(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Nbを含まないチタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)系複合ペロブスカイト膜からなる強誘電体薄膜を形成するための組成物を基板に形成された下部電極上に塗布し、仮焼した後、焼成して結晶化させることにより、厚さ45〜90nmの結晶化促進層を形成し、
前記形成した結晶化促進層上に、Bサイト原子(Zr、Ti)との合計100原子%中にNbが6〜8原子%含まれるチタン酸ジルコニウムニオブ酸鉛(PNbZT)系複合ペロブスカイト膜からなる強誘電体薄膜を形成するための組成物を塗布してPNbZTの塗膜を形成し、
前記塗膜を仮焼した後、焼成して結晶化させることにより、前記下部電極上に厚さ285〜330nmのPNbZT強誘電体薄膜を形成することを特徴とするPNbZT強誘電体薄膜の形成方法。
請求項1記載の方法により形成されたPNbZT強誘電体薄膜を有する薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、電気スイッチ、光学スイッチ又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
本発明は、例えば薄膜キャパシタ等の誘電体層に用いられるPZT系強誘電体薄膜であって、特にNbをドナー原子としてPZT強誘電体薄膜中にドーピングさせたPNbZT強誘電体薄膜の形成方法である。本発明の形成方法では、
図1、
図2に示すように、PNbZT強誘電体薄膜13を形成するための組成物を塗布する前に、基板10に形成された下部電極11上に、結晶化促進層12としてNbを含まないチタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)複合ペロブスカイト膜からなる強誘電体薄膜(以下、PZT強誘電体薄膜という。)を所定の膜厚になるよう形成する。
【0014】
結晶化促進層12、即ちPZT強誘電体薄膜の形成に用いられる組成物には、形成後の薄膜においてペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物を構成するための原料として、PZT前駆体が、所望の金属原子比を与えるような割合で含まれる。具体的には、一般式:Pb
yZr
1-xTi
xO
3で表したときのxが0.4≦x≦0.6、yが1.0≦y≦1.25を満たす金属原子比となるような割合とするのが好ましい。また、PZTにLa元素を添加したPLaZTやMn元素を添加したPMnZT等を形成しても良い。
【0015】
PZT前駆体は、Pb、La、Zr又はTi等の各金属元素に、有機基がその酸素又は窒素原子を介して結合している化合物が好適である。例えば、金属アルコキシド、金属ジオール錯体、金属トリオール錯体、金属カルボン酸塩、金属β−ジケトネート錯体、金属β−ジケトエステル錯体、金属β−イミノケト錯体、及び金属アミノ錯体からなる群より選ばれた1種又は2種以上が例示される。特に好適な化合物は、金属アルコキシド、その部分加水分解物、有機酸塩である。
【0016】
具体的には、Pb化合物、La化合物としては、酢酸鉛:Pb(OAc)
2、酢酸ランタン:La(OAc)
3等の酢酸塩や、鉛ジイソプロポキシド:Pb(OiPr)
2、ランタントリイソプロポキシド:La(OiPr)
3等のアルコキシドが挙げられる。Ti化合物としては、チタンテトラエトキシド:Ti(OEt)
4、チタンテトライソプロポキシド:Ti(OiPr)
4、チタンテトラn−ブトキシド:Ti(OnBu)
4、チタンテトライソブトキシド:Ti(OiBu)
4、チタンテトラt−ブトキシド:Ti(OtBu)
4、チタンジメトキシジイソプロポキシド:Ti(OMe)
2(OiPr)
2等のアルコキシドが挙げられる。Zr化合物としては、上記Ti化合物と同様のアルコキシド類が好ましい。金属アルコキシドはそのまま使用しても良いが、分解を促進させるためにその部分加水分解物を使用しても良い。また、Mn化合物としては、酢酸マンガン、2−エチルヘキサン酸マンガン又はナフテン酸マンガン等が挙げられる。
【0017】
