特許第6036350号(P6036350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036350
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】アルミニウム被覆複合材パネル
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20161121BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   B32B15/08 105Z
   C08J5/04CFG
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-18545(P2013-18545)
(22)【出願日】2013年2月1日
(65)【公開番号】特開2014-148113(P2014-148113A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏泰
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩義
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−240620(JP,A)
【文献】 特開2001−348684(JP,A)
【文献】 特開2011−195949(JP,A)
【文献】 特開2013−146988(JP,A)
【文献】 特開2006−315230(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/070654(WO,A1)
【文献】 特開平09−226052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29B 11/16
15/08−15/14
C08J 5/04− 5/10
5/24
D21B 1/00− 1/38
D12C 1/00−11/14
D21D 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチック成型体の少なくとも1つの表面にアルミニウムシートを接合したアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体であり、該アルミニウムシートの少なくとも繊維強化プラスチックに接する面が、化学的に粗化されており、該粗化層の厚みが2μm未満であり、前記マトリックス樹脂成分が主に限界酸素指数が25以上であり、軟化温度が200℃以上である難燃耐熱スーパーエンプラ樹脂であることを特徴とするアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体。
【請求項2】
前記マトリックス樹脂がポリエーテルイミド樹脂である請求項1記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体。
【請求項3】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチック成型体の少なくとも1つの表面にアルミニウムシートを接合したアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体であり、該アルミニウムシートの少なくとも繊維強化プラスチックに接する面が、化学的に粗化されており、該粗化層の厚みが2μm未満であることを特徴とするアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法であって、前記繊維強化プラスチック成型体部分が、強化繊維シートとマトリックス樹脂繊維を湿式抄紙により作製したマトリックス樹脂繊維不織布マットを積層し、加熱加圧成型により作製したものであることを特徴とするアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
【請求項4】
前記繊維強化プラスチック成型体部分が、湿式抄紙により作製した強化繊維とマトリックス樹脂繊維の混合不織布マットを加熱加圧成型により作製したものであることを特徴とする請求項に記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂成分が主に限界酸素指数が25以上であり、軟化温度が200℃以上である難燃耐熱スーパーエンプラ樹脂であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂がポリエーテルイミド樹脂である請求項3〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性繊維をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチックの表面にアルミニウムシートを接合したアルミニウム被覆繊維強化プラスチックパネルに関する。