特許第6036417号(P6036417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036417
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20161121BHJP
   F01L 13/00 20060101ALI20161121BHJP
   F02D 13/02 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
   F01L13/00 301Y
   F02D13/02 H
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-48153(P2013-48153)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-173533(P2014-173533A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(74)【代理人】
【識別番号】100148183
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊也
(72)【発明者】
【氏名】川合 啓之
(72)【発明者】
【氏名】増田 勝平
【審査官】 大城 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−19757(JP,A)
【文献】 特開2002−256910(JP,A)
【文献】 特開平11−294120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
F01L 13/00
F02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記駆動側回転体と同じ軸心になるように配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に形成される流体圧室と、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の少なくとも一方に設けられた仕切部と、
前記仕切部で前記流体圧室を仕切ることにより形成される進角室及び遅角室と、
前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相を所定位相へ拘束し又は解除するロック機構と、を備え、
前記ロック機構が、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体のいずれか一方の回転部材に収容されかつ前記駆動側回転体及び前記従動側回転体のいずれか他方の回転部材に対して出退可能なロック部材と、
前記ロック部材が突出したときに入り込むように前記他方の回転部材に形成された凹部と、
前記ロック部材が前記凹部に入り込む方向に突出するよう付勢する付勢部材と、
前記ロック部材が前記付勢部材の付勢力で突出して前記凹部に嵌入することにより前記相対回転位相を前記所定位相に拘束するロック状態において、前記内燃機関の温度が所定値未満のときは前記ロック状態の解除を不可能にし、前記温度が所定値以上になったときに前記ロック状態の解除を可能にするように形状が変化するロック状態保持部材を備えた弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記ロック部材は前記軸心に対して径方向に出退する請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記温度が所定値未満のとき、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材と係合することにより前記ロック状態の解除を不可能にしており、
前記温度が所定値以上のとき、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材との係合が解除されており、
前記温度が所定値以上且つ前記ロック部材の引退動作途中において、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材の引退を妨げる方向の力を前記ロック部材に作用させない請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
前記温度が所定値未満のとき、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材と係合することにより前記ロック状態の解除を不可能にしており、
前記温度が所定値以上且つ前記ロック部材の引退動作途中において、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材の引退を妨げない程度の付勢力を前記ロック部材に作用させている請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項5】
前記ロック状態保持部材は、バイメタルからなる請求項1乃至4のいずれか一項に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転体に対する従動側回転体の相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関(以下エンジンとも称する)の運転状況に応じて吸気弁及び排気弁の開閉時期を変更可能とする弁開閉時期制御装置が実用化されている。この弁開閉時期制御装置は、例えば、エンジンの作動による駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相を変化させることにより、従動側回転体の回転に伴って開閉される吸排気弁の開閉時期を変更する機構を有している。
【0003】
