(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るボイラシステムの好ましい実施形態(第1〜第3実施形態)について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
まず、本発明に係るボイラシステムの第1実施形態について、
図1〜
図3を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係るボイラシステム1の概略構成図である。
【0014】
本実施形態に係るボイラシステム1は、
図1に示すように、5台のボイラ20を含むボイラ群2と、ボイラ20において生成された蒸気を集合させる蒸気ヘッダ6と、蒸気ヘッダ6の内部の圧力を測定する蒸気圧センサ7と、ボイラ群2の燃焼状態を制御するボイラ制御装置3と、を備える。
【0015】
ボイラ群2は、5台のボイラ20を含んで構成され、負荷機器としての蒸気使用設備18に供給する蒸気を発生する。各ボイラ20は、燃料の燃焼量に応じた蒸気(熱エネルギー)を発生する。すなわち、本実施形態のボイラ20は、蒸気ボイラである。
【0016】
ボイラ20は、
図1に示すように、燃焼が行われるボイラ本体21と、ボイラ20の燃焼状態を制御するローカル制御部22と、を備える。
【0017】
ローカル制御部22は、蒸気消費量に応じてボイラ20の燃焼状態を変更させる。具体的には、ローカル制御部22は、信号線16を介してボイラ制御装置3から送信される台数制御信号に基づいて、ボイラ20の燃焼状態を制御する。台数制御信号については後述する。また、ローカル制御部22は、ボイラ制御装置3で用いられる信号を、信号線16を介してボイラ制御装置3に送信する。ボイラ制御装置3で用いられる信号としては、ボイラ20の実際の燃焼状態、及びその他のデータ等が挙げられる。
【0018】
蒸気ヘッダ6は、蒸気管11を介してボイラ群2を構成する複数のボイラ20に接続されている。蒸気ヘッダ6の下流側は、蒸気管12を介して蒸気使用設備18に接続されている。
【0019】
蒸気ヘッダ6は、ボイラ群2で生成された蒸気を集合させて貯留する。蒸気ヘッダ6は、燃焼させる1又は複数のボイラ20の相互の圧力差及び圧力変動を調整し、蒸気圧力値が一定(目標蒸気圧力値)に調整された蒸気を蒸気使用設備18に供給する。
【0020】
蒸気圧センサ7は、信号線13を介して、ボイラ制御装置3に電気的に接続されている。蒸気圧センサ7は、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値(熱エネルギー出力値)を測定し、その蒸気圧力値に対応する蒸気圧信号を、信号線13を介してボイラ制御装置3に送信する。
【0021】
ボイラ制御装置3は、信号線16を介して、複数のボイラ20と電気的に接続されている。ボイラ制御装置3は、蒸気圧センサ7により測定される蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値に基づいて、各ボイラ20の燃焼状態(燃焼量)を制御する。ボイラ制御装置3については、後述する。
【0022】
以上のように構成されたボイラシステム1では、ボイラ群2で発生させた蒸気が、蒸気ヘッダ6を介して蒸気使用設備18に供給される。
【0023】
ボイラシステム1において、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、蒸気使用設備18における蒸気消費量(要求負荷)に応じて変動する。ボイラ制御装置3(制御部4)は、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値(物理量)に基づいてPIDアルゴリズムによりPID要求蒸気量を算出する。PID要求蒸気量とは、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値を、目標蒸気圧力値(目標熱エネルギー出力値)にするために必要な蒸気量である。ボイラ制御装置3は、算出されたPID要求蒸気量に基づいてボイラ群2を構成する各ボイラ20の燃焼量を制御する。これにより、各ボイラ20から蒸気ヘッダ6に供給される蒸気量(出力蒸気量)が調節されるため、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値を目標蒸気圧力値に近づけることができる。すなわち、蒸気消費量の変動に応じて、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値を一定の目標蒸気圧力値に保つことができる。
【0024】
