(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に配索される電線として、タフピッチ銅の軟質材等からなる導体の外周に絶縁体を被覆してなる被覆電線が広く用いられている。この種の被覆電線の端末では、絶縁体を皮剥ぎして露出させた導体に端子金具が接続されている。被覆電線の端末に電気接続された端子金具は、コネクタに挿入係止される。
【0003】
このような端子付き被覆電線が複数本束ねられ、ワイヤーハーネスが形成される。自動車等の車両では、通常、ワイヤーハーネスの形態で配索がなされる。エンジンルームや一部の室内環境等に、上記ワイヤーハーネスが配索される場合、熱および水の影響を受けて、電線導体と端子金具とが接触する電気接続部に錆が発生しやすくなる。そのため、このような環境下にワイヤーハーネスを配索する場合には、上記電気接続部における腐食を防止する必要がある。
【0004】
上記電気接続部における腐食を防止するため、電線導体に接続された端子金具が挿入係止されているコネクタ内にグリースを注入する技術が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
近年、自動車等の車両の軽量化により燃費効率を向上させようとする動きが加速しており、ワイヤーハーネスを構成する電線材料についても軽量化が求められている。そのため、電線導体にアルミニウムを用いることが検討されるようになってきている。端子金具は、電気特性に優れた銅又は銅合金が一般に用いられる。それ故、アルミ電線−銅端子金具の組み合わせ等で使用されることが多くなる。電線導体と端子金具との材質が異なると、その電気接続部で異種金属接触による腐食が発生する。この種の腐食は、電線導体と端子金具との材質が同じである場合よりも起こりやすい。そのため、電気接続部を確実に防食することが可能な防食剤が必要となる。
【0006】
上記従来のグリースを用いた端子付き被覆電線は、グリースをコネクタ内に密に注入しないと、水の浸入を十分に防止して防食効果を高めることができないという問題があった。しかしながら、防食効果を高めようとしてグリースの充填量を多くすると、本来、防食する必要のない部分にまで、グリースが塗布されてしまうことになる。更に過度の充填は、コネクタや電線のべたつきを招き、取扱い性を低下させる。
【0007】
そこでグリースの代替品として、高い防食性能を発揮可能な防食剤及び端子付き被覆電線が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の防食剤と端子付き被覆電線は、上記グリースの欠点を解消するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、自動車等に利用される場合、高温劣化に対する耐久性が要求されることに加えて、冷熱サイクル等の耐久性が要求されている。防食剤で処理した端子付き被覆電線に冷熱サイクルを加えた場合に防食剤に割れが発生せず、防食性能をすることが必要である。すなわち防食剤は、低温時にも柔軟性を維持して硬くならないことが重要である。
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、被覆電線と端子金具との電線接続部の防食性能が優れ、低温時に硬くならず、冷熱サイクルを加えた場合でも防食剤に割れが発生する虞のない防食剤、端子付き被覆電線及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の防食剤は、
被覆電線の電線導体と端子金具との接触部が防食剤により被覆されている端子付き被覆電線に用いられる防食剤であって、
前記防食剤が下記の組成物を主成分とする硬化性樹脂を用いたことを特徴とする。
(メタ)アクリレート基を2個以上有する(メタ)アクリレートモノマー重合体を100質量部に対し、イソボルニル(メタ)アクリレートを40〜90質量部、下記式1に示すアルキル(メタ)アクリレートを10〜40質量部を含む組成物。式1においてR1はH又はCH
3、R2は炭素数2〜4のアルキル基である。
【0012】
【化1】
【0013】
前記防食剤において、前記硬化性樹脂の組成物が、更に、アルキル基の炭素数が8〜13のアルキル(メタ)アクリレートを、前記(メタ)アクリレートモノマー重合体100質量部に対し1〜15質量部の範囲内で含むことが好ましい。
【0014】
前記防食剤において、前記硬化性樹脂は紫外線硬化性樹脂として構成することができる。その場合、前記硬化性樹脂は、光開始剤を含み、該光開始剤が波長320〜420nmの範囲内に吸収を有することをが好ましい。
【0015】
前記防食剤において、前記硬化性樹脂は熱硬化性樹脂として構成することができる。
【0016】
本発明の端子付き被覆電線は、被覆電線の電線導体と端子金具との接触部が防食剤により被覆されている端子付き被覆電線であって、前記防食剤として、上記の防食剤を用いたことを要旨とするものである。
【0017】
上記端子付き被覆電線は、前記被覆電線の電線導体がアルミニウムであり、前記端子金具が銅系金属から構成され、前記接触部が異種金属接続部として構成されていることが好ましい。
【0018】
