(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記化学蓄熱材の蓄熱量が、前記ガス貯蔵材料のガス吸蔵熱から前記ガス貯蔵タンク及び前記化学蓄熱タンクの顕熱ロスを差し引いた熱量となるように、前記化学蓄熱タンクに前記化学蓄熱材が封入されている請求項1から4までのいずれか1項に記載のガス貯蔵・供給システム。
【背景技術】
【0002】
「ガス貯蔵材料」とは、水素、アンモニア、メタンなどのガスの吸蔵及び放出を可逆的に行うことが可能な材料を言う。ガス貯蔵材料は、一般に、ガスの吸蔵時に発熱を伴い、ガスの放出時に吸熱を伴う。
ガス吸蔵時に放出される熱量(ガス吸蔵熱)は、通常、熱交換器等を介して外気に廃棄され、ガス放出時に必要な熱量(ガス放出熱)は、外部熱源から供給されている。そのため、従来のガス貯蔵・供給システムは、エネルギー利用効率が低いという問題がある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
水素吸蔵合金と、
上記水素吸蔵合金が水素ガスを吸収する時に発生する熱を蓄えるとともに上記水素吸蔵合金がガスを放出する時に必要な熱を与える潜熱蓄熱材(例えば、CaCl
2・6H
2O)と、
上記水素吸蔵合金と熱交換を行う熱交換器と、
上記水素吸蔵合金、上記潜熱蓄熱材及び上記熱交換器を収める圧力容器とを備え、
上記潜熱蓄熱材が複数の密閉容器に収められて上記水素吸蔵合金の中に混入されている水素貯蔵・供給装置が開示されている。
同文献には、このような装置により、水素ガスの吸収、放出特性を低下させることなく、外部からの冷却や加熱のためのエネルギーを小さくできる点が記載されている。
【0004】
特許文献2には、水素化可能物質を耐圧ビンに充填し、耐圧ビンを断熱容器に収容し、耐圧ビンと断熱容器との間に蓄熱媒質(例えば、融解10水和硫酸ナトリウム)を充填した吸収−脱着システムが開示されている。
同文献には、蓄熱媒質を備えたシステムは、蓄熱媒質のないシステムに比べて、長時間にわたって多量の水素を放出し続けることができる点が記載されている。
【0005】
特許文献1、2に記載されているように、潜熱蓄熱材を用いてガス吸蔵熱を蓄熱すると、ガス放出時に潜熱蓄熱材から水素吸蔵合金にガス放出熱の一部を供給することができる。そのため、潜熱蓄熱材が無い場合に比べてより多くの水素を放出することができる。
しかしながら、潜熱蓄熱材は蓄熱密度が低いため、必要な熱量を確保するためには、大きな蓄熱タンクが必要となる。また、蓄熱できる時間が短いため、任意のタイミングで熱を供給できない。
さらに、従来の蓄熱システムは、顕熱ロスが大きいため、水素吸蔵合金から放出されるガス放出熱のすべてを潜熱蓄熱材で蓄熱することができず、熱交換速度にも限界がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
[1. ガス貯蔵・供給システム]
本発明に係るガス貯蔵・供給システムは、
ガスの吸蔵及び放出を可逆的に行うことが可能なガス貯蔵材料と、
前記ガス貯蔵材料を封入したガス貯蔵タンクと、
作動媒体との反応及び逆反応を可逆的に行うことが可能な化学蓄熱材と、
前記化学蓄熱材を封入した化学蓄熱タンクと、
前記ガス貯蔵タンクと前記化学蓄熱タンクとの間で熱の授受を行う熱交換機構と、
前記ガス貯蔵材料に前記ガスを吸蔵させる際に放出されるガス吸蔵熱が前記化学蓄熱タンクで蓄熱され、かつ、前記ガス貯蔵材料から前記ガスを放出させる際に必要なガス放出熱が前記化学蓄熱タンクから供給されるように、前記ガス貯蔵・供給システムを制御する制御機構と、
を備えている。
ガス貯蔵・供給システムは、前記化学蓄熱材及び/又は前記ガス貯蔵材料を加熱するための補助加熱機構をさらに備えていても良い。
【0015】
[1.1. ガス貯蔵タンク]
