特許第6036487号(P6036487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036487
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20161121BHJP
【FI】
   B23C5/10 B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-72674(P2013-72674)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-195853(P2014-195853A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】深田 耕司
【審査官】 五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−318419(JP,A)
【文献】 特開2000−288827(JP,A)
【文献】 特開2005−125433(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099954(WO,A1)
【文献】 米国特許第07588396(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/00− 5/28
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、前記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する半球状となる複数の底刃が、前記先端部の先端内周側から周方向に間隔をあけて後端外周側に延びるように形成されたボールエンドミルであって、
前記エンドミル本体の先端部に設けられたギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に、断面が凹凸をなす筋状が形成され
前記筋状は、前記ギャッシュの基端側から先端側に向かうに従い凹凸のピッチが広がるように形成されていることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項2】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、前記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する半球状となる複数の底刃が、前記先端部の先端内周側から周方向に間隔をあけて後端外周側に延びるように形成されたボールエンドミルであって、
前記エンドミル本体の先端部に設けられたギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に、断面が凹凸をなす筋状が形成され、
前記筋状は、前記軸線方向先端視において、底刃の径方向中間部を中心として放射状に伸びるように形成されていることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項3】
軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、前記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する半球状となる複数の底刃が、前記先端部の先端内周側から周方向に間隔をあけて後端外周側に延びるように形成されたボールエンドミルであって、
前記エンドミル本体の先端部に設けられたギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に、断面が凹凸をなす筋状が形成され、
前記筋状は、前記ギャッシュの基端側から先端側に向かうに従い凹凸のピッチが広がるように形成され、
前記筋状は、前記軸線方向先端視において、底刃の径方向中間部を中心として放射状に伸びるように形成されていることを特徴とするボールエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、この軸線回りの回転軌跡が半球状となる複数の底刃が周方向に間隔をあけて形成されたボールエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数刃を有するボールエンドミルとして、例えば特許文献1の図6には、エンドミル本体の外周にそれぞれ間隔をあけて形成された複数(4枚)の外周刃を有するとともに、これら外周刃の先端に回転軌跡が半球状をなす円弧状の底刃を有したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−25915号公報、図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように3枚刃以上の複数の底刃を備えるボールエンドミルにおいては、切屑を排出するためのポケットとなるギャッシュ幅を広くとることができず、切屑の排出性が悪くなる。
【0005】
また、この種のボールエンドミルにおいて、切屑排出性が悪くなる他の原因として、切削の際に底刃により生成される切屑が、最初にギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面(以下、ギャッシュの背面側の壁面という場合もある)に当接するが、ギャッシュの背面側の壁面は、通常、肉眼では凹凸を見つけることができない程度まで平滑に仕上られており、生成直後の高温の切屑がこのギャッシュの背面側の壁面に当接する際に密着してしまい、背面側の壁面からの切屑離れが悪くなることが挙げられる。
