(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているIGZOからなる導電性酸化物は、インジウム、ガリウムまたは亜鉛などのレアメタルを含んでいる。このようなレアメタルは供給量が不安定であるため、導電性酸化物を安定して得るためにはレアメタルの含有量をより少なくすることが必要となる。これに対して、ガリウムに代えてアルミニウムを含有させた導電性酸化物についても提案されている。しかし、この導電性酸化物では、スパッタリングなどにより半導体酸化物膜を形成する速度がIGZOからなる導電性酸化物に比べて低下するという問題がある。したがって、導電性酸化物の安定供給や液晶表示装置の生産性向上などの観点から、レアメタルの含有量がより少なく、かつ半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することが可能な導電性酸化物が必要となる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、レアメタルの含有量がより少なく、かつ半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することが可能な導電性酸化物および当該導電性酸化物を用いて形成される半導体酸化物膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の局面に従った導電性酸化物は、InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有する導電性酸化物である。上記導電性酸化物は、インジウムと、アルミニウムと、2価の金属との複合酸化物からなっている。上記結晶相におけるインジウムに対するアルミニウムの原子濃度比は1より大きく1.2以下となっている。また、上記結晶相におけるインジウムに対する上記2価の金属の原子濃度比は1より大きく1.2以下となっている。
【0008】
本発明者は、導電性酸化物に含まれるレアメタルの量を少なくし、かつ導電性酸化物を用いて半導体酸化物膜を形成する際の速度の低下を抑制するための方策について詳細な検討を行った。その結果、インジウムとガリウムと亜鉛との複合酸化物からなる従来の導電性酸化物においてガリウムに代えてアルミニウムを含ませた場合においても、結晶相における金属原子の濃度を特定の範囲とすることにより半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制可能であることを見出し、本発明に想到した。
【0009】
本発明の一の局面に従った導電性酸化物は、インジウムとアルミニウムと2価の金属との複合酸化物からなっているため、インジウムとガリウムと亜鉛との複合酸化物からなる従来の導電性酸化物に比べてレアメタルの含有量がより少なくなっている。また、上記導電性酸化物は、InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有し、かつ上記結晶相におけるインジウムに対するアルミニウムおよび上記2価の金属の原子濃度比がそれぞれ1より大きく1.2以下となっている。そのため、インジウムとアルミニウムと亜鉛とが同比率で存在する結晶相を有する従来の導電性酸化物に比べて、半導体酸化物膜の形成速度をより向上させることができる。
【0010】
このことをより詳細に説明すると、まず、上記原子濃度比のそれぞれが1より大きくなっているため、インジウムがアルミニウムおよび上記2価の金属に対して不足した状態、またはアルミニウムおよび上記2価の金属がインジウムに対して過剰に存在した状態となっている。このように、インジウムがアルミニウムおよび上記2価の金属に対して相対的に少ない状態とすることにより、半導体酸化物膜を形成する際の速度の低下が抑制される。一方、上記原子濃度比のそれぞれが1.2以下となっているため、上記導電性酸化物中において上記結晶相が占める割合が低下することが抑制されている。上記結晶相は、インジウムとアルミニウムと上記2価の金属とが層状に配置された構造を有しており、半導体酸化物膜の形成速度をより向上させることが可能な結晶構造である。そのため、上記結晶相が占める割合の低下を抑制することにより、半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することができる。このような理由から、上記導電性酸化物では、インジウムとアルミニウムと上記2価の金属とが同比率で存在した結晶相を有する従来の導電性酸化物に比べて、半導体酸化物膜の形成速度をより向上させることができる。したがって、本発明の一の局面に従った導電性酸化物によれば、レアメタルの含有量がより少なく、かつ半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することが可能な導電性酸化物を提供することができる。また、上記導電性酸化物では、上記原子濃度比のそれぞれが1.1以上1.2以下であることがより好ましい。
