(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延または塗布した後、乾燥することにより第1の自己支持性フィルムを得た後、前記第1の自己支持性フィルムを支持体から剥離し、剥離した第1の自己支持性フィルムを加熱する請求項1又は2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
第1のポリイミド前駆体溶液を支持体に流延または塗布する代わりに、第1のポリイミド前駆体溶液と、第3のポリイミド前駆体溶液とを重ねて支持体に流延または塗布し乾燥することにより第3の自己支持性フィルムを得た後、前記第3の自己支持性フィルムを支持体から剥離し、剥離した第3の自己支持性フィルムを加熱する請求項1又は2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
前記有機材料は、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸―2−エチルヘキシル、ポリアクリル酸ブチルおよび酢酸セルロースから選ばれる少なくとも1種以上である請求項6記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ポリアミック酸と、溶媒とを含む第1のポリイミド前駆体溶液を支持体に流延または塗布し加熱するポリイミドフィルムの製造方法であって、第1のポリイミド前駆体溶液は、ポリアミック酸および溶媒とは異なる有機材料を含み、有機材料の揮発温度は、ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドの揮発温度よりも低く、加熱の最高温度は、有機材料の揮発温度以上でポリイミドの揮発温度以下であることを特徴とする。以下、詳しく説明する。
【0027】
[第1のポリイミド前駆体溶液]
本発明のポリイミドフィルムの製造方法で用いる第1のポリイミド前駆体溶液は、ポリアミック酸と溶媒との混合物(以下、ポリアミック酸溶液ということがある)に、有機材料が添加されてなるものである。
【0028】
第1のポリイミド前駆体溶液の固形分濃度(ポリマー成分)は、流延または塗布によるフィルム製造に適した粘度範囲となる濃度であれば特に限定されない。例えば、流延によりフィルムを製造する場合は10〜30質量%が好ましく、15〜27質量%がより好ましく、16〜24質量%がさらに好ましい。また、塗布によりフィルムを製造する場合は、1〜20質量%が好ましく、1.5〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましい。
【0029】
第1のポリイミド前駆体溶液の溶液粘度は、使用する目的(塗布、流延など)や製造する目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、第1のポリイミド前駆体溶液の30℃で測定した回転粘度は、第1のポリイミド前駆体溶液を取り扱う作業性の観点から、0.1〜5000ポイズであることが好ましい。したがって、生成するポリアミック酸が上記のような粘度を示す程度にまで、テトラカルボン酸成分とジアミン成分の重合反応を実施することが望ましい。
【0030】
以下、第1のポリイミド前駆体溶液の各成分について説明する。
【0031】
(ポリアミック酸)
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させて製造できる。例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを、ポリイミドの製造に通常使用される溶媒中で重合して製造することができる。反応温度は、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、0〜60℃が特に好ましい。
【0032】
上記テトラカルボン酸成分としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物等が挙げられる。
【0033】
上記ジアミン成分としては、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン等が挙げられる。具体例としては、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−トリジン、p−トリジン、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン等が挙げられる。
【0034】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との組み合わせの一例としては、以下の(1)〜(6)が挙げられる。これら組み合わせは、機械的特性、耐熱性の観点から好ましい。
【0035】
(1) 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとの組み合わせ。
【0036】
(2) 3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンと、4,4−ジアミノジフェニルエ−テルとの組み合わせ。
【0037】
(3)ピロメリット酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとの組み合わせ。
【0038】
(4)ピロメリット酸二無水物と、p−フェニレンジアミンと、4,4−ジアミノジフェニルエ−テルとの組み合わせ。
【0039】
(5)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、ピロメリット酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとの組み合わせ。
【0040】
(6)3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、ピロメリット酸二無水物と、p−フェニレンジアミンと、4,4−ジアミノジフェニルエ−テルとの組み合わせ。
【0041】
(溶媒)
溶媒は、ポリアミック酸を溶解できるものであればよい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
(有機材料)
