(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長手方向に延びる溝形状部を有し、該溝形状部を形成する一対の縦壁部の少なくとも一方に長手方向に沿って湾曲するフランジ部を有する製品形状の成形品を成形するプレス成形方法であって、
第1の金型を用いて、前記溝形状部を前記製品形状に成形すると共に、縮みフランジ変形を受けるフランジ部または伸びフランジ変形を受けるフランジ部のいずれか一方について、縮みフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が前記製品形状のフランジ部の線長よりも短く、伸びフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が前記製品形状のフランジ部の線長よりも長くなるように成形する第1成形工程と、
第2の金型を用いて、前記第1成形工程で成形された前記フランジ部を製品形状に成形する第2成形工程とを備えたことを特徴とするプレス成形方法。
前記第1上型と前記第2上型、前記第1下型の溝形状成形用凸部と前記第2下型の凸部、及び前記第1下型の前記第1フランジ成形部と前記第2フランジ成形部とはそれぞれ同形状からなり、
前記第1下型の前記溝形状成形用凸部と前記第1フランジ成形部の相対位置が調整可能になっており、
前記第1下型は、下死点状態で、少なくとも片方の前記第1肩部と前記第1フランジ成形部の間に隙間が形成されるように位置調整されたものであり、
前記第2下型は、前記溝形状成形用凸部の下端が前記第2フランジ成形部の面に一致するように位置調整されたものであることを特徴とする請求項2記載のプレス成形方法。
パンチ頂部を有する成形品を成形する場合において、前記第1上型は、ブランクにおける前記パンチ頂部に相当する部位を押さえるパッドを有することを特徴とする請求項2記載のプレス成形方法。
前記第1金型の第1上型と第1下型の上下を入れ替える、または前記第2金型の第2上型と第2下型の上下を入れ替える、または、前記第1金型の第1上型と第1下型の上下を入れ替えてかつ前記第2金型の第2上型と第2下型の上下を入れ替えることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のプレス成形方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、成形された部品のフランジ部にビード形状が残ってしまうため、組立工程において他部品との溶接時に不具合が生じる可能性がある。そのため、ビード形状が残存する部分をカットするか、あるいは製品内にビード形状が入らないようにブランク長さを長くとる必要がある。
【0008】
また、特許文献1、2は、スプリングバックによって部品のある断面に生じる形状変化に対する対策である。しかし、実際の部品ではねじれや曲がりといった部品全体に生ずる3次元的なスプリングバックが問題となる場合も多く、特許文献1、2はこのような問題に対する充分な対策とはなり得ない。
【0009】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、製品形状を変えることなく、ねじれや曲がりといった3次元的なスプリングバックを低減するプレス成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は上記課題を解決するため、
図16に示すような成形品51をフォーム成形した際に成形品51に生じるスプリングバックの形態について検討した。
成形品51は、パンチ頂部53aと縦壁部53bからなる溝形状部53、及び長手方向に沿って湾曲するフランジ部(外側フランジ55および内側フランジ57)を有している。
【0011】
従来のフォーム成形では
図17の斜視図、
図18の断面図に示すようにダイ103とパンチ105でブランク13を挟み込むことで成形を行う。
図19は成形前後のブランク外形線を示した図である。湾曲曲率の大きい側(曲率半径の小さい側)のフランジ(内側フランジ57)に該当する外形線は成形によりブランクが流入することで曲率は小さくなり(曲率半径は大きくなり)線長が長くなる(A
0B
0→A
1B
1)。つまり、内側フランジ57は伸びフランジ変形となり下死点では長手方向に引張応力が残存する。
【0012】
一方、湾曲曲率の小さい側(曲率半径の大きい側)のフランジ(外側フランジ55)ではその逆で、外形線は成形によりブランクが流入することで曲率は大きくなり(曲率半径は小さくなり)線長が短くなる(C
0D
0→C
1D
1)。つまり、外側フランジ55は縮みフランジ変形となり下死点では長手方向に圧縮応力が残留する。
【0013】
これらの残留応力は離型時に弾性回復し、内側フランジ57では縮み変形、外側フランジ55は伸び変形となり、その結果、
図20に示すように部品は湾曲曲率が大きく(曲率半径が小さく)なるような曲がり変形となるスプリングバックが生ずる。なお
図20において、破線がスプリングバック前の形状を示しており、実線がスプリングバック後の形状を示している。
【0014】
以上のように、長手方向に湾曲したフランジ部を有する成形部品ではフランジ部における残留応力が離型時に解放されるため、部品全体に曲がり変形を与えるスプリングバックを生じさせている。このことから、このような部品では、フランジ部の残留応力の低減が部品のスプリングバック低減に非常に重要であると言える。
