特許第6036733号(P6036733)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6036733塗装後耐食性の評価方法および塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法ならびに塗装後耐食性に優れた高強度鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036733
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】塗装後耐食性の評価方法および塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法ならびに塗装後耐食性に優れた高強度鋼板
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20161121BHJP
   G01N 17/02 20060101ALI20161121BHJP
   G01N 27/48 20060101ALI20161121BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20161121BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20161121BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20161121BHJP
   C23C 22/73 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
   G01N27/26 351M
   G01N17/02
   G01N27/48 Z
   !C22C38/00 301T
   !C22C38/58
   !C21D9/46 H
   !C23C22/73 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-54927(P2014-54927)
(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-209102(P2014-209102A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2014年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-63120(P2013-63120)
(32)【優先日】2013年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】原田 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】大塚 真司
(72)【発明者】
【氏名】平 章一郎
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−284780(JP,A)
【文献】 特開2005−213565(JP,A)
【文献】 特開昭60−262982(JP,A)
【文献】 特開平02−221380(JP,A)
【文献】 特開昭59−155749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
G01N 17/02
C23C 22/73−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成として、質量%で、C:0.01〜0.18%、Si:0.4〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物である高強度鋼板の塗装後耐食性を評価する方法であり、化成処理前後の各々の鋼板に対して、掃引速度:0.1〜1mV/s、電流値評価電位:―700〜900mV vs.Ag/AgClの条件でカソード分極を行い、各々のカソード電流値および化成処理前後の前記カソード電流値の減少率を求め、次いで、前記化成処理後の鋼板のカソード電流値が5〜13μA/cm、かつ、前記減少率70%以上を塗装後耐食性良好と判断することを特徴とする塗装後耐食性の評価方法。
【請求項2】
成分組成として、さらに、質量%で、P:0.020%以下、S:0.002%以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗装後耐食性の評価方法。
【請求項3】
成分組成として、さらに、質量%で、B:0.0005〜0.005%、および/または、Al:0.01〜0.1%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.01〜0.8%のうちから選ばれる元素の1種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の塗装後耐食性の評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに、鋼板の製造条件を決定することを特徴とする塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに、研削条件、酸洗条件、巻取温度のいずれか一つ以上を決定することを特徴とする塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項6】