具体的には、蒸気使用設備18の需要の増大により蒸気消費量が増加し、蒸気ヘッダ6に供給される出力蒸気量が不足すれば、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が減少する。一方、蒸気使用設備18の需要の低下により蒸気消費量が減少し、蒸気ヘッダ6に供給される出力蒸気量が過剰になれば、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が増加する。ボイラ制御装置3は、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値の変動に基づいて、蒸気消費量の変動をモニターする。そして、ボイラ制御装置3は、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値に基づいて、蒸気使用設備18の蒸気消費量に応じたPID要求蒸気量を算出し、蒸気ヘッダ6に、このPID要求蒸気量に対応した出力蒸気量が供給されるように各ボイラ20の燃焼量を制御する。
【0025】
本実施形態のボイラ20は、燃焼量を連続的に増減可能に構成された比例制御ボイラからなる。
【0026】
比例制御ボイラは、少なくとも、最小燃焼状態(例えば、最大燃焼量の20%の燃焼量における燃焼状態)から最大燃焼状態までの範囲で、燃焼量を連続的に増減させることができる。比例制御ボイラは、例えば、燃料をバーナに供給するバルブや、燃焼用空気を供給するバルブの開度(燃焼比)を制御することにより、燃焼量を調整することができる。
【0027】
次に、ボイラ制御装置3の構成について詳細に説明する。ボイラ制御装置3は、
図1に示すように、制御手段としての制御部4と、記憶部5と、を備える。
【0028】
制御部4は、信号線16を介して各ボイラ20に各種の指示を送信したり、各ボイラ20から各種のデータを受信したりして、5台のボイラ20の燃焼状態及び運転台数の制御を実行する。各ボイラ20は、ボイラ制御装置3から燃焼状態の変更指示の信号を受けると、その指示に従って該当するボイラ20の燃焼量を制御する。制御部4の詳細な構成については後述する。
【0029】
記憶部5は、各ボイラ20に送信された指示に関する情報、各ボイラ20から受信した燃焼状態に関する情報、各ボイラ20の優先順位に関する情報、後述するPID要求蒸気量の算出に必要なデータ等を記憶する。
【0030】
次に、制御部4の構成について更に詳細に説明する。
図1に示すように、制御部4は、蒸気量算出部41と、台数制御部42と、を備える。
【0031】
蒸気量算出部41は、予め設定された目標蒸気圧力値、蒸気圧センサ7で測定された蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値等に基づいて、PID要求蒸気量を算出する。具体的には、蒸気量算出部41は、蒸気圧センサ7で測定された蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が、予め設定された目標蒸気圧力値となるように、PID要求蒸気量を、後述のPIDアルゴリズムにより算出する。
【0032】
蒸気量算出部41は、PID要求蒸気量(PID制御量)を、下記の式(1)に基づいて算出する。
PID要求蒸気量=偏差比例出力(P制御)+偏差積分出力(I制御)+偏差微分出力(D制御) ・・・(1)
【0033】
また、PID要求蒸気量を構成する各成分は、下記の式(2)〜(4)により算出される。
偏差比例出力(PID_E)=PID_K×(目標蒸気圧力値−現在の蒸気圧力値)
・・・(2)
ここで、PID_K(比例ゲイン)は、単位圧力偏差(1kgf/cm
2又は1MPa)当たりのボイラ出力(蒸気量)である。
【0034】
偏差積分出力(PID_EI)=PID_EI+ PID_E/積分時間(秒)
・・・(3)
偏差微分出力(PID_ED)=
PID_K×(1秒前の蒸気圧力値−現在の蒸気圧力値)×微分時間(秒)
・・・(4)
【0035】
本実施形態の蒸気量算出部41は、上記式(2)〜(4)で算出された各出力を合計することにより、PID要求蒸気量を算出する。
【0036】
蒸気量算出部41は、上記式(2)で算出された偏差比例出力(PID_E)が、本システムの最大発生蒸気量(最大出力)を超える場合、すなわち蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が圧力比例帯(後述)を下回った時点において、偏差積分出力(PID_EI)をゼロにリセットする(以下、「偏差積分出力のゼロリセット」ともいう)。
【0037】
本実施形態における圧力比例帯は、以下の通りである。
圧力比例帯=9,000kg/h(3台分の最大出力合計)/7,200kg(kg/h)/(kg/cm
2)
=1.25kg/cm
2
ここで、7,200kg(kg/h)/(kg/cm
2)は、本実施形態における比例ゲインである。
【0038】
後述する圧力制御の具体例では、目標蒸気圧力値が8.0kgf/cm
2となるため、8.0−1.25=6.75kg/cm
2が圧力比例帯の下限値となる。蒸気量算出部41は、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が圧力比例帯の下限値である6.75kg/cm
