(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による内燃機関について、
図1から
図3に基づいて説明する。
【0012】
第1実施形態によるエンジン1は、例えば、軽油を直接燃焼室22に噴射する直噴式の4ストロークエンジンである。エンジン1は、吸気系10、シリンダ20、ピストン30、中央電極35、排気系40、制御部50などから構成されている。なお、
図1には、吸気系10に導入される空気の流れを矢印S1、排気系40から大気に排出される排気の流れを矢印S2で示す。
【0013】
吸気系10は、大気中の空気を燃焼室22に供給する。吸気系10は、吸気管12、スロットルバルブ14、及び、吸気弁18などから構成されている。
【0014】
吸気管12は、吸気管12が形成する吸気通路121がシリンダ20内に形成される燃焼室22と大気とを連通するよう設けられる。吸気管12は、大気に含まれる異物を除去するエアクリーナ13を備える。
【0015】
スロットルバルブ14は、エアクリーナ13からみて燃焼室22側、すなわち、吸気管12の下流側に設けられる。スロットルバルブ14は、運転者による図示しないアクセル装置の開度に応じて吸気管12を流れる空気の量を調整する。
【0016】
吸気弁18は、吸気管12とシリンダ20とが接続される位置に設けられる。吸気弁18は、シリンダ20に対するピストン30の往復移動の位置に応じて開弁または閉弁し、開弁時、吸気通路121を流れる空気を燃焼室22に供給する。
【0017】
排気系40は、燃焼室22の燃焼後の気体である排気を大気に放出する。排気系40は、排気管42、排気温センサ44、及び、排気弁48などから構成されている。
【0018】
排気管42は、排気管42が形成する排気通路421が燃焼室22と大気とを連通するよう設けられる。排気管42の外壁には、排気温センサ44が設けられる。排気温センサ44は、排気通路421を流れる排気の温度を検出する。
【0019】
排気弁48は、排気管42とシリンダ20とが接続される位置に設けられる。排気弁48は、シリンダ20に対するピストン30の往復移動の位置に応じて開弁または閉弁し、開弁時、燃焼室22の排気を排気管42に流通させる。
【0020】
シリンダ20は、シリンダヘッド部24、シリンダライナ部26、及び、クランクケース部28を有する。
【0021】
シリンダヘッド部24には、吸気通路121と連通する吸気ポート244、及び、排気通路421と連通する排気ポート245が形成されている。また、シリンダヘッド部24の略中央には、燃料噴射弁25が設けられる。
【0022】
燃料噴射弁25は、燃焼室22に燃料を直接噴射する。「燃料供給手段」としての燃料噴射弁25には図示しない燃料タンクが貯留する燃料が供給される。燃料噴射弁25は、特許請求の範囲に記載の「燃料供給手段」に相当する。
【0023】
中央電極35は、燃料噴射弁25の燃焼室22側の端部に設けられる。中央電極35は、
図3に示すように、燃料噴射弁25の径外方向であって周方向に等間隔に4個設けられている。中央電極35は、正または負のいずれかの電圧を印加可能であって、シリンダヘッド部24やシリンダライナ部26、ピストン30とは異なる電位が与えられる。中央電極35は、先端に突起351が設けられている。中央電極35は、特許請求の範囲に記載の「電位差形成手段」に相当する。
【0024】
シリンダライナ部26は、略筒状に形成され、シリンダヘッド部24及びピストン30と燃焼室22を形成する。燃焼室22を形成するシリンダライナ部26の内壁面261には、壁面電極262が設けられている。壁面電極262は、シリンダライナ部26と同じ電位を有しており、4個設けられる中央電極35に対応して4個設けられる。内壁面261及び壁面電極262は、特許請求の範囲に記載の「燃焼室を形成する内壁」に相当する。
シリンダライナ部26の側壁の内部にシリンダ20を冷却する冷却水が流れる流路265が形成されている。流路265を流れる冷却水の温度は、シリンダライナ部26の側壁に設けられている水温センサ27によって検出される。
【0025】
クランクケース部28は、シリンダライナ部26のシリンダヘッド部24と接続する側とは反対側の端部に接続するよう設けられている。クランクケース部28は、内部にクランク281を収容する。
【0026】
ピストン30は、シリンダライナ部26の径内方向に往復移動可能に収容されている。
【0027】
制御部50は、種々の情報に基づいて算出される中央電極35及び壁面電極262が形成する電界の強さ、及び、電界を形成するタイミングにあわせて、中央電極35及び壁面電極262に電圧を印加する。制御部50は、演算部52、電源54、昇圧部56などから構成されている。
