【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送開発委託研究/革新的光ファイバ技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
1つのコア部を有する光ファイバ母材を製造するには、ガラスパイプの中心軸にある孔部にコアロッドを挿入し、これらを中心軸の周りに回転させながら軸対称の加熱を行って一体化する。この加熱一体化工程の際のガラスパイプの変形は、中心軸の周りに対称となり、コアロッドの近傍のガラスが中心軸に向かって変形し一体化される。したがって、1つのコア部を有する光ファイバ母材では、該コア部は中心軸位置に精度よく配置することができる。
【0006】
これに対して、マルチコア光ファイバ母材では、複数のコア部のうち中心軸に位置しないコア部については、加熱一体化工程の際のコアロッドの近傍のガラスの変形が対称とならず、孔部の中心と一体化後のコア部の中心とが互いに一致しない。このことから、中心軸に位置しないコア部は、設計通りの位置に精度よく配置することが困難である。
【0007】
ガラスパイプの孔部の内壁面とコアロッドの外周面との間のクリアランスが大きいと、マルチコア光ファイバ母材におけるコア部の位置ずれが大きくなり易い。クリアランスが小さければ、コア部の位置ずれを小さくすることができる。しかし、クリアランスが小さすぎると、ガラスパイプの孔部へのコアロッドの挿入が難しい。また、挿入時にガラスパイプの孔部の内壁面またはコアロッドの外周面に傷が生じ易く、この傷が界面での気泡発生等の要因となる。
【0008】
マルチコア光ファイバにおけるコア径とコア間ピッチとの関係は、1回のロッドインコラプス工程で決定され、以後の工程で修正することができない。また、マルチコア光ファイバ母材は、プリフォ−ムアナライザなど非破壊の手段で断面径方向位置の情報を得ることが難しく、微調整も困難である。したがって、ロッドインコラプス工程時に所望のコア間隔等が高精度に得られることが望ましい。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、複数のコア部が設計通りの位置に精度よく配置されたマルチコア光ファイバ母材を容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマルチコア光ファイバ母材製造方法は、各々軸方向に延在する複数のコア部を共通のクラッド部中に有するマルチコア光ファイバ母材を製造する方法であって、略円柱形状のガラス体に対し各々軸方向に延在する複数の孔部を形成してガラスパイプを作製する孔部形成工程と、ガラスパイプの複数の孔部それぞれにコアロッドを挿入し、これらを加熱し一体化してマルチコア光ファイバ母材を製造する加熱一体化工程とを備える。
【0011】
そして、本発明のマルチコア光ファイバ母材製造方法は、製造されるべきマルチコア光ファイバ母材の複数のコア部のうち中心軸に位置しないコア部(以下「周辺コア部」という。)の中心位置とマルチコア光ファイバ母材の中心軸との間の距離をdとし、周辺コア部に対応するコアロッド(以下「周辺コアロッド」という。)の半径をrとし、ガラス体に形成されるべき複数の孔部のうち周辺コアロッドが挿入される孔部(以下「周辺孔部」という。)の半径をRとし、周辺孔部の中心位置とガラス体の中心軸との間の距離をDとしたとき、
周辺孔部とガラスパイプの中心軸との間に他の孔部によるクリアランスが存在しない場合、孔部形成工程において、ガラス体に対し、周辺コア部の中心位置とガラス体の中心軸とを結ぶ直線上で d<D≦d+R−r なる関係式を満たす位置に周辺孔部を形成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のマルチコア光ファイバ母材製造方法は、周辺孔部とガラスパイプの中心軸との間に存在する他の孔部によるクリアランスの断面積をSとしたとき、孔部形成工程において、ガラス体に対し、周辺コア部の中心位置とガラス体の中心軸とを結ぶ直線上でd<D≦d+2R−r−√(R
