(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
底部と当該底部に立設される枠状の側壁部とを有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体とで構成され、前記ジャケット本体と前記封止体とで形成される中空部に熱輸送流体が流れる液冷ジャケットの製造方法において、
前記ジャケット本体の前記開口部の周縁に、前記側壁部の端面よりも一段下がった段差底面及び当該段差底面から立ち上がる段差側面を形成しておき、
前記ジャケット本体は、前記底部から立ち上がり、前記封止体の裏面に当接する支持部を有し、前記支持部の端面と前記段差底面とは面一になっており、
前記段差底面に前記封止体を載置して前記段差側面と前記封止体の封止体側面とを突き合わせるとともに、前記封止体の裏面と前記支持部の端面とを重ね合わせる準備工程と、
前記準備工程で形成された突合せ部に沿って回転ツールを移動させつつ前記封止体周りに一周させて摩擦攪拌接合を行う突合せ部接合工程と、
前記封止体の裏面と前記支持部の端面とが重ね合わされた重合部に対して摩擦攪拌接合を行う重合部接合工程と、を含み、
前記回転ツールの攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、
前記回転ツールを右回転させる場合は、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成し、
前記回転ツールを左回転させる場合は、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて右回りに形成し、
前記突合せ部接合工程及び前記重合部接合工程では、前記封止体の厚さ寸法よりも大きい長さ寸法の攪拌ピンを備え、摩擦攪拌装置に連結された前記回転ツールを用いるとともに、前記ジャケット本体の表面側及び前記封止体の表面側を凸状とした状態で、前記ジャケット本体及び前記封止体の少なくともいずれか一方の変形量を計測しておき、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち前記攪拌ピンのみを前記ジャケット本体及び前記封止体に接触させて摩擦熱を発生させた状態で前記攪拌ピンの挿入深さを前記変形量に合わせて調節しながら摩擦攪拌を行うことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、摩擦攪拌接合時に、ショルダ部121によってジャケット本体100及び封止体110に大きな押圧力が作用するため、
図16の(b)に示すように、塑性流動化した金属材料が側壁部102と封止体110とで構成される内隅部からジャケット本体100の内部に流出してしまうという問題がある。当該内隅部から金属材料が流出しないようにするには、段差部104の幅を大きく設定せざるを得ず、設計の自由度が制限されるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、設計の自由度が高い液冷ジャケットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、底部と当該底部に立設される枠状の側壁部とを有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体とで構成され、前記ジャケット本体と前記封止体とで形成される中空部に熱輸送流体が流れる液冷ジャケットの製造方法において、前記ジャケット本体の前記開口部の周縁に、前記側壁部の端面よりも一段下がった段差底面及び当該段差底面から立ち上がる段差側面を形成しておき、
前記ジャケット本体は、前記底部から立ち上がり、前記封止体の裏面に当接する支持部を有し、前記支持部の端面と前記段差底面とは面一になっており、前記段差底面に前記封止体を載置して前記段差側面と前記封止体の封止体側面とを突き合わせる
とともに、前記封止体の裏面と前記支持部の端面とを重ね合わせる準備工程と、前記準備工程で形成された突合せ部に沿って回転ツールを移動させつつ前記封止体周りに一周させて摩擦攪拌接合を行う
突合せ部接合工程と、
前記封止体の裏面と前記支持部の端面とが重ね合わされた重合部に対して摩擦攪拌接合を行う重合部接合工程と、を含み、
前記回転ツールの攪拌ピンの外周面には螺旋溝が刻設されており、前記回転ツールを右回転させる場合は、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて左回りに形成し、前記回転ツールを左回転させる場合は、前記螺旋溝を上から下に向かうにつれて右回りに形成し、前記
突合せ部接合工程
及び前記重合部接合工程では、前記封止体の厚さ寸法よりも大きい長さ寸法の攪拌ピンを備え
、摩擦攪拌装置に連結された前記回転ツールを用いるとともに、
前記ジャケット本体の表面側及び前記封止体の表面側を凸状とした状態で、前記ジャケット本体及び前記封止体の少なくともいずれか一方の変形量を計測しておき、前記摩擦攪拌装置及び前記回転ツールのうち前記攪拌ピンのみを前記ジャケット本体及び前記封止体に接触させ
て摩擦熱を発生させた状態で
前記攪拌ピンの挿入深さを前記変形量に合わせて調節しながら摩擦攪拌を行うことを特徴とする。
【0011】
かかる製造方法によれば、従来のようにジャケット本体及び封止体にショルダ部を入り込ませないため、従来よりも塑性化領域の幅を小さくすることができるとともに、ジャケット本体及び封止体に作用する押圧力を低減することができる。これにより、段差底面の幅を小さくしても、側壁部と封止体とで構成される内隅部からの金属材料の流出を防ぐことができるため、設計の自由度を向上させることができる。
【0012】
また、かかる製造方法によれば、攪拌ピンのみをジャケット本体及び封止体に挿入するため、回転ツールのショルダ部を押し込む場合に比べて摩擦攪拌装置にかかる負荷を軽減することができる。また、摩擦攪拌装置にかかる負荷を軽減することができるため、摩擦攪拌装置に大きな負荷がかからない状態で、突合せ部の深い位置まで接合することができる。
