(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機は、一般に、複数のプラネタリギヤセット(遊星歯車機構)とクラッチやブレーキ等の複数の油圧式摩擦締結要素とを備え、油圧制御によってこれらの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えて、複数の前進変速段と通例1段の後退速段とを実現可能なように構成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、いずれもシングルピニオン型の3つのプラネタリギヤセットと、5つの摩擦締結要素とを備え、これらの摩擦締結要素のうち、いずれか2つを締結することにより、前進6段、後退1段を実現する自動変速機が開示されている。
【0004】
一方、近年においては、エンジンの燃費性能の向上や変速性能の向上のため、前進変速段のさらなる多段化が求められており、例えば、3つのプラネタリギヤセットと6つの摩擦締結要素とを備え、これらの摩擦締結要素のうちの2つの摩擦締結要素の締結の組み合わせにより、前進8段を実現する自動変速機が考えられている。
【0005】
しかし、この構成では、各変速段において非締結状態の摩擦締結要素が4つ存在することになり、そのため、これらの摩擦締結要素における摩擦板間の摺動抵抗或いは摩擦板間の潤滑油の粘性抵抗等により、変速機全体としての駆動損失が大きくなり、多段化による燃費性能の向上効果が損なわれる可能性がある。
【0006】
これに対し、特許文献2には、2つのシングルピニオン型プラネタリギヤセット及び2つのダブルピニオン型プラネタリギヤセットと、5つの摩擦締結要素とを備え、これらの摩擦締結要素のうちの3つを選択的に締結することにより、前進8段を実現する自動変速機が開示されている。
【0007】
これによれば、各変速段における非締結状態の摩擦締結要素の数が2つになるので、上記のような駆動損失が抑制されると共に、シングルピニオン型プラネタリギヤセットに比べて変速比の設定の自由度が高いダブルピニオン型プラネタリギヤセットを併用しているので、隣接する変速段間でのギヤステップ(下段の減速比/上段の減速比)の配分を適切に設定しやすくなるメリットが期待できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記特許文献2に開示された自動変速機の構成では、減速比1の直結段が5速で、減速段が4段、増速段が3段となっており、全般的に減速比が小さくなるので、車両重量に対して相対的に排気量の小さなエンジンを搭載した場合に、駆動力が不足する懸念がある。特に発進加速性が不足する可能性があるので、この自動変速機では、1速の減速比を大きく設定しており、そのために、1−2速間のギヤステップが他の変速段間のギヤステップよりも大きくなり、適切なギヤステップの配分性が犠牲にされている(
図21の比較例参照)。
【0010】
この問題に対しては、終減速比を大きくすることによって、適切なギヤステップの配分を実現しながら、所要の駆動力や発進加速性を確保することが考えられる。しかし、この場合、終減速機を構成するデファレンシャル機構の入力ギヤが大型化し、特に、変速機が横置き式とされ、デファレンシャル機構と一体化された駆動ユニットが構成されるフロントエンジン・フロントドライブ車等の場合、駆動ユニットが大型化し、エンジンルームへの搭載性が問題となる。
【0011】
また、前記特許文献2に開示された自動変速機において、直結段を6速以上の高変速段に設定することが考えられるかもしれないが、5つの摩擦締結要素のうちの3つを締結する10通りの組み合わせのうち、1〜8速及び後退速で用いられていない残り1つの組み合わせ、具体的には、クラッチC1、ブレーキB1、B2を締結する組合せでは、クラッチCa、Cbが解放されるので、プラネタリギヤセット8におけるキャリヤCrがフリーとなり、そのため、出力ギヤ3が連結されたプラネタリギヤセット8のリングギヤRrに回転力を出力できず、ニュートラル状態となる。
【0012】
つまり、特許文献2に開示された自動変速機では、5速より低速段側に新たな変速段を設けて直結段を6速以上とすることが不可能なのである。
【0013】
