(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036324
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】蓄電装置の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20161121BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20161121BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01G13/00 381
B05C9/14
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-8527(P2013-8527)
(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公開番号】特開2014-139896(P2014-139896A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 一輝
【審査官】
小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−243473(JP,A)
【文献】
特開2004−071472(JP,A)
【文献】
特開2010−034218(JP,A)
【文献】
特開2011−023129(JP,A)
【文献】
特開2012−033426(JP,A)
【文献】
特開平05−129021(JP,A)
【文献】
特開平10−308211(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0123450(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0236732(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01G 13/00
B05C 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の表面に活物質層が塗工された電極を備える蓄電装置を製造する蓄電装置の製造装置であって、
活物質層となるべき活物質および結着剤を含むスラリーが塗布された金属箔の搬送路上に配置された乾燥炉と、
前記乾燥炉内を搬送される前記金属箔の面のうちの前記スラリーが塗布された面とは反対側の面を加熱する第1の加熱手段とを備え、
前記金属箔の前記反対側の面を加熱する前記第1の加熱手段の設定温度を、前記搬送路の上流側から下流側にかけて漸次下げる、蓄電装置の製造装置。
【請求項2】
前記乾燥炉内を搬送される前記金属箔の面のうちの前記スラリーが塗布された面を加熱する第2の加熱手段を備え、
前記金属箔の前記スラリーが塗布された面を加熱する前記第2の加熱手段の設定温度を、前記搬送路の上流側から下流側にかけて漸次上げる、請求項1に記載の蓄電装置の製造装置。
【請求項3】
前記乾燥炉内における前記搬送路上において、前記第1の加熱手段の設定温度と前記第2の加熱手段の設定温度との高低が逆転し、前記搬送路の上流側では前記第2の加熱手段の設定温度より前記第1の加熱手段の設定温度のほうが高く、かつ、前記搬送路の下流側では前記第1の加熱手段の設定温度より前記第2の加熱手段の設定温度のほうが高い、請求項2に記載の蓄電装置の製造装置。
【請求項4】
前記乾燥炉内において、前記搬送路に沿って前記金属箔を搬送するとともに前記反対側の面から前記金属箔を支持する複数のローラを備え、
前記第1の加熱手段は、前記ローラを加熱することにより、前記金属箔の前記反対側の面を加熱する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電装置の製造装置。
【請求項5】
前記乾燥炉内において、前記搬送路に沿って前記金属箔を搬送するとともに前記反対側の面から前記金属箔を支持するベルトを備え、
前記第1の加熱手段は、前記ベルトを加熱することにより、前記金属箔の前記反対側の面を加熱する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電装置の製造装置。
【請求項6】
前記第1の加熱手段が、前記金属箔の前記反対側の面に温風を吹き付けて加熱する複数の吹付手段である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電装置の製造装置。
【請求項7】
前記蓄電装置が二次電池である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の蓄電装置の製造装置。
【請求項8】
金属箔の表面に活物質層が塗工された電極を備える蓄電装置の製造方法であって、
活物質層となるべき活物質および結着剤を含むスラリーを、金属箔に塗布する塗布工程と、
