(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリアミド樹脂とポリアミド系ブロック共重合体1〜5質量%とを含む二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムであって、該ポリアミド系ブロック共重合体は、ハード部が炭素数4〜10の環状ラクタムの残基からなり、ソフト部が数平均分子量1000〜3000のポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシテトラメチレングリコールの残基からなり、かつ前記ハード部の含有量X、並びに前記ソフト部の含有量Yと数平均分子量Mnとが、下記の式(1)および式(2)を満足することを特徴とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルム。
X+Y=100(質量部)・・・(1)
478.74×Mn-0.2989≦Y≦93(質量部)・・・(2)
前記二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムが、エチレンビスステアリン酸アミドを0.05〜0.30質量%含有し、細孔容積が1.0〜1.8ml/g、かつ平均粒子径が2.0〜7.0μmの多孔質凝集シリカを0.3〜0.8質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルム。
前記二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの層構成が、単層構成、または2層以上の共押し積層構成であることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルム。
請求項1〜3のいずれかに記載のフィルムの製造方法であって、静電密着法で冷却固化したポリアミド系樹脂シートを、縦方向に二段延伸を行い、次いで延伸開始温度より延伸終了温度が高くなるように、横方向に温度差延伸を行い、次いで熱固定処理を行い、次いで初期緩和処理を行い、さらに初期緩和温度より低い温度で再緩和処理を行うことを特徴とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、ナイロン6やナイロン66に代表される脂肪族ポリアミドからなる未延伸フィルムや延伸フィルムは、耐衝撃性や耐ピンホール性に優れており、各種の包装材料に広く使用されている。
【0003】
また、スープ、調味料などの液体充填包装では、耐ピンホール性、耐衝撃性を向上させるため、単層構成で脂肪族ポリアミドに各種エラストマーを混合し、より柔軟化した耐ピンホール性延伸ポリアミド系フィルムが広く使用されている。
【0004】
上記従来の耐ピンホール性フィルムにおいて、脂肪族ポリアミドにポリオレフィン系エラストマーを混合したフィルムは、常温での耐ピンホール性、耐衝撃性は良好であるが、低温環境下になると耐ピンホール性、耐衝撃性は不良化し、商品輸送時における屈曲疲労によりピンホールが起こりやすいという問題がある。商品の包装材料にピンホールが発生すると、内容物の漏れによる汚染、内容物の腐敗やカビの発生などの原因となり、商品価値の低下につながる。
【0005】
かかる問題点を解消するために、例えば、特許文献1および2には、脂肪族ポリアミドにポリアミド系エラストマーを混合したフィルムが記載されている。特許文献1および2に記載されたフィルムは、低温環境下での耐ピンホール性、耐衝撃性は良好であり、低温環境下でも屈曲疲労によるピンホールが発生しにくい。
【0006】
しかし、特許文献1および2に記載されたフィルムには、ヒートシール性を付与するために、ポリエチレン系フィルムをドライラミネートした場合、ラミネート強度が小さいという問題があった。
【0007】
また、脂肪族ポリアミド中でのポリアミドエラストマーの分散径が大きいため、製袋品を落下させたときの衝撃がポリアミドフィルム中に大きな粒径をもって分散したポリアミドエラストマー粒子を次々と伝播し厚み方向で裂け易くなる傾向がある。そのためにポリアミドエラストマーを添加した耐ピンホール性ポリアミドフィルムを用いた大型水物袋では、落下破袋が発生しやすくなる傾向がある。
【0008】