2を下回った時点で偏差積分出力のゼロリセットを実行する。
【0039】
蒸気量算出部41において、偏差積分出力のゼロリセットを行うことにより、式(1)で算出されるPID要求蒸気量に、偏差積分出力(PID_EI)が含まれなくなる。そのため、PID要求蒸気量の算出において、過大に累積された正の偏差積分出力(累積の積分量)の影響を低減することができる。なお、偏差積分出力のゼロリセットの具体例については後述する。
【0040】
台数制御部42は、蒸気消費量に応じて必要な台数のボイラ20を燃焼させる、いわゆる台数制御を実行する。具体的には、台数制御部42は、蒸気消費量が増加して燃焼させるボイラ20の台数を増加させる場合には、予め設定された優先順位の高いボイラ20から順に燃焼を開始させる。また、台数制御部42は、蒸気消費量が減少して燃焼させるボイラ20の台数を減少させる場合には、予め設定された優先順位の低いボイラ20から順に燃焼を停止させる。
【0041】
台数制御部42は、蒸気量算出部41において、蒸気消費量に応じて算出されたPID要求蒸気量に基づいて、燃焼させるボイラ20の台数を設定する。台数制御部42は、記憶部5に記載されている優先順位に従って燃焼を開始又は停止するボイラ20を設定すると共に、それらボイラ20のローカル制御部22に対して、台数制御信号(運転の開始又は停止)を出力する。これにより、燃焼させるボイラ20から、PID要求蒸気量に対応する蒸気量(以下、「出力蒸気量」ともいう)が蒸気ヘッダ6に供給される。
【0042】
次に、制御部4の蒸気量算出部41において、通常のPIDアルゴリズムのみで圧力制御を実施した場合の比較例、及び通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて、偏差積分出力のゼロリセットを実行した場合の実施形態について説明する。
【0043】
図2は、
図1に示すボイラシステム1をモデルとして、通常のPIDアルゴリズムのみで圧力制御を実施した場合における蒸気圧力と蒸気量とを示すグラフである。
図3は、
図1に示すボイラシステム1をモデルとして、通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて、偏差積分出力のゼロリセットを実行した場合における蒸気圧力と蒸気量とを示すグラフである。
【0044】
本実施形態では、ボイラ群2の最大燃焼台数を3台、目標蒸気圧力値を8.0kgf/cm
2、比例ゲイン(PID_K)を7,200(kg/h)/(kg/cm
2)、積分時間を10秒、微分時間2秒、バイアス補正を0kg/hとした。そして、経過時間1,300〜1,400秒ほどに至るまでの間において、本システムの最大発生蒸気量(最大出力)に近い蒸気消費量が続いて、1,400秒過ぎに蒸気消費量が急激に下がるパターンを設定し、シミュレーション計算を実行した。
図2及び
図3は、そのシミュレーション計算の結果を示している。
【0045】
図2及び
図3において、横軸は経過時間(秒)、右縦軸は蒸気量(t/h)、左縦軸は蒸気圧力値(kg/cm
2)をそれぞれ示している。また、
図2及び
図3において、太い実線は蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値、破線は蒸気消費量、細い実線は蒸気ヘッダ6に供給される出力蒸気量をそれぞれ表している。なお、出力蒸気量は、燃焼させる3台のボイラ20から出力される蒸気量の合計値を示している。また、
図2及び
図3に示すシミュレーションは、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値を約2.0kg/cm
2とした状態からスタートさせている(後述する第2実施形態の
図4も同じ)。
【0046】
図2に示すように、経過時間0から、およそ1,300秒までの間、ボイラ群2から蒸気ヘッダ6に供給される出力蒸気量は、蒸気消費量に応じて2〜5(t/h)の範囲で変動している。この間は、蒸気消費量が急激に変動していないため、算出されたPID要求蒸気量に対応した出力蒸気量は、蒸気消費量の変動に追従している。また、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力は、ほぼ目標蒸気圧力値(8.0kgf/cm
2)に収束している。
【0047】
一方、経過時間1,300から、およそ1,400秒までの間に、ボイラシステム1の最大発生蒸気量(最大出力)に近い蒸気消費量が続き、経過時間1,400過ぎに蒸気消費量の急激な減少が生じている。この経過時間1,300秒から、およそ1,400秒までの間に算出されるPID要求蒸気量は、この間に累積された正の積分量の影響を受けるため、経過時間1,400秒過ぎにおいて蒸気消費量が急激な減少に転じても、蒸気ヘッダ6に供給される出力蒸気量はすぐに減少することはない。蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、正の積分量の影響により、一時的に目標蒸気圧力値を過大に上回る。