化成処理後の鋼板のカソード電流値が5〜13μA/cm、かつ、カソード電流値の減少率が70%以上であることを特徴とする塗装後耐食性に優れた高強度鋼板。
なお、前記化成処理後の鋼板のカソード電流値および前記カソード電流値の減少率とは、化成処理前後の各々の鋼板に、掃引速度:0.1〜1mV/s、電流値評価電位:―700〜900mV vs.Ag/AgClの条件でカソード分極を行い、各々のカソード電流値を求め、得られる化成処理後の鋼板のカソード電流値および化成処理前後の前記カソード電流値の減少率である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装後耐食性の評価方法および塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法ならびに塗装後耐食性に優れた高強度鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上および自動車の衝突安全性向上の観点から、車体材料の高強度化によって薄肉化を図り、車体そのものを軽量化かつ高強度化するために、高強度鋼板の自動車への適用が促進されている。さらに、自動車用部材の多くは成形加工が施されるため、強度に加えて成形性も要求される。
【0003】
鋼板の強度、成形性を高めるためには、SiやMnの添加が有効である。しかし、連続焼鈍の際にSiやMnは、Feの酸化が起こらない(Fe酸化物を還元する)還元性のN+Hガス雰囲気でも酸化し、鋼板表面から10μm程度の領域(以下、この領域を「鋼板表層」と称することもある)にSiOやSi−Mn系複合酸化物が形成する。これらのSi含有酸化物は化成処理性を著しく低下させる。さらに、電着塗装後に温塩水浸漬試験や複合サイクル腐食試験のような過酷な腐食環境に曝された場合に、通常の鋼板に比べて塗装後耐食性が劣る。
【0004】
上記原因としては、以下の2つの理由が考えられている。
【0005】
第一の理由は、Siを主体とする酸化物が鋼板表面を被覆することにより、鋼板表面上への化成結晶の生成が阻害され、塗膜密着性が低下するというものである。
【0006】
第二の理由は、鋼板表層の結晶粒界に生成したSi含有酸化物が、酸洗などで選択的に除去されることにより、粒界に沿った微小クラックが生成され、その内部においては、化成結晶の生成が起こり難いため、塗装後耐食性が劣化するというものである。
【0007】
上記のいずれも化成結晶の未生成部分が腐食の起点となることで塗装後耐食性の低下を招くことを示している。この結果から、塗装後耐食性に優れた鋼板を得るための製造条件を最適化するためには、短時間かつ正確に化成皮膜欠陥の有無を判断し塗装後耐食性を評価する手法が必要であることがわかる。
【0008】
現在、化成処理鋼板の評価としては、表面観察による化成結晶未生成部分(いわゆるスケ)の確認、リン酸皮膜の析出形態、皮膜重量、以上3項目で評価されることが多い。しかし、例えば、上述したように微小クラックが耐食性劣化の要因となる場合には、微小クラック周辺に化成結晶が成長していると、表面観察では微小クラックが確認できずその評価が困難になり、これらの評価項目だけでは不十分である。
【0009】
化成皮膜の評価方法として、特許文献1には、電気化学的な手法を用い、化成処理鋼板のカソード電流測定により化成皮膜を評価する方法が開示されている。しかしながら、塗装後耐食性に関する検討は行われていない。
【0010】
特許文献2では、化成処理鋼板のカソード電流値が0.05〜80μA/cmとする塗装後耐食性に優れた高強度冷延鋼板が開示されている。しかし、本発明者らが検討を重ねた結果、カソード電流値が上記の範囲内であっても塗装後耐食性が劣化する場合があることが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−221380号公報
【特許文献2】特許第4289163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、塗装後耐食性を簡便に、さらに短時間且つ正確に評価、判定できる塗装後耐食性の評価方法および塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法ならびに塗装後耐食性に優れた高強度鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
検討を重ねた結果、化成処理前後の鋼板のカソード電流値を比較することによって、塗装を行う前に、塗装後耐食性の良否を判断し評価することができることを知見した。
【0014】