さらに、製袋加工時の取扱い性向上、袋への内容物充填時の作業性向上のため、製袋品に腰を付与する目的で、ヒートシール性を付与するためのポリエチレン樹脂層の厚みを厚くしたり、またはより硬いポリエチレン樹脂を選択したポリアミド系フィルム/ポリエチレン樹脂構成の製袋品では、製袋品の腰が強くなる一方でピンホールが開きやすくなってしまう。そのためこれらに用いられるポリアミド系フィルムには、より一層の耐ピンホール性が要求される。
【0009】
しかし、耐ピンホール性を高めるために、フィルム中のポリアミドエラストマーの含有量を増やせば、前記ラミネート強度がさらに小さくなり、透明性も悪化するという問題が発生する。
【0010】
また、業務用の容積1リットル以上の大型水物袋や、段ボール箱内に大型プラスティック袋を収納、保管、運搬する包装形態であるバッグ・イン・ボックスの需要も伸びている。これらに用いられるポリアミドフィルムでは、耐ピンホール性、耐衝撃性が大いに必要であり、さらに大容量の液状物を包装するため、強い耐落下破袋性、フィルム厚み方向の強い凝集破壊強度を必要とする。
【0011】
さらに、包装袋へ内容物を充填後、熱水中にて煮沸することにより殺菌処理を施し、品質保証期間を延長する商品も市場には多く見受けられ、それらには、熱水中での接着強度維持、水付着条件下での接着強度維持、水中で白化などの外観不良が起こらないことが必要とされる。
【0012】
このように、現行の耐ピンホール性ポリアミド系フィルムは、市場で要求される品質を十分に満足できるものではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムの実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
本発明は、ポリアミド樹脂とポリアミド系ブロック共重合体(エラストマー)1〜5質量%とを含む二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムであって、該ポリアミド系ブロック共重合体は、ハード部が炭素数4〜10の環状ラクタムの残基からなり、ソフト部が
数平均分子量
1000〜3000のポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシテトラメチレングリコールの残基からなり、かつ前記ハード部の含有量X、並びに前記ソフト部の含有量Yと
数平均分子量
Mnとが、下記の式(1)および式(2)を満足することを特徴とする二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムである。
X+Y=100(質量部)・・・(1)
478.74×
Mn-0.2989≦Y≦93(質量部)・・・(2)
【0024】
本発明では、ポリアミド樹脂として、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン6T、ナイロンMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ナイロン6I、ナイロン46などのポリアミド樹脂、またはそれらの、共重合体、ブレンド物、アロイが使用される。これらのうち、ナイロン6、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、またはそれらのブレンド物が好ましく使用される。
【0025】
また、ポリアミド樹脂のオリゴマー含有率は、1質量%以下であることが好ましい。オリゴマー含有率が1質量%を超えると、ダイから押出した溶融ポリアミド系樹脂混合物を冷却ロールに巻きつけてシート状に固化させる工程で、冷却ロールにオリゴマーが付着しやすい。
【0026】
そして、ポリアミド樹脂としてナイロン6を使用する場合、ナイロン6の相対粘度は2.5〜3.6であることが好ましい。
【0027】
相対粘度が2.5未満であると、二軸延伸後のフィルムの衝撃強度が小さくなる。一方、相対粘度が3.6を超えると、横延伸時に、フィルムの両端部が白化または破断することがある。
【0028】
本発明では、フィルム中のポリアミド系ブロック共重合体の含有率は、1〜5質量%であることが必要である。
【0029】
ポリアミド系ブロック共重合体の含有率が1質量%未満であると、フィルムのラミネート強度は優れるが、耐ピンホール性が発現しない。一方、含有率が5質量%を超えると、フィルムの耐ピンホール性は優れるが、ラミネート強度および衝撃強度が小さくなり、フィルムの腰が弱くなる。そうすると、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを使用した製袋品の耐落下破袋性や剛性が低下するため、破袋しやすくなる。また、含有率が5質量%を超えると、フィルムの透明性が悪くなるため、透明性を生かした意匠性の高いデザインの包装材料に適用できなくなる。