【0011】
上記導電性酸化物において、上記2価の金属は亜鉛であってもよい。また、上記2価の金属はマグネシウムであってもよい。このように上記導電性酸化物においては、上記2価の金属として種々の金属を採用することができる。
【0012】
本発明の他の局面に従った導電性酸化物は、InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有する導電性酸化物である。上記導電性酸化物は、インジウムと、アルミニウムおよび3価の金属と、一種または複数種の2価の金属との複合酸化物からなっている。上記結晶相におけるインジウムに対するアルミニウムおよび上記3価の金属の合計の原子濃度比は1より大きく1.2以下となっている。また、上記結晶相におけるインジウムに対する上記2価の金属の合計の原子濃度比は1より大きく1.2以下となっている。
【0013】
本発明の他の局面に従った導電性酸化物は、インジウムと、アルミニウムおよび3価の金属と、一種または複数種の2価の金属との複合酸化物からなっているため、インジウムとガリウムと亜鉛との複合酸化物からなる従来の導電性酸化物に比べてレアメタルの含有量がより少なくなっている。また、上記導電性酸化物は、InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有し、かつ上記結晶相におけるインジウムに対するアルミニウムおよび上記3価の金属の合計の原子濃度、ならびに上記2価の金属の合計の原子濃度がそれぞれ1より大きく1.2以下となっている。そのため、上記導電性酸化物では、上記本発明の一の局面に従った導電性酸化物と同様の理由から、インジウムとアルミニウムと2価の金属とが同比率で存在した結晶相を有する従来の導電性酸化物に比べて、半導体酸化物膜の形成速度をより向上させることができる。したがって、本発明の他の局面に従った導電性酸化物によれば、レアメタルの含有量がより少なく、かつ半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することが可能な導電性酸化物を提供することができる。
【0014】
上記導電性酸化物において、上記3価の金属はガリウムであり、かつ上記2価の金属は亜鉛およびマグネシウムであってもよい。このように上記導電性酸化物においては、上記3価の金属および2価の金属として種々の金属を採用することができる。
【0015】
上記導電性酸化物において、上記結晶相の面積の割合は95%以上100%以下であってもよい。これにより、半導体酸化物の形成速度をさらに向上させることができる。ここで、上記結晶相の面積の割合とは、上記導電性酸化物を任意の面で切断した場合に当該切断面において上記結晶相が占める面積の割合を意味する
本発明に従った半導体酸化物膜は、半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することが可能な上記本発明に従った導電性酸化物を用いて形成される。したがって、本発明に従った半導体酸化物膜によれば、形成速度の低下が抑制された半導体酸化物膜を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明に従った導電性酸化物によれば、レアメタルの含有量がより少なく、かつ半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することが可能な導電性酸化物を提供することができる。また、本発明に従った半導体酸化物膜によれば、形成速度の低下が抑制された半導体酸化物膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
(実施の形態1)
まず、本発明の一の実施の形態である実施の形態1に係る導電性酸化物および半導体酸化物膜について説明する。本実施の形態に係る導電性酸化物は、結晶質InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有している。上記導電性酸化物は、インジウム(In)と、アルミニウム(Al)と、2価の金属である亜鉛(Zn)との複合酸化物(InAlZnO
4)からなっている。このように上記導電性酸化物は、In、ガリウム(Ga)およびZnの複合酸化物(IGZO)からなる従来の導電性酸化物のGaに代えてAlを含むものである。そのため、上記導電性酸化物では、従来の導電性酸化物に比べてレアメタルであるIn、GaおよびZnの合計濃度がより小さくなっている。
【0020】
上記基本構造は菱面体構造であって、In原子が占有すべきInサイトと、Al原子などの3価の金属が占有すべきAlサイトと、Zn原子などの2価の金属が占有すべきZnサイトと、酸素(O)原子が占有すべきOサイトとを有している。上記導電性酸化物では、Inサイト、Alサイト、ZnサイトおよびOサイトは、In原子、Al原子、Zn原子およびO原子によりそれぞれ占有されている。なお、上記基本構造は、PDF(Powder Diffraction File)のNo.40−0258により明らかにされている構造である。