上記組成物を調製するには、これらの原料を適当な溶媒に溶解して、塗布に適した濃度に調製する。溶媒としては、カルボン酸、アルコール(例えば、エタノールや1−ブタノール、ジオール以外の多価アルコール)、エステル、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル)、シクロアルカン類(例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール)、芳香族系(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、その他テトラヒドロフラン等、或いはこれらの2種以上の混合溶媒を用いることができる。このうち、蒸発速度と溶解性の点から、1−ブタノール、エタノール又はプロピレングリコールが特に好ましい。
【0018】
カルボン酸としては、具体的には、n−酪酸、α−メチル酪酸、i−吉草酸、2−エチル酪酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、3,3−ジメチルペンタン酸、2,3−ジメチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、3−エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0019】
また、エステルとしては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸sec−アミル、酢酸tert−アミル、酢酸イソアミルを用いるのが好ましく、アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソ−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メトキシエタノールを用いるのが好適である。
【0020】
組成物100質量%中に占める上記PZT前駆体の割合は、酸化物換算で5〜30質量%の範囲とするのが好ましい。下限値未満では十分な膜厚を有する膜に形成するのが困難であり、また生産性の悪化を生じる場合がある。一方、上限値を超えると粘性が高くなり、均一に塗布するのが困難になる場合がある。このうち、PZT前駆体の割合は、酸化物換算で10〜25質量%とするのが好ましい。なお、酸化物換算での割合とは、組成物に含まれる金属元素が全て酸化物になったと仮定した時に、組成物100質量%に占める金属酸化物の割合のことをいう。
【0021】
また、上記組成物には、必要に応じて安定化剤として、β−ジケトン類(例えば、アセチルアセトン、ヘプタフルオロブタノイルピバロイルメタン、ジピバロイルメタン、トリフルオロアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等)、β−ケトン酸類(例えば、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等)、β−ケトエステル類(例えば、上記ケトン酸のメチル、プロピル、ブチル等の低級アルキルエステル類)、オキシ酸類(例えば、乳酸、グリコール酸、α−オキシ酪酸、サリチル酸等)、上記オキシ酸の低級アルキルエステル類、オキシケトン類(例えば、ジアセトンアルコール、アセトイン等)、ジオール、トリオール、高級カルボン酸、アルカノールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン)、多価アミン等を、(安定化剤分子数)/(金属原子数)で0.2〜3程度添加しても良い。このうち、安定化剤としてはβ−ジケトン類のアセチルアセトンが好ましい。
【0022】
上記組成物を調製するには、先ず、上述したPb化合物等のPZT前駆体をそれぞれ用意し、これらを上記所望の金属原子比を与える割合になるように秤量する。秤量した上記PZT前駆体と溶媒とを反応容器内に投入し、好ましくは窒素雰囲気中、130〜170℃の温度で0.5〜5時間還流し反応させることで合成液を調製する。還流後は、常圧蒸留や減圧蒸留の方法により、脱溶媒させておくのが好ましい。また、アセチルアセトン等の安定化剤を添加する場合は、PZT前駆体投入時に同時に添加し、窒素雰囲気中、130〜170℃の温度で0.5〜5時間還流を行うのが好ましい。
【0023】
還流した後、室温下で放冷することにより、合成液を、好ましくは室温〜40℃の温度まで冷却させる。その後、ブタノール等の他の溶媒を添加、撹拌することで希釈させ、製造後の組成物100質量%中に占めるPZT前駆体の割合が酸化物換算で10〜25質量%となるように調整する。
【0024】
なお、組成物の調製後、濾過処理等によってパーティクルを除去して、粒径0.5μm以上(特に0.3μm以上とりわけ0.2μm以上)のパーティクルの個数が組成物1mL当り50個/mL以下とするのが好ましい。組成物中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数が50個/mLを超えると、長期保存安定性が劣るものとなる。この組成物中の粒径0.5μm以上のパーティクルの個数は少ない程好ましく、特に30個/mL以下であることが好ましい。