【0030】
本発明では、ポリアミド系ブロック共重合体は、ゴム状弾性を有する物質であり、ハード部が炭素数4〜10の環状ラクタムの残基からなり、ソフト部が
数平均分子量
1000〜3000のポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシテトラメチレングリコ−ルの残基からなり、さらにハード部とソフト部とを結合させるための反応基を有する化合物がソフト部を構成するポリオキシアルキレングリコールと同モル導入される。
【0031】
この反応基を有する化合物としては、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基などを有する化合物が使用され、ポリアミド系ブロック共重合体の重合工程での生産性の点から、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、またはそれらの無水物を使用することが好ましく、脂肪族ジカルボン酸を使用することがさらに好ましい。
【0032】
ハード部が炭素数4未満の環状ラクタム、例えばβ−プロピオラクタムの残基であると、フィルムの耐ピンホール性が低下する。一方、炭素数が10を超える環状ラクタム、例えばω−ラウリンラクタムの残基であると、ポリアミド系ブロック共重合体の分散粒径が大きいため、落下衝撃などがフィルム層内に伝わったおり、衝撃が各分散粒子間を伝播してナイロンフィルム層内で凝集破壊が発生する。このため、ハード部がω−ラウリンラクタムの残基であるブロック共重合体を用いたフィルムは、優れた柔軟性と耐ピンホール性を発揮するが、大型水物袋として必要な高いラミネート強度、耐落下破袋性を両立し得ない。従って、スープ用小袋等の小型袋には好適だが、業務用途の大型水物袋、バッグ・イン・ボックス包装などには適さない。
【0033】
ポリアミド樹脂がナイロン6である場合、ポリアミド系ブロック共重合体のハード部に、構造が類似したε−カプロラクタムを使用することが好ましい。
【0034】
ハード部がε−カプロラクタムの残基であると、フィルムを構成する主要樹脂であるナイロン6とブロック共重合体との界面の接着性が向上し、大きい衝撃が伝わっても界面の破壊が発生しにくい。また、ナイロン6とブロック共重合体との相溶性が向上したことでポリアミド系ブロック共重合体の分散粒径が小さくなり、フィルム層内での界面の破壊が各ポリアミド系ブロック共重合体の分散粒子へと伝播しにくくなる。このためフィルムは、高いラミネート強度を保有し、耐落下破袋性も高くなる。
【0035】
ポリアミド系ブロック共重合体の分散粒径が小さくなりすぎると、ゴム状弾性を発現しにくくなり、水物包装袋として必要な柔軟性、耐ピンホール性を得るには、多量のポリアミド系ブロック共重合体が必要となる。
【0036】
優れたラミネート強度、耐落下破袋性、柔軟性、耐ピンホール性を両立するためには、まずフィルムベースとなるポリアミド樹脂との相溶性を向上させて、ポリアミド樹脂とポリアミド系ブロック共重合体との界面間の接着力を向上させることが重要であり、その上ポリアミド系ブロック共重合体のゴム状弾性の発現を向上させるためには、分散粒径が微小化しない組成であることが重要である。そのためには、ポリアミド系ブロック共重合体のソフト部の含有量および
数平均分子量を好適な範囲にすることが重要である。
【0037】
一方、ソフト部がポリオキシエチレングリコールの残基からなると、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムをボイル処理、または水へ浸漬したりすると、フィルムがパール調に白化する。また、ソフト部がポリオキシヘキサメチレングリコールの残基からなると、重合缶より抜き出したポリアミド系ブロック共重合体のストランドが柔らかすぎるため、切断不良が起こり、長さが5cmを超えるような、または完全に切断されずに数個〜10数個つながった、即ち規格外形状のチップが多発し、重合工程の生産性が低下する。
【0038】
このため、本発明では、ポリアミド系ブロック共重合体のソフト部をポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシテトラメチレングリコールとする。そして、ポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシテトラメチレングリコ−ルの