【0021】
上記結晶相においては、Inに対するAlの原子濃度比は1より大きく1.2以下となり、かつInに対するZnの原子濃度比は1より大きく1.2以下となっている。すなわち、上記結晶相においては、InがAlおよびZnに対して不足した状態、またはAlおよびZnがInに対して過剰に存在した状態となっている。InがAlおよびZnに対して不足した状態では、上記基本構造のInサイトにおいてIn原子が欠損した状態となっている。一方、AlおよびZnがInに対して過剰に存在した状態では、AlサイトおよびZnサイトを占有するAl原子およびZn原子以外の原子が結晶格子間に侵入し、またはInサイトを占有するIn原子を置換した状態となっている。
【0022】
上記導電性酸化物におけるIn、AlおよびZnなどの金属原子の濃度(単位:atom%)は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析により定量することができる。そして、Inに対するAlおよびZnのそれぞれの原子濃度比は、定量されたAlおよびZnの原子濃度をInの原子濃度によって規格化することにより算出することができる。なお、金属原子の濃度はたとえば有効数字3桁で定量され、原子濃度比はその3桁目を四捨五入することにより有効数字2桁で評価される。
【0023】
上記導電性酸化物は、たとえばスパッタリングのターゲットに好ましく用いることができる。ここで、ターゲットとは、スパッタリングにより成膜する材料をプレート状に加工したものや、プレート状に加工された材料をバッキングプレート(ターゲットを貼り付けるための裏板)に貼り付けたものの総称である。バッキングプレートは、たとえば無酸素銅、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、モリブデンあるいはチタンなどの素材を用いて作製することができる。また、ターゲットの形状は特に限定されるものではなく、たとえば径が1cmの円板形状(平板丸型)であってもよいし、大型液晶表示装置用のスパッタリングターゲットのように径が2mを超える角型(平板矩形)であってもよいし、あるいは長さが30cm、直径が8cmの円筒形状であってもよい。そして、本実施の形態に係る半導体酸化物膜は、上記導電性酸化物をターゲットとして用いたスパッタリングにより形成される。
【0024】
次に、本実施の形態に係る導電性酸化物の製造方法について説明する。本実施の形態に係る導電性酸化物の製造方法では、以下に説明するようにして上記本実施の形態に係る導電性酸化物が製造される。
図1を参照して、まず、工程(S10)として、原料粉末準備工程が実施される。この工程(S10)では、原料粉末としてたとえばIn
2O
3粉末、Al
2O
3粉末およびZnO粉末が所定量準備される。そして、準備された原料粉末を混合することによりIn
2O
3−Al
2O
3−ZnO混合物が得られる。このとき、In
2O
3−Al
2O
3−ZnO混合物におけるInに対するAlの原子濃度比が1より大きく1.2以下となり、かつInに対するZnの原子濃度比が1より大きく1.2以下となるようにそれぞれの原料粉末が準備され、混合される。
【0025】
次に、工程(S20)として、成形工程が実施される。この工程(S20)では、上記工程(S10)において得られた混合物に対してプレス成形などの成形加工が施される。これにより、上記混合物が所望の形状に成形された成形体が得られる。
【0026】
次に、工程(S30)として、焼結工程が実施される。この工程(S30)では、上記工程(S20)において得られた成形体が大気雰囲気中において所定温度で加熱される。これにより、上記原料粉末の焼結体である導電性酸化物が形成される。以上のように工程(S10)〜(S30)が実施されることにより、上記本実施の形態に係る導電性酸化物が製造され、本実施の形態に係る導電性酸化物の製造方法が完了する。
【0027】
以上のように、本実施の形態に係る導電性酸化物は、InとAlとZnとの複合酸化物(InAlO
4)からなっているため、InとGaとZnとの複合酸化物(IGZO)からなる従来の導電性酸化物に比べてレアメタルの含有量がより少なくなっている。また、上記導電性酸化物は、InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有し、かつ上記結晶相におけるInに対するAlおよびZnの原子濃度比がそれぞれ1より大きく1.2以下となっている。そのため、InとAlとZnとが同比率で存在する結晶相を有する従来の導電性酸化物に比べて、スパッタリングのターゲットとして用いた場合に当該スパッタリングによる半導体酸化物膜の形成速度をより向上させることができる。
