特許第6036407号(P6036407)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧
<>
  • 特許6036407-電動パワーステアリング装置 図000002
  • 特許6036407-電動パワーステアリング装置 図000003
  • 特許6036407-電動パワーステアリング装置 図000004
  • 特許6036407-電動パワーステアリング装置 図000005
  • 特許6036407-電動パワーステアリング装置 図000006
  • 特許6036407-電動パワーステアリング装置 図000007
  • 特許6036407-電動パワーステアリング装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036407
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20161121BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20161121BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20161121BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D119:00
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-37091(P2013-37091)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-162421(P2014-162421A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2016年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】玉泉 晴天
(72)【発明者】
【氏名】益 啓純
(72)【発明者】
【氏名】喜多 政之
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/133590(WO,A1)
【文献】 特開2008−149872(JP,A)
【文献】 特開2009−143312(JP,A)
【文献】 特開2008−143200(JP,A)
【文献】 特開2011−183923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00−137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって回動操作されるステアリングを通じてステアリングシャフトに加えられる操舵トルクに応じて操舵系にアシストトルクを付与するための第1の指令値を生成する第1の制御手段と、
前記第1の指令値及び前記操舵トルクから算出される入力トルクに基づき目標転舵角を決定する目標転舵角演算部と、
車両の実転舵角を前記目標転舵角に制御するための第2の指令値を生成する第2の制御手段と、
車輪から前記操舵系への逆入力トルクをロードインフォメーションゲインに応じた割合で伝達するための第3の指令値を生成するロードインフォメーション制御部と、
前記第1の指令値、前記第2の指令値および前記第3の指令値を足し合わせた値に基づき、前記操舵系にアシストトルクを付与する操舵力付与手段と、
前記実転舵角と前記目標転舵角との角度偏差が閾値以上となったとき、前記ステアリングの回動操作に伴いラックの端部がエンドに当接しているエンド当て状態である旨の判定を行うエンド当て判定手段と、を備え
前記ロードインフォメーション制御部は、前記エンド当て判定手段を通じてエンド当て状態であると判定されるとき、前記ロードインフォメーションゲインの調整を通じて、前記第2の指令値を打ち消すような前記第3の指令値を生成することで、前記第2の制御手段による前記実転舵角を前記目標転舵角とする制御を仮想的に停止する電動パワーステアリング装置であって、
前記ロードインフォメーション制御部は、前記ロードインフォメーションゲインを、車輪から前記操舵系への逆入力トルクを完全に伝達する「1」と車輪から前記操舵系への逆入力トルクを完全に遮断する「0」との間で制御し、