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]化成処理前後の各々の鋼板に対してカソード分極を行い、各々のカソード電流値および化成処理前後の前記カソード電流値の減少率を求め、該減少率をもって塗装後耐食性を判断することを特徴とする塗装後耐食性の評価方法。
[2]化成処理前後の各々の鋼板に対してカソード分極を行い、各々のカソード電流値および化成処理前後の前記カソード電流値の減少率を求め、次いで、前記減少率70%以上を塗装後耐食性良好と判断することを特徴とする塗装後耐食性の評価方法。
[3]前記化成処理後の鋼板のカソード電流値が20μA/cm以下を塗装後耐食性良好と判断することを特徴とする前記[2]に記載の塗装後耐食性の評価方法。
[4]前記化成処理後の鋼板のカソード電流値が5〜13μA/cmを塗装後耐食性良好と判断することを特徴とする前記[2]に記載の塗装後耐食性の評価方法。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに、鋼板の製造条件を決定することを特徴とする塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法。
[6]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに、研削条件、酸洗条件、巻取温度のいずれか一つ以上を決定することを特徴とする塗装後耐食性に優れた高強度鋼板の製造方法。
[7]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに製造されることを特徴とする塗装後耐食性に優れた高強度鋼板。
[8]カソード電流値の減少率が70%以上であることを特徴とする塗装後耐食性に優れた高強度鋼板。
なお、前記カソード電流値の減少率とは、化成処理前後の各々の鋼板に対してカソード分極を行い、各々のカソード電流値を求め、得られる化成処理前後の前記カソード電流値の減少率である。
【0015】
なお、本発明における高強度とは、引張強度TSが450MPa以上の鋼板である。また、本発明の高強度鋼板は、冷延鋼板、熱延鋼板のいずれも含むものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塗装を行う前に、塗装後耐食性の良否を判断し評価することができる。
【0017】
さらに、鋼板表面の観察では確認できないような化成皮膜欠陥を有し、その結果、塗装後耐食性が劣るような場合においても、塗装を行うことなく、塗装後耐食性を評価することができる。
【0018】
また、本発明の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果を製造条件へフィードバックすることにより、塗装後耐食性に優れた高強度鋼板を製造することができる。その結果、塗装後耐食性に優れた高強度鋼板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0020】
本発明では、化成処理前後の各々の鋼板に対して、まず、カソード分極を行いカソード電流値を測定する。次いで、化成処理前後の各々の鋼板のカソード電流値をもとに、化成処理前後のカソード電流値の減少率(以下、単に減少率と称することもある)を求める。なお、減少率=(化成処理前のカソード電流値−化成処理後のカソード電流値)/化成処理前のカソード電流値×100(%)である。
このカソード電流値の減少率をもって塗装後耐食性を判断する。判断基準は、目的や用途に合わせて適宜設定される。例えば、後述する実施例の塗装後耐食性評価基準の場合は、減少率が70%以上の場合を塗装後耐食性が良好と判断した例である。減少率が70%以上に加えて、化成処理後の鋼板のカソード電流値が20μA/cm以下の場合は、塗装後耐食性がより良好と判断する。さらに、減少率が70%以上に加えて、化成処理後の鋼板のカソード電流値が5〜13μA/cmの場合は、塗装後耐食性がより一層良好と判断する。このように、塗装後耐食性の良否の判断を化成処理前後のカソード電流値の減少率から判断し、減少率が70%以上の場合を塗装後耐食性が良好と判断することは本発明において重要な要件である。
【0021】
化成処理前後の鋼板のカソード電流値を比較することによって、塗装を行う前に、塗装後耐食性の良否を判断し評価することができる。そして、鋼板表面の観察では確認できないような化成皮膜欠陥を有する場合においても、塗装後耐食性を評価することが可能となる。
【0022】
本発明では、化成処理前後でのカソード電流値の減少率が70%以上で塗装後耐食性が良好とする。鋼板表面は化成結晶によって被覆されることで腐食反応が抑制され、カソード電流値は減少する。すなわち、化成処理前後でのカソード電流値の減少率は、化成結晶による鋼板表面の被覆率と対応し、カソード電流値の減少率が増加するほど鋼板表面は緻密な化成結晶で被覆されており、塗装密着性、塗装後耐食性は向上することになる。減少率が70%以上であれば十分な塗装後耐食性を有する鋼板を得ることができる。
【0023】