「ガス貯蔵タンク」とは、ガス貯蔵材料を封入するためのタンクをいう。
「ガス貯蔵材料」とは、ガスの吸蔵及び放出を可逆的に行うことが可能な材料をいう。ガス貯蔵材料は、一般に、ガス吸蔵時に発熱を伴い、ガス放出時に吸熱を伴う。
そのため、ガス貯蔵タンクは、
(a)ガス貯蔵材料を封入することができ、
(b)ガスの供給、排出、及び保持が可能であり、かつ、
(c)ガスの吸蔵・放出時に生ずる圧力変化及び温度変化に耐えるもの、
であればよい。
このような条件を満たす限りにおいて、ガス貯蔵タンクの材料、形状、大きさ、ガス貯蔵材料の充填方法等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0016】
また、ガス貯蔵タンクは、
(a)ガス貯蔵材料に吸蔵させるためのガスを、ガス供給源(例えば、ガスボンベ)からガス貯蔵タンクに供給するためのガス供給機構、及び、
(b)ガス貯蔵材料から放出されたガスを、ガス貯蔵タンクからガス消費装置(例えば、燃料電池)に供給するためのガス排出機構
を備えている。
【0017】
ガス貯蔵タンクは、ガスの供給と排出とを独立した経路で行うもの、すなわち、独立したガス供給機構及びガス排出機構を備えているものでも良い。
あるいは、ガス貯蔵タンクは、単一の経路を用いてガスの供給と排出とを行うもの、すなわち、経路をガス供給源側とガス消費装置側に切替可能な単一のガス供給・排出機構を備えているものでも良い。
ガス供給機構及び/又はガス排出機構は、具体的には、ガス供給源及び/又はガス消費装置とガス貯蔵タンクとを繋ぐ配管、配管を開閉するためのバルブ、圧力調整器、ガス流量調整器などにより構成される。
【0018】
ガス貯蔵タンクは、化学蓄熱タンクとは独立したタンクでも良く(
図1参照)、あるいは、伝熱壁を介して化学蓄熱タンクと一体化されていても良い(
図2、
図3参照)。この点については、後述する。
【0019】
[1.2. 化学蓄熱タンク]
「化学蓄熱タンク」とは、化学蓄熱材を封入するためのタンクをいう。
「化学蓄熱材」とは、作動媒体との反応及び逆反応を可逆的に行うことが可能な材料をいう。化学蓄熱材は、一般に、作動媒体と反応(結合)する際に発熱を伴い、作動媒体と逆反応(脱離)する際に吸熱を伴う。
そのため、化学蓄熱タンクは、
(a)化学蓄熱材を封入することができ、
(b)作動媒体の供給、排出、及び保持が可能であり、かつ、
(c)化学蓄熱材と作動媒体との反応・逆反応時に生ずる圧力変化及び温度変化に耐えるもの
であれば良い。
このような条件を満たす限りにおいて、化学蓄熱タンクの材料、形状、大きさ、化学蓄熱材の充填方法等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0020】
また、化学蓄熱タンクは、
(a)化学蓄熱材と反応させるための作動媒体を、作動媒体供給源(例えば、作動媒体が水であるときは水槽)から化学蓄熱タンクに供給するための作動媒体供給機構、及び、
(b)化学蓄熱材から脱離した作動媒体を、化学蓄熱タンクから排出する作動媒体排出機構
を備えている。
【0021】
化学蓄熱タンクから排出された作動媒体は、そのまま廃棄しても良く、あるいは、作動媒体供給源に回収して繰り返し使用しても良い。作動媒体の回収方法は、特に限定されるものではなく、作動媒体の種類に応じて最適な方法を選択するのが好ましい。
例えば、作動媒体が水である場合、化学蓄熱材を封入した化学蓄熱タンクに、水の蒸発凝縮器を接続するのが好ましい。
また、作動媒体がアンモニアである場合、化学蓄熱材を封入した化学蓄熱タンクに、アンモニアを吸着する多孔性材料(例えば、活性炭など)を封入した容器を接続するのが好ましい。