【0025】
上記パーティクル個数となるように、調製後の組成物を処理する方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のような方法が挙げられる。第1の方法としては、市販の0.2μm孔径のメンブランフィルターを使用し、シリンジで圧送する濾過法である。第2の方法としては、市販の0.05μm孔径のメンブランフィルターと加圧タンクを組み合せた加圧濾過法である。第3の方法としては、上記第2の方法で使用したフィルターと溶液循環槽を組み合せた循環濾過法である。
【0026】
いずれの方法においても、組成物の圧送圧力によって、フィルターによるパーティクル捕捉率が異なる。圧力が低いほど捕捉率が高くなることは一般的に知られており、特に、第1の方法、第2の方法について、粒径0.5μm以上のパーティクルの個数を50個以下とする条件を実現するためには、組成物を低圧で非常にゆっくりとフィルターに通すのが好ましい。このように調製された上記結晶化促進層の形成に好適な市販されている組成物としては、例えば三菱マテリアル株式会社製のPZT−E1等が挙げられる。
【0027】
結晶化促進層12は、上記組成物を下部電極11上に塗布して塗膜(ゾル膜)を形成し、仮焼した後、焼成して結晶化させる、いわゆるゾルゲル法により、厚さ45〜90nmに形成する。塗布法については、特に限定されないが、スピンコート、ディップコート、LSMCD(Liquid Source Misted Chemical Deposition)法又は静電スプレー法等が挙げられる。
【0028】
基板10は、その用途等によっても異なるが、例えば本発明の方法により、薄膜キャパシタ等の誘電体層を形成する場合、下部電極が形成されたシリコン基板やサファイア基板等の耐熱性基板が用いられる。基板上に形成する下部電極としては、PtやIr、Ru等の導電性を有し、PZT強誘電体薄膜と反応しない材料が用いられる。また、基板上に密着層や絶縁体膜等を介して下部電極を形成した基板等を使用することができる。具体的には、Pt/Ti/SiO
2/Si、Pt/TiO
2/SiO
2/Si、Pt/IrO/Ir/SiO
2/Si、Pt/TiN/SiO
2/Si、Pt/Ta/SiO
2/Si、Pt/Ir/SiO
2/Siの積層構造(下部電極/密着層/絶縁体膜/基板)を有する基板等が挙げられる。一方、圧電素子や焦電型赤外線検出素子等では、シリコン基板、SiO
2/Si基板、サファイア基板等の耐熱性基板を使用することができる。
【0029】
下部電極11は、スパッタリング法、真空蒸着法等の気相成長法や、電極用ペーストをスクリーン印刷法、スプレー法又は液滴吐出法等により塗布して形成する、ゾルゲル法等でも形成することができる。本発明の形成方法において、下部電極は、特に結晶面が(111)又は(100)軸方向に優先配向するものを使用するのが望ましい。それは、結晶化促進層の形成を行いやすくするためである。
【0030】
下部電極11上に塗膜を形成した後は、この塗膜を仮焼し、更に焼成して結晶化させる。仮焼は、ホットプレート又はRTA等を用いて、所定の条件で行う。仮焼は、溶媒を除去するとともに金属化合物を熱分解又は加水分解して複合酸化物に転化させるために行うことから、空気中、酸化雰囲気中、又は含水蒸気雰囲気中で行うのが望ましい。空気中での加熱でも、加水分解に必要な水分は空気中の湿気により十分に確保される。組成物の塗布から仮焼までの工程は、所望の膜厚になるように、仮焼までの工程を複数回繰り返して、最後に一括で焼成を行うこともできる。また、仮焼の際の温度は285〜315℃、該温度での保持時間は1〜5時間とするのが好ましい。
【0031】
焼成は、仮焼後の塗膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための工程であり、これによりNbを含まないPZT強誘電体薄膜からなる結晶化促進層が得られる。この結晶化工程の焼成雰囲気はO
2、N
2、Ar、N
2O又はH
2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。焼成は、600〜700℃で0.5〜5分間程度行われる。焼成は、急速加熱処理(RTA処理)で行っても良い。RTA処理で焼成する場合、その昇温速度を10〜50℃/秒とすることが好ましい。
【0032】
