特許第6036354号(P6036354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036354
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/18 20060101AFI20161121BHJP
   F02M 51/06 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F02M61/18 350Z
   F02M51/06 K
   F02M61/18 330Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-19061(P2013-19061)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-148955(P2014-148955A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】安部 元幸
(72)【発明者】
【氏名】小倉 清隆
(72)【発明者】
【氏名】石井 英二
(72)【発明者】
【氏名】石川 亨
(72)【発明者】
【氏名】相馬 正浩
(72)【発明者】
【氏名】江原 秀治
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−513856(JP,A)
【文献】 特開2003−184706(JP,A)
【文献】 特開2001−182641(JP,A)
【文献】 特開2008−121578(JP,A)
【文献】 実開昭59−022984(JP,U)
【文献】 特開2011−001864(JP,A)
【文献】 特開2013−002400(JP,A)
【文献】 特開2012−036865(JP,A)
【文献】 特開2010−053796(JP,A)
【文献】 特開2010−038126(JP,A)
【文献】 特表2003−529718(JP,A)
【文献】 米国特許第4971254(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/18
F02M 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体との間で隙間を形成する弁座と、前記隙間を燃料が通過し、前記隙間よりも下流に
複数個の噴射孔を備え、圧力が印加された燃料が該噴射孔から流出する燃料噴射弁におい
て、
前記弁体と前記弁座が形成する前記隙間における燃料の流速前記燃料に印加された圧
力の平方根で除した値であるシート部流速特性値を横軸に、ペネトレーションを縦軸にと
った場合に、前記シート部流速特性値が、前記シート部流速特性値と前記ペネトレーションとの関係が変化する所定の値以上となるように設定されたことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射弁であって、前記噴射孔の入口にR形状を設け、前記隙間における燃料の流速を高めたことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項1乃至2に記載の燃料噴射弁であって、前記噴射孔の総断断面積は前記隙間における流路断面積よりも大きいことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の燃料噴射弁であって、前記噴射孔の断面形状が楕円状に穿孔されたことを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料噴射弁であって、前記噴射孔の軸と前記噴射孔が穿孔されている面とが交わる位置において、該面と垂直な方向から前記噴射孔を見た時の前記噴射孔の入口形状が為す面積よりも、前記噴射孔の出口の形状を噴射孔の軸の方向から見た時の断面積の方が大きくなるように設定されたことを特徴とする燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる燃料噴射弁であって、該噴射弁の開閉が電磁力によって行われる電磁式燃料噴射弁のものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関としてガソリンなどを燃料とする、火花点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)のうち、特に燃焼室内に直接燃料を噴射する方式のエンジン(直噴エンジン)に用いる燃料噴射弁に関する。
【0003】
ガソリンエンジンでは、空気と燃料の混合比である空燃比が大きすぎたり小さすぎる場合には点火できなくなることがある。また、混合気の空燃比が理論空燃比に対して大きい場合や小さい場合には、空気が過剰であったり燃料が過剰であったりするために、窒素酸化物が生じたり、未燃燃料成分(HC)が生じる原因になることがある。このため、空燃比が所定の値になるような燃料量を噴射するように、燃料噴射量が調整されて燃料が燃焼室に供給される。