【0028】
演算部52は、CPU、ROM、RAM、I/O、及びこれらを接続するバスラインを有する周知の小型のコンピュータである。演算部52には、スロットルバルブ14、燃料噴射弁25、水温センサ27、排気温センサ44などと電気的に接続している。演算部52は、スロットルバルブ14が出力するスロットルバルブ14の開度を示す電気信号、燃料噴射弁25が出力する燃料噴射量を示す電気信号、水温センサ27が出力するシリンダライナ部26の冷却水の温度を示す電気信号、図示しないクランク角センサが出力するクランク角を示す電気信号、排気温センサ44が出力する排気温を示す電気信号などが入力される。演算部52では、スロットルバルブ14の開度を示す電気信号に基づいて燃焼室22の圧力を算出し、スロットルバルブ14の開度を示す電気信号及び排気温を示す電気信号に基づいて燃焼室22の温度を算出し、クランク角を示す電気信号に基づいてピストン位置を算出する。演算部52では、これら算出した値に基づいて燃焼室22に電界を形成するための最適な電圧値及び電流値を算出する。また、演算部52は、シリンダライナ部26の冷却水の温度を示す電気信号に基づいてエンジン1の運転状態にあわせた極性の電圧を中央電極35または壁面電極262に印加する。演算部52は、算出された電圧値及び電流値を昇圧部56に出力する。
【0029】
昇圧部56は、演算部52が出力する電圧値、電流値及び極性に基づき電源54が供給する電力を昇圧する。昇圧された電力は、中央電極35及び壁面電極262に印加される。これにより、燃焼室22に所望の電界が形成される。
【0030】
次に、エンジン1の作用をエンジン1の行程にしたがって説明する。
【0031】
上死点にあるピストン30が下死点に移動するとき、吸気弁18が開弁する。吸気通路121を流れる空気が吸気ポート244を介して燃焼室22に供給される(吸気行程)。
次に、下死点まで移動したピストン30が上死点に向かって移動するとき、吸気弁18が閉弁する。ピストン30の上死点への移動によって燃焼室22の容積が小さくなり、燃焼室22の空気が圧縮される(圧縮行程)。
【0032】
次に、ピストン30が上死点近くまで移動すると、燃料噴射弁25によって複数回に分けて燃焼室22に燃料が噴射される。噴射された燃料は所定の温度以上になると燃焼する(燃焼行程)。このとき、制御部50は、中央電極35を負極または正極のいずれか一方の極性にし、壁面電極262を正極または負極のいずれか一方の極性にする。これにより、燃焼室22において、4個の中央電極35と4個の壁面電極262との間に電界が形成される。
また、制御部50は、エンジン1の運転状態にあわせて中央電極35及び壁面電極262の極性を変更する。具体的には、エンジン1が始動した直後は、中央電極35を正極にし、壁面電極262を負極にする。これにより、燃焼室22には、中央電極35から壁面電極262に向かう電界が形成される。また、エンジン1が始動から一定時間経過すると、中央電極35を負極にし、壁面電極262を正極にする。これにより、燃焼室22には、壁面電極262から中央電極35に向かう電界が形成される。
【0033】
ここで、燃焼室22に形成される電界の方向について、
図3に基づいて詳細に説明する。
図3は、燃焼室22を燃料噴射弁25側から見た模式図を示す。なお、
図3では、壁面電極262を正極にし、中央電極35を負極にした場合の電界の方向を示す。
【0034】
燃焼室22では、燃料の燃焼を促進するためスワール流が形成されている。具体的には、
図3の一点鎖線矢印F1に示すように、シリンダ20の中心φを中心として燃料及び空気が周方向に流れている。このときの壁面電極262の先端263における一点鎖線矢印F1の方向を白抜き矢印A1で示す。なお、白抜き矢印A1の大きさは、燃料のスワール流の速度を表す。
【0035】
燃焼行程において、燃料が燃焼すると一点鎖線矢印F1の方向に火炎が流れる。このとき、正極の壁面電極262と負極の中央電極35との間に二点鎖線矢印F2で表される電界が形成されている。このときの壁面電極262の先端263における二点鎖線矢印F2の方向を白抜き矢印A2で示す。すなわち、壁面電極262と中央電極35との間に形成される電界は、スワール流の径内方向に向かって形成される。なお、白抜き矢印A2の大きさは、電界の強さを表す。
【0036】
壁面電極262と中央電極35との間に形成される電界は、火炎を径内方向に曲げるよう形成されている。これを、
