【文献】
59.石炭軟化溶融時の流動性に対する多環芳香族炭化水素類の添加効果,第43回 石炭科学会議発表論文集,一般社団法人日本エネルギー学会,2006年10月12日,p.119-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高炉用コークスは、高炉内において、還元材、熱源、そして通気性を保つための支持材として用いられている。このような役割を担う高炉用コークスは、高炉内に装入された際に粉化すると高炉の通気性を悪化させるので、それを防止するために高い強度を有することが要求されている。そこで、コークス原料である石炭の事前処理方法を工夫することによって高い強度のコークスを製造する技術が各種検討されている。その一例として、コークス炉に装入する前の石炭の粒度分布の適正化、すなわち、粒径3mm以下の粒子の割合が70〜90質量%になるように粒度分布を調整することによってコークス強度を制御する方法などが知られている。
【0003】
また、高炉用コークスを製造する際には、通常、複数の銘柄の石炭を混合した配合炭を用いており、そのため従来から、配合炭を原料として製造されるコークスの強度推定法が検討されてきた。そのなかで、特に、「基質強度と流動性を指標としたコークス強度推定法」による方法が一般的に行われている。この方法は、石炭の性状として、ビトリニット平均反射率(Roの平均値)とギーセラープラストメーターの最高流動度(MF)との2つの指標をパラメータとしてコークス強度を推定する方法である。
【0004】
すなわち、石炭を乾留してコークスを製造する際の因子として、石炭の石炭化度を示すビトリニット平均反射率(Ro)と、石炭の粘結性を示す最高流動度(MF)との2つの特性を組み合わせ、この2つの特性の組み合わせに基づいて、製造されるコークスの強度を推定するという方法である。つまり、製造されるコークスの強度を確保するために、配合炭のビトリニット平均反射率(Ro)及び最高流動度(MF)が所定の範囲になるように原料炭を配合するという方法である。尚、石炭の流動性を示す最高流動度(MF)は、試験方法の特性から試験用攪拌棒の回転数(ddpm)またはその対数値(logMF=log[ddpm])で表されている。ここで、「ddpm」はDial Division per Minuteの略である。
【0005】
配合炭の最高流動度の具体的な数値としては、配合炭の最高流動度の対数値(logMF)、つまり、混合する各原料炭の最高流動度の対数値(logMF)の加重平均値が1〜4の範囲内になるように、好ましくは2.0〜3.5の範囲内になるように、各種石炭が配合されているのが一般的である。但し、配合炭の最適な最高流動度(logMF)の範囲は、使用するコークス炉の特性や製造条件ごとに異なるので、上記の範囲を外れる場合も発生する。
【0006】
例えば、非特許文献1には、高強度のコークスを製造するためには、流動性が非常に重要な要因であることが示されている。更には、高強度のコークスを製造するためには、数種の銘柄を組み合わせて、配合炭の最高流動度(MF)を適正化することが重要であり、配合炭の流動性が不足しているとコークス強度が低下することが記載されている。
【0007】
高炉用コークスは、良質粘結炭(強粘結炭)と、この良質粘結炭に比べて安価である非微粘結炭とを混合・配合して製造されているが、近年、高炉用コークス製造のために有利である良質粘結炭が世界的に不足している。非微粘結炭を良質粘結炭と同等或いは類似の特性に改質できれば、良質粘結炭の不足を補うことが可能となるのみならず、コークスの製造コストを低減することが可能となる。そこで、粘結性の低い石炭(非微粘結炭)を使用して、強度の高いコークスを製造する技術開発が進められている。
【0008】
例えば、特許文献1には、粘結性の低い石炭の改質及び利用方法として、非微粘結炭を良質粘結炭に比べてより細かく粉砕したのち、乾燥し、タール、重質油、ピッチ類などのバインダーを混練して擬似粒子化する原料炭の事前処理方法が提案されている。特許文献2には、タール重質留分を原料炭に添加して混合し、このタール重質留分が混合された原料炭を乾留し、高強度のコークスを製造する方法が提案されている。
【0009】
特許文献3には、熱間強度の高いコークスの表面に、湿式担持法によりガス化反応性向上効果を有する酸化物微粉末を担持させ、コークスのガス化反応性を向上させるコークス改質法が提案されている。特許文献4には、非粘結炭を非水素供与性溶剤と混合してスラリーとし、該スラリーを300〜420℃に加熱して溶剤抽出を行い、加熱後の前記スラリーを液部と非液部とに分離し、液部から溶剤を分離して抽出炭を得るとともに、前記非液部から非抽出炭を得て、軟化流動性に優れた前記抽出炭をコークス用原料とする非粘結炭の改質方法が提案されている。また、特許文献5及び特許文献6には、多量の酸素原子を含む低品位炭を重質油類とともに所定温度で加熱し、低品位炭の表面に重質油類の分解生成物を付着させ、処理過程で水を多量に発生させることなく、効率良く低品位炭を人造粘結炭に改質する方法が記載されている。
【0010】
ところで、非特許文献2には、石炭に各種プラスチックを混合し、そのときの石炭の粘結性及び流動性を調査した結果から、石炭にプラスチックを添加しても、プラスチック添加によって石炭の流動性が向上する効果は発現しないと報告されている。
【0011】
尚、コークス製造業界において、良質粘結炭と非微粘結炭との境界は明確には定義付けられていない。しかしながら、上述のように、高炉用コークスを製造する際には、最高流動度(logMF)が1〜4の範囲内になるように石炭を配合する場合が多いことを考慮すると、最高流動度(logMF)が1.0以下の範囲に該当する石炭は、それ単独では高炉用コークスに不向きな低品位な石炭であるといえる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