そこで、発明者は、フランジ部の残留応力を低減する方法として、プレス成形過程においてフランジ部の線長を製品形状よりも大きく変化させ、その後にフランジ部の線長を製品形状に戻すような成形をすることを考えた。
本発明はかかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0015】
(1)本発明の一つの形態に係るプレス成形方法は、長手方向に延びる溝形状部を有し、該溝形状部を形成する一対の縦壁部の少なくとも一方に長手方向に沿って湾曲するフランジ部を有する製品形状の成形品を成形するプレス成形方法であって、
第1の金型を用いて、前記溝形状部を前記製品形状に成形すると共に、縮みフランジ変形を受けるフランジ部または伸びフランジ変形を受けるフランジ部の少なくとも一方について、縮みフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が前記製品形状のフランジ部の線長よりも短く、伸びフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が前記製品形状のフランジ部の線長よりも長くなるように成形する第1成形工程と、
第2の金型を用いて、前記第1成形工程で成形された前記フランジ部を製品形状に成形する第2成形工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0016】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記第1の金型は、第1上型と第1下型からなり、
前記第1上型は、前記溝形状部を成形する溝部と該溝部の両側に形成された第1肩部とを有し、
前記第1下型は、前記溝部に挿入されて前記成形品の前記溝形状部を形成する溝形状成形用凸部と、前記第1肩部に対向配置されて前記第1肩部と協働して前記第1成形工程のフランジ部を成形する第1フランジ成形部とを備え、
前記第1上型と前記第1下型は、下死点状態で、少なくとも片方の前記第1肩部と前記第1フランジ成形部の間に隙間が形成されるように設定されており、
前記第2の金型は、第2上型と第2下型からなり、
前記第2上型は、前記第1成形工程で成形された溝形状部が挿入可能な凹陥部と、該凹陥部の両側に設けられた第2肩部とを有し、
前記第2下型は、前記凹陥部と協働して下死点状態で前記溝形状部の下端部を挟持する凸部と、該凸部の両側に設けられて前記第2肩部と協働して前記フランジ部を製品形状に成形する第2フランジ成形部とを備えてなることを特徴とするものである。
【0017】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、前記第1上型と前記第2上型、前記第1下型の溝形状成形用凸部と前記第2下型の凸部、及び前記第1下型の前記第1フランジ成形部と前記第2フランジ成形部とはそれぞれ同形状からなり、
前記第1下型の前記溝形状成形用凸部と前記第1フランジ成形部の相対位置が調整可能になっており、
前記第1下型は、下死点状態で、少なくとも片方の前記第1肩部と前記第1フランジ成形部の間に隙間が形成されるように位置調整されたものであり、
前記第2下型は、前記溝形状成形用凸部の下端が前記第2フランジ成形部の面に一致するように位置調整されたものであることを特徴とするものである。
【0018】
(4)また、上記(2)に記載のものにおいて、パンチ頂部を有する成形品を成形する場合において、前記第1上型は、ブランクにおける前記パンチ頂部に相当する部位を押さえるパッドを有することを特徴とするものである。
【0019】
(5)また、上記(2)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、前記第1金型の第1上型と第1下型の上下を入れ替える、または前記第2金型の第2上型と第2下型の上下を入れ替える、または、前記第1金型の第1上型と第1下型の上下を入れ替えてかつ前記第2金型の第2上型と第2下型の上下を入れ替えることを特徴とするものである。
【0020】
(6)また、上記(2)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記第1の金型の前記下死点状態における前記第1肩部と前記第1フランジ成形部との間の隙間をh、前記製品形状のフランジ幅をLとしたときに、
0.05<h/L<1.0
の条件を満たすことを特徴とするものである。
【0021】
(7)また、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のものにおいて、前記一対の縦壁のいずれか一方のフランジ部に前記第1成形工程と前記第2成形工程を適用することを特徴とするものである。
【0022】
