(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C:0.02〜0.25質量%、Si:0.01〜0.50質量%、Mn:0.5〜2.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、sol.Al:0.025〜0.058質量%を含有し、さらに、Nb:0.012〜0.1質量%、V:0.038〜0.1質量%、Ti:0.007〜0.1質量%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で算出される炭素当量Ceqが0.38質量%以下である組成を有し、かつ板厚の1/4位置と板厚中央位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)Qと(110)Mが1.5以下であり、前記板厚中央位置における板面に平行な(100)面と(111)面のX線回折強度比(100)Mと(111)Mが下記(2)〜(4)式を満足し、さらに前記板厚の1/4位置にて、ベイナイト組織を有し、該ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率が70%を超え、残部がパーライト組織からなる組織を有することを特徴とする耐疲労き裂伝ぱ特性に優れた溶接構造物用鋼板。
記
Ceq=[C]+([Mn]/6)+(〔[Cr]+[Mo]+[V]〕/5)+(〔[Ni]+[Cu]〕/15)・・・(1)
ここで、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]、[Cu]:各元素の含有量(質量%)、含有しない場合には0とする。
1.5×(110)M ≦ (100)M ≦ 4.0×(110)M ・・・(2)
2.0×(110)M ≦ (111)M ≦ 4.5×(110)M ・・・(3)
(100)M ≦ (111)M ・・・(4)
前記溶接構造物用鋼板が、前記組成に加えて、Cu:1.0質量%以下、Ni:2.0質量%以下、Cr:1.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、B:0.005質量%以下、Ca:0.010質量%以下、REM:0.010質量%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐疲労き裂伝ぱ特性に優れた溶接構造物用鋼板。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶、海洋構造物、橋梁、建設機械、建築物、タンク等の溶接構造物を建造するにあたって、設計の合理化や使用する鋼材重量の低減、薄肉化による溶接施工の省力化を図るために、高強度鋼板が広く採用されている。それらの溶接構造物に使用される鋼板(以下、溶接構造物用鋼板という)は、靭性や延性のみならず、溶接性および耐疲労特性に優れていることが要求される。
【0003】
溶接構造物では、疲労き裂が溶接止端部から発生し、さらに溶接構造物用鋼板中を伝ぱして、疲労破壊を引き起こす事例が多いことが知られている。溶接止端部が疲労き裂の発生起点となる理由は、繰り返し荷重を受けた場合に、溶接止端部がその形状から応力集中を起こしやすく、しかも溶接によって、引張の残留応力が発生することとされている。
そこで疲労き裂の発生を抑制するために、付加溶接を施して溶接止端部の形状を改善することによって、応力集中を低減する技術、あるいはショットピーニング等で圧縮の残留応力を導入する技術が検討されている。しかし溶接構造物には多数の溶接止端部が存在するので、付加溶接やショットピーニング等の処理を工業的規模で実施することは不可能に近く、また実施すれば溶接構造物の建造コストの大幅な上昇を招く。
【0004】
したがって溶接構造物では、仮に疲労き裂が発生しても、溶接構造物用鋼板中の伝ぱを抑制することで疲労寿命を延長することが重要である。そのため、溶接構造物用鋼板の耐疲労き裂伝ぱ特性を向上させる技術が検討されている。
たとえば特許文献1には、フェライト相が70%以上を占め、鋼板表面に平行な測定面で鋼板内部のα(111)面強度比とα(100)面強度比との比を1.25〜2.0として、耐疲労き裂伝ぱ特性を改善した鋼板が開示されている。
【0005】
また特許文献2には、フェライト相を体積率で60%以上含み、板厚中央位置および板厚の1/4位置における(200)面のX線回折強度比が2.0以上、または(110)面のX線回折強度比が2.5以上で、かつ{100}面、{110}面、{111}面、{211}面のうちのいずれかの面が圧延面に対して5°以内に揃ったフェライト粒コロニーの板厚方向の厚さが、板厚中央位置および板厚の1/4位置において平均で5μm以下である溶接構造用鋼板が開示されている。
【0006】
特許文献3には、板厚方向の(200)回折強度比を2.0〜15.0とし、回復または再結晶フェライト粒の面積率を15〜40%として、板厚方向の疲労き裂伝ぱ速度を低減した厚鋼板が開示されている。
特許文献4には、板厚方向の特定の位置における板面に平行な(110)面のX線強度比を2.0以上として、板厚方向の耐疲労き裂伝ぱ特性を改善した厚鋼板が開示されている。
【0007】
特許文献5には、所定の計算式で表わされる条件を満たす成分を有し、フェライト相とベイナイト相との構成比率を合計で90%以上とし、パーライト相の面積率を2〜10%、(110)面からのX線回折強度の半価幅を0.13〜0.3度として、耐疲労き裂伝ぱ特性を改善した鋼材が開示されている。
