【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」共同研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照して本発明の一実施形態に係る蒸着装置と蒸着方法について、より具体的に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0027】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る蒸着装置1の構成図である。この蒸着装置1は、気化した蒸着材料を放出する蒸発源を、基材に対して相対移動させて成膜する蒸着装置であって、蒸発源を基材に対して往復動させる間に往路及び復路の両方において蒸着を行う装置である。
基材に対して実際に蒸着する蒸着材料の量は、蒸発源が往復動する間に変動することがあるため、基材上に、成膜しようとする所定の厚さの膜が形成されないことがある。
そこで、この蒸着装置1では、蒸着材料の蒸着速度は、往復動の折り返しが行われる中間位置で計測され、この蒸着速度に基づいて往路における実効蒸着量が算出される。そして、実効蒸着量の目標蒸着量に対する差分を往復動の復路において蒸着させることにより、所定の厚さの膜が高精度で成膜される。
この蒸着装置1では、往路における実効蒸着量の目標蒸着量に対する差分は、復路における蒸発源の移動速度が、往路における実効蒸着量に基づいた速度に変更されることにより復路蒸着量が調整されて達成される。
このような蒸着装置1は、往復動の復路の移動速度によって復路蒸着量が調整される蒸発源によって、有機EL素子の発光層を形成するホスト材料やドーパント材料を蒸着するように運転することができる。そして、所定の厚さの膜を成膜することが要求される有機EL素子の発光層等を高精度で成膜することができる。
【0028】
図1を参照して、蒸着装置1の構成について説明する。
蒸着装置1は、主に、蒸発源10と、蒸着室20と、蒸発源移動手段(30,31,32)と、第1の蒸着速度計測手段41と、第2の蒸着速度計測手段42と、蒸着量制御部50と、を含むように構成される。
【0029】
蒸着装置1は、少なくとも蒸発源10と蒸着材料を付着させる基材5とを収容し、減圧状態で蒸着が行われるように気圧が管理された密閉空間を形成する蒸着室20を備えている。
また、この蒸着室20内で稼働される、蒸発源移動手段(30,31,32)と、第1の蒸着速度計測手段41と、第2の蒸着速度計測手段42の主要部が、共に蒸着室20内に収容された構造を有している。これらの蒸発源移動手段(30)、第1の蒸着速度計測手段41、及び第2の蒸着速度計測手段42には、
図1に破線で示されるとおり、信号線を介して蒸着量制御部50が接続されている。
【0030】
蒸着室20には、真空ポンプ21がバルブ22を介して接続されており、真空ポンプ21が蒸着室20内の空気を吸引することで、減圧状態乃至高真空状態を形成するように構成されている。蒸着室20の外面には、図示しない開口部が設けられると共に、その開口部に開閉自在な扉が備えられており、基材5を蒸着室20内に搬入出できるように構成されている。
また、蒸着室20内には、図示しない開閉自在な遮蔽手段が備えられており、基材5側の上部と蒸発源10側の下部が隔離されることで、蒸着の開始前及び終了後に蒸着材料が基材5へ付着するのを規制できるように構成されている。
【0031】
基材固定手段6は、蒸着材料を付着させる基材5を支持して蒸着室20内に固定する部材であり、
図1においては、平板状の基材固定手段6が、蒸着室20の室内上方に固設されている。この基材固定手段6には、蒸着が行われる間、基材5が、蒸着材料が付着する蒸着面を下方に向けられて蒸発源10側に露出するように保持される。このとき、基材固定手段6は、基材5と共に、蒸着パターンが形成されたマスクを保持するように構成されていてもよい。また、基材固定手段6には、基材5の温度調節を行うヒータ等の温度調節手段が備えられていてもよい。
本実施形態で蒸着が行われる基材5は、平板状やフィルム状やシート状に形成される枚葉基材又は長尺基材のいずれでもよく、ロール状に巻回され得る可撓性の長尺基材に蒸着を行う場合には、基材固定手段6として、円筒状の搬送ロールを用いてもよい。例えば、
図1の手前側に長尺基材の元巻ロールを配置し、長尺基材のロールを図示しない搬送手段によって回動させて、蒸発源10の往復動軌道上に供給する。次に、供給された長尺基材を往復動軌道上で停止させて固定した後、蒸発源10を稼働させて蒸着を行い、その後、搬送手段によりロールを所定量回動させて、長尺基材の蒸着が行われた領域を往復軌道上から搬出してロール状に巻取ると共に、蒸着が未だ行われていない領域を新たに往復軌道上に供給する。このような一連の工程を繰り返し行うことによって、所謂ロールツーロールの形態で蒸着を行うことができる。
【0032】
蒸発源10は、蒸着材料を加熱することにより気化させる機構であり、基材固定手段6に保持された基材5の蒸着材料が付着する面に対向するように、基材5からは所定間隔離れた下方に配置されている。
蒸発源10は、蒸着材料の放出口11を有し、加熱手段12と、蒸着材料容器13と、を含むように構成される。
本実施形態における蒸発源10は、所謂ラインソースであり、
図1における奥行き方向に所定長さを有する線状の放出口11を有している。この放出口11は、基材5に対向するように蒸着室10の上方に向けて開口しており、放出口11の長さは、基材5の幅(
図1における奥行き方向の長さ)と略同じ長さとされている。そのため、蒸発源10が
図1の矢印方向に往復動することによって、基材5の蒸着面の全体に蒸着材料が蒸着される。
【0033】
蒸発源10が備える加熱手段12は、蒸着材料容器13に貯留される蒸着材料の加熱を行い、蒸着材料を気化させるものである。加熱手段12は、蒸着材料容器13の周囲に分散して配置されることによって、蒸着材料容器13に貯留されている蒸着材料が一様に加熱されるように形成されており、
図1においては、加熱手段12は、コイル状の電気伝導性部材で形成され、図示しない電源と接続されている。加熱手段12は、気化する蒸着材料の蒸発量が適切な量となるように、所定温度に制御される。
この加熱の方式としては、蒸着材料の物性に応じて高周波誘電加熱、抵抗加熱、誘導加熱、電子線照射等適宜の方式が用いられるが、相対移動する蒸発源に適した高周波誘電加熱、抵抗加熱、高周波誘導加熱による方式が好ましい。誘電体の加熱に用いられる高周波誘電加熱による方式では、蒸着材料を挟むように電極材が配され、電極材間に高周波交流電圧を印加する電源が接続される。また、蒸着材料の融点が比較的低い場合に用いられる抵抗加熱による方式では、タンタルやタングステンやモリブデンやこれらの合金で形成された金属性蒸着材料容器、あるいは蒸着材料の周囲に配された抵抗体に負荷電流を流す電源が接続される。また、導体の加熱に用いられる高周波誘導加熱による方式では、コイル内に蒸着材料が置かれ、コイルに高周波電源が接続される。蒸着材料が誘電体である場合は、蒸着材料に高融点の導体を添加することによって間接的に加熱を行ってもよい。
【0034】
蒸発源10が備える蒸着材料容器13は、基材5に付着させる蒸着材料を貯留する坩堝等の耐熱性を有する容器である。蒸着材料容器13には、容器内で気化した蒸着材料が蒸発源10の外部へ拡散するように容器内から蒸着材料の放出口11を経て蒸着室20内に至る放出流路が接続されている。
蒸着材料容器13の材質は、タンタルやタングステンやモリブデンやこれらの合金、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムや炭化珪素やジルコニア等のセラミック、あるいはグラファイト等から、加熱手段に採用される加熱方式や蒸着材料の物理的性質又は化学的性質に応じて適宜選択される。
【0035】
蒸発源10が備える放出口11は、放出される蒸着材料の放出範囲が一方向に拡大されるように線状に形成された開口を有している。開口の形状としては、細長形状からなる1つの開口に制限されるものではなく、矩形又は円形の複数の開口が直線上に連続的に配列してなるものでもよい。開口を連続的に配列することによって放出口11を形成する場合は、配列方向における膜厚分布が一様になる程度に、開口の配列の間隔を小さくする。
この放出口11は、
図1に示されるように、蒸着材料容器13と一体化された筺体の外面に形成されることによって、放出流路をなす筺体内壁を介して蒸着材料容器13と接続されてもよいが、蒸着材料容器13と別体のヘッドに形成されることによって、放出流路をなす配管を介して蒸着材料容器13と接続されてもよい。
【0036】
また、蒸発源10には、気化した蒸着材料の放出量を調節する蒸発量調節手段60が備えられていてもよい。蒸発量調節手段60は、蒸着材料を放出する流路の開放と閉鎖を調節する開閉機構により構成され、
図1においては蒸発源10の放出流路に設けられるバルブで構成されているが、蒸発源10の放出口11に備えられるシャッタ等であってもよい。
蒸発量調節手段60の開閉機構には、開度を検出する磁気式又は光学式のエンコーダで構成される図示しない開度検出手段が備えられており、所定の蒸着材料放出量となる開度がフィードバック制御されている。この蒸着装置1においては、蒸発源10が往復動をしている間は、開閉機構の開度は一定に制御される。
【0037】
このような蒸発源10が駆動されると、蒸着材料容器13に貯留された蒸着材料は、加熱手段12によって所定温度まで加熱されて気化し、放出流路を経て、放出口11から蒸着室20の内側の空間に放出されて拡散して、基材5の表面に到達する。
【0038】
蒸発源移動手段は、蒸着室20内で蒸発源10を基材5に対して相対移動させる手段である。本実施形態における蒸発源10の移動は、
図1の矢印が示すように、放出口11の長手方向(
図1における奥行き方向)と垂直な方向においてなされる往復動である。
蒸発源移動手段は、
