当するピークをビート信号が含むようになる。そのようなピークは、変調傾きに無関係に、定常的に発生する。したがって、発振ノイズに由来するピークに関しては、第1上昇部(Tbu)および第1下降部(Tbd)のうち一方のピークの周波数BIN番号(Bbu)に第1変調傾きと第2変調傾きの比(Tau/Tbu)を乗算した量と、変動部(Tau)のピークの周波数BIN番号(Bau)とが、同じになる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、このような特性の違いを利用して、ビート信号の周波数BIN−強度特性に基づいて、第1上昇部と第1下降部とのうちいずれか一方、および変動部から1個ずつビート信号のピークを抽出してできる1個以上の組のうち、同じ組内の前記一方のピークの周波数BIN番号(Bbu)に第1変調傾きと第2変調傾きの比(Tau/Tbu)を乗算した量と、前記変動部(Tau)のピークの周波数BIN番号(Bau)とが、同一のBIN数範囲内に入る組が有ると判定したことに基づいて、発振条件が満たされたと判定するこのようにすることで、従来に無い新規な方法で、ビート信号に定常的に印加されるノイズを検出することができる。
【0013】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るFMCWレーダ装置の構成図である。
図2】第1サブ変調信号TS1、TS2を表す図である。
図3】第1実施形態において制御部が実行する処理のフローチャートである。
図4】各部Tbu、Tbd、Tau、Tadにおいて取得するビート信号の周波数−強度関係を例示するグラフである。
図5】第1実施形態の発振判定処理の詳細を示すフローチャートである。
図6】異なる物標のピーク周波数Px1、Px2、Py3、Py4が偶々一致する例を示す図である。
図7】第2実施形態において制御部が実行する処理のフローチャートである。
図8】各部Tbu、Tbd、Tau、Tadにおいて取得するビート信号の周波数−強度関係を例示するグラフである。
図9】第2実施形態の発振判定処理の詳細を示すフローチャートである。波数BIN−強度関係を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。図1に示す本実施形態のFMCWレーダ装置1は、車両に搭載され、自車両の進行方向、例えば前方に向けてミリ波帯の電波を出射する。そして、先行車両、障害物などの物標によって反射した電波を到来波として受信することで、自機から物標までの距離および自機に対する物標の相対速度を求めるものである。
【0016】
この車両用のFMCWレーダ装置1は、図1に示す通り、車両に搭載され、送信部として、DAC11、VCO12、BA(バッファアンプ)13、分配器14、PA(パワーアンプ)15、送信アンテナ16を備えている。更にFMCWレーダ装置1は、受信部として複数個の受信アンテナ18a、18b、18c〜18x、および、受信アンテナ18a、18b、18c〜18xと1対1に対応する複数個のミキサ19a、19b、19c〜19xを備えている。更にFMCWレーダ装置1は、BBAMP(ベースバンドアンプ)20、ADC21、および制御部22を備えている。
【0017】
また、車両には、車内LANとしてのCAN2、および、FMCWレーダ装置1、CAN2に電源電圧を供給する電源バイアス回路10が備えられている。電源バイアス回路10は、車両のIG線およびGND線が入力されており、IGオン時に、所定の直流電源電圧をFMCWレーダ装置1の各部11、12、13、15、17、19、20、22、22およびCAN2等に供給する。
【0018】
DAC11は、制御部22から入力される所定長さの三角波状のデジタル信号を、VCO12の調整レベルに変換して、所定周期の三角波状のアナログ変調信号として出力するDAコンバータである。
【0019】
VCO12は、DAC11から入力された三角波状のアナログ変調信号で周波数変調された信号(正規の信号に相当する)を出力し、BA13は、この信号を増幅して出力する。VCO12から出力される信号は、ミリ波帯の信号(例えば、中心周波数76.5、周波数変動幅300MHzの信号)である。より詳しくは、入力された三角波状のアナログ変調信号に同期して周波数が直線的に順次上昇する上昇部および上昇部の直後に周波数が直線的に順次下降する下降部とを有する信号である。
【0020】
分配器14は、BA13から出力された信号を2方に電力分配してローカル信号と送信信号を生成するものである。この分配器14からの送信信号はPA15に入力されて増幅され、ローカル信号はLA17で増幅されて複数個のミキサ19a〜19xに入力されるようになっている。
【0021】
PA15によって増幅された送信信号はアンテナ16に入力される。これにより、アンテナ16からは、周波数が直線的に順次上昇する上昇部および上昇部の直後に周波数が直線的に順次下降する下降部を有するミリ波の送信信号が送信される。
【0022】
複数個の受信アンテナ18a〜18xは、水平方向に並んで配置され、全体で1つのアレーアンテナを構成する。これら複数個の受信アンテナ18a〜18xのそれぞれは、送信アンテナ16から送信されて対象物で反射された結果の受信信号を受信する。
【0023】
複数個のミキサ19a〜19xのそれぞれは、対応する受信アンテナが受信した受信信号と、分配器14から伝えられるローカル信号とを混合して周知のビート信号を生成して出力する。このとき生成されるビート信号の周波数がビート周波数と呼ばれるもので、送信信号の周波数が増加する上昇部のビート周波数を上り変調時のビート周波数、送信信号の周波数が減少する下降部のビート周波数を下り変調時のビート周波数と呼び、FMCW方式による対象物の距離および相対速度の演算に用いられる。
【0024】
BBAMP20は、複数個のミキサ19a〜19xの各々が出力したビート信号を増幅してADC21に入力する。ADC21は、BBAMP20入力されたビート信号をデジタル信号に変換して制御部22に入力するADコンバータである。
【0025】
制御部22は、定期的に繰り返し訪れる所定のサンプリングタイミングにおいて上述のようにDAC11に対して所定周期の三角波状のデジタル信号を入力すると共に、ADC21から入力された各ビート信号を取得して後述する処理を行うことで、自機から物標までの距離、自機から見た物標の方位、および自機に対する物標の相対速度を検出し、CAN2を介してプリクラッシュ制御ECU等の車内装置に、当該距離、方位および相対速度を送信する。
【0026】
以下、上記のような構成のFMCWレーダ装置1の作動について説明する。制御部22は、定期的に繰り返し訪れる所定のサンプリングタイミングの各々において、上述の通り、DAC11に対して所定周期の三角波状のデジタル信号を入力する。
【0027】
ただし、入力する三角波状のデジタル信号は、強度が1回上昇して1回下降する掃引を2回分含む、2掃引の信号となっている。具体的には、入力する三角波状のデジタル信号は第1種の三角波状のデジタル信号、および、第2種の三角波状のデジタル信号を、この順に含む信号である。
【0028】
この結果、BA13から出力される変調信号(送信信号、ローカル信号)は、図2に示すような2種類の第1サブ変調信号TS1、TS2となる。つまり、BA13は、1つのサンプリングタイミングにおいて、第1種の三角波状のデジタル信号に対応する第1サブ変調信号TS1、および、第2種の三角波状のデジタル信号に対応する第2サブ変調信号TS2を、この順に出力する。なお、第1サブ変調信号TS1の出力終了から第2サブ変調信号TS2の出力開始までの時間間隔は、5msec程度以下である。