前記金属箔の面のうちの前記スラリーが塗布された面とは反対側の面を第1の加熱手段により加熱して、前記スラリーを乾燥させる乾燥工程とを含み、
前記乾燥工程の際、前記金属箔の前記反対側の面を加熱する前記第1の加熱手段の設定温度を、初期から終期にかけて漸次下げる、蓄電装置の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程の際、前記金属箔の面のうちの前記スラリーが塗布された面を第2の加熱手段により加熱し、前記スラリーが塗布された面を加熱する前記第2の加熱手段の設定温度を、初期から終期にかけて漸次上げる、請求項8に記載の蓄電装置の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥工程における乾燥の初期から終期まで間に、前記第1の加熱手段の設定温度と前記第2の加熱手段の設定温度との高低が逆転し、乾燥の初期では前記第2の加熱手段の設定温度より前記第1の加熱手段の設定温度のほうが高く、かつ、乾燥の終期では前記第1の加熱手段の設定温度より前記第2の加熱手段の設定温度のほうが高い、請求項9に記載の蓄電装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔の表面に活物質層が塗工された電極を備える蓄電装置の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(ElectricVehicle)やPHV(Plug in Hybrid Vehicle)などの車両には、原動機となる電動機への供給電力を蓄える蓄電装置としてリチウムイオン電池などの二次電池が搭載されている。この種の二次電池は、金属箔に活物質層を有する正極電極と負極電極を有し、これらの正極電極と負極電極の間をセパレータで絶縁して層状に重ね合わせた電極組立体を有する。
【0003】
活物質層は、少なくとも活物質と結着剤とを含むスラリーを、所定パターンで金属箔上に塗布し(塗布工程)、それを乾燥させる(乾燥工程)ことで形成される。そして、従来、金属箔と活物質層の結着力を高めるために、金属箔と活物質層の界面付近に結着剤を偏析させる技術が提案されている(下記の特許文献1および特許文献2参照)
【0004】
上記乾燥工程においてスラリーを乾燥させている間、乾燥条件によっては、スラリー表面で局所的に乾燥が進行する、いわゆる「皮張り」と呼ばれる現象が発生する。すると、結着剤がスラリーの表面側に偏在し、析出する。このようなスラリーの表面側における結着剤の偏在は、金属箔に対する活物質層の密着性低下を引き起こし、蓄電性能の低下や、後加工での活物質層の脱落などによる歩留まり低下の原因となる。
【0005】
そこで従来から、結着剤の偏在を防ぐために、乾燥工程において、塗膜を比較的長い時間をかけてゆっくりと乾かしていく技術が知られている。具体的には、乾燥工程の初期から終期にかけて、温度を低温から高温へ(又は、温風を弱風から強風へ)非常に緩やかな勾配で変化していくような乾燥条件が採用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−4181号公報
【特許文献2】特開2011−216227号公報
【特許文献3】特許第4571841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の乾燥条件では、乾燥時間の短縮に限界があるため生産性を向上させにくい。乾燥時間を短縮する代わりに、乾燥設備の乾燥ラインを長くして同時に乾燥処理を行える金属箔の長さを大きくとる方法も考え得るが、この場合には設備投資がかさんでしまう。
【0008】
このような問題は、二次電池だけでなく、電気二重層キャパシタ等のその他の蓄電装置においても同様に生じ得る。
【0009】
そこで、本発明は、活物質層となるべきスラリーの乾燥時間の短縮を図りつつ、活物質層の密着性の向上が図られた蓄電装置の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る蓄電装置の製造装置は、金属箔の表面に活物質層が塗工された電極を備える蓄電装置を製造する蓄電装置の製造装置であって、活物質層となるべき活物質および結着剤を含むスラリーが塗布された金属箔の搬送路上に配置された乾燥炉と、乾燥炉内を搬送される金属箔の面のうちのスラリーが塗布された面とは反対側の面を加熱する第1の加熱手段とを備え、第1の加熱手段が金属箔の反対側の面を加熱する温度を、搬送路の上流側から下流側にかけて漸次下げる。
【0011】
この蓄電装置の製造装置においては、金属箔の反対側の面を加熱する第1の加熱手段により、乾燥炉内を搬送される活物質層となるべきスラリーは、その表面側ではなく、金属箔側から乾燥が進行する。そのため、スラリーに含まれる結着剤は金属箔側に偏在、析出し、金属箔に対する活物質層の高い密着性が実現される。このとき、乾燥時間を短縮するために第1の加熱手段の加熱温度を高くしたところで、上述した皮張りは生じにくいため、乾燥時間を短縮しやすい。加えて、第1の加熱手段による金属箔の加熱温度が、搬送路の上流側から下流側にかけて漸次下がっているため、乾燥初期には金属箔側のスラリーの乾燥を優先的かつ局所的におこない、その後、スラリーを全体的に乾燥させることができる。
