(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態に係る熱間プレス用金型1は、
図1に示すように、被成形面の法線方向が荷重付加方向と交差する方向となる被成形面(縦壁部17b)を有するハット断面形状部材17(
図2参照)を、加熱した鋼板3(
図3参照)をプレス成形する金型である。
ここで、被成形面とはプレス成形時において金型によって成形される鋼板3の面であり、成形面とは該被成形面を成形する金型の面である。
なお、本実施の形態では熱間プレス用金型1とハット断面形状部材17はともに左右対称であるため、
図1においては右半分のみを図示している。また、
図1においては点線の丸で囲んだ部分の拡大図を併記している。
【0014】
本実施の形態では、下死点で金型を成形面に接触させるのが難しい成形品、すなわち被成形面の法線方向が荷重付加方向と交差する方向となる被成形面を有する成形品の例としてハット断面形状部材17を例に挙げている。
そこで、まずハット断面形状部材17の形状を概説し、ハット断面形状部材17が下死点で金型を成形面に接触させにくい理由について説明する。
【0015】
<ハット断面形状部材>
ハット断面形状部材17は、
図2に示すように、天板部17aと、天板部17aの両側に連続するように形成された縦壁部17bと、両側の縦壁部17bの端部に形成されたフランジ部17cとを有している。
ハット断面形状部材17のプレス成形は、
図1中に黒色の太矢印で示すように、例えばダイ9を分割パンチ5に近づける方向に移動させることで行われる。ダイ9の移動方向すなわち荷重付加方向はハット断面形状部材17の縦壁部17bにおける法線L
Wと交差する方向であり、縦壁部17bが本発明の被成形面(被成形面の法線方向が荷重付加方向と交差する方向となる被成形面)に相当する。
その後、ハット断面形状部材17は、下死点において熱間プレス用金型1に接触した状態で保持されて急冷されることで焼入れが行われる。
【0016】
焼入れを行うためには、鋼板3に金型を十分に接触させることが必要である。
しかし、縦壁部17bにおいては、熱間プレス成形中に板厚が減少しやすく、下死点において金型に接触しにくい。
また上述したとおり、ダイ9の移動方向はハット断面形状部材17の縦壁部17bにおける法線L
Wと交差する方向であるために、成形荷重を増加させても、金型を縦壁部17bに強く接触させることが難しい。
【0017】
このように、ハット断面形状部材17を熱間プレス成形する場合、従来のプレス成形金型では、下死点において縦壁部17bに金型を接触させにくく急冷させることができない。
以上のことを踏まえた上で、本発明に係る熱間プレス用金型1についてより詳細に説明する。
【0018】
<熱間プレス用金型>
熱間プレス用金型1は、
図1に示すように、一体型のパンチを幅方向中央で縦に半割した形状の分割パンチ5と、ハット断面形状部材17のフランジ部17cを成形するフランジ成形ダイ7と、分割パンチ5側に移動して分割パンチ5と協働して天板部17a及び縦壁部17bを成形すると共にフランジ成形ダイ7と協働してフランジ部17cを成形するダイ9と、成形時におけるダイ9の成形荷重を、分割パンチ5をダイ側縦壁成形面9bに近づく方向に移動させる駆動力に変換する油圧式動力変換伝達機構11を有している。
以下、熱間プレス用金型1の各構成を
図1に基づいて詳細に説明する。
【0019】
≪分割パンチ≫
分割パンチ5は、天板部17aを成形する天板成形面5aと、縦壁部17bを成形する縦壁成形面5bと、縦壁部17b及びフランジ部17cの境界のR部を成形する境界R成形面5cと、下面と分割パンチ5の幅方向内側面とに亘って傾斜面5d(
図1中の拡大図を参照)とを有している。
【0020】
分割パンチ5は、フランジ成形ダイ7上に幅方向に摺動可能に載置されている。分割パンチ5が幅方向に摺動することで、縦壁成形面5bが該成形面に対向するダイ側縦壁成形面9bに近づく方向に移動して鋼板3を押圧するようになっている。