2−S/π) なる関係式を満たす位置に周辺孔部を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明のマルチコア光ファイバ母材製造方法は、孔部形成工程において、周辺孔部の半径Rと周辺コアロッドの半径rとの差を0.15mm以上とするのが好適である。また、マルチコア光ファイバ母材の外径を基準として、このマルチコア光ファイバ母材を線引して製造されるマルチコア光ファイバの外径の縮径率をφとしたとき、孔部形成工程において、R−r≦0.5μm/φ となるようにガラスパイプの外径およびクリアランスを設定するのが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数のコア部が設計通りの位置に精度よく配置されたマルチコア光ファイバ母材を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、マルチコア光ファイバの一例を示す断面図である。同図は、マルチコア光ファイバ1のファイバ軸に垂直な断面を示す。このマルチコア光ファイバ1は、各々軸方向に延在する7本のコア11
0〜11
6を共通のクラッド12中に有する。コア11
0は中心軸に配置されている。他の6本のコア11
1〜11
6は、中心軸を中心とする円の周上に等ピッチで配置されている。コア11
0〜11
6それぞれは、クラッド12の屈折率より高い屈折率を有する領域を含み、光を伝搬させることができる。
【0018】
図2は、マルチコア光ファイバ母材製造方法を模式的に説明する図である。同図は、中心軸を含む断面を示す。
図3は、マルチコア光ファイバ母材製造課程における断面図である。同図は、中心軸に垂直な断面を示す。これらの図は、マルチコア光ファイバ母材3を製造する方法を模式的に説明するものである。マルチコア光ファイバ母材3は、各々軸方向に延在する7本のコア部31
0〜31
6を共通のクラッド部32中に有する(
図3(c))。このマルチコア光ファイバ母材3を線引することで、
図1に示されるマルチコア光ファイバ1を製造することができる。
【0019】
マルチコア光ファイバ母材製造方法は、略円柱形状のガラス体に対し各々軸方向に延在する7つの孔部を形成してガラスパイプ22を作製する孔部形成工程と、このガラスパイプ22の各孔部にコアロッド21
0〜21
6を挿入し、これらを加熱し一体化してマルチコア光ファイバ母材3を製造する加熱一体化工程と、を備える。
【0020】
例えば、コアロッド21
0〜21
6それぞれは、塩素が添加されたシリカガラスからなる中心コアと、この中心コアの周囲を取り囲みフッ素が添加されたシリカガラスからなる光学クラッドとを含み、一方、ガラスパイプ22はフッ素が添加されたシリカガラスからなる。或いは、コアロッド21
0〜21
6それぞれは、GeO
2が添加されたシリカガラスからなる中心コアと、この中心コアの周囲を取り囲みGeO
2が添加されていない純シリカガラスからなる光学クラッドとを含み、一方、ガラスパイプ22は純シリカガラスからなる。
【0021】
コアロッド21
0〜21
6それぞれはOVD法等により作製される。ガラスパイプ22は、略円柱形状のガラス体に対しドリルによる穿孔によって各孔部が形成されて作製される。加熱一体化工程において、
図2中において右から左へ加熱源が移動し、この加熱源によってコアロッド21
0〜21
6およびガラスパイプ22が加熱され一体化される。
【0022】
図2中の位置Aでは、加熱源は通過しておらず、コアロッド21
0〜21
6およびガラスパイプ22は未だ一体化されていない(
図3(a))。
図2中の位置Bでは、加熱源による加熱一体化が進行中であり、6本のコアロッド21
1〜21
6およびガラスパイプ22は既に一体化されているが、中心にあるコアロッド21
0とガラスパイプ22とは未だ一体化されていない(
図3(b))。
図2中の位置Cでは、加熱源による加熱一体化が終了しており、全てのコアロッド21
0〜21
6およびガラスパイプ22は既に一体化されており、マルチコア光ファイバ母材3の断面構造となっている(
図3(c))。
【0023】
このように、ロッドインコラプス法によるマルチコア光ファイバ母材製造方法では、加熱一体化工程において、複数のコアロッドのうち外側に配置されたコアロッドから順にガラスパイプとの一体化が為される。これは、ガラスパイプ22が加熱源に近い外側ほど早く加熱されて変形が進み易いからであると考えられる。
【0024】
このとき、
図2中の位置Aでは、径方向外側に配置された6本のコアロッド21
1〜21
6は、ガラスパイプ22の孔部の径方向内側の方向に近づくことになる(
