(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動軸に装着された駆動側スプロケットと、従動軸に装着された従動側スプロケットと、前記両スプロケットに巻き掛けられたチェーンと、を備えたチェーン駆動装置であって、
前記チェーンと前記両スプロケットの少なくとも一方とは、該スプロケット上における前記チェーンの噛み込み位置から噛み離れ位置に至る所定の噛み合い角度の間で噛み合っており、
前記所定の噛み合い角度は、前記噛み込み位置において、前記チェーンの1つのローラと前記スプロケットの1つの歯部とが接触する噛み合い開始時期と、前記噛み離れ位置において、前記チェーンの他のローラと前記スプロケットの他の歯部との離間が完了する噛み離れ完了時期とが一致しないように、かつ、前記噛み込み位置における前記チェーンの1つのローラの噛み合い開始による噛み合い荷重の増加期間と、前記噛み離れ位置における前記チェーンの他の1つのローラの噛み合い終了による噛み合い荷重の減少期間とがオーバラップするように設定されている、ことを特徴とするチェーン駆動装置。
前記所定の噛み合い角度を設定するステップは、前記チェーンの各ローラから前記スプロケットの各歯部へ入力される各噛み合い荷重を合算した合成噛み合い荷重の振幅を、シミュレーション解析により算出するステップを、さらに含む、
請求項5に記載のチェーンの噛み合い角度設定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のものによれば、チェーン振れによるチェーン騒音は低減できる。しかしながら、それだけでは十分にチェーン騒音が低減しない。つまり、チェーン騒音を十分に低減するためには、チェーン振れによるチェーン振れ音を低減すると共に、チェーンとスプロケットの噛み合いによるチェーン噛み合い音も低減する必要がある。しかしながら、特許文献1のものでは、チェーン噛み合い騒音を低減できるものではない。
【0006】
この発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、簡単な構成により、チェーン噛み合い音を低減可能な、チェーン駆動装置及びチェーンとスプロケットの噛み合い角度設定方法を、得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本願発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0008】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、駆動軸に装着された駆動側スプロケットと、従動軸に装着された従動側スプロケットと、前記両スプロケットに巻き掛けられたチェーンと、を備えたチェーン駆動装置であって、前記チェーンと前記両スプロケットの少なくとも一方とは、該スプロケット上における前記チェーンの噛み込み位置から噛み離れ位置に至る所定の噛み合い角度の間で噛み合っており、前記所定の噛み合い角度は、前記噛み込
み位置において、前記チェーンの1つのローラと前記スプロケットの1つの歯部とが接触する噛み合い開始時期と、前記噛み離れ位置において、前記チェーンの他のローラと前記スプロケットの他の歯部との離間が完了する噛み離れ完了時期とが一致しないように、かつ、前記噛み込み位置における前記チェーンの1つのローラの噛み合い開始による噛み合い荷重の増加期間と、前記噛み離れ位置における前記チェーンの他の1つのローラの噛み合い終了による噛み合い荷重の減少期間とがオーバラップするように設定されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記チェーン駆動装置は、前記チェーンに摺接するガイド部材をさらに備えており、前記ガイド部材が前記チェーンをガイドすることにより、前記所定の噛み合い角度を設定可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は2に記載の発明において、前記両スプロケットと前記チェーンとのそれぞれの噛み合いに、前記所定の噛み合い角度の設定が適用されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記駆動軸は、エンジンのクランクシャフトであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、駆動軸に装着された駆動側スプロケットと従動軸に装着された従動側スプロケットとに巻き掛けられたチェーンの噛み合い角度設定方法であって、前記チェーンと前記両スプロケットの少なくとも一方とは、該スプロケット上における前記チェーンの噛み込み位置から噛み離れ位置に至る所定の噛み合い角度の間で噛み合っており、前記噛み込