傾斜面5dの傾斜角度は所定の角度に設定されている。また、分割パンチ5の縦壁成形面と反対側の面5eは、プレス成型前に接触してもよいし、離れていてもよい。
【0021】
≪フランジ成形ダイ≫
フランジ成形ダイ7は、ダイ9と協働してフランジ部17cを成形するフランジ成形面7aと、長手方向に沿って設けられた凹陥部7bとを有している。
凹陥部7bには分割パンチ5が載置されており、凹陥部7bに分割パンチ5を載置した状態で分割パンチ5の境界R成形面5cの下端が、フランジ成形ダイ7のフランジ成形面7aと面一になっている。
凹陥部7bの幅は分割パンチ5の下部の幅よりも広くなっており、凹陥部7bの幅方向中央に分割パンチ5を載置した状態(分割パンチ5の幅方向内側面を凹陥部7bのほぼ中央に位置させた状態)で凹陥部7bの壁面と分割パンチ5とに隙間Sが形成される。そのため、分割パンチ5はこの隙間Sの分だけ幅方向外側に摺動可能になっている。
【0022】
≪ダイ≫
ダイ9は、分割パンチ5の天板成形面5aと協働して天板部17aを成形するダイ側天板成形面9aと、分割パンチ5の縦壁成形面5bと協働して縦壁部17bを成形するダイ側縦壁成形面9bと、フランジ成形ダイ7と協働してフランジ部17cを成形するフランジ成形部9cと、フランジ成形部9cの外側に下に凸に設けられた凸部9dとを有している。
凸部9dの高さhは、所定の高さに設定されている。
【0023】
プレス成形は、
図1中に黒太矢印で示すように、ダイ9が分割パンチ5に近づく方向に移動することで行われる。このように、ダイ9の移動方向、つまり、ダイ9の成形荷重方向は、ハット断面形状部材17の縦壁部17bの法線L
Wと交差する方向(
図1の例では、ダイ9の成形荷重方向と法線L
Wのなす角度は90度に近い)である。
そのため、ダイ9の成形荷重方向に直交する天板部17aやフランジ部17cは、下死点においてダイ9の押圧力によって金型に接触させることができるが、縦壁部17bは成形荷重を増しても金型に接触させることが難しい。
そこで、本発明では、油圧式動力変換伝達機構11によって分割パンチ5の縦壁成形面5bをダイ9のダイ側縦壁成形面9bに近づく方向に移動させ、縦壁部17bを金型(パンチ5の縦壁成形面5b、ダイ9のダイ側縦壁成形面9b)に確実に接触させて十分に冷却することができるようにした。以下に、油圧式動力変換伝達機構11について詳細に説明する。
【0024】
≪油圧式動力変換伝達機構≫
油圧式動力変換伝達機構11は、本発明の動力変換伝達機構の一態様であり、成形時におけるダイ9の成形荷重を、分割パンチ5の縦壁成形面5bをダイ9のダイ側縦壁成形面9bに近づく方向に移動させる駆動力に変換するものである。
油圧式動力変換伝達機構11は、下死点付近においてダイ9の成形荷重を受ける荷重受け部となる第1油圧ピストン12と、作動油13が充填された油圧配管14と、油圧配管14における第1油圧ピストン12が設置された端部と反対側の端部に設置された第2油圧ピストン15と、第2油圧ピストン15から受ける荷重を分割パンチ5の傾斜面5dに伝達するカム16を備えている。
以下に、油圧式動力変換伝達機構11の各構成を
図1に基づいて詳細に説明する。
【0025】
第1油圧ピストン12は油圧配管14の一端に上下動可能に配置されており、プレス成形下死点付近において凸部9dによって押し下げられる。
作動油13は、第1油圧ピストン12がダイ9の凸部9dから受けた荷重を、他端側に設置された第2油圧ピストン15に伝達するための機能を有している。
油圧配管14における第1油圧ピストン12が設置されているシリンダ部の断面積は、第2油圧ピストン15が設置されているシリンダ部の断面積よりも大きく設定されており、第1油圧ピストン12の下動量よりも第2油圧ピストン15(カム16)の上動量が大きくなるようになっている。このように、第1油圧ピストン12と第2油圧ピストン15が設置されるシリンダ部の断面積に差を設けることで、第1油圧ピストン12の下動量に対する第2油圧ピストン15の上動量を調整でき、これによってカム16の上動量ひいては分割パンチ5の幅方向移動量を調整できる。