本発明のワイヤーハーネスは、上記の端子付き被覆電線を有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の防食剤は、被覆電線の電線導体と端子金具との接触部が防食剤により被覆されている端子付き被覆電線に用いられる防食剤であって、前記防食剤として、(メタ)アクリレート基を2個以上有する(メタ)アクリレートモノマー重合体を100質量部に対し、イソボルニル(メタ)アクリレートを40〜90質量部、上記式1に示す炭素数2〜4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを10〜40質量部を含む組成物を主成分とする硬化性樹脂を用いたことにより、防食性能に優れ、低温時に硬くならず、冷熱サイクルを加えた場合でも防食剤に割れが発生する虞がない。
【0020】
すなわち、上記イソボルニル(メタ)アクリレートの配合量を上記特定範囲としたことにより、耐熱性が向上し高温劣化による伸びの低下が小さく柔軟性が低下せず、冷熱衝撃性が良好であり、試験後の防食剤に割れが生じる恐れが小さい。
【0021】
本発明の端子付き被覆電線は、被覆電線の電線導体と端子金具との接触部が防食剤により被覆されている端子付き被覆電線であって、前記防食剤として、上記の防食剤を用いたことにより、上記接触部の防食性に優れたものが得られる。特に前記被覆電線の電線導体がアルミニウムであり、前記端子金具が銅系金属から構成され、前記接触部が異種金属接続部として構成されている場合、特に優れた効果を発揮することが可能である。
【0022】
本発明のワイヤーハーネスは、被覆電線と端子金具との接触部の防食性能が優れているものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は本発明の端子付き被覆電線の一実施例を示す外観斜視図であり、
図2は
図1のA−A線断面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施例の端子付き被覆電線1は、被覆電線2の端部が、黄銅製の端子金具5の端部に圧着されている。被覆電線2は、アルミニウム合金製の電線導体3がポリ塩化ビニル樹脂よりなる絶縁体4により被覆されている。電線導体3と端子金具5の圧着部が接触部6となって、両者は電気的に接続されている。接触部6は防食剤7により被覆されている。
図1は防食剤7の塗膜を透視した状態で示している。
【0025】
本発明は、防食剤7は下記の(A)〜(C)成分を含む組成物を主成分とする硬化性樹脂を用いた点に大きな特徴がある。以下、防食剤7の硬化性樹脂について説明する。
【0026】
(A)主骨格が(メタ)アクリレート基を2個以上有する(メタ)アクリレートモノマー重合体を100質量部に対し、
(B)イソボルニル(メタ)アクリレートを40〜90質量部、
(C)式1に示すアルキル(メタ)アクリレートを10〜40質量部、式1においてR1はH又はCH
3、R2は炭素数8〜13のアルキル基である。以下(C)成分を炭素数が2〜4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートということもある。
【化2】
【0027】
(A)(メタ)アクリレートモノマー重合体:
上記(A)成分は(メタ)アクリレートモノマーの重合体であり、(メタ)アクリレート基を1個有する(メタ)アクリレートモノマーを重合させた後、2個以上の(メタ)アクリレート基を付与されたアクリルオリゴマー等が用いられる。
【0028】
(メタ)アクリレート基を1個有する単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル等を挙げることができる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(A)(メタ)アクリレートモノマー重合体は、単官能(メタ)アクリレートモノマーの重合体であるのが好ましい。また(メタ)アクリレートモノマー重合体の重合度は、5〜500の範囲内が好ましい。
【0030】
本発明において、「(メタ)アクリレート」の記載は、メタクリレート及びアクリレートの意味である。
【0031】
(B)イソボルニル(メタ)アクリレート:
上記(B)成分はイソボルニル(メタ)アクリレートのモノマーであり、上記(A)成分100質量部に対し、40〜90質量部を用いることで、接着性と耐熱性を両立させることができる。イソボルニル(メタ)アクリレートが40質量部未満では、防食剤の耐熱性が低く、高温劣化での伸びの低下が大きくなってしまい、防食剤としての実用性能が得られない。またイソボルニル(メタ)アクリレートが90質量部超では、防食剤の硬さが硬くなりすぎて柔軟性が低下して、冷熱衝撃の耐久試験で割れが発生し易くなってしまう。
【0032】
(C)C2〜C4のアルキル(メタ)アクリレート:
上記(C)成分は炭素数が2〜4(C2〜C4)のアルキル基を含むアルキル(メタ)アクリレートのモノマーであり、上記(A)成分100質量部に対し、10〜40質量部を用いることで、硬化物のガラス転移温度が低下して、冷熱衝撃性を向上させることができる。C2〜C4のアルキル(メタ)アクリレートの配合量が10質量部未満では樹脂硬化物である防食剤の低温特性を向上させる効果を十分発揮できず、また40質量部超えると、耐熱老化性が低下して、硬化物が加熱された場合の硬度も低下してしまう。