前記エンド当て判定手段を通じてエンド当て状態であると判定されたとき、前記ロードインフォメーションゲインを「0」から「1」に変化させる際の傾きより、前記エンド当て判定手段を通じてエンド当て状態が解除されたと判定されたとき、前記ロードインフォメーションゲインを「1」から「0」に変化させる際の傾きを小さく設定する電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置においては、優れた操舵フィーリングを実現するために、モータの駆動を通じて操舵力をアシストする構成が存在する。
具体的には、電動パワーステアリング装置は、車速及び操舵トルクに基づきアシストトルクを演算するアシストトルク演算部を有する。アシストトルク演算部は、操舵トルクが大きいほどアシストトルクを大きくする。また、車速Vが速いほどアシストトルクを小さくする。この演算されたアシストトルクに応じた操舵補助力がモータを通じてステアリングに加えられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般的な車両においては、転舵輪の可動範囲が定められている。具体的には、ステアリングの回動操作に伴ってラック軸が軸方向に移動することで車輪が転舵される。このラック軸の移動は、その端部がラックハウジングに当接したエンド当て状態となることで規制される。これにより、ステアリングの可動範囲を超える操舵が規制される。
【0004】
電動パワーステアリング装置においては、エンド当て状態から、さらにエンド側にステアリングの操舵がされることで操舵トルクが閾値以上となったことを条件の一つとして、エンド当て状態であると判断される。エンド当て状態であると判断された場合には、エンド当て状態での回路の発熱を抑制する処理、若しくはアシストトルクを抑制する等の衝撃緩和処理が実行される。衝撃緩和処理により、エンド当て状態において付与されるアシストトルクに伴いステアリングシャフト、特にインタミディエイトシャフトに負荷が加わることが抑制される(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−131191号公報
【特許文献2】特開2003−312514号公報
【特許文献3】特開2008−260421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2に記載の電動パワーステアリング装置においては、操舵トルクが閾値以上となったとき、すなわち、ラック軸に一定値以上の軸力が生じた後に、エンド当て状態である旨の判断がされる。このため、インタミディエイトシャフトに一定の負荷が加わった後に、上記アシストトルクの抑制が行われる。このインタミディエイトシャフトへ加わる負荷を抑制するために、より迅速にエンド当て状態の判断が行われることが求められている。また、上記回路の発熱を抑制する観点からも、より迅速にエンド当て状態の判断が行われることが求められている。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンド当て状態である旨の判断をより迅速に行うことができる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
記目的を達成し得る電動パワーステアロング装置は、運転者によって回動操作されるステアリングを通じてステアリングシャフトに加えられる操舵トルクに応じて操舵系にアシストトルクを付与するための第1の指令値を生成する第1の制御手段と、前記第1の指令値及び前記操舵トルクから算出される入力トルクに基づき目標転舵角を決定する目標転舵角演算部と、車両の実転舵角を前記目標転舵角に制御するための第2の指令値を生成する第2の制御手段と、車輪から前記操舵系への逆入力トルクをロードインフォメーションゲインに応じた割合で伝達するための第3の指令値を生成するロードインフォメーション制御部と、前記第1の指令値、前記第2の指令値および前記第3の指令値を足し合わせた値に基づき、前記操舵系にアシストトルクを付与する操舵力付与手段と、前記実転舵角と前記目標転舵角との角度偏差が閾値以上となったとき、前記ステアリングの回動操作に伴いラックの端部がエンドに当接しているエンド当て状態である旨の判定を行うエンド当て判定手段と、を備えている。