【0026】
カム16は、長手方向直交断面が三角形状の棒状体からなり、該三角形の傾斜面(カム側傾斜面16a、
図1中の拡大図を参照)が分割パンチ5の傾斜面5dと摺接するようになっている。
カム16は、フランジ成形ダイ7の長手方向に沿って、幅方向中央に上下動可能に設けられている。カム16が上動すると、カム側傾斜面16aと分割パンチ5の傾斜面5dとが接触し、分割パンチ5が拡幅方向の力を受けて、フランジ成形ダイ7の凹陥部7b上を拡幅方向へ移動する。
【0027】
油圧式動力変換伝達機構11は以上のような構成であるから、成形時におけるダイ9の成形荷重を、分割パンチ5の縦壁成形面5bをダイ9のダイ側縦壁成形面9bに近づく方向に移動させる駆動力に変換して、分割パンチ5の縦壁成形面5bを縦壁部17bに押付けることができる。
【0028】
なお、上記から明らかなように、油圧式動力変換伝達機構11の各構成のうち、第1油圧ピストン12が本発明の荷重受け部に相当し、作動油13及び油圧配管14が動力変換部に相当し、第2油圧ピストン15及びカム16が駆動力伝達部に相当する。
【0029】
プレス成形中においては、鋼板3における縦壁部17bに相当する部分の板厚は最大で25%減少することが想定されるので、縦壁成形面5bのダイ側縦壁成形面9b側への移動量は、減少前板厚をtmmとすると、少なくとも(0.25t)mm以上にすることが望ましい。
また、油圧配管14の途中に流量調整用あるいは圧力調整用バルブを設けて縦壁成形面5bの移動量を調整することも可能である。
【0030】
<熱間プレス成形方法>
上記のように構成された熱間プレス用金型1を用いた熱間プレス成形方法について、熱間プレス用金型1の動作と共に説明する。
本発明の一実施の形態にかかる熱間プレス成形方法は、オーステナイト域まで加熱したプレス成形前の鋼板3を、熱間プレス用金型1を用いてオーステナイト温度域でプレス成形を開始して成形を行う成形工程と、下死点近傍において分割パンチ5を移動させて鋼板3に分割パンチ5を当接させる分割パンチ当接工程と、分割パンチ5を鋼板3に当接させた状態で保持して鋼板3を冷却する冷却工程とを備えている。
以下、各工程について説明する。
【0031】
≪成形工程≫
成形工程は、熱間で鋼板3をハット断面形状部材17にプレス成形する工程である(
図3(a)参照)。
所定の形状にブランキングした鋼板3を、予め、加熱炉や通電加熱装置などの加熱手段によってオーステナイト域温度まで加熱しておく。
加熱後の鋼板3をプレス成形装置に搬送して、分割パンチ5の上面に載置し、オーステナイト温度域でプレス成形を開始する。
【0032】
≪分割パンチ当接工程≫
分割パンチ当接工程は、下死点近傍において分割パンチ5を移動させて、鋼板3におけるハット断面形状部材17の縦壁部17bに相当する部分に分割パンチ5を当接させる工程である。
ここで下死点近傍とは、下死点の数mm手前まで熱間プレス成形が進んだ状態をいい、この状態でダイ9の凸部9dによって第1油圧ピストン12の押し下げが開始される。第1油圧ピストン12が下動すると、第2油圧ピストン15(カム16)が上動し、これに伴って分割パンチ5が幅方向に移動開始する(
図3(b)参照)。このようにして、
図3(c)に示すように、下死点において分割パンチ5の縦壁成形面5b(符号は
図3(a)を参照)が鋼板3の縦壁部17bに相当する部分に強く当接し、急冷されて焼きが入る。
【0033】
≪冷却工程≫
冷却工程は、分割パンチ5を鋼板3に当接させた状態で、マルテンサイト変態が完了するまでの所定時間保持して鋼板3を冷却する工程である(
図3(c)参照)。
