(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1閾値以上から前記第2閾値以下の範囲に設定される前記電荷量は、前記触媒金属の表面における前記炭化水素化合物の解離吸着の反応速度定数(kc)に対する前記酸素の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が0.85φ〜1.0φの範囲(φは酸素分子を酸化剤とした場合の混合気の当量比を表す)となる電荷量であることを特徴とする請求項1記載の点火装置。
前記第1閾値未満、又は前記第2閾値超の範囲に設定される前記電荷量は、前記触媒金属の表面における前記炭化水素化合物の解離吸着の反応速度定数(kc)に対する前記酸素の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が0.4φ以下、又は1.3φ以上(φは酸素分子を酸化剤とした場合の混合気の当量比を表す)となる電荷量であることを特徴とする請求項1又は2記載の点火装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る点火装置を備える内燃機関の構成の一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、内燃機関10は、シリンダ12と、ピストン13と、シリンダ12及びピストン13により形成される燃焼室14と、シリンダ上部に設けられた吸気口15を開閉する吸気弁16と、シリンダ上部に設けられた排気口17を開閉する排気弁18と、後述する点火装置20と、を備えている。
【0017】
本実施形態の内燃機関10では、吸気行程において、吸気弁16が開きピストン13が下降することで、吸気口15から燃焼室14内に、炭化水素及び酸素を含む混合気が導入される。そして、圧縮行程において、吸気弁16が閉じてピストン13の上昇により混合気が圧縮され、点火装置20により圧縮混合気が点火される。これにより、混合気が燃焼して、ピストン13が押し下げられ、図示しないクランク軸に回転力が発生する。燃焼後の排ガスは、排気行程において排気弁18が開きピストン13が上昇することで、排気口17へ排出される。以下に、本実施形態に係る点火装置20の構成及び動作について説明する。
【0018】
図2は、本実施形態に係る点火装置の構成の一例を示す模式図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る点火装置20は、点火部22と、電荷帯電装置31と、を備えている。本実施形態では、
図1に示すように、点火部22は、シリンダ12内の燃焼室14の上面に設けられている。なお、不図示であるが点火部22とシリンダ12との間には絶縁性材料が設けられており、点火部22とシリンダ12との絶縁性が確保されている。
図2に示す点火部22は、混合気と接触する第1電極24と、第1電極24と対向して配置される第2電極26と、第1電極24と第2電極26との間に挟まれる誘電体28と、を備えている。また、電荷帯電装置31は、電源30と、制御装置32と、を備えており、電源30は、第1電極24及び第2電極26に電圧を印加するものであり、第1電極24及び第2電極26と電気的に接続されている。制御装置32は、制御装置32は、電源30の出力及び出力時期等を制御するものであり、電源30と電気的に接続されている。
【0019】
第1電極24は、炭化水素化合物及び酸素を含む混合気に対して酸化作用を有する触媒金属を含むものである。第1電極24は、例えば、板状若しくは多孔質状の触媒金属、或いは導電性の多孔体に触媒金属粒子を充填したもの等から構成される。混合気に対して酸化作用を有する触媒金属は、その表面における炭化水素化合物の解離吸着の反応速度と酸素の解離吸着の反応速度が、触媒金属に帯電する電荷量に応じて変化する触媒金属であり、例えば、白金、パラジウム、金、タングステン、モリブデン、ニッケル等が挙げられる。第2電極26は、導電性を有する材料であれば特に制限されるものではないが、例えば、白金、パラジウム、金、タングステン、モリブデン、ニッケル等が挙げられる。誘電体28は、絶縁性を有するものであって、電圧印加等により電荷が現れる誘電材料で形成されていれば特に制限されるものではなく、例えば、ガラス、チタン酸バリウム、アルミナ、雲母等が挙げられる。また、本実施形態では、誘電体28に代えて、固体電解質等を用いてもよい。固体電解質は、電圧印加等によりイオンを移動させることができる固体材料であり、例えば、安定化ジルコニア等が挙げられる。