本発明で用いられる有機材料は、ポリアミック酸および溶媒とは異なるものである。本発明で用いられる有機材料は、支持体に流延または塗布した第1のポリイミド前駆体溶液を加熱してポリイミドの生成過程において、ポリイミド前駆体の相から相分離して一定の体積を占め、かつ、加熱により熱分解または蒸発してポリイミドフィルムから除去されるものである。有機材料がポリイミドフィルムから除去されることにより、有機材料が存在していた部分に、クレーター状の凹部が形成され、これによって、ポリイミドフィルムの表層に凹凸が形成される。本発明でいう有機材料とは、イミド化の際に用いられる触媒や脱水剤を含まない概念である。また、有機材料が加熱により熱分解または蒸発することによりポリイミドフィルムから除去される際に、有機材料が完全に除去されず、ポリイミドフィルムに若干残存する場合もあるが、この形態は本発明に含まれることとする。
【0043】
有機材料の揮発温度は、ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドの揮発温度よりも低いことが好ましい。ここで、「揮発温度」とは、有機材料またはポリイミドの揮発分量が50質量%以上になる温度をいう。また、本発明において「揮発」とは、有機材料またはポリイミドの全部または一部が熱分解によって揮発性の成分となること、または熱により蒸発することなど、気体成分となって飛散し、質量が減少することをいう。
【0044】
ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドの450℃での揮発分量は、5質量%以下であることが好ましい。
【0045】
本発明において、有機材料としては、以下の(a)及び/又は(b)に示す有機材料を好ましく用いることができる。
【0046】
(a)ポリアミック酸溶液中の溶媒に対して溶解しうる有機材料。
【0047】
(b)ポリアミック酸溶液中の溶媒に対して相溶しない、粒状に成形された有機材料。
【0048】
特に好ましくは、ポリアミック酸溶液に添加した場合、均一溶液となり、不溶分を加えた場合に発生する凝集、沈降、分離が発生しないことから、(a)に示す有機材料である。以下、(a)に示す有機材料を、有機材料(a)といい、(b)に示す有機材料を、有機材料(b)という。
【0049】
有機材料(a)の、「ポリアミック酸溶液中の溶媒に対して溶解しうる」の「溶解」とは、ポリアミック酸溶液に有機材料を添加すると、有機材料が溶媒に溶け出し、実質的に固体成分がなくなる状態のことをいう。
【0050】
有機材料(a)は、ポリアミック酸溶液に5質量%以上溶解するものが好ましい。有機材料(a)の具体例としては、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルまたはセルロース化合物などが挙げられる。有機材料(a)のさらなる具体例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルなどのポリメタクリル酸アルキル、ポリアクリル酸―2−エチルヘキシル、ポリアクリル酸ブチルなどのポリアクリル酸アルキル、酢酸セルロース等が挙げられる。有機材料(a)は、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸―2−エチルヘキシル、ポリアクリル酸ブチルおよび酢酸セルロースから選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましく、ポリメタクリル酸メチルおよび酢酸セルロースから選ばれる少なくとも1種以上であることがより好ましい。
【0051】
有機材料(a)の重量平均分子量(Mw)は、1,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜500,000がより好ましい。重量平均分子量の大きい有機材料を用いることにより、凹部の深さや、直径を大きくできる。重量平均分子量の小さな有機材料を用いることにより、凹部の深さや直径を小さくできる。
【0052】
有機材料(b)の平均粒径は、1〜10μmが好ましく、2〜8μmがより好ましい。平均粒径が上記範囲内であれば、各種薄膜の成膜性が良好で、光反射性に優れる電極層や、密着性の良い回路パターンを表面に形成可能なポリイミドフィルムを製造できる。有機材料(b)の具体例としては、架橋メタクリル酸メチル粒子、ポリスチレン粒子、その他二重結合含有モノマーを共重合させた高分子材料粒子等が挙げられる。有機材料(b)は、架橋メタクリル酸メチル粒子およびポリスチレン粒子から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0053】
なお、本発明において、有機材料(b)の、「ポリアミック酸溶液の溶媒に対して相溶しない」とは、ポリアミック酸溶液に有機材料を添加した場合に、形状を保つ有機材料のことを意味する。有機材料の一部が溶解していても、固体成分が含まれていれば、有機材料(b)として好ましく使用できる。有機材料が膨潤する場合でも、形状が維持されれば、「ポリアミック酸の溶媒に対して相溶しない」有機材料に含まれ、好ましく使用できる。
【0054】
有機材料は、400℃での揮発分量が95質量%以上であることが好ましく、99質量%%以上であることがより好ましい。ここで、400℃での揮発分量は、有機材料を空気中で400℃、1時間加熱したときの重量減少をいう。400℃での揮発分量が95質量%未満であると、有機材料の残分によってポリイミドフィルムの外観が悪化する場合がある。外観の悪化を防ぐためには、高温で加熱しなければならず、ポリイミドフィルムの特性に低下させる可能性がある。また、高温にすることによって製造コストの上昇にもつながる可能性がある。
【0055】
有機材料(a)及び有機材料(b)は、ポリイミドフィルムの表面に形成されるクレーター状の凹部の直径、深さ、形状、分散性を制御することを目的に、カルボン酸、カルボン酸無水物、エポキシ基、アミノ基、アルコキシシランなどの官能基で変性して用いても良い。これらの官能基とポリアミック酸をあらかじめ反応させて共重合体を作成して塗工したり、未反応のまま塗工して乾燥時に反応させることもできる。また、公知の分散剤や相溶化剤を添加してもよい。
【0056】
有機材料は、前記テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを溶媒中で反応させる際に添加しても良いし、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを溶媒中で反応させて得られるポリアミック酸溶液に添加してもよい。
【0057】