特に、上記マトリックス樹脂として耐熱性で難燃性が高い、いわゆるスーパーエンプラと称される熱可塑性樹脂を使用した短時間で成型加工が可能で且つ難燃性・強度が高い繊維強化プラスチック成型体の表面に、アルミニウムシートを接合した繊維強化プラスチックパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で高強度を有する複合材料として、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維で補強した樹脂成形体は、一般にFRPと呼ばれスポーツ、レジャー用品、航空機用材料など様々な分野で用いられている。それらの炭素繊維強化樹脂成形体においてマトリックスとなる樹脂は、主にエポキシ樹脂、または不飽和ポリエステル樹脂、ときにフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられることが多い。しかし、それら熱硬化性樹脂の場合、繊維強化樹脂成形体の耐衝撃性が劣ることや、硬化前の材料として樹脂を繊維に含浸させてプリプレグにした場合に冷蔵保管が必要でしかもポットライフが限られており長期保管ができない、という難点がある。
更に、熱硬化性樹脂は122℃〜177℃程度の温度に加熱した状態で重合反応させて硬化させる必要があるが、重合反応に2時間程度の時間を要するため、加熱成形時間が長くなり生産性が低いといった難点もある。
【0003】
一方、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする場合、繊維強化樹脂成形体の耐衝撃性が優れることや、成形加工前の状態の樹脂及び繊維強化樹脂複合材の保存管理が容易で、プレス成形など簡便な成型方法が適用できるといった利点があることから、例えばポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂複合材からなる繊維強化樹脂成形体の開発研究が行われている。
【0004】
しかしながら、上記のようなポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂成形体は、耐熱性や難燃性等の点で、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂成形体に比べて劣るという欠点がある。そのため、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂成形体の用途は制限されているのが現状である。
【0005】
そこで、近年通常の熱可塑性樹脂に比べ耐熱性の高い熱可塑性樹脂、例えばPPS樹脂等をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチックが開発されている。特許文献1には高融点熱可塑性物質と補強ファイバーからなる不織布マットからFRPを作製できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4708330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
繊維強化プラスチック成型体に使用される熱可塑性樹脂に関しては、近年、耐熱性、耐薬品性などに優れた熱可塑性樹脂が盛んに開発されるようになり、これまで熱可塑性樹脂の欠点である耐熱性、難燃性といった欠点が目覚ましく改善されてきている。そのような熱可塑性樹脂は、いわゆる「スーパーエンプラ」(スーパーエンジニアリングプラスチック)と呼ばれ、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)等が挙げられる。
【0008】
上記「スーパーエンプラ」と称される熱可塑性樹脂は、強度物性に優れるだけでなく、難燃性が非常に高い樹脂もあり、限界酸素指数が樹脂ブロックの状態で30以上であるものもある。但し、このようなスーパーエンプラを使用した繊維強化プラスチックに関しては一部実用化されているものもあるが、機械的強度(曲げ、引っ張り)は高いが、表面強度が弱く傷がつきやすい。樹脂光沢が低く、高級感のある製品外観を得にくいといった欠点がある。
【0009】
繊維強化プラスチック成型体は、近年、単に構造体に留まらず、ノートパソコンの筐体、大型TVのバックパネル、自動車のハッチバックドア等の用途に展開が進んでいるため、高級感があり、傷の付きにくい表面が求められている。
【0010】
また、航空機部品等の分野でも、生産性に優れた繊維強化熱可塑性プラスチック成型品の利用が検討されているが、従来使用されているアルミ合金系の部材と異なった接着剤を使用しなければならず、製造管理が煩雑になるという問題がある。