【0020】
以下に、本実施形態の点火装置20の動作について説明する。
【0021】
本実施形態では、前述の圧縮行程において、吸気弁16が閉じてピストン13の上昇により混合気が圧縮され、点火装置20により混合気を点火する際に、第1電極24の触媒金属に電荷を帯電させる。より具体的には、混合気を点火する際に、例えば、制御装置32から電源30に出力指令が出され、それを受けた電源30から第1電極24及び第2電極26に電圧が印加され、両電極間に電位差がかけられる。そして、両電極間の電位差により、第1電極24に電界が形成され、第1電極24の触媒金属に電荷が帯電する。ここで、混合気を点火する際に触媒金属に帯電させる電荷の電荷量は、第1閾値以上から第1閾値より大きい第2閾値以下の範囲で設定される。すなわち、点火装置20により混合気を点火する際には、例えば、制御装置32により触媒金属に帯電させる電荷量が第1閾値以上から第2閾値以下の範囲に設定され、その設定された電荷量となるように、例えば予め設定された出力が電源30から供給される。第1閾値以上から第2閾値以下の範囲に設定される電荷量は、後述するように混合気の酸化反応を促進させるために設定される電荷量である。このように、触媒金属に帯電する電荷量を混合気の酸化反応が促進する電荷量に設定することで、混合気の酸化反応による熱発生量を増加させることができるため、その発生した熱で混合気を点火させることができる。特に、混合気の酸化反応が促進されることで、触媒金属表面は高温となるため、混合気の点火遅れ等が抑制され、混合気の点火時期において適切に混合気を点火させることができる。
【0022】
また、混合気の点火時以外では、点火装置による混合気の点火を阻害する必要がある。したがって、本実施形態では、混合気の点火を阻害する際に、触媒金属に帯電させる電荷の電荷量は上記第1閾値未満、又は上記第2閾値超の範囲に設定される。すなわち、点火装置20による混合気の点火を阻害する際には、例えば、制御装置32により触媒金属に帯電させる電荷量が第1閾値未満又は第2閾値超の範囲に設定され、その設定された電荷量となるように、例えば予め設定された出力が電源30から供給される。但し、第1閾値未満又は第2閾値超の範囲の電荷量を0に設定する場合には、例えば、制御装置32により
図2に示す点火部22に設置した放電回路34をONにして、混合気の点火の際に触媒金属に帯電させた電荷を消費して、触媒金属に帯電する電荷量を0としてもよい。第1閾値未満又は第2閾値超の範囲に設定される電荷量は、後述するように混合気の酸化反応を抑制するために設定される電荷量である。このように、触媒金属に帯電する電荷量を混合気の酸化反応を抑制する電荷量に設定することで、混合気の酸化反応による熱発生量が低下するため、混合気の点火遅れが生じて、混合気を点火させることを阻害することができる。
【0023】
以下に、触媒金属に帯電する電荷の電荷量と混合気の酸化反応との関係について説明する。
【0024】
図3は、触媒金属表面に電界を形成した場合の触媒金属表面におけるメタン及び酸素の解離吸着の活性化エネルギの変化をシミュレーションした結果を示す図である。ここで、触媒金属はPt(111)を用いている。
図3に示す正の電界は、触媒金属に正の電荷を帯電させた場合に形成され、負の電界は、触媒金属に負の電荷を帯電させた場合に形成される。そして、触媒金属の表面に帯電した正の電荷量を増加させると、正の電界強度が大きくなり、触媒金属の表面に帯電した負の電荷量を増加させると、負の電界強度が大きくなる。
【0025】