また、この自動変速機において、あえて直結段を6速以上に設定しようとして、各プラネタリギヤセットの回転要素間の連結関係や、これらの回転要素と摩擦締結要素との関係の一部を変更しようとしても、一般に自動変速機の構成は、一部の変更が他の部位に及び、実現可能なギヤ寸法で、各変速段の適切な減速比と変速段間の適切なギヤステップを実現しようとすると、結局、新しい構成の自動変速機を始めから創り出さなければならないことになる。
【0014】
本発明は、自動変速機の多段化に関する上記のような実情に鑑み、直結段を6速に設定でき、しかも、各変速段間のギヤステップの適切な配分が可能な前進8段の自動変速機の実現を課題とし、鋭意検討の結果、これを実現したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明に係る自動変速機は、次のように構成したことを特徴とする。
【0016】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
変速機ケース内に、
駆動源に連結された入力軸と、
該入力軸と同軸上に配設されてデファレンシャル機構に連結される出力部材と、
第1サンギヤ、第1キャリヤ及び第1リングギヤを有するダブルピニオン型の第1プラネタリギヤセットと、
第2サンギヤ、第2キャリヤ及び第2リングギヤを有するダブルピニオン型の第2プラネタリギヤセットと、
第3サンギヤ、第3キャリヤ及び第3リングギヤを有するシングルピニオン型の第3プラネタリギヤセットと、
第4サンギヤ、第4キャリヤ及び第4リングギヤを有するシングルピニオン型の第4プラネタリギヤセットと、
第1、第2、第3クラッチと、
第1、第2ブレーキと、
を備えた自動変速機であって、
前記入力軸と前記第2サンギヤと前記第4キャリヤとが常時連結され、
前記出力部材と前記第1リングギヤと前記第4リングギヤとが常時連結され、
前記第1サンギヤと前記第3リングギヤとが常時連結され、
前記第2リングギヤと前記第3キャリヤとが常時連結され、
前記第1クラッチは、前記第2キャリヤと前記第3サンギヤとの間を断接し、
前記第2クラッチは、前記第3サンギヤと前記第3リングギヤとの間を断接し、
前記第3クラッチは、前記第3サンギヤと前記第4サンギヤとの間を断接し、
前記第1ブレーキは、前記第2キャリヤと前記変速機ケースとの間を断接し、
前記第2ブレーキは、前記第1キャリヤと前記変速機ケースとの間を断接し、
前記第1、第2、第3クラッチが締結され、かつ、前記第1、第2ブレーキが解放されたときに、減速比1の6速が形成されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
第1、第2、第3クラッチ及び第1、第2ブレーキのうち、
前記第2クラッチ、前記第1ブレーキ及び前記第2ブレーキが締結されたときに1速が形成され、
前記第1クラッチ、前記第1ブレーキ及び前記第2ブレーキが締結されたときに2速が形成され、
前記第1クラッチ、前記第2クラッチ及び前記第2ブレーキが締結されたときに3速が形成され、
前記第1クラッチ、前記第3クラッチ及び前記第2ブレーキが締結されたときに4速が形成され、
前記第2クラッチ、前記第3クラッチ及び前記第2ブレーキが締結されたときに5速が形成され、
前記第2クラッチ、前記第3クラッチ及び前記第1ブレーキが締結されたときに7速が形成され、
前記第1クラッチ、前記第3クラッチ及び前記第1ブレーキが締結されたときに8速が形成され、
前記第3クラッチ、前記第1ブレーキ及び前記第2ブレーキが締結されたときに後退速が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記の構成により、請求項1に記載の発明によれば、2つのダブルピニオン型プラネタリギヤセットと、2つのシングルピニオン型プラネタリギヤセットと、5つの摩擦締結要素とを備えた前進8段の自動変速機において、直結段を6速とすることが可能となり、前述の直結段が5速の自動変速機に比べて減速段の数が多くなる。
【0019】
