(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036721
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】車両の車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20161121BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
B62D25/20 F
F16F15/04 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-21316(P2014-21316)
(22)【出願日】2014年2月6日
(65)【公開番号】特開2015-147501(P2015-147501A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】中川 興也
(72)【発明者】
【氏名】長尾 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】山本 研一
(72)【発明者】
【氏名】麻川 元康
(72)【発明者】
【氏名】氷室 雄也
【審査官】
林 政道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−49375(JP,A)
【文献】
特開2010−83355(JP,A)
【文献】
特開2013−177959(JP,A)
【文献】
特開平11−270623(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0174954(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材を有する車両の車体構造であって、
前記閉断面部内に配設される補強体を備え、
前記補強体は、前記車体構成部材に接合される接合部を有し、
前記接合部は、前記車体構成部材に当接した状態で結合された剛結合部と、振動減衰部材を介して結合された柔結合部とで構成されており、
前記振動減衰部材は、その貯蔵せん断剛性KB´が800N/mm<KB´<57500N/mmを満たすように構成されていることを特徴とする車両の車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の車体構造において、
前記振動減衰部材は、その貯蔵せん断剛性KB´が2200N/mm<KB´<20000N/mmを満たすように構成されていることを特徴とする車両の車体構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の車体構造において、
前記振動減衰部材における前記車体構成部材と接触する面の面積をAb、この接触面と直交する方向の振動減衰部材の厚みをTb、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性率をG´としたとき、前記貯蔵せん断剛性KB´は、
KB´=G´×Ab/Tb
で定義されることを特徴とする車両の車体構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の車両の車体構造において、
前記接合部は、前記車体構成部材の内側面と対向する面をそれぞれ有する複数のフランジ部からなり、
前記複数のフランジ部の一つが、前記柔結合部として設定されており、
残りのフランジ部は、前記剛結合部として設定されていることを特徴とする車両の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材を有する車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、乗り心地性や安全性を向上させるために車体の剛性を高めることが求められており、例えば特許文献1のように、車体構成部材で形成された閉断面部内に補強体を配設することが検討されている。しかしながら、車体の剛性を高めるべく単純に補強体を追加しただけでは、補強体の配設位置等によっては、走行時に車両各部で発生する振動の車室内への伝達を十分に抑制できず乗り心地性が十分に高められない場合がある。
【0003】
この問題に対して、本発明者らは、特許文献2のように、車体構成部材で形成された閉断面部内に補強体を配設するとともに、車体構成部材に接合される補強体の接合部を、車体構成部材に当接した状態で結合される剛結合部と、車体構成部材に振動減衰部材を介して結合される柔結合部とで構成する構造を発明し、この構成により車体の剛性を高めつつ、振動減衰部材により車体の振動を吸収して車室内への振動の伝達を抑制して乗り心地性を高めることを可能とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開2000−085634号公報