【0048】
このように、蒸気圧力値が目標蒸気圧力値を過大に上回ると、今度はその修正過程において負の積分値の累積が進むため、算出されるPID要求蒸気量の急速な減少が発生する。そのため、通常のPIDアルゴリズムのみによる圧力制御では、負の積分値の影響により、PID要求蒸気量の復帰(上昇)が遅れ、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は継続して降下する。また、PID要求蒸気量が復帰して上昇に転じた後も、過大な負の積分値の累積が残るため、大幅な応答遅れが生じることになる。そのため、
図2に示す比較例では、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が目標蒸気圧力値に収束せずに上下に変動するハンチング現象が発生してしまう(経過時間1,440秒以降を参照)。
【0049】
一方、
図3に示す実施形態では、蒸気量算出部41において、偏差比例出力(PID_E)がボイラシステム1の最大発生蒸気量を超える場合、すなわち蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が圧力比例帯の下限値である6.75kg/cm
2を下回った時点において、偏差積分出力のゼロリセットが実行される。具体的には、
図3において、1,440秒過ぎに蒸気圧力値が減少した直後には、偏差積分出力のゼロリセットは実行されない。しかし、その後の経過時間1,500秒過ぎにおいて、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が圧力比例帯の下限値である6.75kg/cm
2を下回ると、その時点で偏差積分出力のゼロリセットが実行される。
【0050】
これにより、算出されるPID要求蒸気量には、偏差積分出力(PID_EI)が含まれなくなる。そのため、
図3に示すように、1,530秒過ぎ以降において、算出されたPID要求蒸気量に対応する出力蒸気量はオーバーシュートすることなく、蒸気消費量(要求負荷)の変動に速やかに追従するようになる。また、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値も、目標蒸気圧力値の付近で収束する。
【0051】
また、
図2に示すシミュレーション結果では、ハンチング現象により、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、最大9.28kg/cm
2、最小0.67kg/cm
2となり、その変動幅は8.61kg/cm
2であった。これに対して、
図3に示すシミュレーション結果において、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、最大9.10kg/cm
2、最小2.78kg/cm
2となり、その変動幅は6.32kg/cm
2となった。このように、通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて、偏差積分出力のゼロリセットを実行した場合には、通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御のみの場合に比べて、蒸気ヘッダ6の圧力変動が少なくなるので、蒸気圧力値を安定した状態に保つことができる。
【0052】
上述した第1実施形態に係るボイラシステム1によれば、偏差比例出力がボイラシステム1の最大発生蒸気量を超えた場合、すなわち蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が圧力比例帯を下回った時点において、偏差積分出力のゼロリセットが実行される。これによれば、ボイラシステム1の最大発生蒸気量に近い蒸気消費量(要求負荷)が続いた後、その蒸気消費量が急激に減少に転じた場合において、過大な正及び負の積分量の影響をなくすことができる。そのため、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が目標蒸気圧力値に収束せずに上下に変動するハンチング現象が抑制され、蒸気圧力値を速やかに目標蒸気圧力値に収束させることができる。
【0053】
次に、本発明に係るボイラシステムの第2実施形態について、主に
図4を参照して説明する。
図4は、
図1に示すボイラシステム1Aをモデルとして、通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて、偏差積分出力のゼロリセット及び偏差積分出力のハイカットを実行した場合における蒸気圧力と蒸気量とを示すグラフである。
【0054】