図1において、蒸発源10の往復動を駆動する駆動部30と、蒸発源10の移動を直線状に案内する案内部32と、蒸発源10を保持して案内部32上で往復動を行う可動子31により構成されている。この蒸発源移動手段としては、具体的には、リニアモータ機構や、ボールねじとサーボモータによる機構等が用いられる。
【0039】
蒸発源移動手段の可動子31は、蒸発源10を、線状の放出口11が基材5の片面に対向する向きに支持し、放出口11の長手方向と垂直な方向、且つ基材5の蒸着面と平行に往復動自在に支持している。
蒸発源移動手段の駆動部30は、
図1に破線で示されるとおり、信号線を介して蒸着量制御部50と接続されており、蒸着量制御部50からの制御入力に基づいて、設定された速度で往復動を行うように制御されている。
蒸発源10の往復動は、基材5の一端の直下から他端の直下までを含む区間で行われ、この区間において、放出口11の基材5への投影が、基材5の蒸着面を走査するように稼働されて蒸着が行われる。この蒸発源移動手段(30,31,32)は、基材の一端の直下から他端の直下までの区間においては、蒸発源10が等速で移動するように制御される。
図2に示されるとおり、蒸発源10は、往復動の開始位置P1から移動を開始し、基材5の蒸着面の一端の直下を通過して、蒸着面を走査する間等速で移動する。その後、蒸着面の他端の直下を通過して、往復動の折り返し位置である中間位置P2に移動する。
開始位置P1は、往復動の往路における移動開始位置、且つ往復動の復路における移動終了位置となり、中間位置P2は、往復動の復路における移動開始位置、且つ往復動の往路における移動終了位置となる。開始位置P1と中間位置P2は、通常、蒸着される基材の両外端より外側とされる。
この蒸発源移動手段には、蒸発源10の往復動軌道上の位置を検出する、磁気式又は光学式のエンコーダで構成される図示しない蒸発源位置検出手段が備えられており、蒸発源位置検出手段は、所定の移動速度で可動子31が稼働されるようにフィードバック制御される。
【0040】
蒸着速度計測手段は、蒸発源10から放出された蒸着材料が基材5に蒸着する速度を計測する手段である。
本実施形態では、蒸着速度計測手段は、蒸発源10の往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度を計測する第1の蒸着速度計測手段41と、往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度を計測する第2の蒸着速度計測手段42とから構成される。
蒸着速度計測手段41,42は、蒸着材料が単位時間当たりに基材5に付着すると見込まれる量を測定することにより、蒸着材料の蒸着速度(所謂蒸着レート)を間接的に計測する計測器である。具体的には、水晶振動子等を備えた非接触式の膜厚計が用いられる。
これらの蒸着速度計測手段は、蒸発源10の往復動の開始位置P1と中間位置P2のそれぞれにおいて、基材近傍であって、蒸発源10に対する距離が基材と同様の距離となるように離間した位置に配置されている。
本実施形態では線状蒸発源を用いるため、蒸発源10の放出口11の長手方向(
図1における奥行き方向)に沿った蒸着速度が監視されていることが好ましい。そのため、第1の蒸着速度計測手段41と、第2の蒸着速度計測手段42とは、蒸発源10の放出口11の長手方向に沿ってそれぞれ複数体が備えられていてもよい。
また、蒸着速度計測手段41,42は、蒸着材料の基材5への付着を妨げない位置に配置され、各計測手段の測定子に対する蒸着材料の入射方向が、蒸発源10の往復動の開始位置P1と中間位置P2のそれぞれに限定されるように必要に応じて防着板で仕切られる。あるいは、蒸着速度計測手段に蒸着材料が入射する時期を管理できるように、測定子の開閉を制御するシャッタが備えられる。
これらの第1の蒸着速度計測手段41及び第2の蒸着速度計測手段42は、
図1に破線で示されるとおり、信号線を介して蒸着量制御部50と接続されている。
【0041】
蒸着量制御部50は、蒸着速度計測手段が計測する蒸着速度と、蒸発源移動手段による往復動の往路移動速度に基づいて、蒸発源移動手段による往復動の復路移動速度を調整する制御装置である。また、蒸着量制御部50に接続される操作部から入力される設定閾値に基づいて、蒸発源の往復動に伴う蒸着の継続と終了を制御している。
蒸着量制御部50は、演算回路、入出力回路、フィルタ、I/F、A/D及びD/A変換回路等からなる蒸発源移動手段の移動速度の目標値を生成する目標速度生成系と蒸発源移動手段のフィードバック制御を行う蒸発源移動手段制御系とを備えている。
目標速度生成系は、初期値の入力や蒸着速度計測手段が出力する計測信号を受け付け、蒸着速度や移動速度や蒸着量の演算を行い、生成した移動速度の目標値を蒸発源移動手段制御系に出力するように構成されている。
蒸発源移動手段制御系は、蒸着量制御部50に接続される操作部から入力される目標値や目標速度生成系が生成する目標値の入力を受け付け、蒸発源移動手段が備える蒸発源位置検出手段が出力する位置計測信号をフィードバックしてPID演算等の制御演算を行い、制御信号を蒸発源移動手段に出力するように構成されている。
【0042】
次に、第1の実施形態に係る蒸着装置1の動作と蒸着方法について説明する。
【0043】
蒸着装置1には、予め、蒸着される基材5が、蒸着室20の外面にある開口部を通じて、蒸着室20内に搬入される。そして、基材5は、蒸着室20の上方で基材固定手段6により、蒸着面が蒸着室20の下方にある蒸発源10に向けて保持され、必要に応じて温度調節される。このとき、蒸着室20は、真空ポンプ21が稼働されることにより高真空状態とされる。
また、蒸発源10の蒸着材料容器13には、基材5に蒸着される蒸着材料が貯留されており、この蒸着材料の物性情報、例えば密度情報は、蒸着速度計測手段に記憶されている。
そして、蒸着速度計測手段、あるいは蒸着量制御部50には、蒸着装置の校正運転において取得される成膜プロファイルから算出される補正係数が、蒸着速度計測手段の計測値を校正する設定情報として記憶されている。
【0044】
校正運転は、基材5への蒸着を行う通常運転の事前に行われる運転であり、通常運転と同様の条件で試料基材に対する蒸着が行われ、試料基材に成膜された膜厚が実測されることによって、成膜プロファイルが取得される。
蒸発源移動速度(V)は、基材5に成膜される膜厚に相当する蒸着量(D)と、蒸着速度計測手段が計測する蒸着速度(R)とを用いて次の式1のように表わされる。
D=α*R/V・・・(式1)
(式中、αは、補正係数を表す。)
そこで、校正運転において、所定の蒸発源移動速度(V)及び蒸着速度(R)の下で、試料基材に対する蒸着を行い、試料基材に成膜された膜厚を、例えば触針式の膜厚計や光学式の膜厚計を用いて実測することによって、蒸着量(D)の値が取得される。そして、得られた蒸着量(D)と、蒸発源移動速度(V)、蒸着速度(R)の値から、式1に基づいて補正係数αが算出される。なお、以降の説明では、蒸着速度計測手段の計測値は補正係数により校正されていない値とする。
【0045】
通常運転を開始するにあたっては、まず、蒸着装置1によって基材5に蒸着しようとする蒸着量(目標蒸着量(D
d))と、蒸発源の往復動の往路において基材5に成膜しようとする目標往路蒸着量(D
10)が設定される。なお、これらの蒸着量の値は、基材5に成膜される膜厚に相当する値を表している。
本実施形態では、1回の往復動における往路と復路の両方で蒸着を行うため、蒸発源の往復動の往路において基材5に蒸着される往路蒸着量(D
1)と、蒸発源の往復動の復路において基材5に蒸着される復路蒸着量(D
2)とを合算した値が、目標蒸着量(D
d)となる。そのため、目標往路蒸着量(D
10)としては、1回の往復動において成膜するべき目標蒸着量(D
d)と等しい値や、往路と復路で等分された成膜が行われるように目標蒸着量(D
d)の50%程度の値や、蒸着速度の変動に対する微調整が容易となるように、目標蒸着量(D
d)の60〜90%程度の値が設定される。
目標往路蒸着量(D
10)が設定されると、通常運転における、蒸発源移動速度(V)の初期値となる往路移動速度(V
1)と、蒸着速度(R)の初期値となる往路蒸着速度(R
10)の目標値が、次の式2で表わされる関係を満たすように設定される。
D
10=α*R
10/V
1・・・(式2)
設定される往路移動速度(V
1)及び往路蒸着速度(R
10)の目標値としては、成膜の効率、装置の性能等が加味されて、適宜の値が選択される。
【0046】
このように通常運転における、目標蒸着量(D
d)、目標往路蒸着量(D
10)、往路移動速度(V
1)、往路蒸着速度(R
10)の目標値が設定されると、蒸着装置1の通常運転が開始される。はじめに、蒸発源10が備える加熱手段12が作動され、蒸着材料容器13に貯留されている蒸着材料が加熱される。加熱された蒸着材料は、次第に気化し、気化した蒸着材料が放出口11から蒸着室20内に放出される。
【0047】
次に、蒸発源10から放出されている蒸着材料は、第1の蒸着速度計測手段41により、往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度を計測される。
図2は、第1の実施形態に係る蒸着装置の動作を示す図である。
図2(a)に示されるように、運転開始時には、蒸発源10は、第1の蒸着速度計測手段41の下方の開始位置P1に停止しており、蒸着室20内に放出された気化した蒸着材料は、第1の蒸着速度計測手段41の測定子に入射して蒸着速度が計測され、第1の蒸着速度計測手段41が出力する蒸着速度の計測信号は、蒸着量制御部50に入力される。
ここで計測される蒸発源10の往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1))は、基材5に単位時間当たり成膜される見込みの膜厚の値を示している。この開始位置蒸着速度(R
1)は、事前に設定された往路蒸着速度(R
10)に一致するように、開始位置P1において加熱手段12の出力により調節される。