このようにして、天板部17aやフランジ部17cはもとより、縦壁部17bのような従来方法では焼入れしにくい部分にも十分に焼入れをすることができる(符号は
図2を参照)。
冷却後は離型して成形品を取り出す。
【0034】
以上のように、本実施の形態においては下死点近傍において分割パンチ5が縦壁成形面5bのダイ側縦壁成形面9bに近づく方向に移動させることにより、下死点において分割パンチ5の縦壁成形面5bを縦壁部17bに当接させて急冷することが可能となり、縦壁部17bにおいて十分に焼入れをすることができる。
【0035】
なお、上記ではダイ9が分割パンチ5に近づく方向に移動する例を挙げて説明したが、分割パンチ5がダイ9に近づくように移動させてもよい。
【0036】
上記では、動力変換伝達機構として油圧を利用したものを例に挙げたが、動力変換伝達機構はこれに限られない。例えば、油圧の他に水圧や空圧を利用するようなものであってもよい。また、上記のような流体の圧力を利用するようなものではなく、例えば、ウォーム歯車(ウォームとウォームホイール)、かさ歯車や、ラックとピニオン等を用いてダイの成形荷重を、分割パンチ5の移動のための駆動力に変換するようなものであってもよい。
【0037】
機械式の動力変換伝達機構の一例として、ウォーム歯車とかさ歯車を用いた機械式動力変換伝達機構23について
図4及び
図5に基づいて説明する。
図4は、機械式動力変換伝達機構23を用いた熱間プレス用金型21を図示したものである。なお、
図4において、
図1の熱間プレス用金型1と同様のものには同一の符号を付しており、その説明を省略する。また、
図4においては機械式動力変換伝達機構23の一部を簡略化して丸で図示おり、
図5においてこの部分を詳細に図示している。
【0038】
機械式動力変換伝達機構23は、
図4及び
図5に示すように、上下動可能に立設し下端に入力側ウォーム25aを有する入力軸25と、入力側ウォーム25aに対応する入力側かさ歯車付きウォームホイール27と、一端に入力側かさ歯車付きウォームホイール27に対応する入力側伝達かさ歯車29a及び他端に出力側伝達ウォーム29bを有する伝達軸29と、出力側伝達ウォーム29bに対応する出力側ウォームホイール31と、上下動可能に立設し下端に出力側ウォームホイール31に対応する出力側ウォーム33aを有する出力軸33と、カム16(
図1や
図4参照)とを備えている。なお、
図5においてカム16の図示は省略している。
入力軸25の上端はダイ9の凸部9dによって押し下げ可能なように配置されており、カム16は出力軸33の上端に取り付けられている。その他の構成は上述した熱間プレス用金型1と同様である。
【0039】
なお、機械式動力変換伝達機構23の各構成のうち、入力軸25が本発明の荷重受け部に相当し、入力側ウォーム25aと入力側かさ歯車付きウォームホイール27と入力側伝達かさ歯車29aと伝達軸29と出力側伝達ウォーム29bと出力側ウォームホイール31と出力側ウォーム33aとが動力変換部に相当し、出力軸33とカム16が駆動力伝達部に相当する。
【0040】
プレス成形下死点近傍において入力軸25がダイ9の凸部9dによって押し下げられると、入力側ウォーム25aによって入力側かさ歯車付きウォームホイール27が回転し、これに伴って入力側伝達かさ歯車29a、伝達軸29及び出力側伝達ウォーム29bが回転し、さらに出力側ウォームホイール31が回転することで、出力側ウォーム33aによって出力軸33が上動するようになっている。
このようにして、ダイ9による成形荷重がカム16を介して分割パンチ5に伝達される。
なお、入力軸25の下動量に対する出力軸33の上動量は、例えば、出力側ウォームホイール31と入力側かさ歯車付きウォームホイール27との径を異なるようにすることで調整することができる。
【0041】
機械式の動力変換伝達機構の他の例として、ラックとピニオンを用いた機械式動力変換伝達機構41を
図6に示す。