第1のポリイミド前駆体溶液において、有機材料の含有量は、0.2〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。有機材料の含有量が0.2質量%未満であると、ポリイミドフィルムの表面にクレーター状の凹部が形成され難くなり、光反射性に優れる電極層などを表面に形成可能なポリイミドフィルムが得られ難くなる場合がある。また、有機材料の含有量が10質量%を超えると、ポリイミドフィルムの強度が低下する傾向にある。また、溶液が高粘度になりすぎて取り扱いが困難となる場合がある。
【0058】
(その他成分)
本発明において、第1のポリイミド前駆体溶液は、ポリアミック酸溶液のゲル化を制限する目的で、リン系安定剤をポリアミック酸の重合時に添加することができる。リン系安定剤としては、例えば、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリフェニル等が挙げられる。リン系安定剤の添加量は、固形分(ポリマー)濃度に対して0.01〜1%が好ましい。
【0059】
また、第1のポリイミド前駆体溶液には、フィラーを添加することができる。フィラーとしては、シリカ、アルミナなどの無機フィラー、ポリイミド粒子などの有機フィラーが挙げられる。なお、本発明においては、第1のポリイミド前駆体溶液に含まれる有機材料が、ポリアミック酸のイミド化時に熱分解して気化し、それによって、ポリイミドフィルムの表面にクレーター状の凹部が形成されるので、フィラーを用いることなく、フィラーレスで表面に凹凸が形成されたポリイミドフィルムを得ることができる。フィラーを用いることなく表面に凹凸が形成されたポリイミドフィルム(オールポリイミド)によれは、フィラーを用いないためポリイミドフィルムのコストダウンを図ることができ、さらに凹凸の形状や高さを適切に制御することによりポリイミドフィルム表面の易滑性を向上させることがきる。また、ポリイミドフィルムをエッチングする用途に使用する場合、フィラーの残渣が残らないという効果もある。
【0060】
また、第1のポリイミド前駆体溶液には、イミド化促進の目的で、塩基性有機化合物を添加することができる。塩基性有機化合物としては、例えば、イミダゾール、2−イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、置換ピリジンなどが挙げられる。塩基性有機化合物の添加量は、ポリアミック酸に対して0.05〜10質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0061】
また、第1のポリイミド前駆体溶液を熱イミド化によりイミド化を完結させる場合、第1のポリイミド前駆体溶液には、イミド化触媒等を必要に応じて加えてもよい。また、第1のポリイミド前駆体溶液を化学イミド化によりイミド化を完結させる場合、第1のポリイミド前駆体溶液には、環化触媒、脱水剤等を必要に応じて加えてもよい。
【0062】
上記イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられる。
【0063】
上記環化触媒としては、脂肪族第3級アミン、芳香族第3級アミン、複素環第3級アミン等が挙げられる。環化触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ピリジン、β−ピコリン、イソキノリン、キノリン等が挙げられる。
【0064】
上記脱水剤としては、脂肪族カルボン酸無水物、芳香族カルボン酸無水物等が挙げられる。脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、ギ酸無水物、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、安息香酸無水物、無水ピコリン酸等が挙げられる。
【0065】
[ポリイミドフィルムの製造方法]
<第一の実施形態>
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を、支持体に流延または塗布する。
【0066】
この実施形態では、支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルト、ガラス板などが使用される。
【0067】
有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を、支持体に流延または塗布する方法としては、特に制限はなく、例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0068】
有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を支持体に流延または塗布した後、乾燥炉を用いて乾燥しても良い。乾燥温度は100〜200℃が好ましく、より好ましくは120〜180℃である。また、乾燥時間は2〜60分が好ましく、より好ましくは3〜20分間である。
【0069】
有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延または塗布し、乾燥することにより自己支持性を有する第1の自己支持性フィルムを得た後、第1の自己支持性フィルムを支持体から剥離し、後で述べる加熱を行っても良い。この方法によればポリイミドフィルムの量産性に優れている。ここで、自己支持性を有するとは、支持体から剥離することができる程度の強度を有する状態を意味する。
【0070】
自己支持性フィルムは、有機材料を含む第1の自己支持性フィルムの単層フィルムであってもよく、あるいは、有機材料を含む層と有機材料を含まない層との2層あるいはそれ以上の多層構造からなる多層フィルムでもよい。
【0071】
上記単層フィルムは、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を支持体上にフィルム状に流延又は塗布し、乾燥炉等に導入して乾燥することで形成することができる。
【0072】
上記多層フィルムは、後述する第二の実施形態に示すように、有機材料を含まない自己支持性フィルムに、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を塗工し乾燥して形成する方法や、後述する第三の実施形態に示すように、有機材料を含まないポリイミド前駆体溶液と有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液とを多層ダイスを用いて支持体上に共押出し、乾燥して形成する方法などで形成できる。