この理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように考えている。上記のように鋼板表層の結晶粒界に生成したSi含有酸化物が、酸洗などで選択的に除去されることにより、粒界に沿った微小クラックが生成されるが、この微小クラック内部は化成結晶が生成されず、塗装後耐食性の低下をもたらす。このような化成結晶の未被覆部分を有する鋼板はカソード反応が抑制されず、化成処理前後でカソード電流値の減少率は小さい。一方で、緻密な化成結晶で被覆された鋼板はカソード反応が抑制され、化成処理前後でカソード電流値の減少率は大きい。つまり、化成処理前後でカソード電流値の減少率が大きいほど化成皮膜欠陥、この場合は微小クラックが少ないことになり、ひいては塗装後の耐食性も良好なものになる。また、鋼板表面にSi系酸化物等がある場合は、酸化物に被覆された部分は化成結晶が生成されないため、その部分におけるカソード反応の程度は化成処理前後であまり変わらないと考えられ、その結果、カソード電流値の減少率を評価することで、鋼板表面のSi系酸化物等の影響を評価できる。
【0024】
さらに、本発明では化成処理後のカソード電流値を20μA/cm以下で塗装後耐食性がより良好とする。化成処理後のカソード電流値は極力小さい方が好ましい。化成処理前後のカソード電流値の減少率70%以上であり、かつ、化成処理後のカソード電流値が20μA/cm以下であれば塗装後耐食性はより優れることになる。化成処理後のカソード電流値は、より好ましくは5〜13μA/cmである。
【0025】
なお、カソード電流値の測定方法については、特に限定しない。例えば、後述する実施例の方法を一例としてあげることができる。また、条件に関しても特に限定はしないが、通常の鋼材の分極測定の条件、つまりは下記条件の範囲で測定を行うことが好ましい。
電解液:0.5〜5質量% NaCl水溶液(空気開放、窒素脱気なし)
掃引速度:0.1〜1mV/s
電流値評価電位:―700〜900mV vs.Ag/AgCl
次に、本発明が対象とする高強度鋼板について説明する。なお、以下の説明において、鋼成分組成の各元素の含有量の単位は「質量%」であり、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0026】
本発明の鋼板の基本成分としては、C:0.01〜0.18%、Si:0.4〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%等を含有することが好ましい。
C:0.01〜0.18%
Cは、鋼組織として、マルテンサイトなどを形成させることで加工性を向上しやすくする。そのためには0.01%以上が好ましい。一方、0.18%を超えると溶接性が劣化する。したがって、C量は0.01%以上0.18%以下が好ましい。
【0027】
Si:0.4〜2.0%
Siは鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素である。Siが0.4%未満では高強度を得るために高価な合金元素が必要になり、経済的に好ましくない。一方、2.0%を超えると良好な化成処理性が得られない場合がある。したがって、Si量は0.4%以上2.0%以下が好ましい。
【0028】
Mn:1.0〜3.0%
Mnは鋼の高強度化に有効な元素である。機械特性や強度を確保するためは1.0%以上含有させることが好ましい。一方、3.0%を超えると溶接性や強度延性バランスの確保が困難になる場合がある。したがって、Mn量は1.0%以上3.0%以下が好ましい。
【0029】
B:0.0005〜0.005%
Bは鋼の焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。0.0005%未満では焼き入れ効果が得られにくく、0.005%を超えると良好なめっき密着性が得られない場合がある。したがって、B量は0.0005%以上0.005%以下が好ましい。
【0030】
なお、強度と延性のバランスを制御するため、Al:0.01〜0.1%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、Cr:0.01〜0.8%のうちから選ばれる元素の1種以上を必要に応じて添加してもよい。
【0031】
これらの元素を添加する場合における適正添加量の限定理由は以下の通りである。
Alは、脱酸剤として作用すると共に、NをAlNとして固定し、Nの悪影響を防止する作用を有する元素である。この効果は0.01%以上で得られる。0.1%を超えるとコストアップになる。したがって、Al量は0.01%以上0.1%以下が好ましい。
【0032】
Moは0.05%未満では強度調整の効果やNb、またはNiやCuとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。したがって、Mo量は0.05%以上1.0%以下が好ましい。
【0033】
Nbは0.005%未満では強度調整の効果やMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、0.05%超えではコストアップを招く。したがって、Nb量は0.005%以上0.05%以下が好ましい。