特許文献6には、Z方向(板厚方向)の深さt/4(t=板厚)の位置において、アスペクト比(長径/短径)を2以上とし、かつγ粒内方向に成長した針状フェライトを面積分率で1〜60%含み、長径5〜100μmの範囲内の針状フェライトの個数割合を80%以上として、耐疲労き裂伝ぱ特性を改善した鋼板が開示されている。
【0008】
特許文献7には、ベイナイト相を面積率で60〜85%とし、マルテンサイト相とパーライト相を合計0〜5%、残部をフェライト相として、シャルピー衝撃試験の吸収エネルギーおよび耐疲労き裂伝ぱ特性を改善した鋼板が開示されている。
特許文献8には、再結晶フェライト相からなる軟質部、およびマルテンサイト相とベイナイト相の1種以上からなる硬質部で構成された複相組織を有し、その複相組織にて、硬質部の面積分率15〜85%、平均円相当径10μm以上、平均硬さHv200〜700、かつ硬質部と軟質部の平均硬さの差Hv100以上、再結晶フェライト粒の平均円相当径20μm以下、マルテンサイトとベイナイトの平均ラス長さ5μm以下とすることによって、母材靭性と耐疲労き裂伝ぱ特性を改善した厚鋼板が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの技術には種々の問題点が残されている。
特許文献1〜4に開示された技術では、フェライト相とオーステナイト相の2相域、あるいはフェライト相の単相域でフェライト相を強加工して集合組織を発達させる。そのため、圧延機の負荷が大きくなり、トラブルの原因になるばかりでなく、圧延能率が大幅に低下するので、大量生産には適していない。また、加工によってフェライト相が硬化するので、母材靭性の著しい低下を引き起こす。さらに、板厚方向という限られた方向の疲労き裂伝ぱ速度を低減するものであることから、板厚方向以外の板幅方向や板長方向に疲労き裂が加速度的に伝ぱすることによって、溶接構造物が急速に破壊に至る惧れがある。つまり、一方向の疲労き裂伝ぱを極度に抑える代償として、板幅方向や板長方向の疲労き裂が進展しやすくなるという問題を内包している。
【0011】
特許文献5に開示された技術では、半価幅の大きい(すなわち転位密度の大きい)組織を導入している。しかし、このような組織を得るためには、合金元素添加量の増加や加速冷却停止温度の低下が必要となり、その結果、溶接性の低下や延性の低下を招く。
特許文献6に開示された技術では、針状フェライトを有効に活用して、疲労き裂の進展を抑制している。しかし溶接構造物で使用する鋼板は強度、延性、靭性、溶接性等のバランスが重要であるにも関らず、耐疲労き裂伝ぱ特性以外の特性については考慮されていない。
【0012】
特許文献7、8に開示された技術では、耐疲労き裂伝ぱ特性の向上と母材靭性の向上の両立を図っているが、それ以外の特性については考慮されていない。
本発明は、これら従来技術の問題点を解消するために、伝ぱ方向の制約を受けることなく耐疲労き裂伝ぱ特性を向上し、かつ強度、延性、靭性、溶接性のバランスを図った溶接構造物用鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記した課題を解決するために、鋼板の成分と集合組織に着目して検討を重ねた。その結果、集合組織の状態を示す指標としてX線回折強度比を所定の範囲に制御することによって、伝ぱ方向の制約を受けることなく耐疲労き裂伝ぱ特性を向上できることを見出した。また、鋼板の成分および炭素当量を規定することによって、耐疲労き裂伝ぱ特性に加えて強度、延性、靭性、溶接性の向上をバランス良く達成できることを見出した。
【0014】
すなわち本発明者らは、構成組織を種々変化させた、
図1に示すような小型の平板試験片1を用いて、走査型電子顕微鏡筒内(低真空)で疲労き裂伝ぱ試験(応力比0.1)を行ない、その場観察によってマイクロメートルオーダーの伝ぱ速度と微視組織、伝ぱ経路との関係について調査した。その際、応力拡大係数範囲ΔKは、下記に示すBrownの式
ΔK=Δσ(πa)
1/2F(a/W)
(ここで、F(a/W)=1.12−0.231(a/W)+10.55(a/W)
2−21.72(a/W)
3+30.39(a/W)
4)
を用いて計算し、ΔK≒15MPa(m)
1/2で一定となるように応力範囲を設定した。式中のΔσは応力範囲、aはき裂長さ(機械切欠き2と疲労き裂3との合計長さ)、Wは試験片幅である。また、
図1中の寸法を示す数字の単位はmmである。
【0015】
ベイナイト主体の組織を対象とした場合の疲労き裂の観察結果を
図2に示す。(a)は疲労き裂先端の観察結果、(b)は疲労き裂進展経路(疲労き裂が伝ぱした痕跡)を示している。
図2(a)に示すように、疲労き裂3の先端近傍にてき裂伝ぱ方向とある角度をなす多数の微細なサブクラックが認められた。このような微細なサブクラックは、ベイナイトのブロックあるいはパケットの方位とき裂伝ぱ方向との関係において活動したすべり系の痕跡と考えられる。疲労き裂3は、サブクラックを選択的に伝ぱしたため、屈曲や分岐が生じ、応力遮蔽効果によって伝ぱ速度は局所的に低下することが確認された。
【0016】
一方、疲労き裂3の屈曲や分岐によって、
図2(b)に示す進展経路では破面の凹凸が生じた。このような破面の凹凸は、破面接触の際に粗さ誘起き裂閉口を生じさせ、疲労き裂伝ぱに対する駆動力を低下させたものと考えられる。