また、作動媒体が水素である場合(すなわち、化学蓄熱材が水素貯蔵材料である場合)、化学蓄熱材を封入した化学蓄熱タンクに、化学蓄熱材より低温で水素を放出する水素貯蔵材料を封入した容器を接続するのが好ましい。
【0022】
化学蓄熱タンクは、作動媒体の供給と排出とを独立した経路で行うもの、すなわち、独立した作動媒体供給機構及び作動媒体排出機構を備えているものでも良い。
あるいは、化学蓄熱タンクは、単一の経路を用いて作動媒体の供給と排出とを行うもの、すなわち、化学蓄熱タンクと作動媒体供給源との間で作動媒体を循環させる単一の作動媒体供給・排出機構を備えているものでも良い。
作動媒体供給機構及び/又は作動媒体排出機構は、具体的には、作動媒体源及び/又は外気と化学蓄熱タンクとを繋ぐ配管、配管を開閉するためのバルブ、作動媒体流量調整器などにより構成される。
【0023】
[1.3. 熱交換機構]
「熱交換機構」とは、前記ガス貯蔵タンクと前記化学蓄熱タンクとの間で熱の授受を行うための機構をいう。熱交換機構としては、例えば、
(a)ガス貯蔵タンクと化学蓄熱タンクとの間で熱交換媒体を循環させる熱媒流路(
図1参照)、
(b)ガス貯蔵タンクと化学蓄熱タンクとの境界に設けられた1又は2以上の伝熱壁(
図2、
図3参照)、
(c)(a)と(b)の組み合わせ、
などがある。
【0024】
ガス貯蔵タンクと化学蓄熱タンクを、それぞれ独立したタンクとし、両者を熱媒流路で繋ぐと、ガス貯蔵タンク−化学蓄熱タンク間で熱交換を行うことができる。熱媒流路の設置は、タンクの構造を複雑にするが、熱媒流路の構造や配置を最適化することによって熱交換効率が向上する。
【0025】
一方、伝熱壁を介してガス貯蔵タンクと化学蓄熱タンクを一体化させると、タンクの構造を複雑化させることなく、ガス貯蔵タンク−化学蓄熱タンク間で熱交換を行うことができる。また、ガス貯蔵タンク及び化学蓄熱タンクをそれぞれ複数個に分割し、両タンクを交互に積層すると、熱交換面積が増大する。そのため、ガス貯蔵タンク−化学蓄熱タンク間の熱交換時の顕熱ロスを低減することができ、熱交換速度も向上する。
さらに、熱媒流路と伝熱壁とを併用すると、顕熱ロスをさらに低減できる。
【0026】
[1.4. 制御機構]
「制御機構」とは、前記ガス貯蔵材料に前記ガスを吸蔵させる際に放出されるガス吸蔵熱が前記化学蓄熱タンクで蓄熱され、かつ、前記ガス貯蔵材料から前記ガスを放出させる際に必要なガス放出熱が前記化学蓄熱タンクから供給されるように、前記ガス貯蔵・供給システムを制御するための機構をいう。
制御機構は、具体的には、ガス貯蔵タンクの温度及び圧力を監視するセンサ、化学蓄熱タンクの温度及び圧力を監視するセンサ、センサからの出力に基づき各種バルブの開閉タイミングやガス流量及び/又は作動媒体流量を制御するコンピューターなどにより構成される。
【0027】
ガスの供給及び排出は、以下のような手順により行われる。制御装置は、以下の手順の全部又は一部を実行する。
すなわち、ガス貯蔵タンク内の圧力が低下したときには、ガス供給機構のバルブを開き、ガス貯蔵タンクにガスを供給する。ガス貯蔵材料は、供給されたガスを吸蔵すると同時に、ガス吸蔵熱を放出する。
ガス放出熱は、熱交換機構を介して化学蓄熱タンクに伝達される。化学蓄熱タンクには、通常、作動媒体と結合した化学蓄熱材が封入されているので、熱伝達に伴い化学蓄熱材から作動媒体が脱離する。さらに、化学蓄熱タンク内の温度及び圧力を監視しながら、作動媒体排出機構のバルブを開き、作動媒体を化学蓄熱タンクから排出する。
【0028】
一方、ガスをガス消費装置に供給する時には、作動媒体供給機構のバルブを開き、化学蓄熱タンクに作動媒体を供給する。化学蓄熱材は、供給された作動媒体と反応すると同時に、反応熱を放出する。
反応熱は、熱交換機構を介してガス貯蔵タンクに伝達される。ガス貯蔵タンクには、通常、ガスを吸蔵したガス貯蔵材料が封入されているので、熱伝達に伴いガス貯蔵材料からガスが放出される。さらに、ガス貯蔵タンク内の温度及び圧力を監視しながら、ガス排出機構のバルブを開き、必要量のガスをガス貯蔵タンクから排出する。