図3(a))。この理由として、軸対称変形を考慮するとガラスパイプ22の外側の部分は内側に向かって変形しやすい一方で、内側の部分は中心方向への行き場がなく変形が進みにくいこと、加えて内側ほど相対的に加熱されにくく変形しにくいこと、が考えられる。
【0025】
このことから、ロッドインコラプス法によるマルチコア光ファイバ母材製造方法により製造されるマルチコア光ファイバ母材3では、外側に配置されるコア部31
1〜31
6は、ガラスパイプ22の孔部の中心位置からガラスパイプ22の中心軸の方向寄りにずれてしまうことになる。
【0026】
ガラスパイプ22の孔部の内壁面とコアロッド21の外周面との間のクリアランスが大きいほど、マルチコア光ファイバ母材3におけるコア部31のずれ量は大きい。ガラスパイプ22の孔部の内側にコアロッド21が接しない場合もあることが考えられることから、コア部31のずれに因る位置を高精度に制御することは困難である。
【0027】
また、
図2および
図3に示されるように、外側の孔部とガラスパイプ22の中心軸との間に他の孔部(中心の孔部)によるクリアランスが存在する場合、その影響によって外側コアロッド21の中心に向かう動きも存在する。
【0028】
図4は、マルチコア光ファイバの他の例を示す断面図である。同図は、マルチコア光ファイバ4のファイバ軸に垂直な断面を示す。このマルチコア光ファイバ4は、各々軸方向に延在する8本のコア41
1〜41
8を共通のクラッド42中に有する。8本のコア41
1〜41
8は2行4列に配置されている。4本のコア41
1〜41
4は或る直線上に一定ピッチで配置され、4本のコア41
5〜41
8は他の直線上に一定ピッチで配置されている。コア41
1〜41
8それぞれは、クラッド42の屈折率より高い屈折率を有する領域を含み、光を伝搬させることができる。
【0029】
図5は、マルチコア光ファイバ母材製造課程における断面図である。同図は、中心軸に垂直な断面を示す。同図は、マルチコア光ファイバ母材6を製造する方法を模式的に説明するものである。マルチコア光ファイバ母材6は、各々軸方向に延在する8本のコア部61
1〜61
8を共通のクラッド部62中に有する(同図(b))。このマルチコア光ファイバ母材6を線引することで、
図4に示されるマルチコア光ファイバ3を製造することができる。
【0030】
この場合、マルチコア光ファイバ母材製造方法は、略円柱形状のガラス体に対し各々軸方向に延在する8つの孔部を形成してガラスパイプ52を作製する孔部形成工程と、このガラスパイプ52の各孔部にコアロッド51
1〜51
8を挿入し、これらを加熱し一体化してマルチコア光ファイバ母材6を製造する加熱一体化工程と、を備える。
【0031】
このようなマルチコア光ファイバ母材6を製造する場合、加熱一体化工程において、同図(a)に示されるように各コアロッド51が中心に向かうようにガラスパイプ52が変形することから、同図(b)に示されるように各コア部61は設計位置からずれてしまう。
【0032】
このような問題点を解消する為に、本実施形態のマルチコア光ファイバ母材製造方法では、製造されるべきマルチコア光ファイバ母材の複数のコア部のうち中心軸に位置しないコア部(周辺コア部)について、加熱一体化工程の際の位置変化を考慮した上で、孔部形成工程の際の孔部形成の位置を決定する。具体的には以下のとおりである。
【0033】
図6は、本実施形態のマルチコア光ファイバ母材製造方法を説明する図である。同図(a)は、製造されるべきマルチコア光ファイバ母材3の断面を示す。同図(b)は、ガラスパイプ22の断面を示す。
【0034】
周辺コア部31の中心位置とマルチコア光ファイバ母材3の中心軸との間の距離をdとする。周辺コア部31に対応するコアロッド(周辺コアロッド)21の半径をrとする。ガラス体に形成されるべき複数の孔部のうち周辺コアロッド21が挿入される孔部(周辺孔部)の半径をRとする。また、周辺孔部の中心位置とガラス体の中心軸との間の距離をDとする。
【0035】
このとき、孔部形成工程において、ガラス体に対し、周辺コア部の中心位置とガラス体の中心軸とを結ぶ直線上で下記(1)式の関係を満たす位置に周辺孔部を形成する。この式は、最大でコアロッドと孔部との片側クリアランス分(R−r)だけ外側に孔部を設けることを示している。
【0037】
また、
図2および