【0029】
ここで、第1サブ変調信号TS1と第2サブ変調信号TS2との違いについて説明する。これら第1サブ変調信号TS1と第2サブ変調信号TS2とでは、上り時間Tbu、Tauが互いに異なり、また、下り時間Tbd、Tadが互いに異なっている。
【0030】
ここで、上り時間Tbu、Tauは、それぞれ第1サブ変調信号TS1、TS2において周波数が上昇する区間の時間長(受信データ取得時間)であり、下り時間Tbd、Tadは、それぞれ第1サブ変調信号TS1、TS2において周波数が下降する区間の時間長(受信データ取得時間)である。
【0031】
より具体的には、変調信号TS1の上り時間Tbuの方が、変調信号TS2の上り時間Tauよりも短く、かつ、変調信号TS1の下り時間Tbdの方が、変調信号TS2の下り時間Tadよりも短い。
【0032】
本実施形態では、一例として、Tbu、Tba、Tau、Tadを、それぞれ0.5ms、0.5ms、1ms、1msとする。また、各第1サブ変調信号TS1、TS2の周波数変位幅(周波数の最大値と最小値の差)は、同じ300MHzとする。
【0033】
制御部22は、上述の通り、DAC11に対して所定周期の三角波状のデジタル信号を入力すると同時に、図3に示す処理を実行する。この図3の処理も、制御部22によって、サンプリングタイミング毎に実行される。
【0034】
図3の処理においては、まずステップ110で、上り時間Tbuおよび下り時間Tbdにおいて、ADC21から入力された各チャンネルのビート信号を、第1サブ変調信号TS1に対応するビート信号として取得する。
【0035】
ここで、チャンネルは、アレーアンテナを構成する上記複数の受信アンテナに1対1に対応する概念である。例えば、受信アンテナ18aのチャンネルのビート信号は、受信アンテナ18aが受信した受信信号から生成されたビート信号である。なお、取得する各ビート信号は、上り時間Tbu(すなわち第1上昇部)および下り時間Tbd(すなわち第1下降部)における1掃引分のビート信号である。
【0036】
続いてステップ115に進み、各チャンネルのビート信号の上記上り時間Tbuの部分および下り時間Tbdの部分に対して、独立に高速フーリエ変換(FFT。離散フーリエ変換の一例に相当する)を施す。これにより、チャンネル毎に、上り時間Tbu(第1上昇部)の周波数−強度特性および下り時間Tbd(第1下降部)の周波数−強度特性が得られる。
【0037】
続いてステップ120では、ステップ115で得られたチャンネル毎の第1上昇部の周波数−強度特性に基づいて、第1上昇部で、物標(0個の場合もあるし1個の場合もあるし複数の場合もある)毎に1つのピーク周波数(全体として物標と同じ数になる)を特定し、当該ピーク周波数に対応する受信方位(対応する物標の方位に相当する)を推定する。
【0038】
更に、ステップ115で得られたチャンネル毎の第1下降部の周波数−強度特性に基づいて、第1下降部で、物標(0個の場合もあるし1個の場合もあるし複数の場合もある)毎に1つのピーク周波数(全体として物標と同じ数になる)を特定し、当該ピーク周波数に対応する受信方位(対応する物標の方位に相当する)を推定する。
【0039】
このステップ120における方位の推定では、周知のDBF(Digital Beam Forming)技術を用いる。
【0040】
続いてステップ125では、ペアマッチを行う。具体的には、ステップ120で特定した第1上昇部のピーク周波数と、第1下降部のピーク周波数との間で、同じ物標に対応するピーク周波数のペア(第1下降部のピーク周波数1個と第1上昇部のピーク周波数1個から成るペア。以下、Bペアともいう。)を抽出する。抽出されるBペアの数は、物標の数と同じになる。したがって、物標が複数あれば、複数個のペアが抽出される。
【0041】
ペアマッチの方法としては、例えば、ピーク周波数におけるビート信号の強度(すなわち、ピーク強度)の差が所定の強度範囲内にあり、かつ、ピーク周波数に対応する受信方位が所定の方位範囲内にあり、かつ前回のサンプリングタイミングにおける測定データから推定される周波数に近い、履歴が繋がるペアを抽出する方法を採用する。
【0042】
具体的には、第1上昇部から1つのピークYを選び、さらに、この1つのピークYに対して受信方位の差が所定の方位範囲内にあり且つピーク強度の差が所定の強度範囲内にある第1下降部のピークをすべて(ただし、下記のように除外されたものを除く)抽出し、それら抽出したピークのうち、ピーク強度が最もピークYに近いピークZを選び、このピークY、Zをペアとし、ピークZを抽出対象から除外する。そして、この手順を、予め指定した回数(例えば第1上昇部でピーク強度を大きい順に64回抽出して)繰り返す。
【0043】
続いてステップ130では、ステップ125で抽出したBペア毎に、物標化を行う。物標化では、対象のBペアのピーク周波数を用いて、自機から対象のBペアに対応する物標までの距離、自機に対する当該物標の相対速度、自機から見た当該物標の方位を算出し、算出結果を当該Bペアの物標データとする。このステップ130で物標化された物標(物標化データが作成されたBペアに対応する物標)を、それぞれB物標という。
【0044】
ペアとなる第1上昇部のピーク周波数と第1下降部のピーク周波数に基づいて上記距離および相対速度を算出する方法は周知の通りである。すなわち、第1上昇部のピーク周波数をfbu、第1下降部のピーク周波数をfbdとすると、距離D、相対速度Vは、
D=C・(fbu+fbd)/2(ΔFb/Tbu+ΔFb/Tbd) (式1)
V=C・(fbu−fbd・Tbd/Tbu)/{2・f0b(1+Tbd/Tbu)} (式2)
となる。ここで、ΔFbは送信信号(すなわち、第1サブ変調信号TS1)の周波数変位幅であり、f0bは送信信号の中心周波数であり、Cは光速である。本実施形態では、一例として、ΔFb=300MHz、Tbu=Tbd=0.5ms、f0a=76.5GHzとする。
【0045】
また、ペアとなる第1上昇部のピーク周波数と第1下降部のピーク周波数に基づいて上記方位を算出する方法としては、例えば、当該2つのピーク周波数の各々についてステップ120で推定された方位の平均値を用いる。
【0046】
続いてステップ135で、上り時間Tauおよび下り時間Tadにおいて、ADC21から入力された各チャンネルのビート信号を、第2サブ変調信号TS2に対応するビート信号として取得する。なお、取得する各ビート信号は、上り時間Tau(すなわち第2上昇部)および下り時間Tad(すなわち第2下降部)における1掃引分のビート信号である。
【0047】
続いてステップ140に進み、各チャンネルのビート信号の上記上り時間Tauの部分および下り時間Tadの部分に対して、独立にFFTを施す。これにより、チャンネル毎に、上り時間Tau(第2上昇部)の周波数−強度特性および下り時間Tad(第2下降部)の周波数−強度特性が得られる。
【0048】
続いてステップ145では、ステップ140で得られたチャンネル毎の第2上昇部の周波数−強度特性に基づいて、第2上昇部で、物標(0個の場合もあるし1個の場合もあるし複数の場合もある)毎に1つのピーク周波数(全体として物標と同じ数になる)を特定し、当該ピーク周波数に対応する受信方位(対応する物標の方位に相当する)を推定する。
【0049】
更に、ステップ140で得られたチャンネル毎の第2下降部の周波数−強度特性に基づいて、第2下降部で、物標(0個の場合もあるし1個の場合もあるし複数の場合もある)毎に1つのピーク周波数(全体として物標と同じ数になる)を特定し、当該ピーク周波数に対応する受信方位(対応する物標の方位に相当する)を推定する。
【0050】