【0073】
次に、支持体に流延または塗布した有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液によって形成される塗膜又は、前述の支持体から剥離した第1の自己支持性フィルムを加熱する。これにより溶媒除去とイミド化を完結させて、ポリイミドフィルムを得る。その際、第1のポリイミド前駆体溶液に含まれる有機材料が熱分解して気化し、それによって、ポリイミドフィルムの表面にクレーター状の凹部が形成され、ポリイミドフィルムの表層に凹凸が形成される。ここで、クレーター状の凹部とは、球状または粒状の泡が破壊して形成されたような、円形又は楕円形状で、底面がほぼ滑らかに湾曲し、開口周縁がやや盛り上がった形状の凹部をいう。
【0074】
加熱手段としては公知の加熱炉(キュア炉)が挙げられる。加熱方法の一例として、約100℃〜400℃の温度で、ポリマーのイミド化および溶媒の蒸発・除去を、好ましくは約0.05〜5時間、特に好ましくは0.1〜3時間で徐々に行うことが適当である。特に、この加熱方法は段階的に行うことが好ましい。例えば、約100℃〜約170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170℃〜220℃の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理し、その後、220℃〜400℃の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理することが好ましい。必要であれば、400℃〜550℃、好ましくは450〜520℃の高い温度で第四次高温加熱処理してもよい。
【0075】
本発明では、加熱の最高温度は、第1のポリイミド前駆体溶液に含まれる有機材料の揮発温度以上であって、かつ、ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドの揮発温度以下である。ここで、「ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミド」とは、第1のポリイミド前駆体溶液のポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドに相当する。有機材料の揮発温度は、有機材料の種類に依るが、例えば200〜400℃である。また、ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドの揮発温度は、ポリアミック酸の種類に依るが、例えば300〜600℃である。有機材料とポリイミドの揮発温度の範囲で、有機材料とポリイミドの種類が選択される。本発明において、ポリイミドの450℃での揮発分量は、5質量%以下が好ましい。
【0076】
例えば、有機材料がポリメタクリル酸メチルの場合、有機材料の揮発温度はおおむね300〜400℃である。また、ポリイミドが、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミンとで構成されるポリアミック酸をイミド化して得られるものの場合、ポリイミドの揮発温度は550〜650℃である。
【0077】
本発明において、加熱の最高温度は、400〜600℃が好ましく、より好ましくは430〜550℃である。
【0078】
イミド化完結のための加熱処理の際、キュア炉中においては、ピンテンタ、クリップ、枠などで、少なくとも長尺の固化フィルムの長手方向に直角の方向、すなわちフィルムの幅方向の両端縁を固定し、必要に応じて幅方向、又は長さ方向に拡縮して加熱処理を行っても良い。
【0079】
<第二の実施形態>
この実施形態では、支持体として第2の自己支持性フィルムを用い、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を、第2の自己支持性フィルム上に塗布する。第2の自己支持性フィルムは、第2のポリイミド前駆体溶液を乾燥することにより得られるようにしても良い。以下に詳細に説明する。
【0080】
第2のポリイミド前駆体溶液は、ポリアミック酸と、溶媒とを含有するものを用いる。ポリアミック酸、溶媒は、上述した第1のポリイミド前駆体溶液と同様のものを用いることができる。第2のポリイミド前駆体溶液に用いるポリアミック酸、溶媒の種類は、上述した第1のポリイミド前駆体溶液と同じであってもよく、異なっても良い。第2のポリイミド前駆体溶液には、第1のポリイミド前駆体溶液と同様、イミド化を促進するため、イミド化触媒、環化触媒、脱水剤等を必要に応じて加えてもよい。
【0081】
第2のポリイミド前駆体溶液を支持体上に流延または塗布し、乾燥して、自己支持性を有する第2の自己支持性フィルムを形成する。支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルト、ガラス板などが使用される。ここで、自己支持性を有するとは、支持体から剥離することができる程度の強度を有する状態を意味する。乾燥手段としては公知の乾燥炉が挙げられる。
【0082】
第2の自己支持性フィルムを形成するための乾燥条件(加熱条件)は、特に限定はないが、乾燥温度は100〜200℃が好ましく、より好ましくは120〜180℃である。また、乾燥時間は2〜60分が好ましく、より好ましくは3〜20分間である。
【0083】
この実施形態では、このようにして形成した第2の自己支持性フィルム上に、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液を流延または塗布する。第1のポリイミド前駆体溶液の流延または塗布は、第2の自己支持性フィルムを支持体から剥離した後の片面または両面の全面または一部に行っても良く、剥離する前の第2の自己支持性フィルムの支持体とは接しない面の全面または一部に行っても良い。
【0084】
第2の自己支持性フィルム上に流延または塗布された第1のポリイミド前駆体溶液によって形成される塗膜を加熱して、乾燥及び硬化する際に、第1のポリイミド前駆体溶液に含まれる有機材料が熱分解して気化し、それによって、ポリイミドフィルムの表面にクレーター状の凹部が形成される。
【0085】
第1のポリイミド前駆体溶液の固形分濃度(ポリマー成分)は、塗布によるフィルム製造に適した粘度範囲となる濃度であれば特に限定されない。1〜20質量%が好ましく、1.5〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましい。