数平均分子量は、
1000〜3000であることが必要であり、
1000〜2800が好ましく、1000〜2500がさらに好ましく、1300〜2300が最も好ましい。
【0039】
数平均分子量が
1000未満であると、フィルムの耐ピンホール性がほとんど向上しない。一方、
数平均分子量が3000を超えると、フィルムのラミネート強度が小さくなるばかりでなく、フィルムの透明性も悪くなる。したがって、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを、業務用途の大型水物袋、バッグ・イン・ボックス、透明性を生かした意匠性の高いデザインの包装材料などに適用できなくなる。
【0040】
また、フィルムの耐ピンホール性を向上させるためには、ソフト部に用いるポリオキシプロピレングリコールまたはポリオキシテトラメチレングリコ−ルの
数平均分子量が小さい場合、ソフト部の含有量を多くする必要がある。一方、
数平均分子量が大きい場合、ソフト部の含有量が少なくてもよい。つまり、優れた耐ピンホール性を発現させるには、ハード部の含有量X質量部とソフト部の含有量Y質量部と
数平均分子量
Mnとが、X+Y=100を前提とし、478.74×
Mn-0.2989≦Y≦93を満たすことが必要である。
【0041】
Yが478.74×
Mn-0.2989質量部未満であると、ポリアミド系ブロック共重合体の分散粒径が小さくなりすぎるため、フィルムの耐ピンホール性が悪くなる。一方、Yが93質量部を超えると、ポリアミド系ブロック共重合体の重合反応性が低下するばかりでなく、重合缶より抜き出したストランドが柔らかすぎるため、切断不良が起こり、規格外形状のチップが多発し、重合工程の生産性が低下する。さらに、フィルム中のポリアミド系ブロック共重合体の分散粒径が大きくなりすぎるため、フィルムが凝集破壊しやすくなる。そうすると、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムとポリエチレン系フィルムとをラミネートした場合、両者の接着性が十分であっても、優れたラミネート強度が得られない。
【0042】
例えば、ソフト部の
数平均分子量が650〜850の場合には、ポリアミド系ブロック共重合体が、ハード部とソフト部との合計100質量部中ソフト部を70質量部以上含有すれば、また
数平均分子量が1000〜2500の場合には、62質量部以上含有すれば、フィルムの耐ピンホール性が、低温流通の水物袋で要求されるレベルまで向上する。
【0043】
重合工程で、ポリアミド系ブロック共重合体のストランドを切断してチップ化するには、ストランドカット法、水中カット法、ダイサーカット法などを用いることができる。これらのうち、重合工程での規格外形状のチップの発生や、フィルム生産工程での原料偏析を抑制する点から、水中カット法が好ましい。
【0044】
本発明では、フィルムの特性を阻害しない範囲内で、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃性改良剤などの各種添加剤をフィルムに含有させてもよい。特に、エチレンビスステアリン酸アミドなどの有機滑剤をフィルムに0.05〜0.30質量%含有させると、フィルムの滑り性が一段と優れたものとなる。
【0045】
フィルム中のエチレンビスステアリン酸アミドの含有率が0.05質量%未満であると、滑り性の向上に寄与しないことがある。一方、含有率が0.30質量%を超えると、フィルム表面にエチレンビスステアリン酸アミドが必要以上にブリードアウトするため、フィルムの透明性やフィルム表面の接着性が悪くなることがある。
【0046】
また、滑り性を向上させるために、フィルム中に所定の細孔容積を有する無機微粒子を含有させることが好ましい。無機微粒子として、シリカ、二酸化チタン、タルク、カオリナイト、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウムなどが使用される。特に、多孔質凝集シリカは、細孔容積を調整しやすく、良好な滑り性を付与できる程度の量をフィルムに含有させても、良好な透明性を維持できる。
【0047】
多孔質凝集シリカの細孔容積は、1.0〜1.8ml/gであることが好ましく、1.2〜1.7ml/gであることがさらに好ましい。
【0048】