したがって、全般的に減速比を大きくすることができて、小排気量エンジンに適用されたときに、終減速比の増大や、これに伴う駆動ユニットの大型化、エンジンルームへの搭載性の悪化等を抑制し、かつ、各変速段間の適切なギヤステップの設定を可能としながら、所要の駆動力や発進加速性を実現することが可能となる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、各プラネタリギヤセットのサンギヤとリングギヤの歯数を適切に設定することにより、1〜5速、7、8速、及び後退速についても、適切な減速比が実現される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動変速機10の構成を示す骨子図であって、この自動変速機10は、変速機ケース11内に、同一軸線上に配設された入力軸12と出力軸13とを有し、これらの軸心上に、図の左側の入力側(駆動源側)から、ダブルピニオン型の第1、第2プラネタリギヤセット(以下、単に「第1、第2ギヤセット」という)PG1、PG2と、シングルピニオン型の第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「第3、第4ギヤセット」という)PG3、PG4とが配設されている。
【0024】
また、第2ギヤセットPG2と第3ギヤセットPG3との間には、第1クラッチCL1が配設され、第3ギヤセットPG3と第4ギヤセットPG4との間には、入力側から第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3が配設されている。そして、第1ギヤセットPG1の入力側に、入力側から第1、第2ブレーキBR1、BR2が配設されている。
【0025】
前記第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4は、それぞれ3つの回転要素を有し、これらの回転要素として、第1ギヤセットPG1は、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1、第1キャリヤC1を有し、第2ギヤセットPG2は、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2、第2キャリヤC2を有し、第3ギヤセットPG3は、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3、第3キャリヤC3を有し、第4ギヤセットPG4は、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4、第4キャリヤC4を有する。
【0026】
ここで、ダブルピニオン型の第1、第2ギヤセットPG1、PG2は、第1、第2サンギヤS1、S2にそれぞれ噛み合わされた第1ピニオンと、該第1ピニオンと第1、第2リングギヤR1、R2とにそれぞれ噛み合わされた第2ピニオンとを有し、これらのピニオンが前記第1、第2キャリヤC1、C2にそれぞれ支持されている。また、シングルピニオン型の第3、第4ギヤセットPG3、PG4は、第3、第4サンギヤS3、S4と第3、第4リングギヤR3、R4とにそれぞれ噛み合わされたピニオンを有し、これらのピニオンが前記第3、第4キャリヤC3、C4にそれぞれ支持されている。
【0027】
また、この自動変速機10においては、前記第1サンギヤS1と第3リングギヤR3、前記第1リングギヤR1と第4リングギヤR4、前記第2サンギヤS2と第4キャリヤC4、及び、前記第2リングギヤR2と第3キャリヤC3とが、それぞれ常時連結されている。そして、前記入力軸12は、第2サンギヤS2及び第4キャリヤC4に常時連結され、前記出力軸13は、第1リングギヤR1及び第4リングギヤR4に常時連結されている。
【0028】
また、前記第1クラッチCL1は、前記第2キャリヤC2と第3サンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっており、前記第2クラッチCL2は、前記第3サンギヤS3と第3リングギヤR3との間に配設されて、これらを断接するようになっており、前記第3クラッチCL3は、前記第3サンギヤS3と第4サンギヤS4との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
【0029】
さらに、前記第1ブレーキBR1は、前記変速機ケース11と第2キャリヤC2との間に配設されて、これらを断接するようになっており、前記第2ブレーキBR2は、前記変速機ケース11と第1キャリヤC1との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