図3に示すように、Pt(111)を触媒金属として用いた場合、触媒金属に電荷を帯電させず、電界が0V/Åの場合(すなわち、電源30から第1電極24及び第2電極26に電圧を印加していない場合)、触媒金属の表面におけるメタンの解離吸着の活性化エネルギは酸素の解離吸着の活性化エネルギより大きくなっている。そして、触媒金属の表面を正に帯電させると(すなわち、電源30から第1電極24及び第2電極26に電圧を印加した場合)、酸素の解離吸着の活性化エネルギが大きくなり、メタンの解離吸着の活性化エネルギが小さくなる。
図3に示すように、触媒金属の表面における電界が0.15V/Å程度で、酸素の解離吸着の活性化エネルギとメタンの解離吸着の活性化エネルギとが同程度となり、さらに電界を高くすると、メタンの解離吸着の活性化エネルギは、酸素の解離吸着の活性化エネルギより小さくなる。
【0026】
図4は、触媒金属表面に電界を形成した場合の触媒金属表面におけるメタン及び酸素の解離吸着の活性化エネルギの変化をシミュレーションした結果を示す図である。ここで、触媒金属はPd(111)にAuをドープしたものを用いている。
図4に示すように、Pd(111)にAuをドープした触媒金属を用いた場合、触媒金属の表面に電荷を帯電させず、電界が0V/Åの場合(すなわち、電源30から第1電極24及び第2電極26に電圧を印加していない場合)、触媒金属の表面におけるメタンの解離吸着の活性化エネルギは酸素の解離吸着の活性化エネルギより小さくなっている。そして、触媒金属の表面を負に帯電させると(すなわち、電源30から第1電極24及び第2電極26に電圧を印加した場合)、メタンの解離吸着の活性化エネルギが大きくなり、触媒金属の表面における電界が−0.03V/Å程度で、酸素の解離吸着の活性化エネルギとメタンの解離吸着の活性化エネルギとが同程度となる。
【0027】
ここで、触媒金属の表面における酸素及びメタンの解離吸着の反応速度定数は、以下に示すアレニウスの式で与えられる。そして、このアレニウスの式から分かるように、例えば、触媒金属の表面におけるメタン又は酸素の解離吸着の活性化エネルギが大きいほど、メタン又は酸素の解離吸着の反応速度定数は小さくなる。
k=A・exp(−Ea/RT)
A:頻度因子
R:気体定数
T:温度
Ea:活性化エネルギ
【0028】
したがって、使用する触媒金属によって、帯電させる電荷の電荷量、極性は異なるが、触媒金属の表面に帯電する電荷の電荷量を制御することにより、触媒金属の表面におけるメタン及び酸素の解離吸着の反応速度を制御することが可能となる。なお、メタン以外の炭化水素化合物でも同様の原理が成立する。
【0029】
次に、酸素及びメタンの解離吸着の反応速度と混合気の点火遅れ時間との関係について説明する。
【0030】
図5は、酸素及びメタンの解離吸着の反応速度定数比における混合気の点火遅れ時間を当量比1の場合においてシミュレーションした結果を示す図である。
図6(a)〜(c)は、第1金属の触媒金属表面における混合気の状態を示す模式図である。ここで、触媒金属はPt(111)を用いている。
【0031】
触媒金属(Pt)の表面において、酸素分子の解離吸着の反応速度定数がメタンの解離吸着の反応速度定数より大きい場合、例えば、混合気の当量比が1の場合で、
図5に示すようにメタンの解離吸着の反応速度定数(kc)に対する酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が1.6付近の場合には、
図6(a)に示すように、触媒金属の表面は主に酸素原子で被覆された状態となっていると考えられる。この場合、触媒金属表面へのメタンの解離吸着は酸素原子によって阻害されているため、混合気を酸化反応させる触媒金属の触媒活性が小さくなり、触媒金属表面からの熱発生率も低下する。このような状態では、酸化反応による反応熱を混合気の点火に利用するまでに時間が掛かり、
図5に示すように、触媒金属表面に接触した混合気が点火するまでの時間、所謂、点火遅れ時間が長くなる。また、触媒金属(Pt)の表面において、酸素分子の解離吸着の反応速度定数とメタンの解離吸着の反応速度定数の比が混合気の当量比と同程度の場合、例えば