機械式動力変換伝達機構41は、上下方向にスライド可能に立設された入力側ラック43と、入力側ラック43のスライドによって回転する入力側ピニオン45と、入力側ピニオン45の回転によってスライドする伝達ラック47と、伝達ラック47のスライドによって回転する出力側ピニオン49と、出力側ピニオン49の回転によって上下方向にスライドする出力側ラック51と、カム16(
図1や
図4参照)とを備えている。なお、
図6においてカム16の図示は省略している。
入力側ラック43の上端はダイ9の凸部9dによって押し下げ可能なように配置されており、カム16は出力側ラック51の上端に取り付けられている。
【0042】
なお、機械式動力変換伝達機構41の各構成のうち、入力側ラック43が本発明の荷重受け部に相当し、入力側ラック43(荷重受け部を兼ねている)と入力側ピニオン45と伝達ラック47と出力側ピニオン49とが動力変換部に相当し、出力側ラック51とカム16が駆動力伝達部に相当する。
【0043】
プレス成形下死点近傍において入力側ラック43がダイ9の凸部9dによって押し下げられると、入力側ピニオン45が回転して伝達ラック47がスライドし、さらに出力側ピニオン49が回転することで、出力側ラック51が上動するようになっている。
このようにして、ダイ9の成形荷重がカム16を介して分割パンチ5に伝達される。
なお、入力側ラック43の押し下げ量に対する分割パンチ5の移動量は、例えば、出力側ピニオン49と入力側ピニオン45との径を異なるようにすることで調整することができる。
【0044】
機械式の動力変換伝達機構のさらに他の例として、テコを用いた機械式動力変換伝達機構55について
図7に基づいて説明する。
図7は、機械式動力変換伝達機構55を有する熱間プレス用金型53を図示したものである。なお、
図7において、
図1の熱間プレス用金型1や
図4の熱間プレス用金型21と同様のものには同一の符号を付しており、その説明を省略する。
【0045】
機械式動力変換伝達機構55は、
図7に示すように、上下動可能に立設した作動側リンク部材57と、棒状からなり支点59aを中心に回動可能に設けられ一端が作動側リンク部材57の下端と当接する回動部材59と、上下動可能に立設し下端が回動部材59の他端と当接する従動側リンク部材61と、カム16(
図4参照)とを有している。
作動側リンク部材57の上端はダイ9の凸部9dによって押し下げ可能なように配置されており、カム16は従動側リンク部材61の上端に取り付けられている。その他の構成は上述した熱間プレス用金型1及び熱間プレス用金型21と同様である。
【0046】
なお、機械式動力変換伝達機構55の各構成のうち、作動側リンク部材57が本発明の荷重受け部に相当し、作動側リンク部材57と回動部材59(支点59a)とが動力変換部に相当し、従動側リンク部材61とカム16とが駆動力伝達部に相当する。
【0047】
プレス成形下死点近傍において作動側リンク部材57がダイ9の凸部9dによって押し下げられると、回動部材59が支点59aを中心に回動し従動側リンク部材61が上動するようになっている。このようにして、ダイ9の成形荷重がカム16を介して分割パンチ5に伝達される。
なお、分割パンチ5の移動量は、例えば回動部材59の支点59aの位置を変更することで調整することができる。
【0048】
なお上記では、分割パンチ5が幅方向に移動するものを例に挙げて説明したが、分割パンチ5の移動方向は、分割パンチ5が鋼板3を押圧する方向であればよく、例えば、高さ方向や法線L
W方向に移動するようにしてもよい。このような場合であっても、分割パンチ5の境界R成形面5cの下端とフランジ成形ダイ7のフランジ成形面7aとが、下死点において面一になるように、これらの高さを設定しておく。
【実施例1】
【0049】
本発明の熱間プレス用金型1を用いた熱間プレス成形方法の効果を確認する実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