【0033】
(C)成分として用いられるC2〜C4のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとして具体的には、アルキル基がC2のエチルアクリレート、エチルメタクリレート、アルキル基がC4のイソブチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート等が挙げられる。またC2〜C4のアルキル(メタ)アクリレートは、上記モノマーを単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても、いずれでもよい。C2〜C4のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、C4を多く含む方がTgが低く冷熱特性が良好である点から好ましい。
【0034】
(D)C8〜C13のアルキル(メタ)アクリレート:
組成物中には更に(D)成分として、アルキル基の炭素数が8〜13(C8〜C13)のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを上記(A)成分が100質量部に対し、1〜15質量部の範囲内で配合することができる。C8〜C13のアルキル(メタ)アクリレートを添加することで、加工油との相溶性が改善され、油面接着性が得られる。端子金具等に加工油が付着した状態でも、防食剤と端子金具との良好な接着性が得られる。またアルキル基がC13超の場合、モノマーのガラス転移点が高くなりすぎて、低温時の硬さが硬くなって耐熱老化性(熱老化後の低温引っ張り試験)を満足できなくなる虞がある。
【0035】
C8〜C13のアルキル(メタ)アクリレートの配合量が、上記(A)成分が100質量部に対し、1質量部未満では、添加の効果を十分発揮できない恐れがあり、また15質量部を超えると、疎水性が高くなりすぎて、金属表面等との接着性が低下してしまう虞がある。
【0036】
(D)成分として用いられるC8〜C13のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとして具体的には、アルキル基がC8のイソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、アルキル基がC9のイソノニルアクリレート、アルキル基がC12のラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、アルキル基がC13のトリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート等が挙げられる。またC8〜C13のアルキル(メタ)アクリレートは、上記モノマーを単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用しても、いずれでもよい。C8〜C13のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、C10以上が油面接着性の点から好ましい。
【0037】
(E)重合開始剤:
防食剤には、(E)成分として、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤の含有量は、防食剤の組成物全体の0.1〜10質量%の範囲内であるのが好ましい。重合開始剤として具体的には、光重合開始剤、熱重合開始剤等が挙げられる。
【0038】
防食剤の硬化性樹脂は、硬化時間を短縮することが可能であるという点から、紫外線硬化が可能な紫外線硬化性樹脂として構成することが好ましい。硬化性樹脂を紫外線硬化性樹脂として構成する場合、重合開始剤として紫外線重合開始剤(光重合開始剤、光開始剤ということもある)を添加するのが好ましい。光開始剤は、波長が320〜420nmの範囲内に吸収を有する化合物を用いることが好ましい。このような光開始剤を用いることで、LED光源を用いた紫外線照射装置等を用いて防食剤を硬化させることが可能である。
【0039】
上記光重合開始剤は、紫外線を吸収してラジカル重合を開始させる化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知のものを用いることができる。上記光重合開始剤は、具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、エチルアントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾ−ル、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラ−ケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタ−ル、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