【特許文献2】特開2013−49376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献2において開示した構造すなわち前記補強体と車体構成部材との接合部を、互いに当接した状態で結合された剛結合部と、振動減衰部材を介して結合された柔結合部とで構成する構造についてさらに研究を重ねた結果、この構造により車体の振動を低減することができるものの、その低減効果が、振動減衰部材の形状等により種々に変化し、この形状等によっては効果的に振動を低減できない場合があることを突き止めた。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、より確実に車体の振動を効果的に低減することのできる車両の車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究の結果、以下のことを発見した。
【0008】
すなわち、本発明者らは、補強体と車体構成部材との接合部を、車体構成部材に当接した状態で結合された剛結合部と、振動減衰部材を介して結合された柔結合部とで構成した構造において、車体構成部材の種類や形状によらず、振動低減効果と振動減衰部材の貯蔵せん断剛性との間に一様の関係が存在すること、および、減衰部材の貯蔵せん断剛性が所定値の場合(具体的には8000N/mm付近)において振動低減効果が最大となり、貯蔵せん断剛性がこの所定値よりも小さくなるほど、および、大きくなるほど振動低減効果が小さくなることを発見した。そして、振動低減効果を少なくとも最大効果量の半分以上確保するためには、貯蔵せん断剛性を800N/mmから57500N/mmの範囲内におさめる必要があることを突き止めた。
【0009】
そこで、この発見に基づき、本発明者らは、貯蔵せん断剛性が前記条件を満足する車体の車両構造を創作した。
【0010】
すなわち、本発明は、閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材を有する車両の車体構造であって、前記閉断面部内に配設される補強体を備え、前記補強体は、前記車体構成部材に接合される接合部を有し、前記接合部は、前記車体構成部材に当接した状態で結合された剛結合部と、振動減衰部材を介して結合された柔結合部とで構成されており、前記振動減衰部材は、その貯蔵せん断剛性KB´が800N/mm<KB´<57500N/mmを満たすように構成されていることを特徴とする車両の車体構造ことを特徴とする(請求項1)。
【0011】
この発明によれば、減衰部材の貯蔵せん断剛性KB´が800N/mm<KB´<57500N/mmとされることで、車体構成部材の種類や形状によらず、振動低減効果を、この減衰部材を設けることにより得られる最大量の少なくとも半分以上確保することができ、より確実に車体の振動を低減して乗り心地性を高めることができる。
【0012】
本発明において、前記振動減衰部材は、その貯蔵せん断剛性KB´が2200N/mm<KB´<20000N/mmを満たすように構成されているのが好ましい(請求項2)。
【0013】
このようにすれば、振動減衰部材を設けたことで振動が低減したことを複数の乗員のほぼ全員が実感できるレベルにまで振動を低減することができ、乗員が体感する乗り心地性を確実に高めることができる。
【0014】
ここで、本発明者らは、振動減衰部材における前記車体構成部材と接触する面の面積をAb、この接触面と直交する方向の振動減衰部材の厚みをTb、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性率をG´としたとき、前記貯蔵せん断剛性KB´は簡易的にKB´=G´×Ab/Tbで表すことができることを突き止めた。従って、貯蔵せん断剛性率G´の振動減衰部材について、その厚みTbおよび振動減衰部材と車体構成部材とが接触する面の面積Abを、上記式を満足するように設定すれば、貯蔵せん断剛性を前記のように効果的に振動低減できる値にすることができ、高い乗り心地性を確保することができる(請求項3)。
【0015】
ここで、補強体の具体的構造としては、前記接合部は、前記車体構成部材の内側面と対向する面をそれぞれ有する複数のフランジ部からなり、前記複数のフランジ部の一つが、前記柔結合部として設定されており、残りのフランジ部は、前記剛結合部として設定されているものが挙げられる(請求項4)。
【0016】