【0086】
第1のポリイミド前駆体溶液の30℃での回転粘度は、1〜30センチポイズが好ましく、2〜10センチポイズがより好ましい。回転粘度が上記範囲内であれば、塗工作業性が良好である。
【0087】
第1のポリイミド前駆体溶液の第2の自己支持性フィルムへの塗布方法は、特に限定されないが、例えば、バーコーター法、グラビアコーター法、ダイコーター法等の方法が採用できる。
【0088】
第1のポリイミド前駆体溶液の塗布量は、1〜30g/m
2が好ましく、3〜25g/m
2がより好ましく、5〜20g/m
2が特に好ましい。上記塗布量が1g/m
2未満であると、均一に塗布することが難しくなると共に、有機材料がまばらとなって、ポリイミドフィルムの表層に凹凸を効果的に形成できない場合がある。また、上記塗布量が30g/m
2を超えると、塗工時に液が垂れる、塗工が不均一となる傾向にある。
【0089】
次に、第2の自己支持性フィルム上に流延または塗布した第1のポリイミド前駆体溶液の塗膜を加熱乾燥する。加熱手段としては公知の乾燥炉が挙げられる。
【0090】
加熱乾燥条件は、特に限定はないが、温度60〜180℃で、0.5〜60分間程度加熱することが好ましく、より好ましくは、80〜150℃で、1〜5分間加熱する。
【0091】
次に、第2の自己支持性フィルムを、支持体から剥離する。剥離方法は特に限定はなく、自己支持性フィルムを冷却し、ロールを介して張力を与えて剥離する方法があげられる。
【0092】
次に、支持体から剥離した、有機材料を含む層と有機材料を含まない層とが積層した多層構造の自己支持性フィルムを第一の実施形態と同様にして加熱し、溶媒除去とイミド化を完結させて、ポリイミドフィルムを得る。その際、第1のポリイミド前駆体溶液に含まれる有機材料が熱分解して気化するので、ポリイミドフィルムの表面にクレーター状の凹部が形成されて、ポリイミドフィルムの表層に凹凸が形成される。この方法によれば、ポリイミドフィルムの表裏面を貫通するような凹部が形成されることを抑制でき、表層のみに効果的にクレーター状の凹部を形成できる。更には、ポリイミドフィルムの強度を高めることができる。
【0093】
<第三の実施形態>
この実施形態では、第1のポリイミド前駆体溶液を支持体に流延または塗布する代わりに、第1のポリイミド前駆体溶液と、第3のポリイミド前駆体溶液とを重ね支持体に流延または塗布し、乾燥することにより第3の自己支持性フィルムを得た後、前記第3の自己支持性フィルムを支持体から剥離し、剥離した第3の自己支持性フィルムを加熱してポリイミドフィルムを製造する。
【0094】
第3のポリイミド前駆体溶液は、ポリアミック酸、溶媒を含有するものを用いる。ポリアミック酸、溶媒は、上述した第1のポリイミド前駆体溶液と同様のものを用いることができる。第3のポリイミド前駆体溶液に用いるポリアミック酸、溶媒の種類は、上述した第1のポリイミド前駆体溶液と同じであっても良く、異なっても良い。
【0095】
第1のポリイミド前駆体溶液と、第3のポリイミド前駆体溶液とを重ね支持体に塗布する方法は、例えば、第3のポリイミド前駆体溶液を支持体に塗布し、次に塗布した第3のポリイミド前駆体の上に第1のポリイミド前駆体溶液を塗布する方法、共押出し−流延製膜法(単に、多層押出法ともいう)等が挙げられる。支持体としては、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばステンレス基板、ステンレスベルト、ガラス板などが使用される。
【0096】
第1のポリイミド前駆体溶液と、第3のポリイミド前駆体溶液とを重ね支持体に流延する形態は、公知の方法で行うことが出来る。例えば特開平3−180343号公報(特公平7−102661号公報)に記載されている方法などを用いることができる。例えば、第1のポリイミド前駆体溶液と、第3のポリイミド前駆体溶液とを、押出し成形用ダイスに供給し、支持体上に重ねてキャストしてこれをステンレス鏡面、ベルト面等の支持体面上に流延する方法が挙げられる。支持体に接するポリイミド前駆体溶液は、第1のポリイミド前駆体溶液、または第3のポリイミド前駆体溶液のいずれも特に制限されない。第3のポリイミド前駆体溶液が支持体に接するように、第3のポリイミド前駆体溶液の上に第1のポリイミド前駆体溶液を重なるように、第1のポリイミド前駆体溶液と第3のポリイミド前駆体溶液を重ねて支持体上にキャストすることが好ましい。
【0097】
第1のポリイミド前駆体溶液から形成される層の厚みは、例えば0.5〜5μmが好ましい。また、第3のポリイミド前駆体溶液から形成される層の厚みは、例えば5〜50μmが好ましい。これにより、100〜200℃で半硬化状態または乾燥状態とする第3の自己支持性フィルムを得ることができる。
【0098】
そして、支持体から剥離した第3の自己支持性フィルムを第一の実施形態と同様にして加熱し、溶媒除去とイミド化を完結させてポリイミドフィルムを得る。その際、第1のポリイミド前駆体溶液に含まれる有機材料が熱分解して気化するので、ポリイミドフィルムの表面にクレーター状の凹部が形成されて、ポリイミドフィルムの表層に凹凸が形成される。
【0099】
この形態によれば、第二の実施形態と同様、ポリイミドフィルムの表裏面を貫通するような凹部が形成されることを抑制でき、表層のみに効果的にクレーター状の凹部を形成できる。更には、ポリイミドフィルムの強度を高めることができる。
【0100】
[ポリイミドフィルム]
本発明のポリイミドフィルムは、上記の製造方法により得られたものであって、
図1および
図2に示すように表層にクレーター状の凹部が形成されて、ポリイミドフィルムの表層に凹凸が形成されている。
【0101】
ポリイミドフィルムの厚みは、例えば5〜75μmが好ましい。ポリイミドフィルム表面に形成されるクレーター状の凹部の深さは、0を超え15μm以下であり、0.1〜5μmが好ましく、0.1〜2μmがより好ましく、0.2〜1.5μmが特に好ましい。凹部の直径は0を超え50μm以下であり、0.1〜20μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましく、0.1〜3μmが更に好ましく、0.1〜2μmが特に好ましい。
【0102】
また、凹部の直径の平均値(平均クレーター径)は、0を超え25μm以下が好ましく、0.5〜2.5μmがより好ましい。なお、本発明において、凹部の直径とは、凹部の水平方向の長さのことをいう。