(8)また、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のものにおいて、前記一対の縦壁の両方のフランジ部に前記第1成形工程と前記第2成形工程を適用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、第1の金型を用いて、ダイとパンチによって前記溝形状部を前記製品形状に成形すると共に、縮みフランジ変形を受けるフランジ部または伸びフランジ変形を受けるフランジ部の少なくとも一方について、縮みフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が製品形状のフランジ部の線長よりも短く、伸びフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が製品形状のフランジ部の線長よりも長くなるように成形する第1成形工程と、第2の金型を用いて、ダイとフランジ成形用ダイによって第1成形工程で成形された前記フランジ部を製品形状に成形する第2成形工程とを備えるようにしたので、第1成形工程でフランジ部に生ずる長手方向のひずみを第2成形工程で戻すことができ、これによってフランジ部に生ずる残留応力を小さくすることができ、部品全体に曲り変形を与えるスプリングバックを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法が成形の対象としているプレス成形品は、
図16に示すように、長手方向に延びる溝形状部53を有し、溝形状部53を形成する一対の縦壁部53bの両方に長手方向に沿って湾曲するフランジ部(外側フランジ55及び内側フランジ57)を有する製品形状の成形品51である。
【0026】
本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法について詳細に説明するのに先立って、当該方法を実施するための第1の金型1と第2の金型3について
図1〜
図3に基づいて説明する。
第1の金型1は、第1成形工程に用いる金型であり、
図1(a)、
図1(b)および
図2に示す通り第1上型5と第1下型7からなる。
第2の金型3は、第2成形工程に用いる金型であり、
図1(c)、
図1(d)および
図3に示す通り第2上型9と第2下型11からなる。
以下、第1の金型1と第2の金型3の各構成について説明する。
【0027】
<第1の金型>
≪第1上型≫
第1上型5は、長手方向に沿って湾曲し、成形品51(
図13)の溝形状部53を成形する溝部5aと、溝部5aの両側に形成された第1肩部5bとを備えている。
【0028】
≪第1下型≫
第1下型7は、
図2に示すように、長手方向に沿って湾曲する凸条からなり、溝部5aに挿入されて成形品51(
図13)の溝形状部53を形成する溝形状成形用凸部7aと、第1肩部5bに対向配置されて第1肩部5bと協働して第1成形工程のフランジ部(内側フランジ57と外側フランジ部55)を成形する第1フランジ成形部7bと、溝形状成形用凸部7aと第1フランジ成形部7bの間にあって垂直に立ち上がる立上り部7cを備えている。立上り部7cを有しているため、溝形状成形用凸部7aの端70aの位置は第1フランジ成形部7bよりもhだけが高さを有する。すなわち、
図1(a)に示すように、溝形状成形用凸部7aの端70aは、第1フランジ成形部7bからの相対高さがhに設定されている。このため、溝形状成形用凸部7aが溝部5aに挿入されると、
図1(b)に示すように、下死点状態で第1上型5の第1肩部5bと第1下型7の第1フランジ成形部7bとの間に隙間が形成されるようになっている。
【0029】
<第2の金型>
≪第2上型≫
第2上型9は、
図1(c)に示すように、第1成形工程で成形された溝形状部53が挿入可能な凹陥部9aと、凹陥部9aの両側に設けられた第2肩部9bとを有している。
【0030】
≪第2下型≫
第2下型11は、
図1(d)に示すように、第2上型9の凹陥部9aと協働して下死点状態で溝形状部53の下端部を挟持する凸部11aと、凸部11aの両側に設けられて第2肩部9bと協働して内側フランジ57と外側フランジ部55を製品形状に成形する第2フランジ成形部11bとを備えている。
【0031】
なお、
図1〜
図3に示すように、第2上型9の凹陥部9aと第2下型11の凸部11aは、第1上型5の溝部5aと第1下型7の溝形状成形用凸部7aの上部と同形状であるものを例に挙げたが、第1成形工程で成形した溝形状部53が挿入可能な空間が形成されて、溝形状部53の端部を挟持できればよく、必ずしも同形状でなくともよい。例えば、溝形状成形用凸部7aの上部の高さは、
図1〜
図3に示すものより低くてもよい。
また、例えば、第2成形工程で成形品51の溝形状部53(
図13)にさらにビード形状等を付与するようにしてもよく、この場合、第2上型9の凹陥部9aと第2下型11の凸部11aに適宜変更を加えればよい。
【0032】
以上のように構成された第1の金型1と第2の金型3を用いた本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法について詳細に説明する。
本発明の一実施の形態に係るプレス成形方法は、
図1に示すように、第1の金型1を用いて、溝形状部53を製品形状に成形すると共に、縮みフランジ変形を受けるフランジ部及び伸びフランジ変形を受けるフランジ部について、縮みフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が製品形状のフランジ部の線長よりも短く、伸びフランジ変形を受けるフランジ部に対しては長手方向の線長が製品形状のフランジ部の線長よりも長くなるように成形する第1成形工程(
図1(a)及び
図1(b)参照)と、第2の金型3を用いて、第1成形工程で成形されたフランジ部を製品形状に成形する第2成形工程(
図1(c)及び
図1(d)参照)とを備えたことを特徴とするものである。
【0033】
なお、成形品51(