その後、往路蒸着速度(R
10)が目標値に達すると、基材5を蒸発源10から隔離している遮蔽手段が開放され、気化した蒸着材料の基材5への放出が開始される。
【0048】
次に、蒸発源移動手段が駆動されることにより、蒸発源10の往復動の往路の移動が開始され、蒸発源10を往復動の中間位置P2まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて成膜が行われる。
蒸発源移動手段の駆動部30が作動すると、
図2(a)に示されるように、可動子31に支持された蒸発源10が、設定された往路移動速度(V
1)となるように、案内部32に沿って往復動の中間位置P2の方向に移動を開始する。
そして、可動子31に支持される蒸発源10は、開始位置P1から基材5の一端の直下を通過するまでに、往路移動速度(V
1)が目標値に略達する等速となり、基材5の一端の直下から他端の直下までの区間で基材5の蒸着面を走査して基材5に対して蒸着を行う。
その後、蒸発源10は基材5の直下を通過して往復動の折り返し位置である中間位置P2に到達する。
【0049】
次に、蒸発源10から放出されている蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42により、往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度を計測される。
図2(b)に示されるように、蒸発源10が、第2の蒸着速度計測手段42の下方の中間位置P2に到達すると、蒸発源10から放出された蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42の測定子に入射して蒸着速度が計測され、第2の蒸着速度計測手段42が出力する蒸着速度の計測信号は、蒸着量制御部50に入力される。
ここで計測される蒸発源10の往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2))は、通常、蒸着量が変動して開始位置蒸着速度(R
1)とは異なる値となる。一般には、中間位置蒸着速度(R
2)の値が、開始位置蒸着速度(R
1)の値を下回る傾向にある。
【0050】
次に、第1の蒸着速度計測手段41が計測した開始位置蒸着速度、第2の蒸着速度計測手段42が計測した中間位置蒸着速度、及び蒸発源移動手段による往復動の往路移動速度に基づいて、蒸発源10による復路蒸着量が、往路蒸着量と合算して目標蒸着量に一致する蒸着量となるように蒸発源移動手段による往復動の復路移動速度が調整される。
蒸発源10は、往復動の往路においては、所定の目標値に制御された往路移動速度(V
1)で、開始位置蒸着速度(R
1)と等しい一定の蒸着速度(往路蒸着速度(R
10))の蒸着を行うと仮定されて、事前に設定された目標往路蒸着量(D
10)を達成するように運転されている。
しかしながら、往復動の中間位置P2において計測される蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2))は、蒸着量が変動して開始位置蒸着速度(R
1)とは異なる値となっている。
【0051】
そのため、蒸着速度の計測信号の入力を受け付けた蒸着量制御部50は、第2の蒸着速度計測手段42により計測された中間位置蒸着速度(R
2)の値を用いて、基材5に成膜された往路蒸着量(D
1)の実効値を算出する。
蒸発源10の往路移動速度(V
1)を用いると、往路蒸着量(D
1)の実効値は次の式3で求められる。
D
1=α*E(R
2)/V
1・・・(式3)
(式中、E(R
2)は、計測された蒸着速度(R
2,R
1)の平均を表す。)
【0052】
そこで、蒸着量制御部50は、第2の蒸着速度計測手段42により計測された中間位置蒸着速度(R
2)が、蒸発源10の往復動の復路において一定であるという仮定の下で、目標蒸着量(D
d)と往路蒸着量(D
1)の実効値の差分に相当する目標復路蒸着量(D
20)を達成するための復路移動速度(V
2)の目標値を生成する。
目標復路蒸着量(D
20)を用いると、復路移動速度(V
2)は次の式4で示される。
V
2=α*R
2/D
20=D
1/(D
d−D
1)*V
1・・・(式4)
蒸着量制御部50は、このような往路移動速度(V
1)と復路移動速度(V
2)の関係に基づいて、復路移動速度(V
2)の目標値を生成すると、蒸発源移動手段に制御信号を出力する。
【0053】
次に、蒸発源移動手段が反対方向に稼働されることにより、蒸発源10の往復動の復路の移動が開始され、調整された復路移動速度で蒸発源を往復動の開始位置P1まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて再度成膜が行われる。
制御信号を受け付けた蒸発源移動手段の駆動部30が作動すると、可動子31に支持された蒸発源10が、蒸着量制御部50が目標値として設定した復路移動速度(V
2)で、案内部32に沿って往復動の開始位置P1の方向に移動を開始する。
蒸発源10は、中間位置P2から基材5の一端の直下を通過するまでに、復路移動速度(V
2)が目標値に略達する等速となり、基材5の一端の直下から他端の直下までの区間で基材5の蒸着面を走査して基材5に対して再度蒸着を行う。
そして、
図2(c)に示されるように、蒸発源10は、基材5の直下を通過し、往復動の開始位置P1に戻る。
このように、基材5に対して蒸発源10が往復動することによって、往路及び復路の両方において蒸着が行われると、基材5への蒸着が終了される。蒸着室20内に備えられる遮蔽手段が閉塞されることにより基材5への蒸着材料の付着が規制され、蒸着された基材5は搬出される。
【0054】
あるいは、蒸発源10が開始位置P1に戻ることによって1回の往復動が終了した段階で、必要に応じて再度の往復動を行うように運転することができる。
このような運転では、往復動の開始位置P1では、再び、第1の蒸着速度計測手段41により、往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度が計測される。
蒸発源10は、往復動の復路においては、所定の目標値に制御された復路移動速度(V
2)で、中間位置蒸着速度(R
2)と等しい一定の蒸着速度の蒸着を行うと仮定されて、事前に設定された目標復路蒸着量(D
20)を達成するように運転されている。
しかしながら、往路においてと同様、往復動の開始位置P1において再び計測される蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1n))は、蒸着量が変動して中間位置蒸着速度(R
2)とは異なる値となる。一般には、開始位置蒸着速度(R
1n)の値が、中間位置蒸着速度(R
2)の値を下回る傾向にある。
【0055】
そこで、蒸着速度の計測信号の入力を受け付けた蒸着量制御部50は、再び入力された第1の蒸着速度計測手段41からの蒸着速度の計測値である開始位置蒸着速度(R
1n)の値を用いて、基材5に成膜された復路蒸着量(D
2)の実効値を算出する。
蒸発源10の復路移動速度(V
2)を用いると、復路蒸着量(D
2)の実効値は次の式5で示される。
D
2=α*E(R
1n)/V
2・・・(式5)
(式中、E(R
1n)は、計測された蒸着速度(R
1n,R
2)の平均を表す。)
【0056】
そして、蒸着量制御部50は、算出される復路蒸着量(D
2)の実効値と往路蒸着量(D
1)の実効値とを合算した値と、基材5に蒸着しようとする目標蒸着量(D
d)との蒸着量差分(D
dn)を算出する。
【0057】
蒸着量制御部50は、この蒸着量差分(D
dn)が、所定閾値未満であるか否かを判断する。この閾値は、例えば、蒸着量制御部50に接続される操作部を介して設定される。
【0058】
蒸着量差分(D
dn)が所定の閾値未満である場合には、成膜しようとする所定の厚さの膜が成膜されたとして、基材5への蒸着が終了される。蒸着室20内に備えられる遮蔽手段が閉塞されることにより基材5への蒸着材料の付着が規制され、蒸着された基材5は搬出される。
【0059】
蒸着量差分(D
dn)が所定の閾値以上である場合には、蒸発源10が再び基材5に対して往復動されることにより蒸着が継続される。
【0060】
再度行われる往復動の往路移動速度(V
1n)は、蒸発源の再度の往復動による基材5への蒸着量が蒸着量差分(D
dn)に相当する値となるように、初回の往復動と同様の方法で設定される。再度行われる往復動の往路蒸着量(D
1n)と復路蒸着量(D
2n)とを合算した値が、蒸着量差分(D
dn)となる。
そのため、往路において基材5に成膜するべき目標往路蒸着量(D
10n)としては、再度の往復動において成膜するべき蒸着量差分(D
dn)と等しい値や、往路と復路で等分された成膜が行われるように蒸着量差分(D
dn)の50%程度の値や、蒸着レートの変動による誤差が低減されるように、蒸着量差分(D
dn)の60〜90%程度の値となる量が再度設定される。
【0061】
そこで、蒸着量制御部50は、第1の蒸着速度計測手段41により計測された開始位置蒸着速度(R
1n)が、再度行われる蒸発源10の往復動の往路において一定であるという仮定の下で、目標往路蒸着量(D
10n)を達成するための往路移動速度(V
1n)の目標値を再度生成する。
目標往路蒸着量(D
10n)を用いると、往路移動速度(V
1n)は次の式6で示される。
V
1n=α*R
1n/D
10n・・・(式6)
【0062】
蒸着量制御部50は、再度行われる往復動について、このような目標往路蒸着量(D
10n)と開始位置蒸着速度(R
1n)の関係に基づいて、往路移動速度(V
1n)の目標値を生成すると、蒸発源移動手段に制御信号を出力する。
【0063】
その後、初回の往復動と同様に蒸発源移動手段が駆動されることにより、蒸発源10の往復動の往路の移動が開始され、蒸発源10を往復動の中間位置P2まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて成膜が行われる。