【0012】
また、乾燥炉内を搬送される金属箔の面のうちのスラリーが塗布された面を加熱する第2の加熱手段を備え、第2の加熱手段が金属箔のスラリーが塗布された面を加熱する温度を、搬送路の上流側から下流側にかけて漸次上げる態様であってもよい。この場合、乾燥終期に、スラリーの表面側をより確実に乾燥させることができる。
【0013】
また、乾燥炉内において、搬送路に沿って金属箔を搬送するとともに反対側の面から金属箔を支持する複数のローラを備え、第1の加熱手段は、ローラを加熱することにより、金属箔の反対側の面を加熱する態様であってもよい。この場合、金属箔の反対側の面に接するローラにより、反対側の面を効果的に加熱することができる。
【0014】
また、乾燥炉内において、搬送路に沿って金属箔を搬送するとともに反対側の面から金属箔を支持するベルトを備え、第1の加熱手段は、ベルトを加熱することにより、金属箔の反対側の面を加熱する態様であってもよい。この場合、金属箔の反対側の面に接するベルトにより、反対側の面を効果的に加熱することができる。
【0015】
第1の加熱手段が、金属箔の反対側の面に温風を吹き付けて加熱する複数の吹付手段である態様であってもよい。この場合、金属箔の反対側の面に接する部材を設けることなく、遠隔から、反対側の面を加熱することができる。
【0016】
本発明に係る蓄電装置の製造方法は、金属箔の表面に活物質層が塗工された電極を備える蓄電装置の製造方法であって、活物質層となるべき活物質および結着剤を含むスラリーを、金属箔に塗布する塗布工程と、金属箔の面のうちのスラリーが塗布された面とは反対側の面を加熱して、スラリーを乾燥させる乾燥工程とを含み、乾燥工程の際、金属箔の反対側の面を加熱する温度を、初期から終期にかけて漸次下げる。
【0017】
この蓄電装置の製造方法においては、乾燥工程の際、金属箔の表面に塗布されたスラリーは、その表面側ではなく、金属箔側から乾燥が進行する。そのため、スラリーに含まれる結着剤は金属箔側に偏在、析出し、金属箔に対する活物質層の高い密着性が実現される。このとき、乾燥時間を短縮するために乾燥工程における加熱温度を高くしたところで、上述した皮張りは生じにくいため、乾燥時間を短縮しやすい。加えて、乾燥工程の際、加熱温度が、初期から終期にかけて漸次下がるため、乾燥初期には金属箔側のスラリーの乾燥を優先的かつ局所的におこない、その後、スラリーを全体的に乾燥することができる。
【0018】
また、乾燥工程の際、金属箔の面のうちのスラリーが塗布された面も加熱し、スラリーが塗布された面を加熱する温度を、初期から終期にかけて漸次上げる態様であってもよい。この場合、乾燥終期に、スラリーの表面側をより確実に乾燥させることができる。
【0019】
なお、上記蓄電装置は二次電池であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、活物質層となるべきスラリーの乾燥時間の短縮を図りつつ、活物質層の密着性の向上が図られた蓄電装置の製造装置および製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る二次電池の外観を示した斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した二次電池の電極組立体の構成要素を示した分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した二次電池の製造装置を模式的に示した図である。
【
図4】
図4は、
図3に示した乾燥炉の加熱状態を示したグラフである。
【
図5】
図5は、スラリーに含まれる結着剤の偏析の状態を示す図である。
【
図6】
図6は、異なる態様の製造装置を示した図である。
【
図7】
図7は、異なる態様の製造装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0023】
図1に示すように、蓄電装置としての二次電池10は、ケース11に電極組立体12が収容されている。ケース11は、直方体状の本体部材13と、本体部材13の開口部を閉塞する矩形平板状の蓋部材14とからなる。ケース11を構成する本体部材13と蓋部材14は、何れも金属製(例えば、ステンレスやアルミニウム)である。また、本実施形態の二次電池10は、その外観が角型をなす角型電池である。また、本実施形態の二次電池10は、リチウムイオン電池である。
【0024】
電極組立体12は、当該電極組立体12と電気的に接続されている正極端子15と負極端子16を有する。そして、正極端子15及び負極端子16には、ケース11から絶縁するためのリング状の絶縁リング17aがそれぞれ取り付けられている。
【0025】