また、かかる製造方法によれば、突合せ部に加えて重合部に対しても摩擦攪拌接合を行うため、接合強度が向上するとともに耐変形性の高い液冷ジャケットを製造することができる。
また、摩擦攪拌接合の入熱によって塑性化領域に熱収縮が発生し、液冷ジャケットの封止体側が凹状となるように変形するおそれがあるが、かかる製造方法によれば、ジャケット本体及び封止体を予め凸状にしておき、熱収縮を利用することで液冷ジャケットを平坦にすることができる。
また、かかる製造方法によれば、液冷ジャケット及び封止体を凸状にして摩擦攪拌接合を行った場合でも、液冷ジャケットに形成される塑性化領域の長さ及び幅を一定にすることができる。
【0017】
また、前記支持部は、前記側壁部から連続して形成されており、
前記突合せ部接合工程及び前記重合部接合工程では、前記突合せ部及び前記重合部に対する摩擦攪拌接合を連続して行うことが好ましい。
【0018】
かかる製造方法によれば、突合せ部及び重合部を連続して摩擦攪拌接合を行うことができるため、耐変形性の高い液冷ジャケットを製造することができるとともに、製造サイクルを向上させることができる。
【0019】
また、前記支持部は、前記側壁部を構成する一の壁部から連続するとともに、前記一の壁部と対向する他の壁部とは離間して形成されており、
前記突合せ部接合工程及び前記重合部接合工程では、前記封止体の表面のうち前記支持部に対応する位置に前記回転ツールを挿入し、前記重合部及び前記突合せ部に対して摩擦攪拌接合を連続して行うとともに、前記突合せ部の外側における前記側壁部の端面で前記回転ツールを引き抜くことが好ましい。
【0020】
かかる製造方法によれば、突合せ部及び重合部を連続して摩擦攪拌接合を行うことができるため、耐変形性の高い液冷ジャケットを製造することができるとともに、製造サイクルを向上させることができる。また、比較的板厚の薄い封止体上で回転ツールを引き抜くと、引抜跡の補修が困難であったり、引き抜き作業が安定せずに封止体に欠陥が発生したりするという問題があるが、封止体に比べて厚さが大きい側壁部で回転ツールを引き抜くことでかかる問題を解消することができる。
【0021】
また、前記側壁部の端面に残存する前記回転ツールの引抜跡に溶接金属を埋めて補修する補修工程を行うことが好ましい。
【0022】
かかる製造方法によれば、引抜跡が無くなり液冷ジャケットの表面を平坦に仕上げることができる。
【0029】
また、
前記突合せ部接合工程及び前記重合部接合工程では、前記ジャケット本体の底部の裏面に面接触する冷却板を設け、前記ジャケット本体及び前記封止体を冷却しながら摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0030】
かかる製造方法によれば、摩擦熱を低く抑えることができるため、熱収縮による液冷ジャケットの変形を小さくすることができる。これにより、本接合工程に先だって、ジャケット本体及び封止体を凸状とする際に、ジャケット本体及び封止体の曲率を小さくすることができる。
【0031】
また、前記冷却板の冷却媒体が流れる冷却流路は、少なくとも前記回転ツールの移動軌跡に沿う平面形状を備えて形成されていることが好ましい。
【0032】
かかる製造方法によれば、摩擦攪拌される部分を集中的に冷却できるため、冷却効率を高めることができる。
【0033】
また、前記冷却板の冷却媒体が流れる冷却流路は、前記冷却板に埋設された冷却管によって構成されていることが好ましい。
【0034】
かかる製造方法によれば、冷却媒体の管理を容易に行うことができる。
【0035】
また、
前記突合せ部接合工程及び前記重合部接合工程では、前記ジャケット本体の内部に冷却媒体を流して前記ジャケット本体及び前記封止体を冷却しながら摩擦攪拌接合を行うことが好ましい。
【0036】
かかる製造方法によれば、摩擦熱を低く抑えることができるため、熱収縮による液冷ジャケットの変形を小さくすることができる。また、冷却板等を用いずに、ジャケット本体自体を利用して冷却することができる。
【0037】
また、
前記突合せ部接合工程では、前記回転ツールを前記封止体に対して右回りに移動させるときは、前記回転ツールを右回転させ、前記回転ツールを前記封止体に対して左回りに移動させるときは、前記回転ツールを左回転させることが好ましい。
【0038】
摩擦攪拌接合においては、回転ツールを右回転させると進行方向左側、左回転させると進行方向右側に接合欠陥が発生する可能性があり、板厚の薄い封止体に当該接合欠陥が形成されると水密性及び気密性が低下するおそれがある。しかし、かかる製造方法によれば、摩擦攪拌接合に伴う接合欠陥が比較的厚さの大きいジャケット本体側に形成されるため、水密性及び気密性の低下を抑制することができる。
【0039】
また、
前記突合せ部接合工程では、前記回転ツールを前記突合せ部に沿って一周させた後、一周目で形成された塑性化領域の外側に前記回転ツールを偏移させ、前記回転ツールを前記突合せ部に対してさらに一周させて前記塑性化領域のうちの外側を再攪拌する際に、前記回転ツールを前記封止体に対して右回りに移動させるときは、前記回転ツールを右回転させ、前記回転ツールを前記封止体に対して左回りに移動させるときは、前記回転ツールを左回転させることが好ましい。
【0040】
かかる製造方法によれば、一周目の接合欠陥は二周目の摩擦攪拌接合の際に再度攪拌されるため、当該接合欠陥を補修することができる。
【0041】
また、前記
突合せ部接合工程及び前記重合部接合工程の前に、前記突合せ部に対して仮接合を行う仮接合工程を行うことが好ましい。
【0042】
かかる製造方法によれば、本接合工程を行う際のジャケット本体と封止体との目開きを防ぐことができる。
【0043】
また、前記ジャケット本体の底部及び前記封止体の裏面の少なくともいずれか一方に複数のフィンが形成されていることが好ましい。
【0044】