【0011】
さらにまた、金属代替として繊維強化熱可塑性プラスチック成型品を用いる場合に、金属並みの電磁波、ノイズシールド性が欲しいという要望もある。
【0012】
これら表面の問題、電磁波シールド性の問題を解決するための手段として、繊維強化プラスチック成型体の表面に金属箔、例えばアルミニウムシートを接合することが考えられる。しかしながら、これら金属箔、金属シートは加熱圧着しただけでは上記スーパーエンプラ樹脂との接着が極めて弱く、容易に剥離する。強固に接着するために金属箔−強化プラスチック成型体間に接着剤を塗布したり、ホットメルト接着シートを挟んで加熱する等の手段もあるが、生産性、コストの面で不利である。また、接着剤層の特性がスーパーエンプラ樹脂と大きく異なるために界面剥離等の問題を生じやすい。
【0013】
繊維強化プラスチック成型体の表面に金属層を設ける方法として、他にめっき、蒸着等の手段も挙げられるが、いずれも金属層の強度、接着力が不十分である場合が多い。また、めっきに関しては一般に有害な廃液の処理等の問題がある。
【0014】
かかる状況に鑑み、本発明においては、耐熱性と難燃性が高い熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した高強度・高耐熱性、優れた難燃性を有する繊維強化樹脂成形体表面に、アルミニウムシートを強固に接合したアルミニウム被覆繊維強化樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、いわゆるスーパーエンプラと呼ばれる耐熱性と難燃性の高い熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した繊維強化プラスチック材の表面に、化学的処理により2μm未満の厚みの粗化層を設けたアルミニウムシートを熱圧着することによりマトリックス樹脂が粗化層に十分に浸透して一体化し、十分な接着強度が得られることを見出した。
【0016】
本発明は以下の各発明を包含する。
(1)強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチック成型体の少なくとも1つの表面にアルミニウムシートを接合したアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体であり、該アルミニウムシートの少なくとも繊維強化プラスチックに接する面が、化学的に粗化されており、該粗化層の厚みが2μm未満であり、前記マトリックス樹脂成分が主に限界酸素指数が25以上であり、軟化温度が200℃以上である難燃耐熱スーパーエンプラ樹脂であることを特徴とするアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体。
【0017】
(2)前記マトリックス樹脂がポリエーテルイミド樹脂である(1)記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体。
【0018】
(3)強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチック成型体の少なくとも1つの表面にアルミニウムシートを接合したアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体であり、該アルミニウムシートの少なくとも繊維強化プラスチックに接する面が、化学的に粗化されており、該粗化層の厚みが2μm未満であることを特徴とするアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法であって、前記繊維強化プラスチック成型体部分が、強化繊維シートとマトリックス樹脂繊維を湿式抄紙により作製したマトリックス樹脂繊維不織布マットを積層し、加熱加圧成型により作製したものであることを特徴とするアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
【0019】
(4) 前記繊維強化プラスチック成型体部分が、湿式抄紙により作製した強化繊維とマトリックス樹脂繊維の混合不織布マットを加熱加圧成型により作製したものであることを特徴とする(3)に記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
【0020】
(5)前記マトリックス樹脂成分が主に限界酸素指数が25以上であり、軟化温度が200℃以上である難燃耐熱スーパーエンプラ樹脂であることを特徴とする(3)または(4)に記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