【0030】
この自動変速機10によれば、以上の構成において、
図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1〜8速及び後退速が形成される。
【0031】
次に、
図2に示す各摩擦締結要素の締結の組み合わせに従い、変速段ごとに、減速比が決定されるメカニズムを
図3〜
図11によって説明する。
【0032】
なお、
図3〜
図11の(a)図は、当該変速段で締結される摩擦締結要素を網掛けによって表示したものであり、また、(b)図は、当該変速段の減速比を線図によって示すもので、この減速比線図において、各ギヤセットPG1〜PG4における回転要素間の横方向の間隔はそれぞれのギヤ比によって定まり、ダブルピニオン型のギヤセットPG1、PG2では、キャリヤ、リングギヤ、サンギヤの順に配置され、シングルピニオン型のギヤセットPG3、PG4では、リングギヤ、キャリヤ、サンギヤの順に配置されている。
【0033】
また、縦軸は回転速度を表し、入力回転速度、即ち、入力軸12とこれに常時連結された第2サンギヤS2及び第4キャリヤC4の回転速度を「1」、ブレーキによって固定された回転要素の回転速度を「0」とする。また、常時連結された回転要素同士、及びクラッチによって連結された回転要素同士の回転速度は等しくなる。そして、N1〜N8、Nrは、第1、第4リングギヤR1、R4ないし出力軸13から出力される回転の各変速段での回転速度を示し、この出力回転速度の逆数が当該変速段における減速比となる。
【0034】
まず、1速では、
図3に示すように、第2クラッチCL2と、第1、第2ブレーキBR1、BR2とが締結されるから、第1キャリヤC1及び第2キャリヤC2の回転速度が「0」となる共に、第3サンギヤS3と第3リングギヤR3とが結合されて第3ギヤセットPG3が一体化することにより、第3ギヤセットPG3の各回転要素が同一回転し、第3キャリヤC3に常時連結された第2リングギヤR2、第3リングギヤR3に常時連結された第1サンギヤS1もこれらと同一回転する。
【0035】
これらの回転要素の回転速度は、第2ギヤセットPG2において、第2サンギヤS2の回転速度が「1」、第2キャリヤC2の回転速度が「0」の条件から決定され、この回転速度が第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1に入力されることにより、第1リングギヤR1の回転速度が決まり、これが出力回転速度N1となる。
【0036】
次に、2速では、
図4に示すように、第1クラッチCL1と、第1、第2ブレーキBR1、BR2とが締結されるから、第1キャリヤC1及び第2キャリヤC2の回転速度が「0」となると共に、第2キャリヤC2と第3サンギヤS3とが連結されることにより、第3サンギヤS3の回転も「0」となる。
【0037】
そして、第2サンギヤS2の回転が「1」、第2キャリヤC2の回転が「0」であることから、第2リングギヤR2、及びこれに常時連結された第3キャリヤC3の回転速度が決定し、これにより、第3リングギヤR3の回転速度及びこれに常時連結された第1サンギヤS1の回転速度が決定する。その結果、第1ギヤセットPG1において、第1キャリヤC1の回転速度が「0」であることから第1リングギヤR1の回転速度が決定し、これが出力回転速度N2となる。
【0038】
次に、3速では、
図5に示すように、第1、第2クラッチCL1、CL2と、第2ブレーキBR2とが締結されるから、まず、第3サンギヤS3と第3リングギヤR3とが結合されて第3ギヤセットPG3が一体化することにより、第3ギヤセットPG3の各回転要素が同一回転し、第3キャリヤC3に常時連結された第2リングギヤR2、第3リングギヤR3に常時連結された第1サンギヤS1もこれらと同一回転する。
【0039】
また、第3サンギヤS3と第2キャリヤC2とが連結されることにより、第2ギヤセットPG2も一体化し、その結果、第2、第3ギヤセットPG2、PG3の全体が第2サンギヤS2に入力される入力回転速度「1」で一体回転する。
【0040】