かかる製造方法によれば、冷却効率の高い液冷ジャケットを製造することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、設計の自由度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0047】
〔第一実施形態〕
本発明の第一実施形態に係る液冷ジャケット及び液冷ジャケットの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる本接合用回転ツール及び仮接合用回転ツールについて説明する。
【0048】
図1の(a)に示すように、本接合用回転ツールFは、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、特許請求の範囲の「回転ツール」に相当する。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、
図1の(b)に示す摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0049】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の長さは、後記する封止体3の板厚よりも大きくなっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。本実施形態では、本接合用回転ツールFを右回転させるため、螺旋溝F3は、基端から先端に向かうにつれて左回りに形成されている。
【0050】
なお、本接合用回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F3を基端から先端に向かうにつれて右回りに形成することが好ましい。螺旋溝F3をこのように設定することで、摩擦攪拌の際に塑性流動化した金属が螺旋溝F3によって攪拌ピンF2の先端側に導かれる。これにより、被接合金属部材(後記するジャケット本体2及び封止体3)の外部に溢れ出る金属の量を少なくすることができる。
【0051】
図1の(b)に示すように、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合をする際には、被接合金属部材に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、被接合金属部材と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域Wが形成される。
【0052】
仮接合用回転ツールGは、
図2の(a)に示すように、ショルダ部G1と、攪拌ピンG2とで構成されている。仮接合用回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されている。ショルダ部G1は、
図2の(b)に示すように、摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダ部G1は円柱状を呈する。ショルダ部G1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0053】
攪拌ピンG2は、ショルダ部G1から垂下しており、ショルダ部G1と同軸になっている。攪拌ピンG2はショルダ部G1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝G3が刻設されている。
【0054】
図2の(b)に示すように、仮接合用回転ツールGを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンG2とショルダ部G1の下端を被接合金属部材に挿入しつつ移動させる。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域W1が形成される。
【0055】
次に、本実施形態の液冷ジャケットについて説明する。
図3に示すように、本実施形態に係る液冷ジャケット1は、ジャケット本体2と、封止体3とで構成されている。ジャケット本体2は、上方に開口した箱状体である。
【0056】
ジャケット本体2は、底部10と、側壁部11と、支持部12とを含んで構成されている。ジャケット本体2は、摩擦攪拌可能な金属で形成されている。底部10は、平面視矩形の板状を呈する。側壁部11は、底部10に立設されており、平面視矩形枠状を呈する。側壁部11は、同じ板厚からなる壁部11A,11B,11C,11Dで構成されている。壁部11A,11Bは短辺部となっており、互いに対向している。また、壁部11C,11Dは長辺部となっており、互いに対向している。底部10及び側壁部11の内部には凹部13が形成されている。
【0057】
側壁部11の端面11aには、ジャケット本体2の開口部の周縁に沿って段差部14が形成されている。段差部14は、段差底面14aと、段差底面14aから立ち上がる段差側面14bとで構成されている。段差底面14aは、端面11aから一段下がった位置に形成されている。
【0058】
支持部12は、底部10に立設されており、直方体を呈する。支持部12は、壁部11Aから連続するとともに、壁部11Bに向けて延設されている。壁部11Bと支持部12の先端部は所定の間隔をあけて離間している。支持部12の端面12aと段差底面14aとは面一になっている。
【0059】
封止体3は、平面視矩形を呈する板状部材である。封止体3の材料は特に制限されないが、本実施形態では、ジャケット本体2と同じ材料で形成されている。封止体3は、段差部14にほぼ隙間なく載置される大きさで形成されている。封止体3の板厚寸法は、段差側面14bの高さ寸法と略同等になっている。
【0060】
図4の(a)及び(b)に示すように、液冷ジャケット1は、ジャケット本体2と封止体3とを摩擦攪拌によって接合されて一体化されている。液冷ジャケット1は、段差側面14bと封止体3の封止体側面3cとが突き合わされた突合せ部J1及び封止体3の裏面3bと支持部12の端面12aとが重ね合わされた重合部H1が摩擦攪拌によって連続的に接合されている。摩擦攪拌を行った部位には、塑性化領域Wが形成されている。液冷ジャケット1の内部には、熱を外部に輸送する熱輸送流体が流れる中空部15が形成されている。