一般に、吸排気弁の最適な開閉時期はエンジンの始動時や車両の走行時などエンジンの運転状況により異なる。そこで、エンジンの始動時には、駆動側回転体の回転に対する従動側回転体の相対回転位相を最遅角位相と最進角位相との間の所定位相に拘束することにより、エンジンの始動に最適な吸排気弁の開閉時期を実現している。弁開閉時期制御装置は、相対回転位相をこれらの所定位相に拘束するためのロック機構を備えている。
【0004】
弁開閉時期制御装置に備えられたロック機構としては、例えば特許文献1に示すように、外部ロータ(本発明の駆動側回転体に相当)に挿入されたロックプレート(本発明のロック部材に相当)が内部ロータ(本発明の従動側回転体に相当)の径方向に出退するように構成され、ロックプレートの先端部が受容溝(本発明の凹部に相当)に嵌合するようにロックプレートを押し込み付勢するトーションスプリング(本発明の付勢部材に相当)を備えたものがある。また、この装置では、ロックプレートの先端部が先窄まり形状に形成され、受容溝の底部が奧窄まり形状に形成されて、ロックプレートと受容溝との嵌合の容易化を図っている。
【0005】
このようなロック機構により、相対回転位相が所定位相に拘束されるロック状態と拘束が解除されたロック解除状態とを切換えている。ロック状態とロック解除状態との切換えは、受容溝に繋がる流路を通して受容溝へ作動油を給排してロックプレートを受容溝から出退させることにより行われる。ロック状態からロック解除状態への切り換えは、例えばエンジンの温度により行われ、エンジンの冷間始動時からエンジンの温度が所定値未満のときにはロック状態に維持される。ロック状態の間は、ロック解除状態にならないように受容溝への作動油の供給が行われない制御がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−317314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された弁開閉時期制御装置においては、ロックプレートは径方向の外側から内側に向けて突出して受容溝と嵌合する。そのため、ロックプレートを受容溝に向けて付勢するトーションスプリングの付勢力が弱い場合に、エンジンの温度が所定値未満であってもエンジンの回転数が上昇してロックプレートに付勢力を上回る遠心力が作用するとロックプレートが受容溝から意図せずに引退し、ロック解除状態になるおそれがあった。
【0008】
また、ロックプレートの先端部が先窄まり形状であるため、エンジン始動時等の油圧が十分でない状態で生じる外部ロータと内部ロータとのバタつきによってロックプレートに抜け方向への外力が作用することがある。その結果、エンジンの温度が所定値未満で且つ過大な遠心力が発生していないにも拘らずロックプレートが受容溝から引退し、ロック解除状態になるおそれがあった。
【0009】
さらに、従来の弁開閉時期制御装置には、ロックプレートの出退方向がカム軸と平行な方向に設定されたものがある。そのような弁開閉時期制御装置において、ロックプレートの先端部が磨耗によって先窄まり形状に変形したり、あるいは、受容溝への出退を容易にすべく当初より先端を先窄まり形状に加工されたものがある。このような弁開閉時期制御装置においても、エンジン始動時の外部ロータと内部ロータとのバタつきによって、ロックプレートに対して引退方向の分力が作用し、エンジンの温度が所定値未満であっても不意にロックプレートが引退してロック解除状態になるおそれがあった。
【0010】
上記問題に鑑み、本発明は、エンジンの温度が所定値未満且つロック状態保持の制御がなされているときに、制御に反してロック部材が凹部から引退してロック解除状態になることを防止することができる弁開閉時期制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記駆動側回転体と同じ軸心になるように配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと同期回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に形成される流体圧室と、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の少なくとも一方に設けられた仕切部と、前記仕切部で前記流体圧室を仕切ることにより形成される進角室及び遅角室と、前記駆動側回転体に対する前記従動側回転体の相対回転位相を所定位相へ拘束し又は解除するロック機構と、を備え、前記ロック機構が、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体のいずれか一方の回転部材に収容されかつ前記駆動側回転体及び前記従動側回転体のいずれか他方の回転部材に対して出退可能なロック部材と、前記ロック部材が突出したときに入り込むように前記他方の回転部材に形成された凹部と、前記ロック部材が前記凹部に入り込む方向に突出するよう付勢する付勢部材と、前記ロック部材が前記付勢部材の付勢力で突出して前記凹部に嵌入することにより前記相対回転位相を前記所定位相に拘束するロック状態において、前記内燃機関の温度が所定値未満のときは前記ロック状態の解除を不可能にし、前記温度が所定値以上になったときに前記ロック状態の解除を可能にするように形状が変化するロック状態保持部材を備えた点にある。
【0012】
このような特徴構成とすれば、内燃機関の温度が所定値未満且つロック状態であってその状態が維持されるように制御されているときは、ロック状態保持部材によりロック状態の解除が不可能になっているため、ロック部材が引退する方向に外力が作用したとしても、ロック部材は凹部から引退しない。従って、弁開閉時期制御装置がロック状態保持部材を備えることにより、制御に反してロック部材が凹部から引退しロック解除状態になることを防止することができる。
【0013】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記ロック部材は前記軸心に対して径方向に出退すると好適である。
【0014】