図5に示すようにメタンの解離吸着の反応速度定数(kc)に対する酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が1付近の場合には、
図6(b)に示すように、触媒金属の表面では、酸素分子の解離吸着だけでなく、メタンの解離吸着も起こるため、表面には酸素原子だけでなく、メタン由来の水素、炭素も供給されると考えられる。この場合には、触媒金属表面において混合気の酸化反応が効率良く起こるため、触媒金属表面の酸化反応による熱発生率も向上する。このような状態になると、酸化反応による反応熱を速やかに混合気の点火に利用できるため、
図5に示すように、点火遅れ時間が短くなる。また、触媒金属(Pt)の表面において、メタンの解離吸着の反応速度定数が酸素分子の解離吸着の反応速度定数より大きい場合、例えば、混合気の当量比が1の場合で、
図4に示すようにメタンの解離吸着の反応速度定数(kc)に対する酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が0.6付近の場合には、
図6(c)に示すように、触媒金属の表面に供給される酸素原子が不足すると考えられる。この場合には、触媒金属表面では、酸素原子が不足して、混合気の酸化反応が低下するため、触媒金属表面からの熱発生率も低下する。このような状態では、酸化反応による反応熱を混合気の点火に利用するまでに時間が掛かり、
図5に示すように、点火遅れ時間が長くなる。
【0032】
したがって、混合気を点火させる際に、第1閾値以上から第2閾値以下の範囲で設定される触媒金属に帯電させる電荷量を、酸素の解離吸着の反応速度定数(ko)とメタンの解離吸着の反応速度定数(kc)の比(ko/kc)が混合気の当量比(φ)と同程度となる電荷量に設定することが好ましい。これにより、触媒金属表面において混合気の酸化反応が促進されるため、混合気の点火遅れ等が抑制され、混合気を適切に点火させることができる。また、混合気の点火を阻害する際に、第1閾値未満又は第2閾値超の範囲で設定される触媒金属に帯電させる電荷量を、酸素の解離吸着の反応速度がメタンの解離吸着の反応速度より大きく又は小さくなる電荷量に設定することが好ましい。これにより、混合気の酸化反応が抑制されるため、混合気の点火遅れが生じ、混合気の点火を阻害することができる。
【0033】
以下に、メタンの解離吸着の反応速度定数(kc)に対する酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)の好ましい条件にについて説明する。
【0034】
図7は、温度、圧力及び混合気の当量比を変えた時の酸素及びメタンの解離吸着の反応速度比における混合気の点火遅れ時間をシミュレーションした結果を示す図である。混合気の点火遅れ時間は、例えば燃料室内の温度、圧力、混合気の当量比、運転状況等に依存するため、ここでは、(1)温度1000K、圧力10atm、混合気の当量比1、(2)温度900K、圧力10atm、混合気の当量比1、(3)温度800K、圧力10atm、混合気の当量比1、(4)温度900K、圧力20atm、混合気の当量比0.4、(5)温度900K、圧力10atm、混合気の当量比0.4、(6)温度900K、圧力1atm、混合気の当量比0.4、(7)温度900K、圧力1atm、混合気の当量比0.8、(8)温度900K、圧力1atm、混合気の当量比1.2の条件で酸素及びメタンの解離吸着の反応速度定数比における混合気の点火遅れ時間をシミュレーションした。また、
図7の点火遅れ時間は、様々な圧力、温度及び混合気の当量比を変えた時に得られた点火遅れ時間(t)を以下の式を用いて0〜1の間で規格化した値である。
規格化した点火遅れ時間=(t−t
min)/(t
no−s−t
min)
t
min:電荷量制御で達成される点火遅れ時間の最小値
t
no−s:触媒金属表面の触媒作用が全くないと仮定した場合の点火遅れ時間
【0035】