【0028】
このことをより詳細に説明すると、まず、上記原子濃度比のそれぞれが1より大きくなっているため、InがAlおよびZnに対して不足した状態、またはAlおよびZnがInに対して過剰に存在した状態となっている。このように、InがAlおよびZnに対して相対的に少ない状態とすることにより、スパッタリングによる半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することができる。一方、上記原子濃度比のそれぞれが1.2以下となっているため、上記導電性酸化物中において上記結晶相が占める割合が低下することが抑制されている。上記結晶相は、InとAlとZnとが層状に配置された構造を有しているため、In、AlまたはZnの酸化物やこれらの複合酸化物からなる結晶相(たとえばIn
2O
3、Al
2O
3、ZnAl
2O
4など)に比べて、希ガスイオンによるスパッタリング率が高い(つまり、スパッタリングされ易い)結晶構造である。そのため、上記結晶相が占める割合の低下を抑制することにより、スパッタリング速度の低下を抑制することができる。このような理由から、上記導電性酸化物では、InとAlとZnとが同比率で存在する結晶相を有する従来の導電性酸化物に比べて、スパッタリングによる半導体酸化物膜の形成速度をより向上させることができる。したがって、本実施の形態に係る導電性酸化物によれば、レアメタルの含有量をより少なくし、かつスパッタリングのターゲットとして用いた場合に半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することできる。また、本実施の形態に係る半導体酸化物膜は、上記本実施の形態に係る導電性酸化物をターゲットとして用いたスパッタリングにより形成される。したがって、本実施の形態に係る半導体酸化物膜は、スパッタリングによる形成速度の低下が抑制された半導体酸化物膜となっている。
【0029】
また、上記導電性酸化物は、Inと、Alと、Znとの複合酸化物(InAlZnO
4)からなるものに限定されず、たとえばInと、Alと、2価の金属であるMgとの複合酸化物(InAlMgO
4)からなっていてもよい。この場合、上記基本構造のZnサイトはMg原子により占有され、また上記結晶相におけるInに対するMgの原子濃度比は、Znと同様に1より大きく1.2以下となっている。
【0030】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2に係る導電性酸化物および半導体酸化物膜について説明する。本実施の形態に係る導電性酸化物は、上記実施の形態1と同様に、結晶質InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有している。そして、本実施の形態に係る導電性酸化物は、Inと、Alおよび3価の金属であるガリウム(Ga)と、複数種の2価の金属であるZnおよびマグネシウム(Mg)との複合酸化物からなっている。
【0031】
上記基本構造は、上記実施の形態1と同様にInサイトと、Alサイトと、Znサイトと、Oサイトとを有している。本実施の形態では、Alサイトは3価の金属であるAlおよびGaにより占有され、またZnサイトは2価の金属であるZnおよびMgにより占有されている。Alサイトを占有する3価の金属としては、Ga以外にもたとえばタリウム(Tl)などを採用することができる。また、Znサイトを占有する2価の金属としては、ZnおよびMg以外にもたとえばカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、カドミウム(Cd)または水銀(Hg)などを採用することができる。また、上記導電性酸化物を構成する2価の金属は複数種であってもよいが、一種であってもよい。
【0032】
上記結晶相においては、Inに対するAlおよびGaの合計の原子濃度比は1より大きく1.2以下となり、かつInに対するZnおよびMgの合計の原子濃度比は1より大きく1.2以下となっている。すなわち、上記結晶相においては、上記実施の形態1と同様に、Inが3価の金属(Al、Ga)および2価の金属(Zn、Mg)に対して不足した状態、または3価の金属(Al、Ga)および2価の金属(Zn、Mg)がInに対して過剰に存在した状態となっている。また、上記導電性酸化物は、上記実施の形態1と同様にスパッタリングのターゲットに好ましく用いることができる。そして、本実施の形態に係る半導体酸化物膜は、上記導電性酸化物をターゲットとして用いたスパッタリングにより形成される。
【0033】