本実施例においては、本発明例として
図1に示す熱間プレス用金型1を用いたプレス成形を行った。
鋼板は熱間プレス用鋼板の板厚1.6mmとした。プレス成形品は
図2に示すハット断面形状部材17とした。ハット断面形状部材17の長さは400mm、天板部17aの幅は80mm、縦壁部17bの高さは60mm、フランジ部17cの幅は片側15mmとし、パンチ肩R、ダイ肩Rともに5mmとした。
【0050】
鋼板を電気加熱炉でAr
3変態点以上である750℃まで加熱した後、プレス成形装置に搬送し、オーステナイト域で熱間プレス成形を開始して(プレス成形工程)、下死点において所定時間(下死点保持時間)保持して冷却した(冷却工程)。
冷却工程においては、本発明例では、上記実施の形態で説明したように、下死点において縦壁成形面5bを縦壁部17bに当接させて急冷した。下死点保持時間の違いによる影響を確認するために、下死点保持時間を5秒、10秒、15秒、20秒とした。
冷却後は離型して成形品を取り出した。
また、比較例として
図1に示す熱間プレス用金型1の油圧式動力変換伝達機構11を取り除き、分割パンチ5が移動しないようにして同様のプレス成形を行った。
【0051】
焼入れ度合いは、長手方向の中央でハット断面形状部材17を切断し、断面のビッカース硬度(荷重50g)を複数箇所で測定して、該各測定値に基づいて判定した。
測定は
図8に示す位置(a)〜位置(n)の14箇所で行った。なお、
図8はハット断面形状部材17の断面の半分のみを図示している。
天板部17aにおいて、位置(a)は天板部17aの中央、位置(e)はパンチ肩Rが平坦になる位置、位置(b)〜位置(d)は、位置(a)と位置(e)の間を4等分する位置である。
位置(f)はパンチ肩Rの中央である。
縦壁部17bにおいて、位置(g)はパンチ肩RのR止まりの位置、位置(k)はダイ肩RのR止まりの位置、位置(h)〜位置(j)は、位置(g)と位置(k)の間を4等分する位置である。
位置(l)はダイ肩R中央である。
フランジ部17cにおいて、位置(m)はダイ肩RのR止まりの位置、位置(n)は位置(m)とフランジ端の中央である。
【0052】
下死点保持時間20秒の場合における本発明例と比較例についての測定結果を
図9に示す。
図9において、縦軸がビッカース硬度を表し、横軸が測定位置を表しており、黒丸のプロットが本発明例、白丸のプロットが比較例をそれぞれ表している。
本実験では、ビッカース硬度440を合格基準値とした。
【0053】
比較例の場合、
図9に示す通り、縦壁部17bの位置(h)〜位置(j)でビッカース硬度が基準値を下回っており、縦壁部17bの下死点保持中の冷却速度が遅く焼入れが不十分であった(徐冷された)ことを意味している。
一方、本発明例の場合、
図9に示す通り、位置(a)〜位置(n)の全てにおいて、ビッカース硬度が基準値の440を上回っており、縦壁部17bの焼入れが十分であったことを意味している。
【0054】
以上のように、本発明を適用することで縦壁部17bを急冷することが可能となり十分に焼入れをすることができ、好適であった。
【0055】
次に、下死点保持時間とビッカース硬度の関係について説明する。
図10は縦壁部17b(位置(h)〜位置(j))のビッカース硬度と下死点保持時間との関係をグラフ表示したものであり、縦軸はビッカース硬度、横軸は下死点保持時間[秒]をそれぞれ表している。
グラフ中の黒丸のプロットが本発明例、白丸のプロットが比較例をそれぞれ表している。なお、ビッカース硬度は縦壁部17b(位置(h)〜位置(j))の平均硬度を用いた。
図10に示すように、比較例では、
図9を用いて説明した通り下死点保持時間が20秒の場合であっても基準のビッカース硬度に至らなかったが、本発明例では20秒の場合はもとより、15秒の場合であっても基準のビッカース硬度を満たす結果となった。
【0056】