図7に示すように、メタンの解離吸着の反応速度定数(kc)に対する酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が0.85φ〜1.0φであれば、規格化された点火遅れ時間が0.3以下となる。
図7の規格化された点火遅れ時間が0.3以下であれば、点火遅れを抑制して、混合気を点火させることが可能であると言える。したがって、混合気を点火させる際には、第1閾値以上から第2閾値以下の範囲に設定される触媒金属に帯電する電荷の電荷量はメタンの解離吸着の反応速度定数(kc)に対する酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が0.85φ〜1.0φの範囲となる電荷量であることが好ましい。この場合、触媒金属に帯電する電荷の電荷量の第1閾値はko/kcが0.85φとなる電荷量であり、第2閾値はko/kcが1.0φとなる電荷量である。ここで、φは、酸素分子を酸化剤とした場合の混合気の当量比を表している。
【0036】
また、混合気の点火を阻害する際(非点火状態)においては、触媒金属に帯電する電荷の電荷量は第1閾値未満(例えば、ko/kcが0.85φとなる電荷量)、第2閾値超(例えば、ko/kcが1.0φとなる電荷量)の範囲で設定されればよい。しかし、
図7の規格化された点火遅れ時間が0.6以上であれば、ほとんど混合気の酸化反応が起こらないため、燃焼室14内の混合気が触媒金属上で点火し難くなり、非点火状態をより確実に維持することができる。したがって、混合気の点火を阻害する際(非点火状態)においては、第1閾値未満、又は第2閾値超の範囲に設定される触媒金属に帯電する電荷の電荷量は、メタンの解離吸着の反応速度定数(kc)に対する酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)の比(ko/kc)が0.4φ以下、又は1.3φ以上となる電荷量に設定することが好ましい。
【0037】
前述のように設定した電荷量を有する電荷を触媒金属に帯電させる方法としては、例えば、混合気を点火させる際、混合気の点火を阻害する際に設定されたメタン及び酸素の解離吸着の反応速度定数の比を、活性化エネルギの比に置き換えて、例えば、前述した
図3や
図4に当てはめることにより、混合気を点火させる際に必要な電界、混合気の点火を阻害する際に必要な電界強度を予め求めておく。そして、予め求めた電界強度が触媒金属に形成されるように、例えば、電荷帯電装置31から両電極間に電圧を印加すれば、触媒金属に所望の電荷量の電荷を帯電させることが可能となる。
【0038】
以上のように、混合気を点火する際、混合気の点火を阻害する際に、触媒金属に帯電する電荷の電荷量を設定することで、炭化水素化合物及び酸素を含む混合気の点火時期を制御することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態の点火装置では、触媒金属に電荷を帯電させるためにエネルギは消費されるが、混合気を点火する際に必要なエネルギは混合気の酸化反応の反応熱を利用するため、従来のスパークプラグやグロープラグのような点火装置を用いて混合気を点火する際に必要なエネルギよりは少なくて済むため、省エネルギ化を図ることが可能となる。また、本実施形態の点火装置では、混合気を酸化反応させる反応面を広くとることが可能であるため、火炎伝播が困難な希薄条件やメタン等の難燃性燃料を含む混合気においても確実に点火させることができる。
【0040】
本実施形態に用いられる触媒金属は、電荷を帯電させる際に使用するエネルギを少なくすることができる観点等から、例えば、触媒金属に形成される電界が−0.1〜0.1(V/Å)の範囲において、メタンの解離吸着の反応速度定数(kc)が、酸素分子の解離吸着の反応速度定数(ko)より大きくなる触媒金属を用いることが好ましく、より具体的には、白金、金をドープしたパラジウム、金をドープした白金等を用いることが好ましい。
【0041】
以下に、その他の実施形態の点火装置20について説明する。
【0042】