【0029】
[1.5. 補助加熱機構]
「補助加熱機構」とは、化学蓄熱材及び/又はガス貯蔵材料を外部熱源を用いて加熱するための機構をいう。
熱交換機構を介してガス貯蔵タンクと化学蓄熱タンクとの間で交換される熱量が相対的に少ない場合、ガス吸蔵熱のみによって化学蓄熱材と結合している作動媒体の全量を脱離させ、あるいは、化学蓄熱材から放出される熱量のみによってガス放出熱の全量を賄うことはできない。このような場合、化学蓄熱タンク及び/又はガス貯蔵タンクに補助加熱機構を設けても良い。
【0030】
補助加熱機構を用いて化学蓄熱材を加熱すると、作動媒体の全量が脱離し、化学蓄熱材の蓄熱量が増大する。
また、補助加熱機構を用いてガス貯蔵材料を加熱すると、吸蔵されているガスの全量を放出することができる。
【0031】
[1.6. ガス貯蔵材料]
[1.6.1. ガス]
ガス貯蔵材料で吸蔵・放出するガスは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なガスを選択することができる。
ガスとしては、例えば、水素、アンモニア、メタンなどがある。
【0032】
[1.6.2. ガス貯蔵材料の組成]
ガス貯蔵材料の組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。ガス貯蔵材料としては、例えば、
(a)水素を吸蔵・放出する金属、水素吸蔵合金、錯体水素化物、吸着系水素貯蔵材料、及び、有機系水素化物からなる群から選ばれるいずれか1以上の材料、
(b)アンモニアを吸蔵・放出する金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、多孔性酸化物、及び、活性炭からなる群から選ばれるいずれか1以上の材料、又は、
(c)メタンを吸蔵・放出する金属有機構造体、及び、多孔性配位高分子からなる群から選ばれるいずれか1以上の材料
などがある。
【0033】
[1.6.3. ガス貯蔵材料の封入形態]
ガス貯蔵タンクへのガス貯蔵材料の封入形態は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形態を選択することができる。
例えば、ガス貯蔵材料は、粉末の形態で封入されていても良く、あるいは、塊の形態で封入されていても良い。
【0034】
[1.6.4. ガス貯蔵材料の封入量]
ガス貯蔵タンクへのガス貯蔵材料の封入量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
【0035】
[1.7. 化学蓄熱材]
[1.7.1. 作動媒体]
化学蓄熱材と反応・逆反応する作動媒体は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な作動媒体を選択することができる。
作動媒体としては、例えば、水素、アンモニア、水などがある。
【0036】
[1.6.2. 化学蓄熱材の組成]
化学蓄熱材の組成は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な組成を選択することができる。化学蓄熱材としては、例えば、
(a)水を前記作動媒体とする金属酸化物(例えば、CaO、MgOなど)、金属ハロゲン化物(例えば、CaCl
2、MgCl
2など)、及び金属硫酸塩(例えば、CaSO
4など)からなる群から選ばれるいずれか1以上の材料、
(b)アンモニアを前記作動媒体とする金属ハロゲン化物、及び金属硫酸塩からなる群から選ばれるいずれか1以上の材料、
(c)水素を前記作動媒体とする金属(例えば、Mg、Vなど)、水素吸蔵合金(例えば、LaNi