み位置において、前記チェーンの1つのローラと前記スプロケットの1つの歯部とが接触する噛み合い開始時期と、前記噛み離れ位置において、前記チェーンの他のローラと前記スプロケットの他の歯部との離間が完了する噛み離れ完了時期とが一致しないように、かつ、前記噛み込み位置における前記チェーンの1つのローラの噛み合い開始による噛み合い荷重の増加期間と、前記噛み離れ位置における前記チェーンの他の1つのローラの噛み合い終了による噛み合い荷重の減少期間とがオーバラップするように、前記所定の噛み合い角度を設定するステップを含むことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載の発明において、前記所定の噛み合い角度を設定するステップは、前記チェーンの各ローラから前記スプロケットの各歯部へ入力される各噛み合い荷重を合算した合成噛み合い荷重の振幅を、シミュレーション解析により算出するステップを、さらに含むことを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、前記請求項5又は6に記載の発明において、前記両スプロケットと前記チェーンとのそれぞれの噛み合い角度の設定に、前記所定の噛み合い角度を設定する方法を適用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
前記の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、噛み込み位置におけるチェーンの1つのローラの噛み合い開始による噛み合い荷重の増加期間と、噛み離れ位置におけるチェーンの他の1つのローラの噛み合い終了による噛み合い荷重の減少期間とがオーバラップするように、チェーンとスプロケットの噛み合い角度が設定されている。
【0017】
このため、噛み込み位置におけるチェーンの1のローラの噛み合い荷重の増加と、噛み離れ位置における他のローラの噛み合い荷重の減少とが、同じタイミングで発生することになる。噛み合い荷重の増加と減少とが同じタイミングでスプロケットに入力されるので、チェーンからスプロケットへ入力される荷重は略平滑化されることになり、該スプロケットを介して駆動軸又は従動軸に入力される荷重が略平滑化される。この結果、駆動軸又は従動軸に作用する荷重の変動(振幅)が低減されることになる。
【0018】
ここで、チェーン噛み合い騒音は、チェーンからスプロケットへ入力される噛み合い荷重の変動が、該スプロケットを介して駆動軸又は従動軸に伝達されることにより、これらの軸の振動が引き起こされて、これらの軸を支持する部材を介して騒音として放射されることにより、生じる。
【0019】
つまり、本発明によれば、上述したように、チェーンの噛み合い荷重の変動に起因する駆動軸及び、又は従動軸に入力される合成荷重の変動を低減できるので、これらの軸の軸振動が低減されることになり、その結果、チェーン噛み合い騒音を低減できる。しかも、本発明は、チェーンのスプロケットへの噛み合い角度を設定することにより、他の構成要素を必要とすることなく、チェーン噛み合い騒音を容易に低減できる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、ガイド部材を設けることにより、チェーンとスプロケットとの噛み合い角度を容易に設定できる。これにより、チェーン噛み合い騒音を容易に低減できる。しかも、ガイド部材をチェーンに摺接させることにより、チェーンの振れを低減できるので、チェーン振れ騒音も低減できる。すなわち、本発明によれば、チェーン振れ騒音を低減しながら、チェーン噛み合い騒音も低減できるので、より一層チェーン騒音を低減できる。