以上の工程により、結晶化促進層12が下部電極11上に形成される。結晶化促進層の厚さを上記範囲に限定したのは、結晶化促進層の厚さが下限値未満では、アイランド状の膜となり、結晶化を促進させるための層として十分に機能せず、一方、上限値を越えると、最終的に形成される後述のPNbZT強誘電体薄膜に含まれるNb量が低減するため、比誘電率等の強誘電体特性を向上させる効果が得られないからである。結晶化促進層の厚さは、組成物の塗布量(ゲル膜の膜厚)等により調整することができる。
【0033】
また、結晶化促進層は、特に結晶面が(100)軸方向に優先配向するように形成するのが好ましい。(100)軸方向への結晶化では結晶化速度が速く、結晶化促進層を(100)軸方向に優先配向するように形成した場合、結晶化促進層上に形成されるPNbZT強誘電体薄膜も(100)軸方向に優先配向しやすく、焼成時の結晶化速度が速くなる。焼成時の結晶化は速度論的支配のもと進行するため、焼成時の結晶化速度が速くなると、形成されるPNbZT強誘電体薄膜において高濃度のNbが結晶中に取り込まれやすくなるからである。結晶面が(100)軸方向に優先配向する結晶化促進層を得るには、結晶化促進層の厚さが上記45〜90nm、好ましくは60〜75nmになるように組成物の塗布量を調整すると共に、(111)軸方向に優先配向したPt下部電極を有する基板を使用するのが望ましい。
【0034】
上記方法によって結晶化促進層12を形成した後は、結晶化促進層12上に、チタン酸ジルコニウムニオブ酸鉛(PNbZT)系複合ペロブスカイト膜からなる強誘電体薄膜(以下、PNbZT強誘電体薄膜)を形成するための組成物を塗布し、PNbZTの塗膜(ゲル膜)13aを形成する。塗布法については、特に限定されず、上述の結晶化促進層を形成する際の塗布法と同様のスピンコート法等を使用することができる。
【0035】
PNbZT強誘電体薄膜を形成するための組成物は、上述のPZT強誘電体薄膜用の組成物にNdをドーピングさせた組成物であり、調製する際、Pb化合物、Zr化合物、Ti化合物以外に、Nb化合物をZr化合物、Ti化合物投入時に添加する点を除き、同じ材料、同じ方法により調製することができる。即ち、本発明のPNbZT強誘電体薄膜の形成方法では、PNbZT強誘電体薄膜を形成するための組成物中に、従来必要であったシリコン等の焼結助剤を添加することなく、Nbを高濃度でドーピングさせてPNbZT強誘電体薄膜を形成する。そのため、Nbドープによる効果を十分に引き出すことができ、比誘電率等の強誘電体特性等を大幅に向上させることができる。なお、組成物100質量%中に占める上記PZT前駆体及びNb化合物の割合は、酸化物換算で10〜25質量%の範囲とするのが好ましい。下限値未満では生産性を低下させる場合があり、一方、上限値を超えると均一に塗布するのが困難になるからである。
【0036】
Nb化合物としては、上述のPZT前駆体と同様、金属アルコキシド等のようなNb元素に有機基がその酸素又は窒素原子を介して結合している化合物が好適である。具体的には、ニオブペンタエトキシド、2−エチルヘキサン酸ニオブ等が挙げられる。
【0037】
組成物に添加されるNb化合物の割合は、組成物に含まれるペロブスカイトBサイト原子(Zr、Ti)との合計100原子%中にNbが4〜10原子%含まれるように添加する。このように、本発明の形成方法では、従来に比べて、Nbを大量にドープして形成することができる。上記所定の結晶化促進層を予め形成しておくことにより、Nbを大量にドープして形成できる技術的な理由は、結晶化促進層として、ほぼ同じ格子定数を有する、例えば上述の(100)軸方向に優先配向する強誘電体薄膜を導入することにより、結晶成長が速度論的支配のもと進行し、Nb原子が均一に固溶しやすくなるためと推察される。Nbが下限値未満では、Nb添加による上述の効果が得られず、一方、上限値を越えると膜にクラックが生じる。このうち、Nb化合物の割合は、Bサイト原子(Zr、Ti)との合計100原子%中にNbが6〜8原子%含まれるように添加するのが好ましい。なお、Bサイト原子とは、Pb、Zr、TiのうちのZrとTiを言う。このように調製された上記PNbZT強誘電体薄膜の形成に好適な市販されている組成物としては、例えば三菱マテリアル株式会社製のPNbZT−E1等が挙げられる。
【0038】
PNbZTの塗膜13aを形成した後は、この塗膜を仮焼し、更に焼成して結晶化させる。仮焼は、ホットプレート又はRTA等を用いて、所定の条件で行う。仮焼は、上述の結晶化促進層を形成する際の仮焼と同様、空気中、酸化雰囲気中、又は含水蒸気雰囲気中で行うのが望ましい。なお、仮焼前に、特に低沸点溶媒や吸着した水分子を除去するため、ホットプレート等を用いて70〜90℃の温度で、0.5〜5分間低温加熱を行っても良い。