以上のように、ベイナイト組織においてもブロックやパケットの境界では、伝ぱ速度の低下が見込まれる。そして、先に述べたX線回折強度比のバランスを図り、所定の範囲に制御し集合組織を最適化することで、ベイナイト組織の特定のすべり系を発達させることができ、さらに伝ぱ速度は低下すると考えられる。
【0017】
なお、同様な検討はベイナイト/フェライト組織、ベイナイト/フェライト/マルテンサイト組織、ベイナイト/フェライト/パーライト組織等でも行ない、フェライト/ベイナイト境界、フェライト/パーライト境界、フェライト/マルテンサイト境界等においても、疲労き裂3の分岐や屈曲が見られ、疲労き裂伝ぱ速度が局所的に低下することが認められた。
【0018】
以上の検討結果から、ベイナイト組織のブロックやパケット境界、フェライト/ベイナイト境界、フェライト/パーライト境界、フェライト/マルテンサイト境界を有効に活用することによって、疲労き裂伝ぱ速度を局所的に低下させることが可能であることが判明した。
そして、所定のX線回折強度比によってもたらされる方位差と、上記した組織との相乗効果で疲労き裂伝ぱ速度を効果的に低下させることができる。
【0019】
さらに、そのような組成と組織を有する鋼板は、素材となる鋼材に、加熱−圧延−加速冷却の一連の工程(必要に応じて焼戻しを施しても良い)で能率良く製造することが可能であることも分かった。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、C:0.02〜0.25質量%、Si:0.01〜0.50質量%、Mn:0.5〜2.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、sol.Al:0.025〜0.058質量%を含有し、さらに、Nb:0.012〜0.1質量%、V:0.038〜0.1質量%、Ti:0.007〜0.1質量%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、次(1)式
Ceq=[C]+([Mn]/6)+(〔[Cr]+[Mo]+[V]〕/5)+(〔[Ni]+[Cu]〕/15) ・・・(1)
(ここで、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]、[Cu]:各元素の含有量(質量%)、含有しない場合は0とする。)
で算出される炭素当量Ceqが0.38質量%以下である組成を有し、かつ板厚の1/4位置と板厚中央位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)
Qと(110)
Mが1.5以下であり、板厚中央位置における板面に平行な(100)面と(111)面のX線回折強度比(100)
Mと(111)
Mが次(2)〜(4)式
1.5×(110)
M ≦ (100)
M ≦ 4.0×(110)
M ・・・(2)
2.0×(110)
M ≦ (111)
M ≦ 4.5×(110)
M ・・・(3)
(100)
M ≦(111)
M ・・・(4)
を満足
し、さらに前記板厚の1/4位置にて、ベイナイト組織を有し、該ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率が70%を超え、残部がパーライト組織からなる組織を有することを特徴とする耐疲労き裂伝ぱ特性に優れた溶接構造物用鋼板である。
【0020】
本発明の溶接構造物用鋼板においては、上記の組成に加えて、Cu:1.0質量%以下、Ni:2.0質量%以下、Cr:1.0質量%以下、Mo:1.0質量%以下、B:0.005質量%以下、Ca:0.010質量%以下、REM:0.010質量%以下のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい
。
【0021】
また本発明は、上記の組成を有する鋼材を、900〜1300℃に加熱し、Ar3変態点以上で累積圧下率を50%以上となる圧延を行なった後、Ar3−80℃以上の温度域から、板厚t(mm)と次(5)式
【0022】
【数1】
で定義する成分指標βから算出される次(6)式
CR ≧ 6673×t
-1.65−200×β/t ・・・(6)
を満足する冷却速度CR(℃/s)で650〜200℃の温度域まで加速冷却
して、板厚の1/4位置と板厚中央位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)Qと(110)Mが1.5以下であり、前記板厚中央位置における板面に平行な(100)面と(111)面のX線回折強度比(100)Mと(111)Mが次(2)〜(4)式
1.5×(110)M ≦ (100)M ≦ 4.0×(110)M ・・・(2)
2.0×(110)M ≦ (111)M ≦ 4.5×(110)M ・・・(3)
(100)M ≦ (111)M ・・・(4)
を満足し、さらに前記板厚の1/4位置にて、ベイナイト組織を有し、該ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率が70%を超え、残部がパーライト組織からなる組織を有する鋼板とすることを特徴とする耐疲労き裂伝ぱ特性に優れた溶接構造物用鋼板の製造方法である。
【0023】
本発明の溶接構造物用鋼板の製造方法においては、加速冷却が終了した後に、400℃以上Ac1変態点未満の温度域に加熱して焼戻しを行なうことができる。
【0024】