図3に示されるように、周辺孔部とガラスパイプ22の中心軸との間に他の孔部(中心の孔部)によるクリアランス23が存在する場合、そのクリアランス23の断面積をSとする。このとき、孔部形成工程において、ガラス体に対し、周辺コア部の中心位置とガラス体の中心軸とを結ぶ直線上で下記(2)式の関係を満たす位置に周辺孔部を形成する。このような位置に孔部を形成することで、このクリアランス23の影響を緩和することができる。周辺孔部とガラスパイプ22の中心軸との間に存在する他の孔部の半径をR
0とし、その孔部に挿入されるコアロッドの半径をr
0とすると、クリアランス23の断面積Sは下記(3)式で表される。
【0038】
d<D≦d+2R−r−√(R
2−S/π) …(2)
S=π(R
02−r
02) …(3)
【0039】
周辺コア部の位置精度の観点から、クリアランスは小さい方が望ましい。すなわち、R−rの値を小さくすることで、加熱一体化工程の前後での周辺コア部の位置変化量を小さくすることができる。例えば、R−rの値が1mmである場合、(1)式によれば周辺孔部中心を予め0〜1mm外側に配置することになる。R−rの値が0.5mmである場合は、周辺孔部中心を予め0〜0.5mm外側に配置することになる。R−rの値が0.1mmである場合は、周辺孔部中心を予め0〜0.1mm外側に配置することになる。クリアランスを狭くすることにより、加熱一体化工程の前後での周辺コア部の動きは小さくなり、加熱一体化工程後のマルチコア光ファイバ母材における周辺コア部の位置精度を向上させることができる。
【0040】
一方、クリアランスが狭すぎると、ガラスパイプ22の孔部にコアロッド21を挿入する際にガラスパイプ22の孔部の内壁面またはコアロッド21の外周面に傷が生じ易くなったり、加熱一体化工程における加熱の前にガラスパイプ22の孔部の内壁面およびコアロッド21の外周面を塩素処理により清浄化することが困難となったり、また、ガラスパイプ22の孔部およびコアロッド21それぞれの径に要求される精度が高くなって製造コストが上昇したりする等の問題がある。したがって、周辺孔部の半径Rと周辺コアロッドの半径rとの差は、0.15mm以上であるのが好ましく(下記(4)式)、0.5mm以上であるのが更に好ましい。
【0042】
マルチコア光ファイバ母材を線引して製造されるマルチコア光ファイバにおいて、コアの位置精度は、その線引工程の際の縮径率φにも依存する。縮径率φが大きいほど、マルチコア光ファイバ母材におけるコア部の位置精度の影響が軽減される。マルチコア光ファイバの径が決まっている場合には、マルチコア光ファイバ母材の径が大きいほど、マルチコア光ファイバ母材におけるコア部の位置精度の影響が軽減される。
【0043】
なお、縮径率φは、加熱一体化工程直後のマルチコア光ファイバ母材の径に対するマルチコア光ファイバの径の比率で定義される。加熱一体化工程後であって線引工程前にマルチコア光ファイバ母材の径が変更される場合を考慮すると、縮径率φは、加熱一体化工程直後のマルチコア光ファイバ母材におけるコア部間ピッチに対するマルチコア光ファイバにおけるコア間ピッチの比率で定義される。
【0044】
マルチコア光ファイバ母材でのコア部の位置精度が0.5mmであって、縮径率φが0.004である場合は、マルチコア光ファイバでのコアの位置精度は0.5mm×0.004=2.0μmとなる。マルチコア光ファイバ母材でのコア部の位置精度が0.5mmであって、縮径率φが0.002である場合は、マルチコア光ファイバでのコアの位置精度は1.0μmとなる。
【0045】
マルチコア光ファイバにおいて求められるコアの位置精度は、例えば1μm以下であり、好ましくは0.5μm以下である。マルチコア光ファイバにおけるコアの位置精度はクリアランス起因だけではないので、ガラスパイプ22の孔部とコアロッド21とのクリアランスに起因するコアの位置精度は、0.5μm以下であるのが好ましく(下記(5)式)、0.2μm以下であるのが更に好ましい。
【0047】
上記(4)式および(5)式から下記(6)式が得られる。この(6)式において右辺の値が左辺の値以上でなければならないから、縮径率φは0.0033より小さい必要がある。例えば、マルチコア光ファイバの外径が125μmである場合、マルチコア光ファイバ母材の外径は37.5mm以上である。マルチコア光ファイバの外径が150μmである場合、マルチコア光ファイバ母材の外径は45mm以上である。
【0048】
0.15mm≦R−r≦0.5μm/φ …(6)