【実施例】
【0019】
(実施例1)
上記スパークプラグ用絶縁碍子の製造方法にかかる実施例について、
図1〜
図8を参照して説明する。
図1に示すごとくスパークプラグ用絶縁碍子1の製造方法は、釉薬塗布工程100と、印刷工程300と、焼成工程400とを有している。
【0020】
図2及び
図3に示すごとく、釉薬塗布工程100(
図1)においては、釉薬ガラス61を含む釉薬スラリー6を絶縁碍子5の表面に塗布する。
図4〜
図6に示すごとく、印刷工程300(
図1)においては、絶縁碍子5における釉薬スラリー6を塗布した部位に対して、インクジェット印刷機3を用いてインク7を吐出して印刷模様75を印刷する。
図7及び
図8に示すごとく、焼成工程400(
図1)においては、釉薬塗布工程100と印刷工程300とを通過した絶縁碍子5を加熱することにより、釉薬ガラス61よりなる釉薬層60を絶縁碍子5の表面に形成する。
【0021】
以下、さらに詳細に説明する。
図1に示すごとく、本例のスパークプラグ用絶縁碍子1の製造方法は,順次配された釉薬塗布工程100、乾燥工程200、印刷工程300及び焼成工程400の4つの工程を有しており、絶縁碍子5の表面に釉薬層60と印刷模様75とを形成するものである(
図7)。
【0022】
図2、
図4及び
図7に示すごとく、絶縁碍子5は,多孔質体であるアルミナセラミックスからなり、略円筒状をなしている。絶縁碍子5は、その軸方向一端側における外周面に凹凸部51が形成されており、凹凸部51の他端側には、滑らかな円筒状の外周面を有し、印刷模様75が印刷される印刷部52を有している。印刷部52の他端側には、印刷部52の外径よりも大きい外径を有する大径部53が形成されており、大径部53の他端側には、大径部53よりも小さい外径を有する小径部54が形成されている。小径部54の他端側には、他端側に向かって徐々に縮径する略円錘状をなすテーパ部55が形成されている。
【0023】
図2及び
図3に示すごとく、釉薬塗布工程100においては、絶縁碍子5の外周面における、凹凸部51及び印刷部52に釉薬スラリー6を塗布する。
図6に示すごとく、釉薬スラリー6は、粉末状の釉薬ガラス61と、釉薬スラリー6の粘度調整を行うバインダー62と、釉薬ガラス61及びバインダー62と混ぜ合わされた液状の釉薬溶剤63とからなり、所定の粘度を有するペースト状をなしている。釉薬ガラス61の粒子表面には、釉薬溶剤63に混ぜ込まれた釉薬ガラス61が固まることなく釉薬溶剤63内に拡散するように、分散剤611からなる層が形成されている。また、バインダー62は、釉薬スラリー6の釉薬溶剤63が揮発した際に、釉薬ガラス61同士又は釉薬ガラス61と絶縁碍子5とをつなぐ接着剤の役割を果たす。
【0024】
図3に示すごとく、絶縁碍子5への釉薬スラリー6の塗布は、浸漬によって行われる。
浸漬は、釉薬槽2に貯留された釉薬スラリー6に絶縁碍子5を浸すことで、絶縁碍子5の表面に釉薬スラリー6を塗布する。尚、本例においては、絶縁碍子5への釉薬スラリー6の塗布を浸漬によって行うが、これに限るものではなく、例えば、ディスペンサーやスプレー等の種々の方法で塗布することもできる。
【0025】
乾燥工程200においては、絶縁碍子5に塗布された釉薬スラリー6に含まれる釉薬溶剤63を揮発乾燥させる。
本例において、絶縁碍子5の乾燥は、常温よりも高温に設定された乾燥炉(図示略)内に絶縁碍子5を配して行う。乾燥炉内の温度は、釉薬溶剤63の種類に応じて適宜設定される。尚、本例においては、絶縁碍子5の乾燥に乾燥炉を用いたがこれに限るものではなく、例えば、常温で所定の乾燥時間保存したり、送風機等を用いて釉薬溶剤63を揮発乾燥させてもよい。
【0026】
図5及び