また防食剤は硬化性樹脂を熱硬化性樹脂として構成することもできる。硬化性樹脂を熱硬化性樹脂として構成する場合は、重合開始剤として熱重合開始剤を添加するのが好ましい。
【0041】
上記熱重合開始剤としては、加熱によりラジカルを発生してラジカル重合を開始させることが可能な化合物であれば特に制限されることなく、従来から公知の有機過酸化物、アゾ化合物等を用いることができる。上記有機過酸化物としては、例えば、ジへキシルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等のジアルキルパーオキサイド、n−ブチル4,4−ジ(t―ブチルパーオキサイド)バレレート等のパーオキシケタール等が挙げられる。また上記アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0042】
硬化性樹脂には、上記(A)〜(D)成分、(E)重合開始剤以外に、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて他の成分を添加してもよい。上記他の成分としては、老化防止剤、密着性付与剤、腐食防止剤、チキソ性付与剤、レべリング剤等の液性調製剤、顔料、染料、無機フィラー等が挙げられる。
【0043】
以下、本発明の端子付き被覆電線について説明する。
図1及び
図2に示す端子付き被覆電線1は、接触部6が、電線導体3のアルミニウム合金と端子金具5のスズめっきされた黄銅とが接触している。接触部6は、アルミニウムと銅系金属の異種金属が接触した状態の異種金属接続部として構成されている。
【0044】
端子金具5は黄銅を母材として表面にスズめっきされた金属板を用い、端子金具が展開された所定の形状に打ち抜かれ、バレルの部分等が折り曲げられている。端子金具5は、相手側メス端子に接続されるオス端子としてのタブ状の接続部51と、該接続部51の基端より延設形成され被覆電線を圧着するためのバレル部54とを有する。バレル部54は、接続部51側に設けられたワイヤバレル52と、電線導体2側に設けられたインシュレーションバレル53の二つの圧着部から構成されている。
【0045】
端子付き被覆電線1は、電線端末が皮剥されて露出した状態の電線導体3が、ワイヤバレル52により加締められ圧着している。また端子金具5のインシュレーションバレル53は、被覆電線2の絶縁体4の周囲に加締められて圧着している。このインシュレーションバレル53の圧着部は、端子金具5を被覆電線2の端末に固定、保持するための電線固定部となっている。
【0046】
端子付き被覆電線1は、被覆電線2の電線導体3と端子金具5の接触部6が、上記硬化性樹脂からなる防食剤の組成物が塗工され、硬化された状態の防食剤7により被覆されている。少なくとも防食剤7は、接触部6の電線導体3が露出した部分、電線導体3と端子金具6の接触界面等を被覆している必要がある。防食剤7は、電線導体3と端子金具5との異種金属の接触部6に、外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する保護膜としての機能を有している。
【0047】
図1及び
図2に示す端子付き被覆電線1は、防食剤7が被覆している部分は、一点鎖線で示した範囲である。
図2に示すように防食剤7は端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、所定の厚さで被覆している。底面は防食剤7に覆われず、端子金具5の金属が外部に露出した状態になっている。
【0048】
防食剤7は、少なくとも電線導体2の露出部分が完全に被覆されて外部に露出しないようになっている。防食剤7は、被覆電線4の端部側は、電線導体2の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように被覆している。また端子金具5の端部側は、絶縁体4側に少しはみ出すように被覆している。また
図2の端子金具5は、底面が防食剤の塗膜7で被覆されずに金属が露出している。
【0049】
本発明の端子付き被覆電線1は、防食剤7により被覆する部分が上記の形態に限定されるものではなく、少なくとも電線導体3が外部に露出しないように被覆されていればよい。更に電線導体3と防食剤7との接触部分も防食剤により被覆されているのが好ましい。また
図1に示すように、防食剤7がバレル部54から外方にはみ出すように、被覆しても良いし、特に図示しないが端子金具5の底面を防食剤7で被覆してもよい。また端子金具5の側面が、防食剤7で被覆されていても、被覆されていなくても、いずれでもよい。
【0050】
電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線から構成されている。撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線等を含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0051】