(6)前記マトリックス樹脂がポリエーテルイミド樹脂である(3)〜(5)のいずれか1項に記載のアルミニウム被覆繊維強化プラスチック成型体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
いわゆるスーパーエンプラと呼ばれる耐熱性と難燃性の高い熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した繊維強化プラスチック材の表面に、化学的処理により2μm未満の厚みの粗化層をも設けたアルミニウムシートを熱圧着することによりマトリックス樹脂が粗化層に十分に浸透して一体化し、十分な接着強度もつアルミニウム被覆をもつ繊維強化プラスチック成型体が得られる。
【0022】
本発明において、片面を粗化、片面光沢のアルミニウムシートを用いると、優れた金属光沢を持ち美観に優れたアルミニウム被覆繊維強化樹脂成形体が得られる。
【0023】
また、本発明のアルミニウムシート層を強固に接合したアルミニウム被覆繊維強化樹脂成形体は、表面がアルミニウムで被覆されているため、アルミニウム接合用の接着剤で良好な接着強度が得られる。
【0024】
さらにまた、前記アルミニウム被覆繊維強化樹脂成形体に用いる表面粗化アルミニウムシートとして、両面を粗化したアルミニウムシートを用いると、非常に良好な接着性を持つ最表面を持つアルミニウム被覆繊維強化樹脂成形体が得られる。
【0025】
また、本発明のアルミニウムシート層を強固に接合したアルミ被覆繊維強化樹脂成形体は樹脂成型体でありながら電磁波シールド性を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の、十分な接着強度もつアルミニウム被覆をもつ繊維強化プラスチック成型体は、強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチック成型体の少なくとも1つの表面に、少なくとも繊維強化プラスチック成型体に接する面が化学的な粗化処理により2μm未満の粗化層を持つアルミニウムシートを熱圧着することにより形成されている。
【0027】
〔強化繊維プラスチック成型体〕
本発明に用いられる強化繊維プラスチック成型体は、強化繊維間をマトリックス樹脂が埋めて結合した状態の成型体である。
【0028】
〔強化繊維〕
本発明に用いられる強化繊維の材質は、繊維強化プラスチック体としての用途に応じた十分な強度が得られるものであれば特に限定されず、ガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維、或いはアラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を使用することも可能である。尚、本発明で使用する強化繊維として有機繊維を使用する場合は、マトリックス樹脂にスーパーエンプラ樹脂を用いた場合、成形体を形成する際の成形温度が200〜400℃と高温を要することがあるため、パラアラミド繊維やPBO繊維のように軟化点を持たず、熱分解温度が400℃より高い繊維、或いは軟化点を持つ熱可塑性繊維であったとしても、軟化温度が上記成型温度よりも高い繊維が好適である。一般的には炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、ホウ素繊維、金属繊維等を用いることができる。特に重量あたりの強度の面で炭素繊維、価格の面でガラス繊維が好適に用いられる。強化繊維は、カットした状態でマトリックス樹脂中に分散させてもよく、あるいは連続繊維を織布や、繊維を並べた強化繊維シートにしたのち、マトリックス樹脂を浸透させてもよい。
【0029】
強化繊維の繊維径は特に限定されないが、1〜20μm程度が好適に用いられる。1μmより細い場合はマトリックス樹脂の浸透が困難になる。20μmより太い場合は、繊維間の空隙が大きくなり、単位体積当りに含まれる繊維の量が多くできないため、繊維強化プラスチック体として十分な強度が得にくくなる。繊維長は特に限定されないがカットファイバーの場合は1〜20mmが好適である。1mmより短いと繊維強化プラスチックとしての強度が低下する。20mm以上ではカットファイバーとしてハンドリングが困難になる。織布、あるいは繊維を1方向に並べたUD(ユニディレクション)シートの場合は連続繊維でよい。
【0030】
〔マトリックス樹脂〕
本発明の繊維強化プラスチック成型体を構成するマトリックス樹脂としては、熱プレス成型などの簡便な成型方法を適用できること、熱圧着のみで表面粗化アルミニウムシートと接合できることから、熱可塑性の樹脂が望ましい。特に、耐熱性、難燃性、強度に優れるスーパーエンプラ樹脂が好適である。
【0031】
〔スーパーエンプラ樹脂〕