ロック部材が軸心に対して径方向に出退するタイプの弁開閉時期制御装置において、内燃機関の温度が所定値未満且つロック状態にあってその状態が維持されるように制御されている場合であっても、内燃機関の回転数が上昇した時に、ロック部材が凹部から引退しロック解除状態になってしまうことがある。これは、ロック部材に作用する遠心力が、付勢部材の付勢力より大きくなるからである。しかし、このような構成とすれば、内燃機関の温度が所定値未満且つロック状態のときにはロック状態保持部材によりロック状態の解除が不可能になっているため、遠心力が付勢部材の付勢力を上回ったとしてもロック部材は凹部から引退せず、制御に反してロック解除状態になることを防止することができる。
【0015】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記温度が所定値未満のとき、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材と係合することにより前記ロック状態の解除を不可能にしており、前記温度が所定値以上のとき、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材との係合が解除されており、前記温度が所定値以上且つ前記ロック部材の引退動作途中において、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材の引退を妨げる方向の力を前記ロック部材に作用させないと好適である。
【0016】
このような構成とすれば、内燃機関の温度が所定値以上になり、ロック状態からロック解除状態に向けてロック部材が引退する動作の途中においては、ロック状態保持部材がロック部材の引退動作に影響を及ぼさないので、ロック部材の引退動作を滑らかに且つ迅速に行うことができる。
【0017】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材と係合することにより前記ロック状態の解除を不可能にしており、前記温度が所定値以上且つ前記ロック部材の引退動作途中において、前記ロック状態保持部材は、前記ロック部材の引退を妨げない程度の付勢力を前記ロック部材に作用させていると好適である。
【0018】
このような構成とすれば、内燃機関の温度が所定値以上になり、ロック状態からロック解除状態に向けてロック部材が引退する動作の途中でロック状態保持部材とロック部材とが当接し、それによりロック部材の引退を妨げる方向の力をロック部材に付与することがあったとしても、その力によりロック部材の引退が妨げられることはない。従って、確実にロック解除状態の動作を行うことができる。
【0019】
本発明に係る弁開閉時期制御装置においては、前記ロック状態保持部材は、バイメタルからなると好適である。
【0020】
バイメタルは温度に応じて形状が変化する材料である。このようにロック状態保持部材としてバイメタルを用いると、内燃機関の温度が所定値未満のときはロック部材と係合してロック状態の解除を不可能にし、温度が所定値以上になったときにロック部材との係合を解除してロック状態の解除を可能にするようにロック状態保持部材の形状を変化させることができる。これにより、内燃機関の温度が所定値未満且つロック状態のときにロック部材が引退する方向に外力が作用したとしても、ロック部材が凹部から引退しロック解除状態になることを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る弁開閉時期制御装置を含む内燃機関制御システムの構成を表す縦断面図である。
図2】ロック状態を表す、図1のII−II線断面図である。
図3】ロック解除状態を表す、図1のII−II線断面図である。
図4】ロック状態を表す、中間ロック機構の拡大図である。
図5】ロック解除状態を表す、中間ロック機構の拡大図である。
図6図4のVI−VI線断面図である。
図7図5のVII−VII線断面図である。
図8】ロック状態保持機構の構成を表す概略の斜視図である。
図9】ロック状態を表す、第2実施形態に係る弁開閉時期制御装置の中間ロック機構の拡大図である。
図10】ロック解除状態を表す、中間ロック機構の拡大図である。
図11】ロック状態保持機構の構成を表す概略の斜視図である。
図12】部材支持部の形状を表す断面図である。
図13】ロック状態を表す、第3実施形態に係る弁開閉時期制御装置の中間ロック機構の拡大図である。
図14】ロック解除状態を表す、中間ロック機構の拡大図である。
図15】ロック状態保持機構の構成を表す概略の斜視図である。
図16】ロック状態を表す、第3実施形態の変形例に係る弁開閉時期制御装置の中間ロック機構の拡大図である。
図17】ロック解除状態を表す、中間ロック機構の拡大図である。
図18図16のXVIII−XVIII線断面図である。
図19図17のXIX−XIX線断面図である。
図20】ロック状態保持機構の構成を表す概略の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
以下に本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。図1には、内燃機関としてのエンジンBにおける吸気バルブ(不図示)の開閉時期を設定する弁開閉時期制御装置Aと、エンジンBを制御するエンジン制御ユニット(ECU)21とを備えた内燃機関制御システムの構成が示されている。弁開閉時期制御装置Aは、エンジンBのクランクシャフトB1と同期回転する駆動側回転体としての焼結金属やアルミ合金等の金属製のハウジング1と、ハウジング1の内部に同軸上に配置され、エンジンBの弁開閉用のカムシャフトB2と同期回転する従動側回転体としての焼結金属製のインナロータ2とを有している。
【0023】
図1に示すように、ハウジング1は、フロントプレート1aと、タイミングスプロケット1bを一体に備えているリアプレート1cと、それらの間に組み付けられているアウタロータ1dとをねじ等で締結して一体化されている。インナロータ2は、カムシャフトB2の先端部に一体となるようにボルト2aで固定され、ハウジング1に対して一定の角度範囲内で相対回転可能に組み付けられている。カムシャフトB2は、エンジンBの吸気弁の開閉を制御するカム(不図示)の回転軸であり、エンジンBのシリンダヘッド(不図示)に回転自在に組み付けられている。なお、アウタロータ1dは駆動側回転体の一例であり、インナロータ2は従動側回転体の一例である。