そして、往復動の中間位置P2では、再び、蒸発源10から放出されている蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42により、往復動の中間位置P2において中間位置蒸着速度(R
2n)を計測される。
【0064】
再度行われる往復動の復路における蒸発源10の復路移動速度(V
2n)は、初回の往復動と同様に算出され、中間位置蒸着速度(R
2n)、往路蒸着量(D
1n)の実効値、蒸着量差分(D
dn)を用いると次の式7で示される。
V
2n=D
1n/(D
dn−D
1n)*V
1n・・・(式7)
蒸着量制御部50は、このような往路移動速度(V
1n)と復路移動速度(V
2n)の関係と、式3に準じて算出される往路蒸着量(D
1n)の実効値とに基づいて、復路移動速度(V
2n)の目標値を生成すると、蒸発源移動手段に制御信号を出力する。
【0065】
その後、制御信号の入力を受け付けた蒸発源移動手段が反対方向に稼働されることにより、蒸発源10の往復動の復路の移動が開始され、調整された復路移動速度で蒸発源10を往復動の開始位置P1まで移動させる間に、基材5に対する成膜が再度行われる。
そして、蒸発源10は、往復動の開始位置P1に再び戻り、蒸着量制御部50によって、初回の往復動においてと同様に、成膜しようとする所定の厚さの膜が成膜されたかを判断される。
以下、同様の工程が繰り返されることにより所定の厚さの膜が成膜される。
【0066】
このような蒸着装置及び蒸着方法によれば、気化した蒸着材料を放出する蒸発源を、基材に対して相対移動させて成膜する際に、基材に蒸着する蒸着材料の量が変動することがあっても、蒸発源の往復動の復路において蒸着量を修正できるため、所定の厚さの膜を高精度で成膜することができる。さらに、往復動を複数回行うことによって、所定の厚さの膜をより高精度で成膜することができる。また、そのために必要となる膜厚計測手段としては、往復動の両端に設置される蒸着速度計測手段で足りるため、膜厚計測手段の設置や修繕に関わる維持効率が改善される。
また、蒸発源の往復動の往路と復路で分割して、所定の厚さの膜の成膜を行うことができるため、蒸着量の経時的変動や幾何学的条件変動による影響を低減することができる。
また、蒸着量を、蒸発源の移動速度で調整するため、既存の蒸着装置の構造を有効に利用することができる。
【0067】
[第2の実施形態]
次に、本発明の一実施形態に係る蒸着装置と蒸着方法の他の形態について説明する。
【0068】
図3は、第2の実施形態に係る蒸着装置2の構成図である。この蒸着装置2が、第1の実施形態に係る蒸着装置1と異なる点は、往路における実効蒸着量の目標蒸着量に対する差分は、復路において蒸発源から放出される蒸着材料の放出量が、往路における実効蒸着量に基づいた放出量に変更されることにより復路蒸着量が調整されて達成される点である。
このような蒸着装置2は、往復動の復路の移動速度によって復路蒸着量が調整される蒸発源によって、有機EL素子の発光層を形成するホスト材料やドーパント材料を蒸着するように運転することができ、所定の厚さの膜を成膜することが要求される有機EL素子の発光層を高精度で成膜することができる。
【0069】
図3を参照して、蒸着装置2の構成について説明する。
蒸着装置2は、蒸着装置1と同様に、主に、蒸発源10と、蒸着室20と、蒸発源移動手段(30,31,32)と、第1の蒸着速度計測手段41と、第2の蒸着速度計測手段42と、蒸着量制御部50と、を含むように構成される。
蒸着装置2では、
図3に破線で示されるとおり、蒸着量制御部50には、第1の蒸着速度計測手段41、第2の蒸着速度計測手段42、蒸発源移動手段、蒸発源10から放出される蒸着材料の放出量を調節する蒸発量調節手段60が、信号線を介して接続されている。
【0070】
蒸発量調節手段60は、蒸着材料を放出する流路の開放と閉鎖を調節する開閉機構により構成されている。
図3においては蒸発源10の放出流路に設けられるバルブで構成されているが、蒸発源10の放出口11に備えられるシャッタ等であってもよい。
蒸発量調節手段60は、信号線を介して蒸着量制御部50と接続されることにより、蒸着量制御部50からの制御入力に基づいて、開閉機構を所定開度に調節することによって、蒸着材料が蒸発源10から蒸着室内に放出される量を制御するように構成されている。
【0071】
蒸着装置2においては、蒸着量制御部50は、蒸着速度計測手段が計測する蒸着速度と、蒸発源移動手段による往復動の往路移動速度に基づいて、蒸発量調節手段60による蒸着材料の放出量を調整している。また、蒸着量制御部50に接続される操作部から入力される設定閾値に基づいて、蒸発源の往復動に伴う蒸着の継続と終了を制御している。
蒸着量制御部50は、演算回路、入出力回路、フィルタ、I/F、A/D及びD/A変換回路等からなる蒸発量調節手段60の開閉機構の開度の目標値を生成する目標開度生成系と蒸発源移動手段のフィードバック制御を行う蒸発源移動手段制御系と蒸発源調節手段60の開閉機構の開度のフィードバック制御を行う蒸発量調節手段制御系とを備えている。
目標開度生成系は、初期値の入力や蒸着速度計測手段が出力する計測信号を受け付け、蒸着速度や移動速度や蒸着量の演算を行い、生成した開度の目標値を蒸発量調節手段制御系に出力するように構成されている。
蒸発源移動手段制御系は、蒸着量制御部50に接続される操作部から入力される目標値の入力を受け付け、蒸発源移動手段が備える蒸発源位置検出手段が出力する位置計測信号をフィードバックしてPID演算等の制御演算を行い、制御信号を蒸発源移動手段に出力するように構成されている。
蒸発量調節手段制御系は、蒸着量制御部50に接続される操作部から入力される目標値や目標開度生成系が生成する目標値の入力を受け付け、蒸発量調節手段60の開閉機構が備える開度検出手段が出力する位置計測信号をフィードバックしてPID演算等の制御演算を行い、制御信号を蒸発量調節手段60に出力するように構成されている。
【0072】
次に、第2の実施形態に係る蒸着装置2の動作と蒸着方法について説明する。
【0073】
蒸着装置2には、蒸着装置1と同様に、予め、蒸着される基材5が、蒸着室20の外面にある開口部を通じて、蒸着室20内に搬入される。そして、基材5は、蒸着室20の上方で基材固定手段6により固定され、蒸着面が蒸着室20の下方にある蒸発源10に向けて保持され、必要に応じて温度調節される。このとき、蒸着室20は、真空ポンプ21が稼働されることにより高真空状態とされる。
また、蒸発源10の蒸着材料容器13には、基材5に蒸着される蒸着材料が貯留されており、この蒸着材料の物性情報、例えば密度情報は、蒸着速度計測手段に記憶されている。
【0074】
この蒸着装置2では、蒸着装置1においてと同様に、通常運転に先立って行われる校正運転において取得される成膜プロファイルから補正係数αが算出され、目標蒸着量(D
d)、目標往路蒸着量(D
10)、往路移動速度(V
1)、往路蒸着速度(R
10)の目標値が設定された後、通常運転が開始される。はじめに、蒸発源10が備える加熱手段12が作動され、蒸着材料容器13に貯留されている蒸着材料が加熱される。加熱された蒸着材料は、次第に気化し、気化した蒸着材料が放出口11から蒸着室20内に放出される。
【0075】
次に、蒸発源10から放出されている蒸着材料は、第1の蒸着速度計測手段41により、往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度を計測される。
図4は、第2の実施形態に係る蒸着装置の動作を示す図である。
図4(a)に示されるように、運転開始時には、蒸発源10は、第1の蒸着速度計測手段41の下方の開始位置P1に停止しており、蒸着室20内に放出された気化した蒸着材料は、第1の蒸着速度計測手段41の測定子に入射して蒸着速度が計測され、第1の蒸着速度計測手段41が出力する蒸着速度の計測信号は、蒸着量制御部50に入力される。
ここで計測される蒸発源10の往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1))は、基材5に成膜される見込みの膜厚の値を示している。この開始位置蒸着速度(R
1)は、事前に設定された往路蒸着速度(R
10)に一致するように、開始位置P1において加熱手段12の出力と蒸発量調節手段60の開閉機構の開度とにより調節される。
この蒸着装置2では、往路蒸着速度(R
10)に一致するように制御された蒸発源10からの蒸着材料の放出量は、蒸発源10が中間位置P2に到達するまでは、往路において略一定になるように蒸発量調節手段60によって制御される。また、このときの蒸発量調節手段60の開閉機構の開度は、後工程において調節可能なように中程度に維持される。
その後、往路蒸着速度(R
10)が目標値に達すると、基材5を蒸発源10から隔離している遮蔽手段が開放され、気化した蒸着材料の基材5への放出が開始される。
【0076】
次に、蒸着装置1においてと同様に、蒸発源移動手段が駆動されることにより、蒸発源10の往復動の往路の移動が開始され、蒸発源10を往復動の中間位置P2まで移動させる間に、基材5に対する成膜が行われる。
蒸発源移動手段の駆動部30が作動すると、
図4(a)に示されるように、可動子31に支持された蒸発源10が、設定された往路移動速度(V
1)となるように、案内部32に沿って往復動の中間位置P2の方向に移動を開始する。
そして、可動子31に支持される蒸発源10は、開始位置P1から基材5の一端の直下を通過するまでに、往路移動速度(V
1)が目標値に略達する等速となり、基材5の一端の直下から他端の直下までの区間で基材5の蒸着面を走査して基材5に対して蒸着を行う。
その後、蒸発源10は基材5の他端を通過して往復動の折り返し位置である中間位置P2に到達する。
【0077】