この構造によれば、剛結合部において車体の剛性を確保しつつ、柔結合部において振動を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、より確実に車体の振動を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の車両の車体構造が適用された車両の車室前部のフレーム構造の一例を示す図である。
【
図2】内側にバルクヘッドが配設されたサイドシルの構造を示す図である。
【
図6】振動減衰部材の貯蔵せん断剛性と振動低減効果との関係を示す図である。
【
図7】振動減衰部材の貯蔵せん断剛性と振動低減量との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本発明の車両の車体構造が適用された車両の車室前部のフレーム構造の一例を示す図である。この
図1に示すように、車両1には、複数のフレーム、例えば、サイドシル2、No.2クロスフレーム(クロスメンバ)4、フロアフレーム6等が配設されている。そして、これらフレームの多数は、1または2以上の車体の構成部材によって内側に閉断面部を有する構造とされている。例えば、
図2に示すように、サイドシル2は、その車体内側部分を構成するサイドシルインナ(車体の構成部材)2aと、その車体外側部分を構成するサイドシルアウタ2b(車体の構成部材)と、これらサイドシルインナ2aとサイドシルアウタ2bとの間に配設されるサイドシルレイン2c(車体の構成部材)とで構成されており、これらによってサイドシルの内側には閉断面部2d,2eが形成されている。
【0021】
本発明者らは、特開2013−49376号公報に開示したように、車体の剛性を高めつつ車体の振動を吸収して車室内への振動の伝達を抑制できる構造として、車体構成部材で形成された閉断面部内にバルクヘッド(補強体)を配設するとともに、バルクヘッドのうち車体構成部材に接合させる接合部を、車体構成部材に当接した状態で結合される剛結合部と、車体構成部材に振動減衰部材を介して結合される柔結合部とで構成する構造を発明した。
【0022】
例えば、
図2の例では、サイドシルインナ2aとサイドシルレイン2cとによって形成された略四角形の閉断面部2d内に、バルクヘッド(補強体)10を配設し、このバルクヘッド10のうちサイドシルインナ2aおよびサイドシルレイン2cの内側面と接合される部分(接合部)の一部を、これら内側面に溶接により結合するとともに、他部をこれら内側面に振動減衰部材を介して結合する。
図3にバルクヘッド10の概略構成図を示す。この
図3および
図2に示すように、バルクヘッド10を、閉断面部2dの少なくとも一部を塞ぐようにこの断面方向に延びる略五角形の仕切り面部11と、この仕切り面部11の4つの辺から仕切り面部11と略直交する方向にそれぞれ突出してサイドシルインナ2aおよびサイドシルレイン2cの内側面と対向する面をそれぞれ有する4つのフランジ部12(12a〜12d)とで構成する。そして、1つのフランジ部12aと前記内側面(
図2の例では、サイドシルインナ2aの内側面)とを、これらの間に振動減衰部材20を介在させてこの振動減衰部材20により結合させる。一方、残りのフランジ部12b〜12dと前記内側面とを、互いに当接させた状態でスポット溶接により結合させる。
図2において、×の記号は、スポット溶接されていることを示すものである。
【0023】
この構造によれば、剛結合部(スポット溶接)によってバルクヘッドと車体構成部材(サイドシルインナ、サイドシルレイン等)とが強固に接合されることで、車体全体の剛性を高めることができるとともに、柔結合部において振動減衰部材によって車体構成部材の振動が減衰されるため、車室内の乗員への振動の伝達を抑制することができる。
【0024】
しかしながら、本発明者らは、前記構造についてさらなる研究を行った結果、前記構造において、振動減衰部材の形状等によっては、振動低減効果を効果的に得られない場合があることを突き止めた。詳細には、振動減衰部材の損失係数はその貯蔵弾性率によって変化するためこの振動減衰部材の貯蔵弾性率に応じて得られる振動低減効果が変化することはある程度分かっていたが、この振動減衰部材の物性が同一であっても振動減衰部材の形状が異なることで振動低減効果が変化することを突き止めた。
【0025】
なお、損失係数とは、粘弾性体(変形速度に対して力を発生する性質である粘性と、変形の大きさに対して力を発生する性質である弾性とを併せもつ材料)の動的な特性を示す指標であり、(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)で定義される値である。また、貯蔵弾性率とは、粘弾性体における弾性的な性質に由来するものであり、粘弾性体に正弦波変形を与えた場合の応力−歪線図において、(最大歪時の応力)/(最大歪)で定義される値である。一方、損失弾性率とは、粘弾性体における粘性的な性質に由来するものであり、粘弾性体に正弦波変形を与えた場合の応力−歪線図において、(ゼロ歪時の応力)/(最大歪)で定義される値である。