また、極端な場合には、生成直後の高温の切屑がギャッシュの背面側の壁面に当接して溶着することもある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、たとえギャッシュ幅が狭い場合であっても底刃により生成された切屑を切屑詰まりを生じさせることなく円滑に排出することが可能であり、しかも切屑のギャッシュ壁面への溶着を防ぐことができるボールエンドミルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、前記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する半球状となる複数の底刃が、前記先端部の先端内周側から周方向に間隔をあけて後端外周側に延びるように形成されたボールエンドミルであって、前記エンドミル本体の先端部に設けられたギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に、断面が凹凸をなす筋状が形成され、前記筋状は、前記ギャッシュの基端側から先端側に向かうに従い凹凸のピッチが広がるように形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、前記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する半球状となる複数の底刃が、前記先端部の先端内周側から周方向に間隔をあけて後端外周側に延びるように形成されたボールエンドミルであって、前記エンドミル本体の先端部に設けられたギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に、断面が凹凸をなす筋状が形成され、前記筋状は、前記軸線方向先端視において、底刃の径方向中間部を中心として放射状に伸びるように形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、前記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する半球状となる複数の底刃が、前記先端部の先端内周側から周方向に間隔をあけて後端外周側に延びるように形成されたボールエンドミルであって、前記エンドミル本体の先端部に設けられたギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に、断面が凹凸をなす筋状が形成され、前記筋状は、前記ギャッシュの基端側から先端側に向かうに従い凹凸のピッチが広がるように形成され、前記筋状は、前記軸線方向先端視において、底刃の径方向中間部を中心として放射状に伸びるように形成されていることを特徴とする。
【0008】
このように構成されたボールエンドミルでは、切削の際に底刃により生成される切屑が、最初にギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面、つまりギャッシュの背面側の壁面に当接するが、この壁面に断面が凹凸をなす筋状が形成されている。このため、背景技術で説明した従前の一般に知られているボールエンドミルに比べ、ギャッシュの背面側の壁面と切屑との接触面積が狭くなる。したがって、生成直後の高温の切屑がギャッシュの背面側の壁面に当接する際に該背面側の壁面に密着する事象を抑えることができ、この結果、該背面側の壁面からの切屑離れが良好になる。
【0009】
また、前記筋状は、前記ギャッシュの基端側から先端側に向かうに従い凹凸のピッチが広がるように形成されている。
切削の際に底刃により生成される切屑は、ギャッシュの背面側の壁面の先端側部分に当接し、そこから、ギャッシュの基端側へと流れる。つまり、ギャッシュの基端側は切屑の通過場所となる。このように切屑の通過場所となる、ギャッシュの背面側の壁面の基端側の凹凸のピッチを先端側に比べて狭くすることにより、この部分に切屑が密着する事象をより一層抑えることができる。このため、底刃により生成された切屑を、切屑詰まりを生じさせることなくより円滑に排出することが可能となる。
【0010】
また、前記筋状は、前記軸線方向先端視において、底刃の径方向中間部を中心として放射状に伸びるように形成されている。
底刃により生成される切屑は、エンドミル自体が回転していることもあって、底刃に対して直交方向に流れ出るのではなく底刃に対して90度未満のある角度をもって流れ出る。前記したように筋状を、軸線方向先端視において、底刃の径方向中間部を中心として放射状に伸びるように形成した場合、筋状における凹凸の延びる方向を、切屑の流れ出る方向に対してほぼ直交させることが可能になる。このように筋状における凹凸の延びる方向と切屑の流れ出る方向とをほぼ直交させると、ギャッシュの背面側の壁面と切屑との接触面積を、より一層狭くさせることが可能となり、この結果、該壁面からの切屑離れがより良好になる。
【0011】
