特許第6036633号(P6036633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036633
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20161121BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   F02D45/00 368G
   F02D45/00 314S
   F02D41/14 310F
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-209912(P2013-209912)
(22)【出願日】2013年10月7日
(65)【公開番号】特開2015-74991(P2015-74991A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−208165(JP,A)
【文献】 特開平07−332150(JP,A)
【文献】 特開平08−261977(JP,A)
【文献】 特開平07−083098(JP,A)
【文献】 特開昭57−051935(JP,A)
【文献】 特開2003−129894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)における所定の基準電位部(11)に電気的に接続して設けられ、所定周期で通電により駆動される電装部品(16〜18)と、前記エンジンに設けられたエンジン制御用のセンサ(13a、15、50)とを備え、前記センサの少なくとも一つは接地側となる端子部が前記基準電位部に電気的に接続されているエンジンシステムに適用され、
前記電装部品の通電を制御する通電制御手段と、
前記基準電位部に接続された前記センサにより検出されるセンサ値を取得する取得手段と、
を備え、
前記取得手段は、前記電装部品の通電時に前記センサ値の取得を停止し、
前記通電はバッテリからの電力を供給することであり、
前記電装部品の通電時期に合わせて、前記センサ値の取得を停止する停止期間が設定されており、前記停止期間はバッテリの状態に応じて可変であることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記基準電位部に接続された前記センサは、前記エンジンの排気管(19)に設けられ、排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ(50)であり、前記酸素濃度センサにおいて接地側となる電極部が前記基準電位部に電気的に接続されて構成されているエンジンシステムに適用され、
前記取得手段は、前記電装部品の通電時に、前記センサ値としての前記酸素濃度の取得を停止することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記酸素濃度センサは、排気中の酸素濃度に応じて生じる起電力を検出信号として出力するセンサ素子(51)を有するものであり、
前記センサ素子から出力される検出信号に基づいて、空燃比のリッチ/リーンの判定を実施する空燃比判定手段を備える請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記センサ素子の正負一対の電極のうち負側の電極が、前記センサ素子を収容するカバー部材(50a)と前記排気管とを介して、前記基準電位部であるエンジン本体(11)に電気的に接続されている請求項3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記電装部品の通電時期に合わせて、前記センサ値の取得を停止する停止期間が設定されており、
前記取得手段は、前記停止期間においては当該停止期間となる直前に検出された前記センサ値を現在の前記センサ値とする請求項1又は2に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記電装部品は、燃焼室内で点火火花を生じさせる点火手段(17,18)であり、