本発明に用いられるマトリックス樹脂に使用するスーパーエンプラ樹脂は、機械的強度があり、耐熱性で難燃性の熱可塑性樹脂が望ましい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等が例示されるが、これに限定されるものではない。
スーパーエンプラ樹脂は、限界酸素指数が25以上でガラス転移温度が140℃以上であるものが好ましい。スーパーエンプラ樹脂の限界酸素指数が25以上であると難燃性に優れる。
【0032】
特にポリエーテルイミド(PEI)樹脂は、限界酸素指数が47と高く、燃焼時の発煙、有害ガスの発生も極めて少ないため好適である。
スーパーエンプラ繊維としてポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維を用いた場合、PPS樹脂は耐薬品性が高く、耐熱性が高いため、耐薬品性と高温時の強度に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。
また、スーパーエンプラ繊維としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維を用いた場合は、他のスーパーエンプラよりも耐薬品性と高温時の強度に特に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0033】
なお、本発明において、「限界酸素指数」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。すなわち、限界酸素指数が20以下は、通常の空気中で燃焼することを示す数値である。
【0034】
〔繊維強化樹脂成型体〕
本発明の繊維強化樹脂成型体の作製方法は特に限定されない。強化繊維とマトリックス樹脂を加熱混練し、射出または押し出し成型する方法、金型内に強化繊維をいれたのち、マトリックス樹脂を注入する方法、強化繊維シートにマトリックス樹脂を塗布又は含浸させ熱可塑プリプレグとした後、加熱加圧成型する方法、強化繊維シートとマトリックス樹脂シートを積層し、加熱加圧成型する方法、強化繊維とマトリックス樹脂の繊維を混合抄紙し、加熱加圧成型する方法等が挙げられる。特に、大面積、薄型の成型体の場合は、シートにした材料を加熱加圧成型する方法が好適である。
【0035】
〔強化繊維シート〕
強化繊維シートは、強化繊維の連続繊維を任意の方法で織ったり、繊維を配列させることにより形成できる。また、強化繊維をカットして短繊維として、通常の不織布を製造する方法で不織布シートとしてもよい。特に、カットした強化繊維を水に分散した後に抄き上げてシートにする方法、すなわち湿式抄紙方法は、均一なシートが得られるため望ましい。
【0036】
〔マトリックス樹脂シート〕
マトリックス樹脂シートは、フィルム、織布、不織布の形で形成することができる。不織布形状のマトリックス樹脂シートは、フィルム状のマトリックス樹脂シートに比べ、加熱加圧成型時に内部の空気が抜けやすく、成型時間が短くて済み、また繊維強化樹脂成型体内部に欠陥となる空隙ができにくいという利点がある。不織布形状のマトリックス樹脂シートは、マトリックス樹脂を紡糸して繊維にしたのち、任意の方法で織布、不織布の形で形成することができる。特に、マトリックス繊維を水に分散した後に抄き上げてシートにする方法、すなわち湿式抄紙方法は、均一なシートが得られるため望ましい。
【0037】
マトリックス樹脂繊維の繊維長は特に限定されないが、湿式、若しくは乾式不織布法で製造する場合は、好ましくは3mm〜30mm程度である。これより長いと、繊維が均一に分散せず、シートの均一性や強化繊維との混合比の均一性が低下する。また、これより短いと、ウエブの強度が低下し、スタンパブルシートの製造工程で破断等が生じやすくなる。繊維径及び繊維長は単一であってもよく、また異なる繊維径、繊維長のものをブレンドして使用してもよい。マトリックス樹脂シートを織布として製造する場合は繊維の長さに制限はない。
【0038】
〔強化繊維-マトリックス樹脂繊維混合シート〕
強化繊維とマトリックス樹脂は個別にシート化して、積層し、加熱加圧成型して繊維強化樹脂成型体としてもよいが、強化繊維とマトリックス繊維が混合されているシートを形成し加熱加圧成型して繊維強化樹脂成型体としてもよい。特に、カットした強化繊維とカットしたマトリックス繊維を水に分散、混合した後に抄き上げてシートにする方法、すなわち湿式抄紙方法は、均一なシートが得られるため望ましい。このように強化繊維とマトリックス樹脂繊維が混合されているシートを形成し加熱加圧成型して繊維強化樹脂成型体とする方法においては、強化繊維とマトリックス樹脂繊維が混合されている不織布シート中でマトリックス樹脂繊維と強化繊維が均一に混合している状態であることが望ましいので、強化繊維とマトリックス樹脂繊維の繊維径が近似していることが好ましい。この観点から、マトリックス樹脂繊維の繊維径は本不織布シート中に配合される強化繊維の繊維径の4倍以下であることが好ましく、3倍以下であることがより好ましく、マトリックス樹脂繊維の繊維径と強化繊維の繊維径が等しいか略等しいことが最も好ましい。