加えて、筋状における凹凸の延びる方向と切屑の流れ出る方向とをほぼ直交させると、筋状の凹凸によって切屑の分断効果が高まり、この点においても、ギャッシュの背面側の壁面からの切屑離れが良好になる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、ギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に生成直後の高温の切屑が密着する事象を抑えることができ、該壁面からの切屑離れが良好になる。この結果、切屑を切屑詰まりを生じさせることなく円滑に排出することが可能となり、たとえ3枚刃以上の複数の底刃を備える場合でも、切屑詰まりの発生を防いで切削時の抵抗や負荷の増大を抑えることにより効率的な切削加工を図ることが可能となる。加えて、ギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面に生成直後の高温の切屑が密着する事象を抑えることができるから、切屑のギャッシュ壁面への溶着を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態を示す側面図である。
図2】本発明の一実施形態を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態を示す正面図である。
図4】本発明の一実施形態の筋状を示す正面図である。
図5】本発明の一実施形態の筋状の性状を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図4は、本発明の一実施形態のボールエンドミルを示し、図1は側面図、図2は斜視図、図3は正面図、図4は筋状を示す正面図である。
図1および図2に示すように、エンドミル本体1は軸線Oを中心とした概略円柱状をなし、その後端側(図1における右側)はシャンク部2とされるとともに先端側が切刃部3とされて、前記シャンク部2が工作機械の主軸に取り付けられることにより、軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ該軸線Oに交差する方向に送り出され、また場合によっては該軸線O方向先端側にも送り出されて、切刃部3により被削材を切削加工する。
【0015】
この切刃部3の外周には、エンドミル本体1の先端側から後端側に向けて、後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tの後方側に捩れる複数(本実施形態では4条)の切屑排出溝4が形成されている。さらに、これらの切屑排出溝4のエンドミル回転方向T側を向く壁面の外周側辺稜部には、軸線O回りの回転軌跡が該軸線Oを中心とした1つの円筒面上に位置するようにして外周刃5がそれぞれ形成されている。
なお、この実施形態では、切屑排出溝4及び外周刃5の捩れ角度は、45°と、比較的大きな角度(いわゆる強ねじれ)に設定されている。
【0016】
また、各切屑排出溝4の先端部には、そのエンドミル回転方向Tを向く前記壁面を切り欠くようにして先端内周側に向かうギャッシュ6が形成されており、これらのギャッシュ6のエンドミル回転方向T側を向く壁面の外周側辺稜部に、軸線O回りの回転軌跡が該軸線O上に中心を有する凸半球面状をなすような円弧状の底刃7がそれぞれ形成されている。 従って、本実施形態では、エンドミル本体1先端部の切刃部3に4条の底刃7が形成されるとともに、先端部外周にはこれらの底刃7に連なる4条の外周刃5が形成されることになる。なお、これらの底刃7も、エンドミル本体1の先端内周側(軸線O側)から前記半球面に沿って後端外周側に向かうに従いエンドミル回転方向Tの後方側に捩れるようにされ、それぞれ前記外周刃5の先端に滑らかに接続されている。
【0017】
ここで、本実施形態では、前記4条の底刃7のうち、軸線Oを挟んで互いに反対側に位置する一対の底刃7が前記長底刃7Aとされるとともに、残りの一対の底刃7は、その内周端7bが長底刃7Aの内周端7aよりも軸線O方向先端視において該軸線Oから離れた位置から後端外周側に延びる短底刃7Bとされ、これら長底刃7Aと短底刃7Bとが周方向に交互に配置されている。なお、これらの長短底刃7A、7Bやその後端に連なる外周刃5A、5B等も含めて、エンドミル本体1は軸線Oに関して180°回転対称に形成されている。
【0018】
また、底刃7および外周刃5の数N=4でエンドミル本体1が軸線Oに関して180°回転対称とされた本実施形態では、軸線O方向先端視において長底刃7Aの内周端7aにおける接線と該長底刃7Aのエンドミル回転方向T側に位置する短底刃7Bの内周端7bにおける接線とがなす挟角は、同軸線O方向先端視においてこの短底刃7Bの内周端における接線と該短底刃7Bのさらにエンドミル回転方向T側に位置する底刃7(長底刃7A)の内周端7aにおける接線Aとがなす挟角(本実施形態では100°)より小さくされる。
【0019】
また、図4に示すように、この実施形態では、エンドミル本体1の先端部に設けられたギャッシュ6のエンドミル回転方向後方側を向く壁面6Aに、断面が凹凸をなす筋状8が形成されている。
筋状8は、長底刃7Aに対応するギャッシュ6(長底刃7Aのエンドミル回転方向前方側に位置するギャッシュ6)におけるエンドミル回転方向後方側を向く壁面6A、及び短底刃7Bに対応するギャッシュ6のエンドミル回転方向前方側に位置するギャッシュ6の壁面6Aにも形成されている。
【0020】
筋状8は、ギャッシュ6の基端側(シャンク部2側)から先端側に向かうに従い凹凸のピッチが広がるように斜めに傾斜して形成されている。より具体的には、筋状8は、軸線O方向先端視において、底刃7の径方向中間部を中心Xとして放射状に伸びるように形成されている。なお、この実施形態では、筋状8の放射状の中心Xは、底刃7に沿った位置であってエンドミル本体1の中心から該エンドミル本体の半径の約1/2距離外方へ寄った位置とされているが、これに限られることなく、筋状8の放射状の中心Xは、この位置よりも底刃7に沿った外方位置であっても、あるいは逆に、底刃7に沿った内方位置であってもよい。