前記ロードインフォメーション制御部は、前記エンド当て判定手段を通じてエンド当て状態であると判定されるとき、前記ロードインフォメーションゲインの調整を通じて、前記第2の指令値を打ち消すような前記第3の指令値を生成することで、前記第2の制御手段による前記実転舵角を前記目標転舵角とする制御を仮想的に停止する。また、前記ロードインフォメーション制御部は、前記ロードインフォメーションゲインを、車輪から前記操舵系への逆入力トルクを完全に伝達する「1」と車輪から前記操舵系への逆入力トルクを完全に遮断する「0」との間で制御する。また、前記ロードインフォメーション制御部は、前記エンド当て判定手段を通じてエンド当て状態であると判定されたとき、前記ロードインフォメーションゲインを「0」から「1」に変化させる際の傾きより、前記エンド当て判定手段を通じてエンド当て状態が解除されたと判定されたとき、前記ロードインフォメーションゲインを「1」から「0」に変化させる際の傾きを小さく設定する。
【0009】
同構成によれば、角度偏差が閾値以上となったときエンド当て状態である旨の判定がされる。この角度偏差は、操舵系に大きな軸力が生じる前に閾値以上となる。例えば、操舵系に生じる軸力を通じてエンド当て状態である旨の判定を行う従来構成では、その閾値は、エンド当て状態以外の通常の状況では発生しない軸力に設定する必要がある。そのため、おのずと閾値が大きくなって、エンド当て状態である旨の判定が遅延する。その点、上記構成においては、実転舵角が目標転舵角に制御されるため、通常の状況では大きな角度偏差は発生しない。よって、エンド当て判定に係る閾値を小さくすること、ひいてはより迅速にエンド当て状態である旨の判定を行うことができる。
【0011】
同構成によれば、エンド当て状態であると判断されると、第2の制御手段による実転舵角を目標転舵角とする制御が停止される。よって、エンド当て状態から、エンド方向にアシストトルクが付与されることが抑制される。これにより、操舵系に大きな負荷が加わることが抑制される。
【0013】
ロードインフォメーション制御部は、ロードインフォメーションゲインを変化させることで、車輪から操舵系への逆入力トルクの伝達の度合いを調整する。これにより、路面情報がユーザに伝達される。また、このロードインフォメーションゲインの調整を通じて、実転舵角を目標転舵角とする制御を仮想的に停止することができる。
【0015】
同構成によれば、エンド当て状態が解除されたと判定されたとき、エンド当て状態であると判定されたときに比べて、ロードインフォメーションゲインが緩やかに変化する。例えば、ロードインフォメーションゲインが急激に「1」から「0」に切り替えられた場合には、角度偏差が大きい状態で、急に実転舵角を目標転舵角とする制御が再開されることになる。この場合、エンド当て状態からステアリングが戻されるとき、実転舵角を目標転舵角とするべく、エンド方向にアシストトルクが加えられる。これにより、ステアリングの操作に違和感が生じうる。この点、上記構成では、ロードインフォメーションゲインが緩やかに切り替えられるため、この違和感を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電動パワーステアリング装置において、エンド当て状態である旨の判断をより迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態における電動パワーステアリング装置の構成を示すブロック図。
図2】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置等の構成を示すブロック図。
図3】本発明の一実施形態におけるマイコンの構成を示すブロック図。
図4】本発明の一実施形態におけるロードインフォメーション制御部の構成を示すブロック図。
図5】本発明の一実施形態におけるエンドフラグ及びロードインフォメーションゲインの変化を示すグラフ。
図6】本発明の一実施形態におけるエンド判定部の処理手順を示したフローチャート。
図7】本発明の一実施形態におけるエンド判定時ゲイン演算部の処理手順を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる電動パワーステアリング装置を具体化した一実施形態について図1図7を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1は、運転者によって操舵されるステアリング2と、そのステアリング2とともに回動するステアリングシャフト3と、そのステアリングシャフト3にラックアンドピニオン機構4を介して連結されるラック軸5と、を備える。
【0019】
ステアリング2の回動操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によってラック軸5の往復直線運動に変換される。そして、このラック軸5の往復直線運動によってタイヤの実転舵角θpsが変更される。