【0039】
〔成型方法〕
強化繊維とマトリックス樹脂から繊維強化プラスチック成型体を製造する方法は特に限定されない。強化繊維、マトリックス樹脂がそれぞれ、あるいは混合されてシートを形成している場合はシートを積層し加熱加圧し、繊維強化プラスチック成型体とするのが簡便である。加熱加圧方法としては、加熱加圧ロール等によって、シートを加熱圧着する方法、金型内にセットした後加熱加圧する方法、予備加熱したシートを加圧成型する方法、レーザーやヒータで部分加熱しながら積層していく方法等を適用することができる。
【0040】
本発明の繊維強化プラスチック体において、強化繊維の含有量が少なすぎると強化繊維による成形プラスチック体の補強効果が不十分となり、逆に多すぎた場合も、マトリックス樹脂が繊維間を充填しきれずに空隙が発生するため成形プラスチック体の強度が低下する。繊維強化プラスチック体中の強化繊維とマトリックス樹脂の比率は、体積比で5/95〜70/30が好ましく、更に好ましくは20/80〜60/40である。
【0041】
本発明の繊維強化プラスチック体において、強化繊維の配向はランダムであってもよく、あるいは特定の方向に配向させておいてもよい。
【0042】
〔粗化層を持つアルミシート〕
本発明に用いる粗化層を持つアルミニウムシートは、アルミニウムシートの少なくとも片面を、化学的処理により粗化したものである。粗化されたアルミニウムシート表面にマトリックス樹脂が浸透し一体化することにより強固な接着力が得られる。アルミニウムシートを接合した繊維強化プラスチック成型体に対して更に別の部材を接着する場合は両面を粗化したアルミニウムシートを使用するのが好適である。アルミニウムシートの厚みは用途に応じて選択すればよく、特に限定されないが、10μm〜2mm程度が好適である。
【0043】
本発明に用いる粗化層を持つアルミニウムシートは、アルミニウムシート(アルミニウム系合金のシートも含む)の表面を化学的処理により粗化したものである。アルミニウムシート等の表面を粗化する方法としては、研磨、サンドブラスト、エンボス等の機械的方法、陽極酸化等の電気化学的方法等、化学的薬液による酸化、エッチング等が知られている。
【0044】
本発明の繊維強化プラスチック体のマトリックス樹脂であるスーパーエンプラ樹脂は、溶融粘度が高いため加熱圧着時のアルミ表面に対する濡れ性、浸透性が低い。そのため、アルミニウム粗化層の選択が重要である。発明者らの検討によれば、機械的方法では表面に細かい傷が付いているだけで、樹脂が浸透しても十分なアンカリング(投錨)効果が得られず、また表面自体もアルミニウム素材のままなので樹脂との接着性が不十分であった。陽極酸化、いわゆるアルマイト処理では、表面に微細孔ができ、また酸化されているので、機械的処理よりは接着力が向上するが、微細孔の内部に粘度の高いスーパーエンプラ樹脂が浸透しにくく接着力が十分ではなかった。これに対して、化学的薬液に浸漬する方法で粗化したアルミニウムシートは、スーパーエンプラ樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック体との接着が非常に良好であることを見出した。
【0045】
化学的薬液に浸漬する方法で粗化する方法としては、特開2001−348684号公報および特開2011-195949号公報等に記載の方法を適用することができる。特に無機酸、鉄イオン、マンガンイオン、および銅イオンを含む水溶液へ接触(含浸、塗布等)による処理により形成する方法が好適である。あるいはまた、両性金属イオンとチオ化合物イオンと硝酸イオンを含むアルカリ性水溶液との接触(含浸、塗布等)による処理により形成する方法も好適である。粗化層の厚みは、薬液温度、浸漬時間で制御することができる。本発明者による検討では、粗化層の厚みが接着力に対して非常に重要で、粗化層の厚みが2μ以上では繊維強化プラスチック体のマトリックス樹脂であるスーパーエンプラ樹脂が完全には浸透しきれず、剥離力を加えると、樹脂が浸透していない粗化層内部で破壊が起き、剥離してしまう。逆に粗化層の厚みが0.1μm以下では樹脂の浸透厚みが薄すぎて十分なアンカリング効果が得られない。したがって、粗化層の厚みは1μm程度が好適である。なお、粗化層の厚みは断面の電子顕微鏡写真で測定することができる。
【0046】
粗化層を持つアルミニウムシートと繊維強化プラスチック体との圧着は、繊維強化プラスチック体中のマトリックス樹脂が軟化する温度以上で圧力を掛ければよく、特に限定されないが、熱プレス圧着、熱ロール圧着等の手段で行うことが可能である。