【0021】
また、請求項3に記載の発明によれば、駆動軸及び従動軸のそれぞれに装着されたスプロケットとチェーンとの噛み合い角度を、所定の噛み合い角度に設定することにより、チェーンと両スプロケットとの噛み合い騒音を低減できる。すなわち、本発明によれば、チェーン噛み合い騒音をより一層低減できる。
【0022】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記請求項1〜3に記載の発明の効果が、エンジンのクランクシャフトを駆動軸とするチェーン駆動装置において、実現される。
【0023】
また、請求項5に記載の発明によれば、噛み込み位置における1のローラの噛み合い荷重の増加期間と、噛み離れ位置における他のローラの噛み合い荷重の減少期間とがオーバラップするように、チェーンとスプロケットの噛み合い角度を設定することにより、噛み込み位置におけるチェーンの1のローラの噛み合い荷重の増加と、噛み離れ位置における他のローラの噛み合い荷重の減少とが、同じタイミングで発生することになる。この結果、噛み合い荷重の増加と減少とが同じタイミングでスプロケットに入力されるので、チェーンからスプロケットへ入力される荷重は略平滑化されることになる。
【0024】
これにより、スプロケットを介して駆動軸又は従動軸へ入力される荷重が略平滑化されるので、駆動軸又は従動軸に作用する荷重の変動が低減されて、これらの軸の軸振動を低減できる。すなわち、チェーン噛み合い騒音を低減できる。
【0025】
また、請求項6に記載の発明によれば、シミュレーション解析を行うことにより、例えば、チェーンの延びや振れ等を考慮に入れて、より最適なチェーンとスプロケットとの噛み合い角度を設定できる。この結果、より一層、効果的にチェーン噛み合い騒音を低減できる。
【0026】
また、請求項7に記載の発明によれば、駆動軸及び従動軸のそれぞれに装着されたスプロケットとチェーンとの噛み合い角度を、所定の噛み合い角度に設定することにより、チェーン噛み合い騒音をより一層低減できる。
【0027】
すなわち、本発明によるチェーン駆動装置及びチェーンとスプロケットの噛み合い角度設定方法によれば、簡単な構成により、チェーンと両スプロケットとの噛み合い騒音を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、エンジンのクランクシャフトに装着された駆動側スプロケットにより、オイルポンプ及びカムシャフトに装着された従動側スプロケットを駆動する、エンジンのチェーン駆動装置を例にとって、本発明の実施形態を以下に説明する。
【0030】
図1は、本実施の形態に係るエンジンのチェーン駆動装置の構成を示すもので、チェーンカバーを外した状態でチェーン駆動装置を示す部分正面図である。
図1において、シリンダブロック11と、その下面に結合されたロアケース12との間にクランクシャフト13が回転自在に支持されている。また、ロアケース12の下面には、オイルポンプ14が装着されている。さらにシリンダブロック11の上面に結合されたシリンダヘッド15と、その上面に結合されたカムキャップ16との間にカムシャフト17が回転自在に支持されている。
【0031】
クランクシャフト13の軸端には、オイルポンプ14を駆動する駆動側スプロケット18と、カムシャフト17を駆動する駆動側スプロケット19とが、軸方向に隣接して装着されている。オイルポンプ14には従動側スプロケット20が、カムシャフト17の軸端には従動側スプロケット21が、それぞれ装着されている。駆動側スプロケット18と従動側スプロケット20とにチェーン22が、駆動側スプロケット19と従動側スプロケット21とにチェーン23が、それぞれ巻き掛けられており、クランクシャフト13の回転により、オイルポンプ14及びカムシャフト17が回転方向Sの方向へ回転駆動されるようになっている。
【0032】
オイルポンプ14に装着された従動側スプロケット20の歯数は駆動側スプロケット18と同じ歯数であり、カムシャフト17に装着された従動側スプロケット21の歯数は駆動側スプロケット19の2倍の歯数である。すなわち、オイルポンプ14はクランクシャフト13と同じ回転数で駆動され、カムシャフト17はクランクシャフト13の2分の1の回転数で駆動される。