図13)は長手方向に沿って湾曲するフランジを有しているため、湾曲する円弧の外側フランジ部55の湾曲曲率が小さく(曲率半径が大きく)なり、内側フランジ部57の湾曲曲率が大きく(曲率半径が小さく)なっている。したがって、外側フランジ部55が本発明の縮みフランジ変形を受けるフランジ部に対応し、内側フランジ部57が本発明の伸びフランジ変形を受けるフランジ部に対応している。
【0034】
<第1成形工程>
まず、ブランク13は、
図1(a)に示すように、第1下型7の溝形状成形用凸部7aの上面に載置する。
次に、第1上型5を下動させる。こうすることで、第1上型5の溝部5aと第1下型7の溝形状成形用凸部7aによって溝形状部53(パンチ底部53aと縦壁部53b、
図1(c)参照)が中間製品形状に成形される(第1下死点、
図1(b)参照)(第1成形工程)。
縦壁部53bが成形される際にブランク13が内方に流入することによって、ブランク13の内側端13aおよび外側端13bは、
図1(b)および
図1(c)の太矢印に示すように、第1下型7側に移動する。
【0035】
図4は、内側フランジ57と外側フランジ部55におけるプレス成形開始前から第1下死点(第1成形工程における下死点)さらに第2下死点(第2成形工程における下死点)までの変化を説明する説明図である。
図4では、湾曲の内側および外側について、破線の丸で囲んだ部分を拡大して示している。各拡大図において、破線がプレス成形前のブランク13の内側端13aおよび外側端13b、点線が第1下死点における内側端13aおよび外側端13b、そして実線が第2下死点における内側端13aおよび外側端13bをそれぞれ示している。
【0036】
図4の湾曲の内側の拡大図を見ると、成形開始から第1下死点までの間(第1成形工程)、ブランク13の流入により内側端13aにおけるA
0B
0はA
1B
1となり、内側端13aの線長は引き伸ばされて長くなる(伸びフランジ変形)。
一方、湾曲の外側では、
図4の拡大図に示す通り、ブランク13の流入により外側端13bにおけるC
0D
0はC
1D
1となり、外側端13bの線長は縮められて短くなる(縮みフランジ変形)。
【0037】
このようにして、第1の金型を用いた第1成形工程では、溝形状部53が形成されたブランク13(成形品51の中間製品)が成形され、中間製品は後述する第2の金型を用いた第2成形工程で再度プレス成形(リストライク)されることで、製品形状となる。
【0038】
<第2成形工程>
次に、第1成形工程によって溝形状部53が形成されたブランク13(成形品51の中間製品)を第2の金型3の第2下型11に載置する。
次に、第2上型9を下動させる。こうすることで、第2上型9の第2肩部9bと第2下型11の第2フランジ成形部11bによって内側フランジ部57および外側フランジ部55が製品形状に成形される(第2下死点、
図1(d)参照)(第2成形工程)。
このときブランク13の内側端13aおよび外側端13bは、
図1(d)中の太矢印に示すように、外方に移動する。
【0039】
図4の湾曲の内側の拡大図を見ると、第2下死点において、内側端13aは外側に押し出される(流出する)変形をするため、内側端13aの線長は僅かに短くなり(A
1B
1→A
2B
2)、成形品51の製品形状における内側フランジ部57の線長となる。つまり、プレス成形開始前のA
0点、B
0点はそれぞれ、第1下死点ではA
1点、B
1点になり、第2下死点ではA
2点、B
2点となり、線長はA
0B
0→A
1B
1→A
2B
2と変化する。
一方、湾曲の外側では、外側端13bの線長が僅かに長くなる(C
1D
1→C
2D
2)。つまり、プレス成形開始前のC
0点、D
0点はそれぞれ、第1下死点ではC
1点、D
1点になり、第2下死点ではC
2点、D
2点となり、線長はC
0D
0→C
1D
1→C
2D
2と変化する。
【0040】
このように、内側フランジ部57においては、第1成形工程において、一旦、成形品51の製品形状よりも線長が長くなる成形を行い、第2成形工程において成形品51の製品形状の線長に戻す成形を行い、外側フランジ部55においては、第1成形工程において、一旦、成形品51の製品形状よりも線長が短くなる成形を行い、第2成形工程において成形品51の製品形状の線長に戻す成形を行うようにしている。このため、内側フランジ部57および外側フランジ部55において、第1成形工程で生じたひずみが第2成形工程で僅かに戻されることになり、これに伴い残留応力が大幅に低減される。
【0041】
この点について、
図5に基づいて説明する。
図5は、フランジ部の成形開始から第2下死点までの長手方向の応力―ひずみ線図である。
図5に示すように、第1成形工程により第1下死点のフランジ部には大きな残留応力が蓄積されている。しかし、第1下死点から第2下死点までひずみを僅かに戻すことによって残留応力は大幅に低減する。
このように、本発明は、僅かなひずみの戻りに対して残留応力が敏感に大きく変化する特徴を利用しスプリングバックを抑制したものである。
【0042】
ひずみの戻し量は、第1下型7の相対高さhとフランジ幅によって決まる。フランジ幅が同じであれば、相対高さhが大きいほどひずみの戻し量は大きくなり残留応力の低減効果は大きい。つまり、本発明において、フランジ成形用ダイ7に対する第1下型7の相対高さhがスプリングバック量に大きな影響を与えており、相対高さhを調節することにより成形現場でスプリングバックをコントロールできる。
【0043】