【0034】
Tiは0.005%未満では強度調整の効果が得られにくく、0.05%超えではめっき密着性の劣化を招く。したがって、Ti量は0.005%以上0.05%以下が好ましい。
【0035】
Cuは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やNiやMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。したがって、Cuは0.05%以上1.0%以下が好ましい。
【0036】
Niは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やCuとMoとの複合添加時におけるめっき密着性改善効果が得られにくい。一方、1.0%超えではコストアップを招く。したがって、Niは0.05%以上1.0%以下が好ましい。
【0037】
Crは0.01%未満では焼き入れ性が得られにくく強度と延性のバランスが劣化する場合がある。一方、0.8%超えではコストアップを招く。したがって、Cr量は0.01%以上0.8%以下が好ましい。
【0038】
上記以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0039】
本発明の高強度鋼板とは、引張強度TSが450MPa以上(好ましくは590MPa 以上)の鋼板を対象とする。引張強度が450MPa未満の場合には、高強度化や高延性化のために合金元素を多量に添加する必要がなく、上述したようなSi含有酸化物による化成処理性の低下、塗装後耐食性の劣化といった問題はほとんど生じないためである。
【0040】
また、本発明は、鋼板内部の金属組織については規定しない。フェライトとマルテンサイトからなるDP(デュアル・フェーズ)鋼板、残留オーステナイトを含むTRIP鋼板、フェライトとパーライトからなる鋼板、ベイナイトからなる鋼板、析出強化された鋼板等を適用することができる。
【0041】
本発明に係る高強度鋼板を製造する方法は特に限定されない。通常、用いる方法により製造することができる。例えば、鋼スラブを1150〜1300℃の温度に再加熱した後、仕上圧延終了温度を700〜900℃とする熱間圧延を施し、500℃〜650℃の温度でコイルに巻取り、板厚3〜4mmの熱延鋼板とし、次いで、酸洗により表面スケールを除去した後に冷間圧延して板厚1.8mmの冷延鋼板とし、さらにこれらの冷延鋼板を連続焼鈍した後、伸び率0.7%の調質圧延を施すことで製造することができる。
なお、化成皮膜欠陥の原因となるSi含有酸化物は、熱間圧延後のコイル巻取り過程、冷間圧延後の焼鈍過程において多量に形成されることが知られている。そのため、上記コイル巻取り過程および冷間圧延後の焼鈍過程において、Si含有酸化物の生成を抑制する手段として例えば、熱間圧延後の巻取り温度の低温化、あるいは生成したSi含有酸化物を除去する手段として酸洗、研削を適宜実施することが好ましい。
【0042】
さらに、本発明では、上述した塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに、鋼板の製造条件を決定することができる。例えば、研削条件、酸洗条件、巻取温度を、塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに、最適化する。
【0043】
酸洗、研削等による鋼板表層の除去や巻き取り温度の低温化は、それぞれSi含有酸化物除去に効果があるので、実際には、ある製造条件で製造された鋼板について本発明の方法で評価を行い、不十分な場合には、研削量増大、酸洗強化、巻取温度低温化を行い鋼板を製造し、得られた鋼板が本発明の評価方法で良好になる条件の組合せを探せば良い。
【0044】
以上のように、本発明の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果をもとに製造条件を設定することで、本発明の塗装後耐食性に優れた高強度鋼板が製造される。
また、塗装後耐食性に優れた高強度鋼板は、化成処理前後の前記カソード電流値の減少率をもって塗装後耐食性を判断する本発明の塗装後耐食性の評価方法で、前記カソード電流値の減少率が70%以上となる。
【実施例1】
【0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
表1に示す鋼成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)からなるスラブに対して、熱間圧延を施し、板厚3〜4mmの熱延鋼板とした。次いで、酸洗により表面スケールを除去した後に冷間圧延して板厚1.8mmの冷延鋼板とした。次いで、これらの冷延鋼板を連続焼鈍した後、伸び率0.7%の調質圧延を施して冷延鋼板を得た。なお、製造条件を表2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
