【実施例】
【0038】
《試料1》
(1)製造
金属塩原料として、アルカリ土類金属塩化物である塩化カルシウムの水和物(CaCl
2・2H
2O)の粉末(アルドリッチ社製C5080)と塩化ストロンチウムの水和物(SrCl
2・6H
2O)の粉末(和光純薬工業社製197−04185)を用意した。
【0039】
各粉末を篩い分けにより粒度−212μmに分級し、モル比が1:1となるように各粉末を秤量、混合した(混合工程)。この際、各粉末の分級、秤量および混合は、水分濃度:0.1%以下の低湿度環境下で行った。
【0040】
こうして得られた混合粉末をその場(in-situ)X線回折測定用のチャンバー(容体)に充填した(充填工程)。密封したチャンバー内を10Pa以下に真空排気しつつ、混合粉末を180℃に加熱した(前処理工程、脱水工程)。この後、室温でチャンバー内圧が200kPaとなるまでアンモニアガスをチャンバー内へ供給した(供給工程)。
【0041】
(2)測定
そのアンモニアガス供給後の粉末(試料1)をX線回折により測定した。得られたX線回折パターンを
図1に示した。また、そのX線回折パターンのプロファイルに基づいて算出した結晶格子体積を
図2に示した。なお、
図1と
図2には、金属塩原料がアンミン錯体となったCaCl
2・8NH
3およびSrCl
2・8NH
3に係るX線回折パターンと結晶格子体積も併せて示した。
【0042】
(3)評価
図1からわかるように、試料1のプロファイルは、CaCl
2・8NH
3またはSrCl
2・8NH
3のプロファイルと類似しているものの、それらとは明らかに回折ピーク位置が相違していた。また
図2からわかるように、試料1の結晶格子体積は、CaCl
2・8NH
3またはSrCl
2・8NH
3の結晶格子体積の中間値となっていた。
【0043】
これらから、試料1は、CaCl
2・8NH
3とSrCl
2・8NH
3の混合物ではなく、それらが複合化した複アルカリ土類金属塩化物のアンミン錯体であるCa
0.5Sr
0.5Cl
2・8NH
3であるといえる。こうして、金属元素の異なる単金属塩の混合粉末にアンモニアを接触させることにより、新たな複金属塩が生成されることが確認された。
【0044】
《試料2》
(1)製造
金属塩原料として、アルカリ土類金属ハロゲン化物である臭化マグネシウムの無水物(MgBr
2)の粉末(アルドリッチ社製360074)とヨウ化マグネシウムの無水物(MgI
2)の粉末(アルドリッチ社製394599)を用意した。
【0045】
各粉末を篩い分けにより粒度−212μmに分級し、モル比が1:1となるように各粉末を秤量、混合した(混合工程)。こうして得られた混合粉末をさらに室温でプレス成形して成形体(15×15×2mm)を得た。各粉末の分級、秤量、混合および成形は、グローブボックスを用いて水分濃度:1ppm以下の低湿度環境下で行った。
【0046】
この低湿度環境下で成形体を化学蓄熱システムに用いる反応器に充填した(充填工程)。この後、室温で内圧が200kPaとなるまでアンモニアを反応器へ供給した(供給工程)。この後、反応器を250℃に加熱し、その内圧を550kPaとして3時間保持した。そして反応器を室温まで降温させ、反応器内を真空排気した。
【0047】
(2)測定・評価
成形体を反応器から取り出し、再度粉砕してX線回折測定を行った。試料1の場合と同様に、試料2のプロファイルは、金属塩原料のアンミン錯体であるMgBr
2・6NH
3またはMgI
2・6NH
3のプロファイルと類似しているものの、それらとは明らかに回折ピーク位置が相違していた。また試料2の結晶格子体積は、MgBr
2・6NH
3またはMgI
2・6NH
3の結晶格子体積の中間値となっていた。
【0048】
これらから、試料2は、MgBr
2・6NH
3またはMgI
2・6NH
3の混合物ではなく、それらが複合化したアルカリ土類金属複ハロゲン化物のアンミン錯体であるMgBrI・6NH
3であるといえる。こうして、ハロゲン元素の異なる単金属塩の混合粉末にアンモニアを接触させることにより、新たな複金属塩が生成されることが確認された。
【0049】
《試料C1》
(1)製造
金属塩原料として、試料1の製造で用いたCaCl
2・2H
2O粉末とSrCl
2・6H
2O粉末を用意した。これらの各粉末を分級せず、入手したままでモル比が1:1となるように秤量、混合した。各粉末の秤量および混合は既述した低湿度環境下で行った。
【0050】
得られた混合粉末を上述したチャンバー(容体)に充填し、室温でチャンバー内圧が200kPaとなるまでアンモニアガスをチャンバー内へ供給した。このチャンバーを70℃に加熱して2時間保持した。
【0051】
(2)測定および評価
こうして得られた粉末(試料C1)を70℃でin-situX線回折により測定した。得られたX線回折パターンを
図3に示した。
図3からわかるように、試料C1の回折ピークは、金属塩原料のアンミン錯体であるCaCl
2・2NH
3とSrCl
2・NH
3の回折ピークに一致した。従って、試料C1はCaCl
2・2NH
3とSrCl
2・NH
3の混合物であり、それらとは異なる複金属塩は殆ど生じないことが確認された。従って、分級されていない金属塩原料からなる粗い混合粉末へアンモニアを供給しても、複金属塩は生成され難いことがわかった。
【0052】
《試料C2》
(1)製造
金属塩原料として、試料1の製造で用いたCaCl
2・2H
2O粉末とSrCl
2・6H
2O粉末を用意した。これらの各粉末を試料1の場合と同様に、分級し、モル比が1:1となるように秤量、混合した。各粉末の秤量および混合は既述した低湿度環境下で行った。得られた混合粉末を上述したチャンバーに充填し、真空排気しつつ、180℃に加熱した。
【0053】
(2)測定および評価
こうして得られた粉末(試料C2)をX線回折により測定した。得られたX線回折パターンを
図4に示した。
図4からわかるように、試料C2の回折ピークは、水和物である金属塩原料が脱水されたCaCl
2とSrCl
2の回折ピークに一致した。従って、試料C2はCaCl
2とSrCl
2の混合物であり、それらの複金属塩とはなっていないことが確認された。つまり、二種以上の単金属塩の混合粉末を単に比較的低温で加熱した程度では、複金属塩が生成されないことが確認された。
【0054】
なお、その試料C2をさらに真空中で600℃で加熱した粉末(試料C2’)についてもX線回折測定を行った。この場合、CaCl
2やSrCl
2とは異なり、Ca
0.5Sr
0.5Cl
2に一致する回折ピークを有するX線回折パターンが得られることが確認された。このことから、アンモニアを用いない場合、二種以上の単金属塩から複金属塩を得るには高温加熱が必要となることがわかった。