なお、ひずみの戻し量が大きすぎると、逆方向の残留応力を蓄積させてしまうため、適切な戻し量が必要である。
そこで、成形品51のフランジ幅をL(
図16参照)とすると、フランジ幅Lと相対高さhの比(h/L)は、0.05<h/L<1.0の範囲内に設定することが望ましい。この点は後述する実施例において実証する。
【0044】
以上のように、本実施の形態においては、成形過程において一旦成形品51の内側に入り込んだフランジ部の材料を成形品51の外側に押し戻して長手方向のひずみを僅かに戻すことで残留応力を低減させることが可能となり、製品形状を変えることなく、割れやしわなどの成形不良を発生させることなくスプリングバックを低減させることができる。
【0045】
なお、第1成形工程と第2成形工程は連続して行う必要はなく、第1成形工程によって中間製品を複数個作成し、その後、該成形された中間製品を第2成形工程でリストライクしてもよい。
【0046】
[実施の形態2]
実施の形態1では、第1の金型1は第1上型5、第1下型7を有している例を挙げて説明したが、第1工程に用いる金型を、ブランク13を押さえるパッド付きにして、第1成形工程開始時からブランク13をパッドで押さえるようにしてもよい。こうすることで、第1成形工程においてブランク13がずれてしまうことを確実に防止することができる。
このようなものの一例を
図6に示す。
図6に示すパッド付き第1の金型15は、ブランク13のパンチ頂部53aに相当する部位を第1下型7と挟持するパッド17と、パッド17が出没可能に設けられた第1上型19とを有している。第1上型19に対応するパンチとしては、第1の金型1の第1下型7が使用できる。なお、
図6において、第1の金型1と同一のものには同一の符号を付している。
また、第2成形工程は、
図1に示すものと同様の第2の金型3を使用する。
【0047】
[実施の形態3]
実施の形態1および実施の形態2では内側フランジ57および外側フランジ55の両方においてひずみの戻りを与える例を説明したが、内側フランジ57と外側フランジ55の残留応力のバランスをとることによって成形品51全体としてスプリングバックが緩和されればよく、内側フランジ部57または外側フランジ部55の一方についてのみ、ひずみの戻りを与えるような成形を行うようにしてもよい。
例えば、内側フランジ部57のみにひずみの戻りを与える場合、
図7に示すように、第1上型5と協働して外側フランジ部55を成形する外側フランジ成形部25aを有する第1下型25を備える第1の金型21を用いて第1成形工程を行う。
第1下型25は、第1上型5と共にパンチ頂部53aと縦壁部53bと外側フランジ部55を成形する。
なお、第2成形工程は、上記実施の形態1および実施の形態2と同じ第2の金型3を用いてプレス成形を行う。
【0048】
第1の金型21と第2の金型3とを用いたプレス成形方法について
図8に基づいて説明する。
まず、
図8(a)に示すようにブランク13を載置し、第1上型5を下動させる。第1下死点(
図8(b)参照)においては、内側端13aでは伸びフランジ変形となり、外側端13bでは縮みフランジ変形となる。
次に、第2の金型3を用いて第2成形工程を行う。第2下死点(
図8(d)参照)において内側端13aの長手方向の線長が僅かに短くなる変形が生じて内側フランジ部57が成形される。このとき、伸びフランジ変形が緩和されて引張応力が大幅に減少する。このように、内側フランジ部57のみに本発明を適用することで、内側フランジ部57の伸びフランジ変形を緩和して、
図20に示す成形品51に生ずるスプリングバックを緩和することができる。
【0049】
さらに、後述する実施例2で実証するように、フランジ成形工程において内側フランジ部57に与えるひずみの戻し量を大きくすることで逆方向の変形(縮み変形)を生じさせる残留応力を蓄積させ、外側フランジ部55に生ずる縮み変形とバランスさせるようにしてもよい。このようにすれば、内側フランジ部57と外側フランジ部55での残留応力による変形がバランスされ、成形品51全体としてスプリングバックによる変形が緩和される。
【0050】
[実施の形態4]
実施の形態3に示したものとは逆に、外側フランジ部55のみにひずみの戻りを与えるようにしてもよく、この場合、例えば
図9に示すように、内側フランジ成形肩部29aを有する第1上型5と、第1上型5と協働して内側フランジ部57を成形する内側フランジ成形部31aを有する第1下型31と、を備える第1の金型27を用いてプレス成形を行う。
第1下型31は、第1上型5と共にパンチ頂部53aと縦壁部53bと内側フランジ部57を成形する。
なお、第2成形工程は、上記実施の形態1〜実施の形態3と同じ第2の金型3を用いてプレス成形を行う。
【0051】
この場合、第1下死点においては、内側フランジ部57では伸びフランジ変形となり、外側フランジ部55では縮みフランジ変形となる点は、上記実施の形態3と同様である。その後成形が進むと、第2下死点において外側フランジ部55においては線長が僅かに長くなり、縮みフランジ変形が緩和されて圧縮応力が大幅に減少する。
このように、外側フランジ部55のみに本発明を適用することで、外側フランジ部55の縮みフランジ変形を緩和して、
図20に示す成形品51に生ずるスプリングバックを緩和することができる。
【0052】