低品位炭を改質し、改質した低品位炭を原料炭の一部または全部として高炉用コークスを製造する場合、生産性向上の観点から、低品位炭の改質工程とコークス製造工程とを同時に行うことが望ましい。また、石炭の改質剤として、石炭と同様な固体状物質、望ましくは粉体を石炭に配合または投入する方法が簡便である。低品位炭の改質工程としてコークス炉とは別の熱処理工程を経ることや、石炭或いはコークスに酸化物や金属粉末などを付与する工程を経ることは、コスト的にも不利となる。
【0015】
この観点から上記従来技術を検証すると、特許文献1、4、5、6は、コークスを製造する前段階で石炭に事前処理を行う技術であり、特許文献3は、コークスの表面に酸化物微粉末を担持させる技術である。特許文献2は、タールを原料炭に添加して原料炭と混合する必要があり、単純な工程ではあるものの、液体のタールを改質剤として使用することから、専用の混合容器を用いた混合工程という事前処理が必要である。つまり、上記従来技術には、改善すべき点がある。非特許文献2は効果が見られないとしていることから論外である。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高強度のコークスを製造するべく石炭の特性である流動性を向上させるにあたり、改質剤として固体の粉体を使用し、且つ、石炭の改質工程とコークス製造工程とを同時に行うことのできる、簡単で効率的な石炭の改質方法を提供することである。つまり、石炭の流動性を向上させる効果を有する固体の粉体を、コークス原料となる石炭または配合炭に添加し、石炭の流動性を向上させる方法を提供することである。また、この石炭の改質方法を用いて、高強度のコークスを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]コークス用原料として用いる石炭に、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を添加し、石炭の流動性を向上させることを特徴とする、石炭の改質方法。
[2]前記石炭と前記芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物とを混合し、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の混合された石炭を乾留することを特徴とする、上記[1]に記載の石炭の改質方法。
[3]前記芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物が、フェノチアジン及び/またはカルバゾールであることを特徴とする、上記[1]または上記[2]に記載の石炭の改質方法。
[4]前記コークスは高炉用コークスであることを特徴とする、上記[1]ないし上記[3]の何れか1項に記載の石炭の改質方法。
[5]上記[1]ないし上記[4]の何れか1項に記載の石炭の改質方法を用いてコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フェノチアジンやカルバゾールなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を石炭に添加するという簡単な方法で、コークス用原料として用いる石炭の流動性を、入手時とは異なる流動性つまり入手時に比べて最高流動度(MF)の高い特性を有する石炭に改質することが実現でき、しかも、コークス炉でコークスを製造する際に合わせて改質することも可能であり、従来に比較して簡単且つ効率的に石炭を改質することが実現される。この改質により、最高流動度(MF)の高い石炭を確保しているのと同様の効果が生じ、これにより、高強度コークスの製造に必要な複数銘柄の石炭配合時の配合設計の自由度を高めることが実現される。また、流動性の乏しい低品位な石炭を用いても、石炭が改質されることで、従来、高品位の石炭を使用して製造されていたコークスと同等品質のコークスを製造することができ、コークスの製造コストを削減することが達成される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、高強度のコークスを得る上で必要となる、石炭の流動性を向上させること、つまりギーセラープラストメーターの最高流動度(MF)を高めることを目的として、種々の固体を石炭に添加して石炭を改質する方法を検討した。前述したように、ギーセラープラストメーターの最高流動度(MF)は、コークスの品質に影響を及ぼす石炭の重要特性の一つとして、一般的に採り上げられている。
【0022】
石炭の流動性を向上させる研究は従来から行われてきたが、そのほとんどが、石炭に重質油、タール類、または、事前に石炭から各種溶媒などを用いて抽出した抽出液/抽出物を混練する方法であり、これらは、簡便な方法というにはほど遠く、且つ、専用の設備が必要であり、工程も複雑であった。更に、それに加えて、金属または金属酸化物などを石炭の表面に付与し、石炭を活性化させる方法を並行して行うことも検討されてきた。
【0023】
一方、石炭に各種プラスチックを添加して流動性への影響を検討した非特許文献2においては、プラスチック添加による石炭の流動性向上効果は発現しないと報告されていた。
【0024】
本発明者らは種々の化合物を用いて石炭の流動性向上効果の確認試験を行い、その結果、重質油、タール類、石炭からの抽出物などに代表される様々な物質の混合物からなる物質ではなく、過去の知見に反して、単一の化合物もしくは幾つかの単一化合物の組合せを石炭に添加することで、石炭の流動特性が改善することを見出した。具体的には、フェノチアジンやカルバゾールなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を石炭に添加することで、石炭の流動特性が改善することを見出した。