【0061】
次に、第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。液冷ジャケットの製造方法では、準備工程と、本接合工程と、バリ切除工程とを行う。
【0062】
準備工程では、載置工程と、固定工程と、仮接合工程とを行う。
図5に示すように、載置工程では、ジャケット本体2の段差部14に封止体3を載置して、段差部14の段差側面14bと、封止体3の封止体側面3cとを突き合わせる。これにより、
図5に示すように、封止体3の周縁に沿って突合せ部J1が形成される。また、封止体3の裏面3bと支持部12の端面12aとが重ね合わされて重合部H1が形成される。封止体3の表面3aと側壁部11の端面11aとは面一になる。
【0063】
固定工程では、ジャケット本体2をテーブル(図示省略)に固定する。ジャケット本体2は、クランプ等の固定治具によってテーブルに移動不能に拘束される。
【0064】
仮接合工程では、ジャケット本体2と封止体3とを仮接合する。
図6に示すように、仮接合工程では、仮接合用回転ツールGを用いて突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には、塑性化領域W1が形成される。仮接合は連続的に行ってもよいし、
図6に示すように断続的に行ってもよい。仮接合用回転ツールGは小型であるため、当該仮接合におけるジャケット本体2及び封止体3の熱変形は小さくなっている。
【0065】
図7の(a)及び(b)に示すように、本接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合を行う工程である。本接合工程は、本実施形態では、重合部H1に対して摩擦攪拌接合する重合部接合工程と、突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行う突合せ部接合工程と、を含んでいる。
【0066】
重合部接合工程は、
図7の(a)に示すように、封止体3の表面3aのうち、支持部12の先端部(壁部11B側の先端)に対応する位置に設定された開始位置s1に、右回転させた本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2を挿入する。
図7の(b)に示すように、攪拌ピンF2の挿入深さは、攪拌ピンF2の先端が、支持部12の端面12aに達するように設定するとともに、封止体3及び支持部12に攪拌ピンF2のみが接触するように設定する。そして、本接合用回転ツールFを一定の高さを保った状態で重合部H1に沿って移動させる。つまり、本接合用回転ツールFを支持部12に沿って移動させる。
【0067】
重合部接合工程によって、封止体3の裏面3bと支持部12の端面12aとが摩擦攪拌されて接合される。本接合用回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域Wが形成される。
【0068】
本接合用回転ツールFを突合せ部J1に設定された第一中間点s2まで移動させたら、本接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま突合せ部接合工程に移行する。
図8の(a)に示すように、突合せ部接合工程では、本接合用回転ツールFを突合せ部J1に沿って移動させる。つまり、本接合用回転ツールFを封止体3の周縁に沿って右回りに一周させる。
【0069】
図8の(b)に示すように、攪拌ピンF2の挿入深さは、攪拌ピンF2の先端が、段差底面14aに達するように設定するとともに、封止体3及び側壁部11に攪拌ピンF2のみが接触するように設定する。そして、本接合用回転ツールFを一定の高さを保った状態で突合せ部J1に沿って移動させる。
【0070】
なお、本接合用回転ツールFの挿入深さは、必ずしも一定でなくてもよい。例えば、重合部接合工程と突合せ部接合工程とで挿入深さを変えてもよい。本接合用回転ツールFは、ショルダ部を備えていないため、挿入深さの変更も容易に行うことができる。また、本接合用回転ツールFの先端を支持部12の端面12a及び段差底面14aに接触させずに、少なくとも塑性化領域Wが端面12a及び段差底面14aに達するように挿入深さを設定してもよい。
【0071】
本実施形態のように、本接合用回転ツールFを封止体3の周りを右回りに移動させる場合は、本接合用回転ツールを右回転させることが好ましい。一方、本接合用回転ツールFを封止体3の周りに左周りに移動させる場合は、本接合用回転ツールFを左回転させることが好ましい。
【0072】
回転ツールを右回転させると進行方向左側、左回転させると進行方向右側に接合欠陥が発生する可能性があり、板厚の薄い封止体3に当該接合欠陥が形成されると水密性及び気密性が低下するおそれがある。しかし、本接合用回転ツールFの移動方向及び回転方向を前記した設定にすることで、摩擦攪拌接合に伴う接合欠陥が比較的厚さの大きいジャケット本体2側に形成されるため、水密性及び気密性の低下を抑制することができる。
【0073】
図8の(a)に示すように、本接合用回転ツールFを突合せ部J1に沿って一周させた後、第一中間点s2を通過させて、そのまま第二中間点s3まで移動させる。そして、壁部11Aの端面11aに設定された終了位置e1まで本接合用回転ツールFを移動させたら、上方に移動させて壁部11Aから本接合用回転ツールFを離脱させる。
【0074】
本接合用回転ツールFを壁部11Aから離脱させた後に、壁部11Aの端面11aに引抜跡が残存する場合は、当該引抜跡を補修する補修工程を行ってもよい。補修工程は、例えば、肉盛溶接を行って当該引抜跡に溶接金属を埋めて補修することができる。これにより、壁部11Aの端面11aを平坦にすることができる。