また、第1成形工程において外側フランジ部55に与えるひずみの戻し量を大きくすることで逆方向の変形(伸び変形)を生じさせる残留応力を蓄積させ、内側フランジ部57に生ずる伸び変形とバランスさせるようにしてもよい。このようにすれば、内側フランジ部57と外側フランジ部55での残留応力による変形がバランスされ、成形品51全体としてスプリングバックによる変形が緩和される。
【0053】
なお、本発明で効果が得られる成形品の製品形状としては長手方向に沿って湾曲するフランジ部を有し、かつ溝形状部53を形成する一対の縦壁の少なくとも一方にフランジ部を有する形状であればよい。
図10に、本発明を適用可能な成形品の製品形状の断面の例を複数示し、各断面について以下に説明する。
【0054】
図10(a)〜
図10(f)は、内側および外側の両方に湾曲したフランジ部を有するものである。
図10(a)、(d)は縦壁が垂直になっているものである。
図10(b)、(e)は上述した成形品51の断面と同様であり、縦壁が傾斜しているものである。
図10(c)、(f)は両縦壁部が傾斜して断面のパンチ頂部に平坦部のない形を形成しているものである。
図10(c)、(f)の断面を成形するには、先端がRになっているパンチを使用するとよい。
【0055】
また、
図10(g)〜
図10(i)に示すように、
図10(a)〜
図10(c)の内側または外側のいずれか一方のみの湾曲したフランジ部を有するものであってもよい。
フランジ部の長さ、高さ位置や角度について制限はない。
また、
図21に示すように、内側または外側のいずれか一方に湾曲したフランジ部を有し、他方は湾曲しないフランジ部を有するものであってもよく、成形品の製品形状全体が湾曲していなくともよい。
【0056】
また、成形品の長手方向をx方向、幅方向をy方向、高さ方向をz方向(
図21参照)とすると、上記の実施の形態1〜4及び
図21の説明では、成形品はxy平面内における湾曲であったが、本発明の対象とする成形品はこのような湾曲にのみ限られず、
図22及び
図23に示すように、フランジ部がz方向に湾曲するものも含む。
図22(a)は、成形品全体が長手方向中央で上に凸となるように湾曲した形状の一例(成形品81)を図示したものであり、
図22(b)は長手方向中央で下に凸となるように湾曲した形状の一例(成形品83)を図示したものである。
また、
図23(a)は、成形品のフランジ部のみが長手方向中央で上に凸となるように湾曲した形状の一例(成形品91)を図示したものであり、
図23(b)は成形品のフランジ部のみが長手方向中央で下に凸となるように湾曲した形状の一例(成形品93)を図示したものである。
【0057】
なお、上記では、第1の金型(第1の金型1、第1の金型15、第1の金型21、第1の金型27)と第2の金型(第2の金型3)は別々のものを用いた例を挙げたが、第1下型の溝形状成形用凸部と第1フランジ成形部の相対位置を調整可能にして、該相対位置を適宜調整することによって、第1の金型および第2の金型として使用できるような金型を用いてもよい。
このような凸部高さ調整可能な金型の一例を
図11に示す。
図11の凸部調整可能式金型33の下型は、第1の金型1の第1下型7の一部を変更したものである。なお、
図11において同様のものには同一の符号を付している。
【0058】
凸部調整可能式金型33の下型は、
図11(a)に示すように、溝形状成形用凸部7aと第1フランジ成形部7bは別体からなる。第1フランジ成形部7bの中央には、第1フランジ成形部7bの下部が上下動可能に挿入可能な溝部35が設けられており、溝部35に溝形状成形用凸部7aがスペーサ37を介して設置されている。
凸部調整可能式金型33の上型は、第1の金型1の第1上型5を使用する。
【0059】
凸部調整可能式金型33は、溝形状成形用凸部7aの端70aが第1フランジ成形部7bの上面よりも上方の位置であって第1下死点状態で第1肩部5bと第1フランジ成形部7bとの間に相対高さhが形成される位置に溝形状成形用凸部7aを位置させることで、
図11(a)に示すように、実施の形態1の第1の金型1に相当する金型として使用することができる。
また、凸部調整可能式金型33は、スペーサ37を取り除くことで、溝形状成形用凸部7aの端70aが第1フランジ成形部7bの上面に一致する位置に溝形状成形用凸部7aを位置させることができるようになっており、この場合、実施の形態1の第2の金型3に相当する金型として使用することができる。
このように、凸部調整可能式金型33は、溝形状成形用凸部7aの位置を適宜調整することによって、第1の金型および第2の金型として使用できる。
なお、この場合、第1上型と第2上型、第1下型の溝形状成形用凸部と第2下型の凸部、及び第1下型の第1フランジ成形部と第2フランジ成形部とはそれぞれ同形状からなる。
【0060】
凸部調整可能式金型33の使用例は次の通りである。まず、第1の金型として使用して第1成形工程を行って複数の中間製品を作成し、その後、スペーサ37を取り外して第2の金型として、中間製品について第2成形工程を行って、最終的な製品形状にする。
【0061】
上記の凸部調整可能式金型33は、溝形状成形用凸部とフランジ成形部の相対位置を調整可能にするために、溝形状成形用凸部の位置を調整するものであったが、
図12に示すフランジ成形部調整可能式金型39のように、フランジ成形部の位置を調整できるようにしてもよい。
図12に示すフランジ成形部調整可能式金型39は、
図12(a)及び