そして、この回転速度「1」が、第1キャリヤC1の回転速度が「0」の第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1に伝達されることにより、第1リングギヤR1の回転速度が決定し、これが出力回転速度N3となる。
【0041】
次に、4速では、
図6に示すように、第1、第3クラッチCL1、CL3と、第2ブレーキBR2とが締結されるから、第1キャリヤC1の回転速度が「0」となると共に、第2キャリヤC2と第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とが連結され、これらが同一回転する。
【0042】
そして、これらの条件と、第1サンギヤS1と第3リングギヤR3とが常時連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤC3とが常時連結され、入力回転要素である第2サンギヤS2と第4キャリヤC4とが常時連結され、出力回転要素である第1リングギヤR1と第4リングギヤR4とが常時連結されているとの条件とから、第2サンギヤS2及び第4キャリヤC4への入力回転速度「1」に対する第1リングギヤR1及び第4リングギヤR4の回転速度が決定し、これが出力回転速度N4となる。
【0043】
次に、5速では、
図7に示すように、第2、第3クラッチCL2、CL3と、第2ブレーキBR2とが締結されるから、まず、第3サンギヤS3と第3リングギヤR3とが結合されて第3ギヤセットPG3が一体化することにより、第3ギヤセットPG3の各回転要素が同一回転し、第3リングギヤR3に常時連結された第1サンギヤS1、及び、第3サンギヤS3に連結された第4サンギヤS4もこれらと同一回転する。
【0044】
その結果、第1ギヤセットPG1と第4ギヤセットPG4とにおいて、第1サンギヤS1と第4サンギヤS4とが同一回転すると共に、常時連結された第1リングギヤR1と第4リングギヤR4とが同一回転し、かつ、第1キャリヤC1の回転速度が「0」であるとの条件から、出力回転要素である第1リングギヤR1と第4リングギヤR4の回転速度が決定し、この回転速度が出力回転速度N5となる。
【0045】
次に、6速では、
図8に示すように、第1、第2、第3クラッチCL1、CL2、CL3が締結されるから、まず、第3サンギヤS3と第3リングギヤR3とが結合されて第3ギヤセットPG3が一体化することにより、第3ギヤセットPG3の各回転要素が同一回転し、第3キャリヤC3に常時連結された第2リングギヤR2、第3リングギヤR3に常時連結された第1サンギヤS1もこれらと同一回転し、さらに、第3サンギヤS3に連結された第4サンギヤS4も同一回転する。
【0046】
また、第3サンギヤS3と第2キャリヤC2とが連結されることにより、第2ギヤセットPG2も一体化し、第2ギヤセットの各回転要素が同一回転すると共に、第2サンギヤS2に常時連結された第4キャリヤC4も同一回転し、その結果、第4ギヤセットPG4も一体化し、第4リングギヤR4及びこれに常時連結された第1リングギヤR1も、前記各回転要素と同一回転する。その結果、第1ギヤセットPG1も一体化し、第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4が全て一体化して、全回転要素が同一回転速度で回転することになる。
【0047】
したがって、第2サンギヤS2及び第4キャリヤC4に入力される回転の速度「1」が、そのまま、第1、第第4リングギヤR1、R4から出力回転速度N6として出力される。これにより、6速が減速比「1」の直結段となる。
【0048】
次に、7速では、
図9に示すように、第2、第3クラッチCL2、CL3と、第1ブレーキBR1とが締結されるから、まず、第3サンギヤS3と第3リングギヤR3とが結合されて第3ギヤセットPG3が一体化することにより、第3ギヤセットPG3の各回転要素が同一回転し、第3キャリヤC3に常時連結された第2リングギヤR2、第3リングギヤR3に常時連結された第1サンギヤS1もこれらと同一回転し、さらに、第3サンギヤS3に連結された第4サンギヤS4も同一回転する。
【0049】
そして、これらの条件と、第2キャリヤC2の回転速度が「0」、第2サンギヤS2及び第4キャリヤC4の回転速度が「1」であることとから、同一回転する前記各回転要素の回転速度が決定すると共に、これに伴って第4リングギヤR4の回転速度が決定し、この回転速度が出力回転速度N7となる。