このステップ145における方位の推定でも、周知のDBF(Digital Beam Forming)技術を用いる。
【0051】
続いてステップ150では、ペアマッチを行う。具体的には、ステップ145で特定した第2上昇部のピーク周波数と、第2下降部のピーク周波数との間で、同じ物標に対応するピーク周波数のペア(第2下降部のピーク周波数1個と第2上昇部のピーク周波数1個から成るペア。以下、Aペアともいう。)を抽出する。ペアマッチの方法は、ステップ125と同等のものを採用する。
【0052】
続いてステップ155では、ステップ150で抽出したAペア毎に、物標化を行う。物標化では、対象のAペアのピーク周波数を用いて、自機から対象のAペアに対応する物標までの距離、自機に対する当該物標の相対速度、自機から見た当該物標の方位を算出し、算出結果を当該Aペアの物標データとする。このステップ155で物標化された物標(物標化データが作成されたAペアに対応する物標)を、それぞれA物標という。
【0053】
ペアとなる第2上昇部のピーク周波数と第2下降部のピーク周波数に基づいて上記距離および相対速度を算出する方法は周知の通りである。すなわち、第2上昇部のピーク周波数をfau、第2下降部のピーク周波数をfadとすると、距離D、相対速度Vは、
D=C・(fau+fad)/2(ΔFa/Tau+ΔFa/Tad) (式3)
V=C・(fau−fad・Tad/Tau)/{2・f0a(1+Tad/Tau)} (式4)
となる。ここで、ΔFaは送信信号(すなわち、第2サブ変調信号TS2)の周波数変位幅であり、f0aは送信信号の中心周波数であり、Cは光速である。本実施形態では、一例として、ΔFb=ΔFa=300MHz、Tau=Tad=1.0ms、f0b=f0a=76.5GHzとする。
【0054】
1つのサンプリングタイミングにおいて第1サブ変調信号TS1に基づくビート信号と第2サブ変調信号TS2に基づくビート信号の両方で同じ現実の物標を検出した場合、両方で検出する距離Dは同じになる。しかし、(Tbu+Tbd)/8ΔFbと(Tau+Tad)/8ΔFaが異なる値を取る場合は、fbu+fbdとfau+fadとは異なる値となる。
【0055】
実際、本実施形態では、ΔFbとΔFaは同じ値を取るが、Tbu+TbdがTau+Tadよりも小さいので、(Tbu+Tbd)/8ΔFb<(Tau+Tad)/8ΔFaとなる。つまり、第1変調傾きΔFb/Tbu(=ΔFb/Tbd)と第2変調傾きΔFa/Tau(=ΔFa/Tad)とが互いに異なる。
【0056】
したがって、1つのサンプリングタイミングにおいて第1サブ変調信号TS1に基づくビート信号と第2サブ変調信号TS2に基づくビート信号の両方で同じ現実の物標を検出した場合、fbu+fbd>fau+fadとなる。図4は、第1サブ変調信号TS1の上り時間(第1上昇部)Tbu、下り時間(第1下降部)Tbd、および、第2サブ変調信号TS2の上り時間(第2上昇部)Tau、下り時間(第2下降部)Tadにおいて取得するビート信号の周波数−強度関係を例示するグラフである。この図4中のピークP1〜P4は、同じ1つの物標(実際に存在する物体)に対応するピークであり、上述の通り、fbu+fbd>fau+fadという関係になっている。
【0057】
ここまでは、電源バイアス回路10に由来するノイズがビート信号に重畳されていない場合について説明した。以下では、電源バイアス回路10に一定周期の発振が発生し、その結果、BB系、受信系、BA系、PA系のうち少なくともBB系(ミキサ出力からADC21まで、例えばADC21)への供給電圧に発振ノイズが重畳された場合について説明する。
【0058】
ここで、BB系は、BBAMP20、ADC21、および制御部22を含む系であり、受信系は、ローカルアンプ17、受信アンテナ18a〜18x、ミキサ19a〜19xを含む系である。また、変調系は、DAC11、VCO12を含む系であり、BA系は、BA13を含む系であり、PA系は、PA15を含む系である。
【0059】
この場合、図4に示すように、各部Tbu、Tbd、Tau、Tadにおけるビート信号は、正規の信号に由来するピークP1〜P4に加え、発振ノイズの影響に相当するピークP5〜P8を含むようになる。そのようなピークP5〜P8は、第1サブ変調信号TS1、TS2の変調傾きに無関係に、定常的に発生する。したがって、ピークP5〜P8の周波数は、Tbu、Tbd、Tau、Tadのすべてにおいて同じになっている。
【0060】
このようなピークP5〜P8のうち、ピークP5、P6は、ステップ125のペアマッチでペアとなる。これは、両者のピーク強度はほぼ同じであり、かつ、両者の受信方位も同じになり、かつ、両者は定常的に発生しているからである。また、同様の理由で、ピークP7、P8は、ステップ150のペアマッチでペアとなる。
【0061】
ステップ155に続いては、ステップ170で発振判定を行う。この発振判定では、上述のように、電源バイアス回路10の発振に由来してBB系への供給電圧に発振ノイズが重畳されたか否かを判定する。
【0062】
この発振判定では、図5に示すように、まずステップ205で、各部Tbu、Tbd、Tau、Tadから1個ずつビート信号のピークを抽出してできる組(0組の場合も、1組の場合も、複数組の場合もある)のうち、同じ組内のすべてのピークが同一の周波数範囲Rf内に入る組が有るか否か判定する。この判定は、正規の信号に由来するビート信号中のピークP1〜P4と、バイアス回路10の発振に由来するビート信号中のピークP5〜P8との上記した特性の違いを利用する判定である。
【0063】
例えば、各部Tbu、Tbd、Tau、Tadから1個ずつビート信号のピークを抽出してできる組を、ステップ125、150のペアマッチを壊さずに組み合わせ可能な分だけすべて作成し、作成した各組について、同じ組内で一番低いピーク周波数から一番高いピーク周波数までの幅を算出し、算出した幅が周波数範囲Rfの幅以下であるか否かを判定する。そして、算出した幅が周波数範囲Rfの幅以下である組が1つ以上存在すれば、同一の周波数範囲Rf内に入る組が有ると判定する。
【0064】
電源バイアス回路10の発振に由来する発振ノイズのピーク周波数は、各部Tbu、Tbd、Tau、Tadにおいてほぼ正確に一致するはずであるため,この周波数範囲Rfの幅は,本レーダの信号処理における周波数分解性能と同等とすることが望ましい。本実施形態の例では、Rf=2/Tbu[Hz]以下となる。
【0065】
図4の例で説明すると、このステップ205では、ピークP5、P6、P7、P8の組のみが、同一の周波数範囲Rf内に入るが、他の組(すなわち、ピークP1、P2、P3、P4の組、ピークP1、P2、P7、P8の組、ピークP5、P6、P3、P4の組)は、同一の周波数範囲Rf内に入らない。
【0066】
この結果、ステップ205では、同一の周波数範囲Rf内に入る組が有ると判定し、ステップ210に進む。以下、同一の周波数範囲Rf内に入ると判定されたピークの組を、Pbu、Pbd、Pau、Padと呼ぶ。
【0067】
なお、図4の例と違い、電源バイアス回路10の発振に由来する発振ノイズが発生しない場合は、唯一のピークの組P1、P2、P3、P4は、同一の周波数範囲Rf内に入らない。したがって、ステップ205では、同一の周波数範囲Rf内に入る組が無いと判定し、ステップ225に進み、発振フラグをオフに設定し、発振判定を終了する。
【0068】
ステップ210では、同一の周波数範囲Rf内に入ると判定された1個以上のピークの組Pbu、Pbd、Pau、Padのうち、同じ組内のすべてのピークPbu、Pbd、Pau、Padのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入る組が有るか否か判定する。