なお、板厚の1/4位置は、板厚方向の深さt/4(t=板厚)の位置、板厚中央位置は、板厚方向の深さt/2の位置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、製造工程における特殊な作業や合金元素の多量添加を必要とせず、耐疲労き裂伝ぱ特性に加えて強度、延性、靭性、溶接性の向上をバランス良く達成できるので、溶接構造物の疲労破壊の安全裕度を拡大することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず本発明の溶接構造物用鋼板の成分を限定する理由について説明する。
C:0.02〜0.25質量%
Cは、溶接構造物用鋼板の強度を確保するために、0.02質量%以上の添加が必要である。しかし、0.25質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性が阻害される。したがって、Cの含有量は0.02〜0.25質量%とする。好ましくは0.02〜0.20質量%である。
【0028】
Si:0.01〜0.50質量%
Siは、素材の溶製工程で脱酸剤として有効であり、溶接構造物用鋼板の強度を確保するために、0.01質量%以上が必要である。しかし、0.50質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性と靭性が劣化する。したがって、Siの含有量は0.01〜0.50質量%とする。好ましくは0.05〜0.40質量%である。
【0029】
Mn:0.5〜2.0質量%
Mnは、安価に入手することができ、溶接構造物用鋼板の焼入れ性を高めて強度を向上し、かつ靭性を向上する観点から、0.5質量%以上が必要である。しかし、2.0質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性が劣化する。したがって、Mnの含有量は0.5〜2.0質量%とする。好ましくは0.5〜1.8質量%である。
【0030】
P:0.05質量%以下
Pは、溶接構造物用鋼板の靭性を劣化させる作用を有するので、その含有量はできるだけ低くする必要がある。したがって、Pの含有量は0.05質量%以下とする。好ましくは0.0001〜0.03質量%である。
S:0.02質量%以下
Sは、溶接構造物用鋼板の靭性を劣化させる作用を有するので、その含有量はできるだけ低くする必要がある。したがって、Sの含有量は0.02質量%以下とする。好ましくは0.0001〜0.01質量%である。
以上が本発明の溶接構造物用鋼板の基本の成分であるが、強度、靭性、溶接性のさらなる向上をバランス良く図るために、選択成分として、Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、Ti、B、Ca、希土類元素(以下、REMという)のうちの1種または2種以上を含有しても良い。
【0031】
Cu:1.0質量%以下
Cuは、固溶によって溶接構造物用鋼板の強度を向上させ、耐候性も向上させる作用を有する。しかし、その含有量が1.0質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性を損なうばかりでなく、鋼板の製造工程にて疵が発生しやすくなる。したがって、Cuの含有量は1.0質量%以下が好ましい。より好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0032】
Ni:2.0質量%以下
Niは、溶接構造物用鋼板の低温靭性を向上させ、耐候性も向上させる作用を有する。さらに、Cuを添加した場合に生じる熱間脆性を抑える効果を有する。しかし、その含有量が2.0質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性を損なうばかりでなく、製造コストの上昇を招くことがある。したがって、Niの含有量は2.0質量%以下が好ましい。
【0033】
Cr:1.0質量%以下
Crは、溶接構造物用鋼板の強度を向上させ、耐候性も向上させる作用を有する。しかし、その含有量が1.0質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性と靭性を損なうことがある。したがって、Crの含有量は1.0質量%以下が好ましい。
Mo:1.0質量%以下
Moは、溶接構造物用鋼板の強度を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が1.0質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性と靭性を損なうことがある。したがって、Moの含有量は1.0質量%以下が好ましい。より好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0034】
Nb:0.1質量%以下
Nbは、溶接構造物用鋼板を得るための圧延工程におけるオーステナイト再結晶を抑制して、結晶粒を細粒化させるとともに、析出によって強度を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が0.1質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の靭性を損なうことがある。したがって、Nbの含有量は0.1質量%以下が好ましい。より好ましくは0.001〜0.05質量%である。