【0025】
ここで、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物とは、アンモニアの水素1つが置換されている構造に相当する1級アミン、もしくは、アンモニアの水素2つが置換されている構造に相当する2級アミンであり、更に、それら置換基が芳香環を含んだものを指す。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族性を有する環状構造を有するものを指す。
【0026】
芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物であるフェノチアジン(phenothiazine)とは、化学式をC
12H
9NSとし、融点が184℃で、常温では固体であり、沸点が371℃である。他の芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の例として、カルバゾールの化学式はC
12H
9N、融点は246℃、N-フェニル-1-ナフチルアミンの化学式はC
16H
13N、融点は60℃である。これらは常温では固体である。
【0027】
一般に高炉用コークスの原料として供される石炭は加熱すると、350℃付近から軟化溶融を開始する。すなわち、一般に石炭の軟化溶融温度域は350℃以上であり、550℃以下の範囲で軟化溶融が進行する。軟化溶融時には、石炭の加熱分解反応が起こり、著しく質量が減少する。
【0028】
フェノチアジン、カルバゾール、N-フェニル-1-ナフチルアミンは、酸化防止剤、高分子連鎖反応の抑制剤、禁止剤として知られている。本発明者らは、石炭にフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を混合させると、前述した、フェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の特性によって、石炭の流動性が向上することを見出した。つまり、石炭とフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物とを混合し、乾留することで流動性が向上することを突き止めた。ここで、乾留とは、空気を遮断して固体有機物(フェノチアジン等)を強く加熱する操作である。
【0029】
芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の添加により、石炭の流動性が向上するメカニズムについて詳細には判明していないが、以下のように推察される。つまり、1級もしくは2級アミンは水素供与能を有するため、乾留過程、特に石炭の軟化溶融温度領域で水素を石炭分子に供与し、石炭分子の高分子化を一時的に抑制し、低分子状態を維持させる効果があるために、流動性を向上させると考えられる。更に、一般的な有機化合物は300〜400℃程度で分解もしくは揮発してしまうものが多いが、芳香環は熱的に比較的安定な構造であり、更に芳香環を有する化合物は比較的沸点が高くなるため、石炭の軟化溶融開始温度である350℃から450℃においても芳香環を有する化合物の一部は石炭内に残存し効果を発現することができると思われる。
【0030】
以下、本発明に係るフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の添加による石炭流動性の改善方法の実施形態例を説明する。
【0031】
流動性改善対象の石炭を、粒径5.0mm以下(目開き寸法5.0mmの篩いを通過した篩下)に粉砕し、好ましくは粒径5.0mm以下で且つそのうちの少なくとも70質量%以上が粒径3.0mm以下(目開き寸法3.0mmの篩いを通過した篩下)となるように粉砕し、この粉砕した石炭にフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の粉末を混合する。その際、フェノチアジンとカルバゾールなど、芳香環を有する1級もしくは2級の複数のアミン系化合物を添加してもよい。
【0032】
この石炭とフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の粉末との混合物を、350℃以上の温度で乾留する。高炉コークス用石炭は350℃以上に加熱されると流動する現象が発現し、この流動性が、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の添加によって向上する。また、上記では、常温で石炭とフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物とを混合しているが、昇温した石炭中にフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を添加しても構わない。
【0033】
更に、複数の銘柄の石炭を混合した配合炭をコークス炉に装入してコークスを製造する際に、1種以上の或る銘柄の石炭にフェノチアジンやカルバゾールなどの1種もしくは2種以上の芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の粉末を添加して混合し、この芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物粉末との混合物を、配合炭を構成する石炭としてコークスを製造してもよい。フェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の粉末と混合された石炭は、コークス炉での乾留時、加熱され昇熱する際にフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物によって流動性が改善され、他の銘柄の石炭と反応してコークスが製造される。