【0069】
このステップ210の判定は、実際には、1回のサンプリングタイミングにおいて現実の物標が複数個検出されると、偶々異なる物標に対応するピークの周波数が一致してしまう場合があることに鑑みた判定である。
【0070】
偶々異なる物標に対応するピークの周波数が一致してしまう典型的な場面について、図6を用いて説明する。2つの物標X、Yが、FMCWレーダ装置1から異なる距離Dx、Dyにあり、かつ、FMCWレーダ装置1に対する相対速度Vがゼロであったとする。
【0071】
その場合、上述の式2、式4からもわかる通り、物標Xに対応するピークPx1〜Px4については、第1サブ変調信号TS1の上り時間(第1上昇部)TbuにおけるピークPx1の周波数は、下り時間(第1下降部)TbdにおけるピークPx2の周波数と同じ値になる。また同様に、第2サブ変調信号TS2の上り時間(第2上昇部)TauにおけるピークPx3の周波数は、下り時間(第2下降部)TadにおけるピークPx4の周波数と同じ値になる。
【0072】
同様に、物標Yに対応するピークPy1〜Py4については、第1サブ変調信号TS1の上り時間(第1上昇部)TbuにおけるピークPy1の周波数は、下り時間(第1下降部)TbdにおけるピークPy2の周波数と同じ値になる。また同様に、第2サブ変調信号TS2の上り時間(第2上昇部)TauにおけるピークPy3の周波数は、下り時間(第2下降部)TadにおけるピークPy4の周波数と同じ値になる。
【0073】
ただし、物標Xについては、第1サブ変調信号TS1に対応するピークPx1、Px2は、第2サブ変調信号TS2に対応するピークPx3、Px4とは同じにならない。同様に、物標Yについては、第1サブ変調信号TS1に対応するピークPy1、Py2は、第2サブ変調信号TS2に対応するピークPy3、Py4とは同じにならない。これは、第1サブ変調信号TS1の第1変調傾き(すなわち、ΔFb/Tbu=ΔFb/Tbd)は第2サブ変調信号TS2の第2変調傾き(すなわち、ΔFa/Tau=ΔFa/Tad)と異なっているからである。
【0074】
したがって、場合によっては、図6に示すように、物標Xに対応するピークPx1、Px2と、物標Yに対応するピークPy3、Py4が、すべて同じ周波数になってしまう場合がある。このような場合、ステップ205では、同一の周波数範囲Rf内に入る組が存在すると判定してしまう。
【0075】
しかし、このような場合でも、物標Xに対応するピークPx1、Px2のピーク強度が、物標Yに対応するピークPy3、Py4のピーク強度と等しくなることはほとんどない。なぜなら、物標Xと物標Yとでは距離Dx、Dyが異なるからである。距離Dx、Dyが異なるにも関わらずピーク強度が等しくなるためには、物標X、Yが、夫々の距離の比に応じたレーダ反射断面積を持つ物標である必要がある。しかし、偶々このようになるのは希なことである。
【0076】
一方、バイアス回路10の発振がBB系に重畳する経路は、第1サブ変調信号TS1、TS2の変調傾き(すなわち、ΔFb/Tbu、ΔFb/Tbd、ΔFa/Tau、ΔFa/Tad)によらず一定である。したがって、発振ノイズに由来するビート信号のピークP5〜P8(図4参照)のピーク強度は、変調傾きによらず同一である。
【0077】
このような観点から、ステップ210のように、同一の周波数範囲Rf内に入ると判定されたピークの組Pbu、Pbd、Pau、Padの各々について、同じ組内のすべてのピークPbu、Pbd、Pau、Padのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入るか否か判定するようにしている。なお、所定のピーク強度範囲は、ほぼ同一と言える範囲でよく、例えば、判定対象となるピークの組Pbu、Pbd、Pau、Padのうち最も低いピーク強度から、当該ピーク強度+1dBまでの範囲としてもよい。
【0078】
ステップ210では、同一の周波数範囲Rf内に入ると判定されたピークの組のうち、1組でも、同じ組内のすべてのピークPbu、Pbd、Pau、Padのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入ると判定した場合は、ステップ215に進む。図4は、このような場合の一例を表している。
【0079】
また、同一の周波数範囲Rf内に入ると判定されたピークの組の全部について、同じ組内のすべてのピークPbu、Pbd、Pau、Padのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入らないと判定した場合は、ステップ225に進む。図6は、このような場合の一例を表している。ステップ225では、発振フラグをオフに設定し、その後、発振判定を終了する。
【0080】
このように、発振判定にステップ210のような基準を採用することにより、すべての変調傾きにおいて周波数が一致するスペクトルがある場合には常に発振フラグをオンにするよりも、電源バイアス回路10の発振の誤検出の可能性を下げることができる。
【0081】
ステップ215では、同一の周波数範囲Rf内に入っており、かつ、同一のピーク強度を有するピークの組Pbu、Pbd、Pau、Padのそれぞれを判定対象として、以下の判定を行う。
【0082】
まず、判定対象とするピークの1組から、ステップ130で物標化したB物標に対応するピークPbu、Pbdを抽出する。そして、これらピークPbu、Pbdの周波数から式1を用いて得られる距離Dと(所定誤差範囲内で)同一の距離Dを有する物標を、ステップ155で物標化されたA物標中から検索し、そのような物標が有るか無いか判定する。
【0083】
そのような物標がA物標中にあるならば、ピークPbu(例えばピークP5)、Pbd(例えばピークP6)は、現実の物標に対応するピーク、すなわち、ノイズ由来ではなく、正規の信号に由来するピークである可能性が高いということになる。逆に、そのような物標がA物標中にないならば、ピークPbu、Pbdは、現実の物標に対応するピークでない可能性が、つまり、ノイズである可能性が、非常に高くなる。
【0084】
したがって、判定対象のピークの組のすべてについて、そのような物標がA物標中に有ると判定された場合は、ステップ225に進んで発振フラグをオフに設定し、発振判定を終了する。一方、判定対象のピークの組のうち1組以上で、そのような物標がA物標中に無いと判定された場合は、ステップ220に進む。
【0085】
ステップ220では、同一の周波数範囲Rf内に入っており、かつ、同一のピーク強度を有し、かつ、対応するB物標と距離Dが(所定誤差範囲内で)同一であるA物標が存在しないピークの組Pbu、Pbd、Pau、Padのそれぞれを判定対象として、以下の判定を行う。
【0086】
まず、判定対象とするピークの1組から、ステップ155で物標化したA物標に対応するピークPau、Padを抽出する。そして、これらピークPau、Padの周波数から式3を用いて得られる距離Dと(所定誤差範囲内で)同一の距離Dを有する物標を、ステップ130で物標化されたA物標中から検索し、そのような物標が有るか無いか判定する。
【0087】
そのような物標がB物標中にあるならば、ピークPau(例えばピークP7)、Pad(例えばピークP8)は、現実の物標に対応するピーク、すなわち、ノイズ由来ではなく、正規の信号に由来するピークである可能性が高いということになる。逆に、そのような物標がB物標中にないならば、ピークPau、Padは、現実の物標に対応するピークでない可能性が、つまり、ノイズである可能性が、非常に高くなる。