図6に示すごとく、印刷工程300においては、絶縁碍子5の印刷部52に印刷模様75を印刷する。
印刷模様75の印刷に用いられるインクジェット印刷機3は、インク7を吐出するヘッド部31と、ヘッド部31にインク7を所定量供給するインク供給機構(図示略)とを有している。
ヘッド部31は、複数のインク吐出口311を備えており、インク吐出口311から微小なインク滴70を吐出して、印刷模様75を印刷可能に構成されている。ヘッド部31に形成されたインク吐出口311の数は、適宜変更することができる。
【0027】
図6に示すごとく、インク7は、微小な粉末状のインク粒子71と、所定の粘度に設定されたインク溶剤とを混合してなる。本例において、インク粒子71は複合酸化物系顔料からなる。複合酸化物系顔料とは、二以上の金属酸化物の固溶体からなる無機顔料を指すものであり、例えば、Co、Fe、Cr、Cu等を含有する複合酸化物系顔料を用いることができる。
【0028】
図6に示すごとく、インク溶剤に混ぜ込まれたインク粒子71がインク溶剤内で拡散するように、インク粒子71の表面には、分散剤からなる層が形成されている。尚、インク7の粘度は、微小なインク滴70を形成するのに適した粘度に適宜設定される。
また、本例において、インク粒子71の粒径D2と釉薬ガラス61の粒径D1とは、0.025≦D2/D1≦0.03の関係を有している。
印刷模様75を印刷する際、絶縁碍子5は、その軸方向が水平となるように、テーパ部55及び小径部54の一部を碍子回転機構(図示略)のチャックによって把持されている。
【0029】
焼成工程400においては、釉薬塗布工程100と印刷工程300とを経た絶縁碍子5を加熱することにより、釉薬ガラス61よりなる釉薬層60を絶縁碍子5の表面に形成する。
絶縁碍子5の加熱は、焼成炉(図示略)において行われる。焼成炉は、絶縁碍子5に塗布された釉薬スラリー6における釉薬ガラス61の融点以上の温度まで加熱可能に構成されている。
【0030】
次に、本例における絶縁碍子5への釉薬層60及び印刷模様75の形成手順について説明する。
まず、
図2及び
図3に示すごとく、釉薬塗布工程100において絶縁碍子5の表面に釉薬スラリー6を塗布する。
絶縁碍子5における凹凸部51から印刷部52までの範囲を、釉薬槽2内に貯留された釉薬スラリー6に浸す。これにより、絶縁碍子5における凹凸部51から印刷部52までの範囲に釉薬スラリー6が塗布される。
【0031】
次いで、乾燥工程200へと移行する。
釉薬スラリー6が塗布された絶縁碍子5を、乾燥炉において乾燥させる。乾燥炉内において加熱された釉薬スラリー6は、釉薬溶剤63が揮発乾燥し、釉薬ガラス61は、バインダー62によって絶縁碍子5の表面に固着する。
【0032】
次いで、印刷工程300へと移行する。
図4〜
図6に示すごとく、碍子回転機構によって絶縁碍子5を回転させると共に、絶縁碍子5に対して、インクジェット印刷機3によってインク滴70を吐出し印刷模様75を印刷する。このとき、インク7に含まれるインク粒子71の一部は、釉薬スラリー6内へと浸透する。
【0033】
次いで、焼成工程400へと移行する。
図7及び
図8に示すごとく、釉薬スラリー6が塗布され、印刷模様75が印刷された絶縁碍子5は、焼成炉において焼成される。
図8は、焼成工程400を経て釉薬層60が形成されたスパークプラグ用絶縁碍子1における、印刷模様75が形成された部位の断面の顕微鏡写真である。釉薬ガラス61は、焼成炉において融点以上の温度に加熱され溶融すると共に、周囲の釉薬ガラス61と結合する。そして、絶縁碍子5が焼成炉から取り出され、冷却凝固することで凹凸部51及び印刷部52の表面を覆う釉薬層60を形成する。このとき、インク7は釉薬ガラス61に溶け込み、釉薬層60の内側に浸透する。これにより、釉薬層60と印刷模様75が形成されたスパークプラグ用絶縁碍子1が得られる。