【0034】
コークスを製造する際の乾留温度は、一般的に1000〜1300℃と高温であるが、フェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物による流動性改善効果は350℃以上550℃以下の温度範囲で発現するものであり、コークス製造のための乾留時の昇熱過程で石炭は十分に改質される。石炭をコークスに乾留しないでフェノチアジンやカルバゾールなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物による石炭の流動性向上のみを目的とする場合には、乾留温度は350〜550℃で十分である。また、この場合の乾留時間は、石炭の種類などによっても左右されるので、流動性を改善しようとする石炭の少量を用いた予備実験を行うことで、適宜決定することができる。
【0035】
また、フェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の効果を阻害しない範囲で他の化合物がフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物に混合されたものを流動性改善剤として使用してもよく、更に、種類の異なる2種以上の、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を混合して使用してもよい。
【0036】
本発明に係る石炭の改質方法において、改質の対象となる石炭は、限定されず、例えば、強粘結炭、非微粘結炭などの高炉用コークスの原料として供される石炭の全てを対象とすることができるが、特に、低い最高流動度(MF)を有する非微粘結炭を単独で、または数種類の非微粘結炭が配合された配合炭を対象とすることが現実的である。また、本発明で改質剤として用いるフェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物は、その粒度について、特に規定するものではないが、効率的に改質したい場合には、粒径は細かく、例えば3mm以下とすることが好ましい。フェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の改質対象の石炭に対する配合量は、0.1質量%未満では効果が充分ではなく、15質量%超えではコスト的に非常に高いものになってしまうため、0.1〜15質量%が好ましい。種類の異なる2種以上の、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を混合して使用する場合には、それらの合計量が上記範囲にあればよい。
【0037】
上述のように、フェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物は粉末状にして添加してもよいが、添加する際の形態は特に制限されるものではない。例えば、タブレットに成形した状態で添加してもよく、溶剤などに溶解して溶液として添加してもよく、更に、スラリー状で添加してもよい。
【0038】
以上説明したように、本発明によれば、フェノチアジンなどの芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を石炭に添加するという簡単な方法で、コークス用原料として用いる石炭の流動性を、入手時とは異なる流動性、つまり入手時に比べて最高流動度(MF)の高い特性を有する石炭に改質することが実現でき、しかも、コークス炉でコークスを製造する際に合わせて改質することも可能であり、従来に比較して簡単且つ効率的に石炭の流動性を向上させ、且つ、高強度のコークスを製造することが実現される。
【実施例1】
【0039】
フェノチアジンを添加して、石炭の流動性を改質した例を説明する。改質試験に供した2種の石炭(A炭、B炭)の主な特性値を表1に示す。表1に示すように、A炭は、最高流動度(logMF)が1.0であって、このままでは高強度コークスの製造が不可能な低い流動度を有する低品位な石炭であり、B炭は、最高流動度(logMF)が3.3の強粘結性を示す石炭である。尚、表1のイナート量は不活性成分量を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
フェノチアジン添加による石炭の流動性向上は、以下の手順で確認した。先ず、粒径2.0mm以下に粉砕した石炭と市販のフェノチアジン粉末とを混合し、石炭とフェノチアジンとの混合試料を作製した。このとき、石炭に対するフェノチアジン粉末の混合量は、石炭に対するフェノチアジンの質量比が10質量%となるように調製した。この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この混合粉末を装入した容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで昇温することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。
【0042】