【0088】
したがって、判定対象のピークの組のすべてについて、そのような物標がB物標中に有ると判定された場合は、発振フラグをオフに設定し、発振判定を終了する。一方、判定対象のピークの組のうち1組以上で、そのような物標がB物標中に無いと判定された場合は、ステップ230に進み、発振フラグをオフに設定し、発振判定を終了する。ステップ215、220のような判定基準を採用することで、誤って発振フラグをオンにしてしまう可能性が更に低減される。
【0089】
ステップ170の発振判定に続いては、ステップ180に進み、発振判定の結果に基づいて、電源バイアス回路10に発振が有るか否か判定する。具体的には、発振フラグがオンならば電源バイアス回路10に発振が有ると判定してステップ190に進み、発振フラグがオフならば電源バイアス回路10に発振が無いと判定してステップ185に進む。
【0090】
ステップ185では、CAN2を介して、直前のステップ160のグルーピングの結果である物標データ(A物標の物標データのみでもよいし、B物標の物標データのみでもよいし、A物標とB物標の両方の物標データでもよい)を、プリクラッシュ制御ECUに送信する。
【0091】
プリクラッシュ制御ECUは、この物標データを受信すると、周知のプリクラッシュ制御を行う。例えば、FMCWレーダ装置1から所定の距離以内に所定の相対速度以上で近づいてくる物標があるか否か判定し、ある場合にのみ、当該物標との衝突に備えて、自動ブレーキの作動、プリテンショナの作動、警告音出力等を行う。ステップ185の後は、次のサンプリングタイミングまで待った上でステップ110に戻る。
【0092】
ステップ190では、CAN2を介して、電源バイアス回路10に発振があったことを示す信号を、プリクラッシュ制御ECU等に出力する。プリクラッシュ制御ECUは、この信号を受信すると、車両の乗員に異常を報知してもよい。ステップ190の後は、電源バイアス回路10に異常があって誤検出を行う可能性が高いので、距離測定を終了する。すなわち、図3の処理(物標データの作成および送信等)をこれ以上繰り返さない。
【0093】
以上説明した通り、本実施形態では、制御部22が、ステップ170で、所定の発振条件を満たすか否かを判定し、満たす場合は発振フラグをオンとし、満たさない場合は発振フラグをオフとする。
【0094】
そして、所定の発振条件は、上述のステップ205で採用した条件1、ステップ210で採用した条件2、ステップ215で採用した条件3、ステップ220で採用した条件4のすべてを必要条件として含む。
【0095】
特に、条件1としては、第1上昇部Tbu、第1下降部Tbd、第2上昇部Tau、および第2下降部Tadのそれぞれから1個ずつビート信号のピークを抽出してできる組のうち、同じ組内のすべてのピークが同一の周波数範囲Rf内に入る組が有るという条件を採用している。このようにすることで、従来に無い新規な方法で、ビート信号に定常的に印加されるノイズを検出することができる。
【0096】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるのは、制御部22がサンプリングタイミング毎に実行する図2の処理を、図7の処理に変えた点のみであり、FMCWレーダ装置1のハードウェア構成は、第1実施形態と同じである。
【0097】
以下、本実施形態におけるFMCWレーダ装置1の作動について、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。制御部22がサンプリングタイミングの各々において、DAC11に対して入力する三角波状のデジタル信号は、第1実施形態と同じである。したがって、サンプリングタイミングの各々においてBA13から出力される変調信号(送信信号、ローカル信号)も、第1実施形態と同様、図2に示すような2種類の第1サブ変調信号TS1、TS2となる。
【0098】
制御部22は、上述の通り、DAC11に対して所定周期の三角波状のデジタル信号を入力すると同時に、図3に示す処理に代えて、図7に示す処理を実行する。
【0099】
図3の処理においては、まずステップ110で、図3のステップ110と同じ方法で、上り時間Tbuおよび下り時間Tbdにおいて、ADC21から入力された各チャンネルのビート信号を、第1サブ変調信号TS1に対応するビート信号として取得する。
【0100】
続いてステップ115に進み、各チャンネルのビート信号の上記上り時間Tbuの部分および下り時間Tbdの部分に対して、独立にFFTを施す。これにより、チャンネル毎に、上り時間Tbu(第1上昇部)の周波数−強度特性および下り時間Tbd(第1下降部)の周波数BIN−強度特性が得られる。
【0101】
このステップ115の処理内容も、図3のステップ115と同じであるが、更に詳しく説明すると、このFFTにおけるサンプリング周波数は、例えば1MHzとする。したがって、時間Tbu、Tbdがいずれも0.5msなので、FFTにおけるサンプル数は500ポイントになり、また、周波数BINの数は250個となる。したがって1周波数BINの幅は1MHz/500=2kHzである。これは、第1実施形態でも同様である。
【0102】
続いてステップ120では、図3のステップ120と同じ方法で、第1上昇部と第1下降部のそれぞれで、物標毎に1つのピーク周波数を特定し、当該ピーク周波数に対応する受信方位を推定する。
【0103】
続いてステップ135で、図3のステップ135と同じ方法で、上り時間Tauおよび下り時間Tadにおいて、ADC21から入力された各チャンネルのビート信号を、第2サブ変調信号TS2に対応するビート信号として取得する。
【0104】
続いてステップ140に進み、各チャンネルのビート信号の上記上り時間Tauの部分および下り時間Tadの部分に対して、独立にFFTを施す。これにより、チャンネル毎に、上り時間Tau(第2上昇部)の周波数−強度特性および下り時間Tad(第2下降部)の周波数BIN−強度特性が得られる。
【0105】
このステップ140の処理内容も、図3のステップ140と同じであるが、更に詳しく説明すると、このFFTにおけるサンプリング周波数は、ステップ115と同じ1MHzとする。したがって、時間Tau、Tadがいずれも1.0msなので、FFTにおけるサンプル数は1000ポイントになり、また、周波数BINの数は500個となる。したがって1周波数BINの幅は1MHz/1000=1kHzである。これは、第1実施形態でも同様である。
【0106】
このようになっているので、第1サブ変調信号TS1に対応するビート信号の上り時間Tbuおよび下り時間Tbdに対するFFTの周波数BINの幅よりも、第2サブ変調信号TS2に対応するビート信号の上り時間Tauおよび下り時間Tadに対するFFTの周波数BINの幅の方が狭く、後者は前者の1/2である。
【0107】
1つのサンプリングタイミングにおいて第1サブ変調信号TS1に基づくビート信号と第2サブ変調信号TS2に基づくビート信号の両方に、同じ現実の物標に対応するピークが含まれる場合、そのピークに応じて最終的に両方で検出する距離Dは同じになる。
【0108】
しかし、第1実施形態で説明した通り、本実施形態では、ΔFbとΔFaは同じ値を取るが、Tbu(=Tbd)がTau(=Tad)より小さく、第1変調傾きΔFb/Tbu(=ΔFb/Tbd)と第2変調傾きΔFa/Tau(=ΔFa/Tad)とが互いに異なる。
【0109】