【0075】
なお、本接合用回転ツールFを側壁部11から離脱させる場合は、例えば、本接合用回転ツールFを側壁部11の端面11a上で移動させつつ、本接合用回転ツールFを徐々に上方に移動させて、本接合用回転ツールFの挿入深さが徐々に浅くなるようにしてもよい。このようにすることで、端面11aに本接合工程後の引抜跡が残存しないか、もしくは引抜跡を小さくすることができる。
【0076】
バリ切除工程では、本接合工程によってジャケット本体2及び封止体3の表面に露出するバリを切除する。これにより、ジャケット本体2及び封止体3の表面をきれいに仕上げることができる。以上の工程により、
図4に示す液冷ジャケット1が形成される。
【0077】
以上説明した液冷ジャケットの製造方法によれば、本接合工程において、従来のようにジャケット本体2及び封止体3に回転ツールのショルダ部を入り込ませないため、従来よりも塑性化領域の幅を小さくすることができるとともに、ジャケット本体2及び封止体3に作用する押圧力を低減することができる。従来の製造方法では、段差底面14aの幅を回転ツールのショルダ部の半径よりも大きく設定する必要があった。しかし、本実施形態によれば、段差底面14aの幅を小さくしても、封止体3と側壁部11とで構成される内隅部からの金属材料の流出を防ぐことができるため、設計の自由度を向上させることができる。
【0078】
また、本実施形態のように、ジャケット本体2に支持部12を設ける場合、従来の回転ツールであると、支持部12の幅をショルダ部の直径よりも大きく設定する必要があった。しかし、本実施形態によれば、支持部12の幅を小さくしても、封止体3と支持部12とで構成される内隅部からの金属材料の流出を防ぐことができるため、設計の自由度を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、攪拌ピンF2のみをジャケット本体2及び封止体3に挿入するため、回転ツールのショルダ部を押し込む場合に比べて摩擦攪拌装置にかかる負荷を軽減することができるとともに、本接合用回転ツールFの操作性も良好となる。また、摩擦攪拌装置にかかる負荷を軽減することができるため、摩擦攪拌装置に大きな負荷がかからない状態で、突合せ部J1の深い位置、もしくは深い位置にある重合部H1を接合することができる。
【0080】
また、本実施形態に係る液冷ジャケット1は、ジャケット本体2の底部10に立設されるとともに封止体3の裏面3bに接合される支持部12が形成されているため変形しにくい。つまり、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、耐変形性の高い液冷ジャケット1を製造することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る液冷ジャケット1は、突合せ部J1に加えて重合部H1も摩擦攪拌によって接合されている。つまり、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、接合強度及び耐変形性の高い液冷ジャケット1を製造することができる。
【0082】
また、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、突合せ部J1及び重合部H1に対して連続して摩擦攪拌接合を行うため、製造サイクルを向上させることができる。
【0083】
また、本接合用回転ツールFを比較的厚さの小さい封止体3上で引き抜くと、引抜跡の補修が困難であったり、引き抜き作業が安定せずに封止体3に欠陥が発生したりするという問題があるが、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、封止体3に比べて厚さが大きい側壁部11(壁部11A)で本接合用回転ツールFを引き抜くことで、かかる問題を解消することができる。
【0084】
また、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、本接合工程の前に仮接合工程を行うことで、本接合工程の際に突合せ部J1の目開きを防ぐことができる。
【0085】
以上、本発明の第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本接合工程において、ジャケット本体2の内部に冷却媒体を流してジャケット本体2及び封止体3を冷却しながら摩擦攪拌接合を行ってもよい。これにより、摩擦熱を低く抑えることができるため、熱収縮に起因する液冷ジャケット1の変形を小さくすることができる。また、別途冷却板、冷却手段等を用いずに、ジャケット本体2及び封止体3自体を利用して冷却することができる。
【0086】
また、本実施形態では、重合部接合工程と、突合せ部接合工程とを連続して行ったが、断続して行ってもよい。また、突合せ部接合工程を行った後に、重合部接合工程を行ってもよい。また、第一実施形態では、支持部12を側壁部11から連続して形成したが、これに限定されるものではない。例えば、支持部12を側壁部11から離間させて設けてもよい。この場合は、重合部接合工程及び突合せ部接合工程は断続的に行うこととなる。また、支持部12の形状は他の形状であってもよいし、複数個設けてもよい。さらに、第一実施形態では、ジャケット本体2に支持部12を設けたが、封止体3に設けてもよい。また、支持部12は省略してもよい。
【0087】
また、第一実施形態では仮接合用回転ツールGを用いて仮接合を行ったが、本接合用回転ツールFを用いて仮接合を行ってもよい。これにより、回転ツールを交換する手間を省略することができる。また、仮接合工程は、溶接によって行ってもよい。
【0088】
〔第一変形例〕
次に、第一変形例に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。
図9に示すように、第一変形例では、突合せ部接合工程において、本接合用回転ツールFを封止体3の周りに二周させる点で第一実施形態と相違する。第一変形例では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0089】