また、併せてフェノチアジンを混合しない単味炭(複数の銘柄を混合しない1銘柄の石炭)での最高流動度(logMF)の測定も行った。また比較例として、フェノチアジンの代わりに、ポリエチレンテレフタレート粉末(PET)、ポリスチレン粉末(PS)、テレフタル酸ジメチル、ジベンゾチオフェン、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、ジベンジルジスルフィド、アントロンをそれぞれ10質量%となるように石炭に添加し、これらの混合試料についても、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。測定結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、フェノチアジンを石炭に添加することで、A炭及びB炭の何れにおいても流動性が著しく向上し、最高流動度(MF)が上昇することがわかった。このことは、原料石炭の最高流動度(MF)の大小に拘らず、フェノチアジン添加は最高流動度(MF)の向上に有効であることを示している。更に、低品位なA炭におけるフェノチアジン添加後の最高流動度(logMF)は2.7であり、高強度コークス製造にとって適正な流動度であり、コークス化性が向上していることがわかった。
【0045】
これに対して、フェノチアジンと同様に、分子内に芳香環構造を有するPET、PS及びPETの構成単位物質であるテレフタル酸ジメチルの添加では、石炭の流動性が悪化する現象が認められた。また、分子内に芳香環及びヘテロ環双方を有するジベンゾチオフェンの添加では、流動性の変化はほとんどなく、流動性の向上効果は認められなかった。
【0046】
上述したようにフェノチアジンは酸化防止剤として知られるが、酸化防止剤として一般的に有用されている4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、ジベンジルジスルフィド、及びアントロンの添加も、流動性の向上効果は認められなかった。
【0047】
以上の結果から、フェノチアジンは石炭の流動性向上をもたらす効果のある物質であることがわかった。
【0048】
フェノチアジン添加による石炭及び単味炭でのJIS M8801の試験結果の詳細な温度プロファイルを
図1及び
図2に示す。
図1は、A炭における温度と流動度との関係を示す図、
図2は、B炭における温度と流動度との関係を示す図である。
図1及び
図2において、温度によって流動度は変化し、流動度の最高の値を最高流動度(MF)と定義する。後述する
図3及び
図4でも、最高流動度(MF)の定義は同一である。
【0049】
図1によれば、単味炭のときには最高流動度(logMF)が1.0であるA炭は、フェノチアジンの添加により、370℃付近から流動性を示し、440℃で最高流動度(logMF)となり、最高流動度(logMF)は2.7に達することが確認できた。また、
図2によれば、単味炭のときには最高流動度(logMF)が3.3であるB炭は、フェノチアジンの添加により、425℃で最高流動度(logMF)となり、その値は3.9にまで向上した。
【0050】
このように、本発明を適用することで、低品位の石炭の流動特性の向上のみならず、強粘結性を示す石炭に対しても流動性の向上効果が発現することがわかった。つまり、石炭へのフェノチアジン添加によって石炭の流動特性を改質できることが確認できた。
【実施例2】
【0051】
芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を添加して、石炭の流動性を改質した例を説明する。改質試験に供した石炭(C炭)の主な特性値を表3に示す。表3に示すように、C炭は、最高流動度(logMF)が0.4である低品位な石炭である。
【0052】
【表3】
【0053】
芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の添加による石炭の流動性向上は、以下の手順で確認した。先ず、粒径2.0mm以下に粉砕した石炭と、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の一例として市販のカルバゾール粉末またはN-フェニル-1-ナフチルアミン粉末とを混合し、石炭と、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物との混合試料を作製した。このとき、石炭に対する芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の粉末の混合量は、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の石炭に対する質量比が10質量%となるように調製した。この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この混合粉末を装入した容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで昇温することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。
【0054】
また、併せて芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を混合しない単味炭での最高流動度(logMF)の測定も行った。
【0055】
また比較例として、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の代わりに、アクリジンを10質量%となるように石炭に添加し、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。測定結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