【0035】
V:0.1質量%以下
Vは、析出によって溶接構造物用鋼板の強度を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が0.1質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性と靭性を損なうことがある。したがって、Vの含有量は0.1質量%以下が好ましい。より好ましくは0.001〜0.07質量%である。
【0036】
Ti:0.1質量%以下
Tiは、溶接構造物用鋼板の強度を向上させ、かつ溶接部の靭性を改善する作用を有する。しかし、その含有量が0.1質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の製造コストの上昇を招くことがある。したがって、Tiの含有量は0.1質量%以下が好ましい。より好ましくは0.001〜0.05質量%である。
【0037】
B:0.005質量%以下
Bは、溶接構造物用鋼板の焼入れ性を高めて強度を向上する作用を有する。しかし、その含有量が0.005質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の溶接性を損なう。したがって、Bの含有量は0.005質量%以下が好ましい。より好ましくは0.0001〜0.003質量%である。
Ca:0.010質量%以下
Caは、介在物の形態制御を通じて、溶接構造物用鋼板の強度と靭性を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が0.010質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の靭性が劣化することがある。したがって、Caの含有量は0.010質量%以下が好ましい。より好ましくは0.0001〜0.005質量%である。
【0038】
REM:0.010質量%以下
REMは、介在物の形態制御を通じて、溶接構造物用鋼板の延性と靭性を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が0.010質量%を超えると、溶接構造物用鋼板の靭性が劣化することがある。したがって、REMの含有量は0.010質量%以下が好ましい。より好ましくは0.0001〜0.005質量%である。
【0039】
本発明の溶接構造物用鋼板の上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
本発明の溶接構造物用鋼板では、上記した通り、溶接性も考慮して成分を設計しているが、溶接性を一層向上するために、次(1)式
Ceq=[C]+([Mn]/6)+(〔[Cr]+[Mo]+[V]〕/5)+(〔[Ni]+[Cu]〕/15) ・・・(1)
(ここで、[C]、[Mn]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Ni]、[Cu]:各元素の含有量(質量%)、含有しない場合は0とする。)
で算出される炭素等量Ceqを0.38質量%以下とする。
【0040】
次に、本発明の溶接構造物用鋼板の組織について説明する。
本発明の溶接構造物用鋼板は、板厚の1/4位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)
Qと板厚中央位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)
Mがいずれも1.5以下であり、かつ板厚中央位置における板面に平行な(100)面のX線回折強度比(100)
Mと(111)面のX線回折強度比(111)
Mが次(2)〜(4)式
1.5×(110)
M ≦ (100)
M ≦ 4.0×(110)
M ・・・(2)
2.0×(110)
M ≦ (111)
M ≦ 4.5×(110)
M ・・・(3)
(100)
M ≦ (111)
M ・・・(4)
を満足することを特徴とする。
【0041】
X線回折強度比で表わされる集合組織は、フェライト組織の強圧延により形成される場合が多く、このとき板面に平行な(110)面のX線回折強度比が大きくなることが知られている。しかし、単に(110)面のX線回折強度比のみ増加させた鋼板では、板厚方向の疲労き裂伝ぱ速度だけが低下し、その他の方向に対する疲労き裂伝ぱ速度の低下は認められないばかりか、むしろ加速する場合もある。
【0042】
溶接構造物においては、負荷状況や応力集中部位の組み合わせは無数にあるので、疲労き裂が発生する起点を特定することは困難であり、その後の伝ぱ速度を板厚方向のみ低下させるだけでは、必ずしも疲労破壊の安全裕度の拡大に繋がらない可能性が高い。
そこで本発明では、過度に板厚方向のみの疲労き裂伝ぱ速度が低下しないように、板厚の1/4位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)
Qと板厚中央位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)
Mを、いずれも1.5以下に限定する。(110)
Qと(110)
Mが1.5を超えると、板幅方向や板長方向の疲労き裂伝ぱ速度が上昇し、疲労き裂伝ぱ速度の方向依存性が大きくなるからである。
【0043】
そして、疲労き裂伝ぱ速度の方向依存性を解消し、板厚方向、板幅方向および板長方向の疲労き裂伝ぱ速度を低下させるために、板厚中央位置における板面に平行な(100)面のX線回折強度比(100)