【0020】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ10と、このEPSアクチュエータ10の動作を制御するモータ制御装置11とを備える。
【0021】
EPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12と、減速機構13とを備える。モータ12としては、例えばブラシレスモータが採用されている。
そして、モータ12の駆動力は、減速機構13を通じて減速されたうえでステアリングシャフト3に伝達される。これにより、操舵系(ステアリング2及びステアリングシャフト3等)にアシストトルクが付与される。
【0022】
また、モータ制御装置11には、車速センサ26と、トルクセンサ24とが接続されている。
車速センサ26は、車速Vを検出し、その検出結果をモータ制御装置11に出力する。トルクセンサ24は、そのステアリングシャフト3の途中に設けられたトーションバー15の捻れに基づいてステアリングシャフト3に伝達される操舵トルクThを検出し、その検出結果をモータ制御装置11に出力する。
【0023】
図2に示すように、モータ制御装置11は、モータ駆動信号を出力するマイコン31と、モータ駆動信号に基づきモータ12に駆動電力を供給するインバータ回路30と、を備える。
【0024】
インバータ回路30及びモータ12間には実電流値Iを検出する電流センサ35が設けられている。また、モータ12にはモータ回転角θmを検出する回転角センサ7が設けられている。回転角センサ7は検出したモータ回転角θmをマイコン31に出力する。
【0025】
図3に示すように、マイコン31は、アシストトルク演算部40と、電流指令値演算部28と、モータ駆動信号生成部29と、を備える。
アシストトルク演算部40は、操舵トルクTh及び車速Vに基づいてモータ12に発生させるべきアシストトルク指令値Tasを演算し、その演算結果を電流指令値演算部28に出力する。電流指令値演算部28はアシストトルク指令値Tasに対応した電流指令値Icを演算し、その演算結果をモータ駆動信号生成部29に出力する。
【0026】
モータ駆動信号生成部29は、電流指令値Icに実電流値Iを追従させる電流フィードバック制御を実行することでモータ駆動信号を生成する。インバータ回路30は、モータ駆動信号生成部29からのモータ駆動信号(実電流値I)に基づきモータ12を駆動させる。このモータ12の駆動を通じてステアリングシャフト3にアシストトルクが加えられる。
【0027】
図3に示すように、アシストトルク演算部40は、基本アシストトルク演算部41と、目標転舵角演算部44と、転舵角フィードバック制御部45と、転舵角演算部43と、加算器46と、減算器47と、ロードインフォメーション制御部50と、を備える。なお、このアシストトルク演算部40における各制御ブロックは、マイコン31が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。
【0028】
基本アシストトルク演算部41は、トルクセンサ24により検出される操舵トルクTh、及び車速センサ26により検出される車速Vに基づいて基本アシストトルク指令値Tabを演算し、その演算結果を減算器47に出力する。基本アシストトルク演算部41は、操舵トルクThが大きいほど基本アシストトルク指令値Tabを大きくする。また、車速Vが速いほど基本アシストトルク指令値Tabを小さくする。
【0029】
減算器47は、基本アシストトルク指令値Tabに対して、ロードインフォメーション制御部50からのRIF(ロードインフォメーション)指令値Trif*を差し引くことで基本アシストトルク指令値Tab*を算出し、その算出した基本アシストトルク指令値Tab*を目標転舵角演算部44及び加算器46に出力する。ロードインフォメーション制御部50の構成及び作用については後で詳述する。
【0030】
目標転舵角演算部44は、操舵トルクTh及び基本アシストトルク指令値Tab*の総和からなる合計トルクTtに応じた理想的なタイヤの切れ角(転舵角)である目標転舵角θpを演算し、その演算結果を転舵角フィードバック制御部45に出力する。この合計トルクTtは入力トルクに相当する。
【0031】
転舵角演算部43は、回転角センサ7を通じて検出されたモータ回転角θmに基づき実転舵角θpsを演算し、その演算結果を転舵角フィードバック制御部45及びロードインフォメーション制御部50に出力する。