図3の白抜き矢印A1、A2、及び、白抜き矢印A1、A2の合成である白抜き矢印A3を用いて説明すると、電界が形成されていない状態での火炎の流れ(白抜き矢印A1)に対して電界(白抜き矢印A2)が作用すると、火炎は白抜き矢印A3の方向に曲げられる。これにより、燃焼行程における火炎の流れは、電界が形成されていない状態での火炎の流れ(一点鎖線矢印F1)に対向しない方向であって、燃焼室22を形成する内壁面261から離れる方向に流れる(点線矢印F3)。
【0037】
また、エンジン1では、燃料噴射弁25の燃料噴射が複数回行われる。燃料噴射の段階は、具体的には、最も大量に燃料が噴射されるメイン噴射行程と、メイン噴射行程の前に比較的少量の燃料を噴射するパイロット噴射行程及びプレ噴射行程と、メイン噴射行程の後に比較的少量の燃料を噴射するアフター噴射行程及びポスト噴射行程と、に分けられる。エンジン1では、パイロット噴射行程及びプレ噴射行程のとき、中央電極を正極とし壁面電極を負極とすることで燃焼室の中央からシリンダライナ部の内壁面に向かう電界を形成する。また、メイン噴射行程のとき、中央電極を負極とし壁面電極を正極とすることでシリンダライナ部の内壁面から燃焼室の中央に向かう電界を形成する。
【0038】
燃焼行程において燃焼室22の燃料が燃焼し下死点まで移動したピストン30は、上死点に向かって移動する。このとき、排気弁48が開弁し、上死点に向かうピストン30によって燃焼室22の排気が排気通路421に排出される(排気行程)。
【0039】
一般に、内燃機関の燃焼行程において生成される火炎は正極の性質を有し、電界中において正極と反発し負極に近づくよう振る舞うことが知られている。そこで、第1実施形態によるエンジン1では、燃焼行程において燃料噴射弁25の端部に設けられている4個の中央電極35とシリンダライナ部26の内壁面261に設けられている4個の壁面電極262との間に電界を形成する。この電界は、燃焼室22における燃料のスワール流の流れを起因とする火炎の流れに対向することなく、火炎の流れを変更する。具体的には、4個の壁面電極262を正極とし4個の中央電極35を負極とすると、火炎はシリンダライナ部26の内壁面261から離れる。火炎が内壁面261から離れると、シリンダライナ部26と火炎との間に空気などの気体の層が形成され、火炎の燃焼熱がシリンダライナ部26に伝わりにくくなる。これにより、火炎の燃焼熱がシリンダ20の外部に放出される量が少なくなり、火炎の燃焼熱に対して燃焼室22の内壁を通って外部に放出される燃焼熱、すなわち、冷却損失を小さくすることができる。したがって、エンジン1の熱効率を向上することができる。
【0040】
また、制御部50は、エンジン1が始動した直後、中央電極35を正極にし、壁面電極262を負極にする。これにより、正極の性質を有する火炎がシリンダライナ部26の内壁面261に近づき火炎の熱が内壁面261に伝わりやすくなるため、シリンダ20の温度が迅速に上昇する。ピストン30やシリンダ20の温度が上昇すると、エンジン冷却水、エンジンオイルが迅速に既定温度に上昇する。これにより、エンジン1の始動性を向上させることができる。具体的には、排気中のCO、HC、PMの量が低減され、始動後の燃料消費量を低減することができる。
また、火炎の燃焼熱がピストン30やシリンダ20に早く伝わることによってエンジン1が十分に暖められエンジン1の運転状態が安定すると、制御部50は、中央電極35を負極にし、壁面電極262を正極にする。これにより、火炎が内壁面261から離れ火炎の熱が内壁面261に伝わりにくくなるため、冷却損失が小さくなる。したがって、第1実施形態によるエンジン1では、中央電極35及び壁面電極262の極性を変更することでエンジン1の運転状態を迅速に安定させることができる。
【0041】
また、燃料噴射弁25による燃料噴射において、パイロット噴射行程及びプレ噴射行程のとき、燃焼室の中央からシリンダライナ部の内壁面に向かう電界を形成し、パイロット噴射行程及びプレ噴射行程における燃焼により生成される小さな火炎を拡散する。また、メイン噴射行程のとき、シリンダライナ部の内壁面から燃焼室の中央に向かう電界を形成し、メイン噴射行程における燃焼により生成する大きな火炎を内壁面261から離す。これにより、燃焼室22における燃焼を効率的に行いつつ、冷却損失を低減することができる。
【0042】
燃焼行程において生成される微粒子状物質は、正または負の電荷を有している。中央電極35及び壁面電極262との間に電界を形成すると、正または負の電荷を有している微粒子状物質は、中央電極35または壁面電極262に引き寄せられ、燃焼室22に閉じ込められる。これにより、排気に含まれる微粒子状物質の量を低減することができる。