【0050】
次に、8速では、
図10に示すように、第1、3クラッチCL1、CL3と、第1ブレーキBR1とが締結されるから、第2キャリヤC2の回転速度が「0」とされると共に、これに連結された第3サンギヤS3及び第4サンギヤS4の回転速度も「0」となる。
【0051】
そして、第4ギヤセットPG4において、第4キャリヤC4の回転速度が「1」、第4サンギヤS4の回転速度が「0」となることにより、第4リングギヤR4の回転が決定し、この回転速度が出力回転速度N8となる。
【0052】
さらに、後退速では、
図11に示すように、第3クラッチCL3と、第1、第2ブレーキBR1、BR2とが締結されるから、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とが連結されて、これらが同一回転すると共に、第1、第2キャリヤC1、C2の回転速度が「0」となる。
【0053】
そして、これらの条件と、第1サンギヤS1と第3リングギヤR3とが常時連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤC3とが常時連結され、入力回転要素である第2サンギヤS2と第4キャリヤC4とが常時連結され、出力回転要素である第1リングギヤR1と第4リングギヤR4とが常時連結されていることとから、第2サンギヤS2及び第4キャリヤC4への入力回転速度「1」に対して、第1リングギヤR1及び第4リングギヤR4からの出力回転速度が決まり、これが前進時と逆方向の出力回転速度Nrとなる。
【0054】
以上のようにして、
図2に示す摩擦締結要素の締結の組み合わせにより、回転速度N1〜N8、Nrを、N1<N2<N3<N4<N5<N6<N7<N8、Nr<0とすることが可能となると共に、前記の構成により、N6=1となるから、前進8段、後退段1段で、6速が減速比「1」の直結段となる自動変速機が得られる。
【0055】
したがって、直結段が5速の自動変速機に比べて減速段の数が多くなり、低変速段の減速比を大きくすることが可能となって、小排気量エンジンに適用したときに、終減速比の増大や、これに伴う差動装置ないし駆動ユニットの大型化、エンジンルームへの搭載性の悪化等を抑制し、かつ、各変速段間の適切なギヤステップの設定を可能としながら、所要の駆動力や発進加速性を実現することが可能となる。
【0056】
次に、
図12〜
図18に示す第2〜第8実施形態に係る自動変速機について説明する。
【0057】
これらの実施形態に係る自動変速機においても、同一軸線上に配置された入力軸と出力軸の軸線上に、ダブルピニオン型の第1、第2ギヤセットと、シングルピニオン型の第3、第4ギヤセットと、第1、第2、第3クラッチと、第1、第2ブレーキとが配設されている。
【0058】
なお、これらの構成要素は第1実施形態と同じであるので、以下の説明では、第1〜第4ギヤセット及びその回転要素、並びに各摩擦締結要素について、第1実施形態と同じ符号を用いる。
【0059】
各実施形態は、前記軸線上における第1〜第4ギヤセットの並びの順番が相違し、これに伴って各摩擦締結要素の配置も異なっている。
【0060】
即ち、
図12に示す第2実施形態に係る自動変速機20においては、入力軸22と出力軸23の軸線上に、入力側から、第1ギヤセットPG1、第3ギヤセットPG3、第2ギヤセットPG2、及び、第4ギヤセットPG4が配置されている。
【0061】
そして、第3ギヤセットPG3と第2ギヤセットPG2との間に第2クラッチCL2が、第2ギヤセットPG2と第4ギヤセットPG4との間に、入力側から第1クラッチCL1及び第3クラッチCL3がそれぞれ配設されていると共に、第1ギヤセットPG1の入力側に、入力側から第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2が配設されている。
【0062】
また、
図13に示す第3実施形態に係る自動変速機30においては、入力軸32と出力軸33の軸線上に、入力側から、第2ギヤセットPG2、第1ギヤセットPG1、第3ギヤセットPG3、及び、第4ギヤセットPG4が配置されている。
【0063】