前記取得手段は、前記点火手段に対する通電を実施する通電期間と、前記通電が遮断されてからの所定期間とで、前記センサ値の取得を停止する請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるエンジンの運転を制御するエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からエンジン制御のために、エンジンには様々な種類のセンサが搭載されている。例えばエンジンの排気系には、排気中の酸素濃度(空燃比)に基づき混合気が理論空燃比に対してリッチかリーンかを2値検出するO2センサが搭載されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−270479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年ではコスト面の制約などからエンジン制御システムの簡略化が求められており、各種センサ類や配線の削減や統合が検討されている。しかしこのようなエンジン制御システムの簡略化を行った場合、エンジンの電装部品が通電される際の電位変動の影響で、各種センサの検出精度が低下するおそれがあることが分かった。具体的には、点火装置や燃料噴射装置等の電装部品とO2センサのアース(基準電位部)を共通化した際に、電装部品への通電に伴い発生する電位変動が、O2センサの検出結果にノイズ信号として重畳され、これにより酸素濃度の誤検出が引き起される可能性があることが分かった。
【0005】
本発明は、構成の簡略化に伴う各種センサでの誤検出、特に酸素濃度の誤検出を回避できるエンジン制御装置を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、エンジンにおける所定の基準電位部に電気的に接続して設けられ、所定周期で通電により駆動される電装部品と、エンジンに設けられたエンジン制御用のセンサとを備え、センサの少なくとも一つは接地側となる端子部が基準電位部に電気的に接続されているエンジンシステムに適用され、電装部品の通電を制御する通電制御手段と、基準電位部に接続されたセンサにより検出されるセンサ値を取得する取得手段と、を備え、取得手段は、電装部品の通電時にセンサ値の取得を停止することを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、基準電位部に接続されたセンサは、エンジンの排気管に設けられ、排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサであり、酸素濃度センサにおいて接地側となる電極部が基準電位部に電気的に接続されて構成されているエンジンシステムに適用され、取得手段は、電装部品の通電時に、センサ値としての酸素濃度の取得を停止することを特徴とする。
【0008】
第1の発明によれば、エンジンの構成の簡略化のために電装部品と各種センサとのアース(基準電位部)を共通化した際に、電装部品の通電に伴う電位変動が、各種センサにノイズ信号として重畳され、これにより各種センサ値の誤検出が引き起こされる可能性がある。そこで電装部品が通電される際に各種センサ値の取得を停止する。これによりエンジンの構成の簡略化に伴い発生するおそれのある各種センサの誤検出を回避できる。
【0009】
第2の発明によれば、エンジンの構成の簡略化のために電装部品と酸素濃度センサとのアース(基準電位部)を共通化した際に、電装部品の通電に伴う電位変動が、酸素濃度センサにノイズ信号として重畳され、これにより酸素濃度の誤検出が引き起こされる可能性がある。そこで電装部品が通電される際に酸素濃度の取得を停止する。これによりエンジンの構成の簡略化に伴い発生するおそれのある酸素濃度の誤検出を回避できる。なお電装部品の通電時に酸素濃度の取得を停止することで、燃料噴射量のノイズによる影響をより好適に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】エンジン制御システム全体の概略構成図。
図2】エンジン制御システムの電気配線の概略図。
図3】O2センサの信号処理のフローチャート。
図4】マスク処理期間の説明図。
図5】O2センサによる酸素濃度検出処理のタイミングチャート。
図6】変用例の酸素濃度検出処理のタイミングチャート。
図7】変用例の酸素濃度検出処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態ではエンジン10としてガソリンエンジンが適用されている。なおエンジン10は自動二輪車に搭載された走行駆動源として機能するものであり、ここでは単気筒エンジンを想定している。
【0012】