図8は、点火部の設置箇所の例を説明するための内燃機関の模式断面図である。点火部22は、触媒金属を含む第1電極24がシリンダ12内の燃焼室14内に配置されていれば、
図1に示す点火部22の位置に制限されるものではない。例えば、
図8(a)に示すように、シリンダ12内の燃焼室14の側面に設置されてもよい。
図8(a)に示す点火部22は、燃焼室14の側面の一部に設けられているが、燃焼室14の側面周囲を取り囲むように設けられていてもよいし、所定の間隔を空けて複数設けられていてもよい。また、例えば、
図8(b)に示すように、ピストン13の頂面に設置されてもよい。その際には、電磁誘導方式、電波方式等の非接触電力伝送装置や、後述するエレクトレット電極等の電源が不要な電荷帯電装置等を用いることが好ましい。より具体的には、例えば、
図8(b)に示すように、ピストン13に設置される電波受信装置と、シリンダ12の外部に設置される電波送信装置とを備える非接触電力伝送装置等が用いられる。
図8(b)に示す非接触電力伝送装置では、例えば、制御装置32からの出力信号が電波送信装置に送られると、送信装置から受信装置に電波が送られ、電波を受信した受信装置から点火部22に電力が供給される。
【0043】
図9は、その他の実施形態に係る点火装置の構成の一例を説明する模式図である。点火装置20は、触媒金属に電荷を帯電することができる構成であれば、
図2に示す点火装置20の構成に制限されるものではない。例えば、
図9(a)に示す点火装置20aのように、電源30が第2電極26と電気的に接続される構成であってもよい。
図9(a)の点火装置20aでは、例えば、電源30から第2電極26に正電圧を印加すると、誘電体28が分極して、対向する第1電極24の触媒金属には正電荷が帯電する(すなわち、触媒金属には正の電界が形成される)。また、
図9(b)に示す点火装置20bのように、点火部22と電荷帯電装置31との間に充放電装置36を設置してもよい。
図9(b)に示す点火装置20bでは、充放電装置36により、例えば、混合気の非点火時において、混合気を点火させる際に触媒金属表面に帯電した電荷を回収することが可能となる。
【0044】
また、
図9(c)に示す点火装置20cは、前述の第1電極24から構成される点火部22、エレクトレット電極から構成される電荷帯電装置31を備えるものである。エレクトレット電極は、例えば支持基板と、支持基板上に設けられるエレクトレット膜とから構成されており、エレクトレット膜が、第1電極24と所定の間隔を空けて対向配置されている。また、エレクトレット電極は、空気圧又は電動モータ等により駆動されるアクチュエータ等の移動機構(不図示)に固定されており、第1電極24に近づいたり離れたりすることが可能となっている。エレクトレット膜は常に正電荷又は負電荷に帯電しているため、混合気を点火させる際には、移動機構によりエレクトレット電極を第1電極24に近づけることにより、第1電極24の触媒金属に電荷を帯電させることができる。そして、触媒金属に帯電する電荷の電荷量は、第1電極24とエレクトレット電極との距離により調節される。このような電圧を印加しないで、触媒金属に電荷を帯電させる方法を用いれば、より点火の際に必要なエネルギは少なくて済み、更なる省エネルギ化を図ることが可能となる。
【0045】
エレクトレット膜は、例えば、コロナ放電により注入された正電荷や負電荷を半永久的に保持することができる電荷保持材料等であり、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルクロライド(PVC)等のような高分子電荷保持材料や、シリコン酸化物(SiO
2)及びシリコン窒化物(SiN)のような無機電荷保持材料、イオン伝導を利用したセラミックエレクトレット材料等が挙げられる。
【0046】
本実施形態の点火装置20は内燃機関の点火装置に限定されるものではなく、例えば、内燃機関から排出される未燃メタンガス等を含む排気ガスを燃焼させて浄化する浄化装置等の点火装置として用いることも可能である。以下に、本実施形態の点火装置20を備える浄化装置について説明する。