【0043】
また、中央電極35や壁面電極262に付着した煤などの未燃物質を中央電極35と壁面電極262との間に印加される高電圧により燃焼させることができる。また、付着物の性状を電流値により検出することができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態による内燃機関を
図4、5に基づいて説明する。第2実施形態は、シリンダヘッド部に2つの電極が設けられている点が第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0045】
第2実施形態によるエンジン2は、例えば、軽油を燃料とする拡散燃焼を行うエンジンである。エンジン2は、燃焼室22周辺の要部断面図である
図4に示すように、シリンダヘッド部24の略中央に燃料噴射弁252が設けられている。
【0046】
燃料噴射弁252は、燃焼室22に軽油を噴射する噴孔253を周方向に4個等間隔に有している(
図5参照)。燃料噴射弁252は、燃料を正または負に帯電させる帯電部251を有する。「燃料供給手段」としての燃料噴射弁252は、「帯電手段」としての帯電部251により帯電した燃料を燃焼室22に噴射する。
【0047】
エンジン2のシリンダヘッド部24の内壁面241には、第1ヘッド部電極242及び第2ヘッド部電極243が設けられている。第2実施形態によるエンジン1では、ピストン30側から見た燃焼室22の模式図である
図5に示すように、4個の第1ヘッド部電極242、及び、4個の第2ヘッド部電極243が設けられている。内壁面241は、特許請求の範囲に記載の「燃焼室を形成する内壁」に相当する。
【0048】
第1ヘッド部電極242は、噴孔253から噴射される燃料の広がりを示す一点鎖線Cによって囲まれた領域の略中央に設けられる。具体的には、第1ヘッド部電極242は、燃料の着火点近傍に設けられている。第1ヘッド部電極242は、シリンダヘッド部24と絶縁されており、内壁面241及び第2ヘッド部電極243とは異なる電位を有することが可能である。第1ヘッド部電極242は、シリンダヘッド部24の内壁面241からピストン30の方向に突出するよう設けられる。第1ヘッド部電極242は、噴孔253から燃料が噴射されるとき、正極または負極のいずれか一方の極性を有する。第1ヘッド部電極242は、特許請求の範囲に記載の「電位差形成手段」に相当する。
【0049】
第2ヘッド部電極243は、第1ヘッド部電極242より径内方向の位置であって、隣り合う第1ヘッド部電極242の間に位置するよう設けられる。第2ヘッド部電極243は、シリンダヘッド部24と同じ電位となるよう設けられる。第2ヘッド部電極243は、シリンダヘッド部24の内壁面241からピストン30の方向に突出するよう設けられ、内壁面241から突出する長さが第1ヘッド部電極242より長くなるよう形成されている(
図4)。第2ヘッド部電極243は、噴孔253から燃料が噴射されるとき、正極または負極のいずれか一方の極性を有する。第2ヘッド部電極243は、特許請求の範囲に記載の「燃焼室を形成する内壁」及び「第1突起」に相当する。
【0050】
エンジン2の燃焼行程において、燃料噴射弁252が燃焼室22に燃料を噴射すると、一点鎖線Cによって囲まれた領域に燃料が広がる。第1ヘッド部電極242が位置する付近において燃焼が開始すると、火炎は第1ヘッド部電極242が位置する付近を中心として一点鎖線Cによって囲まれた領域の全ての方向に流れるが、特に、噴孔253から噴射された方向、すなわち、実線矢印F4の方向に広がる燃料に沿って火炎は流れる。
【0051】
第2実施形態によるエンジン2では、正極となる第1ヘッド部電極242と負極となる第2ヘッド部電極243とにより、第1ヘッド部電極242から第2ヘッド部電極243の方向に電界を形成する。これにより、第1ヘッド部電極242付近から径内方向に流れる火炎は、電界によって点線矢印F5の方向にさらに流れる。また、火炎はシリンダライナ部26の内壁面261から離れる方向に延びるため、火炎が有する燃焼熱がシリンダ20の外部に放出される量が少なくなり、冷却損失を小さくすることができる。したがって、第2実施形態によるエンジン2は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0052】
また、エンジン2では、燃料の噴射方向とは反対側の方向に火炎を広げる作用を有する。このため、燃焼時に比較的利用されにくい噴孔253近傍の空気を火炎の生成に利用することができる。したがって、エンジン2の燃焼効率を向上することができる。