【0004】
直噴エンジンでは、燃料噴射弁の燃料噴射孔はエンジンの燃焼室に直接露出して設置されている。燃料は、燃料噴射弁によって噴霧状となって燃焼室に直接噴射される。燃料が噴射されるタイミングは、一般的には吸気行程から圧縮行程の範囲であり、ここで燃料は空気と混合して混合気を形成する。一般的なポート噴射エンジンでは、燃料は排気行程中の吸気ポートに噴射され、その後に吸気行程で混合気が燃焼室に吸入されしかる後に点火される方式であるのに対して、直噴エンジンでは噴射してから混合気を形成するまでの時間が短く、なおかつ噴射される先が燃焼室であるという差異がある。
【0005】
このため、直噴エンジンの燃焼室の内部で形成される混合気には、燃料濃度の濃淡が局所的に生じることがあり、この燃料濃度の濃淡がしばしば窒素酸化物や未燃燃料成分の生成の一因となることがある。
【0006】
特に、燃焼室に直接噴射された燃料が、ピストン冠面、シリンダ壁面、エンジンヘッド壁面やバルブなどの燃焼室壁面に到達し、付着してしまうと、燃料の濃度が壁面の付近で局所的に上昇し、これが未燃燃料成分(HC)の発生原因になってしまったり、あるいは酸素不足の状態で未燃燃料成分がすすに変質し、すすが排出される原因になってしまう場合があった。
【0007】
この問題に対応するために、燃料噴霧がバルブや燃焼室壁面に衝突し難いように、噴霧の形状を燃料の噴射点と燃焼室の形状に合わせて調整する必要がある。このため、直噴ガソリンエンジンでは噴霧形状の設計自由度が高いことが求められる。噴霧形状の設計自由度を高めるためには、噴霧を形成する噴射孔が複数あり、それぞれの噴射方向を所望の方向に設定できるマルチホールノズルが有効である。
【0008】
また、前述したような燃焼室壁面への燃料噴霧の付着を増大させてしまう一因として、燃料噴射弁から噴射された燃料噴霧の貫徹力(ペネトレーション)が大きいことが挙げられる。ペネトレーションが大きい噴霧は、噴射点から遠い位置に短時間で到達してしまう。このため、ペネトレーションが大きい噴霧は、燃料が噴射されて十分に空気と混合するよりも前に、燃焼室壁面に到達し、付着してしまう場合がある。
【0009】
特許文献1にある方法は、このような問題に対処する方法の一つである。特許文献1には、噴射される燃料の流速を減じてペネトレーションを減衰させる方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−345944号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1記載の方法では、弁体と弁座との隙間より下流の燃料通路体積が大きく、弁の開閉時間によって計量された燃料のうち、一部分は燃焼室に噴射されずに該下流の燃料通路体積部分に残留してしまう量が多くなるおそれがあった。多くの燃料が残留すると、残留した燃料が燃焼行程(膨張行程)における高温にさらされて蒸発し、周囲に空気が不足するために未燃燃料成分として排出される原因となったり、内部に残留した未燃燃料が高温によって分子量を増し、すす状の固形物として内部に溜まり易くなってしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、弁体との間で隙間を形成する弁座を備え、前記隙間を燃料が通過し、前記隙間よりも下流に複数個の噴射孔を備え、圧力が印加された燃料が該噴射孔から流出する燃料噴射弁において、
前記弁体と前記弁座が形成する前記隙間における燃料の流速が、前記燃料に印加された圧力の平方根に28を乗じた値よりも大きくなるように設定した。
【発明の効果】
【0013】
噴霧のペネトレーションが短い噴射ノズルを得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る燃料噴射弁の第一の実施例を示す断面図である。
図2】本発明に係る燃料噴射弁の断面図であって、閉弁状態にある状態の可動子近傍を拡大した図である。
図3(a)】本発明に係る燃料噴射弁の断面図であって、流速が遅い場合の開弁状態にある状態の可動子近傍を拡大した図である。
図3(b)】本発明に係る燃料噴射弁の断面図であって、流速が早い場合の開弁状態にある状態の可動子近傍を拡大した図である。
図4】本発明に係る燃料噴射弁の弁動作を表わす模式図である。
図5】本発明に係る燃料噴射弁の噴射孔を楕円にした場合の弁動作を表わす模式図及びc−c断面でc矢印から見た模式図である。
図6】シート部における流速とペネトレーションの関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係る燃料噴射弁の例を示す断面図である。図1に示した電磁式燃料噴射弁は、弁体102が上下動することによって、弁座101との隙間が開閉し、燃料の噴射と停止を制御するON/OFF弁である。