【0024】
クランクシャフトB1が回転駆動すると、その回転駆動力が動力伝達部材B3を介してタイミングスプロケット1bに伝達され、ハウジング1が図2図3において矢印Sで示す回転方向に回転する。ハウジング1の回転に伴い、インナロータ2が回転方向Sに従動回転してカムシャフトB2が回転し、カムシャフトB2に設けられたカムがエンジンBの吸気弁を開閉させる。
【0025】
図2図3に示すように、ハウジング1とインナロータ2との間に4つの流体圧室3が形成されている。流体圧室3は、アウタロータ1dの内周側に回転方向Sで互いに離間して径方向内側に突出するように形成された4つの突出部4により区画されている。なお、本実施形態においては、流体圧室3の数が4つであるが、これに限られるものではない。
【0026】
それぞれの流体圧室3に面するインナロータ2の外周部分にはベーン溝5aが形成され、これらのベーン溝5aには仕切部を構成するベーン5が径方向に沿って摺動可能に装着されている。ベーン5は仕切部の一例である。ベーン5はベーン溝5aの底部に備えられたバネ(不図示)により、径方向外方に向けて付勢されている。
【0027】
流体圧室3は、ベーン5によって進角室3aと遅角室3bとに仕切られている。進角室3aと遅角室3bはそれぞれインナロータ2に形成された進角流路6aと遅角流路6bに接続されている。これらの進角流路6a及び遅角流路6bを介して、進角室3aと遅角室3bに対する作動流体(以下、作動油と称する)の供給・排出を行う流体給排機構7が設けられている。流体給排機構7の詳細については後述する。
【0028】
図1に示すように、インナロータ2とフロントプレート1aとに亘ってトーションスプリング2bが設けられている。トーションスプリング2bの付勢力により、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相が矢印S1で示す進角方向(進角室3aの容積が大きくなる方向)になるように付勢されている。なお、トーションスプリング2bは、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相が矢印S2で示す遅角方向(遅角室3bの容積が大きくなる方向)になるように付勢するものでもよい。
【0029】
弁開閉時期制御装置Aは、ハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相を、最進角位相(進角室3aの容積が最大になる位相)と最遅角位相(遅角室3bの容積が最大になる位相)との間の中間位相である中間ロック位相に拘束する中間ロック機構8を有している。中間ロック位相は所定位相の一例であり、中間ロック機構8はロック機構の一例である。中間ロック位相は、エンジンBを始動するのに最適な所定の位相、若しくはエンジンBの始動が可能な範囲内で排ガスを低減するのに適した位相である。
【0030】
次に、中間ロック機構8について説明する。中間ロック機構8は、インナロータ2のハウジング1に対する進角方向S1への相対回転を規制する第1ロック部9と、インナロータ2のハウジング1に対する遅角方向S2への相対回転を規制する第2ロック部10と、中間ロック位相に拘束するロック状態とその拘束を解除するロック解除状態とに切換え自在な切換機構を備えている。
【0031】
図2に示すように、中間ロック機構8は、ハウジング1に対するインナロータ2の相対回転を第1ロック部9と第2ロック部10とによって規制することにより、ハウジング1とインナロータ2との相対回転位相を中間ロック位相に拘束する。第1ロック部9と第2ロック部10は、一つの共通の突出部4に第2ロック部10が第1ロック部9よりも回転方向Sの下手側に位置するように配設されている。なお、第1ロック部9と第2ロック部10は、一つの共通の突出部4に第2ロック部10が第1ロック部9よりも回転方向Sの上手側に位置するように配設されていてもよい。
【0032】
第1ロック部9及び第2ロック部10のそれぞれは、アウタロータ1dに形成された第1挿入部9a及び第2挿入部10aに径方向内方側に向けて出退可能に収容されたプレート状の第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bを備えている。第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bはロック部材の一例である。第1ロック部9及び第2ロック部10のそれぞれは、第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bの先端部分が入り込むようインナロータ2に形成された第1凹部9c及び第2凹部10cを備えている。第1凹部9c及び第2凹部10cは凹部の一例である。さらに、第1ロック部9及び第2ロック部10のそれぞれは、第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bを径方向内方側に向けて突出付勢する付勢部材としての圧縮コイルスプリング9d,10dを備えている。圧縮コイルスプリング9d,10dは付勢部材の一例である。第1凹部9c及び第2凹部10cのそれぞれには、底面から回転軸心Xに向けてロック解除流路12が形成されている。回転軸心Xは軸心の一例である。
【0033】
第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bは、プレート面が回転軸心Xに沿う姿勢でインナロータ2に対して回転径方向に沿って出退可能に装着されている。第1凹部9c及び第2凹部10cは、長手方向が回転軸心Xに沿う溝状に形成されている。
【0034】
第1凹部9cは、図2図3に示すように、インナロータ2の外周面に開口する幅広の溝と、該溝の底面に開口する幅狭の溝とを備えたラチェット機構を構成している。幅広の溝と幅狭の溝は遅角方向S2の側の溝側面が互いに面一になるように形成されている。
【0035】