以上により得られた冷延鋼板について、化成処理を行い、化成結晶を評価するとともに、化成処理前後でカソード分極を行いカソード電流値およびカソード電流値の化成処理前後の減少率を求めた。更に、電着塗装を行い、電着塗装後の耐食性を評価した。以下に、条件および評価方法を示す。
【0049】
カソード電流値測定
作用極に化成処理前後の上記冷延鋼板を用い、対極にPt板、参照極にAg/AgCl電極、電解液として5質量%塩化ナトリウム水溶液を用いて、室温、大気開放にて試験を実施した。鋼板を測定液に浸漬し、浸漬開始後自然電位を600s測定した後、自然電位から掃引速度1mV/s でカソード分極を行い、−800mV(vs.Ag/AgCl)における電流値をカソード電流値とした。また、得られた結果に対して、化成処理後のカソード電流値については小さいものから順に、化成処理前後の減少率については大きいものから順に1〜10まで順位付けを行った。
【0050】
化成処理条件
化成処理の条件は以下の通りである。
アルカリ脱脂を行い水洗を行った後、表面調整剤サーフファイン5N-10 (登録商標、日本ペイント(株)製)を用いて30秒間表面調整を行い、化成処理液サーフダインSD2800(登録商標、日本ペイント(株)製)を用いて、処理温度44℃、処理時間120sの条件で化成処理を行った。化成処理皮膜の付着量は2〜3g/m2であった。
【0051】
化成結晶評点
化成処理後の冷延鋼板表面を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率300倍で10視野観察し、化成結晶の未生成部分(スケ)の有無と大きさ、および結晶粒径の不均一さを、化成処理評点として以下の5段階で評価した。
5点:スケは認められず、また結晶も均一である。
4点:わずかに結晶の不均一も認められるがスケは認められない。
3点:微小なスケが認められる。
2点:比較的大きなスケが認められる。
1点:比較的大きなスケが多数認められる。
【0052】
塗装後耐食性評価
上記冷延鋼板から試験片を採取し、化成処理、以下に示す条件にて電着塗装を施し塗装鋼板とした。次いで、塗装鋼板にクロスカットを入れ、温塩水浸漬試験を行った。温塩水浸漬試験は、5質量%塩化ナトリウム水溶液(60℃)に240時間浸漬で行った。温塩水浸漬試験後に、クロスカット部にセロハンテープを貼り、テープを剥がしてカットの左右両側の塗膜剥離幅を調べ、最大値を塗膜最大剥離幅とした。つまり、カットを中心に左右に剥離している左から右までの全幅を計り、その値の最大値を塗膜最大剥離幅とした。塗膜最大剥離幅の評価基準としては、塗膜最大剥離幅が5.0mm以下である場合を耐食性に優れているとし、3mm以下であるものを(◎)、3mm超え5mm以下であるものを(〇)とした。また、5.0mm超えは耐食性に劣っている(×)と評価した。
また、塗膜最大剥離幅の小さいものから順に1〜10まで順位付けを行った。
【0053】
電着塗装条件
電着塗料: カチオン型電着塗料(日本ペイント(株)製)
塗膜膜厚:20μm
焼付条件: 170 ℃×20分間
以上により得られた結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3より、化成処理後のカソード電流値による順位よりもカソード電流値の減少率による順位の方が、塗装後耐食性の塗膜最大剥離幅の順位に一致している。すなわち、化成処理後のカソード電流値による評価よりもカソード電流値の減少率による評価の方が、塗装後耐食性を正確に評価、判定できることがわかる。
【0056】
また、カソード電流値の化成処理前後の減少率が70%以上で塗装後耐食性が良好となっていることがわかる。また、カソード電流値の化成処理前後の減少率が70%以上の場合には、化成処理後の鋼板のカソード電流値20μA/cm以下となっている。
【0057】
以上の結果より、本発明では、減少率70%以上を塗装後耐食性良好と判断することで塗装を行う前に塗装後耐食性の良否を簡便、さらに短時間且つ正確に評価、判定でき、評価することができることがわかる。
【実施例2】
【0058】
表3より、No3は、カソード電流値の化成処理前後の減少率が40%となり、塗装後耐食性が劣っていた。そこで、この結果をもとに、No3と同様の鋼を用いて、巻取温度を580℃から540℃に変更し、それ以外はNo3と同様の条件にて冷延鋼板を製造した。次いで、実施例1と同様に、化成処理を行うとともに、化成処理前後でカソード分極を行いカソード電流値およびカソード電流値の化成処理前後の減少率を求めた。更に、電着塗装を行い、電着塗装後の耐食性を評価した。その結果、カソード電流値の化成処理前後の減少率が80%となり、塗装後耐食性は良好となった。
【0059】
上記結果より、本発明の塗装後耐食性の評価方法により得られる結果を製造条件へフィードバックすることにより、塗装後耐食性に優れた高強度鋼板が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の塗装後耐食性の評価方法は、自動車、家電、建材の分野等、広範な分野で耐食性に優れた高強度化鋼板を提供する場合に利用することができる。