【0032】
加算器46は基本アシストトルク指令値Tab*に対して、転舵角フィードバック制御部45からのアシストトルク補正値ΔTabを足し合わせることでアシストトルク指令値Tasを演算し、その演算結果を電流指令値演算部28に出力する。転舵角フィードバック制御部45は、アシストトルク補正値ΔTabの大きさの調整を通じて、実転舵角θpsが目標転舵角θpとなるようにフィードバック制御を実行する。これにより、例えば、転舵輪側から操舵系に伝達される逆入力トルクによりラックアンドピニオン機構4が振動するような場合でも、実転舵角θpsが目標転舵角θpとなるようにアシストトルク補正値ΔTabの大きさが調整される。このため、路面状況に伴うステアリング2の振動を抑制することができる。よって、より安定した操舵フィーリングが得られる。
【0033】
図4に示すように、ロードインフォメーション制御部50は、切替制御部55と、エンド判定時ゲイン演算部54と、エンド判定部56と、通常時ゲイン演算部52と、乗算器53と、加算器58とを備えている。
【0034】
ロードインフォメーション制御部50は、RIF(ロードインフォメーション)ゲインKrifを「0」及び「1」間で自在に制御可能である。ロードインフォメーション制御部50は、減算器47へのRIF指令値Trif*の出力を通じてRIFゲインKrifの大きさに応じた逆入力トルクを、ロードインフォメーションとしてステアリング2に伝達する。例えば、RIFゲインKrifが「0」のとき、逆入力トルクの全てが除去されて、ロードインフォメーションがステアリング2に付与されない。
【0035】
一方、RIFゲインKrifが「1」のとき、図3に示すように、減算器47に入力されるRIF指令値Trif*がアシストトルク補正値ΔTabと同一値となる。よって、減算器47に入力されるRIF指令値Trif*が加算器46に入力されるアシストトルク補正値ΔTabを打ち消すように作用する。従って、RIFゲインKrifが「1」のとき、転舵角フィードバック制御部45による実転舵角θpsを目標転舵角θpとする制御が仮想的に停止される。よって、逆入力トルクの全てがロードインフォメーションとしてステアリング2に付与される。
【0036】
具体的には、図4に示すように、切替制御部55は、通常時ゲイン演算部52及びエンド判定時ゲイン演算部54間で接続状態を切り替える。切替制御部55は、接続された通常時ゲイン演算部52又はエンド判定時ゲイン演算部54からのRIFゲインKrifを乗算器53に出力する。乗算器53は、アシストトルク補正値ΔTab及びRIFゲインKrifを乗算し、その乗算したRIF指令値Trif*を減算器47に出力する。
【0037】
通常時ゲイン演算部52は、車速Vに応じてRIFゲインKrifを演算し、その演算したRIFゲインKrifを切替制御部55に出力する。詳しくは、通常時ゲイン演算部52は、車速が車速V1以下の領域についてはRIFゲインKrifを「1」に設定し、車速V1を越えた領域においては車速Vが速くなるにつれてRIFゲインKrifを小さく設定する。
【0038】
加算器58は、実転舵角θpsに対して目標転舵角θpを差し引いた角度偏差Δθを算出し、その角度偏差Δθをエンド判定部56に出力する。また、エンド判定部56には、目標転舵角θp及び操舵トルクThが出力されている。
【0039】
エンド判定部56は、目標転舵角θpがエンド付近の角度となって、かつ角度偏差Δθが閾値θth以上となったとき、エンド当て状態であると判断し、エンドフラグをオンとする。このエンド当て状態とは、ラック軸5の端部がラックハウジングに当接した状態をいう。
【0040】
エンド当て状態において、さらにエンド方向(ステアリングの中立位置と反対方向)に操舵トルクThが加えられると、操舵トルクThの増加に対して実転舵角θpsが増加しないため、目標転舵角θpと実転舵角θpsとの差、すなわち角度偏差Δθが大きくなる。この閾値θthは、エンド当て状態以外では生じない角度偏差Δθに設定されている。
【0041】
エンド判定部56は、解除条件が成立したときエンドフラグをオフとする。解除条件は、例えば、実転舵角θpsがエンド付近の角度にないこと、角度偏差Δθ、角度偏差Δθの時間変化率及び操舵トルクThが所定値以下であることである。
【0042】
エンド判定時ゲイン演算部54は、エンド判定部56を通じてエンドフラグのオンオフ状態を監視し、その状態に応じてRIFゲインKrifを演算し、その演算したRIFゲインKrifを切替制御部55に出力する。