このような断面が凹凸をなす筋状8は、例えば、ギャッシュ6を形成する際に当該エンドミル本体1を砥石面に当てて、その研削筋をそのまま残すように加工することによって形成することができる。
【0021】
図5は本発明の一実施形態の筋状8の性状を説明するグラフである。縦軸には筋状8の凹凸を表す高さをとり、横軸には、筋状8の凹凸の幅方向の距離をとっている。筋状8の凹凸の測定箇所は、ギャッシュ6のエンドミル回転方向後方側を向く壁面6Aにおける、先端縁から基端側へ2mm戻った箇所であり、この部分を筋状8の凹凸に対し直交する方向へスキャンしたときの値を図5に示している。
【0022】
ここでは、筋状8の凹凸ピッチは約0.3mm、凹凸の深さは約0.5μmであるが、これらの値はあくまで一例であり、実際には、筋状8の凹凸のピッチとして0.1mm〜0.5mmが採用され、より好ましくは、0.2mm〜0.4mmが採用される。
また、筋状8の凹凸の深さとして0.3μm〜1.0μmが採用され、より好ましくは、0.4μm〜0.7μmが採用される。
なお、この実施形態の筋状8の表面あらさは算術平均粗さRaが0.097μm、最大高さRzが0.578μmであった。
【0023】
このようなボールエンドミルでは、切削の際に底刃7により生成される切屑が、最初にギャッシュ6のエンドミル回転方向後方側を向く壁面6A、つまりギャッシュの背面側の壁面6Aに当接するが、この壁面6Aに断面が凹凸をなす筋状8を形成している。このため、底刃7で生成される切屑がギャッシュ6のエンドミル回転方向後方側を向く壁面6Aに接触する際、その接触面積が狭くなる。したがって、生成直後の高温の切屑がギャッシュ6の背面側の壁面6Aに当接する際に、該背面側の壁面6Aに密着する事象を抑えることができる。この結果、当該背面側の壁面6Aからの切屑離れが良好になる。
【0024】
この結果、切屑を切屑詰まりを生じさせることなく円滑に排出することが可能となり、たとえ3枚刃以上の複数の底刃を備えかつ強ねじれの切屑排出溝4を有することで、ギャッシュの開き角度を広くとることができない場合でも、切屑詰まりの発生を防いで切削時の抵抗や負荷の増大を抑えることにより効率的な切削加工を図ることが可能となる。
加えて、ギャッシュの背面側の壁面6Aに生成直後の高温の切屑が密着する事象を抑えることができるから、切屑のギャッシュ壁面への溶着を防ぐこともできる。
【0025】
また、この実施形態では、筋状8を、ギャッシュ6の基端側から先端側に向かうに従い凹凸のピッチが広がるように斜めに形成している。
ここで、切削の際、底刃7により生成される切屑は、ギャッシュ6の背面側の壁面6Aの先端側部分に当接し、そこから、ギャッシュ6の基端側へと流れる。つまり、ギャッシュ6の基端側は切屑の通過場所となる。このように切屑の通過場所となる、ギャッシュの背面側の壁面6Aの基端側の凹凸のピッチを先端側に比べて狭くすることにより、この部分に切屑が密着する事象を、より一層抑えることができる。このため、底刃7により生成された切屑を、切屑詰まりを生じさせることなくより円滑に排出することが可能となる。
【0026】
さらに、この実施形態では、筋状8を、エンドミルの軸線O方向先端視において、底刃7の径方向中間部Xを中心として放射状に伸びるように形成している。底刃7により生成される切屑は、エンドミル自体が回転していることもあって、底刃に直交して流れ出るのではなく、図4に矢印Yで示すように、底刃7に対して90度未満のある角度をもって流れ出る。したがって、底刃7により生成される切屑は、ギャッシュの背面側の壁面6Aに当接するとき、該壁面6Aに形成した筋状8の凹凸の延びる方向とほぼ直交するように当接する。このように切屑の流れ出る方向と筋状8における凹凸の延びる方向がほぼ直交すると、当該切屑とギャッシュの背面側の壁面6Aとの接触面積をより一層狭くさせることが可能となり、この結果、該壁面からの切屑離れがより良好になる。
【0027】
加えて、切屑の流れ出る方向と筋状8の凹凸の延びる方向とをほぼ直交させると、筋状8の凹凸による切屑の分断効果が高まり、この点においても、ギャッシュ6の背面側の壁面6Aからの切屑離れが良好になる。
【0028】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
例えば、前記実施形態では、4枚刃の底刃7を有するボールエンドミルを例に挙げて本発明を説明したが、本発明は、必ずしも4枚刃の底刃7を有するものに限られることなく、例えば2枚刃の底刃、3枚刃の底刃、あるいは5枚刃以上の底刃を有するボールエンドミルにも適用可能である。半径が1.00mm以下の小径のボールエンドミルの場合、2枚刃の底刃であっても、ギャッシュポケットが狭くなるので、本発明が有効になる。また、等分割並びに不等分割のボールエンドミルにも本発明は適用可能である。特に、不等分割で分割領域が狭いギャッシュの場合に、本発明が有効になる。
さらに、本発明は、等リードのボールエンドミルであっても、また不等リードのボールエンドミルにあっても勿論適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 エンドミル本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 切屑排出溝
5 外周刃
5A 長底刃7Aに連なる外周刃
5B 短底刃7Bに連なる外周刃
6 ギャッシュ
6A ギャッシュのエンドミル回転方向後方側を向く壁面(ギャッシュの背面側の壁面)
7 底刃
7A 長底刃
7B 短底刃
8 筋状
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
図1
図2
図3
図4
図5