【0033】
オイルポンプ14を駆動するチェーン22において、駆動側スプロケット18と従動側スプロケット20との間に位置する張り側の弦には固定チェーンガイド24が、緩み側の弦にはチェーン張力を一定に保持するための可動チェーンガイド装置25が、それぞれロアケース12に固定されている。
【0034】
同様に、カムシャフト17を駆動するチェーン23において、駆動側スプロケット19と従動側スプロケット21との間に位置する張り側の弦には固定チェーンガイド26が、緩み側の弦にはチェーン張力を一定に保持するための可動チェーンガイド装置27が、それぞれシリンダブロック11からシリンダヘッド15にまたがって固定されている。
【0035】
チェーン22、23は、ローラ間隔Pで配設された複数のローラR…Rを有する周知の無端チェーンであり、前記複数のローラR…Rは各スプロケット18〜21の外周部に形成された歯部T…Tと噛み合い可能に構成されている。
【0036】
オイルポンプ14を駆動するチェーン22に摺接する可動チェーンガイド装置25は、従動側スプロケット20側に配置された支軸251と、チェーン22に摺接するガイド部252と、駆動側スプロケット18側に配置されたテンショナリフタ253とを有する。同様に、カムシャフト17を駆動するチェーン23に摺接する可動チェーンガイド装置27は、従動側スプロケット21側に配置された支軸271と、チェーン23に摺接するガイド部272と、駆動側スプロケット19側に配置されたテンショナリフタ273とを有する。
【0037】
固定チェーンガイド24、26及び可動チェーンガイド装置25、27のガイド部252、272は、それぞれ弓状の湾曲部24a、26a、252a、272aを有しており、該湾曲部24a、26a、252a、272aをチェーン22、23に摺接させることによりチェーン22、23の振れを抑制すると共に、チェーン軌道を規制してチェーン22、23が所定の噛み合い角度にて各スプロケット18〜21と噛み合うように構成されている。
【0038】
各テンショナリフタ253、273は、それぞれのガイド部252、272を一定圧でチェーン22、23に向けてそれぞれ押圧するように作用し、これにより、チェーン22、23の緩み側の張力が一定値に保たれている。
【0039】
次に、前記所定の噛み合い角度について、オイルポンプ14を駆動するチェーン22の駆動側スプロケット18への噛み合い角度を例として
図2、
図3を参照して説明する。
図2はオイルポンプ14を駆動するチェーン駆動装置を概略的に示す正面図であり、
図3は噛み込み位置181及び噛み離れ位置182におけるローラRと歯部Tとの噛み合い状態を説明する
図2の要部拡大図である。
【0040】
図2に示すように、チェーン22は、噛み込み位置181から噛み離れ位置182までの間、すなわち、噛み合い角度αで、駆動側スプロケット18と噛み合っている。
【0041】
図3に示すように、噛み込み位置181において、チェーン22のローラR
1がスプロケット18の歯部T
1に接触し、その後、回転方向Sの回転進み側に角度181b回転した噛み込み完了位置181aにおいて、歯部T
1の回転方向遅れ側に位置する歯部T
2に接触することにより、ローラR
1のスプロケット18の歯部T
1及びT
2への噛み込みが完了する。
【0042】
同様に
図3を参照して、噛み離れ位置182から回転方向Sの回転遅れ側に角度182b回転した噛み離れ開始位置182aにおいて、チェーン22のローラR
2がスプロケット18の歯部T
3及びT
4に係合している状態から、まず回転方向Sの遅れ側の歯部T
4からの離間を開始する。その後、回転方向Sの回転進み側に角度182b回転した噛み離れ位置182において、ローラR2が歯部T
3から離間を完了することにより、ローラR
2のスプロケット18の歯部T
3及びT
4からの噛み離れが完了する。
【0043】
図2を参照して、噛み合い角度αは、噛み込み位置181においてチェーン22の1のローラRがスプロケット22の1の歯部Tに噛み合いを開始するタイミングと、噛み離れ位置182において他のローラRが他の歯部Tから噛み離れを完了するタイミングとが一致しないように構成されている。