【0016】
コイル103への通電が為されていない状態では、弁体102は付勢ばね104によって弁座101の方向に付勢され、弁は閉じた状態である。コイル103に通電を開始すると、磁気コア113と可動子106の間に磁気吸引力が生じ、可動子106は弁体102と共に磁気コア113の方向に変位して弁が開く。このとき、弁座101と弁体102の間には隙間を生じ、燃料はこの隙間を通過して噴射孔107に至り、噴射孔107から噴射される。
【0017】
図2は、本発明に係る燃料噴射弁の噴射孔107の近傍を拡大した噴射ノズルの断面図である。図2に示した燃料噴射弁の噴射ノズルでは、弁体102は一部分が球面として形成され、弁座101は円錐面として形成されている。弁が閉じた状態(閉弁状態)で、弁体102は、シート部201で弁座101と接触するようになっている。シート部201では、弁が開いた状態の時に、シート面203と弁体102の表面とのなす距離が最も狭まるようになっている。弁が開いた状態(開弁状態)では、シート部201の流路面積が、その直上流、および直下流で最も小さくなるようになっている。このため、シート部201における燃料の流速は、その直上流および直下流の範囲で最も大きくなるようになっている。この流速が、シート部流速である。
【0018】
燃料はシート部201で高速になった後、噴射孔107に流入する。流入した燃料は、噴射孔107の内部で噴射孔の軸202方向の流速の成分(軸方向流速)と、噴射孔の軸202に垂直な流速成分(広がり方向流速)とを持ちながら、噴射孔107の外側へと噴射される。
【0019】
噴射された後の燃料は、霧状の噴霧となって、広がりを持ちながら進行する。ここで、ペネトレーションは一定時間後の噴霧の到達距離で定義することができる。ペネトレーションを測ることによって、噴霧が遠くまで到達し易いか、短い距離で留まり易いかを知ることができる。
【0020】
噴霧のペネトレーションは噴射孔から燃料が噴出した時の初速度と、噴出後に液滴が受ける空気抵抗の影響を強く受ける。噴出時の初速度はペネトレーションを決定づける主要因であり、噴孔の軸方向流速がこの初速度に該当する。ペネトレーションを短くするためには、この初速度が小さいことが必要になる。
【0021】
また、液滴が受ける空気抵抗も、ペネトレーションに影響を与える因子である。空気抵抗は、噴霧の広がりの影響を受ける。噴霧が広がって噴射されると、噴霧中の液滴間の距離が広がり、ある液滴の近隣の液滴が形成する空気流動の影響を受けにくくなる。近隣の液滴が形成する空気流動は、ある液滴自体の速度に近いので、近隣の液滴が形成する空気流動の影響を受ければ受けるほど、液滴と空気との相対速度は小さくなり、したがって空気抵抗は小さくなってしまう。逆に、近隣の液滴が形成する空気流動の影響が小さければ、空気抵抗は大きくなる傾向がある。このことから、噴霧が広がって液滴同士の距離が大きいと、液滴が受ける空気抵抗が大きくなり易く、したがってペネトレーションを短くし易くなる。噴霧を広げ、短いペネトレーションを得るためには、噴射孔内での広がり方向流速を大きくすればよい。
【0022】
このように、短いペネトレーションを得るためには、軸方向流速を低減し、広がり方向流速を増やすことが有効である。
【0023】
本発明では、軸方向流速の低減と広がり方向流速の増大を両立させるために、シート部201における流速の増大させる構成にした。シート部201における流速を増大させると、シート部201部分での圧力損失が大きくなり、そのままでは噴射弁の単位時間当たりの噴射量(静流)は低下する。そこで所定の静流を得るために、シート部201での流速の設計値に応じて噴射孔107の総断面積を大きくする。一般的な多孔式の燃料噴射弁では、噴射孔は複数あり、これらの総断面積が大きくなるように設計するとよい。
【0024】
シート部での流速(単位m/s)は、シート面203と弁体102の表面とが為す隙間
部の燃料通路面積をA(m2としたときに、静流Q(m3/s)をAで除すことで算出で
きる。また、本実施例のようにシート面203が円錐面状であり、この面と弁体102の
表面とが接触して弁を開閉する場合には、また、円錐面の頂角θ(゜)(シート角)と弁
のリフト量Y(m)、およびシート面203と弁体102との接触位置が形成する円径D
s(m)(シート径)を用いて、シート部流速vを次の(1)式のように計算できる。
v=Q/{Ds・Y・π・Sin(θ/2)} ・・・(1)
この関係は、シート面が本実施例のような円錐面でない場合には、弁体102の接触部と
接する面と、噴射弁の軸が為す角度の二倍をθとして用いて計算することもできる。また
、弁体102とシート面203との接触部の円が複数ある場合や、円が幅を持っている場
合には、最も小さい円の値を用いることで、シート部に生じる流速の最も大きい値を評価
できるようになる。
【0025】