第1ロック部9においては、第1凹部9cからロック解除流路12を通って作動油が排出された状態で、ハウジング1とインナロータ2との相対回転により第1ロック部材9bが第1凹部9cに対向すると、圧縮コイルスプリング9dの付勢力により第1凹部9cの幅狭の溝に入り込む。これにより、インナロータ2のハウジング1に対する進角方向S1への相対回転を規制する。
【0036】
第2ロック部10においては、第2凹部10cからロック解除流路12を通って作動油が排出された状態で、ハウジング1とインナロータ2との相対回転により第2ロック部材10bが第2凹部10cに対向すると、圧縮コイルスプリング10dの付勢力により第2凹部10cに入り込む。これにより、インナロータ2のハウジング1に対する遅角方向S2への相対回転を規制する。
【0037】
図2に示すように、第1ロック部材9bが第1凹部9cに入り込み、且つ第2ロック部材10bが第2凹部10cに入り込んだ状態が、ハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相が中間ロック位相に拘束されたロック状態である。図3に示すように、ロック解除流路12を通って第1凹部9cと第2凹部10cとに作動油が供給されることにより、第1ロック部材9bが第1凹部9cから引退し、且つ第2ロック部材10bが第2凹部10cから引退した状態が、相対回転位相が拘束されないロック解除状態である。ロック状態とロック解除状態の切換制御はECU21により行われる。
【0038】
次に、流体給排機構7について説明する。流体給排機構7は、図1に示すように、エンジンBにより駆動されて作動油の供給を行う機械式のオイルポンプ18と、進角流路6a及び遅角流路6bに対する作動油の供給・排出を制御するスプール式のOCV(オイルコントロールバルブ)19と、ロック解除流路12への作動油の供給・排出を切り換える切換機構としてのスプール式のOSV(オイルスイッチングバルブ)20とを備え、ECU21はオイルポンプ18,OCV19,OSV20の作動を制御している。
【0039】
ECU21は、OCV19に対する通電量を制御することによりスプール弁の位置を変化させて、進角室3aへの作動油の供給及び遅角室3bからの作動油の排出を行う進角制御と、遅角室3bへの作動油の供給及び進角室3aからの作動油の排出を行う遅角制御と、進角室3a及び遅角室3bへの作動油の供給及び排出を遮断する制御とを実行する。
【0040】
本実施形態においては、OCV19への通電量が最大のときに進角制御が可能な作動油経路が形成され、進角流路6aから作動油が供給されることにより進角室3aの容積が増大して、ハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相が進角方向S1に変位する。OCV19への通電が遮断されたときに遅角制御が可能な作動油経路が形成され、遅角流路6bから作動油が供給されることにより遅角室3bの容積が増大して相対回転位相が遅角方向S2に変位する。
【0041】
OSV20は、ECU21による通電・遮断の制御に基づくスプール弁の位置変更により、ロック解除流路12を通って第1凹部9c,第2凹部10cへ作動油が供給される状態と、ロック解除流路12を通って第1凹部9c,第2凹部10cから作動油が排出される状態とに切り換えられる。
【0042】
エンジンBが停止している状態ではOSV20への通電が遮断されているので、図1に示すようにOSV20は作動油が供給される状態に切り換えられている。しかし、エンジンBの停止状態ではオイルポンプ18は駆動されないので、第1凹部9c及び第2凹部10cには作動油が供給されない。
【0043】
ECU21は、エンジンBが始動されるとOSV20に通電する制御を行う。これにより、第1凹部9c及び第2凹部10cから作動油が排出される状態にOSV20が切り換えられて、オイルポンプ18の駆動に拘わらず、第1凹部9c及び第2凹部10cへの作動油の供給が停止される。
【0044】
次に、ロック状態保持機構14について説明する。ロック状態保持機構14は、エンジンBの温度に応じて、第1ロック部材9bと第2ロック部材10bの機械的な保持とその解除を行う機構である。
【0045】
図1に示すように、ECU21には、エンジンBの温度を検出する温度センサ11が接続されている。温度センサ11により検出されたエンジンBの温度が所定値未満のときには、ECU21はロック状態を維持するように弁開閉時期制御装置Aを制御する。具体的には、OSV20に通電して、OSV20を排出状態に保持する。エンジンBの温度の所定値は車種ごとの仕様により決められ、例えば30〜60℃のうちの任意の温度である。
【0046】
ロック状態保持機構14は、切欠き部14aと、部材支持部14bと、ロック状態保持部材14cとを備えている。図4図6に示すように、エンジンBの温度が所定値未満且つロック状態にあるときは、第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bには、圧縮コイルスプリング9d,10dによる付勢力以外にロック状態保持機構14による保持機構が作用している。ロック状態保持機構14は、第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bをロック状態が後述する遠心力や引退方向の外力等の作用により解除されないように、機械的に第1ロック部材9b及び第2ロック部材10bを保持している。ロック状態保持機構14は第1ロック部9,第2ロック部10のいずれも同じ構造を適用しているため、以下では、第1ロック部9に設けられた構造について説明する。
【0047】
切欠き部14aは、第1ロック部材9bのフロントプレート1a又はリアプレート1cと対向する2面にそれぞれ形成された矩形状の凹部である。部材支持部14bは、ロック状態においてそれぞれの切欠き部14aと対向するフロントプレート1a及びリアプレート1cにそれぞれ形成されている。ロック状態保持部材14cは、それぞれの部材支持部14bに長手方向の両端が保持され、中央部14dが切欠き部14aに入り込んでいる。
【0048】