5、TiMn
1.5、TiCrVなど)、錯体水素化物(例えば、NaAlH
4など)、及び有機系水素化物(例えば、トルエンなど)からなる群から選ばれるいずれか1以上の材料、
などがある。
【0037】
[1.7.3. 化学蓄熱材の封入形態]
化学蓄熱タンクへの化学蓄熱材の封入形態は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形態を選択することができる。
例えば、化学蓄熱材は、粉末の形態で封入されていても良く、あるいは、塊の形態で封入されていても良い。
【0038】
[1.7.4. 化学蓄熱材の封入量]
化学蓄熱タンクへの化学蓄熱材の封入量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
例えば、化学蓄熱材の蓄熱量が、ガス貯蔵材料のガス放出熱より多くなるように、化学蓄熱タンクに化学蓄熱材を封入しても良い。この場合、ガス貯蔵材料のガス吸蔵熱のみによって、化学蓄熱材から作動媒体を全量脱離させることは困難である。作動媒体を全量脱離させるためには、化学蓄熱材を加熱する補助加熱機構を併用するのが好ましい。
【0039】
あるいは、化学蓄熱材の蓄熱量が、ガス貯蔵材料のガス吸蔵熱からガス貯蔵タンク及び化学蓄熱タンクの顕熱ロスを差し引いた熱量となるように、化学蓄熱タンクに化学蓄熱材が封入されていても良い。この場合、ガス吸蔵熱のみによって化学蓄熱材から作動媒体を全量脱離させることはできるが、化学蓄熱材の反応により生ずる熱量のみによって、ガス貯蔵材料からガスを全量放出させることは困難である。ガスを全量放出するためには、ガス貯蔵材料を加熱する補助加熱機構を併用するのが好ましい。
【0040】
[1.7. ガス貯蔵材料と化学蓄熱材の組み合わせ]
[1.7.1. 熱交換の条件]
ガス貯蔵材料と化学蓄熱材との間で効率よく熱交換を行うためには、ガス貯蔵材料と化学蓄熱材との間に、以下の(1)式〜(5)式の関係が成り立つのが好ましい。
ΔH
GA/(RlnP
GA+ΔS
GA)≧ΔH
CD/(RlnP
CD+ΔS
CD) ・・・(1)
ΔH
GD/(RlnP
GD+ΔS
GD)≦ΔH
CA/(RlnP
CA+ΔS
CA) ・・・(2)
1.5≦P
GA≦250 ・・・(3)
1.5≦P
GD≦250 ・・・(4)
P
GD≦P
GA ・・・(5)
但し、
ΔH(kJ/mol of gas molecule)は反応のエンタルピー変化、
ΔS(J/K/mol of gas molecule)は反応のエントロピー変化、
P(atm)はタンク圧力、
Rはガス定数、
添え字Gは前記ガス貯蔵材料、添え字Cは前記化学蓄熱材、
添え字Aは吸蔵過程、添え字Dは放出過程。
【0041】
(1)式の左辺は、ガス吸蔵材料(G)へのガスの吸蔵(A)過程の平衡温度(K)を表す。(1)式の右辺は、化学蓄熱材(C)からの作動媒体の放出(D)過程の平衡温度(K)を表す。(1)式が成り立つことは、ガスの平衡吸蔵温度が作動媒体の平衡放出(脱離)温度以上であること、すなわち、ガス貯蔵材料がガスを吸蔵する時に、熱がガス貯蔵材料から化学蓄熱材に移動することを表す。
【0042】
(2)式の左辺は、ガス吸蔵材料(G)からのガスの放出(D)過程の平衡温度(K)を表す。(2)式の右辺は、化学蓄熱材(C)への作動媒体の吸蔵(A)過程の平衡温度(K)を表す。(2)式が成り立つことは、作動媒体の平衡吸蔵(結合)温度がガスの平衡放出温度以上であること、すなわち、ガス貯蔵材料がガスを放出する時に、熱が化学蓄熱材からガス貯蔵材料に移動することを表す。
【0043】
(3)式は、ガスの吸蔵(A)時のガス貯蔵タンク内の圧力(P
GA)を表す。
P
GAが低すぎると、ガス貯蔵材料にガスが吸蔵されない、又は、ガス貯蔵量が低下する。従って、P