図9に示すように、第一変形例の本接合工程では、重合部接合工程と、突合せ部接合工程とを行う。重合部接合工程は、第一実施形態と同等である。重合部接合工程において、本接合用回転ツールFを第一中間点s2まで移動させたら、本接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま突合せ部接合工程に移行する。
【0090】
突合せ部接合工程では、本接合用回転ツールFを右回転させつつ、突合せ部J1に沿って封止体3の周りを右回りに一周させる。一周目の摩擦攪拌接合によって、塑性化領域Waが形成される。
【0091】
本接合用回転ツールFを一周させた後に第一中間点s2を通過したら、本接合用回転ツールFを外側(封止体3から離間する側)に偏移させて、塑性化領域Waの外側と攪拌ピンF2とが重なるようにして本接合用回転ツールFを封止体3周りにもう一周させる。
図10に示すように、二周目の摩擦攪拌接合によって、塑性化領域Wbが形成される。本実施形態では、二周目の本接合用回転ツールFの回転軸が、塑性化領域Waの外端を通るように本接合用回転ツールFのルートを設定している。
【0092】
本接合用回転ツールFを二周させた後、第二中間点s3(
図9参照)と終了位置e1とを結ぶ線上まで本接合用回転ツールFを移動させたら、終了位置e1で本接合用回転ツールFを側壁部11から離脱させる。
【0093】
以上説明した第一変形例によれば、本接合工程において、本接合用回転ツールFを二周させることにより、液冷ジャケット1の水密性及び気密性を向上させることができる。前記したように、本接合用回転ツールFを右回転させつつ封止体3に対して右回りに移動させる場合、塑性化領域Waの外側に接合欠陥が形成されるおそれがある(本接合用回転ツールFを左回転させつつ左回りに移動させる場合も同様)。しかし、第一変形例のように、塑性化領域Waの外側を再度摩擦攪拌することにより、当該接合欠陥を補修することができる。これにより、液冷ジャケット1の水密性及び気密性を向上させることができる。
【0094】
〔第二変形例〕
次に、第二変形例に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。
図11に示すように、第二変形例では、突合せ部接合工程において、タブ材TBを用いる点で第一実施形態と相違する。第二変形例では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0095】
図11に示すように、第二変形例の本接合工程では、タブ材配置工程と、重合部接合工程と、突合せ部接合工程と、引き抜き工程を行う。タブ材配置工程は、ジャケット本体2の壁部11Aにタブ材TBを配設する工程である。タブ材TBの材料は特に制限されないが、第二変形例ではジャケット本体2と同等の材料を用いている。ジャケット本体2とタブ材TBとは溶接又は摩擦攪拌接合によって接合する。タブ材TBの大きさは特に制限されないが、第二変形例では、タブ材TBの幅寸法とジャケット本体2の幅寸法は同等になっている。タブ材TBの表面と側壁部11の端面11aとは面一になっている。
【0096】
重合部接合工程及び突合せ部接合工程は、第一実施形態と同等である。本接合用回転ツールFを一周させた後、本接合用回転ツールFを第二中間点s3まで移動させたら、本接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま引き抜き工程に移行する。引き抜き工程は、タブ材TBから本接合用回転ツールFを離脱させる工程である。
【0097】
引き抜き工程では、第二中間点s3からタブ材TB内に本接合用回転ツールFを移動させつつ、タブ材TB上で本接合用回転ツールFを渦巻き状に移動させる。この際、引き抜き工程の終了位置e2に向けて本接合用回転ツールFの挿入深さが徐々に浅くなるようにすることが好ましい。終了位置e2でタブ材TBから本接合用回転ツールFを離脱させたら、ジャケット本体2からタブ材TBを切除する。
【0098】
第二変形例によれば、タブ材TBを用いることでジャケット本体2に引抜跡が残存しないため、引抜跡を補修する補修工程を省略することができる。なお、タブ材TB上での本接合用回転ツールFの移動軌跡は渦巻き状に限定するものではなく、蛇行状、直線状に設定してもよい。また、本接合用回転ツールFの挿入深さを徐々に浅くせずに、タブ材TB上で本接合用回転ツールFを上方に引き抜いてもよい。
【0099】
〔第三変形例〕
次に、第三変形例に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。
図12に示すように、第三変形例では、冷却板を用いて仮接合工程及び本接合工程を行う点で第一実施形態と相違する。第三変形例では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0100】
図12に示すように、第三変形例では、固定工程を行う際に、ジャケット本体2をテーブルKに固定する。テーブルKは、直方体を呈する基板K1と、基板K1の四隅に形成されたクランプK3と、基板K1の内部に配設された冷却管WPによって構成されている。テーブルKは、ジャケット本体2を移動不能に拘束するとともに、特許請求の範囲の「冷却板」として機能する部材である。
【0101】
冷却管WPは、基板K1の内部に埋設される管状部材である。冷却管WPの内部には、基板K1を冷却する冷却媒体が流通する。冷却管WPの配設位置、つまり、冷却媒体が流れる冷却流路の形状は特に制限されないが、第三変形例では突合せ部接合工程における本接合用回転ツールFの移動軌跡に沿う平面形状になっている。即ち、平面視した際に、冷却管WPと突合せ部J1とが略重なるように冷却管WPが配設されている。
【0102】