図12(b)に示すように、フランジ成形部8bを分割可能にして、分割の隙間にスペーサ37を出し入れすることでフランジ成形部8bの位置を調整するようにしたものである。
【0062】
なお、溝形状成形用凸部7aの端70aの相対高さhは、使用するスペーサ37を高さが違うものに変更することで、容易に変更可能であるのは言うまでもない。また、相対高さhを調節することでスプリングバックをコントロールすることができるのは上述したとおりである。
従って、凸部調整可能式金型33を用いれば、成形現場でスプリングバックをコントロールでき、従来のように金型を修正することでトライアル&エラーによってスプリングバックを低減していたのに比べ、はるかに安価でなおかつ短期間でスプリングバックを低減できる。
【0063】
上記では、第2成形工程は、第2上型を下動させて第2下型に近づけるものを例に挙げたが、第2下型と第2上型が相対的に近づけばどちらを動かしてもよく、第2下型を第2上型に近づけるようにしてもよい。
また、上記において、第1金型の第1上型と第1下型の上下を入れ替える、または第2金型の第2上型と第2下型の上下を入れ替える、または第1金型の第1上型と第1下型の上下を入れ替えてかつ第2金型の第2上型と第2下型の上下を入れ替えるようにしてもよく、いずれにおいても同様の効果が得られる。
【0064】
上記では上型が上下動可能なものを例に挙げたが、金型の移動方向は上下方向に限られず、例えば、上型および下型を横向きにして、横向きに移動させるようにしてもよい。
【実施例1】
【0065】
本発明のプレス成形方法による作用効果について具体的な実験を行ったので、その結果について
図13〜
図15に基づいて、他の図を適宜参照して以下に説明をする。
まず、実験方法について概説する。実験は、第1の金型及び第2の金型を用いて複数のプレス成形条件で成形を行い、成形された成形品のスプリングバック量を比較するというものである。
成形対象となる成形品51は、
図13および
図14に示すように、ハット断面を有する長手方向に沿って湾曲した形状であり、長さは1000mm、断面の高さは30mm、パンチ頂部53aの幅は20mm、内側フランジ部57および外側フランジ部55の幅はともに25mm、部品幅中央の長手方向湾曲曲率半径は1000mmである。ブランク13は厚さ1.2mmの980MPa級鋼板を使用した。プレス機には1000tonf油圧プレス機を用いた。
【0066】
プレス成形条件について以下に詳細に説明する。
本発明例1〜本発明例7においては、
図1および
図2に示す第1の金型1を用いて第1成形工程を行い、
図1および
図3に示す第2の金型3を用いて第2成形工程を行った。
本発明例1〜本発明例7は、第1下型7の相対高さhの影響を確認するため、相対高さhをそれぞれ2.5、5、10、15、20、25、30mmの7水準とした。
【0067】
比較例1は、プレス成形金型101(
図17)を用いて、パンチ頂部53aと縦壁部53bとフランジ部(内側フランジ部57および外側フランジ部55)を成形する通常のパンチ105(相対高さh=0mm)を用いて従来のフォーム成形(
図18参照)を行った。
また、パッドで天板部を押さえる場合の効果を確認するために、本発明例8として、
図6で示した第1の金型15(相対高さh=10mm)を用いて第1成形工程を行い、第2の金型3を用いて第2成形工程を行った。また、比較例2として通常のパンチ105(相対高さh=0mm)およびパッド付きダイを用いたフォーム成形を実施した。パッド圧は50tonfとした。
【0068】
成形された製品形状は3次元形状測定器で測定した。その後、CADソフトウェア上で長手方向中央の湾曲部が設計形状と合うように測定データの位置合わせを行った後、部品端における測定形状データと設計形状データのY座標差異(曲がり量Δy、
図15参照)を算出し、この曲がり量Δyをスプリングバックによる曲がり変形の指標とした。
曲がり量Δyは、正ならば部品の湾曲曲率が大きくなる(曲率半径が小さくなる)方向に曲がり変形したことを、負ならば湾曲曲率が小さくなる(曲率半径が大きくなる)方向に曲がり変形したことを意味する。そして、絶対値が小さければスプリングバック量が少ないことを意味する。
表1に各プレス成形条件{相対高さh(mm)、h/L、パッドの有無}と各プレス条件で成形された成形品51の曲がり量Δy(mm)を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の本発明例1〜本発明例7をみると、相対高さhが大きくなれば曲がり量Δyの絶対値は比較例1より小さくなることが分かる。
また、h=10mmとh=15mmの間で曲がり量Δyの正負が逆転した。曲がり量Δyの絶対値が最も小さい成形条件は本発明例3(パッドなしのh=10mm)でΔy=1.2mmとなり、比較例1の従来のフォーム成形に比べ大幅にスプリングバックが低減した。
本発明例7(h=30mm)での曲がり量Δyは、本発明例6(h=25mm)での曲がり量Δyと変わらなかった。これは、相対高さhがフランジ幅Lより大きく、第1金型で成形後のフランジ端が第1下型に接触せず、第2金型で成形されたことが影響している。
【0071】
また、比較例2および本発明例8から分かる通り、パッドを用いた場合でもスプリングバックを低減することができた。
【実施例2】
【0072】
上記実施例1は、内側フランジ部57および外側フランジ部55の両方にひずみを戻す成形を適用したものであった。実施例2では、内側フランジ部57または外側フランジ部55のいずれか一方についてひずみを戻す成形を適用した場合の効果について具体的な実験を行ったので、その結果について説明する。