以上のように、本発明を適用することで下死点保持時間を短縮させることが可能であり生産性向上にも資することができる。
【実施例2】
【0057】
次に、分割パンチ5で鋼板を押圧することの効果を確認する実験を行ったのでその結果について説明する。
実験は、加熱した試験用鋼板を金型に見立てた一対の工具で両側から挟圧して焼入れをし、焼入れ硬さを計測するというものである。
試験用鋼板はホットプレス用めっき鋼板を用いて、900℃まで加熱し700℃になった時点で工具による挟圧を行った。
焼入れ時間(工具押付け時間)は15秒とし、焼き入れ後にビッカース硬度を計測した。
【0058】
工具は、本発明の熱間プレス用金型1の分割パンチ5に相当する工具として、
図11に示す平坦な挟圧面を有する平坦工具71(隙間なし)を用いた。
図11は平坦工具71で試験用鋼板73を挟圧している状態を示している。なお、平坦工具71を用いたときの面圧は20MPaとした。
また、比較のために、
図12に示すような、挟圧面に所定深さの凹陥部75aが形成されており、挟圧時に隙間が形成される隙間用工具75を用いた。凹陥部75aの深さは0.05mm、0.1mm、0.15mm、0.2mm、0.25mmとした。
図12は、凹陥部75aの深さが0.05mmの隙間用工具75で試験用鋼板73を挟圧している状態を示している。
図12に示すように、凹陥部75aは両方の工具に設け、両方の凹陥部75aの深さを足し合わせた量を隙間量(mm)とした。
図12に示すものの場合、隙間量は0.1mmである。
以上のように、隙間量は、平坦工具71を用いた場合の0mm(隙間なし)、及び隙間用工具75を用いた場合の0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mmとした。
【0059】
実験結果を
図13に示す。
図13において、縦軸はビッカース硬度を表し、横軸は隙間量(mm)を表している。
図13に示すように、隙間量が0.1mm以上では、隙間なし(隙間量0mm)の場合よりもビッカース硬度が低下している。
このことから、分割パンチ5で鋼板を隙間なく押圧することで、鋼板が急冷され焼入れ硬さを向上させる効果があることが確認された。
【実施例3】
【0060】
次に、実施例2の平坦工具71と隙間用工具75を用いて、隙間なしの場合と隙間ありの場合とで、焼入れ時間と焼入れ硬さの関係を調査する実験を行ったので、その結果を説明する。
隙間用工具75は隙間量が0.1mmのものを用いた。焼入れ時間(工具押付け時間)は1秒、2秒、3秒、5秒、10秒、15秒とした。平坦工具71を用いたときの面圧は50MPaとした。その他の実験条件は実施例2と同様である。
【0061】
実験結果を
図14に示す。
図14において、縦軸はビッカース硬度を表し、横軸は工具押付け時間(秒)を表している。
図14に示すように、隙間なしの場合、いずれの工具押付け時間であっても450以上のビッカース硬度が得られたのに対し、隙間量0.1mmとした場合では、工具押付け時間が10秒以上でないと450以上のビッカース硬度が得られない。
【0062】
以上のように、短い焼入れ時間で部品全体に必要な焼入れ硬さを得るには隙間がない方がよく、本発明の熱間プレス成形方法を適用することで生産時間の短縮化の効果が得られることが確認された。
【実施例4】
【0063】
次に、実施例2の平坦工具71を用いて、工具押付け面圧と焼入れ硬さの関係を調査する実験を行ったので、その結果を説明する。
工具押付け面圧は、10MPa、20MPa、40MPa、50MPaとした。焼入れ時間(工具押付け時間)は15秒とした。その他の実験条件は実施例2と同様である。
【0064】
実験結果を
図15に示す。
図15において、縦軸はビッカース硬度を表し、横軸は工具押付け面圧(MPa)を表している。
図15に示すように、工具押付け面圧が高いほうがより高いビッカース硬度が得られるが、その影響は小さい。