次に、蒸着装置1においてと同様に、蒸発源10から放出されている蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42により、往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度を計測される。
図4(b)に示されるように、蒸発源10が、第2の蒸着速度計測手段42の下方の中間位置P2に到達すると、蒸発源10から放出された蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42の測定子に入射して蒸着速度が計測され、第2の蒸着速度計測手段42が出力する蒸着速度の計測信号は、蒸着量制御部50に入力される。
ここで計測される蒸発源10の往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2))は、蒸着装置1においてと同様に、通常、蒸着量が変動して開始位置蒸着速度(R
1)とは異なる値となる。一般には、中間位置蒸着速度(R
2)の値が、開始位置蒸着速度(R
1)の値を下回る傾向にある。
【0078】
次に、第1の蒸着速度計測手段41が計測した開始位置蒸着速度、第2の蒸着速度計測手段42が計測した中間位置蒸着速度、及び蒸発源移動手段による往復動の往路移動速度に基づいて、蒸発源10による復路蒸着量が、往路蒸着量と合算して目標蒸着量に一致する蒸着量となるように蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調整される。
蒸着装置1においてと同様に、蒸発源10は、往復動の往路においては、所定の目標値に制御された往路移動速度(V
1)で、開始位置蒸着速度(R
1)と等しい一定の蒸着速度(往路蒸着速度(R
10))の蒸着を行うと仮定されて、事前に設定された目標往路蒸着量(D
10)を達成するように運転されている。
しかしながら、往復動の中間位置P2において計測される蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2))は、蒸着量が変動して開始位置蒸着速度(R
1)とは異なる値となっている。
【0079】
そのため、蒸着速度の計測信号の入力を受け付けた蒸着量制御部50は、蒸着装置1においてと同様に、式3に基づいて、往路蒸着量(D
1)の実効値を算出する。
この蒸着装置2においては、復路における蒸発源10からの蒸着材料の放出量は、蒸発源10による復路蒸着量(D
2)が、往路蒸着量(D
1)の実効値と合算して目標蒸着量(D
d)に一致する蒸着量となるように制御される。また、蒸発源の移動速度は、往復動の往路と復路とで一定の速度に制御され、復路移動速度(V
2)は、往路移動速度(V
1)と同じ目標値が設定される。
【0080】
そこで、蒸着量制御部50は、第2の蒸着速度計測手段42により計測された中間位置蒸着速度(R
2)が、蒸発源10の往復動の復路において一定であるという仮定の下で、目標蒸着量(D
d)と往路蒸着量(D
1)の実効値の差分に相当する目標復路蒸着量(D
20)を達成するための復路蒸着速度(R
20)を算出する。
目標復路蒸着量(D
20)を用いると、復路で蒸着されるべき復路蒸着速度(R
20)は次の式8で示される。
R
20=D
20/D
1*R
2=(D
d−D
1)/D
1*R
2・・・(式8)
蒸着量制御部50は、このような中間位置蒸着速度(R
2)と復路蒸着速度(R
20)の関係と、式3に準じて往路移動速度を用いて算出される往路蒸着量(D
1)の実効値とに基づいて復路蒸着速度(R
20)を算出すると、復路蒸着速度(R
20)を達成する蒸発量調節手段60の制御の目標値を生成し、蒸発量調節手段60に制御信号を出力する。
そして、第2の蒸着速度計測手段42により計測される中間位置蒸着速度(R
2)が、復路蒸着速度(R
20)に一致するように、中間位置P2において蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調節される。
【0081】
次に、蒸発源移動手段が反対方向に稼働されることにより、蒸発源10の往復動の復路の移動が開始され、調整された復路移動速度で蒸発源10を往復動の開始位置P1まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて再度成膜が行われる。
蒸発源移動手段の復路移動速度(V
2)は、往路移動速度(V
1)と同じ速度に制御されると共に、蒸発源10からの復路における蒸着材料の放出量は、往路における放出量と異なる量に変更されて、
図4(c)に示されるように、蒸発源10は、基材5の一端の直下から他端の直下までの区間で基材5の蒸着面を走査して基材5に対して再度蒸着を行い、往復動の開始位置P1に戻る。
このように、基材5に対して蒸発源10が往復動することによって、往路及び復路の両方において蒸着が行われると、基材5への蒸着が終了される。蒸着室20内に備えられる遮蔽手段が閉塞されることにより基材5への蒸着材料の付着が規制され、蒸着された基材5は搬出される。
【0082】
あるいは、蒸発源10が開始位置P1に戻ることによって1回の往復動が終了した段階で、必要に応じて再度の往復動を行うように運転することができる。
このような運転では、往復動の開始位置P1では、再び、第1の蒸着速度計測手段41により、往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度が計測される。
蒸着装置2において、蒸発源10は、往復動の復路においては、調整された中間位置蒸着速度(R
2)と等しい一定の蒸着速度(復路蒸着速度(R
20))の蒸着を行うと仮定されて、事前に設定された目標復路蒸着量(D
20)を達成するように運転されている。
しかしながら、往路においてと同様、往復動の開始位置P1において再び計測される蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1n))は、蒸着量が変動して中間位置蒸着速度(R
2)とは異なる値となる。一般には、開始位置蒸着速度(R
1n)の値が、中間位置蒸着速度(R
2)の値を下回る傾向にある。
【0083】
そこで、蒸着速度の計測信号の入力を受け付けた蒸着量制御部50は、蒸着装置1においてと同様に、式5に基づいて、復路蒸着量(D
2)の実効値を算出する。
【0084】
そして、蒸着量制御部50は、算出される復路蒸着量(D
2)の実効値と往路蒸着量(D
1)の実効値とを合算した値と、基材5に蒸着しようとする目標蒸着量(D
d)との蒸着量差分(D
dn)を算出する。
【0085】
蒸着量制御部50は、この蒸着量差分(D
dn)が、所定閾値未満であるか否かを判断する。この閾値は、例えば、蒸着量制御部50に接続される操作部を介して設定される。
【0086】
蒸着量差分(D
dn)が所定の閾値未満である場合には、成膜しようとする所定の厚さの膜が成膜されたとして、基材5への蒸着が終了される。蒸着室20内に備えられる遮蔽手段が閉塞されることにより基材5への蒸着材料の付着が規制され、蒸着された基材5は搬出される。
【0087】
蒸着量差分(D
dn)が所定の閾値以上である場合には、蒸発源10が再び基材5に対して往復動されることにより蒸着が継続される。
【0088】
再度行われる往復動の往路における蒸発源10からの蒸着材料の放出量は、蒸発源の再度の往復動による基材5への蒸着量が蒸着量差分(D
dn)に相当する値となるように設定される。再度行われる往復動の往路蒸着量(D
1n)と復路蒸着量(D
2n)とを合算した値が、蒸着量差分(D
dn)となる。
そのため、往路において基材5に成膜するべき目標往路蒸着量(D
10n)としては、再度の往復動において成膜するべき蒸着量差分(D
dn)と等しい値や、往路と復路で等分された成膜が行われるように蒸着量差分(D
dn)の50%程度の値や、蒸着レートの変動による誤差が低減されるように、蒸着量差分(D
dn)の60〜90%程度の値となる量が再度設定される。
【0089】
そこで、蒸着量制御部50は、再度行われる蒸発源10の往復動の往路において蒸着速度が一定であるという仮定の下で、再度の往復動の往路において基材5に蒸着しようとする目標往路蒸着量(D
10n)を達成するための往路蒸着速度(R
10n)の目標値を再度生成する。
目標往路蒸着量(D
10n)を用いると、往路蒸着速度(R
10n)は次の式9で示される。
V
1n=α*R
10n/D
10n・・・(式9)
【0090】
蒸着量制御部50は、再度行われる往復動について、このような目標往路蒸着量(D
10n)と往路移動速度(V
1n)の関係に基づいて、往路蒸着速度(R
10n)を算出すると、往路蒸着速度(R
10n)を達成する蒸発量調節手段60の制御の目標値を生成し、蒸発量調節手段60に制御信号を出力する。
そして、第1の蒸着速度計測手段41により計測される開始位置蒸着速度(R
1n)が、往路蒸着速度(R
10n)に一致するように、開始位置P1において蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調節される。
【0091】
その後、初回の往復動と同様に蒸発源移動手段が駆動されることにより、蒸発源10の往復動の往路の移動が開始され、蒸発源10を往復動の中間位置P2まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて成膜が行われる。
そして、往復動の中間位置P2では、再び、蒸発源10から放出されている蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42により、往復動の中間位置P2において中間位置蒸着速度(R
2n)を計測される。
【0092】
再度行われる往復動の復路で蒸着されるべき復路蒸着速度(R
20n)は、初回の往復動と同様に算出され、次の式10で示される。
R
20n=(D
dn−D
1n)/D
1n*R
2n・・・(式10)
蒸着量制御部50は、このような中間位置蒸着速度(R
2n)、復路蒸着速度(R
20n)の関係と、式3に準じて往路移動速度を用いて算出される往路蒸着量(D