このようにしして計算されるシート部201での流速が大きく、噴射孔107の断面積が大きい場合には、静流を噴射孔の総断面積で除した値で評価できる噴射孔107における平均軸方向流速を小さくすることができる。この平均軸方向流速は、噴射される燃料の初速であるから、平均軸方向流速が小さいことによって短いペネトレーションを得られる。
【0026】
また、このようにシート部201における流速が大きく、噴孔107出口での噴射初速が遅い場合には、燃料の流れはシート部201から噴孔107へ向かう減速流れとなる。すなわち、シート部201における流速よりも噴孔107における流速の方が小さい状態になる。一般的に、減速流れでの流れは不安定になり易い。このため、減速流れによって噴孔107での流れは乱れの成分を多く持ちやすくなり、この乱れ成分によって噴孔内の流速分布は一様化されやすくなる。すなわち、図3(b)に示す流速分布のように、噴孔内壁面301bから噴孔中心軸202bに至る位置までの噴孔軸方向流速の流速分布302bが、噴孔内壁面301bの近傍で勾配が大きく噴孔中心軸202bの周囲では平滑化され易い。図3(a)はシート部201での流速303aが遅い場合の例であり、シート部201での流速303bが速い場合を示した図3(b)と比較して、流速の分布302aは、噴孔内壁301aの近傍で勾配が緩く、最大流速が大きい不均一な流速分布となり易い。
【0027】
図3(b)のように平滑化された流速分布では、速い流速と遅い流速の差が小さくなり、噴射孔からの単位時間当たりの流量が一定の時には、平滑化されない場合に比べて、速い流速になる部分を減らせたり、流速の最大値を減らす効果が得られる。噴孔内の流速分布に置いて、速い流速領域や流速の最大値が大きいことは、ペネトレーションの増大の原因となる。すなわち、速い流速領域や流速の最大値を小さくできる平滑化された流速分布を得ることで、ペネトレーションは短縮できる。このように、本発明によれば、シート部流速を増大させることで、噴射孔内での流速分布を平滑化し、ペネトレーションが短縮される。
【0028】
また、シート部201における流速ベクトルは、噴孔軸方向とは異なる方向を向いている。このため、シート部201における流速の増大は、噴孔107の入口部において、噴射孔の軸202a、202bの方向とは異なる方向成分の流速、すなわち広がり方向の流速成分を増大させる効果がある。広がり方向の流速成分が増大することで、噴射された燃料は分散し、噴霧液滴間の距離が大きくなり、したがって雰囲気気体による抵抗が大きくなって、ペネトレーションが抑制されるようになる。
【0029】
噴射孔に流入した流速は、噴射孔の内部で整流されて広がり方向の速度成分が失われてしまうと考えられるが、広がり方向成分の流速が十分な状態で流入させられれば、広がり方向成分の流速を持たせたまま流出させられる。
【0030】
特に、上述の減速流れによる噴孔107での乱れ成分の増加や、噴孔107の出口での広がり方向成分の流速は、噴孔107の入口部分での流れの乱流への遷移が起こることでより助長される。
【0031】
すなわち、噴孔入口で乱流への遷移が起こると、噴孔107内での乱れ成分が増加して流速の分布が平滑化され、最大流速が小さくなる。また、乱流への遷移によって噴孔出口における乱れ成分によって流速の広がり方向成分が大きくなる。
【0032】
この結果、シート部201における流速とペネトレーションとの関係は図6のようになり、特に流速が速い領域で急激にペネトレーションが短縮される領域が現れる。横軸は、シート部201における流速[m/s]を燃料圧力[Pa]の平方根で除すことで正規化した値(シート部流速特性値[(m/kg)1/2)であり、縦軸はある燃料圧力でのペネトレーションである。図6のように、シート部流速特性値が28を超えると、燃料圧力に依らずペネトレーションを急激に減少させられる。
【0033】
すなわち、シート部201の隙間における燃料の流速がメートル毎秒で表わされる時、燃料圧力の平方根に28を乗じた値よりも流速が大きくなるように設定されることで、ペネトレーションが短いノズルを得ることができる。
【0034】
このようにシート部201での流速を高めるためには、シート部201の流体通路としての断面積Aが小さくなるように、設定すると良い。断面積Aは、(1)式に現れる分母であり、(2)式のように表わせる。
A=Ds・Y・π・Sin(θ/2 ・・・(2)
すなわち、弁体102の最大リフト量Yを小さくしたり、シート径Dsを小さくしたり、
シート角θを小さくすることによって、シート部201での流速を高めることができる。
【0035】
なお、このようにシート部201の隙間を小さくするのみでは、シート部201での圧力損失が大きくなり、所望の単位時間当たりの噴射量(静流)を得られない場合がある。
【0036】
このように、シート部201での流速を速めた場合でも所望の静流を得るためには、噴射孔107での圧力損失が小さくなるように設定することが有効である。
【0037】