【0053】
また、燃料噴射弁252は、帯電した燃料を燃焼室22に直接噴射する、いわゆる、「静電噴霧」を行うことができる。帯電した燃料は、第1ヘッド部電極242及び第2ヘッド部電極243によって形成される電界の方向に応じてシリンダヘッド部24の内壁面241に対する位置を変更する。例えば、正に帯電した燃料は、正に帯電した第2ヘッド部電極243を有する内壁面241と反発し、内壁面241から離れる方向に移動する。また、負に帯電した燃料は、正に帯電した第2ヘッド部電極243を有する内壁面241に近づく方向に移動する。このように、燃料を帯電させることにより、シリンダヘッド部24に対する位置を制御することができ、火炎の位置を制御することができる。
【0054】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態による内燃機関を
図6、7に基づいて説明する。第3実施形態は、電位差形成手段と吸気弁及び排気弁との間に電界が形成される点が第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0055】
第3実施形態によるエンジン3では、
図6に示すように、吸気弁18及び排気弁48が制御部50の昇圧部56と電気的に接続している。
【0056】
シリンダヘッド部24には、中央電極36が設けられている。中央電極36は、先端に突起を有しない電極部361を有している。電極部361の断面形状は、例えば、楕円形状である。電極部361は、燃焼室22を形成する内壁面のうち電極部361に最も近い内壁面が吸気弁18の吸気弁端面181及び排気弁48の排気弁端面481となるよう形成されている。なお、
図6、7では、説明の便宜上、シリンダヘッド部24に設けられる燃料噴射弁を省略する。中央電極36は、特許請求の範囲に記載の「電位差形成手段」に相当する。吸気弁端面181及び排気弁端面481は、特許請求の範囲に記載の「燃焼室を形成する内壁」に相当する。
【0057】
制御部50は、吸気弁18及び排気弁48を正極とするとき、中央電極36を負極とする。また、吸気弁18及び排気弁48を負極とするとき、中央電極36を正極とする。
【0058】
エンジン3は、燃焼行程において吸気弁18及び排気弁48と中央電極36との間に電界を形成する。特に、吸気弁18及び排気弁48を正極とし、中央電極36を負極とするとき、
図7に示すように、点線矢印F6の方向の電界が形成される。この電界によって燃焼室22の火炎はシリンダヘッド部24の内壁面241から離れ、燃焼室22の中心付近に留まる。これにより、シリンダヘッド部24を介して外部に放出される火炎の燃焼熱を少なくすることができる。したがって、第3実施形態によるエンジン3は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0059】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による内燃機関を
図8に基づいて説明する。第4実施形態は、電位差形成手段とピストンとの間に電界が形成される点が第3実施形態と異なる。なお、第3実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0060】
第4実施形態によるエンジン4では、ピストン30のピストン面301上に略平板状の平板状電極31が設けられている。平板状電極31は、ピストン30と一体に設けられ、ピストン30を介して制御部50の昇圧部56と電気的に接続している。平板状電極31は、特許請求の範囲に記載の「燃焼室を形成する内壁」に相当する。
【0061】
制御部50は、平板状電極31を正極とするとき、中央電極36を負極とする。また、平板状電極31を負極とするとき、中央電極36を正極とする。
【0062】
エンジン4では、燃焼行程において中央電極36と平板状電極31との間に電界を形成する。特に、中央電極36を負極とし、ピストン30及び平板状電極31を正極とするとき、
図8に示すように、点線矢印F7の方向の電界を形成する。この電界によって燃焼室22の火炎はピストン30のピストン面301から離れ、燃焼室22の中心付近に留まる。これにより、ピストン30を介して外部に放出される火炎の燃焼熱を少なくすることができる。したがって、第4実施形態によるエンジン4は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0063】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態による内燃機関を