1n)の実効値とに基づいて、復路蒸着速度(R
20n)を算出すると、復路蒸着速度(R
20n)を達成する蒸発量調節手段60の制御の目標値を生成し、蒸発量調節手段60に制御信号を出力する。
そして、第2の蒸着速度計測手段42により計測される中間位置蒸着速度(R
2n)が、復路蒸着速度(R
20n)に一致するように、中間位置P2において蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調節される。
【0093】
その後、蒸発源移動手段が反対方向に稼働されることにより、蒸発源10の往復動の復路の移動が開始され、調整された復路移動速度で蒸発源10を往復動の開始位置P1まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて再度成膜が行われる。
そして、蒸発源10は、往復動の開始位置P1に戻り、蒸着量制御部50によって、初回の往復動においてと同様に、成膜しようとする所定の厚さの膜が成膜されたかを判断される。
以下、同様の工程が繰り返されることにより所定の厚さの膜が成膜される。
【0094】
このような蒸着装置及び蒸着方法によれば、気化した蒸着材料を放出する蒸発源を、基材に対して相対移動させて成膜する際に、基材に蒸着する蒸着材料の量が変動することがあっても、蒸発源の往復動の復路において蒸着量を修正できるため、所定の厚さの膜を高精度で成膜することができる。さらに、往復動を複数回行うことによって、所定の厚さの膜をより高精度で成膜することができる。また、そのために必要となる膜厚計測手段としては、往復動の両端に設置される蒸着速度計測手段で足りるため、膜厚計測手段の設置や修繕に関わる維持効率が改善される。
また、蒸発源の往復動の往路と復路で分割して、所定の厚さの膜の成膜を行うことができるため、蒸着量の経時的変動や幾何学的条件変動による影響を低減することができる。
また、蒸着量を、蒸発源からの蒸着材料の放出量で調整するため、安定した調整を行うことができる。
【0095】
[第3の実施形態]
次に、本発明の一実施形態に係る蒸着装置と蒸着方法の他の形態について説明する。
【0096】
図5は、第3の実施形態に係る蒸着装置3の構成図である。この蒸着装置3が、第1の実施形態に係る蒸着装置1と異なる点は、蒸発源移動手段に支持される蒸発源が2体備えられている点である。
蒸着装置3は、2体の蒸発源から、異なる蒸着材料を基材5に対して共蒸着することにより、各蒸着成分の濃度が所定の濃度となる膜を成膜することができる装置となっている。
この蒸着装置3では、各蒸発源による往路における実効蒸着量の目標蒸着量に対する差分は、一方の蒸発源については、復路における蒸発源の移動速度が、往路における実効蒸着量に基づいた速度に変更されることにより復路蒸着量が調整される。また、蒸発源移動手段に支持される2体の蒸発源は、設定された移動速度で共に移動するため、他方の蒸発源については、復路において蒸発源から放出される蒸着材料の放出量が、往路における実効蒸着量に基づいた放出量に変更されることにより復路蒸着量が調整される。
このような蒸着装置3は、往復動の復路の移動速度が変更されて復路蒸着量が調整される蒸発源によって、有機EL素子の発光層を形成するホスト材料を蒸着し、往復動の復路の蒸着材料の放出量が変更されて復路蒸着量が調整される副蒸発源によって、有機EL素子の発光層を形成するドーパント材料を共蒸着するように運転することができる。ホスト材料とドーパント材料のように成膜される膜における成分濃度比に差がある場合でも、各蒸着成分の濃度が所定の濃度となる膜を高精度で成膜することができ、白色発光有機EL素子のように色度が有機層の成分濃度比の影響を受け易い素子における発光層を成膜するのに適している。
【0097】
図5を参照して、蒸着装置3の構成について説明する。
蒸着装置3は、主に、蒸発源10A及び副蒸発源10Bと、蒸着室20と、蒸発源移動手段(30,31,32)と、第1の蒸着速度計測手段41A及び第1の副蒸着速度計測手段41Bと、第2の蒸着速度計測手段42A及び第2の副蒸着速度計測手段42Bと、蒸着量制御部50と、を含むように構成される。
蒸着装置3では、
図5に破線で示されるとおり、蒸着量制御部50には、第1の蒸着速度計測手段41A、第1の副蒸着速度計測手段41B、第2の蒸着速度計測手段42A、第2の副蒸着速度計測手段42B、蒸発源移動手段、副蒸発源10Bから放出される蒸着材料の放出量を調節する蒸発量調節手段60が、信号線を介して接続されている。
なお、以下の説明において、蒸発源10A及び副蒸発源10Bは、単に蒸発源と、第1の蒸着速度計測手段41A及び第1の副蒸着速度計測手段41Bは、単に第1の蒸着速度計測手段と、第2の蒸着速度計測手段42A及び第2の副蒸着速度計測手段42Bは、単に第2の蒸着速度計測手段と呼称されることがある。
【0098】
この蒸着装置3において、2体の蒸発源10A及び副蒸発源10Bは、線状の蒸着材料の放出口11が平行な配列となるように、蒸発源移動手段の可動子31に支持されている。
蒸発源10A及び副蒸発源10Bは、蒸着装置1においてと同様に、蒸着材料の放出口11を有し、加熱手段12と、蒸着材料容器13と、を含むように構成され、
図5における奥行き方向に所定長さを有する線状の放出口11を有しているが、蒸発源10Aと副蒸発源10Bとは、備える加熱手段12及び蒸着材料容器13が同一のものでなくてもよく、各蒸発源で蒸着させる蒸着材料の種類や物性に応じて異なる構成とすることができる。異なる蒸着材料の共蒸着により所定の成分比の膜を成膜する場合は、高濃度となる蒸着材料を蒸発源10Aによって蒸着させることが好ましい。
【0099】
蒸着速度計測手段としては、蒸着装置1においてと同様のものが用いられるが、測定子への蒸着材料の入射を管理できるように、シャッタが備えられたものが好ましい。
図5に示されるように、蒸着装置3において、第1の蒸着速度計測手段41Aと第2の蒸着速度計測手段42Aは、蒸発源10Aから放出される蒸着材料の蒸着速度を計測し、第1の副蒸着速度計測手段41Bと第2の副蒸着速度計測手段42Bは、副蒸発源10Bから放出される蒸着材料の蒸着速度を計測するように、蒸発源の往復動の開始位置P1と中間位置P2のそれぞれにおいて、基材近傍であって、蒸発源に対する距離が基材と同様の距離となるように離間した位置に配置されている。
そして、蒸発源の往復動を通じて、蒸発源10Aから放出される蒸着材料が、第1の副蒸着速度計測手段41Bと第2の副蒸着速度計測手段42Bに入射する、または、副蒸発源10Bから放出される蒸着材料が、第1の蒸着速度計測手段41Aと第2の蒸着速度計測手段42Aに入射することがないように、
図5に示されるように、必要に応じて仕切板24により隔離がなされ、あるいは、蒸着速度が計測される開始位置P1と中間位置P2に蒸発源が位置する場合に限り、測定子が蒸着室20内に露出するように、シャッタの開閉が制御される。
また、本実施形態では線状蒸発源を用いるため、蒸発源10の放出口11の長手方向(
図5における奥行き方向)に沿った蒸着速度が監視されていることが好ましい。そのため、これらの蒸着速度計測手段は、蒸発源10A,10Bの放出口11の長手方向に沿ってそれぞれ複数体が備えられていてもよい。
【0100】
蒸着装置3においては、蒸着量制御部50は、蒸着速度計測手段が計測する蒸着速度と、蒸発源移動手段による往復動の往路移動速度に基づいて、蒸発源移動手段による往復動の復路移動速度と蒸発量調節手段60による蒸着材料の放出量を調整している。また、蒸着量制御部50に接続される操作部から入力される設定閾値に基づいて、蒸発源の往復動に伴う蒸着の継続と終了を制御している。この蒸着量制御部50は、蒸着装置1においてと同様の蒸発源移動手段制御系や蒸着装置2においてと同様の目標開度生成系、蒸発量調節手段制御系を備えている。
【0101】
次に、第3の実施形態に係る蒸着装置3の動作と蒸着方法について説明する。
【0102】
蒸着装置3には、蒸着装置1と同様に、予め、蒸着される基材5が、蒸着室20の外面にある開口部を通じて、蒸着室20内に搬入される。そして、基材5は、蒸着室20の上方で基材固定手段6により固定され、蒸着面が蒸着室20の下方にある蒸発源10に向けて保持され、必要に応じて温度調節される。このとき、蒸着室20は、真空ポンプ21が稼働されることにより高真空状態とされている。
また、蒸発源10A,10Bの蒸着材料容器13には、基材5に蒸着される蒸着材料が貯留されている。例えば、蒸発源10Aの蒸着材料容器13にはホスト材料、副蒸発源10Bの蒸着材料容器13にはドーパント材料が貯留される。これらの蒸着材料の物性情報、例えば密度情報は、各蒸着速度計測手段に記憶されている。
【0103】
この蒸着装置3に備えられる蒸発源10Aについては、蒸着装置1においてと同様に、校正運転において取得される成膜プロファイルから補正係数αが算出され、目標蒸着量(D
dA)、目標往路蒸着量(D
10A)、往路移動速度(V
1)、往路蒸着速度(R
10A)の目標値が設定される。また、副蒸発源10Bについては、蒸着装置1における工程に準じて別途行われる校正運転において取得される成膜プロファイルから補正係数βが算出され、蒸発源10Aについて定められた往路移動速度(V
1)の下で、目標往路蒸着量(D
10B)、往路蒸着速度(R
10B)の目標値が定められる。
目標値が設定されると、蒸着装置3の通常運転が開始される。はじめに、蒸発源10A,10Bが備える加熱手段12が作動され、蒸着材料容器13に貯留されている蒸着材料が加熱される。加熱された蒸着材料は、次第に気化し、気化した蒸着材料が放出口11から蒸着室20内に放出される。
【0104】
次に、蒸発源10Aから放出されている蒸着材料は、第1の蒸着速度計測手段41Aにより、往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度を計測され、副蒸発源10Bから放出されている蒸着材料は、第1の副蒸着速度計測手段41Bにより、往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度を計測される。