上記電線導体3を構成する金属素線の材料としては、アルミニウム合金以外に、銅、銅合金、アルミニウムもしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料等を例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレス等を例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラー等を挙げることができる。電線導体3に用いられる金属素線としては、電線の軽量化等の点からアルミニウム又はアルミニウム合金を用いるのが好ましい。
【0052】
被覆電線2に用いられる絶縁体4の材料としては、特に限定されず、例えば、ゴム、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂(PVC)、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。絶縁体4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0053】
端子金具5に用いられる材料(母材の材料)としては、黄銅以外に、各種銅合金、銅等を用いることができる。また端子金具5は、表面の一部(例えば接点)もしくは全体に、スズ、ニッケル、金等の各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0054】
防食剤7は、厚みが0.01〜3mmの範囲となるように塗布するのが好ましい。防食剤7の厚みが厚くなりすぎると、端子金具5を相手側端子のコネクタへ挿入し難くなる恐れがある。また防食剤7の厚みが薄くなりすぎると防食性能が不十分となる恐れがある。
【0055】
以下、端子付き被覆電線の製造方法について説明する。端子付き被覆電線1を製造するには、先ず被覆電線2の端末の絶縁体4を皮剥ぎして電線導体2を所定の長さだけ露出させる。次いで被覆電線2の端末に、めっきされた母材を打ち抜き、曲げ加工等を施して形成された端子金具5を加締めて圧着し、電線導体3と端子金具5を接続する。圧着は、端子金具のワイヤバレル52に電線導体3を圧着し、インシュレーションバレル53に絶縁体4を圧着する。次いで、電線導体3と端子金具5との接触部6の所定の範囲に防食剤7の組成物を塗布し、所定の条件で硬化せしめることで、端子付き被覆電線1が得られる。
【0056】
防食剤7の組成物を接触部6に塗布する方法は特に限定されず、例えば、滴下法、塗布法、押し出し法等の公知の手段を用いることができる。また防食剤7の組成物を塗布する際、防食剤7の組成物を加熱、冷却等により温度調節してもよい。
【0057】
防食剤の組成物の硬化には、紫外線照射装置や加熱装置等の硬化装置を用いることができる。
【0058】
以下、本発明のワイヤーハーネスについて説明する。本発明のワイヤーハーネスは、上記端子付き被覆電線1を含む複数本の被覆電線を束ねて結束したものである。ワイヤーハーネスにおいては、被覆電線のうちの一部が本発明の端子付き被覆電線1であっても良いし、全てが本発明の端子付き被覆電線1であっても良い。
【0059】
ワイヤーハーネスにおいて、複数本の被覆電線は、テープ巻きにより結束されていても良いし、或いは、丸チューブ、コルゲートチューブ、プロテクタ等の外装部品により外装されることで結束されていても、いずれでも良い。
【0060】
本発明のワイヤーハーネスは、自動車等の車両に配索されるものとして好適であり、特に、被水領域のエンジンルームや車内に配索されるものとして好適である。ワイヤーハーネスがこのような場所に配索された場合、熱および水の影響を受けて、電線導体3と端子金具5との電気接続部に錆が発生し易くなる。本発明のワイヤーハーネスは、端子付き被覆電線1における電線導体3と端子金具5の接触部6が防食剤7に覆われているので、錆の発生を効果的に抑えることができる。
【実施例】
【0061】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0062】
実施例1〜13
表1及び表2に示す防食剤の配合組成で(メタ)アクリレート重合体、モノマー、光開始剤、熱開始剤等の各成分を配合し、均一に混合して、実施例1〜13の防食剤を調製した。得られた防食剤について、接着性、硬さ、耐熱老化性、Tg、冷熱衝撃性等について試験を行った。試験結果を表1及び表2に合わせて示す。
【0063】
比較例1〜9
比較のために、表3に示す配合組成で実施例と同様にして混合し、比較例1〜9の防食剤を調製し、実施例と同様に、接着性、硬さ、耐熱老化性、Tg、冷熱衝撃性等について試験を行った。試験結果を表3に合わせて示す。防食剤の配合組成で使用した各成分の詳細、及び各試験方法は下記の通りである。
【0064】
〔(メタ)アクリレートモノマー重合体〕
・CN820:サートマー社製、(メタ)アクリレートオリゴマー、商品名「CN820」
・EBECRYL767:ダイセルサイテック社製、直鎖アクリルオリゴマー、商品名「EBECRYL767」、オリゴマーとイソボルニルアクリレートの混合物であり、混合比(質量比)が、オリゴマー:IBA=70:30
【0065】
〔モノマー〕
・イソボルニルアクリレート:サートマー社製、商品名「SR506」
・ブチルアクリレート(C=3):三菱化学社製、商品名「アクリル酸ブチル」