【0026】
この点について、本発明者らは、振動減衰部材の物性すなわち貯蔵弾性率に加えて、振動減衰部材の形状を種々変化させて、これらと振動低減効果との関係を調べた。
【0027】
具体的には、前記構造をモデル化して、振動減衰部材の物性と形状とを種々変化させた際の振動低減量を複数のフレーム形状についてシミュレーションにより調べた。
【0028】
ここでは、
図4に示すようなモデルを構築した。具体的には、フレーム50は、所定の方向にそれぞれ延びる第1車体構成部材51と第2車体構成部材52とで構成されている。第1車体構成部材51は平板状であり、第2車体構成部材52は第1車体構成部材51に向かって開口する断面ハット状である。これら車体構成部材51、52により、フレーム50の内側には略四角形状の閉断面部50aが形成されている。また、この例では、フレーム50内に、車体構成部材51、52の長手方向に互いに離間した状態で、2つのバルクヘッド60,60が配設されている。各バルクヘッド60は、略四角形状の仕切り部61と、この仕切り部の各辺から垂直に突出してフレーム50の内側面に沿って延びる4つのフランジ部62(62a〜62d)とで構成されている。そして、1つのフランジ部(第1フランジ部)62aの第1車体構成部材51の内側面と対向する面に振動減衰部材70が塗布されてこれにより第1フランジ部62aと第1車体構成部材51とが柔接合されており、残りのフランジ部62b〜62dと第2車体構成部材52の内側面とが各フランジ部62b〜62dの中央部分SWにおいてスポット溶接されている。
【0029】
そして、このように構築されたモデルにおいて、フレーム50のうち閉断面部の所定の角部を加振点P1とし、フレーム50のうちその長手方向についてバルクヘッド60,を挟んで加振点P1と反対側の部分の閉断面部の所定の角部を応答点P2として、加振点P1に所定の周波数の振動を加えた際の応答点P2におけるイナータンス(単位加振力当たりの加速度振幅の大きさ)を、振動減衰部材の物性、振動減衰部材の形状およびフレーム形状を種々に変化させてシミュレーションした。ここでは、主要な車体骨格振動に近い周波数である30Hzの振動を加えた場合についてシミュレーションした。また、20度を温度条件として与えた。また、前記振動減衰部材70の形状については、振動減衰部材70の厚みTb(第1フランジ部62aと第1車体構成部材51との間の距離、
図5参照)と、振動減衰部材70の塗布面71(第1車体構成部材51との接触面)の縦方向の長さL1と横方向の長さL2(
図5参照)とを、それぞれ変化させた。
【0030】
前記シミュレーションの結果について、詳細に解析した結果、本発明者らは、振動減衰部材の物性と振動減衰部材の形状とを振動減衰部材の貯蔵せん断剛性というパラメータにまとめれば、この貯蔵せん断剛性によって振動低減効果の変化を表すことができること、すなわち、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性と振動低減効果との間に高い相関があることを発見した。さらに、この関係が、フレームの形状によらずほぼ一様であることを発見した。
【0031】
図6は、横軸を振動減衰部材の貯蔵せん断剛性KB´とし、縦軸を振動低減効果としたグラフである。ここで、貯蔵せん断剛性KB´とは、粘弾性体における弾性的な性質に由来するものであって粘弾性体の物性および形状を含めたトータルの弾性的な性質を表すものであり、粘弾性体に正弦波変形を与えた場合の荷重―変位線図において、(最大変位時の荷重)/(最大変位)で定義される値である。この貯蔵せん断剛性KB´は、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性率G´、厚みTb、振動減衰部材の塗布面の縦方向の長さL1、横方向の長さL2等、複数のパラメータに応じて変化するが、本発明者らは、貯蔵せん断剛性KB´(N/mm)は、主として、貯蔵せん断剛性率G´(MPa)塗布面の面積Ab(mm
2、Ab=L1×L2、)と振動減衰部材の厚みTb(mm)とによって変化し、貯蔵せん断剛性KB´は、KB´=G´×Ab/Tbで簡易的に表せることを突き止めた。従って、
図6の横軸は、KB´=G´×Ab/Tbで定義される値とほぼ同じ値である。
【0032】
図6の縦軸の振動低減効果は、振動減衰部材を設けることによって得られる振動低減量の最大値を100%とし、この最大値に対する各振動低減量の割合を示している。なお振動低減量は、振動減衰部材を有しないフレームのイナータンスと、振動減衰部材を有するフレームのイナータンスとの差である。また、