図6は、第3の実施形態に係る蒸着装置の動作を示す図である。
図6(a)に示されるように、運転開始時には、蒸発源10A,10Bは、第1の蒸着速度計測手段41A,41Bの下方の開始位置P1に停止しており、蒸着室20内に放出された気化した蒸着材料は、第1の蒸着速度計測手段41A,41Bの測定子にそれぞれ入射して蒸着速度が計測され、第1の蒸着速度計測手段41A,41Bが出力する蒸着速度の計測信号は、蒸着量制御部50に入力される。
ここで計測される蒸発源10Aの往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1A))と副蒸発源10Bの往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1B))は、基材5に成膜される見込みの膜厚の値を示している。この開始位置蒸着速度(R
1A,R
1B)が、事前に設定された往路蒸着速度(R
10A,R
10B)に一致するように、開始位置P1において加熱手段12の出力と蒸発量調節手段60の開閉機構の開度とにより調節される。このときの副蒸発源10Bの蒸発量調節手段60の開閉機構の開度は、後工程において調節可能なように中程度に維持される。
その後、往路蒸着速度(R
10A,R
10B)が目標値に達すると、基材5を蒸発源10A,10Bから隔離している遮蔽手段が開放され、気化した蒸着材料の基材5への放出が開始される。
【0105】
次に、蒸発源移動手段が駆動されることにより、蒸発源10A,10Bの往復動の往路の移動が開始され、蒸発源10A,10Bを往復動の中間位置P2まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて共蒸着による成膜が行われる。
蒸発源移動手段の駆動部30が作動すると、
図6(a)に示されるように、可動子31に支持された蒸発源10A,10Bが、設定された往路移動速度(V
1)となるように、案内部32に沿って往復動の中間位置P2の方向に移動を開始する。
そして、可動子31に支持される蒸発源10A,10Bは、開始位置P1から基材5の一端の直下を通過するまでに、往路移動速度(V
1)が目標値に略達する等速となり、基材5の一端の直下から他端の直下までの区間で基材5の蒸着面を走査して基材5に対して蒸着を行う。
その後、蒸発源10A,10Bは基材5の他端を通過して往復動の折り返し位置である中間位置P2に到達する。
【0106】
次に、蒸発源10A,10Bから放出されている蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42A,42Bにより、往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度を計測される。
図6(b)に示されるように、蒸発源10A,10Bが、第2の蒸着速度計測手段42A,42Bの下方の中間位置P2に到達すると、蒸発源10A,10Bから放出された蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42A,42Bの測定子にそれぞれ入射して蒸着速度が計測され、第2の蒸着速度計測手段42A,42Bが出力する蒸着速度の計測信号は、蒸着量制御部50に入力される。
ここで計測される蒸発源10Aの往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2A))と副蒸発源10Bの往復動の中間位置P2における蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2B))は、通常、蒸着量が変動して開始位置蒸着速度(R
1A,R
1B)とは異なる値となる。一般には、中間位置蒸着速度(R
2A,R
2B)の値が、開始位置蒸着速度(R
1A,R
1B)の値を下回る傾向にある。
【0107】
次に、第1の蒸着速度計測手段41Aが計測した開始位置蒸着速度、第2の蒸着速度計測手段42Aが計測した中間位置蒸着速度、及び蒸発源移動手段による往復動の往路移動速度に基づいて、蒸発源10Aによる復路蒸着量が、往路蒸着量と合算して目標蒸着量に一致する蒸着量となるように蒸発源移動手段による往復動の復路移動速度が調整され、第1の副蒸着速度計測手段41Bが計測した開始位置蒸着速度、第2の副蒸着速度計測手段42Bが計測した中間位置蒸着速度、及び蒸発源移動手段による往復動の往路移動速度に基づいて、副蒸発源10Bによる復路蒸着量が、往路蒸着量と合算して目標蒸着量に一致する蒸着量となるように副蒸発源10Bの蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調整される。
【0108】
蒸発源10Aは、往復動の往路においては、所定の目標値に制御された往路移動速度(V
1)で、開始位置蒸着速度(R
1A)と等しい一定の蒸着速度(往路蒸着速度(R
10A))の蒸着を行うと仮定されて、事前に設定された目標往路蒸着量(D
10A)を達成するように運転されている。
しかしながら、往復動の中間位置P2において計測される蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2A))は、蒸着量が変動して開始位置蒸着速度(R
1A)とは異なる値となっている。
【0109】
そのため、蒸着速度の計測信号の入力を受け付けた蒸着量制御部50は、第2の蒸着速度計測手段42Aにより計測された中間位置蒸着速度(R
2A)の値を用いて、蒸発源10Aにより基材5に成膜された往路蒸着量(D
1A)の実効値を算出する。
蒸発源10の往路移動速度(V
1)を用いると、往路蒸着量(D
1A)の実効値は次の式11で示される。
D
1A=α*E(R
2A)/V
1・・・(式11)
(式中、E(R
2A)は、計測された蒸着速度(R
2A,R
1A)の平均を表す。)
【0110】
そこで、蒸着量制御部50は、第2の蒸着速度計測手段42により計測された中間位置蒸着速度(R
2A)が、蒸発源10の往復動の復路において一定であるという仮定の下で、蒸発源10Aが目標蒸着量(D
dA)と往路蒸着量(D
1A)の実効値の差分に相当する目標復路蒸着量(D
20A)を達成するための復路移動速度(V
2)の目標値を生成する。
目標復路蒸着量(D
20A)を用いると、復路移動速度(V
2)は次の式12で示される。
V
2=α*R
2A/D
20A=D
1A/(D
dA−D
1A)*V
1・・・(式12)
蒸着量制御部50は、このような往路移動速度(V
1)と復路移動速度(V
2)の関係と、往路蒸着量(D
1A)の実効値とに基づいて、復路移動速度(V
2)の目標値を生成すると、蒸発源移動手段に制御信号を出力する。
【0111】
一方、副蒸発源10Bは、往復動の往路においては、所定の目標値に制御された往路移動速度(V
1)で、開始位置蒸着速度(R
1B)と等しい一定の蒸着速度(往路蒸着速度(R
10B))の蒸着を行うと仮定されて、事前に設定された目標往路蒸着量(D
10B)を達成するように運転されている。
しかしながら、往復動の中間位置P2において計測される蒸着材料の蒸着速度(中間位置蒸着速度(R
2B))は、蒸着量が変動して開始位置蒸着速度(R
1B)とは異なる値となっている。
そのため、蒸着速度の計測信号の入力を受け付けた蒸着量制御部50は、次の式13に基づいて、往路蒸着量(D
1B)の実効値を算出する。
D
1B=β*E(R
2B)/V
1・・・(式13)
(式中、βは、補正係数を表し、E(R
2B)は、計測された蒸着速度(R
2B,R
1B)の平均を表す。)
【0112】
この蒸着装置3においては、副蒸発源10Bからの復路における蒸着材料の放出量は、副蒸発源10Bによる復路蒸着量(D
2B)が、往路蒸着量(D
1B)の実効値と合算して目標蒸着量(D
dB)に一致する蒸着量となるように蒸発量調節手段60の制御の目標値が設定される。
【0113】
そこで、蒸着量制御部50は、第2の副蒸着速度計測手段42Bにより計測された中間位置蒸着速度(R
2B)が、副蒸発源10Bの往復動の復路において一定であるという仮定の下で、目標蒸着量(D
dB)と往路蒸着量(D
1B)の実効値の差分に相当する目標復路蒸着量(D
20B)を達成するための復路蒸着速度(R
20B)を算出する。
副蒸発源10Bにより復路で蒸着されるべき復路蒸着速度(R
20B)は次の式14で示される。
R
20B=D
20B/D
1B*R
2B=(D
dB−D
1B)/D
1B*R
2B・・・(式14)
蒸着量制御部50は、このような中間位置蒸着速度(R
2B)と復路蒸着速度(R
20B)の関係と、式13に準じて往路移動速度を用いて算出される往路蒸着量(D
1B)の実効値とに基づいて復路蒸着速度(R
20B)を算出すると、復路蒸着速度(R
20B)を達成する蒸発量調節手段60の制御の目標値を生成し、副蒸発源10Bの蒸発量調節手段60に制御信号を出力する。
そして、第2の副蒸着速度計測手段42Bにより計測される中間位置蒸着速度(R
2B)が、復路蒸着速度(R
20B)に一致するように、中間位置P2において蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調節される。
【0114】
次に、蒸発源移動手段が反対方向に稼働されることにより、蒸発源10A,10Bの往復動の復路の移動が開始され、調整された復路移動速度で蒸発源10A,10Bを往復動の開始位置P1まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて再度成膜が行われる。
蒸発源移動手段の復路移動速度(V
2)は、往路移動速度(V
1)と異なる速度に制御されると共に、副蒸発源10Bからの復路における蒸着材料の放出量は、往路における放出量と異なる量に変更されて、