細孔容積が1.8ml/gを超えると、未延伸フィルムを延伸した場合、多孔質凝集シリカが変形しやすくなるため、表面突起の高さが低くなり、フィルムの滑り性が悪くなることがある。一方、細孔容積が1.0ml/g未満であると、未延伸フィルムを延伸した場合、多孔質凝集シリカの周囲にボイドが過剰に形成されやすくなるため、フィルムの透明性が悪くなることがある。
【0049】
また、多孔質凝集シリカの平均粒子径は、2.0〜7.0μmであることが好ましく、3.5〜7.0μmであることがさらに好ましい。
【0050】
平均粒子径が2.0μm未満であると、延伸時にフィルムに表面突起が形成されにくいため、十分な滑り性が得られないことがある。一方、平均粒子径が7.0μmを超えると、表面突起が大きくなりすぎて、光がフィルム表面で散乱しやすくなるため、透明性が悪くなることがある。さらに、フィルムの製造工程や加工工程で使用される搬送ロールとの接触により多孔質凝集シリカが脱落しやすくなる。
【0051】
また、フィルム中の多孔質凝集シリカの含有率は、0.3〜0.8質量%であることが好ましく、0.4〜0.7質量%であることがさらに好ましい。含有率が0.3質量%未満であると、表面突起が不十分なものとなり、高湿度下でのフィルムの滑り性が悪くなることがある。一方、含有率が0.8質量%を超えると、フィルムの透明性が悪くなることがある。
【0052】
本発明では、ポリアミド系樹脂混合物を押出機に供給し、Tダイから240〜290℃で押出して、20〜50℃の冷却ロールで冷却固化して、未延伸シートを得る。
【0053】
未延伸シートの平面性を向上する目的で、シートと冷却ロールとの密着性を高めるために、静電密着法または液体塗布密着法を用いることが好ましい。
【0054】
静電密着法を用いる場合、シートの結晶化度を均一にして、延伸後の厚みムラを低減するために、電極に2〜30kVの直流高電圧を印加して発生させたストリーマコロナ放電でシートを冷却ロールに密着させることが好ましく、電極として、針状、鋸刃状のように、多数のコロナ放電可能な、即ち比抵抗が5μΩ・cm以下である突起を有するものを使用することが好ましく、突起先端の曲率半径は0.01〜0.07mmであることが好ましい。
【0055】
印加電圧が2kV未満であると、グロー放電となり、30kVを超えると、火花放電となるため、ストリーマコロナ放電が安定して得られないことがある。
【0056】
また、曲率半径が0.01mm未満であると、電極を取り扱う際に先端部が損傷しやすく、損傷に起因した異常放電が発生しやすい。一方、0.07mmを超えると、印加電圧を高くする必要があるため、火花放電が発生しやすい。
【0057】
本発明では、ポリアミド系樹脂フィルムは、ポリアミド樹脂とポリアミド系ブロック共重合体とを含有する混合物を溶融押出することによって得られた未延伸フィルムを一軸あるいは二軸延伸することによって製造される。具体的にはTダイより溶融押出した未延伸シートを縦−横の順序、または横−縦の順序で延伸する逐次二軸延伸方法を好適に採用することができる。
【0058】
縦−横の順序で延伸する場合、ロール式延伸機による縦−縦2段延伸方式を用いると、ボーイングが低減し、幅方向の物性差が小さい二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得ることができる。
【0059】
縦−縦2段延伸方式では、80〜90℃の温度で1.3〜2.0倍延伸した後、Tg以下の温度に冷却することなく、引き続き65〜75℃の温度で1.6〜2.4倍延伸することが好ましい。また、1段目の延伸倍率と2段目の延伸倍率との積で定義される合計倍率は、2.8〜4.0倍であることが好ましい。なお、シートの加熱方法として、加熱ロール方式、赤外線輻射方式を採用することができる。
【0060】
1段目の延伸倍率が1.3倍未満、または2段目の延伸倍率が1.6倍未満であると、フィルムをボイルしたときの歪みが大きくなりやすい。一方、1段目の延伸倍率が2.0倍を超えると、縦方向の厚みムラが大きくなりやすく、2段目の延伸倍率が2.4倍を超えると、横延伸工程で破断しやすくなる。また、合計倍率が2.8倍未満であると縦方向の厚みムラが大きくなりやすく、合計倍率が4.0倍を超えると横延伸工程で破断しやすくなる。
【0061】