図2に示すように、電極組立体12は、シート状の第1電極としての正極電極18と、シート状の第2電極としての負極電極19と、正極電極18と負極電極19の間を絶縁するシート状のセパレータ20と、を有する。そして、電極組立体12は、正極電極18と負極電極19との間にセパレータ20を配置した状態で層状に重ね合わせた積層体とされる。また、電極組立体12は、複数枚の正極電極18と複数枚の負極電極19を交互に重ね合わせて構成される。すなわち、電極組立体12には、正極電極18と、負極電極19と、セパレータ20とからなる組が複数組、設けられている。
【0026】
また、
図2に示すように、正極電極18は、正極金属箔21と、正極活物質層22を有する。また、正極電極18の縁部18aには、正極金属箔21からなる正極タブ23が突出形成されている。正極タブ23には、正極活物質層22が形成されていない。また、正極タブ23は、正極端子15と電気的に接続される端子接続部である。正極タブ23は、電極組立体12を構成する各正極電極18において同位置に同一形状で形成されている。
【0027】
また、
図2に示すように、負極電極19は、負極金属箔25と、負極活物質層26を有する。また、負極電極19の縁部19aには、負極金属箔25からなる負極タブ27が突出形成されている。負極タブ27には、負極活物質層26が形成されていない。また、負極タブ27は、負極端子16と電気的に接続される端子接続部である。負極タブ27は、電極組立体12を構成する各負極電極19において同位置に同一形状で形成されている。また、負極タブ27は、正極電極18と負極電極19を重ね合わせた時に正極タブ23と重ならない位置に形成されている。
【0028】
金属箔には、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼などの導電性の材料を用いることができる。例えば、正極金属箔21にはアルミニウム箔を用いる一方で、負極金属箔25には銅箔を用いることができる。
【0029】
正極活物質層22は、正極活物質、導電助剤、及びバインダ(結着剤)を混合し、溶媒を添加して混練した電極材としての正極スラリーS1を正極金属箔21に塗布し、乾燥させることで形成される。同様に、負極活物質層26は、負極活物質、導電助剤、及びバインダを混合し、溶媒を添加して混練した電極材としての負極スラリーS2を負極金属箔25に塗布し、乾燥させることで形成される。正極スラリーS1及び負極スラリーS2は、所定の粘度に調製したスラリー状又はペースト状の材料である。
【0030】
正極活物質としては、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物を用いることができる。また、負極活物質としては、カーボンやリチウム遷移金属酸化物を用いることができる。カーボンとしては、ハードカーボンやカーボンブラックなどを用いることができる。導電助剤としては、アセチレンブラックなどを用いることができる。バインダとしては、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)などを用いることができる。溶媒としては、NMP(ノルマルメチルピロリドン)などを用いることができる。
【0031】
なお、正極電極18及び負極電極19は金属箔の材料や活物質層の組成が相違するが、その構成は同一であるため、以下の説明では、正極電極18と負極電極19を纏めて「電極30」、正極金属箔21及び負極金属箔25を纏めて「金属箔31」、正極活物質層22及び負極活物質層26を纏めて「活物質層32」とそれぞれ表記して説明する。
【0032】
図3は、金属箔31にスラリーを塗工し、乾燥させて電極30を製造するための塗工乾燥装置(蓄電装置の製造装置)35を模式的に示す。
【0033】
塗工乾燥装置35は、金属箔31を供給する供給機構36と、金属箔31にスラリーを塗工する塗工機構37と、塗工後のスラリーを乾燥させる乾燥機構38と、乾燥後の金属箔31を巻き取る巻取機構39と、を備える。供給機構36は、長尺帯状の金属箔31が巻装された供給ロール36aを備える。供給ロール36aは、支持機構によって回転可能に支持されている。塗工機構37は、供給ロール36aから送り出された金属箔31の第1面31aにスラリーを塗布するスリットダイ37aを備える。この塗工機構37によって金属箔31にスラリーを塗布する塗布工程が行われる。
【0034】
乾燥機構38は、金属箔31上に塗工されたスラリーを乾燥させる乾燥機(乾燥炉)38aを備える。
【0035】
また、乾燥機構38は、乾燥機38a内において、搬送路に沿って金属箔31を搬送するとともに、金属箔31の第1面31aとは反対側の面である第2面31bから金属箔31を支持する複数のローラ381を備えている。各ローラ381は、熱伝導率が高い材料(たとえば、金属)で構成されている。
【0036】