図1はエンジン制御システム全体の概略構成図である。エンジン10は、シリンダブロック11aとシリンダヘッド11bとからなるエンジン本体11を有しており、シリンダヘッド11bには吸気管12と排気管19とが接続されている。エンジン本体11や吸気管12、排気管19はいずれも鉄合金やアルミニウム合金等の金属により構成されている。エンジン10の吸気管12には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ13と、スロットルバルブ13の開度を検出するスロットルセンサ13aとが設けられており、その下流側には、吸気圧力を検出する吸気圧センサ15が設けられている。また、シリンダヘッド11bの吸気ポート近傍部分には、燃料を噴射する燃料噴射弁16が取り付けられている。また、シリンダヘッド11bには点火プラグ17が取り付けられており、点火コイル18にて昇圧された高電圧を点火プラグ17にて火花放電させることにより筒内の混合気が着火される。シリンダブロック11aには、エンジン側の冷却水温度を検出する水温センサ22が設けられている。エンジン10のクランク軸にはクランク角センサ26が設けられており、クランク軸の回転速度NEを検出する。
【0013】
エンジン10の排気管19には、排気中のCO,HC,NOx等を浄化する三元触媒等を有する触媒装置20が設けられている。また排気管19において触媒装置20の上流側には、排気中の酸素濃度(空燃比)を検出するO2センサ50が設けられている。本実施形態ではエンジン10の構成の簡略化のために、O2センサ50として、ヒータレスであってかつアースが省略された1線式のものが使用されている。O2センサ50は、排気熱により昇温されることで活性化がなされるようになっている。この場合、O2センサ50は、排気熱による活性化が促進されるようにすべく、エンジン本体11に近い位置に装着されることが好ましい。
【0014】
なおエンジン10に搭載された上記の各種センサで検出される各種センサ値は、点火コイル18や燃料噴射弁16などの各種電装品への通電・遮断を制御する同じシステム内で取り込まれて点火制御や燃料噴射制御に使用される。
【0015】
ここで、点火手段である点火プラグ17及び点火コイル18は、エンジン本体11を基準電位部(接地位置)として、そのエンジン本体11に電気的に接続されている。また、O2センサ50も同様に、エンジン本体11を基準電位部(接地位置)として、そのエンジン本体11にO2センサ50が電気的に接続されている。つまり、点火プラグ17及び点火コイル18とO2センサ50とは、接地位置の共通化がなされている。
【0016】
O2センサ50及びその取り付けについて補足する。O2センサ50は、周知のとおり固体電解質体や一対の電極(排気側電極、大気側電極)からなるセンサ素子51を有しており、そのセンサ素子51がカバー部材50a内に収容されて構成されている。カバー部材50aにおいて少なくとも排気管19への取り付けが行われる被取付部は金属材料よりなり、センサ素子51の接地側の電極(排気側電極)は、カバー部材50aと排気管19とを介してエンジン本体11に電気的に接続されている。これにより、点火プラグ17及び点火コイル18とO2センサ50とは接地位置が共通となっている。また、O2センサ50について接地側の配線を不要にして構成の簡略化が図られ、1線式のセンサとなっている。
【0017】
ECU30(電子制御ユニット)は、ROM、RAM、CPU等を有するマイクロコンピュータを主体として構成されている。またECU30は、O2センサ50のアナログの検出信号を、デジタル信号に変換するA/D変換回路を備えており各種センサ値を取得する。
【0018】
ECU30には、先述した吸気圧センサ15、水温センサ22、クランク角センサ26、O2センサ50の検出信号が入力される。ECU30は、各種センサから入力された検出信号に基づき、ROMに記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁16の燃料噴射量、噴射時期及び点火プラグ17の点火時期等を制御する。またO2センサ50で検出された酸素濃度がリッチであるかリーンであるかに基づき燃料噴射量を補正する。
【0019】