本発明では、縦延伸に引き続いて行うテンター式延伸機での横延伸は、延伸開始ゾーンの温度を最低延伸温度とし、後段のゾーン温度を順次高めて、延伸終了ゾーンの温度が最高温度となるような温度差延伸方式を用いることが好ましい。温度差延伸方式を用いれば、ボーイングが低減し、幅方向の物性差が小さい二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得ることができ、さらにフィルムをボイルしたときの歪みも小さくなる。
【0062】
温度差延伸方式では、110〜170℃の温度、好ましくは120〜160℃の温度で横方向に2.8〜4.5倍延伸するが、2ゾーン以上、好ましくは3ゾーン以上の異なる温度領域で延伸することが好ましい。
【0063】
延伸倍率が2.8倍未満であると、横方向の厚みムラが大きくなりやすい。一方、4.5倍を超えると、横方向の熱収縮率が大きくなりやすくなるばかりでなく、フィルムの両端部が白化または破断しやすくなる。
【0064】
また、延伸温度が110℃未満であると、フィルムをボイルしたときの歪みが大きくなりやすい。一方、延伸温度が170℃を超えると、横方向の厚みムラが大きくなりやすい。
【0065】
本発明では、二軸延伸後の熱固定処理は、延伸終了温度に近い温度から徐々に昇温して、180℃〜220℃の温度で行うことが好ましく、最高温度を205〜215℃の温度とすることがさらに好ましい。
【0066】
熱固定処理温度が180℃未満であると、フィルムの熱収縮率が大きくなりやすくなるばかりでなく、ラミネート強度が小さくなりやすい。一方、熱固定処理温度が220℃を超えると、フィルムの衝撃強度が小さくなりやすい。つまり、フィルムのラミネート強度と衝撃強度とが両立するように、熱固定処理温度を設定することが好ましい。
【0067】
本発明では、熱固定処理後に、2〜10%横方向に緩和処理を行うことが好ましい。
【0068】
緩和率が2%未満であると、フィルムの熱収縮率が大きくなりやすい。一方、緩和率が10%を超えると、フィルムが熱風吹き出し口に接触して、フィルムがキズつきやすくなるばかりでなく、ボーイングが増大し、フィルムの幅方向の物性差が大きくなる。
【0069】
また、ボーイングによるフィルムの幅方向の物性差を大きくさせずに、横方向の熱収縮率を小さくするために、熱固定処理の最高温度に近い温度で一旦緩和処理を行った後、該緩和処理温度より20〜30℃低い温度で再緩和処理を行うことが好ましい。なお、この場合の緩和率は、最初の緩和率と再緩和率との和で定義される。
【0070】
そして、テンター式延伸機とフィルムワインダーとの間で、縦方向の緩和処理を行えば、ボーイングが低減し、フィルムの幅方向の物性差がさらに小さくなる。
【0071】
本発明では、二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムは、いわゆる共押出法によって製造されても問題ない。共押出法での積層方法は、マルチマニホールドダイを用いるダイ内積層でもよく、フィードブロックを用いるダイ外積層でもよい。
【0072】
また、ロール式延伸機とテンター式延伸機との間で、易滑性、易接着性、ガスバリア性などを有する樹脂のコート液を塗布して、フィルムに各種の機能を付与してもよい。
【0073】
さらに、寸法安定性を良くするために、フィルムに調湿処理を施してもよい。加えて、フィルムと、印刷インキ、蒸着金属、蒸着金属酸化物、またはラミネートで使用する接着剤などとの接着性を向上させるために、フィルム表面にコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理などを施してもよい。
【0074】
そして、フィルムワインダーで巻き取る際に切断したフィルムの両端部、スリッターで製品ロールに裁断する際に発生した製品ロールとならない部分などを粉砕した後、溶融して、または押し固めて作製した回収原料を、フィルムに50質量%程度含有させても、着色や異物の発生などの問題は起こらない。
【0075】
本発明では、接着剤を介して二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムとポリエチレン系フィルムとを貼り合せた場合のラミネート強度が7N/15mm以上であり、かつ1℃でのゲルボフレックステストの欠点数が5個以下であるため、スープなどの小袋だけでなく、漬物袋、低温流通の水物袋、業務用途の大型水物袋にも適用できる。
【0076】
また、15μmの厚み構成で衝撃強度が0.9J以上であるため、低温環境下での水物袋の運搬、落下において、袋のシール部分の角部や袋以外の突起物が突き刺ささっても、袋に孔が開きにくい。
【0077】
