(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036654
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】回転軸のたわみ量測定方法および測定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20161121BHJP
G01B 21/32 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01B21/32
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-234682(P2013-234682)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-94686(P2015-94686A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宗佑
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幸生
(72)【発明者】
【氏名】中村 正治
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−106190(JP,A)
【文献】
特開2011−191077(JP,A)
【文献】
特開昭54−118862(JP,A)
【文献】
特開昭62−240802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00−13/04
G01M 99/00
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中の回転軸のたわみ量を測定するためのたわみ測定方法であって、回転軸のたわみ形状が円弧であると仮定した上で、回転軸の回転中に、変位センサによって回転軸の軸心に垂直な軸端面の設計回転中心軸方向の変位量を測定し、その測定値と、回転軸の軸長と、変位センサの設計回転軸中心軸からの距離とから回転中の回転軸のたわみ量を演算・算出することを特徴とする回転軸のたわみ量測定方法。
【請求項2】
回転軸の一方の軸端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする請求項1に記載の回転軸のたわみ量測定方法。
【請求項3】
回転軸の一方の軸端に軸端延長部材を接続し、その軸端延長部材の先端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする請求項1に記載の回転軸のたわみ量測定方法。
【請求項4】
回転中の回転軸のたわみ量を測定するためのたわみ測定装置であって、回転軸の回転中に、回転軸の軸心に垂直な軸端面の回転中の設計回転中心軸方向の変位量を測定する変位センサと、回転軸のたわみ形状が円弧であると仮定して、該変位センサの測定値と、回転軸の軸長と、変位センサの設計回転中心軸からの距離とから回転中の回転軸のたわみ量を演算・算出する演算処理装置を備えていることを特徴とする回転軸のたわみ量測定装置。
【請求項5】
回転軸の一方の軸端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする請求項4に記載の回転軸のたわみ量測定装置。
【請求項6】
回転軸の一方の軸端に軸端延長部材を接続し、その軸端延長部材の先端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする請求項4に記載の回転軸のたわみ量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸のたわみ量測定方法および測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械装置の運転中に、その機械装置の中で回転している回転軸のたわみ量を測定することは、回転軸のたわみ起因の振動による機械装置の破損防止や、その機械装置を用いて製造した製品の品質保証等に有用である。
【0003】
従来、回転中の回転軸のたわみ量や傾きの測定技術に関しては、特許文献1や特許文献2などに開示された技術がある。
【0004】
特許文献1では、タービンロータの回転軸について、軸方向に複数枚ある各ロータディスクの径方向の変位量を計測し、その計測値から芯ずれ量を算出して、その芯ずれ量により回転軸の曲がり量分布を算出している。
【0005】
特許文献2では、回転軸に対して周方向2箇所以上と軸方向2箇所以上の計4箇所以上に設置した非接触式変位センサによって得られた測定値に演算処理を行い、回転軸の傾き方向と傾き量を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−280998号公報
【特許文献2】特開2001−153757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に、機械装置の運転時にのみ回転軸のたわみが発生する場合は、回転軸を機械装置から取り外してそのたわみ量を測定することに意味はなく、機械装置の運転中(回転軸の回転中)に回転軸のたわみ量を測定することが必要である。
【0008】
また、一般的に、機械装置に用いられる回転軸に垂直な方向にはセンサを設置できない場合が多いという制約がある。
【0009】
これに対して、特許文献1の方法では、回転軸の回転中に、その曲がり量分布を算出することは不可能である。
【0010】
一方、特許文献2の方法では、変位センサを設置する場所を確保する為に回転軸の軸端を延長すれば、回転中での測定は可能であるが、変位センサを少なくとも4箇所設置しなければならず、測定装置が大きくなってしまう。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、回転軸の軸心(中心軸)に垂直な方向にセンサを設置できない場合でも、回転中の回転軸のたわみ量を効率的に測定することができる、回転軸のたわみ量測定方法および測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0013】
[1]回転中の回転軸のたわみ量を測定するためのたわみ測定方法であって、回転軸の回転中に、回転軸の軸心に垂直な軸端面の変位量を測定し、その測定値から回転中の回転軸のたわみ量を演算・算出することを特徴とする回転軸のたわみ量測定方法。
【0014】
[2]回転軸の一方の軸端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする前記[1]に記載の回転軸のたわみ量測定方法。
【0015】
[3]回転軸の一方の軸端に軸端延長部材を接続し、その軸端延長部材の先端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする前記[1]に記載の回転軸のたわみ量測定方法。