図9、10に基づいて説明する。第5実施形態は、ピストン面に突起状電極が設けられている点が第4実施形態と異なる。なお、第4実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0064】
第5実施形態によるエンジン5では、ピストン30の燃焼室22を形成するピストン面301は、
図10に示すように、凹状に形成されている。エンジン5の燃焼室22では、凹状のピストン面301によって燃料噴射弁が噴射する燃料が巻き込まれるタンブル流が形成される。ピストン面301には、突起状の突起状電極311が複数設けられている。エンジン5では、突起状電極311は4個設けられている。突起状電極311は、シリンダヘッド部24の方向に延びるよう形成されている。突起状電極311は、ピストン30を介して制御部50の昇圧部56と電気的に接続している。突起状電極311は、特許請求の範囲に記載の「燃焼室を形成する内壁」及び「第2突起」に相当する。
【0065】
シリンダヘッド部24に設けられる中央電極36の先端には、複数の突起363を有する電極部362が設けられている。突起363は、ピストン面301に比べ突起状電極311との距離が最も短くなるよう形成されている。なお、
図9では、説明の便宜上、シリンダヘッド部24に設けられる燃料噴射弁を省略する。
【0066】
制御部50は、突起状電極311を正極とするとき、中央電極36を負極とする。また、突起状電極311を負極とするとき、中央電極36を正極とする。
【0067】
エンジン5では、燃焼行程において中央電極36と突起状電極311との間に電界を形成する。特に、突起状電極311を正極とし、中央電極36を負極とするとき、
図9に示すように、点線矢印F8の方向の電界を形成する。この電界によって、
図10に示すように、電界が形成されていない状態での燃料の流れを示す二点差線矢印F0に対して電界が形成されている状態での燃料の流れを示す一点鎖線矢印F9のように、ピストン面301から離れる。これにより、燃焼行程において燃料が燃焼すると、火炎は流れF9のようにピストン面301から離れて流れることとなる。したがって、ピストン30を介して外部に放出される火炎の燃焼熱を少なくすることができ、第5実施形態によるエンジン5は、第1実施形態と同じ効果を奏する。
【0068】
(他の実施形態)
(ア)上述の実施形態では、エンジンは、軽油を燃料とする直噴式の4ストロークエンジンであるとした。しかしながら、燃料の種類及びエンジンの種類はこれに限定されない。ディーゼルエンジンの場合、圧着着火式エンジンであってもよいし、グロープラグを備えるエンジンであってもよい。また、ガソリンを燃料とするエンジンであってもよい。ガソリンエンジンの場合、燃焼室に直接ガソリンを噴射する直噴式のガソリンエンジンであってもよいし、吸気通路にガソリンを噴射するPFI式であってもよい、また、天然ガスを燃料とするガスエンジンであってもよいし、例えばアルコールとガソリンとの混合燃料を燃料とするエンジンであってもよい。また、2ストロークエンジンであってもよい。
【0069】
(イ)第1実施形態では、シリンダライナ部の内壁上に突起状の壁面電極を設けるとした。しかしながら、壁面電極を設ける構成はこれに限定されない。シリンダライナ部の内壁に絶縁膜を形成し、電界を形成する部位の絶縁膜の厚みを他の部位の絶縁膜の部位の厚みより薄くすることにより電気抵抗を部分的に変化させ、中央電極とシリンダライナ部の内壁上の電気抵抗が小さい部位との間に電界を形成するようにしてもよい。
【0070】
(ウ)上述の実施形態では、制御部は、スロットルバルブの開度、クランク角、排気の温度に基づいて燃焼室に電界を形成するために最適な電圧値及び電流値を算出するとした。しかしながら、制御部が最適な電圧値及び電流値を算出するときに基づくパラメータはこれに限定されない。例えば、最適な電圧値及び電流値を算出するときに用いられる燃焼室の圧力は、アクセル装置のアクセル開度やマップに基づくEGR量、圧縮比などに基づいて算出してもよい。また、最適な電圧値及び電流値を算出するときに用いられる燃焼室の温度は、マップに基づくEGR量に基づいて算出してもよい。
【0071】
(エ)第2実施形態では、燃料噴射弁が噴射する燃料は帯電しているとした。しかしながら、燃料は帯電していなくてもよい。また、第1実施形態、第3、4、5実施形態では、燃料は帯電してもよい。
【0072】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態により実施可能である。