そして、静摩擦係数が0.8以下であるため、製袋加工性が良好であり、ヘイズが4.5%以下であるため、透明性を生かした意匠性の高いデザインの包装材料に適用できる。
【0078】
本願は、2011年12月5日に出願された日本国特許出願第2011‐266283号に基づく優先権の利益を主張するためのものである。2011年12月5日に出願された日本国特許出願第2011‐266283号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0079】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、フィルムの評価は次の測定法によって行った。
【0080】
(1)衝撃強度
東洋精機製作所(株)社製のフィルムインパクトテスターを使用し、温度23℃、相対湿度65%の環境下で10回測定し、その平均値で評価した。
【0081】
(2)耐ピンホール性
テスター産業(株)社製の恒温槽付ゲルボフレックステスターBE1006を使用し、下記の方法によりピンホール数を測定した。
【0082】
フィルムにポリエステル系接着剤〔東洋モートン(株)社製のTM−590(製品名)およびCAT−56(製品名)を質量比で6.25/1に混合したもの(固形分濃度23%)〕を乾燥後の樹脂固形分が3g/m
2となるように塗布した後、線状低密度ポリエチレンフィルム(L−LDPEフィルム:東洋紡績(株)社製、リックス(登録商標)L4102)40μmをドライラミネートし、40℃の環境下で3日間エージングを行い、ラミネートフィルムを得た。
【0083】
得られたラミネートフィルムを12インチ×8インチに裁断し、直径3.5インチの円筒状にし、円筒状フィルムの一端をゲルボフレックステスターの固定ヘッド側に、他端を可動ヘッド側に固定し、初期の把持間隔を7インチとした。
【0084】
ストロークの最初の3.5インチで440度のひねりを与え、その後2.5インチは直線水平運動で全ストロークを終えるような屈曲疲労を、40回/minの速さで1000回行い、ラミネートフィルムに発生したピンホール数を数えた。なお、測定は1℃の環境下で行った。上記測定を3回行い、その平均値で評価した。
【0085】
(3)ヘイズ
東洋精機製作所(株)社製の直読ヘイズメーターNo.206を使用し、JIS−K−7105に準拠し測定した。
ヘイズ(%)=〔Td(拡散透過率%)/Tt(全光線透過率%)〕×100で算出した。
【0086】
(4)静摩擦係数
押出工程で冷却ロールと接触しない面どうしを合わせて静摩擦係数をJIS−K−7125に準拠し、温度23℃、相対湿度65%RHの環境下で測定した。
【0087】
(5)ラミネート強度
フィルムの厚み方向の耐凝集破壊強度を把握するために、ラミネート強度を測定した。
耐ピンホール性評価の説明に記載したラミネートフィルムを幅15mm×長さ100mmの短冊状に切断し、ラミネートフィルムの一端を二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムと線状低密度ポリエチレンフィルムとの界面で剥離し、東洋ボールドウィン(株)製テンシロンUMT−II−500型を用い、温度23℃、相対湿度65%RH、引張り速度200mm/分、剥離角度90°の条件下でラミネート強度を5回測定し、その平均値で評価した。
【0088】
(6)水付着条件下でのラミネート強度
上記短冊状ラミネートフィルムの剥離界面に水をスポイドで垂らしながらラミネート強度を測定した。
【0089】
(7)ボイル後の白化
耐ピンホール性評価の説明に記載したラミネートフィルムから、12cm×12cm(各辺のシール幅1cm)を2枚切り出し、三方をシールした後、水100mlを充填し、さらにシールして四方シール袋を作製した。95℃×30分の条件で煮沸した後、冷水中に漬け置きフィルムの外観を観察した。
【0090】
「ポリアミド樹脂」
チップAは、回分式重合缶を用い、ε−カプロラクタムの開環重合によって得られたナイロン6〔東洋紡績(株)社製、グラマイド(登録商標)T−810〕であり、相対粘度は、20℃の測定値(96%濃硫酸溶液使用時)で2.8であった。また、ガラス転移温度Tg、低温結晶化温度Tc、および融点Tm(チップを溶融急冷し、粉砕したものを、昇温速度10℃/分とした示差走査型熱量計で測定)は、それぞれ40℃、68℃、および225℃であった。
【0091】