第三変形例の仮接合工程及び本接合工程では、ジャケット本体2をテーブルKに固定した後、冷却管WPに冷却媒体を流しながら摩擦攪拌接合を行う。これにより、摩擦攪拌の際の摩擦熱を低く抑えることができるため、熱収縮に起因する液冷ジャケット1の変形を小さくすることができる。また、第三変形例では、平面視した場合に、冷却流路と突合せ部J1(仮接合用回転ツールG及び本接合用回転ツールFの移動軌跡)とが重なるようになっているため、摩擦熱が発生する部分を集中的に冷却できる。これにより、冷却効率を高めることができる。また、冷却管WPを配設して冷却媒体を流通させるため、冷却媒体の管理が容易となる。また、テーブルK(冷却板)とジャケット本体2とが面接触するため、冷却効率を高めることができる。
【0103】
なお、テーブルK(冷却板)を用いてジャケット本体2及び封止体3を冷却するとともに、ジャケット本体2の内部にも冷却媒体を流しつつ摩擦攪拌接合を行ってもよい。また、冷却管WPは、重合部H1に対応する位置に配設してもよい。
【0104】
〔第四変形例〕
次に、第四変形例に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。
図13に示すように、第四変形例では、ジャケット本体2の表面側及び封止体3の表面3aが凸状となるように湾曲させた状態で本接合工程を行う点で第一実施形態と相違する。第四変形例では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0105】
図13の(a)に示すように、第四変形例では、テーブルKAを用いる。テーブルKAは、直方体を呈する基板KA1と、基板KA1の中央に形成されたスペーサKA2と、基板KA1の四隅に形成されたクランプKA3とで構成されている。スペーサKA2は、基板KA1と一体でも別体でもよい。
【0106】
第四変形例の固定工程では、仮接合工程を行って一体化したジャケット本体2及び封止体3をクランプKA3によってテーブルKAに固定する。
図13の(b)に示すように、ジャケット本体2及び封止体3をテーブルKAに固定すると、ジャケット本体2の底部10、端面11a及び封止体3の表面3aが上方に凸状となるように湾曲する。より詳しくは、ジャケット本体2の壁部11Aの第一辺部21、壁部11Bの第二辺部22、壁部11Cの第三辺部23及び壁部11Dの第四辺部24が曲線となるように湾曲する。
【0107】
第四変形例の本接合工程では、本接合用回転ツールFを用いて重合部接合工程及び突合せ部接合工程を行う。重合部接合工程及び突合せ部接合工程では、ジャケット本体2及び封止体3の少なくともいずれか一方の変形量を計測しておき、攪拌ピンF2の挿入深さを前記変形量に合わせて調節しながら摩擦攪拌接合を行う。つまり、ジャケット本体2の端面11a及び封止体3の表面3aの曲面に沿って本接合用回転ツールFの移動軌跡が曲線となるように移動させる。このようにすることで、塑性化領域Wの深さ及び幅を一定にすることができる。
【0108】
摩擦攪拌接合の入熱によって塑性化領域Wに熱収縮が発生し、液冷ジャケット1の封止体3側が凹状に変形するおそれがあるが、第四変形例の本接合工程によれば、端面11a及び表面3aに引張応力が作用するようにジャケット本体2及び封止体3を予め凸状に固定しているため、摩擦攪拌接合後の熱収縮を利用することで液冷ジャケット1を平坦にすることができる。また、従来の回転ツールで本接合工程を行う場合、ジャケット本体2及び封止体3が凸状に反っていると回転ツールのショルダが、ジャケット本体2及び封止体3に接触し、操作性が悪いという問題がある。しかし、第四変形例によれば、本接合用回転ツールFには、ショルダ部が存在しないため、ジャケット本体2及び封止体3が凸状に反っている場合でも、本接合用回転ツールFの操作性が良好となる。
【0109】
なお、ジャケット本体2及び封止体3の変形量の計測については、公知の高さ検知装置を用いればよい。また、例えば、テーブルKAからジャケット本体2及び封止体3の少なくともいずれか一方までの高さを検知する検知装置が装備された摩擦攪拌装置を用いて、ジャケット本体2又は封止体3の変形量を検知しながら本接合工程を行ってもよい。
【0110】
また、第四変形例では、第一辺部21〜第四辺部24の全てが曲線となるようにジャケット本体2及び封止体3を湾曲させたがこれに限定されるものではない。例えば、第一辺部21及び第二辺部22が直線となり、第三辺部23及び第四辺部24が曲線となるように湾曲させてもよい。また、例えば、第一辺部21及び第二辺部22が曲線となり、第三辺部23及び第四辺部24が直線となるように湾曲させてもよい。
【0111】
また、第四変形例ではジャケット本体2又は封止体3の変形量に応じて攪拌ピンF2の高さ位置を変更したが、テーブルKAに対する攪拌ピンF2の高さを一定にして本接合工程を行ってもよい。
【0112】
また、スペーサKA2は、ジャケット本体2及び封止体3の表面側が凸状となるように固定することができればどのような形状であってもよい。また、ジャケット本体2及び封止体3の表面側が凸状となるように固定することができればスペーサKA2は省略してもよい。また、本実施形態では、平らなジャケット本体2及び封止体3を固定工程の際に表面側が凸状となるように変形させたが、予めダイキャスト等により表面側が凸状となるジャケット本体2及び封止体3を成形し、当該ジャケット本体2及び封止体3をテーブルKAに固定してもよい。このような方法であっても、本接合工程による熱収縮を利用して液冷ジャケットを平坦にすることができる。
【0113】
〔第五変形例〕
次に、第五変形例に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。
図14に示すように、第五変形例では、冷却板を用いつつ、ジャケット本体2及び封止体3を凸状となるように湾曲させた状態で本接合工程を行う点で第一実施形態と相違する。第五変形例では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0114】