【0039】
また、ここでの仮焼は、溶媒等を十分に除去し、クラックの抑制効果をより高めるため、或いは膜構造の緻密化を促進させる理由から、加熱保持温度を変更させた二段仮焼により行うこともできる。仮焼を一段仮焼により行う際の温度は275〜325℃、該温度での保持時間は3〜10分間とするのが好ましい。また、組成物の塗布から仮焼までの工程は、所望の膜厚になるように、仮焼までの工程を複数回繰り返して、最後に一括で焼成を行うこともできる。
【0040】
焼成は、仮焼後のPNbZTの塗膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための工程である。この結晶化工程の焼成雰囲気はO
2、N
2、Ar、N
2O又はH
2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。焼成は、600〜700℃で0.5〜5分間程度行われる。焼成は、急速加熱処理(RTA処理)で行っても良い。RTA処理で焼成する場合、その昇温速度を10〜50℃/秒とすることが好ましい。
【0041】
以上により、シリコン等を共ドープさせることなく、Nbが高濃度でドーピングされ、比誘電率等の強誘電体特性を向上させたPNbZT強誘電体薄膜を形成することができる。
【0042】
本発明の方法によって得られるPNbZT系強誘電体薄膜は、比誘電率等の強誘電体特性に非常に優れるため、薄膜コンデンサ、キャパシタ、IPD、DRAMメモリ用コンデンサ、積層コンデンサ、トランジスタのゲート絶縁体、不揮発性メモリ、焦電型赤外線検出素子、圧電素子、電気光学素子、アクチュエータ、共振子、超音波モータ、電気スイッチ、光学スイッチ又はLCノイズフィルタ素子の複合電子部品を製造する際の構成材料として好適に使用することができる。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
以下に示す実施例2−1及び実施例2−2は実施例ではなく、参考例である。
【0044】
<実施例1−1>
結晶化促進層を形成するためのPZT強誘電体薄膜形成用組成物として、金属組成比が115/53/47(Pb/Zr/Ti)であり、1−ブタノールを溶媒に用いて希釈した前駆体濃度(Pb源、Zr源、Ti源の合計)が酸化物換算で12質量%に調整されたPZTゾルゲル液(三菱マテリアル株式会社製 商品名:PZT−E1)を用意した。また、PNbZT強誘電体薄膜を形成するための組成物として、金属組成比が115/8/47.8/44.2(Pb/Nb/Zr/Ti)であり、1−ブタノールを溶媒に用いて希釈した前駆体濃度(Pb源、Nb源、Zr源、Ti源の合計)が酸化物換算で15質量%に調整されたPNbZTゾルゲル液(三菱マテリアル株式会社製 商品名:PNbZT−E1)を用意した。即ち、この組成物には、Bサイト原子(Zr、Ti)との合計100原子%中にNbが8原子%含まれる。
【0045】
先ず、上記用意したPZTゾルゲル液を、結晶面が(111)軸方向に優先配向するPt/TiO
x/SiO
2/Si基板のPt(下部電極)上に滴下し、3000rpmの回転速度で15秒間スピンコートを行うことにより、上記基板上に塗膜(ゲル膜)を形成した。次に、上記基板上に形成された塗膜を、ホットプレートを用い、大気雰囲気中、300℃の温度で5分間保持することにより仮焼を行った。なお、組成物の塗布から仮焼までの工程は、3回繰り返し行った。次いで、酸素雰囲気中、RTAを用いて10℃/sの昇温速度で室温から700℃まで昇温させ、この温度で1分間保持することにより焼成を行った。これにより、以下の表1に示す膜厚、及び結晶配向性を有するPZT誘電体薄膜からなる結晶化促進層を形成した。
【0046】
続いて、上記用意したPNbZTゾルゲル液を、上記形成した結晶化促進層上に滴下し、3000rpmの回転速度で15秒間スピンコートを行うことにより、上記結晶化促進層上にPNbZTの塗膜(ゲル膜)を形成した。次に、上記結晶化促進層上に形成された塗膜を、ホットプレートを用い、大気雰囲気中、300℃の温度で5分間保持することにより仮焼を行った。なお、組成物の塗布から仮焼までの工程は、3回繰り返し行った。次いで、酸素雰囲気中、RTAを用いて10℃/sの昇温速度で室温から700℃まで昇温させ、この温度で1分間保持することにより焼成を行った。これにより、下部電極上にPNbZT強誘電体薄膜を形成した。
【0047】
<実施例1−2,1−3及び比較例1−1〜比較例1−3>