・エチルアクリレート(C=2):三菱化学社製、商品名「アクリル酸エチル」
・ラウリルアクリレート(C=12):サートマー社製、商品名「SR335」
・ドデシルアクリレート(C=13):サートマー社製、商品名「SR489」
・ステアリルアクリレート(C=18):サートマー社製、商品名「SR257」
【0066】
〔光開始剤〕
・Irgacure184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、BASF社製、商品名「Irgacure184」
【0067】
〔熱開始剤〕
・パーブチルO:t−ブチル−パーオキシ−2−エチルヘキサノエート、日油社製、商品名「パーブチルO」
【0068】
〔接着性試験方法〕
実施例、比較例の防食剤について、JIS K6850に規定されるせん断接着試験を行った。被着体としてすずめっき板を用い、該すずめっき板上に内径6mm×高さ2mmのリングを置き、リング内に防食剤を充填し2mmの厚さに下記の所定の条件で硬化させて試験片を作成した。試験片はすずめっき板の表面が洗浄面と油面の状態でそれぞれ作成した。洗浄面は、すずめっき板の表面をエタノールで洗浄した。油面は、すずめっき板の表面に鉱物加工油を1mg/cm
2となるように塗布した。
【0069】
実施例1〜12、比較例1〜9の試験片は、大気下で防食剤に1J/cm
2の紫外線を照射して紫外線硬化させた。紫外線照射ランプとして、光量500mW/cm
2、主波長が365nmの水銀キセノンランプを用いた。実施例13の試験片は、120℃、1時間加熱を行い、加熱硬化させた。
【0070】
〔洗浄面の接着性〕
洗浄面の接着性試験は、試験片のリングをすずめっき板と平行に引っ張り(引っ張り速度100m/min)、引っ張り試験を行なった。試験の結果、接着強さが1MPa以上を良好(○)とし、1MPa未満を不良(×)とした。
【0071】
〔油面の接着性〕
油面の接着性試験は、洗浄面の引っ張り試験と同様に引っ張り試験を行い、引っ張り試験を行った後の防食剤の破壊状況を観察した。その結果、防食剤の全面凝集破壊を優良(◎)とし、防食剤の一部凝集破壊を良好(○)とし、防食剤とすずめっき板の間の界面破壊の場合を不良(×)とした。
【0072】
〔硬さ〕
防食剤の硬さは、JIS K6253に規定されるデュロメータタイプA硬度計を用いて硬さを測定した。測定の結果、硬度が50以下の場合を良好(○)とし、硬度が50超の場合を不良(×)とした。
【0073】
〔耐熱老化性〕
試験片を120℃、120時間の高温放置後にJIS K6249に準拠し、試験雰囲気を0℃として引っ張り試験を行い破断伸びを測定した。引っ張り試験用の試験片は、防食剤を2mm厚さのシート状に塗布して紫外線を照射して硬化させた硬化シートからJIS4号ダンベルを打ち抜いて作成した。上記硬化の際の紫外線の照射は、せん断接着強さの試験片作成と同じ条件(水銀キセノンランプ、500mW/cm
2、365nm)で行った。引っ張り試験の結果、伸びが10%以上の場合を良好(○)とし、10%未満の場合を不良(×)とした。
【0074】
〔Tg〕
DSC法で硬化物のTgを測定した。硬化物は、組成物を厚さ1mmになるように塗布して大気下で紫外線を照射して硬化させた。紫外線の照射は、せん断接着強さの試験片作成と同じ条件(水銀キセノンランプ、500mW/cm
2、365nm)で行った。Tgが0℃未満の場合を良好(○)とし、0℃以上の場合を不良(×)とした。
【0075】
〔冷熱衝撃性〕
Tgの測定と同様に、組成物を厚さ1mmになるように塗布して大気下で紫外線を照射して硬化させた試験片を用いて、−40℃で1時間処理した後+120℃で1時間処理するのを1サイクルとして、これを500サイクル行った後の試験片の表面を観察した。試験片の表面にクラックの発生がない場合を良好(○)とし、クラックの発生が見られた場合を不調(×)と評価した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
表1及び表2に示すように実施例1〜13は、接着性、硬さ、耐熱老化性、Tg、冷熱衝撃性の試験結果がいずれも良好であった。これに対し比較例1〜9は表3に示すように、接着性、硬さ、耐熱老化性、Tg、冷熱衝撃性の全てを満足することができなかった。
【0080】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0081】
上記実施例の端子付き被覆電線1は、端子金具としてタブ状のオス端子を用いた例を示したが、これに限定されるものではない。例えば端子付き被覆電線は、端子金具としてメス端子を用いたものでもよい。また、端子金具として音叉端子等を用いても良い。
【0082】
また、端子金具5のバレル部54を、インシュレーションバレルを有しないワイヤバレルのみから構成しても良い。
【0083】
また、バレル部54はインシュレーションバレルのみから構成してもよい。その場合、電線導体と端子金具の接続方法としては、圧接抵抗溶接、超音波溶接、ハンダ付け等の方法であっても良い。
【0084】
また、上記実施例では電線導体3として撚線を用いたが、電線導体3は単芯線を用いてもよい。