以上のように、本実施の形態に係る導電性酸化物は、Inと、AlおよびGaと、ZnおよびMgとの複合酸化物からなっているため、InとGaとZnとの複合酸化物からなる従来の導電性酸化物に比べてレアメタルの含有量がより少なくなっている。また、上記導電性酸化物は、InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相を有し、かつ上記結晶相におけるInに対するAlおよびGaの合計の原子濃度、ならびにZnおよびMgの合計の原子濃度がそれぞれ1より大きく1.2以下となっている。そのため、上記導電性酸化物では、上記実施の形態1の場合と同様の理由から、InとAlとZnとが同比率で存在した結晶相を有する従来の導電性酸化物に比べて、半導体酸化物膜の形成速度をより向上させることができる。したがって、本実施の形態に係る導電性酸化物によれば、上記実施の形態1の場合と同様に、レアメタルの含有量をより少なくし、かつスパッタリングのターゲットとして用いた場合に半導体酸化物膜の形成速度の低下を抑制することできる。
【0034】
また、上記実施の形態1および2に係る導電性酸化物において、上記結晶相の割合は、90%以上100%以下であることが好ましい。これにより、上記導電性酸化物を用いて半導体酸化物膜を形成する際の形成速度をより向上させることができる。また、上記結晶相の割合は、95%以上100%以下であることがさらに好ましい。一般に、焼結体である導電性酸化物では粒界に異なる結晶相や非晶質相が不可避的に存在している。そのため、半導体酸化物膜を形成する際、導電性酸化物中に異なる結晶相が混在することに起因して半導体酸化物膜の組成が変化するという問題がある。これに対して、上記導電性酸化物においては上記結晶相の割合を95%以上100%以下にまで高めることにより、半導体酸化物膜における組成の変化を抑制することができる。
【0035】
また、上記導電性酸化物における結晶相の割合は、たとえば透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)およびこれに付帯するエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectrometry)を用いて測定することができる。具体的には、まず、TEMによる透過像とEDXによる元素の分布像により、導電性酸化物の主成分(InAlZnO
4)と異なる組成(In
2O
3、Al
2O
3、ZnOなど)を有する粒子を抽出する。次に、当該異なる組成の粒子に関して透過電子線回折を行い、結晶構造の同定を行う。そして、同定された結晶構造が導電性酸化物の主成分の結晶構造である上記基本構造と異なる場合には、当該異なる組成の粒子を抽出し割合を算出する。そして、上記導電性酸化物全体から当該異なる組成の粒子の割合を減じて得た割合を上記結晶相の割合とする。なお、これらの割合はTEM像により算出されるものであるため、占有面積による割合を意味する。
【0036】
このように、上記導電性酸化物中に上記主成分(InAlZnO
4)からなる結晶相以外に異なる組成からなる結晶相が含まれる場合において、Inに対するAlおよびGaの合計の原子濃度比、ならびにZnおよびMgの合計の原子濃度比を確認する方法を説明する。
【0037】
まず、上述のように、TEMおよびこれに付帯するEDXを用いて上記主成分からなる結晶相、および上記主成分と異なる組成からなる結晶相の割合を算出する。次に、EDXを用いてIn、AlおよびZnを正確に定量することができるようにするため、上記結晶相の割合をICP発光分析による定量値を用いて補正する。次に、SEM(Scanning Electron Microscope)−EDXまたはTEM−EDXにより、上記主成分からなる結晶相中のIn、AlおよびZnを定量する。そして、定量されたAlおよびZnの原子濃度をInの原子濃度によって規格化することにより、Inに対するAlおよびZnのそれぞれの原子濃度比を算出することができる。なお、各金属原子の濃度はたとえば有効数字3桁で定量され、原子濃度比はその3桁目を四捨五入することにより有効数字2桁で評価される。このようにして、上記原子濃度比を算出することにより、これらの値が1より大きく1.2以下であることを確認することができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1〜4)
まず、In
2O
3粉末(純度:99.99%、平均粒径:1μm)と、Al
2O
3粉末(純度:99.99%、平均粒径:1μm)と、ZnO粉末(純度:99.99%、平均粒径:1μm)とを所定量準備した。そして、準備した粉末をボールミル装置に入れ、水を分散溶媒として用いて6時間粉砕混合した。その後、スプレードライヤを用いて水を揮発させることによりIn
2O
3−Al
2O
3−ZnO混合物を得た。このとき、In
2O
3−Al
2O
3−ZnO混合物におけるInに対するAlの原子濃度比が1より大きく1.2以下となり、かつInに対するZnの原子濃度比が1より大きく1.2以下となるように原料粉末を準備し、これらを混合した。
【0039】