さらに、乾燥機構38は、各ローラ381に取り付けられたローラ加熱手段(第1の加熱手段)382をさらに備えている。ローラ加熱手段382は、複数のローラ381それぞれを加熱するものであり、内蔵ヒータ、電磁誘導加熱、熱媒の流通によりローラ381を加熱する。ローラ加熱手段382は、ローラ381を加熱することにより、金属箔31の第2面31bを加熱し、スラリーを金属箔31側から乾燥させる。なお、ローラ381毎に加熱条件(加熱温度や加熱時間など)を設定できる制御部を備えている。
【0037】
加えて、乾燥機構38は、乾燥機38a内の金属箔31の上側に、搬送路に沿って並んだ複数の上側エアノズル(第2の加熱手段)383を備えている。各上側エアノズル383は、搬送される金属箔31の第1面31aに、エアとして室温より高温の温風を吹き付ける。そのため、上側エアノズル383は、金属箔31の第1面31aを加熱して、スラリーを表面側から乾燥させる。なお、上側エアノズル383毎にエア温度条件(エア温度や吹き付け時間など)を設定できる制御部(図示せず)が取り付けられている。
【0038】
以上の構成を有する乾燥機構38によって、金属箔31に塗布したスラリーを乾燥する乾燥工程が行われる。
【0039】
巻取機構39は、モータ駆動によって回転可能な巻取ロール39aを備える。巻取ロール39aは、一定の回転速度で回転し、供給ロール36aから送り出される金属箔31を巻き取る。このため、金属箔31は、一定の搬送速度で供給ロール36aから巻取ロール39aに向かって搬送される。塗工乾燥装置35では、金属箔31の搬送路の上流側から下流側に向かって順に、供給機構36、塗工機構37、乾燥機構38、及び巻取機構39が配設されている。これにより、供給ロール36aから送り出される金属箔31は、塗工機構37でスラリーが塗工された後(塗布工程)、乾燥機構38で乾燥され(乾燥工程)、その後に巻取ロール39aに巻き取られる。なお、塗工乾燥装置35には、供給機構36と巻取機構39の間に、搬送される金属箔31を支持する複数のサポートロール40が配設されている。
【0040】
ところで、スラリーの塗工及び乾燥を経て金属箔31に形成される活物質層32は、スラリーを急速に乾燥させると、活物質層32における導電助剤及びバインダの偏析が生じ得ることが知られている。この偏析は、スラリーに添加した溶媒の蒸発に伴って導電助剤及びバインダの移動が促進されることで、蒸気の排出方向に導電助剤及びバインダが運ばれ易くなることで生じ得る。そして、バインダの偏析が金属箔31に塗工したスラリーの表面側に生じた場合は、金属箔31と活物質層32との結着力の低下に繋がる。また、導電助剤の偏析が金属箔31に塗工したスラリーの表面側に生じた場合は、電極の抵抗が大きくなり、電極の出力低下に繋がる。
【0041】
このため、本実施形態では、乾燥機38a内で行われるスラリーの乾燥工程の際、ローラ381および上側エアノズル383の温度を制御している。具体的には、
図4に示すとおり、ローラ381の温度T1に関しては、搬送路の上流側から下流側にかけて漸次下がるような温度勾配をつけ、上側エアノズル383の温度T2に関しては、搬送路の上流側から下流側にかけて漸次上がるような温度勾配をつけている。
【0042】
図4において符号T1で示したローラ381の温度の勾配は、たとえば、最も上流側に位置するローラ381の温度を高温(たとえば、200℃にローラを加熱)に設定し、より下流に位置するローラ381の温度を段階的に低下させ、最も下流側に位置するローラ381の温度を最も低温(加熱せず、実温90℃)にすることで実現できる。
【0043】
図4において符号T2で示した上側エアノズル383の温度の勾配は、たとえば、最も上流側に位置する上側エアノズル383の吹き付け温度を低温(たとえば、80℃)に設定し、より下流に位置する上側エアノズル383の吹き付け温度を段階的に上昇させ、最も下流側に位置する上側エアノズル383の温度を最も高温(たとえば、100℃)にすることで実現できる。
【0044】
上述した乾燥工程においては、その乾燥初期に、金属箔31の第2面31bを加熱するローラ381が、上側エアノズル383よりもより高い温度でスラリーS1、S2を加熱、乾燥する。そのため、スラリーS1、S2は、その表面側ではなく、金属箔側から乾燥が進行する。その結果、乾燥工程を経た活物質層32では、
図5に示すように、金属箔31との金属箔側への導電助剤及びバインダの偏析が促進されたことで、活物質層32の表面側から金属箔側(界面側)に向かうほど導電助剤及びバインダの占有体積率が高くなっている。したがって、金属箔31に対する活物質層32の高い密着性が実現されている。なお、
図5では、占有体積率の大小を、活物質層32に図示したドットの密集具合によって表している。
【0045】
図5に示すように、例えば、活物質層32を厚さ方向に等分に3分割し、活物質層32の表面側から金属箔側に向かって領域a1,a2,a3を規定する。そして、このように領域a1〜a3を規定したときの占有体積率は、活物質層32の表面側に最も近い領域a1に比して、活物質層32の金属箔側に最も近い領域a3の方が大きくなる。なお、領域a1の占有体積率に対して領域a3の占有体積率は、1倍よりも大きく、10倍程度までの範囲内に収まることが好ましい。