図2にエンジン10の制御システムの電気配線の概略図を示す。図2(a)は本実施形態に係る電気配線の説明図、図2(b)は従来技術に係る電気配線の説明図である。なお、従来構成では、O2センサ50はセンサ素子51の一対の電極がいずれも配線を介してECU30の端子に接続されるものとなっている。つまり従来技術では回路接地に関する構成として図2(b)に示されるように、点火コイル18はECU30内のスイッチング素子31を介してアース端子E1に接続されており、また、O2センサ50はECU30のアース端子E2に接続されている。つまり、点火コイル18とO2センサ50とは個別に接地のための接続がなされている。また、ECU30は、アース端子E10とエンジン本体11とが電気的に接続されることで接地されている。
【0020】
これに対して、図2(a)の本実施形態の場合には、O2センサ50の接地側の電極がECU30のアース端子ではなく、エンジン本体11に直接接続されている。また、点火コイル18については、エンジン本体11に接続されているアース端子E10に直接接続されている。図示は略しているが、点火プラグ17の接地切側電極もエンジン本体11に直接接続されている。
【0021】
一方、このようにエンジン10の構成を簡略化した場合、所定周期で駆動される電装部品の動作で生じる電位変動がセンサの検出信号に影響を及ぼす場合があることが分かった。例えば、点火コイル18の通電で生じる電位変動が、O2センサ50にノイズ信号として重畳されてしまい、これにより酸素濃度の誤検出が引き起こされる可能性があることが分かった。O2センサ50は、排気中の酸素濃度に応じて、リッチなら約0.9V,リーンなら約0Vの起電力信号を出力するものであり、その起電力信号にノイズが重畳されることで、リッチ/リーンが誤判定されるおそれがある。ノイズの重畳により、センサ信号が負側に変動することを考えると、実際はリッチであるのにリーンであると誤判定されるおそれがあった。なお、これは例えばスロットルセンサ13aや吸気圧センサ15等の各種センサのアース配線径路が簡素化された場合にも同じ懸念が生じる虞があることが確認された。
【0022】
そこで本実施形態では、点火プラグ17の動作する際(電位変動が発生する際)には、配線構成を簡素化したO2センサ50による酸素濃度の取得を停止する。これにより酸素濃度の誤検出(リッチ/リーンの誤判定)が回避されるようにしている。
【0023】
次に、O2センサ50の信号処理について詳しく説明する。図3はO2センサ50の信号処理のフローチャートである。以下の処理は、ECU30により所定周期で繰り返し実行される。例えば8ms周期で繰り返し実行される。
【0024】
まず、ステップS11でO2センサ50の出力をマスクするマスク期間Dであるかを判定する。図4にマスク期間Dの説明図を示す。マスク期間Dは、点火コイル18の通電時期および点火プラグ17の点火時期に応じて定められており、それら通電時期および点火時期を含むと想定される所定期間(例えばBTDC60°CA〜ATDC30°CA)に定められている。なお所定期間には、少なくとも通電開始時刻から点火終了時刻までが含まれるとする。
【0025】
マスク期間Dは、点火コイル18の通電期間D1と、通電が遮断されてからの過渡期間ΔDとを加算した期間(D=D1+ΔD)に設定されているとする。過渡期間ΔDは、点火コイル18の通電終了に伴い発生する電位変動の影響を避けるための期間であり、例えば、通電期間D1=10msの場合、過渡期間ΔD=8msであるとする。なお過渡期間ΔDは通電期間D1の長さに応じて変更されてもよい。例えば、通電期間D1が比較的に長い場合には、点火コイル18に蓄えられる点火エネルギが大きくなるので、過渡期間ΔDも比較的に長く設定されるようにする。
【0026】
肯定判定した場合にはステップS12に進み、マスク処理フラグがOFFであるかを判定する。ステップS12において、マスク処理フラグがOFFであり肯定判定した場合には、ステップS13に進みマスク処理フラグをONとする。そして続くステップS14で、マスク処理がONとなる前に取得した酸素濃度を今回の酸素濃度の値(今回値)として保持する。ステップS12でマスク処理フラグがONであり否定判定した場合には、ステップS14に進み、酸素濃度の前回値を今回値として保持する。
【0027】
一方、ステップS11で否定判定した場合には、ステップS15でマスク期間終了時であるかを判定する。肯定判定した場合にはステップS16に進み、マスク処理フラグをOFFにする。そして続くステップS17で酸素濃度を取得する。一方、ステップS15で否定判定した場合には、ステップS17に進み酸素濃度を取得する。
【0028】