したがって、1つのサンプリングタイミングにおいて第1サブ変調信号TS1に基づくビート信号と第2サブ変調信号TS2に基づくビート信号の両方で同じ物標に対応するピークを検出した場合、fau<fbu、fad<fbdになる。これを、周波数BIN番号に換算すると、Bau=INT(fau・Tau)、Bbu=INT(fbu・Tbu)、Bad=INT(fad・Tad)、Bbd=INT(fbd・Tbd)となる。ここで、INT()は整数化演算子であり、例えばINT(2.33)=2となる。
【0110】
ここで、Bauは、上り時間Tauのビート信号をFFT処理した結果のピークの周波数BIN番号であり、Bbuは、上り時間Tbuのビート信号をFFT処理した結果のピークのBIN番号である。ここで、周波数BIN番号とは、周波数ゼロに最も近いBINを0として周波数が高くなる方に順番に周波数BINを数えた値をいい、単位は[BIN]とする。
【0111】
図8は、第1サブ変調信号TS1の上り時間(第1上昇部)Tbu、下り時間(第1下降部)Tbd、および、第2サブ変調信号TS2の上り時間(第2上昇部)Tau、下り時間(第2下降部)Tadにおいて取得するビート信号の周波数BIN番号−強度関係を例示するグラフである。この図8中のピークP11〜P14は、同じ1つの物標(実際に存在する物体)に対応するピークである。
【0112】
なお、図8では、ピークP11に対応するBbu・Tau/Tbuの位置に仮想的なピークP11’を表し、ピークP12に対応するBbd・Tad/Tbdの位置に仮想的なピークP12’を表している。
【0113】
ここまでは、電源バイアス回路10に由来するノイズがビート信号に重畳されていない場合について説明した。以下では、電源バイアス回路10に一定周期の発振が発生し、その結果、BB系、受信系、BA系、PA系のうち少なくともBB系(ミキサ出力からADC21まで、例えばADC21)への供給電圧に発振ノイズが重畳された場合について説明する。
【0114】
この場合、図8に示すように、各部Tbu、Tbd、Tau、Tadにおけるビート信号は、正規の信号に由来するピークP11〜P14に加え、発振ノイズの影響に相当するピークP15〜P18を含むようになる。そのようなピークP15〜P18は、第1サブ変調信号TS1、TS2の変調傾きに無関係に、定常的に、同じ周波数で発生する。したがって、ピークP15〜P18の周波数は、Tbu、Tbd、Tau、Tadのすべてにおいて同じになっている。
【0115】
なお、図8では、ピークP15に対応するBbu・Tau/Tbuの位置に仮想的なピークP15’を表し、ピークP16に対応するBbd・Tad/Tbdの位置に仮想的なピークP16’を表している。
【0116】
ステップ145に続くステップ170では、発振判定を行う。この発振判定では、上述のように、電源バイアス回路10の発振に由来してBB系への供給電圧に発振ノイズが重畳されたか否かを判定する。
【0117】
この発振判定では、図9に示すように、まずステップ305で、各部Tbu、Tauから1個ずつビート信号のピークを抽出してできる組(0組の場合も、1組の場合も、複数組の場合もある)のうち、同じ組内の第1上昇部Tbuのピークの周波数BIN番号BbuにTau/Tbu(第1変調傾きと第2変調傾きの比)を乗算した量Bbu・Tau/Tbuと、第2上昇部Tau(変動部の一例に相当する)のピークの周波数BIN番号Bauとが同一の周波数BIN数範囲Rb内に入る組が有るか否か判定する。
【0118】
例えば、各部Tbu、Tauから1個ずつビート信号のピークを抽出してできる組を、組み合わせ可能な分だけすべて作成し、作成した各組内のBauとBbu・Tau/Tbuの差が周波数BIN数範囲Rbの幅(誤差程度、例えば10BIN)以下であるか否か、すなわち、Bau≒Bbu・Tau/Tbuであるか否かを判定する。そして、算出した幅が周波数BIN数範囲Rbの幅以下である組が1つ以上存在すれば、同一の周波数範囲Rf内に入る組が有ると判定する。
【0119】
図8の例で説明すると、このステップ305では、ピークP15、P17の組のみが、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たすが、他の組(すなわち、ピークP15、P13の組、ピークP11、P13の組、および、P11、P17の組)は、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たさない。
【0120】
この結果、ステップ305では、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たす組が有ると判定し、ステップ310に進む。
【0121】
なお、図8の例と違い、電源バイアス回路10の発振に由来する発振ノイズが発生しない場合は、唯一のピークの組P11、P13は、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たさない。したがって、ステップ305では、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たす組が無いと判定し、ステップ320に進み、発振フラグをオフに設定し、発振判定を終了する。
【0122】
ステップ310では、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たした上り時間Tbu中のピーク(例えばP15)のそれぞれを判定対象として、以下の判定を行う。なお、判定対象のピークは、0個である場合も、1個である場合も、複数個である場合もあり得る。
【0123】
まず、判定対象とするピークと比較した周波数BIN番号の差が周波数BIN数範囲Rbの幅(誤差程度、例えば±1BINに相当する2BIN)以下となる、すなわち、判定対象とするピークと周波数BIN番号がほぼ一致する(Bbu≒Bbd)ピークを、下り時間Tbd中のピーク(例えばP12、P16)から検索し、そのようなピークが有るか無いか判定する。
【0124】
そのようなピークが有るならば、判定対象のピークは、バイアス回路10の発振に由来するピークである可能性が高いが、ないならば、判定対象のピークは、バイアス回路10の発振に由来するピークである可能性が非常に低い。
【0125】
したがって、判定対象のピークの組のすべてについて、そのようなピークが無いと判定された場合は、ステップ320に進んで発振フラグをオフに設定し、発振判定を終了する。一方、判定対象のピークの組のうち1組以上で、そのようなピークが有ると判定された場合は、ステップ315に進む。
【0126】
ステップ315では、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たし、かつ、Bbu≒Bbdの関係を満たしたピークのすべての組(すなわち、各部Tbu、Tbd、Tauから1個のピークを抽出した組)について、同じ組内のすべてのピークのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入る組が有るか否か判定する。
【0127】
このステップ315の判定は、実際には、1回のサンプリングタイミングにおいて現実の物標が複数個検出されると、偶々異なる物標に対応するピークの周波数BIN番号が、Bau≒Bbu・Tau/TbuかつBbu≒Bbdの関係を満たしてしまう場合があることに鑑みた判定である。
【0128】
偶々異なる物標に対応するピークの周波数が一致してしまう典型的な場面は、第1実施形態で図6を用いて説明した場面と同じである。図6の場面では、ピークPx1、Px2、Py3が、Bau≒Bbu・Tau/TbuかつBbu≒Bbd、Bbu≒Bbdの関係を満たしてしまう。
【0129】
しかし、図6のような場合でも、既に説明した通り、物標Xに対応するピークPx1、Px2のピーク強度が、物標Yに対応するピークPy3、Py4のピーク強度と等しくなることはほとんどない。