【0044】
換言すると、噛み込み位置181における1のローラRと1の歯部Tとの噛み合い開始から噛み合い完了までの期間と、噛み離れ位置182における他のローラRと他の歯部Tとの噛み離れ開始から噛み離れ完了までの期間とが、オーバラップするように構成されている。噛み合い角度αの設定方法を以下に詳述する。ここで、期間がオーバラップするとは、一方の期間が他方の期間に完全に内包される場合と、両方の期間の一部が重複する場合と、両方の期間が完全に一致する場合とを含む、ことを意味する。
【0045】
まず、駆動側スプロケット18と従動側スプロケット20との間の軸間距離W、スプロケット18、20の歯数Z、ローラ間隔P、チェーン長さX、又は固定チェーンガイド24及び可動チェーンガイド装置25のガイド部252の湾曲部252aの形状等を調整することにより、チェーン駆動装置の搭載レイアウトを満足させながら、噛み込み位置181から噛み離れ位置182に至る噛み合い長Lがローラ間隔Pの整数倍にならない角度範囲α’を選定する。
【0046】
前記角度範囲α’内に噛み合い角度を設定することにより、噛み込み位置181においてチェーン22の1のローラRと駆動側スプロケット18の1の歯部Tとが噛み合いを開始するタイミングと、噛み離れ位置182において他のローラRと他の歯部Tとが噛み離れを完了するタイミングとが、一致しなくなる。
【0047】
次に、シミュレーション解析を行うことにより、前記角度範囲α’の中から、最適な噛み合い角度αを選定する。シミュレーション解析においては、チェーン駆動装置を駆動させたときに、チェーン22の各ローラR…Rから駆動側スプロケット18の各歯部T…Tに入力される各荷重Fn(nはスプロケット18の各歯部T…Tに付番された整理番号)と、該各荷重Fnを合成した荷重、つまり、スプロケット18を介してクランクシャフト13に入力される荷重Fとを求め、この荷重Fの振幅Yが最小となるときの噛み合い角度αを求める。
【0048】
図4に荷重Fの振幅Yが最小となったときのシミュレーション解析結果の一例を示す。
図4において、クランク回転角度を横軸にとり、各ローラR…Rから各歯部T…Tに入力される各荷重をFnとし、各荷重Fnを合成した荷重をFとして、噛み込み位置181及び噛み離れ位置182における荷重変動を拡大して示す。同様に比較例として、
図5に前記噛み合い長Lをローラ間隔Pの整数倍とした場合のシミュレーション解析結果として、各荷重をFn’、各荷重Fn’を合成した荷重をF’として示す。
【0049】
図4、
図5に示すように、各荷重Fn、Fn’はクランク回転角度が進むにつれて0から次第に荷重が増大する荷重発生点An、An’と、略一定の荷重が次第に減少し0になる荷重消失点Bn、Bn’とを含んでおり、荷重発生点An、An’は歯部Tnが噛み込み位置181に位置することを、荷重消失点Bn、Bn’は歯部Tnが噛み離れ位置182に位置することを、それぞれ示している。
【0050】
このとき、
図4において荷重発生点Anと荷重消失点Bnとは一致していない。一方、
図5において荷重発生点An’とBn’とは略一致している。また、
図4に示される荷重Fの振幅Yは、
図5に示される荷重F’の振幅Y’よりも小さくなっている。
【0051】
図6、
図7を参照して、さらに詳述する。
図6は
図4を、
図7は
図5をそれぞれ模式的に示したグラフである。
図6に示すように、歯部T
1に掛かる荷重F
1の荷重発生点A
1は、他の歯部Tnに掛かる荷重Fnの荷重消失点Bnとは同じタイミングではない。さらには、歯部T
1に掛かる荷重が荷重発生点A
1から荷重が次第に増加し略一定値に至るまでの荷重が増大する角度範囲C
1は、他の歯部Tnにおいて略一定値から荷重消失点Bに至るまでの荷重が消失する角度範囲Dnとオーバラップしている。
【0052】
この結果、噛み込み位置181における噛み合い荷重の増加と、噛み離れ位置182における噛み合い荷重の減少とが、同じタイミングで発生するので、クランクシャフト13へ入力される荷重Fの変動が低減されることになる。
【0053】
一方、
図7に示すように、歯部T
1’に掛かる荷重F
1’の荷重発生点A