図6において、各ラインは異なるフレームについての値である。具体的には、ラインF1はフレーム形状をサイドシルに相当する形状とした場合、ラインF2は第2クロスフレームとした場合、ラインF3はフロアフレームにとした場合、ラインF4はトンネルサイドフレームとした場合の値である。
【0033】
この
図6に示されるように、振動低減効果は、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性と高い相関にあり、しかも、これらの関係はフレーム形状によらずほぼ一様となる。具体的には、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性KB´が8000N/mm付近において振動低減効果は最大となり、貯蔵せん断剛性KB´がこの値よりも小さくなるほど、また、大きくなるほど、振動低減効果は小さくなっていく。これは、貯蔵せん断剛性KB´が小さいと振動に伴って振動減衰部材が容易に変形してしまい振動減衰部材による振動エネルギーの吸収量が低減するため、そして、貯蔵せん断剛性KB´が大きいと振動に伴う振動減衰部材の変形が困難となりこの変形による振動エネルギーの吸収が低減するためと考えられる。
【0034】
図7は、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性KB´を70857N/mmとした場合と、10857N/mmとした場合の、振動低減量を調べた実験結果である。この
図7に示されるように、実験によっても、貯蔵せん断剛性KB´が所定値を超えると小さくなることが示された。
【0035】
前記知見に基づき、本発明の実施形態に係る車両の車体構造では、前述のように、フレーム部材の内側に形成される閉断面部すなわち1または2以上の車体構成部材により形成される閉断面部内に設けたバルクヘッドの1のフランジ部を、振動減衰部材を介して車体構成部材の内側面に柔結合させて、他のフランジ部をこの内側面にスポット溶接するとともに、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性KB´を800N/mm<KB´<57500N/mmを満たすように構成する。
【0036】
この800N/mm〜57500N/mmという範囲は、
図6に示されるように、振動低減効果を少なくとも最大効果の半分(50%)以上確保できる範囲である。そのため、このようにすれば、確実に振動低減効果を得ることができる。もちろん、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性KB´を8000N/mm付近とすれば、振動低減効果を最大限得ることができる。そのため、この貯蔵せん断剛性KB´を8000N/mmとできれば、より好ましい。しかしながら、実際には、振動減衰部材をフランジ部に塗布する際に塗布ばらつきによって振動減衰部材の厚みTbにばらつきが生じてしまい、貯蔵せん断剛性がばらついてしまう。例えば、塗布ばらつきとして厚みTbに±1.5mm程度のばらつきが生じることが考えられるが、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性率と塗布面の面積とを所定の値に設定すれば、厚みTbが前記のようにばらついても、800N/mm<KB´<57500N/mmの範囲で確保することが可能となる。このように、塗布ばらつきがあった場合でも、異なるフレーム、異なる車両において、一様に、最大効果の半分以上の効果を確保することができる。
【0037】
また、本発明者らは、前記構造を有する車両において、複数の乗員に振動低減の効果を体感させたところ、振動低減効果が最大効果の75%以上あれば、ほぼ全員の乗員が、振動が低減したことを実感できるとの結果を得た。従って、振動減衰部材の貯蔵せん断剛性KB´を、振動低減効果が最大効果の75%以上となる値、すなわち、2200N/mm<KB´<20000N/mmとするのが好ましい。
【0038】
ここで、前述のように、貯蔵せん断剛性KB´は、KB´=G´×Ab/Tbで簡易的に表すことができる。従って、振動減衰部材として、その厚みTbすなわちフランジ部(バルクヘッド)から車体構成部材に向かう方向の厚みTbと、塗布面の面積Aすなわち車体構成部材の内側面と接触する面の面積Aとが、前記範囲に設定された貯蔵せん断剛性KB´に対して、KB´=G´×Ab/Tbを満たすように設定されていれば、高い振動低減効果を確保することができる。
【符号の説明】
【0039】
2d 閉断面部
10 バルクヘッド
12 フランジ部
20 振動減衰部材
50 閉断面部
60 バルクヘッド
62 フランジ部
70 振動減衰部材