【0130】
一方、バイアス回路10の発振がBB系に重畳する経路は、第1サブ変調信号TS1、TS2の変調傾き(すなわち、ΔFb/Tbu、ΔFb/Tbd、ΔFa/Tau、ΔFa/Tad)によらず一定である。したがって、発振ノイズに由来するビート信号のピークP15〜P18(図8参照)のピーク強度は、変調傾きによらず同一である。
【0131】
このような観点から、ステップ315のように、ステップ315では、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たし、かつ、Bbu≒Bbdの関係を満たしたピークのすべての組(すなわち、各部Tbu、Tbd、Tauから1個のピークを抽出した組)について、同じ組内のすべてのピークのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入る組が有るか否か判定するようにしている。なお、所定のピーク強度範囲は、ほぼ同一と言える範囲でよく、例えば、判定対象となるピークの組のうち最も低いピーク強度から当該ピーク強度+1dBまでの範囲としてもよい。
【0132】
ステップ315では、判定対象のピークの組のうち、1組でも、同じ組内のすべてのピークのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入ると判定した場合は、ステップ325に進み、発振フラグをオンに設定し、その後、発振判定を終了する。図8は、このようになる場合の一例を表している。
【0133】
また、判定対象のピークの組の全部について、同じ組内のすべてのピークのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入らないと判定した場合は、ステップ320に進み、発振フラグをオフに設定し、その後、発振判定を終了する。図6は、このようになる場合の一例を表している。
【0134】
このように、発振判定にステップ315のような基準を採用することにより、Bau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たし、かつ、Bbu≒Bbdの関係を満たすピークの組がある場合には常に発振フラグをオンにするよりも、電源バイアス回路10の発振の誤検出の可能性を下げることができる。
【0135】
ステップ170の発振判定に続いては、ステップ180に進み、発振判定の結果に基づいて、電源バイアス回路10に発振が有るか否か判定する。具体的には、発振フラグがオンならば電源バイアス回路10に発振が有ると判定してステップ190に進み、発振フラグがオフならば電源バイアス回路10に発振が無いと判定してステップ182に進む。
【0136】
ステップ182では、ペアマッチを行う。具体的には、ステップ120で特定した第1上昇部Tbuのピーク周波数と、第1下降部Tbdのピーク周波数との間で、同じ物標に対応するピーク周波数のペアを抽出する。また、ステップ140で特定した第2上昇部Tauのピーク周波数と、第2下降部Tadのピーク周波数との間で、同じ物標に対応するピーク周波数のペアを抽出する。ペアマッチの方法は、図3のステップ125、150で説明したものと同じ方法を採用する。
【0137】
続いてステップ184では、ステップ170で抽出したペア毎に、物標化を行う。物標化では、対象のペアのピーク周波数を用いて、自機から対象のペアに対応する物標までの距離、自機に対する当該物標の相対速度、自機から見た当該物標の方位を算出し、算出結果を当該ペアの物標データとする。物標化の具体的な方法は、図3のステップ130、155で説明したものと同じ方法を採用する。
【0138】
続いてステップ185では、CAN2を介して、直前のステップ184の結果である物標データを、プリクラッシュ制御ECUに送信する。この物標データを受信したプリクラッシュ制御ECUの制御内容は、第1実施形態と同じである。ステップ185の後は、次のサンプリングタイミングまで待った上でステップ110に戻る。
【0139】
ステップ190では、CAN2を介して、電源バイアス回路10に発振があったことを示す信号を、プリクラッシュ制御ECU等に出力する。プリクラッシュ制御ECUは、この信号を受信すると、車両の乗員に異常を報知してもよい。ステップ190の後は、電源バイアス回路10に異常があって誤検出を行う可能性が高いので、距離測定を終了する。すなわち、図7の処理(物標データの作成および送信等)をこれ以上繰り返さない。
【0140】
以上説明した通り、本実施形態では、制御部22が、ステップ170で、所定の発振条件を満たすか否かを判定し、満たす場合は発振フラグをオンとし、満たさない場合は発振フラグをオフとする。
【0141】
そして、所定の発振条件は、上述のステップ305で採用した条件5、ステップ310で採用した条件6、ステップ315で採用した条件7、ステップ220で採用した条件8のすべてを必要条件として含む。
【0142】
特に、条件5としては、ビート信号の周波数BIN−強度特性に基づいて、第1上昇部Tbu、および第2上昇部Tau(変動部の一例に相当する)から1個ずつビート信号のピークを抽出してできる1個以上の組のうち、同じ組内の前記一方のピークの周波数BIN番号Bbuに第1変調傾きと第2変調傾きの比Tau/Tbuを乗算した量Bbu・Tau/Tbuと、変動部Tauのピークの周波数BIN番号Bauとが、同一のBIN数範囲内に入る(すなわち、Bau≒Bbu・Tau/Tbuとなる)組が有ると判定したという条件を採用する。このようにすることで、従来に無い新規な方法で、ビート信号に定常的に印加されるノイズを検出することができる。
【0143】
なお、上記各実施形態において、制御部22が、図2図7のステップ110、135を実行することで取得手段の一例として機能し、ステップ120、145を実行することでピーク周波数特定手段の一例として機能し、ステップ170を実行することで発振判定手段の一例として機能し、ステップ180、190を実行することで通知手段の一例として機能し、ステップ125を実行することでBペアマッチ手段の一例として機能し、ステップ130を実行することでB物標化手段の一例として機能し、ステップ150を実行することでAペアマッチ手段の一例として機能し、ステップ155を実行することでA物標化手段の一例として機能し、ステップ115、140を実行することで離散フーリエ変換手段の一例として機能する。
【0144】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
【0145】
(変形例1)例えば、上記第1、第2実施形態では、或る1つのサンプリングタイミングにおいて発振フラグがオンになれば、それよりも前のサンプリングタイミングにおいて発振フラグがオンになっていなくても、図2のステップ180で電源バイアス回路10に発振が発生したと判定し、発振があったことを示す信号をプリクラッシュ制御ECUに送信している。
【0146】
しかし、必ずしもこれらのようになっておらずともよい。例えば、発振フラグがオンになるサンプリングタイミングが所定の複数回以上になるまでは、図2のステップ180で電源バイアス回路10に発振が発生したと判定せず、当該発振フラグがオンになるサンプリングタイミングが当該所定の複数回以上になったときに初めて、電源バイアス回路10に発振が発生したと判定し、発振があったことを示す信号をプリクラッシュ制御ECUに送信するようになっていてもよい。このようにすることで、更に精度の高い発振判定を実現することができる。
【0147】