表4に示すように、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物(カルバゾール及びN-フェニル-1-ナフチルアミン)を石炭に添加することで、流動性が著しく向上し、最高流動度(MF)が上昇することがわかった。
【0058】
これに対して、カルバゾールと同様に分子内に芳香環構造と窒素とを有しているが、窒素形態は1級アミンでも2級アミンでもない点でカルバゾールと異なるアクリジンの添加では、石炭の流動性は向上しなかった。前述した実施例1においても芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物以外の物質の添加では、流動性の向上効果は認められなかった。
【0059】
以上の結果から、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物は石炭の流動性向上をもたらす効果のある物質であることがわかった。
【0060】
芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の一つであるカルバゾール及びN-フェニル-1-ナフチルアミンの添加による石炭及び単味炭でのJIS M8801の試験結果の詳細な温度プロファイルを、それぞれ
図3及び
図4に示す。
図3は、C炭における温度と流動度との関係をカルバゾールの添加の有無で比較して示す図で、
図4は、C炭における温度と流動度との関係をN-フェニル-1-ナフチルアミンの添加の有無で比較して示す図である。
【0061】
図3及び
図4からも明らかなように、カルバゾール及びN-フェニル-1-ナフチルアミンを石炭に添加することで、最高流動度(logMF)が格段に向上することがわかる。
【実施例3】
【0062】
芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を添加して、石炭の流動性を改質した例を説明する。改質試験にはC炭を用いた。C炭は、最高流動度(logMF)が0.4であり、単独では高強度なコークスを製造することが困難な流動性の低い低品位な石炭である。
【0063】
芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の添加による石炭の流動性向上は、以下の手順で確認した。先ず、粒径2.0mm以下に粉砕した石炭と、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の一例として市販のフェノチアジン粉末またはカルバゾール粉末とを混合し、石炭と、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物との混合試料を作製した。このとき、石炭に対する芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の粉末の混合量は、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の石炭に対する質量比が0.2〜9質量%となるように調製した。
【0064】
この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この混合粉末を装入した容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで昇温することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(MF)の測定を行った。また、併せて芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を混合しない単味炭のみでの最高流動度(MF)の測定も行った。
【0065】
測定結果を
図5及び
図6に示す。
図5は、フェノチアジンの添加量と最高流動度(MF)との関係を示す図で、
図6は、カルバゾールの添加量と最高流動度(MF)との関係を示す図である。
【0066】
また比較例として、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の代わりに、ハイドロキノンを0.2〜9質量%となるように石炭に添加し、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(MF)の測定を行った。測定結果を
図7に示す。
図7は、ハイドロキノンの添加量と最高流動度(MF)との関係を示す図である。
【0067】
図5及び
図6に示すように、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物(フェノチアジン及びカルバゾール)の添加は1質量%の添加で流動性が向上することがわかった。更に添加量を増やしていくことで、添加量に応じて流動性が著しく向上し、4質量%以上では急激に向上することがわかった。
【0068】
これに対して、分子内に1級もしくは2級のアミン基をもたないハイドロキノンの添加では、石炭の流動性は向上しなかった。1質量%までの添加ではわずかに流動性を示すが、それ以上の添加では流動性を全く示さないことが判明した。ハイドロキノンだけでなく、前述した実施例1においても芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物以外の物質の添加では、流動性の向上効果は認められないことが示されている。
【0069】
このように、本発明を適用することで、石炭に対して流動性の向上効果が発現することがわかった。つまり、芳香環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物の石炭への添加によって石炭の流動特性を改質できることが確認できた。