Mと(111)面のX線回折強度比(111)
Mの関係を、次(2)〜(4)式
1.5×(110)
M ≦ (100)
M ≦ 4.0×(110)
M ・・・(2)
2.0×(110)
M ≦ (111)
M ≦ 4.5×(110)
M ・・・(3)
(100)
M ≦ (111)
M ・・・(4)
を満足するように規定する。(2)〜(4)式を満足しない場合、板厚方向、板幅方向、板長方向のいずれか1つ以上で伝ぱ速度の改善が認められなくなる。
【0044】
さらに、板厚の1/4位置において、ベイナイト組織を有し、そのベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率が70%を超え、残部がパーライト組織からなることが好ましい。鋼板の組織は、その成分や製造履歴に応じて、板厚方向に変化する場合があるが、板厚の1/4位置は標準的な組織が形成される部位である。一般に、板厚の1/4位置にフェライト組織とパーライト組織の混合組織が形成されると、溶接構造物用鋼板として十分な強度が得られないが、板厚の1/4位置にベイナイト組織を形成させることで、低成分系であっても、高い強度が得られる。
【0045】
板厚の1/4位置に形成される組織は、ベイナイト組織の単相でも良く、あるいはベイナイト組織と、フェライト組織、パーライト組織、マルテンサイト組織との混合組織でも良い。ただし混合組織である場合は、ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率が70%を超えることが好ましい。ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率は100%であっても良い。残部の組織は、パーライト組織からなることが好ましい。パーライト組織の面積分率は0%であっても良い。
【0046】
次に、上記した組織を有する溶接構造物用鋼板の製造方法について説明する。
所定の成分を有する鋼材(たとえばスラブ等)を、900〜1300℃に加熱し、Ar3変態点以上で累積圧下率を50%以上となる圧延を行なった後、Ar3−80℃以上の温度域から、板厚t(mm)と次(5)式
【0047】
【数1】
で定義する成分指標βから算出される次(6)式
CR ≧ 6673×t
-1.65−200×β/t ‥‥(6)
を満足する冷却速度CR(℃/s)で650〜200℃の温度域まで加速冷却する。
ここで、上記の鋼材の加熱温度、および加速冷却における鋼板の温度は、いずれも表面温度である。冷却速度は、鋼板の板厚方向の平均値である。
【0048】
鋼材の加熱温度が900℃未満では、その後の圧延における温度の規定を満足できない。一方、1300℃を超えると、結晶粒が粗大化するので、溶接構造物用鋼板の靭性を確保できない。したがって、鋼材の加熱温度は900〜1300℃とする。
そして、Ar3変態点以上で累積圧下率を50%以上となる圧延を行なうことによって、旧オーステナイト粒が微細化し、耐疲労き裂伝ぱ特性および強度、靭性の向上を図ることができる。なお、Ar3変態点は次式
Ar3(℃)=910−310[C]−80[Mn]−20[Cu]−15[Cr]−55[Ni]−80[Mo]
(ここで、[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]、[Mo]:各元素の含有量(質量%))
で算出される。
【0049】
圧延の温度がAr3変態点未満では、フェライト組織が生成して、溶接構造物用鋼板の強度が低下する。また圧延によって、フェライトの集合組織が発達するので、疲労き裂伝ぱ速度の方向依存性が顕著に発現する。
Ar3変態点以上の累積圧下率が50%未満では、旧オーステナイト粒の微細化は困難であり、溶接構造物用鋼板の強度や靭性の向上は得られない。
【0050】
圧延後、Ar3−80℃以上の温度域から、板厚t(mm)と成分指標βから算出される冷却速度CR(℃/s)で650〜200℃の温度域まで加速冷却する。
加速冷却の開始温度がAr3−80℃未満、あるいは加速冷却の停止温度が650℃を上回る場合、フェライト組織とパーライト組織の混合組織が形成されるので、溶接構造物用鋼板の強度の向上は得られない。一方、加速冷却の停止温度が200℃を下回ると、冷却停止後の復熱による焼戻し効果が小さくなり延性や靭性が低下したり、歪みが大きくなり板反りが生じたりする。
【0051】
加速冷却の冷却速度CR(℃/s)が(6)式を満足しない場合には、板厚の1/4位置にて、ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率が70%以下となり、所望の組織を確保することができなくなる。なお、上記した(6)式は、本発明者らによる実験結果から求めた実験式である。
【0052】
本発明者らは、既存の実機の冷却設備およびラボスケールの冷却設備を用いて、種々の板厚を有する鋼板について900℃から室温まで加速冷却を行い、各鋼板の板厚1/4位置における板厚方向で平均的な800〜400℃の間の冷却速度RK(℃/s)を測定した。得られた結果を、鋼板の板厚t(mm)と冷却速度RK(℃/s)との関係で
図3に示す。冷却速度RKは、板厚tによって一義的に変化し、その関係は次(7)式
RK=6673×t
-1.65 ‥‥(7)
の累乗則で概ね近似できることを見出した。(7)式は、同一冷却形式で冷却した場合に、板厚tにより決まる板厚1/4位置における冷却速度の上限を表わしている。