【0103】
また、凹部の平均クレーター径を、凹部の深さで除した値(平均クレーター径(μm)/凹部の深さ(μm))は、1.5〜3が好ましく、2〜2.5がより好ましい。
【0104】
本発明のポリイミドフィルムは、TAB用テープ、COF用テープ等のテープ基材、ICチップ等のチップ部材等のカバー基材、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー、電子ペーパー、太陽電池、プリンテッド回路基板等のベース基板やカバー基材等の電子部品や電子機器類の素材として用いることができる。
【0105】
なかでも、このポリイミドフィルムは、耐熱性、絶縁性、各種薄膜の成膜性に優れ、更には、表面に光反射性に優れる電極層を形成できるので、太陽電池用基板として特に好適に用いることができる。すなわち、本発明の製造方法によって得られるポリイミドフィルムを太陽電池用基板として用い、該ポリイミドフィルム上に、電極層、光電変換層、透明電極層を順次形成して太陽電池とすることで、ポリイミドフィルム表面に形成された凹凸形状により、各種薄膜の成膜性及び密着性を損なうことなく、入射光を乱反射して光電変換層内に効率よく閉じ込めて光の利用効率を高めることができ、それによって発電効率を向上した太陽電池を得ることができる。
【0106】
また、ポリイミドフィルム上に印刷されるインク等との密着性を高くできるので、プリンテッド回路基板用ベース基板として好適に用いることができる。
【0107】
[ポリイミドフィルムを用いた太陽電池]
以下、本発明で得られたポリイミドフィルムを太陽電池用基板として用いた太陽電池の製造方法について、CIS系太陽電池を例に挙げて説明する。
【0108】
まず、基板であるポリイミドフィルム上に電極層を形成する。電極層は、導電性材料層であればよいが、通常、金属層であり、好ましくはMo層である。電極層は、スパッタリング法や蒸着法によって成膜して形成することができる。前記第二の実施形態や第三の実施形態の製造方法で得られた多層のポリイミドフィルムの場合は、例えば表層に凹凸が形成された面に電極層を形成する。
【0109】
また、必要に応じて、基板であるポリイミドフィルムと電極層の間に下地金属層を設けることもできる。下地金属層は、例えばスパッタリング法や、蒸着法などのメタライジング法によって形成することができる。
【0110】
次に、基板の裏面(電極層を形成した側とは反対側の面)に、保護層を形成する。保護層は、25〜500℃の線膨張係数が1〜20ppm/℃程度のものが好ましく、1〜10ppm/℃程度のものが特に好ましい。このような保護層を設けることにより、電極層や半導体層のクラックの発生、基板の反りの発生を効果的に抑制することができる。
【0111】
保護層は、特に限定されるものではないが、金属層が挙げられ、特に電極層と同じ材料が好ましく、Mo層がより好ましい。保護層は、スパッタリング法や蒸着法によって形成することができる。
【0112】
保護層は必要に応じて設ければよく、本発明のポリイミドフィルムを基板として用いた場合、保護層を設けなくても、電極層や半導体層のクラックの発生を十分に抑制できることもある。
【0113】
保護層と電極層の形成順序は特に限定は無い。保護層を形成した後に電極層を形成してもよいが、電極層を形成した後に保護層を形成することが好ましい。電極層、保護層の順に形成する方が、言い換えると、先に積層した金属層を電極として使用する方が、電極層や半導体層のクラックの発生が少なくなることがある。
【0114】
次に、電極層上に、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む薄膜層を形成する。この薄膜層は、典型的には、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素のみからなる薄膜であり、後の熱処理によって太陽電池の光吸収層となる。Ib族元素としては、Cuが好ましい。IIIb族元素としては、InおよびGaからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素が好ましい。VIb族元素としては、SeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素が好ましい。
【0115】
薄膜層は、蒸着法やスパッタリング法によって形成することができる。薄膜層を形成する際の基板温度は、例えば室温(20℃程度)〜400℃程度であり、後の熱処理における最高温度よりも低い温度である。薄膜層は、複数の層からなる多層膜であってもよい。
【0116】
電極層と薄膜層の間には、例えば、Li、Na、KなどのIa族元素を含む層や、他の層を形成してもよい。Ia族元素を含む層としては、例えば、Na
2S、NaF、Na
2O
2、Li
2SまたはLiFからなる層が挙げられる。これらの層は、蒸着法やスパッタリング法によって形成することができる。
【0117】
次に、薄膜層を熱処理して、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層(カルコパイライト構造半導体層)を形成する。この半導体層が太陽電池の光吸収層として機能する。
【0118】
薄膜層を半導体層に変換するための熱処理は、窒素ガス、酸素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で行うことが好ましい。あるいは、SeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つ元素を含有する蒸気雰囲気中で行うことが好ましい。
【0119】
熱処理は、薄膜層を、好ましくは10℃/秒〜50℃/秒の範囲内の昇温速度で、500℃〜550℃の範囲内、好ましくは500℃〜540℃の範囲内、さらに好ましくは500℃〜520℃の範囲内の温度にまで加熱した後、好ましくは10秒〜5分間、この範囲内の温度で保持することが好ましい。その後、薄膜層を自然冷却するか、または、ヒータを用いて自然冷却よりも遅い速度で薄膜層を冷却する。
【0120】
このようにして、光吸収層となるIb族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層を形成する。形成される半導体層は、例えば、CuInSe
2、Cu(In,Ga)Se
2、またはこれらのSeの一部をSで置換したCuIn(S,Se)
2、Cu(In,Ga)(S,Se)
2半導体層である。
【0121】