【0043】
詳しくは、図5に示すように、エンド判定時ゲイン演算部54は、時刻t1において、エンドフラグがオフ状態からオン状態に切り替わると、RIFゲインKrifを「0」から「1」に急激に増大させる。RIFゲインKrifが「0」から「1」となるまで一定時間T1を要する。
【0044】
そして、エンド判定時ゲイン演算部54は、時刻t2において、エンドフラグがオン状態からオフ状態に切り替わると、RIFゲインKrifを「1」から「0」に徐々に減少させる。RIFゲインKrifが「1」から「0」となるまで上記一定時間T1より長い一定時間T2を要する。すなわち、RIFゲインKrifを「1」から「0」とする際の傾きを、RIFゲインKrifを「0」から「1」とする際の傾きより小さく設定する。
【0045】
この一定時間T2は、角度偏差Δθが大きい状態で、実転舵角θpsを目標転舵角θpとする制御が急に開始されることに伴うステアリング2の操作の違和感を抑制する目的で設定されている。このステアリング2の操作の違和感とは、エンド当て状態からステアリングが中立位置側に戻されるとき、エンド方向にアシストトルクが加えられることによって生じる。
【0046】
エンド判定部56は、エンドフラグがオフ状態にあるとき、切替制御部55を通常時ゲイン演算部52に接続した状態とする。この状態においては、通常時ゲイン演算部52からのRIFゲインKrifが乗算器53に出力される。エンド判定部56は、エンドフラグがオン状態にあるとき、切替制御部55をエンド判定時ゲイン演算部54に接続した状態とする。
【0047】
次に、図6のフローチャートを参照しつつ、エンド判定部56の処理手順について説明する。
エンド判定部56は、実転舵角θpsがエンド付近の角度となるか否かを判断する(S101)。正のエンド付近角度を+θendとし、負のエンド付近角度を−θendとすると、ステップS101の判断は、「θps≦−θend」または「θps≧+θend」が成立するか否かで判断される。
【0048】
エンド判定部56は、実転舵角θpsがエンド付近の角度である旨判断すると(S101でYES)、角度偏差Δθが閾値θth以上となるか否かを判断する(S102)。エンド判定部56は、角度偏差Δθが閾値θth以上となる旨判断すると(S102でYES)、エンドフラグをオン状態とするとともに、切替制御部55をエンド判定時ゲイン演算部54に接続した状態とする(S103)。以上で、エンド判定部56は処理を終了する。また、エンド判定部56は、角度偏差Δθが閾値θth未満である旨判断すると(S102でNO)、エンドフラグを切り替えずに処理を終了する。
【0049】
一方、エンド判定部56は、実転舵角θpsがエンド付近の角度でない旨判断すると(S101でNO)、上記解除条件が成立するか否かを判断する(S104)。エンド判定部56は、上記解除条件が成立する旨判断すると(S104でYES)、エンドフラグをオフ状態とするとともに、切替制御部55を通常時ゲイン演算部52に接続した状態とする(S105)。以上で、エンド判定部56は処理を終了する。
【0050】
次に、図7のフローチャートを参照しつつ、エンド判定時ゲイン演算部54の処理手順について説明する。
まず、エンド判定時ゲイン演算部54は、エンド判定部56を通じてエンドフラグがオンであるか否かを判断する(S201)。エンド判定時ゲイン演算部54は、エンドフラグがオンである旨判断すると(S201でYES)、RIFゲインKrifの目標値を「1」に設定する(S202)。これにより、上記図5に示すように、RIFゲインKrifが「1」に制御される。
【0051】
一方、エンド判定時ゲイン演算部54は、エンドフラグがオフ状態である旨判断すると(S201でNO)、RIFゲインKrifの目標値を「0」に設定する(S203)。これにより、上記図5に示すように、RIFゲインKrifが「0」に制御される。
【0052】
なお、基本アシストトルク指令値Tab*は第1の指令値に相当し、アシストトルク補正値ΔTabは第2の指令値に相当し、RIF指令値Trif*は第3の指令値に相当する。また、
基本アシストトルク演算部41は第1の制御手段に相当し、転舵角フィードバック制御部45は第2の制御手段に相当し、エンド判定部56はエンド当て判定手段に相当する。さらに、電流指令値演算部28、モータ駆動信号生成部29、インバータ回路30及びモータ12は、操舵力付与手段に相当する。
【0053】