【0053】
つぎに、本発明者らは、板厚の1/4位置にて、ベイナイト組織を有し、ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率が70%超えとなる組織を得るための加速冷却の下限冷却速度について検討した。
鋼板の組織は、化学成分と、オーステナイト域からの冷却速度と、の組合せにより、決まることはすでに広く知られており、このことから、上記した所望の組織を得るためには、化学成分と冷却速度との関係を考慮する必要がある。
【0054】
冷却速度と得られる組織との関係を表すものとしてCCT線図(Continuous Cooling Transformation Diagram)がある。CCT線図は、鋼板の化学成分、すなわち鋼板の焼入れ性により変化する。一般に、合金元素量が多くなるにしたがい、焼入れ性が高くなり、フェライトノーズ、ベイナイトノーズは長時間側に移行する。換言すれば、合金元素量が多くなれば(高成分になるほど)、ベイナイト主体の組織を得るための冷却速度、すなわちフェライトノーズにかからない冷却速度は、低冷却速度側となる。
【0055】
そこで、本発明者らは、鋼板の化学成分の影響を表す指標(鋼板の化学成分指標)として、(5)式に定義するβ(成分指標)を用いることとした。(5)式では、焼入れ性に寄与する各成分(合金元素)の含有量に各成分ごとに決定した係数を乗じることで各成分の焼入れ性への寄与の度合を勘案し、それらの和の平方根を鋼板の化学成分の影響を示す指標β(成分指標)とした。なお、βでは、和の平方根としたが、これは、冷却速度を計算する際に、成分含有量に伴う変動を見積もるのに好適であったためである。
【0056】
図3あるいは(7)式に示すように、加速冷却における冷却速度の上限は、板厚により決定される。したがって、所望の組織を得るための冷却速度の範囲(裕度)は、板厚が薄いほど広くなるが、板厚が厚い場合には狭くなることになる。
そこで、本発明者らは、板厚が厚い場合を想定し、板厚:100mmの鋼板について、所望の組織を得るための下限の冷却速度を調査した。
【0057】
組成を種々変化させた鋼材を900〜1300℃に加熱し、該鋼材にAr3変態点以上で累積圧下率が50%以上となる圧延を行ない、圧延後、Ar3−80℃以上の温度域から種々の冷却速度で加速冷却を施して、板厚:100mmの鋼板とした。得られた鋼板について、板厚1/4位置における組織がベイナイト組織を有し、ベイナイト組織とフェライト組織との合計面積分率が70%を超える組織となる下限の冷却速度CRを求めた。得られた冷却速度CRを、(5)式で定義するβとの関係で
図4に示す。
【0058】
得られたデータについて、上記した(7)式とさらにβ/tを用いて線形近似し、次(6)式
CR ≧ 6673×t
-1.65−200×β/t ‥‥(6)
を得た。
なお、(6)式では、板厚が薄い場合には、計算される下限の冷却速度CRは、実際に目標組織が得られる下限の冷却速度より大きくなるが、生産性の向上という観点から、(6)式を用いることとした。
【0059】
また、目標板厚、加速冷却装置の冷却能が決定されれば、(6)式によりβをベースとした成分設計も可能となり、省成分(成分含有量の削減)の観点から、製造コスト削減にも繋がる。
さらに、本発明では、加速冷却が終了した後に、400℃以上Ac1変態点未満の温度域に加熱して焼戻しを行なうこともできる。加速冷却の後に、400℃以上Ac1変態点未満の温度域で焼戻しを施すことによって、溶接構造物用鋼板の延性と靭性のバランスを調整することができる。焼戻し温度が400℃未満では、このような効果は得られない。一方、Ac1変態点以上では、一部にオーステナイト相が形成され、その後の冷却にて島状マルテンサイトが生成するので、溶接構造物用鋼板の靭性の劣化を招く。なお、Ac1変態点は次式
Ac1(℃)=723−14[Mn]+22[Si]−14.4[Ni]+23.3[Cr]
(ここで、[Mn]、[Si]、[Ni]、[Cr]:各元素の含有量(質量%))
で算出される。
【実施例】
【0060】
表1に示す成分の鋼を溶製して得られた鋼材に、表2に示すよう条件で圧延と冷却を施し、板厚12〜100mmの鋼板を製造した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
板厚の1/4位置および板厚中央位置から板面に平行に試験片(厚さ1.5mm、幅25mm、長さ30mm)を採取し、X線回折法によって板面に平行な(110)面、(100)面、(111)面のX線回折強度を求めた。得られたX線回折強度と、ランダム試験片の(110)面、(100)面、(111)面のX線回折強度との比を、それぞれ板面に平行な(110)面のX線回折強度比、(100)面のX線回折強度比、(111)面のX線回折強度比とした。
【0064】
このようにして求めた板厚の1/4位置および板厚中央位置における板面に平行な(110)面のX線回折強度比(110)
Qおよび(110)
M、板厚中央位置における板面に平行な(100)面のX線回折強度比(100)
M、(111)面のX線回折強度比(111)
Mを、表3に示す。
また、板厚の1/4位置から採取した試験片を研磨した後に、2%ナイタール腐食液でエッチングし、さらにその面を光学顕微鏡(倍率×100〜×400)で観察してベイナイト組織とフェライト組織の合計面積分率、パーライト組織の面積分率を求めた。その結果を表3に示す。なお面積分率は、1試験片について5視野ずつ測定し、その平均値を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