【0034】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例のスパークプラグ用絶縁碍子1の製造方法は、釉薬塗布工程100、印刷工程300及び焼成工程400を有しており、絶縁碍子5の表面に釉薬スラリー6を塗布した後、釉薬スラリー6上に印刷模様75を印刷することができる。これにより、従来では困難と考えられていた、絶縁碍子5へのインクジェット印刷機3による印刷模様75の印刷をすることが可能となる。
【0035】
すなわち、釉薬塗布工程100において、絶縁碍子5に釉薬スラリー6を塗布することで、絶縁碍子5の表面は、釉薬スラリー6によって覆われる。印刷工程300においては、釉薬塗布工程100を経た絶縁碍子5に対して、絶縁碍子5における釉薬スラリー6が塗布された部位の表面に対して、インクジェット印刷機3によってインク滴70を吐出し印刷模様75を印刷する。つまり、釉薬スラリー6の表面に対して印刷模様75を印刷することにより、絶縁碍子5の表面性状に影響されることなく、印刷模様75を印刷することができる。
【0036】
釉薬塗布工程100及び印刷工程300を経た絶縁碍子5は、焼成工程400において焼成される。焼成工程400においては、釉薬スラリー6とインク7とは、同時に焼成される。釉薬スラリー6に含まれる釉薬ガラス61は、融点以上まで加熱されることで溶融してガラス質からなる釉薬層60を形成する。このとき、
図8に示すごとく、インク7は、溶融した釉薬ガラス61に溶け込み、釉薬層60の内部に浸透する。このように、インク7が釉薬層60に溶け込み、釉薬層60と印刷模様75とが一体に形成されることで、印刷模様75に釉薬層60と同等の強度を付与すると共に印刷模様75と周囲の釉薬層60との間で凹凸のない滑らかな表面形状を得ることができる。
【0037】
このように、スパークプラグ用絶縁碍子1の製造方法においては、従来、絶縁碍子5への印刷模様75の印刷には不向きと考えられていたインクジェット印刷機3による印刷が可能となる。これにより、印刷可能な印刷模様75の自由度が高く、印刷の段取りが容易であると共にインク7の歩留まりが良いというインクジェット印刷機3の利点を享受しながら、従来と同等の印刷品質を確保することができる。
【0038】
また、釉薬塗布工程100と印刷工程300との間には、絶縁碍子5に塗布された釉薬スラリー6に含まれる溶剤を乾燥させる乾燥工程200を備えている。そのため、釉薬スラリー6に含まれる溶剤を確実に乾燥させることができる。これにより、印刷模様75のにじみをより確実に抑制し、印刷模様75の印刷品質をより向上することができる。
【0039】
また、印刷工程300に用いられるインク7は、複合酸化物系顔料インク7である。複合酸化物系顔料インクは、耐熱性に優れている。そのため、高温にさらされる焼成工程400を経ても、印刷模様75を確実に形成し、印刷品質を安定させることができる。
【0040】
また、釉薬スラリー6に含まれる釉薬ガラス61の粒径D1と、インク7に含まれるインク粒子71の粒径D2とは、0.025≦D2/D1≦0.1の関係を満たしている。そのため、釉薬スラリー6の表面に付着したインク7に含まれるインク粒子71が、釉薬スラリー6における釉薬ガラス61の間に入り込みやすい。したがって、焼成工程400よりも前の段階でインク7の少なくとも一部が釉薬スラリー6へ浸透し始め、焼成工程400において、絶縁碍子5を焼成した際に、釉薬層60内にインク7を確実に浸透させることができる。
【0041】
以上のごとく、本例のスパークプラグ用絶縁碍子1の製造方法によれば、印刷の段取りを容易に行え、インク7の歩留まりを向上することができる。