GAは、1.5(atm)以上が好ましい。P
GAは、さらに好ましくは、3(atm)以上、さらに好ましくは、5(atm)以上である。
一方、P
GAが高すぎると、ガス貯蔵タンクや熱交換機構の耐圧性確保が困難になり、顕熱ロスが大きくなる。従って、P
GAは、250(atm)以下が好ましい。P
GAは、さらに好ましくは、200(atm)以下、さらに好ましくは、100(atm)以下である。
【0044】
(4)式は、ガスの放出(D)時のガス貯蔵タンク内の圧力(P
GD)を表す。
P
GDが低すぎると、ガス消費装置へのガス供給が困難になる。従って、P
GDは、1.5(atm)以上が好ましい。P
GDは、さらに好ましくは、2(atm)以上、さらに好ましくは、3(atm)以上である。
一方、P
GDが高すぎると、ガス貯蔵タンクや熱交換機構の耐圧性確保が困難になり、顕熱ロスが大きくなる。従って、P
GDは、250(atm)以下が好ましい。P
GDは、さらに好ましくは、200(atm)以下、さらに好ましくは、100(atm)以下である。
【0045】
(5)式は、ガスの吸蔵(A)時のガス貯蔵タンク内の圧力(P
GA)が、ガスの放出(D)時のガス貯蔵タンク内の圧力(P
GD)以上であることを表す。これは、ガス貯蔵量を増やし、ヒステリシスがあるガス貯蔵材料におけるガス吸蔵・放出も可能とするためである。
【0046】
[1.7.2. 組み合わせの具体例]
上記のような条件を満たすガス貯蔵材料と化学蓄熱材との組み合わせとしては、例えば、ガス貯蔵材料が水素を吸蔵・放出するTi
0.3Zr
0.05Mn
0.45V
0.15Fe
0.05からなり、化学蓄熱材がアンモニアを作動媒体とするCaCl
2からなる場合などがある。
【0047】
[2. ガス貯蔵・供給システムの具体例]
[2.1. 第1の具体例]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係るガス貯蔵・供給システムの模式図を示す。
図1において、ガス貯蔵・供給システム10は、ガス貯蔵タンク12と、化学蓄熱タンク14と、熱媒流路16とを備えている。ガス貯蔵タンク12と化学蓄熱タンク14は、互いに独立しており、両者の内部には、それぞれ、熱交換を行うための熱媒流路16が設けられている。
ガス貯蔵タンク12は、配管18aを介してガス供給装置(例えば、ガスボンベ)に接続されている。また、ガス貯蔵タンク12は、配管18bを介してガス消費装置(例えば、燃料電池)に接続されている。
【0048】
ガス貯蔵タンク12及び化学蓄熱タンク14には、それぞれ、ガス貯蔵材料及び化学蓄熱材が充填されており、ガス貯蔵材料と熱媒流路16内を流れる熱交換媒体を介して、ガス貯蔵材料と化学蓄熱材との間で熱交換可能になっている。
化学蓄熱タンク14には、さらに作動媒体の供給・排出機構(図示せず)が接続されている。供給・排出機構は、蓄熱時には作動媒体を化学蓄熱材から隔離し、放熱時には作動媒体を化学蓄熱材に接触させるためのものである。
【0049】
[2.2. 第2の具体例]
図2に、本発明の第2の実施の形態に係るガス貯蔵・供給システムの模式図を示す。
図2において、ガス貯蔵・供給システム20は、ガス貯蔵タンク22と、化学蓄熱タンク24と、伝熱壁26とを備えている。ガス貯蔵タンク22と化学蓄熱タンク24は、両者の境界に設けられた伝熱壁26を介して一体化されている。
ガス貯蔵タンク22は、配管28aを介してガス供給装置(例えば、ガスボンベ)に接続されている。また、ガス貯蔵タンク22は、配管28bを介してガス消費装置(例えば、燃料電池)に接続されている。
【0050】
ガス貯蔵タンク22及び化学蓄熱タンク24には、それぞれ、ガス貯蔵材料及び化学蓄熱材が充填されており、伝熱壁26を介して、ガス貯蔵材料と化学蓄熱材との間で熱交換可能になっている。