【0073】
まず、実験方法について概説する。
ひずみを戻す成形は、本発明例9〜本発明例13では内側フランジ部57のみに、本発明例14〜本発明例18では外側フランジ部55のみに適用した。
本発明例9〜本発明例13では、
図7および
図8に示す第1の金型21を用いて第1成形工程を行い、本発明例14〜本発明例18では、
図9に示す第1の金型27を用いて第2成形工程を行った。
相対高さhは、本発明例9〜本発明例13ではそれぞれ5、10、15、20、25mmとし、本発明例14〜本発明例18でも同様にそれぞれ5、10、15、20、25mmとした。
また、比較例3として、プレス成形金型101{通常のパンチ105(相対高さh=0mm)}を用いた従来のフォーム成形(
図17参照)を行った。
成形対象、油圧プレス機、スプリングバックの評価方法は、実施例1と同様である。
【0074】
表2に各プレス成形条件{適用フランジ、相対高さh(mm)、h/L}と各プレス条件で成形された成形品51の曲がり量Δy(mm)を示す。
【0075】
【表2】
【0076】
スプリングバック量が最も小さい(曲がり量Δyの絶対値が最も小さい)成形条件は、内側フランジ部57に適用した例では本発明例11(h=15mm)でΔy=0.3mm、外側フランジ部55に適用した例では本発明例16(h=15mm)でΔy=0.9mmであり、比較例3のΔy=7.3mmに比べ大幅にスプリングバックが低減した。
以上のように、ひずみを戻す本発明を適用するのが内側フランジ部57および外側フランジ部55のどちらか一方のみであっても、高いスプリングバック抑制効果が確認された。
【実施例3】
【0077】
上記実施例1および実施例2では、xy平面内で湾曲した成形品形状についての実験であったが、本実施例では、z方向(プレス方向)に湾曲した成形品に適用した場合の効果について具体的な実験を行ったので、その結果について説明する。
まず、実験方法について概説する。
【0078】
本発明例19〜本発明例23は、
図24(a)に示すように成形品全体が長手方向中央で上に凸となるように湾曲した成形品81について、本発明例24〜本発明例28は
図24(b)に示すように長手方向中央で下に凸となるように湾曲した成形品83について、それぞれ本発明を適用したものである。
成形品81および成形品83は、長さは1000mm、長手方向湾曲曲率半径は1000mm、断面形状は実施例1および実施例2と同じである(
図14参照)。ひずみを戻す成形は、両方のフランジ部に適用した。ブランク材、および油圧プレス機は実施例1および実施例2と同様のものを用いた。
【0079】
本発明例19〜本発明例23では、
図25(a)に示す、第1上型72および第1下型73を備えた第1の金型71を用いて第1成形工程を行い、
図26(a)に示す、第2上型111および第2下型112を備えた第2の金型110を用いて第2成形工程を行った。本発明例24〜本発明例28では、
図25(b)に示す、第1上型76および第1下型77を備えた第1の金型75を用いて第1成形工程を行い、
図26(b)に示す、第2上型114および第2下型115を備えた第2の金型113を用いて第2成形工程を行った。成形時のブランクと各金型の動きは
図1と同様である。
相対高さhは、本発明19〜本発明例23ではそれぞれ5、10、15、20、25mmとし、本発明24〜本発明例28ではそれぞれ5、10、15、20、25mmとした。
また、比較例4および比較例5として、
図26(a)に示す第2の金型110(相対高さh=0mm)のみ、または
図26(b)に示すに示す第2の金型113(相対高さ=0mm)のみを用いた通常のフォーム成形を行った。
【0080】
スプリングバックの形態として、
図24(a)に示す成形品81には
図27(a)に示すように+z方向のハネ変形が、
図24(b)に示す成形品83には
図27(b)に示すように−z方向のハネ変形が生じる。部品端における測定形状データと設計形状データのz方向差異(ハネ量Δz)を算出し、このハネ量をスプリングバックによるハネ変形の指標とした。
ハネ量Δzは、正ならば部品端が上方(フランジ部と反対側)にハネ変形したことを、負ならば部品端が下方(フランジ部と同じ側)にハネ変形したことを意味する。そして、絶対値が小さければスプリングバックが少ないことを意味する。
表3に製品凸方向と各プレス成形条件{相対高さh(mm)、h/L}と各プレス条件で成形された成形品81および成形品83のハネ量Δz(mm)を示す。
【0081】
【表3】
【0082】
成形品81(上に凸の製品)について検討した例でスプリングバック量が最も小さい(ハネ量Δzの絶対値が最も小さい)成形条件は、本発明例22(h=20mm)でΔz=0.3mmであり、比較例4のΔz=13.5mmに比べスプリングバックが大幅に低減した。
一方、成形品83(下に凸の製品)について検討した例でスプリングバック量が最も小さい成形条件は、本発明例27(h=20mm)でΔz=-0.6mmであり、比較例5のΔz=-15.0mmに比べスプリングバックが大幅に低減した。
【0083】
以上のように、xy平面内で湾曲した製品のみならず、z方向(プレス方向)に湾曲した製品について本発明を適用した場合であっても、スプリングバックの高い抑制効果が確認された。