そして、第2ギヤセットPG2と第1ギヤセットPG1との間に第1クラッチCL1が、第3ギヤセットPG3と第4ギヤセットPG4との間に、入力側から第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3がそれぞれ配設されていると共に、第2ギヤセットPG2及び第1ギヤセットPG1の近傍に、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2がそれぞれ配設されている。
【0064】
また、
図14に示す第4実施形態に係る自動変速機40においては、入力軸42と出力軸43の軸線上に、入力側から、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3、第4ギヤセットPG4、及び、第1ギヤセットPG1が配置されている。
【0065】
そして、第2ギヤセットPG2と第3ギヤセットPG3との間に第1クラッチCL1が、第3ギヤセットPG3と第4ギヤセットPG4との間に、入力側から第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3がそれぞれ配設されていると共に、第2ギヤセットPG2の近傍に第1ブレーキBR1が、第1ギヤセットPG1の近傍に第2ブレーキBR2が配設されている。
【0066】
また、
図15に示す第5実施形態に係る自動変速機50においては、入力軸52と出力軸53の軸線上に、入力側から、第2ギヤセットPG2、第4ギヤセットPG4、第1ギヤセットPG1、及び、第3ギヤセットPG3が配置されている。
【0067】
そして、第2ギヤセットPG2と第4ギヤセットPG4との間に、入力側から第1クラッチCL1及び第3クラッチCL3が、第1ギヤセットPG1と第3ギヤセットPG3との間に、第2クラッチCL23がそれぞれ配設されていると共に、第2ギヤセットPG2の近傍に第1ブレーキBR1が、第3ギヤセットPG3の近傍に第2ブレーキB2が配設されている。
【0068】
また、
図16に示す第6実施形態に係る自動変速機60においては、入力軸62と出力軸63の軸線上に、入力側から、第2ギヤセットPG2、第4ギヤセットPG4、第3ギヤセットPG3、及び、第1ギヤセットPG1が配置されている。
【0069】
そして、第2ギヤセットPG2と第4ギヤセットPG4との間に、入力側から第1クラッチCL1及び第3クラッチCL3が、第3ギヤセットPG3と第1ギヤセットPG1との間に第2クラッチCL2がそれぞれ配設されていると共に、第2ギヤセットPG2の近傍に第1ブレーキBR1が配設され、第1ギヤセットPG1の近傍に第2ブレーキBR1が配設されている。
【0070】
また、
図17に示す第7実施形態に係る自動変速機70においては、入力軸72と出力軸73の軸線上に、入力側から、第3ギヤセットPG3、第2ギヤセットPG2、第1ギヤセットPG1、及び、第4ギヤセットPG4が配置されている。
【0071】
そして、第3ギヤセットPG3と第2ギヤセットPG2との間に第2クラッチCL2が、第2ギヤセットPG2と第1ギヤセットPG1との間に、入力側から第1クラッチCL1及び第3クラッチCL3がそれぞれ配設されていると共に、第3ギヤセットPG3の近傍に第1ブレーキBR1が、第1ギヤセットPG1の近傍に第2ブレーキBR2がそれぞれ配設されている。
【0072】
また、
図18に示す第8実施形態に係る自動変速機80においては、入力軸82と出力軸83の軸線上に、入力側から、第3ギヤセットPG3、第2ギヤセットPG2、第4ギヤセットPG4、及び、第1ギヤセットPG1が配置されている。
【0073】
そして、第3ギヤセットPG3と第2ギヤセットPG2との間に第2クラッチCL2が、第2ギヤセットPG2と第4ギヤセットPG4との間に、入力側から第1クラッチCL1及び第3クラッチCL3がそれぞれ配設されていると共に、第3ギヤセットPG3の近傍に第1ブレーキBR1が、第1ギヤセットPG1の近傍に第2ブレーキBR2がそれぞれ配設されている。
【0074】