【0046】
また、活物質層32では、領域a1〜a3の占有体積率が、領域a1よりも領域a2の方が大きく、領域a2よりも領域a3の方が大きくなる。つまり、活物質層32では、表面側から金属箔側に向かって導電助剤及びバインダの占有体積率が大きくなる。換言すれば、活物質層32では、金属箔側から表面側に向かうにつれて導電助剤及びバインダの占有体積率が小さくなる。
【0047】
その上、上述した乾燥工程においては、乾燥中期からローラ381の温度T1と上側エアノズル383の温度T2との高低が逆転し、乾燥終期においては上側エアノズル383の温度T2のほうが高くなっている。乾燥工程の後半では、金属箔側のスラリーの乾燥はほぼ完了しており、すでに金属箔31に対する活物質層32の高い密着性が確保されているため、スラリーを表面側から乾燥することができる。すなわち、乾燥終期に、上側エアノズル383により比較的高い温度で乾燥することで、スラリーの表面側をより確実に乾燥させて、スラリー全体の乾燥が確実におこなわれる。
【0048】
以上で説明した二次電池10の製造装置および製造方法においては、乾燥機38a内を搬送される活物質層32となるべきスラリーは、金属箔31の第2面31bを加熱するローラ加熱手段382が、ローラ381を介して金属箔31を加熱することで、その表面側ではなく、金属箔31側から乾燥が進行する。そのため、スラリーに含まれる結着剤は金属箔31側に偏在、析出し、金属箔31に対する活物質層32の高い密着性を実現することができる。
【0049】
このとき、乾燥時間を短縮するためにローラ加熱手段382のローラ381を加熱する温度を高くしたところで、金属箔31側から乾燥が進行するため、皮張りは生じにくく、乾燥時間を容易に短縮することができる。
【0050】
加えて、ローラ加熱手段382による金属箔31の加熱温度が、搬送路の上流側から下流側にかけて漸次下がっているため、ローラ加熱の温度と金属箔の周囲の温度との温度差が漸次小さくなる。そのため、乾燥初期には金属箔31側のスラリーの乾燥が優先的かつ局所的におこなわれ、その後、スラリーはその全周から全体的に乾燥されるようになる。
【0051】
なお、金属箔31の第2面31bを加熱する第1の加熱手段は、ローラ加熱手段382に限らず、
図6や
図7に示すようなものであってもよい。
【0052】
図6には、金属箔31の第2面31bを加熱する第1の加熱手段として、ベルト加熱手段384を備えており、ベルト加熱手段384は、上述したローラ381と同様に金属箔31を第2面31b側から支持するベルト385を介して、金属箔31を第2面31bを加熱する。ベルト385は、無端ベルトであり、乾燥機38a内の搬送路上流側および下流側に配置された一対のローラ386の間で係架されるように設けられている。
【0053】
ベルト加熱手段384は、ベルト385の温度を加熱する制御部を有しており、この制御部により、ベルト385の温度を
図4のグラフに示した温度勾配T1のとおりに設定可能である。
【0054】
したがって、
図6に示した態様であっても、上述した実施形態のローラ加熱手段382と同様の作用効果を奏する。
【0055】
図7には、金属箔31の第2面31bを加熱する第1の加熱手段として、乾燥機38a内の金属箔31の下側に、搬送路に沿って並んだ複数の下側エアノズル387を備えている。
【0056】
各下側エアノズル387は、上述した上側エアノズル383同様、搬送される金属箔31の第2面31bに、エアとして室温より高温の温風を吹き付ける。そのため、下側エアノズル387は、金属箔31の第2面31bを加熱して、スラリーを金属箔31側から乾燥させる。なお、下側エアノズル387毎にエア温度条件(エア温度や吹き付け時間など)を設定できる制御部(図示せず)が取り付けられている。この制御部により、下側エアノズル387の温度を
図4のグラフに示した温度勾配T1のとおりに設定可能である。
【0057】
したがって、
図7に示した態様であっても、上述した実施形態のローラ加熱手段382と同様の作用効果を奏する。
【0058】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。たとえば、蓄電装置は、リチウムイオン二次電池等の二次電池に限らず、その他の蓄電装置(たとえば電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等)であってもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、ローラ加熱手段が、複数のローラ全てを加熱する態様を示したが、複数のローラのうち一部のローラのみを加熱する態様であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…二次電池、31…金属箔、32…活物質層、38a…乾燥機、381…ローラ、382…ローラ加熱手段、383…上側エアノズル、384…ベルト加熱手段、385…ベルト、387…下側エアノズル、S1、S2…スラリー。