次に上記処理の実行例を説明する。図5はO2センサ50を用いた酸素濃度(空燃比)の検出処理のタイミングチャートである。エンジン10の運転中は、排気行程、吸気行程、圧縮行程、膨張行程の各行程が繰り返し実行され、所定のクランク角毎(例えば30°CA毎)にクランク角信号NNUMが出力される。そして、各種センサで取得されるエンジン回転速度等のエンジン10の運転状態の検出結果に基づいて、点火プラグ17の点火時期及び通電期間D1が決定される。また酸素濃度のA/D変換が所定の時間間隔(8ms間隔)で実施される。そして、酸素濃度がリーンであるかリッチであるかに応じて、補正後の燃料噴射量が求められる。つまり酸素濃度がリッチの場合には燃料噴射量が所定量減少される。一方、酸素濃度がリーンの場合には燃料噴射量が所定量増加される。これによりO2センサ50で検出される酸素濃度に基づき、混合気が理論空燃比に近づくようにフィードバック制御される。なお補正後の燃料噴射量を求める噴射量演出タイミングは、例えば吸気BDC(下死点)となっている。
【0029】
ここで、圧縮行程から膨張行程に移行される前の時刻t1で、点火コイル18の通電が開始される。この際、O2センサ50のマスク処理フラグがONとなり、マスク期間D(通電期間D1及び過渡期間ΔD)が経過する間、酸素濃度の取得が停止される。また時刻t1では、マスク処理フラグがONとなる直前の時刻t0で取得された酸素濃度の値が保持され、その値はマスク期間Dが終了する時刻t2となるまで保持される。そして時刻t2となると、マスク処理フラグがOFFとなる。その後、点火コイル18の通電開始時刻t4となるまで、酸素濃度が所定周期で繰り返し取得される。
【0030】
なお、例えば排気行程の時刻t3となると、時刻t3以前の噴射量演算タイミングで求められた補正後の燃料噴射量で燃料が噴射される。この際、点火プラグ17の点火に基づくノイズ発生時期に、酸素濃度の取得が停止されていることで、混合気の状態(リーン又はリッチ)が精度よく判定されている。
【0031】
なお、上記のマスク期間Dはバッテリの状態に応じて可変であってもよい。つまりバッテリの電位が低い場合に、点火エネルギを確保するためには、点火コイル18の通電期間D1を長くすることが望ましい。そのためこれに合わせてマスク期間Dが長く設定されるようにする。一方、バッテリの電位が高い場合には、マスク期間Dができるだけ短く設定されるようにする。バッテリの電位に応じてマスク期間Dの長さが調整されることで、バッテリの電力を好適に維持しつつ、酸素濃度を取得できる。
【0032】
上記によれば以下の優れた効果を奏する。
【0033】
(1)エンジン10の構成の簡略化のために電装部品とO2センサ50のアース(基準電位部)を共通化した際に、電装部品の通電に伴う電位変動が、O2センサ50にノイズ信号として重畳され、これにより酸素濃度の誤検出が引き起こされる可能性がある。そこで電装部品が通電される際に酸素濃度の取得を停止する。これによりエンジン10の構成の簡略化に伴い発生するおそれのある酸素濃度の誤検出を回避できる。
【0034】
(2)電装部品の通電に伴う酸素濃度の取得停止前に取得された酸素濃度の値を現在の酸素濃度とすることで、エンジン10の構成の簡略化に伴い発生する酸素濃度の誤検出を回避しつつ、エンジン10の制御をより安定して行うことができる。
【0035】
(3)点火コイル18の通電による高電圧が生じた後は、O2センサ50に重畳されたノイズ信号の影響が残されている可能性がある。そこで点火コイル18の通電期間D1と、点火コイル18の通電が遮断されてからの所定期間(過渡期間ΔD)は酸素濃度の取得を停止する。これにより、酸素濃度の誤検出を好適に抑えることができる。
【0036】
(4)起電力出力タイプのO2センサ50では酸素濃度に応じて起電力信号が出力され、約1Vの電圧範囲内でリッチ判定やリーン判定が行われる。この場合、ノイズの影響により空燃比が誤判定され、その誤判定により排気エミッションに悪影響が及ぶことが懸念される。この点、上記のとおりノイズの重畳が抑制されているため、空燃比を適正に判定でき、ひいては排気エミッションの低減を図ることができる。
【0037】
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、次のように実施されてもよい。
【0038】
・エンジン10の1燃焼サイクル内における所定のクランク角位置に同期させて酸素濃度を取得する場合には、酸素濃度の取得は、点火コイル18が通電されるクランク角位置以外で行われればよい。なお単気筒エンジンにおいて、燃料噴射量の演算が行われるタイミングが1サイクル(720°CA)に1回の場合、酸素濃度の取得は少なくとも1サイクルに1回行われればよい。