また、半導体層は、次のようにして形成することもできる。
【0122】
電極層上に、VIb族元素を含まない、Ib族元素とIIIb族元素とを含む薄膜層、典型的には、Ib族元素とIIIb族元素のみからなる薄膜を形成する。そして、この薄膜層を半導体層に変換するための熱処理を、VIb族元素を含む雰囲気中で、好ましくはSeおよびSからなる群より選ばれる少なくとも1つの蒸気雰囲気中で行うことで、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とを含む半導体層を形成することができる。なお、薄膜層の形成方法および熱処理条件は上記と同様である。
【0123】
半導体層を形成した後は、公知の方法に従って、窓層(またはバッファ層)、上部電極層を順に積層し、取り出し電極およびを形成して太陽電池を製造する。窓層としては、例えばCdSや、ZnO、Zn(O,S)からなる層を用いることができる。窓層は2層以上としてもよい。上部電極層としては、例えばITO、ZnO:Al等の透明電極を用いることができる。上部電極層上には、MgF
2等の反射防止膜を設けることもできる。
【0124】
なお、各層の構成や形成方法については特に限定されず、適宜選択することができる。本発明では、基板として、可撓性のポリイミドフィルムを用いるので、ロール・ツー・ロール方式によりCIS系太陽電池を製造することができる。
【0125】
[ポリイミドフィルムをベース基板として用いたプリンテッド回路基板]
次に、本発明で得られたポリイミドフィルムをベース基板として用いたプリンテッド回路基板の製造方法について説明する。
【0126】
ポリイミドフィルムの表面に、導電性パターンを形成する。導電性パターンの形成方法としては、例えば、金属粒子を配合したインクやペーストなどで、ポリイミドフィルム上にパターンを印刷し、必要に応じて熱処理などの後工程を経て導電性パターンを形成する方法が挙げられる。この方法は、従来のサブトラクティブ法のようにパターン部分以外の導電層を除去するという無駄がなく、環境への影響も少ないという特徴がある。本発明で得られたポリイミドフィルムは、耐熱性、絶縁性、各種薄膜の成膜性に優れ、更には、表面の凹凸により表面積の増加、アンカー効果が得られるため、導電性パターンの密着性が良好である。
【0127】
金属粒子を配合したインクあるいはペーストとしては、公知あるいは市販の導電性パターンを形成するために供されている金属ナノ粒子が含まれるインクあるいはペーストを広く用いることが出来る。例えば、三ツ星ベルト製銀ペースト「MDot−SLP/H」(商品名)、ハリマ化成製「NPS typeHP」(商品名)、大研化学製「CA−2503−4」(商品名)が挙げられる。この中で、縮合物の膜(ゾルゲル膜)との密着性から、三ツ星ベルト製銀ペースト「MDot−SLP/H」(商品名)が好適に用いられる。金属ナノ粒子の金属は、銀又は銅が好適に用いられる。
【0128】
金属粒子を配合したインクあるいはペーストの焼成後の膜厚は、特に限定は無いが、好ましくは0.1〜30μmであり、より好ましくは0.3〜20μmであり、特に好ましくは0.5〜15μmである。金属粒子を配合したインクあるいはペーストの焼成後の膜厚が、0.1μmより薄い場合は、配線材料としての十分な性能が得られない場合がある。また、焼成後の膜厚が30μmより厚い場合はクラックが入ることがある。
【0129】
本発明において、金属粒子を配合したインクあるいはペーストは、様々な印刷方法あるいは塗布方式により、ポリイミドフィルム上に印刷してパターン形成できる。例えば、線状の塗布を行うことが出来るディスペンサー印刷方法を用いた任意の線状のパターン形成、サーマル、ピエゾ、マイクロポンプ、静電気等の各種方式のインクジェット印刷方法を用いた任意の線状あるいは面状のパターン形成、凸版印刷方法、フレキソ印刷方法、平版印刷方法、凹版印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法等の公知の各種印刷方法により任意のパターンを形成することができる。また、グラビアロール方式、スロットダイ方式、スピンコート方式等、公知の各種塗布方式を用い、ポリイミドフィルムの全面あるいは一部に連続した面としてパターンを形成してもよい。また、間欠塗工ダイコーター等を用いポリイミドフィルムの全面あるいは一部に断続した面としてパターンを形成してもよい。また、浸漬塗布方法(ディップ方式ともいわれる)を用い、ポリイミドフィルム全体に金属粒子を配合したインクあるいはペーストを付着させてパターンを形成してもよい。また、ポリイミドフィルムの全面または一部の面に、直接金属粒子を含むインクあるいはペーストを付着させてもよい。より好ましい印刷方法としては、インクジェット印刷方法、フレキソ印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法を挙げることができる。
【0130】
これらの方法によりパターン形成した後、焼成することで導電性パターンを形成できる。焼成条件としては、使用するポリイミドフィルムの種類によってかなり限定されるものの、優れた導電性および焼結の進行によってパターンの強度が増すため、高温であればあるほどよい。例えば、150〜550℃で焼成することが好ましく、より優れた導電性の実現と生産性を鑑み、200〜300℃で焼成することがより好ましい。
【0131】
また、ポリイミドフィルム上に形成した導電性パターンに対して、無電解めっきを行って無電解金属めっき層を形成しても良い。これにより、導電性パターンの導電率をさらに向上させることができる。この際、用いる金属は、無電解めっき可能な金属であれば何ら制限されることは無い。例えば、ニッケルの場合、一般的に広く知られている無電解ニッケルめっきプロセスにより、無電解ニッケルめっき層を形成することが出来る。また、無電解金属めっき層上に、電解めっきを行って、電解めっき層を形成してもよい、電解めっきに用いる金属は、無電解金属めっき層の金属と同じであっても良く、異なるものであっても良い。
【0132】
本発明に係るプリンテッド回路基板は、導電性パターンのベース基板に対する密着性が高く、かつ優れた導電性を得ることが出来る。このプリンテッド回路基板は、プラズマディスプレイパネル、航空機用液晶パネル、カーナビゲーション用液晶パネル等、各種のフラットディスプレイパネルに貼合して用いられる透明電磁波シールドとして用いられる。また、RFID、無線LAN、電磁誘導による給電、電磁波吸収等に用いられる種々のアンテナとしても用いることが出来る。さらには、各種フラットディスプレイパネルに用いられるバス電極やアドレス電極、あるいは半導体インクや抵抗インク、誘電体インクを併用し多数回の印刷を重ね作製される電子回路等を製造するために用いることができる。