以上のように、第2〜第8実施形態に係る自動変速機20〜80は、第1実施形態のものを含めて、入力軸と出力軸の軸線上における第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4の並びの順番や、各摩擦締結要素CL1〜CL3、BR1、BR2の配設位置がそれぞれ異なっているが、その他の構成、即ち、各ギヤセットPG1〜PG4における回転要素、即ちサンギヤ、リングギヤ及びキャリヤの連結関係や、ブレーキによって変速機ケースとの間で断接され、或いはクラッチによって互いに断接される回転要素の関係は、全て第1実施形態と同様である。
【0075】
即ち、第2〜第8実施形態に係る自動変速機20〜80においても、第1サンギヤS1と第3リングギヤR3、第1リングギヤR1と第4リングギヤR4、第2サンギヤS2と第4キャリヤC4、及び、第2リングギヤR2と第3キャリヤC3とがそれぞれ常時連結されていると共に、入力軸22〜82と第2サンギヤS2及び第4キャリヤC4とが常時連結され、出力軸23〜83と第1リングギヤR1及び第4リングギヤR4とが常時連結されている。
【0076】
また、第1クラッチCL1は、第2キャリヤC2と第3サンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっており、第2クラッチCL2は、第3サンギヤS3と第3リングギヤR3との間に配設されて、これらを断接するようになっており、第3クラッチCL3は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
【0077】
さらに、第1ブレーキBR1は、変速機ケース21〜81と第2キャリヤC2との間に配設されて、これらを断接するようになっており、第2ブレーキBR2は、変速機ケース21〜81と第1キャリヤC1との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
【0078】
したがって、いずれの実施形態に係る自動変速機20〜80においても、
図2に示す締結表に従って3つの摩擦締結要素が選択的に締結されることにより、第1実施形態に係る自動変速機10と同様に、前進8段と後退段とが形成されると共に、6速が直結段となる。
【0079】
ここで、第1〜第4ギヤセットPG1〜PG4の各ギヤの歯数を例えば
図19に示すように設定すれば、各変速段の減速比及び前進の隣接変速段間のギヤステップは
図20に示すようになる。
【0080】
このギヤステップの配分を、
図21により、前述の特許文献2に記載された直結段が5速の自動変速機のものと比較すると、特許文献2のものは、1速の減速比を相対的に大きくした結果、1−2速間のギヤステップが他の変速段間に比べて極端に大きくなっており、これに対して、本発明の実施形態に係る自動変速機10〜80では、各変速段間のギヤステップは、1.1から1.5の狭い範囲内に収まり、極めて均等化されたギヤステップの配分が実現される。
【0081】
なお、以上の第1〜第8実施形態に係る自動変速機10〜80は、入、出力軸が同一軸線上に配置されたフロントエンジン・リヤドライブ車用等の縦置き式のものであるが、ギヤセットや摩擦締結要素に関する同一の構成で、フロントエンジン・フロントドライブ車用等の横置き式の自動変速機を構成することも可能である。
【0082】
これを第1実施形態の自動変速機10を例にとって説明すると、
図22に示すように、横置き式に変更した自動変速機10’においては、縦置き式の自動変速機10に対して入力側(駆動源側)が出力側と同じ側(図の右側)とされて、駆動源に連結された入力軸12’が図の右側から左側に向けて延びて第2サンギヤS2と第4キャリヤC4とに連結されている。
【0083】
また、縦置き式自動変速機10における出力軸13の代わりに、入力側に出力ギヤ13’が配置されており、前記出力軸13と同様、第1、第4リングギヤR1、R4に連結されている。その他の構成は、縦置き式自動変速機10と全く同じである。
【0084】
そして、前記出力ギヤ13’は、図示しないが、カウンタ軸上のギヤを介して、当該自動変速機10’と一体化されたデファレンシャル機構の入力ギヤに連結されており、この出力ギヤ13’から入力ギヤまでのギヤ列で終減速機が構成されている。
【0085】
以上の点は、縦置き式の第2〜第8実施形態に係る自動変速機20〜80ついても同様であり、これらの自動変速機20〜80についても、同様にして、横置き式の自動変速機に変換することができる。