例えば、噴射孔107での圧力損失が小さくなるように、図4に示すように噴射孔107’の入口部分にR形状401を付与することは、所望の静流を得るために有効である。図4のような噴孔107’入口部分のR形状401によって、噴孔107’入口における流れの剥離が抑制され、噴射孔の有効断面積が広がって噴射孔の圧力損失が低減される。この結果、より高いシート部201での流速を設定しても、所望の静流を得ることができるようになる。また、噴孔107’入口Rによる流れの剥離の抑制効果によって、噴孔107’内の流速の均一性が増し、最大流速を小さくすることができ、したがってペネトレーション短縮に有効である。更に、この流れの剥離抑制による噴孔107’内の流速均一性の向上によって、遅い流速のまま排出される燃料が減り、これらの流速の低い燃料が形成する粗大粒を抑制し、微粒化を向上させる効果も得られる。
【0038】
あるいは、噴孔107の径を大きく設定しても良い。噴孔107の径を大きく設定した場合にも、噴孔107による圧力損失を抑制でき、シート部201での流速を速めた場合にも所望の静流を得やすくなる。特に、複数ある噴孔107の総断面積が、シート部201における燃料通路断面積A((2)式)よりも大きく設定されているとよい。このような燃料通路断面積の設定になっている場合には、シート部201から噴孔107に向かう流れは減速流れとなり、流れの乱れを誘起し易くなるばかりか、噴孔107における平均流速自体を低減することができるため、ペネトレーションを短縮できるようになる。
【0039】
あるいは、所望の静流を得ながらペネトレーションを短縮する方法として、図5に示すように、噴射孔507の断面を楕円にする方法がある。断面形状が楕円などの非円形の噴射孔507を穿孔する場合には、前記噴射孔507が穿孔されている面501と前記噴射孔の軸502が交わる点において、前記面501と垂直な方向Aから眺めた時の噴射孔の入口形状503が為す面積が、楕円の噴射孔507を噴射孔の軸方向bから眺めた時の噴射孔の出口形状504が為す面積よりも小さくなるように噴孔の断面形状を設定すると良い。このように噴孔断面形状を設定することにより、噴射孔入口の流入部が弁体との間の隙間として形成する入口通路面積が、噴孔出口面積よりも小さくなる。このように楕円噴孔を設定した時の入口形状503は出口形状504よりもより真円に近くなる。すなわち、このような楕円噴射孔の穿孔により、噴孔入口から噴孔出口に向かって断面積が拡大する効果を得ることができ、したがって、噴孔内部で噴孔出口に向かって流れが減速する効果を得られるようになる。このことによって、噴孔出口部での流速が抑制され、ペネトレーションを抑制できる。
【0040】
また、噴射孔の断面が楕円になるように設定した場合の長径短径の軸方向の設定は、楕円の長径軸を弁体の軸芯508と垂直な面に投影した時に、この投影された長径軸506が弁体の軸芯508からずらされているようにするとよい。(図5では投影された長径軸506が弁体の軸芯508からずらされており、この投影面上での噴孔出口中心oと弁体軸芯508を結んだ線分aと長径軸506のずれ量θは90゜である。)このように噴射孔507の断面を楕円にし、特定の方向にのみ断面積が増えるようにすることで、シート部201での流速が速い場合でも所望の流速を得ることができるようになる。また、前記の投影された長径軸が弁体の軸芯508からずらされて設定されることにより、噴孔507の断面形状のうち最も長い部分の方向が、シート部201からの流入方向と一致することを避けられる。断面形状の長手部位の方向がシート部201からの流入方向と一致している場合には、大きな剥離領域が形成されて噴射孔断面積が有効に使われない場合があるが、噴孔断面形状の長手方向がシート部201からの流入方向からずらされていることによって、大きな剥離領域の形成を避けられるとともに、噴孔507の断面内で噴孔軸と直交する方向の流速成分が増えるようになり、噴孔507内での流速分布を均一に保ちやすくなり、かつ噴孔507出口での広がり方向流速成分を増大させられるようになる。
【0041】
このように、本発明によれば、シート部201における流速を増大させることでペネトレーションを短縮できると共に、適切な噴孔形状を選定することによって所望の整流を得ることもできる。
【符号の説明】
【0042】
101…弁座
102…弁体
103…ガイド部材
104…筒状部材
105…ガイド部材
106…可動子
108…磁気コア
109…コイル
110…付勢ばね
111…コネクタ
112…燃料入口
201…シート部
202、202a、202b…噴射孔の軸
203…シート面
301a、301b…噴射孔内壁
302a、302b…流速分布
303a、303b…シート部流速
401…入口部R
501…シート面
502…噴射孔の軸
503…噴射孔の入口形状
504…噴射孔の出口形状
506…長径軸
507…噴射孔
508…弁体の軸芯
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6