ロック状態保持部材14cは、バイメタルにより構成されており、エンジンBの温度により形状が変化する。すなわち、エンジンBの熱がロック状態保持部材14cに伝達され、エンジンBの温度変化によりロック状態保持部材14c自体の温度が変化し、これによりロック状態保持部材14cの形状が変化する。例えば、エンジンBを冷間状態から始動させた直後のようにエンジンBの温度が所定値未満のときは、図6図8に示すように、ロック状態保持部材14cは矩形状の部材の中央部14dが湾曲して突出した形状を有しており、中央部14dが第1ロック部材9bの切欠き部14aに入り込んでロック状態保持部材14cと第1ロック部材9bとが係合した状態となっている。ロック状態保持部材14cの両端部は部材支持部14bに保持されているものの固定されてはおらず、自由端となっている。このように、中央部14dが切欠き部14aに入り込んで係合している。このため、ロック状態を維持する制御がなされているときに、エンジンBの回転数の上昇により第1ロック部材9bに圧縮コイルスプリング9dの付勢力を上回る遠心力が作用したり、ハウジング1とインナロータ2のバタつきにより第1ロック部材9bに引退方向の外力が作用したとしても、第1ロック部材9bは引退することがない。従って、弁開閉時期制御装置Aがロック状態保持機構14を備えることにより、エンジンBの温度が所定値未満且つロック状態のときに、遠心力や引退方向の外力の作用により、制御に反して第1ロック部材9bが第1凹部9cから引退してロック解除状態になることを防止することができる。
【0049】
その後、エンジンBの暖気が終了するなどエンジンBの温度が所定値以上になったときは、図5図7に示すように、ロック状態保持部材14cの形状が変化し、ロック状態保持部材14cの中央部14dが切欠き部14aから引退し、ロック状態保持部材14cと第1ロック部材9bは接触しない状態になる。これが、ロック状態保持部材14cと第1ロック部材9bの切欠き部14aとの係合が解けた状態、すなわちロック解除が可能な状態である。この後、車両が定常運転を開始すると、ECU21がOSV20への通電を遮断する制御を行うことにより、ロック解除流路12を通って第1凹部9cと第2凹部10cとに作動油が供給され、第1ロック部材9bと第2ロック部材10bにロック解除の方向の油圧が作用する。この油圧により、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bは、ロック状態保持部材14cに妨げられることなく圧縮コイルスプリング9d,10dの付勢力に抗して第1凹部9c及び第2凹部10cからそれぞれ引退し、中間ロック機構8はロック解除状態になる。この後、ECU21はOCV19への通電量を制御して、ハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相を進角方向S1又は遅角方向S2に変位させることができる。
【0050】
このように、エンジンBの温度が所定値以上になったときには、ロック状態保持部材14cは第1ロック部材9b,第2ロック部材10bと接触していない。従って、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bの引退動作時には、ロック状態保持部材14cが第1ロック部材9b,第2ロック部材10bに影響を及ぼすことはなく、引退動作を滑らかに且つ迅速に行うことができる。
【0051】
車両が定常運転を行い、停止後にイグニッションをオフにすると、ディレー制御により、弁開閉時期制御装置Aはハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相を中間ロック位相に変位させる。このとき、ECU21はOSV20に通電する制御を行ってOSV20から作動油を排出する状態に切り替え、第1凹部9c,第2凹部10cに供給されたオイルを排出させる。そして相対回転位相が中間ロック位相になると、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bはそれぞれ、圧縮コイルスプリング9d,10dの付勢力により第1凹部9c,第2凹部10cに向けて突出し、ロック状態となる。このとき、切欠き部14aと部材支持部14bとが対向するが、未だエンジンBの温度は所定値以上であるため、ロック状態保持部材14cは、図7に示すような、切欠き部14aとの係合が解けた形状のままである。その後エンジンBの温度が低下して所定温度未満になると、ロック状態保持部材14cは変形して中央部14dが湾曲・突出して切欠き部14aに入り込み、図6に示すような、切欠き部14aと係合した状態となる。
【0052】
本実施形態においては、第1ロック部材9bの両側にロック状態保持機構14を設けたが、これに限られるものではない。第1ロック部材9bのいずれか一方にのみロック状態保持機構14を設けた構造であっても良い。
【0053】
本実施形態においては、エンジンBの温度を検出した温度センサ11を用いてロック状態保持部材14cの温度を判定したがこれに限られるものではない。直接的か間接的かを問わず、ロック状態保持部材14cの温度が検出でき、そこからエンジンBの温度を一義的に定めることができるものであれば、任意のセンサを用いることができる。
【0054】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態の説明においては、第1実施形態と同じ構成の箇所には同じ符号を付し、同様の構成に関する説明は省略する。本実施形態の弁開閉時期制御装置Aにおいては、ロック状態保持機構14の構造が第1実施形態と異なっており、その他の構造は同じである。本実施形態のロック状態保持機構14においても、第1ロック部9と第2ロック部10には同じ構造を適用しているため、以下では、第1ロック部9に設けられた構造について説明する。
【0055】
図9図11に示すように、第1ロック部材9bには、第1実施形態と同様、第1ロック部材9bのフロントプレート1a又はリアプレート1cと対向する2面にそれぞれ切欠き部14aが形成されている。本実施形態の切欠き部14aは第1ロック部材9bの上端角部が切り欠かれている点が第1実施形態と異なる。部材支持部14bは、第1実施形態と同様、ロック状態においてそれぞれの切欠き部14aと対向するフロントプレート1a及びリアプレート1cにそれぞれ形成されている。部材支持部14bの回転軸心Xに垂直な断面形状を図12に示す。