【0039】
図6に変用例のタイミングチャートを示す。吸気TDC又はその付近のクランク角位置θ1で燃料噴射量が演算される場合、クランク角位置θ1の直前(前)のクランク角位置θ0で、酸素濃度が取得される。これにより点火コイル18の通電の影響による酸素濃度の誤検出を回避できる。また燃料噴射量の演算の直前の酸素濃度を取得することで、燃料噴射量の補正値を適切に求めることができる。
【0040】
なお酸素濃度の取得時期を所定のクランク角位置に同期させる場合には、所定のクランク角位置が出力されてから所定時間(所定角度)の経過後に、酸素濃度が取得されるようにしてもよい。また、複数回の酸素濃度の検出を可能とする検出期間を定めておく構成であってもよい。この場合、回転速度NEに応じて、酸素濃度が取得される回数(1サイクル当たりの回数)が変更されてもよい。例えば回転速度NEが速い場合には、1サイクル当たりの酸素濃度の取得回数が増加されるようにしてもよい。いずれにしても、燃料噴射量の演算時期に合わせて、その直前に酸素濃度が取得される構成であるとよい。
【0041】
・点火コイル18の通電による電位変動が特定の傾向を示す場合には、その傾向に応じて酸素濃度の取得の有無を判定できる。図7にO2センサ50の検出信号のノイズ信号が重畳された例を示す。この場合、点火コイル18の通電期間D1で酸素濃度がマイナス方向に変動されている。なお期間Daは酸素濃度がリーンの状態であり、期間Dbは酸素濃度がリッチの状態である。この場合、酸素濃度がリーンの期間Daの場合には、ノイズ信号の重畳が酸素濃度の検出結果に影響していない(検出結果は変わらない)。一方、酸素濃度がリッチである期間Dbの場合には、ノイズ信号が重畳された影響で酸素濃度がリーンであると誤判定される可能性が生じている。この場合、点火コイル18の通電前に酸素濃度がリーンであると判定された場合には、上述のマスク処理フラグをOFFにする。一方、点火コイル18の通電前に酸素濃度がリッチであると判定された場合には、マスク処理フラグをONにする。
【0042】
このような処理により、酸素濃度の誤判定が生じる可能性がある場合にのみ、酸素濃度の取得が停止されることで、燃料噴射量の補正をできるだけ精度よく実施することができる。
【0043】
・燃料噴射弁16とO2センサ50のアース(基準電位部)が共通化されている場合にも、燃料噴射弁16の周期的な通電に伴う電位変動が、O2センサ50にノイズ信号として重畳されることにより、酸素濃度の誤検出が引き起こされる可能性がある。この場合には、燃料噴射弁16の通電が行われる際に酸素濃度の取得を停止する。これにより燃料噴射量の電位変動の影響による酸素濃度の誤検出を回避できる。
【0044】
・O2センサ以外にも、各種センサと電装部品とのアース(基準電位部)が共通化される場合には、電装部品の周期的な動作に伴う電位変動がセンサの誤検出を引き起こす可能性がある。この場合にも、電装部品の通電時にセンサの検出信号を取得しないようにすることで、センサの誤検出に伴うエンジン制御への影響を回避できる。
【0045】
・上記では、O2センサ50を排気管19に直付けすることで、O2センサ50と点火プラグ17とで共通のアースをとる例を示した。これ以外にも、O2センサ50がエンジン10のシリンダブロック11aに直付けされることにより、共通のアースをとることができる。又はO2センサ50と点火プラグ17が共通のアース線やアース端子接続されることで、アースを共通化する構成としてもよい。
【0046】
・酸素濃度の取得停止の処理は、酸素濃度のA/D変換値の読み飛ばし、酸素濃度のA/D変換の停止、O2センサ50による酸素濃度の検出停止等である。
【0047】
・上記実施形態では、点火コイル18の通電期間D1とその後の過渡期間ΔDとをマスク期間Dとしたが、点火プラグ17の点火時期で最も大きなノイズが生じることを考えると、少なくともその点火時期を含むようにマスク期間Dを定めておくとよい。例えば、過渡期間ΔDのみをマスク期間Dにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…エンジン、11…エンジン本体、16…燃料噴射弁、17…点火プラグ、18…点火コイル、50…センサ、51…センサ素子、50a…カバー部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7