1’は、他の歯部Tn’に掛かる荷重Fn’の荷重消失点Bn’と略同じタイミングである。また、歯部T
1’に掛かる荷重が荷重発生点A
1’から荷重が次第に増加し略一定値に至るまでの荷重が増大する角度範囲C
1’は、他の歯部Tn’において略一定値から荷重消失点Bn’に至るまでの荷重が消失する角度範囲Dn’とはオーバラップしていない。
【0054】
この結果、噛み込み位置181における噛み合い荷重の増加と、噛み離れ位置182における噛み合い荷重の減少とが、同じタイミングで発生しないので、クランクシャフト13へ入力される荷重Fは変動することになる。
【0055】
図4、
図5を比較することにより明らかなように、チェーン22のスプロケット18への噛み合い角度を最適な角度に設定することにより、スプロケット18を介してクランクシャフト13へ入力される荷重Fの振幅Yを低減できる。このときのチェーン22のスプロケット18への噛み合い角度をαとする。
【0056】
本実施形態では、可動チェーンガイド装置25のガイド部252の形状を最適に調整することにより、上記最適な噛み合い角度αを実現するように構成されている。
【0057】
次に、この実施形態の作用を説明する。
【0058】
図8はシミュレーション解析により求めた荷重Fの駆動側スプロケット18の歯数Zの次数成分を示すグラフ、つまり、駆動側スプロケット18を介してクランクシャフト13に入力されるシミュレーション解析により求められた荷重Fの振幅Yを示すグラフであり、
図9はクランクシャフト13の軸振動の実測結果を示すグラフであり、
図10はオイルポンプ14のチェーン噛み合い音の実測結果を示すグラフである。各図ともに、横軸をエンジン回転数として、チェーン22の駆動側スプロケット18への噛み合い角度を前記シミュレーション解析により荷重Fの振幅Yが最小となるように求めた噛み合い角度αの場合の結果を太線で示し、比較例として
図5に示した場合の噛み合い角度とした場合の結果を細線で示す。
【0059】
図8において、チェーン22をシミュレーション解析により求めた噛み合い角度αで駆動側スプロケット18に巻き付けることにより、駆動軸としてのクランクシャフト13へ入力される荷重Fの振幅Yが比較例に対して大幅に低減されることが示されている。一方、実測値を示す
図9においても、噛み合い角度を前記噛み合い角度αに設定することにより、クランクシャフト13の振動を比較例に対して低減できることが示されており、本シミュレーション結果と相関があることが判る。
【0060】
また、クランクシャフト13の軸振動が低減されたことにより、クランクシャフト13を支持するシリンダブロック11及び/又はロアケース12に伝達される振動も低減される。これにより、
図10に示すように、シリンダブロック11及び/又はロアケース12から放射される、オイルポンプ14のチェーン噛み合い騒音が低減される。
【0061】
したがって、本発明によれば、噛み込み位置181におけるチェーン22の1つのローラRの噛み合い開始による噛み合い荷重の増加期間と、噛み離れ位置182におけるチェーン22の他の1つのローラRの噛み合い終了による噛み合い荷重の減少期間とがオーバラップするように、チェーン22とスプロケット18との噛み合い角度が、所定の噛み合い角度αに設定されている。
【0062】
このため、噛み込み位置181におけるチェーン22の1のローラRの噛み合い荷重の増加と、噛み離れ位置182における他のローラRの噛み合い荷重の減少とが、同じタイミングで発生することになる。噛み合い荷重の増加と減少とが同じタイミングでスプロケット18に入力されるので、チェーン22からスプロケット18へ入力される荷重は略平滑化されることになり、該スプロケット18を介してクランクシャフト13に入力される荷重が略平滑化される。この結果、クランクシャフト13に作用する荷重Fの振幅Yが低減されることになる。
【0063】
ここで、上述したように、チェーン噛み合い騒音は、チェーン22からスプロケット18へ入力される噛み合い荷重の変動が、該スプロケット18を介してクランクシャフト13に伝達されることにより、クランクシャフト13の振動が引き起こされて、クランクシャフト13を支持するシリンダブロック11及び/又はロアケース12に該振動が伝達し、最終的にシリンダブロック11及び/又はロアケース12からチェーン騒音として発生する。