つまり、FMCWレーダ装置1に対する相対速度がゼロの現実の物標で反射された受信信号に対応するビート信号では、ピークに基づいて算出される距離Dが一定でも、路面や周辺物によるマルチパスの影響で、ピーク強度が一定に保たれない。しかし、電源バイアス回路10の発振に由来してBB系への供給電圧に発振ノイズが重畳された場合は、その発振ノイズに由来するビート信号中のピーク強度は、周囲の状況に因らず一定に保たれる。したがって発振の判定基準に上記を用いることにより、電源バイアス回路10の発振を誤検出してしまう可能性を更に低減できる。
【0148】
(変形例2)また、上記第2実施形態では、第1サブ変調信号TS1は第1上昇部Tbuおよび第1下降部Tbdを有し、第2サブ変調信号TS2は第2上昇部Tauおよび第2下降部Tadを有している。
【0149】
しかしながら、必ずしもこのようになっておらずともよい。例えば、第2サブ変調信号TS2は、第2上昇部Tauを有しているが第2下降部Tadを有していないようになっていてもよい。この場合でも、物標データは、第1上昇部Tbuおよび第1下降部Tbdのビート信号を用いれば作成可能である。
【0150】
(変形例3)また逆に、第2サブ変調信号TS2は、第2下降部Tadを有しているが第2上昇部Tauを有していないようになっていてもよい。この場合でも、物標データは、第1上昇部Tbuおよび第1下降部Tbdのビート信号を用いれば作成可能である。
【0151】
この場合は、図9の発振判定処理では、第2上昇部Tauのビート信号のピークの代わりに第2下降部Tadのビート信号のピークを変動部として用いればよい。
【0152】
具体的には、ステップ305では、各部Tbu、Tadから1個ずつビート信号のピークを抽出してできる組(0組の場合も、1組の場合も、複数組の場合もある)のうち、同じ組内の第1上昇部Tbuのピークの周波数BIN番号BbuにTad/Tbu(第1変調傾きと第2変調傾きの比)を乗算した量Bbu・Tad/Tbuと、第2下降部Tadのピークの周波数BIN番号Badとが同一の周波数BIN数範囲Rb内に入る組が有るか否か(すなわち、Bad≒Bbu・Tad/Tbuであるか否か)判定する。
【0153】
また、ステップ310では、Bad≒Bbu・Tad/Tbuの関係を満たしたTbu中のピークのそれぞれを判定対象として、以下の判定を行う。まず、判定対象とするピークと比較した周波数BIN番号の差が周波数BIN数範囲Rbの幅以下となる(Bbu≒Bbd)ピークを、Tbd中のピークから検索し、そのようなピークが有るか無いか判定する。
【0154】
また、ステップ315では、Bad≒Bbu・Tad/Tbuの関係を満たし、かつ、Bbu≒Bbdの関係を満たしたピークのすべての組(すなわち、各部Tbu、Tbd、Tadから1個のピークを抽出した組)について、同じ組内のすべてのピークのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入る組が有るか否か判定する。
【0155】
なお、図9の発振判定処理で、第2上昇部Tauのビート信号のピークの代わりに第2下降部Tadのビート信号のピークを変動部として用いる方法は、第2サブ変調信号TS2が第2上昇部Tauと第2下降部Tadの両方を有している場合にも採用可能である。
【0156】
(変形例4)
また、上記第2実施形態および変形例3において、図9の発振判定処理では、第1下降部Tbdのビート信号のピークと第1上昇部Tbuのビート信号のピークの役割を入れ替えても良い。
【0157】
例えば、上記変形例3に対してこのような入れ替えを行う場合は、ステップ305では、各部Tbd、Tadから1個ずつビート信号のピークを抽出してできる組(0組の場合も、1組の場合も、複数組の場合もある)のうち、同じ組内の第1下降部Tbdのピークの周波数BIN番号BbdにTad/Tbd(第1変調傾きと第2変調傾きの比)を乗算した量Bbd・Tad/Tbdと、第2下降部Tadのピークの周波数BIN番号Badとが同一の周波数BIN数範囲Rb内に入る組が有るか否か(すなわち、Bad≒Bbd・Tad/Tbdであるか否か)判定する。
【0158】
また、ステップ310では、Bad≒Bbd・Tad/Tbdの関係を満たしたTbd中のピークのそれぞれを判定対象として、以下の判定を行う。まず、判定対象とするピークと比較した周波数BIN番号の差が周波数BIN数範囲Rbの幅以下となる(Bbd≒Bbu)ピークを、Tbu中のピークから検索し、そのようなピークが有るか無いか判定する。
【0159】
また、ステップ315では、Bad≒Bbd・Tad/Tbdの関係を満たし、かつ、Bbd≒Bbuの関係を満たしたピークのすべての組(すなわち、各部Tbd、Tbu、Tadから1個のピークを抽出した組)について、同じ組内のすべてのピークのピーク強度が所定のピーク強度範囲内に入る組が有るか否か判定する。
(変形例5)
また、上記実施形態では、各サンプリングタイミングにおいて、第1サブ変調信号TS1に続いて第2サブ変調信号TS2が送信されるようになっている。しかし、これとは逆に、各サンプリングタイミングにおいて、第2サブ変調信号TS2に続いて第1サブ変調信号TS1が送信されるようになっていてもよい。
(変形例6)
また、上記各実施形態では、第1変調傾きΔFb/Tbu=ΔFb/Tbdは、第2変調傾きΔFa/Tau=ΔFa/Tadよりも大きい。しかし、逆に、第1変調傾きは、第2変調傾きよりも小さくなっていてもよい。
(変形例7)
また、上記各実施形態では、各サンプリングタイミングにおいて、第1サブ変調信号TS1、第2サブ変調信号TS2に加え、第3サブ変調信号TS3、第3サブ変調信号TS4等、追加のサブ変調信号を送信するようになっていてもよい。そして、これら追加のサブ変調信号のそれぞれは、第1サブ変調信号TS1、第2サブ変調信号TS2の前に送信されてもよいし、第1サブ変調信号TS1、第2サブ変調信号TS2の後に送信されてもよいし、第1サブ変調信号TS1の送信後かつ第2サブ変調信号TS2の送信前に送信されてもよい。
(変形例8)
また、上記第1実施形態において、図5のステップ210の判定処理を省いてもよい。この場合、ステップ205で同一の周波数範囲Rf内に入る組が有ると判定した場合、ステップ215に進む。同様に、ステップ215の判定処理を省いてもよいし、ステップ220の判定処理を省いてもよい。また、ステップ210、215、220の判定処理のうち任意の2つの判定処理を省いてもよいし、ステップ210、215、220の判定処理のすべてを省いてもよい。
(変形例9)
また、上記第2実施形態において、図9のステップ310の判定処理を省いてもよい。この場合、ステップ305でBau≒Bbu・Tau/Tbuの関係を満たす組が有ると判定した場合、ステップ315に進む。同様に、ステップ315の判定処理を省いてもよいし、ステップ310と315の判定処理の両方省いてもよい。
(変形例10)
また、上記各実施形態の受信アンテナ18b〜18xを廃して、1本の受信アンテナ18aのみを残してもよい。その場合、ミキサ19b〜19xも廃し、1個のミキサ19bのみ残す。そしてその場合、制御部22は、図3のおよび図7のステップ120、145では、方位推定を行わないようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0160】
1 FMCWレーダ装置
10 電源バイアス回路
11 DAC
12 VCO
13 BA
14 分配器
15 PA
16 送信アンテナ
17 ローカルアンプ
18a〜18x 受信アンテナ
19a〜19x ミキサ
22 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9