第2実施形態において、第1実施形態と同一構成については、同一符号を付して説明する。本実施形態に係るボイラシステム1Aの基本的な構成は、
図1と同じであるため、システムを構成する各部の説明を省略する。ここでは、第1実施形態との相違点について説明する。
【0055】
本実施形態に係るボイラシステム1Aは、蒸気量算出部41A(
図1参照)において、後述する偏差積分出力のハイカットを実行する点が第1実施形態と異なる。
【0056】
本実施形態の蒸気量算出部41Aは、上述した偏差積分出力のゼロリセットに加えて、上記式(3)で算出された偏差積分出力(PID_EI)が、ボイラシステム1Aの最大発生蒸気量(最大出力)を超えないように偏差積分出力を制御する。すなわち、最大発生蒸気量を、偏差積分出力(PID_EI)の最大値とし、それ以上の積分量をカットする(以下、「偏差積分出力のハイカット」ともいう)。
【0057】
一般に、ボイラシステムにおける最大発生蒸気量は、ボイラ群の物理的な上限値であるため、それ以上の過大なPID要求蒸気量を算出しても、蒸気圧力値の適切な制御には結びつかない。また、正の積分値の増大は、その後の出力蒸気量の減少を遅らせることになる。そのため、偏差積分出力がボイラシステム1Aの最大発生蒸気量を超えないようにすることにより、PID要求蒸気量の更なる適正化を図ることができる。
【0058】
次に、偏差積分出力のゼロリセット及び偏差積分出力のハイカットを実行した場合のシミュレーション結果について、
図4を参照しながら説明する。なお、本実施形態におけるシミュレーションの条件は、第1実施形態と同じである。
【0059】
図4において、経過時間1,300から、およそ1,400秒までの間に、ボイラシステム1の最大発生蒸気量(最大出力)に近い蒸気消費量が続き、経過時間1,400過ぎに蒸気消費量の急激な減少が生じている。第1実施形態では、経過時間1,400秒過ぎにおいて蒸気消費量が急激な減少に転じたときに、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、一時的に目標蒸気圧力値より大幅に上昇している(
図3参照)。これは、それまでに累積された正の積分量の影響により、PID要求蒸発量が過大に算出されるためである。このように、PID要求蒸発量が過大に算出されると、その後に蒸気消費量が急激な減少に転じたときに、今度はPID要求蒸発量が過小に算出されるため、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が降下し続けることになる。そのため、蒸気消費量(要求負荷)の変動に追従させることができなくなる。
【0060】
これに対して、本実施形態では、偏差積分出力(PID_EI)が、ボイラシステム1Aの最大発生蒸気量(最大出力)を超えることがないため、経過時間1,400秒過ぎにおいて蒸気消費量が急激な減少に転じたときに、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が目標蒸気圧力値を超えることがない。そのため、経過時間1,400秒過ぎにおいて蒸気消費量が急激な減少に転じたときに、PID要求蒸発量が過小に算出されることがない。そのため、
図4に示すように、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が降下し続けることがなく、蒸気消費量(要求負荷)の変動に速やかに追従させることができる。また、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値も、経過時間1,440秒から1,530秒の間において、第1実施形態(
図3)のように大きく変動することがなく、ほぼ目標蒸気圧力値の付近で収束する。
【0061】
また、
図4に示すシミュレーション結果において、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、最大8.28kg/cm
2、最小7.76kg/cm
2となり、その変動幅は0.52kg/cm
2となった。このように、通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて、偏差積分出力のゼロリセット及び偏差積分出力のハイカットを実行した場合には、通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御と偏差積分出力のゼロリセットとを組み合わせた場合に比べて、蒸気ヘッダ6の圧力変動がより少なくなるので、蒸気圧力値を更に安定した状態に保つことができる。
【0062】