【0016】
[4]回転中の回転軸のたわみ量を測定するためのたわみ測定装置であって、回転軸の回転中に、回転軸の軸心に垂直な軸端面の回転中の変位量を測定する変位センサと、該変位センサの測定値から回転中の回転軸のたわみ量を演算・算出する演算処理装置を備えていることを特徴とする回転軸のたわみ量測定装置。
【0017】
[5]回転軸の一方の軸端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする前記[4]に記載の回転軸のたわみ量測定装置。
【0018】
[6]回転軸の一方の軸端に軸端延長部材を接続し、その軸端延長部材の先端に円板をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置して、その円板の表面を回転軸の軸端面とすることを特徴とする前記[4]に記載の回転軸のたわみ量測定装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明においては、回転軸の軸心(中心軸)に垂直な方向にセンサを設置できない場合でも、回転中の回転軸のたわみ量を効率的に測定することができる。
【0020】
すなわち、本発明においては、回転中の回転軸の軸心に垂直な軸端面の変位量を変位センサで測定し、その測定値から回転中の回転軸のたわみ量を演算・算出するようにしているので、回転軸に垂直な方向に変位センサを設置する必要がないとともに、変位センサを1箇所に設置するだけでいいので、特許文献2の方法に比べて測定装置を小型化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明の一実施形態において、回転軸の回転角度と変位センサで測定される変位量の関係を示す図である。
【
図3】本発明の実施例における測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態を示す図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施形態におけるたわみ量測定装置1は、非接触式の変位センサ6と演算処理装置8を備えており、両端を軸受3、3で支持された回転軸2の回転中のたわみ量δを以下のようにして測定する。なお、ここでは、回転軸2のたわみ形状は円弧であると仮定している。
【0025】
(S1)回転軸2の一方の軸端に軸端延長部材5をその軸心が回転軸2の軸心と一致するように接続して、軸端を長さX延長し、その先端に半径Rの円板4をその表面が回転軸の軸心に垂直になるように設置する。これによって、円板4の表面4aが回転軸2の新たな軸端面となる。
【0026】
(S2)次に、変位センサ6を回転軸2の設計回転中心軸7から距離Yの位置に設計回転中心軸7に平行となるように設置する。
【0027】
(S3)そして、変位センサ6によって、回転軸2が回転中の円板4表面(新たな軸端面)の変位量を測定する。
【0028】
この際の変位センサ6の測定値(変位量)は、回転軸2の回転角に対して、
図2に示すように変動する。
【0029】
その最大距離(最大変位量)をd
1と最小距離(最小変位量)をd
2とすると、幾何学的に以下の関係が成立する。
【0030】
φ=θ/2 ・・・(1)
θ=2tan
−1((d
1−d
2)/2Y) ・・・(2)
δ=(1−cosθ)×(L/θ) ・・・(3)
ここで、L:回転軸2の軸長
φ:軸端面の傾き角度
Y:変位センサ6の設計回転中心軸7からの距離
θ:円弧(たわみ)の中心角
δ:回転軸2のたわみ量
【0031】
(S4)そこで、演算処理装置8は、変位センサ6の測定結果に基づいて、上式を用いて、回転軸2のたわみ量δを演算・算出する。
【0032】
すなわち、最大距離(最大変位量)d
1と最小距離(最小変位量)d
2を式(2)に代入して、円弧(たわみ)の中心角θを算出する。そして、算出した円弧(たわみ)の中心角θを式(3)に代入して、回転軸2のたわみ量δを算出する。
【0033】
このようにして、この実施形態においては、回転軸2の回転中のたわみ量δを算出することができる。
【0034】
なお、円板4の半径Rと、変位センサ6の設計回転中心軸7からの距離Yについては、軸端面の傾き角度φの予測値に基づいて、下記の関係が成立するようにしておく。
【0035】
Y≧Xsinφ ・・・(4)
R≧(Xsinφ+Y+α)/cosφ ・・・(5)
ここで、α:変位センサ6の被測定物の必要最小半径
【0036】
ちなみに、必ずしも軸端の延長は必要ではなく、X=0としてもよい。また、軸端面の形状が(5)式を満足するならば、円板4を設置する必要はない。
【0037】
しかし、軸端の延長と円板4の設置により、変位量を拡大することができるので、測定精度が向上する。
【0038】
また、変位センサ6については、過流センサ、レーザー変位計等といったものを用いればよく、1μm単位以下の分解能があるものであれば、種類は問わない。
【実施例1】
【0039】
本発明の実施例として、上記の本発明の一実施形態に基づいて、回転中の回転軸のたわみ量δを測定した。
【0040】
その際に、回転軸長さL=2000mm、軸端延長長さX=70mm、円板半径R=40mm、変位センサと設計回転中心軸との距離Y=30mmとし、変位センサにはレーザー変位計を用いた。
【0041】
そして、実際のたわみ量δaが2.0、5.0、10.0mmの3本の回転軸に対して、たわみ量δの測定を行った。なお、上記の実際のたわみ量δaについては、ここでは、回転軸の軸心に垂直な方向にセンサを設置できるようにしていたので、別途、そのセンサで測定した値である。
【0042】
その結果は以下の如くであった。
【0043】
(a)実際のたわみ量δa=2.0mmのとき、d
1=5.031mm、d
2=4.968mm、θ=0.0021rad、算出されたたわみ量(測定値)δ=2.1mmであった。
【0044】
(b)実際のたわみ量δa=5.0mmのとき、d
1=5.072mm、d
2=4.928mm、θ=0.0048rad、算出されたたわみ量(測定値)δ=4.8mmであった。
【0045】
(c)実際のたわみ量δa=10.0mmのとき、d
1=5.157mm、d
2=4.842mm、θ=0.0105rad、算出されたたわみ量(測定値)δ=10.5mmであった。
【0046】
上記の変位量d
1、d
2はレーザー変位計の分解能の範囲内に入っており、精度よく検出することができた。
【0047】
そして、上記の回転軸の実際のたわみ量δaと算出されたたわみ量(測定値)δを比較したグラフが
図3であり、±10%の精度でたわみ量を測定することができている。
【符号の説明】
【0048】
1 たわみ量測定装置
2 回転軸
3 軸受
4 円板(新たな軸端)
4a 円板の表面(新たな軸端面)
5 軸端延長部材
6 変位センサ
7 設計回転中心軸
8 演算処理装置