次に、上記混合物をプレスして成形した後、さらに冷間等方圧プレス(CIP:Cold Isostatic Press)によって加圧成形した。これにより、直径が100mmで厚さが約9mmの円板状の成形体を作製した。次に、作製した成形体を大気雰囲気中において1500℃以上1600℃以下の温度で焼結させることにより導電性酸化物を作製した。
(実施例5〜8)
上記実施例1〜4のZnO粉末に代えてMgO粉末を準備して原料粉末を混合することにより、In
2O
3−Al
2O
3−MgO混合物を得た。その他の条件は上記実施例1〜4と同様とした。
(実施例9)
上記実施例1〜4においてIn
2O
3粉末、Al
2O
3粉末およびZnO粉末に加えて、Ga
2O
3粉末およびMgO粉末をさらに準備した。そして、準備した粉末を上記実施例1〜4と同様に混合した。このとき、混合物においてInに対するAlおよびGaの合計の原子濃度比が1より大きく1.2以下となり、かつInに対するZnおよびMgの合計の原子濃度比が1より大きく1.2以下となるように原料粉末を準備し、これらを混合した。
(比較例1)
上記実施例1〜4のIn
2O
3−Al
2O
3−ZnO混合物におけるInに対するAlおよびZnのそれぞれの原子濃度比が1となるように原料粉末を準備し、これらを混合した。その他の条件は上記実施例1〜4と同様とした。
(比較例2)
上記実施例5〜8のIn
2O
3−Al
2O
3−MgO混合物におけるInに対するAlおよびMgのそれぞれの原子濃度比が1となるように原料粉末を準備し、これらを混合した。その他の条件は上記実施例5〜8と同様とした。
<ICP発光分析>
各実施例および比較例の導電性酸化物におけるIn、Al、Ga、ZnおよびMgの原子濃度(atom%)をICP発光分析により測定した。そして、測定した各原子濃度によりInに対するAl、Ga、ZnおよびMgの原子濃度比をそれぞれ算出した。
<エネルギー分散型X線分析>
各実施例および比較例の導電性酸化物を任意の面において切断し、当該切断面を分析型走査電子顕微鏡を用いてエネルギー分散型X線分析した。これにより、導電性酸化物の断面において、結晶質InAlZnO
4と同じ結晶構造である基本構造からなる結晶相が占有する面積の割合を算出した。
<半導体酸化物膜の形成速度の評価>
各実施例および比較例の導電性酸化物をターゲットとして用いて、以下に説明するように直流(DC:Direct Current)マグネトロンスパッタ法により半導体酸化物膜を形成した。そして、半導体酸化膜を形成する際の速度を評価した。
【0040】
まず、各実施例および比較例の導電性酸化物を直径3インチ(76.2mm)、厚さ5mmのターゲットに加工した。次に、3インチの直径を有する面がスパッタ面となるように当該ターゲットをスパッタリング装置内に配置した。次に、成膜基板である石英ガラス基板(50mm×50mm×0.5mm)の中心部に樹脂を接着し、当該成膜基板をスパッタリング装置内の水冷された基板ホルダに配置した。このとき、ターゲットと成膜基板との距離は40mmとした。次に、スパッタリング装置内を1×10
−4Pa程度にまで真空引きした。次に、成膜基板とターゲットとの間にシャッターを入れた状態で、アルゴンガスを成膜室内に導入し、成膜室内の圧力を0.5Paとした。次に、ターゲットに120Wの直流電力を印加してスパッタリング放電することにより、10分間ターゲット表面のクリーニングを行った。次に、アルゴンガスを成膜室内に導入し、成膜室内の圧力を0.1Paとした。次に、ターゲットに120Wの直流電力を印加し、成膜基板とターゲットとの間のシャッターを外して30分間成膜した。なお、基板ホルダは水冷するのみで電圧は印加せず、また回転もさせなかった。次に、成膜基板を成膜室から取り出し、中心部に接着した樹脂を剥した。これにより、半導体酸化物膜が形成されていない領域を露出させ、半導体酸化物膜が形成された領域と半導体酸化物膜が形成されていない領域との段差(半導体酸化物膜の膜厚)を触診式の表面粗さ計により測定した。そして、半導体酸化物膜の膜厚の値(nm)を成膜時間(s)で除することにより半導体酸化物膜の形成速度を算出した。各実施例および比較例の導電性酸化物の組成、結晶相の種類および結晶相の割合、ならびに半導体酸化物膜の形成速度を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜9の導電性酸化物では比較例1および2の導電性酸化物に比べて半導体酸化物膜の形成速度が高くなった。これにより、上記結晶相におけるInに対する3価の金属(Al、Ga)の合計の原子濃度比を1より大きく1.2以下とし、かつInに対する2価の金属(Zn、Mg)の合計の原子濃度比を1より大きく1.2以下とすることで半導体酸化物膜の形成速度が向上することが明らかとなった。また、実施例1〜4および実施例5〜8のように、上記結晶相の割合が高くなるに従い半導体酸化物膜の形成速度が高くなることも明らかとなった。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。