以上、説明した実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)角度偏差Δθが閾値以上となったときエンド当て状態である旨の判定がされる。この角度偏差Δθは、ステアリングシャフト3(特にインタミディエイトシャフト)に大きな軸力が生じる前に閾値以上となる。例えば、ステアリングシャフト3に生じるトルクを通じてエンド当て状態である旨の判定を行う従来構成では、その閾値は、エンド当て状態以外の通常の状況では発生しないトルクに設定する必要がある。そのため、おのずと閾値が大きくなって、エンド当て状態である旨の判定が遅延する。その点、上記構成においては、実転舵角θpsが目標転舵角θpに制御されるため、当該通常の状況では大きな角度偏差Δθは発生しない。よって、エンド当て判定に係る閾値θthを小さくすること、ひいてはより迅速にエンド当て状態である旨の判定を行うことができる。
【0054】
(2)エンド当て状態であると判断されると、転舵角フィードバック制御部45における実転舵角θpsを目標転舵角θpとする制御が仮想的に停止される。よって、エンド当て状態から、エンド方向にアシストトルクが付与されることが抑制される。これにより、ステアリングシャフト3に大きなトルクが加わることが抑制される。
【0055】
(3)ロードインフォメーション制御部50は、RIFゲインKrifを変化させることで、車輪からステアリングシャフト3への逆入力トルクの伝達の度合いを調整する。これにより、車速Vに応じて路面情報がユーザに伝達される。また、このRIFゲインKrifを「1」とすることで、RIF指令値Trif*がアシストトルク補正値ΔTabを打ち消すように作用させることができる。このとき、転舵角フィードバック制御部45による実転舵角θpsを目標転舵角θpとする制御が仮想的に停止される。
【0056】
(4)エンド当て状態の解除条件が成立したとき、エンド当て状態であると判定されたときに比べて、RIFゲインKrifが「1」から「0」に緩やかに変化させる。例えば、RIFゲインKrifが急激に「1」から「0」に切り替えられた場合には、急に実転舵角θpsを目標転舵角θpとする制御が開始されることになる。この場合、エンド当て状態からステアリングが戻されるとき、角度偏差Δθを解消するべくエンド方向にアシストトルクが加えられる。これにより、ステアリングの操作に違和感が生じうる。この点、上記構成では、RIFゲインKrifを緩やかに変化させることで、この違和感を抑制することができる。
【0057】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態においては、目標転舵角演算部44は、入力トルクとして合計トルクTtに基づき目標転舵角θpを演算していたが、入力トルクとして操舵トルクThのみ、又は基本アシストトルク指令値Tabのみに基づき、目標転舵角θpを演算してもよい。
【0058】
・上記実施形態においては、エンド判定部56を通じてエンド当て状態である旨判断されると、RIFゲインKrifが「1」に制御される。しかし、エンド判定部56を通じてエンド当て状態である旨判断されると、例えば、電流指令値Icを減少させてもよい。これにより、エンド当て状態における過電流に伴うモータ12等の発熱を抑制することができる。
【0059】
・上記実施形態においては、エンド当て状態となったとき、実転舵角θpsを目標転舵角θpとする制御が仮想的に停止されていた。しかし、仮想的ではなく、実際に転舵角フィードバック制御部45の動作を停止してもよい。この場合、ロードインフォメーション制御部50からのRIF指令値Trif*の出力も停止する必要がある。
【符号の説明】
【0060】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、4…ラックアンドピニオン機構、5…ラック軸、7…回転角センサ、10…EPSアクチュエータ、11…モータ制御装置、12…モータ、13…減速機構、15…トーションバー、24…トルクセンサ、26…車速センサ、28…電流指令値演算部、29…モータ駆動信号生成部、30…インバータ回路、31…マイコン、35…電流センサ、40…アシストトルク演算部、41…基本アシストトルク演算部、43…転舵角演算部、44…目標転舵角演算部、45…転舵角フィードバック制御部、46…加算器、47…減算器、50…ロードインフォメーション制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7