【0047】
図10(a)及び(b)は、本実施形態の点火装置を備える浄化装置の構成の一例を示す模式断面図である。
図10に示す点火装置において、
図2に示す点火装置20と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
図10(a)に示す浄化装置38aは、点火装置と、排ガス導入管40と、排ガス排出管42と、を備えるものである。点火装置は、点火部22aと、電荷帯電装置31(
図10においては制御装置32を省略し電源30のみ記載)と、を備えている。点火部22aは、不図示の筐体に収容されている。また、点火部22aは、第2電極26、誘電体28(又は固体電解質)、第1電極24、誘電体28の順に複数積層された構成となっているが、基本構成は、第1電極24と第2電極26との間に誘電体28(又は固体電解質)が挟まれていればよい。
【0048】
本実施形態では、排ガス導入管40の一端は、
図1に示す排気口17に接続され、他端は、第1電極24に接続されている。また、排ガス排出管42の一端は、第1電極24に接続され、他端は系外のその他の装置に接続されるか又は大気に開放されている。第1電極24は、導電性の多孔体に触媒金属粒子を充填したものであり、第1電極24内を排気ガスが通過するように構成されている。したがって、未燃メタンガス等の炭化水素化合物及び酸素を含む排気ガス(混合気)は、排ガス導入管40から第1電極24内を通過し、排ガス排出管42から排出される。
【0049】
本実施形態では、第1電極24内を排気ガスが通過する際、すなわち排気ガスを点火する際に、電荷帯電装置31により、前述した第1閾値以上から第2閾値以下の範囲で設定した電荷量(触媒金属表面で排気ガスの酸化反応を促進するために設定される電荷量)となるように、第1電極24及び第2電極26に電圧を印加し、触媒金属表面に電荷を帯電させる。これにより、触媒金属表面で排気ガスの酸化反応が促進されるため、排気ガスの酸化反応による熱発生量を増加させることが可能となる。その結果、排気ガスの点火遅れ等が抑制され、排気ガスが第1電極24を通過する間に、排気ガス中の未燃炭化水素化合物を浄化することが可能となる。また、排気ガスの点火を阻害する際には、電荷帯電装置31により、前述した第1閾値未満又は第2閾値超の範囲で設定される電荷量(触媒金属表面で排気ガスの酸化反応を阻害するために設定される電荷量)となるように、第1電極24及び第2電極26に電圧を印加し、触媒金属表面に電荷を帯電させる。なお、前述したように、電荷量を0に設定する場合には、例えば、放電回路等を設置して、排気ガスの点火の際に触媒金属に帯電させた電荷を消費して、触媒金属に帯電する電荷量を0としてもよい。
【0050】
図10(b)に示す浄化装置38bでは、第1電極24、誘電体28(又は固体電解質)、第2電極26、誘電体28(又は固体電解質)、第1電極24の順に積層された点火部22bが、所定の間隔を空けて複数配置された点火装置20を備えている。また、点火部22bを収容する筐体内には排ガス流路44が設けられている。この排ガス流路44は、筐体の内壁と点火部22bの第1電極24との間、2つの点火部22bの第1電極24間に形成されている。排ガス導入管40の一端は、
図1に示す排気口17に接続され、他端は、排ガス流路44に接続されている。また、排ガス排出管42の一端は、排ガス流路44に接続され、他端は系外のその他の装置に接続されるか又は大気に開放されている。すなわち、未燃メタンガス等の炭化水素化合物及び酸素を含む排気ガス(混合気)は、排ガス導入管40から排ガス流路44に供給され、第1電極24と接触しながら排ガス流路44内を通過し、排ガス排出管42から排出される。そして、前述したように、排気ガスを点火する際(排気ガスが排ガス流路44内を通過する際)、及び排気ガスの点火を阻害する際に設定した電荷量となるように、第1電極24及び第2電極26に電圧を印可し、触媒金属に電荷を帯電させる。これにより、排気ガスが排ガス流路44内を通過する間に、排気ガス中の未燃炭化水素化合物を浄化することが可能となる。