【0064】
つまり、本発明によれば、チェーン22と駆動側スプロケット18との間の噛み合い荷重の変動に起因した、クランクシャフト13に入力される荷重の変動を低減できるので、該クランクシャフト13の振動を低減でき、その結果、シリンダブロック11及び/又はロアケース12から放射するチェーン噛み合い騒音を低減できる。しかも、本発明は、他の構成要素を必要とすること無く、チェーン長さXや駆動側スプロケットの軸間距離Wやスプロケットの歯数Zやガイド部材の形状等を適宜調整しながら噛み合い角度を設定することにより、チェーン噛み合い騒音を容易に低減できる。
【0065】
したがって、別途新たな部材を追加することなく、チェーン噛み合い騒音を低減できるので、部品点数の増大を回避すると共に、組み付け工数の増大を回避できる。
【0066】
また、チェーン22に摺接するチェーンガイド部材252により、チェーン22とスプロケット18との噛み合い角度を容易に設定できると共に、チェーン22の振れを抑制することができる。つまり、チェーン噛み合い騒音を低減できると共に、チェーン振れ騒音を低減できるので、より一層チェーン騒音を低減できる。
【0067】
また、シミュレーション解析を行うことにより、例えば、チェーン装置駆動時のチェーン22の延びやチェーン22の振れ等を考慮に入れた、より最適なチェーン22とスプロケット18との噛み合い角度を設定できる。この結果、より効果的にチェーン噛み合い騒音を低減できる。しかも、実機評価による噛み合い角度の選定作業に比べて、チェーン噛み合い騒音を低減可能な噛み合い角度を効率的に選定できるので、噛み合い角度選定に要する工数を低減することができる。
【0068】
なお、以上の説明は、オイルポンプ14を駆動するチェーン22と駆動側スプロケット18との噛み合い角度を所定の噛み合い角度に設定することにより、チェーン噛み合い音を低減しているが、これに限らず、オイルポンプ14を駆動するチェーン22と従動側スプロケット20との噛み合い角度を最適に設定するように構成してもよい。その場合も同様に、チェーン長さXやガイド部材等を適宜最適に調整することにより、従動側スプロケット20への噛み合い角度を最適に設定してもよい。
【0069】
また、チェーン22と駆動側スプロケット18との噛み合い角度を最適な噛み合い角度に設定すると共に、チェーン22と従動側スプロケット20との噛み合い角度を最適な噛み合い角度に設定してもよい。これにより、駆動側スプロケット18及び従動側スプロケット20の両方のチェーン噛み合い部から生じるチェーン噛み合い騒音が低減されるので、より一層チェーン騒音を低減できる。
【0070】
また、本実施形態では、オイルポンプ14を駆動するチェーン22と該チェーン22が噛み合う駆動側スプロケット18との噛み合い角度を最適に設定しているが、これに限らず、カムシャフト17を駆動するチェーン23及び、該チェーン23の駆動側スプロケット19及び/又は従動側スプロケット21への噛み合い角度の設定にも、本発明に係る噛み合い角度を設定する方法を適用することができる。これにより、さらにより一層、チェーン噛み合い騒音を低減できる。
【0071】
また、本実施形態では、可動チェーンガイド装置25をチェーン22の緩み側に設け、固定チェーンガイド24を張り側に設けているが、これに限らず、可動チェーンガイド装置25を張り側に設け、固定チェーンガイド24を緩み側に設けたチェーン駆動装置にも、本発明を適用できることは言うまでもない。
【0072】
また、本実施形態では、エンジンに装着されるチェーン駆動装置を例として説明したが、これに限らず、モータ等に装着されるチェーン駆動装置にも、本発明を適用できる。要するに、駆動側スプロケットと従動側スプロケットとに巻き掛けられたチェーンを備えたチェーン駆動装置に、本発明を適用できる。
【0073】
なお、本発明は、以上の実施形態に示すものに限らず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神および範囲から逸脱することなく、各種変形および変更を行うことも可能である。