図14に示すように、第五変形例では、固定工程を行う際に、ジャケット本体2をテーブルKBに固定する。テーブルKBは、直方体を呈する基板KB1と、基板KB1の中央に配設されたスペーサKB2と、基板KB1の四隅に形成されたクランプKB3と、基板KB1の内部に埋設された冷却管WPとで構成されている。テーブルKBは、ジャケット本体2を移動不能に拘束するとともに、特許請求の範囲の「冷却板」として機能する部材である。
【0115】
スペーサKB2は、上方に凸状となるように湾曲した曲面KB2aと、曲面KB2aの両端に形成され基板KB1から立ち上がる立面KB2b,KB2bとで構成されている。スペーサKB2の第一辺部Ka及び第二辺部Kbは曲線になっており、第三辺部Kc及び第四辺部Kdは直線になっている。
【0116】
冷却管WPは、基板KB1の内部に埋設される管状部材である。冷却管WPの内部には、基板KB1を冷却する冷却媒体が流通する。冷却管WPの配設位置、つまり、冷却媒体が流れる冷却流路の形状は特に制限されないが、第五変形例では突合せ部接合工程における本接合用回転ツールFの移動軌跡に沿う平面形状になっている。即ち、平面視した際に、冷却管WPと突合せ部J1とが略重なるように冷却管WPが配設されている。
【0117】
第五変形例の固定工程では、仮接合を行って一体化したジャケット本体2及び封止体3をクランプKB3によってテーブルKBに固定する。より詳しくは、ジャケット本体2の底部10の裏面が曲面KB2aと面接触するようにテーブルKBに固定する。ジャケット本体2をテーブルKBに固定すると、ジャケット本体2の表面側及び封止体3の表面3aが上方に凸状となるように湾曲する。また、ジャケット本体2の壁部11Aの第一辺部21、壁部11Bの第二辺部22が曲線となり、壁部11Cの第三辺部23及び壁部11Dの第四辺部24が直線となるように湾曲する。
【0118】
第五変形例の本接合工程では、本接合用回転ツールFを用いて重合部接合工程及び突合せ部接合工程を行う。重合部接合工程及び突合せ部接合工程では、ジャケット本体2及び封止体3の少なくともいずれか一方の変形量を計測しておき、攪拌ピンF2挿入深さを前記変形量に合わせて調節しながら摩擦攪拌接合を行う。つまり、ジャケット本体2の端面11a及び封止体3の表面3aの曲面に沿って本接合用回転ツールFの移動軌跡が曲線となるように移動させる。このようにすることで、塑性化領域Wの深さ及び幅を一定にすることができる。
【0119】
摩擦攪拌接合の入熱によって塑性化領域Wに熱収縮が発生し、液冷ジャケット1の封止体3側が凹状に変形するおそれがあるが、第五変形例の本接合工程によれば、端面11a及び表面3aに引張応力が作用するようにジャケット本体2及び封止体3を予め凸状に固定しているため、摩擦攪拌接合後の熱収縮を利用することで液冷ジャケットを平坦にすることができる。
【0120】
また、第五変形例では、ジャケット本体2の底部10の凹状となっている裏面に、スペーサKB2の曲面KB2aを面接触させている。これにより、ジャケット本体2及び封止体3をより効果的に冷却しながら摩擦攪拌接合を行うことができる。摩擦攪拌接合における摩擦熱を低く抑えることができるため、熱収縮に起因する液冷ジャケットの変形を小さくすることができる。これにより、本接合工程に先だって、ジャケット本体2及び封止体3を凸状とする際に、ジャケット本体2及び封止体3の曲率を小さくすることができる。
【0121】
なお、ジャケット本体2及び封止体3の変形量の計測については、公知の高さ検知装置を用いればよい。また、例えば、テーブルKBからジャケット本体2及び封止体3の少なくともいずれか一方までの高さを検知する検知装置が装備された摩擦攪拌装置を用いて、ジャケット本体2又は封止体3の変形量を検知しながら本接合工程を行ってもよい。
【0122】
また、第五変形例では、第一辺部21及び第二辺部22が曲線となるようにジャケット本体2及び封止体3を湾曲させたがこれに限定されるものではない。例えば、球面を具備するスペーサKB2を形成し、当該球面にジャケット本体2の底部10の裏面が面接触するようにしてもよい。この場合は、テーブルKBにジャケット本体2を固定すると、第一辺部21〜第四辺部24のすべてが曲線となる。
【0123】
また、第五変形例ではジャケット本体2又は封止体3の変形量に応じて攪拌ピンF2の高さ位置を変更したが、テーブルKBに対する攪拌ピンF2の高さを一定にして本接合工程を行ってもよい。
【0124】
〔第二実施形態〕
次に、本発明の第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。
図15に示すように、第二実施形態では、封止体3Aにフィン31が設けられている点で第一実施形態と相違する。第二実施形態では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0125】
図15に示すように、液冷ジャケット1Aは、ジャケット本体2と、封止体3Aとで構成されている。ジャケット本体2は、第一実施形態と同一である。封止体3Aは、平面視矩形の板状部材である基部30と、基部30の裏面30bに設けられた複数のフィン31とで構成されている。フィン31は、所定の間隔をあけて基部30に対して垂直に配設されている。
【0126】
第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法は、第一実施形態の準備工程と、突合せ部接合工程と、バリ切除工程とを行う。第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、複数のフィン31が形成された液冷ジャケット1Aを形成することができる。液冷ジャケット1Aは、フィン31が形成されているため、冷却効率を高めることができる。なお、フィン31を設けつつ、ジャケット本体2側に支持部12(
図3参照)を設けてもよい。また、ジャケット本体2及び封止体3Aの少なくともいずれか一方にフィン31を設けるようにしてもよい。