上述した第2実施形態に係るボイラシステム1Aによれば、偏差積分出力のゼロリセットに加えて、偏差積分出力がボイラシステム1Aの最大発生蒸気量(最大出力)を超えないように、偏差積分出力のハイカットが実行される。これによれば、ボイラシステム1Aの最大発生蒸気量に近い蒸気消費量(要求負荷)が続いた後、その蒸気消費量が急激に減少に転じた場合に、それまでに累積された過大な正の積分量の影響をなくすことができるため、その修正過程において負の積分値が過大に累積されることにより、PID要求蒸気量が過少に算出されることがない。そのため、蒸気消費量が急激に減少に転じた場合に、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が降下し続けることがないので、蒸気消費量の急激な増減に対して、蒸気圧力値をより速やかに目標蒸気圧力値に収束させることができる。
【0063】
次に、本発明に係るボイラシステムの第3実施形態について、
図5〜
図7を参照して説明する。
図5は、
図1に示すボイラシステム1をモデルとして、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力がゼロの状態から通常PIDアルゴリズムのみで圧力制御を実施した場合における蒸気圧力と蒸気量とを示すグラフである。
図6は、
図1に示すボイラシステム1をモデルとして、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力がゼロの状態から通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて偏差積分出力のゼロリセットを実行した場合における蒸気圧力と蒸気量とを示すグラフである。
図7は、
図1に示すボイラシステム1をモデルとして、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力がゼロの状態から通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて偏差積分出力のゼロリセット及び偏差積分出力のハイカットを実行した場合における蒸気圧力と蒸気量とを示すグラフである。
【0064】
第3実施形態に係るボイラシステム1の構成は、第1実施形態と同一であるため、システムを構成する各部の説明を省略する。ここでは、第1実施形態との相違点について説明する。
【0065】
本実施形態では、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値を0kg/cm
2から運転をスタートさせている点が第1実施形態と異なる。本実施形態におけるシミュレーションの条件は、第1実施形態と同じである。
【0066】
図5に示すように、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が0kg/cm
2の状態(例えば、システムの起動時)から運転をスタートさせたときに、通常のPIDアルゴリズムのみによる圧力制御では、運転開始からしばらくの間、目標蒸気圧力値8.0kgf/cm
2と蒸気ヘッダ6の現在の蒸気圧力値との偏差が正の積分量として累積される。そのため、現在の蒸気圧力値が目標蒸気圧力値に達した段階でも、累積された正の積分量の影響により、偏差積分出力が適切な値に減少するまで過大なPID要求蒸気量が算出され、蒸気ヘッダ6における蒸気圧力値の上昇が継続する。そして、蒸気圧力値が過大に上昇すると、今度はその修正過程において負の積分値の累積が進むため、算出されるPID要求蒸気量の急速な減少が発生する。その結果、
図5に示すように、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が目標蒸気圧力値に収束せずに上下に変動するハンチング現象が発生してしまう。
【0067】
これに対して、
図6に示す実施形態(偏差積分出力のゼロリセットを併用)では、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が0kg/cm
2の状態から運転をスタート(以下、「ゼロ圧スタート」ともいう)させたときに、偏差比例出力がボイラシステム1の最大発生蒸気量を超える場合、すなわち蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が圧力比例帯の下限値6.75kg/cm
2を下回る範囲において、偏差積分出力のゼロリセットが実行される。言い換えると、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が6.75kg/cm
2を超えるまで積分値が累積されず、圧力比例帯の下限値6.75kg/cm
2を超えてから積分値の累積が始まる。これによれば、運転がスタートしてから蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が6.75kg/cm
2を超えるまでの間、正の積分値が累積されないため、現在の蒸気圧力値が目標蒸気圧力値に達した段階において、過大なPID要求蒸気量が算出されることがない。そのため、
図6に示すようなハンチング現象が抑制され、蒸気圧力値を速やかに目標蒸気圧力値に収束させることができる。
【0068】