化学蓄熱タンク24には、さらに作動媒体の供給・排出機構(図示せず)が接続されている。供給・排出機構は、蓄熱時には作動媒体を化学蓄熱材から隔離し、放熱時には作動媒体を化学蓄熱材に接触させるためのものである。
【0051】
[2.3. 第3の具体例]
図3に、本発明の第3の実施の形態に係るガス貯蔵・供給システムの模式図を示す。
図3において、ガス貯蔵・供給システム30は、ガス貯蔵タンク32a〜32cと、化学蓄熱タンク34a〜34d、と、伝熱壁36a〜36fとを備えている。各ガス貯蔵タンク32a〜32cと各化学蓄熱タンク34a〜34dは、交互に積層されている。また、交互に積層されたガス貯蔵タンク32a〜32cと化学蓄熱タンク34a〜34dは、両者の境界に設けられた伝熱壁36a〜36fを介して一体化されている。
ガス貯蔵タンク32a〜32cは、それぞれ、配管38aを介してガス供給装置(例えば、ガスボンベ)に接続されている。また、ガス貯蔵タンク32a〜32cは、それぞれ、配管38bを介してガス消費装置(例えば、燃料電池)に接続されている。
【0052】
ガス貯蔵タンク32a〜32c及び化学蓄熱タンク34a〜34dには、それぞれ、ガス貯蔵材料及び化学蓄熱材が充填されており、伝熱壁36a〜36fを介して、ガス貯蔵材料と化学蓄熱材との間で熱交換可能になっている。
化学蓄熱タンク34a〜34dには、さらに作動媒体の供給・排出機構(図示せず)が接続されている。供給・排出機構は、蓄熱時には作動媒体を化学蓄熱材から隔離し、放熱時には作動媒体を化学蓄熱材に接触させるためのものである。
【0053】
[3. 作用]
本発明に係るガス貯蔵・供給システムは、ガス吸蔵熱を蓄熱し、かつ、これをガス放出熱として再利用するための化学蓄熱タンクを備えている。そのため、ガス放出時における外部からの熱投入量を低減することができ、エネルギー利用効率が向上する。また、蓄熱手段として化学蓄熱材を用いているので、蓄熱密度が高く、かつ、任意のタイミングで化学蓄熱タンクからガス貯蔵タンクに熱を供給することができる。
【0054】
さらに、熱交換機構として伝熱壁を用いる(すなわち、ガス貯蔵タンクと化学蓄熱タンクとを伝熱壁を介して一体化させる)と、熱媒流路が不要となる。また、複数のガス貯蔵タンクと複数の化学蓄熱タンクとを伝熱壁を介して積層すると、熱交換面積が増大する。その結果、ガス貯蔵タンク−化学蓄熱タンク間の熱交換時の顕熱ロスが低減し、熱交換速度も向上する。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
図1に示すガス貯蔵・供給システムを作製した。ガス貯蔵材料には、水素吸蔵合金であるTi
0.3Zr
0.05Mn
0.45V
0.15Fe
0.05を用いた。また、化学蓄熱材には、アンモニアを作動媒体とするCaCl
2を用いた。
【0056】
外部のガス供給装置よりガス貯蔵タンク12に水素を供給(水素圧力:1MPa、環境温度:25℃)し、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させた。これと同時に、発生した水素吸蔵熱を熱交換機構(熱媒流路16)により化学蓄熱タンク14に供給した。その結果、(a)式の反応が進行し、蓄熱を行うことができた。
Ca(NH
3)
8Cl
2 → Ca(NH
3)
4Cl
2 + 4NH
3 ・・・(a)
【0057】
その後、水素吸蔵合金から水素を放出させる際には、(a)式の逆反応により発生する熱を化学蓄熱タンク14からガス貯蔵タンク12に供給することで、水素吸蔵合金の温度を30℃に保った。その結果、外部の水素消費装置に水素を供給(供給圧力:0.2MPa)することができた。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。