さらに、それぞれの鋼板の引張特性、靭性、溶接性、耐疲労き裂伝ぱ特性を調査した。その手順を以下に説明する。
引張特性は、日本海事協会鋼船規則に準じて、試験片長さ方向を圧延直角方向とし、板厚40mm以下の鋼板では全厚で採取したU1号試験片、板厚40mm超えの鋼板では板厚の1/4位置から採取したU14A号試験片で引張試験を行ない、降伏点または0.2%耐力が315MPa以上、引張強さが440MPa以上、伸びが22%以上を合格とした。
【0067】
靭性は、日本海事協会鋼船規則に準じて、試験片長さ方向を圧延方向に平行とし、板厚40mm以下の鋼板では試験片端面を鋼板表面下2mmとして採取したU4号シャルピー2mmV切欠き試験片、板厚40mm超えの鋼板では板厚の1/4位置から採取したU4号シャルピー2mmV切欠き試験片でシャルピー衝撃試験(−60℃)を3回ずつ行ない、吸収エネルギーが全て34Jを超えるものを合格とした。
【0068】
溶接性は、JIS規格Z3158に準拠し、MAG溶接(入熱14kJ/cm)で、予熱温度25℃、雰囲気20℃-60%にてy形溶接割れ試験を行ない、割れが生じなかったものを合格(○)とした。
耐疲労き裂伝ぱ特性は、CT試験片を用いて、ASTM規格E647に準拠して調査した。CT試験片は、板厚25mm以下の鋼板では全厚、板厚25mm超え50mm以下の鋼板では板厚/2中心−25mm両面減厚、板厚50mmの鋼板では板厚/4中心−25mm両面減厚とし、圧延直角方向(すなわち板幅方向)に疲労き裂が進展する試験片、圧延方向(すなわち板長を方向)に疲労き裂が進展する試験片を作製して、応力比0.1、周波数20Hz、室温大気中にて試験した。
【0069】
また
図5に示すような、板厚方向に疲労き裂3が伝ぱするSENT(Single edge notch tension)試験片4を作製して、応力比0.1、周波数20Hz、室温大気中にて試験した。試験片両面に貼り付けたクラックゲージ5によって疲労き裂長さを測定し、両面の平均値をき裂長さaとして、機械切欠き2の先端から疲労き裂3が1mm以上伝ぱした時点からの応力拡大係数範囲と疲労き裂伝ぱ速度との関係を求めた。応力拡大係数範囲ΔKは、下記に示すBrownの式
ΔK=Δσ(πa)
1/2F(a/W)
(ここで、F(a/W)=1.12−0.231(a/W)+10.55(a/W)
2−21.72(a/W)
3+30.39(a/W)
4)
を用いて計算した。式中のΔσは応力範囲、aはき裂長さ(機械切欠き2と疲労き裂3との合計長さ)、Wは試験片幅(板厚)である。
【0070】
そして疲労き裂が、板厚方向、板幅方向、板長方向に伝ぱする時の、応力拡大係数範囲ΔK=15MPa(m)
1/2の伝ぱ速度が1.75×10
-8m/cycle以下、ΔK=25MPa(m)
1/2の伝ぱ速度が8.5×10
-8m/cycle以下のものを合格とした。
得られた結果は表4に示す通りである。
【0071】
【表4】
【0072】
表4に示す通り、成分およびX線回折強度比が本発明の範囲を満足する鋼板No.1〜13は、強度、延性、靭性、溶接性に優れており、しかも耐疲労き裂伝ぱ特性は、いずれの方向においても向上している。
これに対して、CとSiの含有量が本発明の範囲を超える鋼板No.14、MnとPとSの含有量が本発明の範囲を超える鋼板No.15は、炭素当量Ceqが0.38質量%を超えており、延性、靭性、溶接性が劣る。
【0073】
加熱温度が本発明の範囲を超える鋼板No.16は、靭性が劣る。
加熱温度が本発明の範囲を下回り、結果としてAr3変態点以上の累積圧下率が50%に満たず、フェライトの生成温度域で圧延し、冷却開始温度が本発明の範囲を下回る鋼板No.17は、(110)
Qと(110)
Mが1.5を超え、(110)
Mと(100)
Mと(111)
Mが(2)〜(4)式を満足しない。また、パーライト組織が多く生成したため、ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積率が70%を下回る。それ故、鋼板No.17は、強度が低くなり、板厚方向の疲労き裂伝ぱ速度は低いが、その他の方向の疲労き裂伝ぱ速度は高い。
【0074】
Ar3変態点以上の累積圧下率が50%に満たず、フェライトの生成温度域で圧延し、冷却開始温度が本発明の範囲を下回る鋼板No.18は、(110)
Qと(110)
Mが1.5を超え、(110)
Mと(100)
Mと(111)
Mが(2)〜(4)式を満足しない。また、パーライト組織が多く生成したため、ベイナイト組織とフェライト組織の合計面積率が70%を下回る。それ故、鋼板No.18は、強度が低くなり、板厚方向の疲労き裂伝ぱ速度は低いが、その他の方向の疲労き裂伝ぱ速度は高い。
【0075】
冷却開始温度が本発明の範囲を下回る鋼板No.19、冷却速度が(6)式を満足せず本発明の範囲を下回る鋼板No.20、冷却停止温度が本発明の範囲を上回る鋼板No.21は、いずれもベイナイト組織とフェライト組織の合計面積率が70%を下回る。それ故、鋼板No.19、20、21は、強度と耐疲労き裂伝ぱ特性が劣る。
冷却停止温度が本発明の範囲を下回る鋼板No.22は、延性、靭性が劣る。
【0076】
焼戻し温度が本発明の範囲を上回る鋼板No.23は、靭性が劣る。