なお、
図6に示すシミュレーション結果では、ハンチング現象により、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、最大9.36kg/cm
2、最小0.66kg/cm
2となり、その変動幅は8.70kg/cm
2であった。これに対して、
図6に示すシミュレーション結果において、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値は、最大8.52kg/cm
2、最小7.77kg/cm
2となり、その変動幅は0.75kg/cm
2となった。このように、通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御に加えて、偏差積分出力のゼロリセットを実行した場合には、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力がゼロの状態から通常のPIDアルゴリズムによる圧力制御のみの場合に比べて、蒸気ヘッダ6の圧力変動が少なくなるので、蒸気圧力値を安定した状態に保つことができる。
【0069】
また、
図6に示すゼロ圧スタートにおいて、第2実施形態で説明した偏差積分出力のハイカットを実行した場合には、
図7に示すように、経過時間1,400過ぎにおいて蒸気消費量が急激に減少に転じたときに、PID要求蒸発量が過小に算出されないようにすることができる。そのため、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が降下し続けることがなく、蒸気消費量(要求負荷)の変動に速やかに追従させることができる。
【0070】
従って、上述した第1実施形態に係るボイラシステム1は、第3実施形態に示すゼロ圧スタートの場合においても、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値が目標蒸気圧力値に収束せずに上下に変動するハンチング現象が抑制され、蒸気圧力値を速やかに目標蒸気圧力値に収束させることができる。
【0071】
以上、本発明に係るボイラシステムの好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した各実施形態に制限されるものではなく、適宜に変更が可能である。
【0072】
例えば、目標蒸気圧力値(目標熱エネルギー出力値)を、ボイラにおいて運転可能な最大上限圧力値(最大上限熱エネルギー出力値)以下に設定するようにしてもよい。一般に、目標蒸気圧力値がボイラの最大上限圧力値付近であると、ボイラの蒸気圧力値が一時的に目標蒸気圧力値を超えたときに、挙動が不安定になる場合がある。そのため、目標蒸気圧力値を、例えば、最大上限圧力値の90%〜85%程度に設定した場合には、ボイラの蒸気圧力値が不用意に目標蒸気圧力値を超えないため、ボイラをより安定した状態で運転することができる。
【0073】
また、各実施形態では、本発明を、5台のボイラ20からなるボイラ群2を備えたボイラシステムに適用した例について説明した。これに限らず、本発明を、6台以上のボイラからなるボイラ群を備えたボイラシステムに適用してもよいし、2〜4台のボイラからなるボイラ群を備えたボイラシステムに適用してもよい。また、各実施形態では、台数制御として、蒸気消費量に応じて算出されたPID要求蒸気量と予め設定された優先順とに基づいて燃焼させるボイラ20の台数を設定する例について説明した。これに限らず、複数台のボイラを備えたボイラ群において、燃焼させるボイラの台数は、例えば、システムの負荷率や各ボイラの稼動状況等に基づいて設定してもよい。また、各実施形態では、本発明による圧力制御とボイラの台数制御とを組み合わせた例について説明したが、本発明による圧力制御を単体のボイラの圧力制御に適用してもよい。その場合には、PIDアルゴリズムにより算出されたPID要求蒸気量が、そのまま単体のボイラにおけるPID要求蒸気量として設定される。
【0074】
また、各実施形態では、蒸気量算出部41(41A)において、蒸気ヘッダ6の蒸気圧力値(物理量)に基づいてPID(比例+積分+微分)アルゴリズムによりPID要求蒸気量を算出する例について説明した。これに限らず、本発明は、PI(比例+積分)アルゴリズムによりPID要求蒸気量を算出する制御にも適用することができる。
【0075】
また、各実施形態では、ボイラ20として、蒸気ボイラを用いた例について説明したが、これに限らず、ボイラ20は、温水ボイラであってもよい。その場合に、制御部4は、各ボイラで発生させた温水の温度値に基づいてPIDアルゴリズムによりPID要求温度値を算出する。なお、本実施形態では、ボイラ群2の最大出力を「最大発生蒸気量」と標記して説明したが、最大出力は、例えば「定格出力」、「相当蒸発量」、「実際蒸発量」等の用語で表現される場合もある。また、蒸気ボイラ及び温水ボイラの場合には、「熱出力」と総称される場合もある。