チップBは、二軸ベント式押出機で、チップA95.0質量%およびエチレンビスステアリン酸アミド〔共栄社化学(株)社製ライトアマイドWE−183(製品名)〕5.0質量%を溶融混練した後、ストランドカット法で切断して作製した。
【0092】
チップCは、二軸ベント式押出機で、チップA95.0質量%および多孔質凝集シリカ〔富士シリシア化学(株)製、サイリシア350(製品名)、細孔容積1.6ml/g、平均粒子径3.9μm〕5.0質量%を溶融混練した後、ストランドカット法で切断して作製した。
【0093】
チップA〜Cの特性を表1に示す。
【0094】
「ポリアミド系ブロック共重合体(エラストマー)」
エラストマーA〜Pは、表2に示すポリアミド系ブロック共重合体組成表に順じて重合した。攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、圧力調整装置およびポリマー取り出し口を備えた70リットルの圧力容器に、ハード部としてε-カプロラクタム、γ−ブチロラク
タム、またはω−ラウリンラクタム、結合部としてアジピン酸〔宇部興産(株)社製アジピン酸(製品名)〕を下記のポリオキシアルキレングリコールと同モル、ソフト部としてポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、またはポリオキシエチレングリコールを仕込み、容器内を十分窒素置換した後、窒素ガスを流速300リットル/分で供給しながら徐々に加熱を行った。3時間かけて室温から230℃まで昇温し、230℃で6時間重合を行った。加熱を始めてから容器内の圧力は0.05MPaに調整した。
【0095】
次に、攪拌を停止しポリマー取出し口から溶融状態のポリマーをストランド状に抜き出し、水中カット法で切断して、エラストマーA〜Pを作製した。
【0096】
「フィルムの製造方法」
ダブルコーン型減圧ブレンダーで水分率が0.09質量%となるように調整したポリアミド系樹脂混合物を、コア層用単軸押出機およびスキン層用単軸押出機に供給して溶融させた後、フィードブロックでスキン層A/コア層B/スキン層Aの構成に積層してTダイからシート状に押出し、40℃に温調した冷却ロールに静電密着法で密着させて約200μmの未延伸シートを得た。
【0097】
なお、静電密着は、先端曲率半径0.04mm、直径2mm、長さ30mmのタングステン製の針を1mmピッチで埋め込んだ電極に8kVの直流電圧を印加して行った。
【0098】
得られた未延伸シートを、ロール式延伸機に導き、ロールの周速差を利用して、80℃で縦方向に1.8倍延伸した後、70℃でさらに1.8倍延伸した。引き続き、この一軸延伸フィルムを連続的にテンター式延伸機に導き、110℃のゾーンで予熱した後、横方向に120℃のゾーンで1.2倍、130℃のゾーンで1.7倍、160℃のゾーンで2.0倍延伸して、180℃のゾーンおよび210℃のゾーンを通過させて熱固定処理した後、210℃のゾーンで3%および185℃のゾーンで2%の緩和処理を行い、120℃のゾーンおよび60℃のゾーンを通過させて冷却し、フィルムワインダーに導き、両端部を切断除去して巻き取り、厚みが15μmの二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得た。スキン層Aおよびコア層Bの層構成比率を表3に示す。
【0099】
実施例1〜15、比較例1〜10
表1に示したポリアミド樹脂と、表2に示したポリアミド系ブロック共重合体とを用い、表3のように混合して、上記のフィルム製造方法により、実施例1〜15および比較例1〜10の各二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを得た。
【0100】
そして、得られた各二軸配向ポリアミド系樹脂フィルムを用い、ラミネート強度、ゲルボフレックステストでの耐ピンホール性、ヘイズ、衝撃強度、静摩擦係数、ボイル後の白化を評価した。実施例1〜15の評価結果を表4に示し、比較例1〜10の評価結果を表5に示す。
【0101】
表4より、実施例1〜15のフィルムは、ラミネート強度、ゲルボフレックステストでの耐ピンホール性、ヘイズ、衝撃強度、静摩擦係数、およびボイル処理後の外観に優れることが分かる。一方、表5より、比較例1〜10のフィルムは、ラミネート強度と耐ピンホール性とが両立しないか、透明性が劣るか、またはボイル処理後に白化してしまうかのいずれかであることがわかる。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】