【0056】
エンジンBの温度が所定値未満且つロック状態にあるときは、切欠き部14aと部材支持部14bとが対向しており、ロック状態保持部材14cの中央部14dが大きく湾曲して切欠き部14aの底面14eに向けて突出している。このとき、ロック状態保持部材14cは、両端が自由端で部材支持部14bの端部14fに保持され、中央部14dが切欠き部14aの底面14eと当接している。このように、中央部14dが底面14eに向けて突出するようにロック状態保持部材14cが配置されることにより、ロック状態保持部材14cと第1ロック部材9bの切欠き部14aとが係合した状態となる。図9においては中央部14dと底面14eとの間に隙間がないが、少し隙間があっても良い。
【0057】
ロック状態保持機構14がこのような構造を有することにより、遠心力や引退方向の外力が第1ロック部材9bに作用したとしても、ロック状態保持部材14cの中央部14dと底面14eとが当接し、それ以上には第1ロック部材9bは引退することがない。従って、弁開閉時期制御装置Aがロック状態保持機構14を備えることにより、第1ロック部材9bに遠心力や引退方向の外力が作用して、第1ロック部材9bが意図せずに第1凹部9cから引退してロック解除状態になることを防止することができる。
【0058】
エンジンBの温度が所定値以上では、図10図12に示すように、ロック状態保持部材14cの形状が変化し、ロック状態保持部材14cの中央部14dの突出が小さくなる。これにより、中央部14dと底面14eとの距離が大きくなってロック状態保持部材14cと切欠き部14aとの係合が解かれた状態になるので、第1ロック部材9bの引退動作がロック状態保持部材14cにより妨げられず、ロック解除が可能な状態になる。この後、ロック解除流路12を通して第1凹部9cと第2凹部10cとに作動油を供給して第1ロック部材9bと第2ロック部材10bにロック解除の方向の油圧を作用させたときには、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bはそれぞれ、圧縮コイルスプリング9d,10dの付勢力に抗して第1凹部9c,第2凹部10cから引退し、中間ロック機構8はロック解除状態になる。なお、エンジンBの温度が所定値以上で、中央部14dの突出が全くなくなるようにロック状態保持部材14cが構成されていてもよい。
【0059】
ロック状態保持部材14cの中央部14dの突出が残存している場合に、第1ロック部材9bの引退動作途中で中央部14dと切欠き部14aの底面14eとが当接して第1ロック部材9bの引退を妨げる方向の力が第1ロック部材9bに作用する場合がある。この場合は、その力と圧縮コイルスプリング9dの付勢力の合計を上回る作動油圧力を第1ロック部材9bに作用させることにより、第1ロック部材9bの引退が妨げられることはなく、ロック状態を解除することができる。
【0060】
本実施形態においては、第1ロック部材9bの両側にロック状態保持機構14を設けたが、これに限られるものではない。第1ロック部材9bのいずれか一方にのみロック状態保持機構14を設けた構造であっても良い。
【0061】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の弁開閉時期制御装置Aにおいては、ロック状態保持機構14のロック状態保持部材14cとして形状記憶合金で作られた圧縮コイルばねが使われ、それに伴ってロック状態保持機構14の構造が第1,第2実施形態とは異なっている。形状記憶合金は、例えばニッケルチタン合金からなる。本実施形態のロック状態保持機構14においても、第1ロック部9と第2ロック部10には同じ構造を適用しているため、以下では、第1ロック部9に設けられた構造について説明する。
【0062】
図13図15に示すように、第1ロック部材9bの切欠き部14aは、第1実施形態,第2実施形態より大きくなっている。また、切欠き部14aとほぼ同じ大きさの部材支持部14bがフロントプレート1a及びリアプレート1cに形成されている。図14に示すように、ロック状態保持部材14cは切欠き部14aと部材支持部14bとで形成される空間に挿入されている。該空間において、ロック状態保持部材14cは、一端(図12では上端)は切欠き部14aの上面に支持され、他端(図12では下端)は部材支持部14bの下面に支持され、第1ロック部材9bに対して引退方向の付勢力を付与している。ロック状態保持部材14cは形状記憶合金を用いているので、エンジンBの温度が所定値以上では本来の形状に回復して本来の特性である所定のばね力を発揮し、所定値未満ではばね力を発揮せずに外力に対して塑性変形する。
【0063】
本実施形態においては、圧縮コイルスプリング9dは、ロック状態保持部材14cの付勢力又は第1凹部9cに供給された作動油の油圧のいずれか一方だけが作用した状態では、たとえ遠心力や引退方向の外力が作用してもロック状態が維持されるような強い付勢力を第1ロック部材9bに付与している。そして、ロック状態保持部材14cの付勢力と第1凹部9cに供給された作動油の油圧が同時に圧縮コイルスプリング9d作用した場合にのみ、その合力が圧縮コイルスプリング9dの付勢力を上回り、第1ロック部材9bは第1凹部9cから引退する。
【0064】
次に、本実施形態のロック状態保持部材14cの動作について説明する。車両が定常運転を行い、停止後にイグニッションをオフにすると、ディレー制御により、弁開閉時期制御装置Aはハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相を中間ロック位相に変位させる。このとき、ECU21はOSV20に通電する制御を行ってOSV20から作動油を排出する状態に切り替え、第1凹部9c,第2凹部10cに供給されたオイルを排出させる。このとき、エンジンBの温度は所定値以上であるためロック状態保持部材14cは本来の特性(所定のばね力)を発揮しており、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bを引退させる付勢力を発生させている。しかし、作動油が排出され作動油の油圧が第1ロック部材9b,第2ロック部材10bに作用していないため、上述したように圧縮コイルスプリング9d,10dの付勢力が勝り、相対回転位相が中間ロック位相になったときには、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bは第1凹部9c,第2凹部10cに突出して図12に示すロック状態となり、ディレー制御が終了する。このとき、ロック状態保持部材14cは付勢力を発生させたまま圧縮された状態である。