結晶化促進層の厚さが、以下の表1に示す厚さになるように、PZTゾルゲル液の塗布量を調整したこと以外は、実施例1−1と同様にして下部電極上にPNbZT強誘電体薄膜を形成した。なお、比較例1−1では、PZTゾルゲル液の塗布量を0、即ち結晶化促進層を形成せず、下部電極上にPNbZTゾルゲル液を直接塗布し、実施例1−1と同様の条件で仮焼、焼成等を行い、PNbZT強誘電体薄膜を形成した。
【0048】
<実施例2−1,2−2及び比較例2−1,比較例2−2>
上記PNbZTゾルゲル液の製造時に仕込組成を変更することにより、結晶化促進層中のNb添加量を、以下の表1に示す割合に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして下部電極上にPNbZT強誘電体薄膜を形成した。
【0049】
<比較試験及び評価>
実施例1−1〜2−2及び比較例1−1〜2−2で形成したPNbZT強誘電体薄膜について、結晶化促進層とPNbZT強誘電体薄膜の厚さ、下部電極と結晶化促進層の結晶配向性、PNbZT強誘電体薄膜の膜組織(クラックの有無)、電気特性(比誘電率)、リーク電流密度を評価した。これらの結果を以下の表1に示す。
【0050】
(1) 厚さ:PNbZT強誘電体薄膜を形成する前の結晶化促進層の断面の厚さ(総厚)を、分光エリプソメトリー(J.A.Woollam社製、モデル:M-2000D1)により測定した。また、形成後のPNbZT強誘電体薄膜の断面の厚さを同装置により測定した。
【0051】
(2) 優先配向面:X線回折装置(XRD;Bruker社製:MXP18HF)により測定して得られた回折結果のうち、最も強度の高い配向面を優先配向面とした。なお、
図3に、実施例1−1のXRDパターンを代表図として示す。
【0052】
(3) 比誘電率:強誘電体評価装置(aix ACCT社製、TF-analyzer2000)を用いて測定した。具体的には、形成したPNbZT強誘電体薄膜の表面に、スパッタ法により200μmφの電極を形成した後、RTAを用いて、酸素雰囲気中、700℃の温度で1分間ダメージリカバリーアニーリングを行った薄膜コンデンサを試験用サンプルとし、これらの比誘電率を測定した。
【0053】
(4) リーク電流密度:比誘電率を測定した膜に5Vの直流電圧を印加し、リーク電流密度を測定した。
【0054】
(5) 膜組織:上記膜厚測定に用いた走査型電子顕微鏡により膜表面の組織をSEM画像により観察した。また、SEM画像により、クラックの有無の有無を観察した。このとき観察された実施例1−1及び比較例2−2の膜表面の写真図を代表図として、
図4,
図5に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1から明らかなように、実施例1−1〜1−3と比較例1−1〜1−3とを比較すると、結晶化促進層を形成せずにPNbZT強誘電体薄膜を形成した比較例1−1では、Nbを高濃度でドープしたにもかかわらず、比誘電率が実施例1−1〜1−3よりも大幅に低い値を示した。また、形成した結晶化促進層の厚さが45nmに満たない比較例1−2では、結晶化促進層がアイランド状でランダム配向(無配向)の膜となり、PNbZT強誘電体薄膜の比誘電率が、実施例1−1〜1−3よりも大幅に低い値を示した。また、形成した結晶化促進層の厚さが90nmを超える比較例1−3では、比誘電率がある程度向上したものの、膜全体におけるPNbZTの割合が少なくなるため、Nbのドープ量に応じた効果が十分に得られたとはいえない結果となった。これに対し、所望の結晶化促進層を形成してPNbZT強誘電体薄膜を形成した実施例1−1〜1−3では、Nbの高濃度ドープによる効果が十分に得られ、比誘電率を大幅に向上させることができた。
【0057】
また、実施例2−1,2−2と比較例2−1,2−2とを比較すると、Bサイト原子(Zr、Ti)との合計100原子%に占めるNbの割合が4原子%に満たない比較例2−1では、比誘電率がある程度向上したものの、実施例2−1,2−2に比べると十分とはいえない結果となった。また、Nbの添加量が少ないため、実施例2−1,2−2に比べてリーク電流密度が若干高い値を示した。また、Nbの割合が10原子%を超える比較例2−2では、比誘電率は比較的高い値を示したものの、形成後のPNbZT強誘電体薄膜にクラックが発生したため、リーク電流密度が非常に高い値を示した。これに対し、Nbを高濃度で、かつ所望の割合に制御した実施例2−1,2−2では、クラックを発生させることなく、Nbの高濃度ドープによる効果が十分に得られ、比誘電率を大幅に向上させることができた。