粗化層を持つアルミニウムシートと繊維強化プラスチック体との圧着は、一旦成型した繊維強化プラスチック体の表面に対して実施してもよいし、繊維強化プラスチック体を成型する際の加熱加圧と同時に行ってもよい。特に、繊維強化プラスチック体を成型する際の加熱加圧の際に、金型に粗化層を持つアルミニウムシートを配置しておき、繊維強化プラスチック体の成型と同時にアルミニウムシートを表面に固着させる方法は、金型に離型剤を塗布したりする必要がなく効率的である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の効果を確認するための実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各製造例において部及び%は、特にことわらない限り、質量部及び質量%を表す。
【0048】
<実施例1>
繊維径7μm、繊維長12mmのPAN系炭素繊維50部、繊維径15μmのPEI繊維(Fiber Innovation Technology社製、繊維長12mm)50部を、鞘部に変性PET(融点110℃)、芯部にPET繊維を使用した芯鞘バインダー繊維(クラレ製 N-720)5部を水中に投入した。水の
量は、投入した繊維の重量に対し200倍となるとした(繊維スラリー濃度として0.5%)。
このスラリーに、分散剤として「エマノーン3199」(花王株式会社、商品名)を繊維100質量部に対し1質量部となるよう添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを調製した。
上記繊維スラリーから湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、180℃で加熱乾燥することにより表1に示すバインダー量で目付けが150g/mである不織布を作製した。
この不織布を、20枚積層したのち、圧力10MPa、温度280℃で加熱加圧下のち冷却し、厚さ2mmの炭素繊維強化コンポジット板を作製した。
表面粗化処理液(硫酸30質量%、塩化鉄(III)5質量%、水酸化銅1質量%、塩化マンガン4水和物1.5質量%の水溶液)を塗布したのち水洗し、1μmの表面粗化層を設けた厚さ100μmアルミニウムシートを作製した。上記、厚さ2mmの炭素繊維強化コンポジット板と1μmの表面粗化層を設けた厚さ100μmアルミニウムシートを表面粗化面が炭素繊維強化コンポジット板に接するように重ね、圧力10MPa、温度280℃で圧着し、アルミニウムシートを表面に付けた炭素繊維強化コンポジット板を作製した。
【0049】
<実施例2>
実施例1で用いた表面粗化処理液に変えて表面粗化処理液(水酸化ナトリウム10質量%、塩化亜鉛5質量%、硝酸ナトリウム5質量%、チオ硫酸ナトリウム14質量%の水溶液)を用いて1μmの表面粗化層を設けたアルミニウムシートを作製し使用した以外は実施例1と同様にアルミニウムシートを表面に付けた炭素繊維強化コンポジット板を作製した。
【0050】
<比較例1>
実施例1で用いた表面粗化アルミニウムシートの表面粗化層の厚みを2μmに替えたアルミニウムシートを作製して用いた以外は実施例1と同様にアルミニウムシートを表面に付けた炭素繊維強化コンポジット板を作製した。
【0051】
<比較例2>
実施例1で用いた表面粗化アルミニウムシートに替えて、陽極酸化により表面にアルマイト層を設けた厚さ100μmのアルミニウムシート(株式会社マルジョウアルマイト製)を用いた以外は実施例1と同様にアルミニウムシートを表面に付けた炭素繊維強化コンポジット板を作製した。
【0052】
<比較例3>
実施例1で用いた表面粗化アルミニウムシートに替えて、未処理のアルミニウムシートを用いた以外は実施例1と同様にアルミニウムシートを表面に付けた炭素繊維強化コンポジット板を作製した。
【0053】
以上の実施例1、比較例1〜2の方法で得られた各スタンパブルシートを、幅20mmの板に裁断し、JIS K7074に準拠した方法で90度剥離法によりアルミニウムシートの接着強度を測定した(剥離速度10mm/min)。測定した接着強度を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチック成型体の表面に繊維強化プラスチックに接する面が、2μm未満の厚みで化学的に粗化されているアルミニウムシートを熱圧着することにより、表面にアルミニウムシートが強固に接合し、強度、耐熱性、難燃性に優れる繊維強化樹脂成形体を実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明による表面にアルミニウムシートが強固に接合した、軽量でかつ強度、耐熱性、難燃性に優れる繊維強化樹脂成形体は、航空機材料、鉄道車両内装材、家電筐体、コンピューター筐体、家具等に利用できる。