図6(c)に示されるように、蒸発源10A,10Bは、基材5の一端の直下から他端の直下までの区間で基材5の蒸着面を走査して基材5に対して再度蒸着を行い、往復動の開始位置P1に戻る。
このように、基材5に対して蒸発源10A,10Bが往復動することによって、往路及び復路の両方において蒸着が行われると、基材5への蒸着が終了される。蒸着室20内に備えられる遮蔽手段が閉塞されることにより基材5への蒸着材料の付着が規制され、蒸着された基材5は搬出される。
【0115】
あるいは、蒸発源10A,10Bが開始位置P1に戻ることによって1回の往復動が終了した段階で、必要に応じて再度の往復動を行うように運転することができる。
このような運転では、往復動の開始位置P1では、再び、第1の蒸着速度計測手段41A,41Bにより、往復動の開始位置P1における蒸着材料の蒸着速度が計測される。
蒸着装置3における往復動の復路では、蒸発源10Aは、中間位置蒸着速度(R
2A)と等しい一定の蒸着速度の蒸着を行い、副蒸発源10Bは、調整された中間位置蒸着速度(R
2B)と等しい一定の蒸着速度(復路蒸着速度(R
20B))の蒸着を行うと仮定されて、事前に設定された目標復路蒸着量(D
20A,D
20B)を達成するように運転されている。
しかしながら、往路においてと同様、往復動の開始位置P1において再び計測される蒸発源10Aからの蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1An))と副蒸発源10Bからの蒸着材料の蒸着速度(開始位置蒸着速度(R
1Bn))は、蒸着量が変動して中間位置蒸着速度(R
2A,R
2B)とは異なる値となる。
【0116】
そこで、蒸着速度の計測信号の入力を受け付けた蒸着量制御部50は、蒸発源10Aについて、蒸着装置1においてと同様に、復路蒸着量(D
2A)の実効値を算出し、算出される復路蒸着量(D
2A)の実効値と往路蒸着量(D
1A)の実効値とを合算した値と、基材5に蒸着しようとする目標蒸着量(D
dA)との蒸着量差分(D
dAn)を算出する。
また、副蒸発源10Bについて、同様に、復路蒸着量(D
2B)の実効値を算出し、算出される復路蒸着量(D
2B)の実効値と往路蒸着量(D
1B)の実効値とを合算した値と、基材5に蒸着しようとする目標蒸着量(D
dB)との蒸着量差分(D
dBn)を算出する。
【0117】
蒸着量制御部50は、この蒸着量差分(D
dAn,D
dBn)が、所定閾値未満であるか否かを判断する。これらの閾値は、例えば、蒸着量制御部50に接続される操作部を介して設定される。
【0118】
蒸着量差分(D
dAn,D
dBn)のいずれもが所定の閾値未満である場合には、成膜しようとする所定の厚さの膜が成膜されたとして、基材5への蒸着が終了される。蒸着室20内に備えられる遮蔽手段が閉塞されることにより基材5への蒸着材料の付着が規制され、蒸着された基材5は搬出される。
【0119】
蒸発源10Aについての蒸着量差分(D
dAn)、又は副蒸発源10Bについての蒸着量差分(D
dBn)のいずれかが所定の閾値以上である場合には、蒸発源10A,10Bが再び基材5に対して往復動されることにより蒸着が継続される。
【0120】
再度行われる往復動の往路移動速度(V
1n)は、蒸発源10Aの再度の往復動による基材5への蒸着量が蒸着量差分(D
dAn)に相当する値となるように、初回の往復動と同様の方法で設定される。
再度行われる往復動の往路蒸着量(D
1An)と復路蒸着量(D
2An)とを合算した値が、蒸着量差分(D
dAn)となる。
そのため、往路において基材5に成膜するべき目標往路蒸着量(D
10An)としては、再度の往復動において成膜するべき蒸着量差分(D
dAn)と等しい値や、往路と復路で等分された成膜が行われるように蒸着量差分(D
dAn)の50%程度の値や、蒸着レートの変動による誤差が低減されるように、蒸着量差分(D
dAn)の60〜90%程度の値となる量が再度設定される。
【0121】
そこで、蒸着量制御部50は、第1の蒸着速度計測手段41Aにより計測された開始位置蒸着速度(R
1An)が、再度行われる蒸発源10Aの往復動の往路において一定であるという仮定の下で、目標往路蒸着量(D
10An)を達成するための往路移動速度(V
1n)の目標値を再度生成する。
目標往路蒸着量(D
10An)を用いると、往路移動速度(V
1n)は次の式15で示される。
V
1n=α*R
1An/D
10An・・・(式15)
【0122】
蒸着量制御部50は、再度行われる往復動について、このような目標往路蒸着量(D
10An)と開始位置蒸着速度(R
1An)の関係に基づいて、往路移動速度(V
1n)の目標値を生成すると、蒸発源移動手段に制御信号を出力する。
【0123】
一方、副蒸発源10Bからの蒸着材料の放出量は、蒸発源の再度の往復動によって、基材5の表面に成膜しようとする膜厚の値が蒸着量差分(D
dBn)に相当する値となるように設定される。
再度行われる往復動の往路蒸着量(D
1Bn)と復路蒸着量(D
2Bn)とを合算した値が、蒸着量差分(D
dBn)となる。
そのため、往路において基材5に成膜するべき目標往路蒸着量(D
10Bn)としては、再度の往復動において成膜するべき蒸着量差分(D
dBn)と等しい値や、往路と復路で等分された成膜が行われるように蒸着量差分(D
dBn)の50%程度の値や、蒸着レートの変動による誤差が低減されるように、蒸着量差分(D
dBn)の60〜90%程度の値となる量が再度設定される。
【0124】
そこで、蒸着量制御部50は、再度行われる副蒸発源10Bの往復動の往路において蒸着速度が一定であるという仮定の下で、目標往路蒸着量(D
10Bn)を達成するための往路蒸着速度(R
10Bn)の目標値を再度生成する。
目標往路蒸着量(D
10Bn)を用いると、調整された往路移動速度(V
1n)の下では、目標往路蒸着速度(R
10Bn)は次の式16で示される。
V
1n=β*R
10Bn/D
10Bn・・・(式16)
【0125】
蒸着量制御部50は、再度行われる往復動について、このような目標往路蒸着量(D
10Bn)と往路移動速度(V
1n)の関係に基づいて、往路蒸着速度(R
10Bn)を生成すると、往路蒸着速度(R
10Bn)を達成する蒸発量調節手段60の制御の目標値を生成し、副蒸発源10Bの蒸発量調節手段60に制御信号を出力する。
そして、第1の副蒸着速度計測手段41Bにより計測される開始位置蒸着速度(R
1Bn)が、往路蒸着速度(R
10Bn)に一致するように、開始位置P1において蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調節される。
【0126】
その後、初回の往復動と同様に蒸発源移動手段が駆動されることにより、蒸発源10A,10Bの往復動の往路の移動が開始され、蒸発源10A,10Bを往復動の中間位置P2まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて成膜が行われる。
そして、往復動の中間位置P2では、再び、蒸発源10A,10Bから放出されている蒸着材料は、第2の蒸着速度計測手段42A,42Bにより、往復動の中間位置P2において中間位置蒸着速度(R
2An,R
2Bn)を計測される。
【0127】
再度行われる往復動の復路における蒸発源10Aの復路移動速度(V
2n)は、初回の往復動と同様に算出され、次の式17で示される。
V
2n=D
1An/(D
dAn−D
1An)*V
1n・・・(式17)
蒸着量制御部50は、このような往路移動速度(V
1n)と復路移動速度(V
2n)の関係と、式11に準じて算出される往路蒸着量(D
1An)の実効値とに基づいて、復路移動速度(V
2n)の目標値を生成すると、蒸発源移動手段に制御信号を出力する。
【0128】
一方、再度行われる往復動の復路で副蒸発源10Bにより蒸着されるべき復路蒸着速度(R
20Bn)は、初回の往復動と同様に算出され、次の式18で示される。
R
20Bn=(D
dBn−D
1Bn)/D
1Bn*R
2Bn・・・(式18)
蒸着量制御部50は、このような中間位置蒸着速度(R
2Bn)、復路蒸着速度(R
20Bn)の関係と、式13に準じて往路移動速度を用いて算出される往路蒸着量(D
1Bn)の実効値とに基づいて、復路蒸着速度(R
20Bn)を算出すると、復路蒸着速度(R
20Bn)を達成する蒸発量調節手段60の制御の目標値を生成し、副蒸発源10Bの蒸発量調節手段60に制御信号を出力する。
そして、第2の副蒸着速度計測手段42Bにより計測される中間位置蒸着速度(R
2Bn)が、復路蒸着速度(R
20Bn)に一致するように、中間位置P2において蒸発量調節手段60の開閉機構の開度が調節される。
【0129】
その後、蒸発源移動手段が反対方向に稼働されることにより、蒸発源10A,10Bの往復動の復路の移動が開始され、調整された復路移動速度で蒸発源10A,10Bを往復動の開始位置P1まで移動させる間に、基材5に蒸着材料を付着させて再度成膜が行われる。
そして、蒸発源10A,10Bは、往復動の開始位置P1に再び戻り、蒸着量制御部50によって、初回の往復動においてと同様に、成膜しようとする所定の厚さの膜が成膜されたかを判断される。
以下、同様の工程が繰り返されることにより所定の厚さの膜が成膜される。
【0130】
このような蒸着装置及び蒸着方法によれば、気化した蒸着材料を放出する蒸発源を、基材に対して相対移動させて成膜する際に、基材に蒸着する蒸着材料の量が変動することがあっても、蒸発源の往復動の復路において蒸着量を修正できるため、所定の厚さの膜を高精度で共蒸着して成膜することができる。また、共蒸着させる各蒸着材料成分の濃度が所定の濃度となる膜を高精度で成膜することができる。さらに、往復動を複数回行うことによって、各蒸着材料成分の濃度が所定の濃度となる膜をより高精度で成膜することができ、適切な色度を呈する白色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層等を成膜することができる。