【0065】
イグニッションオフの状態が継続すると、エンジンBの温度が低下し、所定値未満になる。このとき、ロック状態保持部材14cは塑性変形し、圧縮された形状のままで付勢力をほとんど発揮しない状態となる。
【0066】
エンジンBが冷間状態でイグニッションをオンにすると、エンジンBの温度が所定値未満である間は、ECU21はOSV20へ通電する制御を行ってOSV20を排出状態に切り換える。これにより、第1凹部9c及び第2凹部10cへの作動油の供給が停止される。またこのとき、ロック状態保持部材14cは付勢力をほとんど発揮せずに圧縮された状態のままである。
【0067】
その後、エンジンBが暖気され、温度が所定値以上になると、ロック状態保持部材14cは所定のばね力を持つように特性が回復し、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bに対して引退方向の付勢力を付与するようになる。しかし、作動油が第1凹部9c,第2凹部10cに供給されていないため、ロック状態保持部材14cの付勢力は圧縮コイルスプリング9d,10dの付勢力を下回り、第1ロック部材9bと第2ロック部材10bはロック状態のままである。この状態では、上述したように、遠心力や引退方向の外力の作用による意図しないロック解除は発生しない。
【0068】
暖気が終了して、車両が定常運転を開始すると、ECU21がOSV20への通電を遮断する制御を行って、ロック解除流路12を通して第1凹部9cと第2凹部10cとに作動油が供給され、第1ロック部材9bと第2ロック部材10bにロック解除の方向の油圧を作用させる。この作動油の油圧とロック状態保持部材14cの付勢力との合力により、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bは圧縮コイルスプリング9d,10dの付勢力に抗して第1凹部9c及び第2凹部10cからそれぞれ引退し、図14に示すように、中間ロック機構8はロック解除状態になる。これにより、ECU21はOCV19への通電量を制御して、ハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相を進角方向S1又は遅角方向S2に変位させることができる。
【0069】
〔第3実施形態の変形例〕
次に、本発明の第3実施形態の変形例を図16図20に基づいて説明する。本変形例の弁開閉時期制御装置Aのロック状態保持機構14においては、部材支持部14bがフロントプレート1a及びリアプレート1cに形成されているのではなく、図20に示すように、アウタロータ1dにおいて第1ロック部材9bを挟んだ両側に形成されている。また、切欠き部14aは第1ロック部材9bの下端角部に形成されている。そのため、第1凹部9cに嵌入する第1ロック部材9bの体積は小さくなっている。ロック状態保持部材14cは切欠き部14aと部材支持部14bとで形成される空間に挿入されている。該空間において、ロック状態保持部材14cは、一端(図17では上端)は切欠き部14aの上面に支持され、他端(図17では下端)は部材支持部14bの下面に支持され、第1ロック部材9bに対して引退方向の付勢力を付与している。
【0070】
このように構成されたロック状態保持機構14においても、エンジンBの温度が所定値未満且つロック状態で第1ロック部材9b,第2ロック部材10bに遠心力や引退方向の外力が作用したときに、第1ロック部材9b,第2ロック部材10bが意図せずに第1凹部9c,第2凹部10cから引退してロック解除状態になることを防止することができる。
【0071】
なお、上記第1実施形態〜第3実施形態の変形例までは、中間ロック機構8にロック状態保持機構14を適用した弁開閉時期制御装置Aについて説明したが、これだけに限られるものではない。最進角位相、又は最遅角位相でハウジング1に対するインナロータ2の相対回転位相を拘束するタイプの弁開閉時期制御装置Aにおいても、同様のロック状態保持機構14を適用することができる。
【0072】
また、上記第1実施形態〜第3実施形態の変形例までは、第1ロック部材9bと第2ロック部材10bが回転軸心Xを中心とした径方向へ出退するタイプの弁開閉時期制御装置Aについて説明したが、これだけに限られるものではない。第1ロック部材9bと第2ロック部材10bが回転軸心Xに沿って出退するタイプの弁開閉時期制御装置Aについても、同様のロック状態保持機構14を適用することができる。
【0073】
上記の構成は可能な限り組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、内燃機関のクランクシャフトと同期して回転する駆動側回転体に対する従動側回転体の相対回転位相を制御する弁開閉時期制御装置に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 ハウジング(駆動側回転体)
2 インナロータ(従動側回転体)
3 流体圧室
3a 進角室
3b 遅角室
5 ベーン(仕切部)
8 中間ロック機構(ロック機構)
9b 第1ロック部材(ロック部材)
9c 第1凹部(凹部)
9d 圧縮コイルスプリング(付勢部材)
10b 第2ロック部材(ロック部材)
10c 第2凹部(凹部)
10d 圧縮コイルスプリング(付勢部材)
14c ロック状態保持部材
B エンジン(内燃機関)
B1 クランクシャフト
B2 カムシャフト
X 回転軸心(軸心)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20