【実施例】
【0133】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明の効果を説明する。
【0134】
(1)揮発分量の測定方法
40mlのアルミホイルシャーレに試料を約0.5g採取し、熱風式オーブンで400℃、450℃又は480℃で1時間加熱し、重量の減少を測定することによって求めた。
【0135】
(2)有機材料の揮発温度
以下の調製例2−1、2−5〜2−10、2−14、2−15のポリイミド前駆体溶液に含まれるポリメタクリル酸メチル、以下の調製例2−11、2−12のポリイミド前駆体溶液に含まれるポリアクリル酸―2−エチルヘキシル、以下の調製例2−13のポリイミド前駆体溶液に含まれるポリアクリル酸ブチル、以下の調製例2−2のポリイミド前駆体溶液に含まれる酢酸セルロースおよび、以下の調製例2−3のポリイミド前駆体溶液に含まれる架橋メタクリル酸球状粒子について、上記の方法で400℃での揮発分量を測定したところ、それぞれ、ほぼ100質量%、99.5質量%、98.1質量%、99.2質量%、99.8質量%であり、全て揮発温度が400℃以下であることを確認した。
【0136】
(3)ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドの揮発温度
以下の調製例2−1〜2−15のポリイミド前駆体溶液に含まれるポリアミック酸をイミド化して得られたポリイミドについて、450℃で揮発分量を測定したところ、5質量%以下であり、ポリイミドの揮発温度は450℃以上であることを確認した。また、以下の調製例2−1〜2−8、2−11、2−12、2−13のポリイミド前駆体溶液に含まれるポリアミック酸をイミド化して得られたポリイミドである、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミンとから得られたポリイミドについて、480℃で揮発分量を測定したところ、3.2質量%であり、このポリイミドの揮発温度は480℃以上であることを確認した。
【0137】
(4)ポリイミドフィルムのクレーター状の凹部の測定
・クレーター状の凹部の直径
走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製S−3400N)を用いて、5000倍の倍率で表面写真を撮影し、目視で、クレーター径の範囲を評価した。
・平均クレーター径および平均クレーター深さ
三次元非接触表面形状測定装置(株式会社菱化システム製マイクロマップMM3200−M100)を使用して、50倍の倍率で表面形状を測定した。0.1μm以上の深さを持つものをクレーターと判定、抽出し、その平均クレーター径、平均クレーター深さを計算した。
【0138】
<第2のポリイミド前駆体溶液の調製>
(調製例1−1)
N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」と記す)に、ジアミン成分としてパラフェニレンジアミン(以下、「PPD」と記す)を加えて攪拌溶解した。得られた溶液に、テトラカルボン酸成分として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「s−BPDA」と記す)を徐々に加え、第2のポリイミド前駆体溶液1を得た。固形分濃度は18質量%であった。
【0139】
(調整例1−2)
DMAcに、ジアミン成分として4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、「DADE」と記す)を加えて攪拌溶解した。得られた溶液に、テトラカルボン酸成分としてピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」と記す)を徐々に加え、第2のポリイミド前駆体溶液2を得た。固形分濃度は18質量%であった。
【0140】
(調整例1−3)
DMAcに、ジアミン成分として、PPDとDADEを、モル比が20:80になるように加えて攪拌溶解した。得られた溶液に、テトラカルボン酸成分として、s−BPDAとPMDAをモル比20:80になるように徐々に加え、第2のポリイミド前駆体溶液3を得た。固形分濃度は18質量%であった。
【0141】
<第1のポリイミド前駆体溶液の調製>
(調製例2−1)
溶媒であるDMAcに、テトラカルボン酸成分としてs−BPDAと、ジアミン成分としてPPDと、有機材料として、溶媒に対して溶解するポリメタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社、試薬一級、重量平均分子量(Mw)約100,000)をDMAc、s−BPDAおよびPPDの総質量100質量部に対して2.5質量部とを加え、1時間攪拌して、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液1を調製した。有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液1のポリアミック酸の含有量は2.5質量%で、ポリメタクリル酸メチルの含有量は2.5質量%であった。この溶液は均一で、ポリメタクリル酸メチルが完全に溶解していることが確認できた。また、使用したポリメタクリル酸メチルの400℃での揮発分量は、ほぼ100質量%であった。以下、ポリメタクリル酸メチルを「PMMA」と記することがある。
【0142】
(調製例2−2)
調製例2−1において、有機材料として、ポリメタクリル酸メチルの代わりに、溶媒に対して溶解する酢酸セルロース(和光純薬工業株式会社、試薬一級、重量平均分子量(Mw)約150,000)を2.5質量部加えた以外は、調製例2−1と同様にして、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液2を調製した。有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液2のポリアミック酸の含有量は2.5質量%で、酢酸セルロースの含有量は2.5質量%であった。この溶液は均一で、ポリメタクリル酸メチルが完全に溶解していることが確認できた。また、使用した酢酸セルロースの400℃での揮発分量は、99.2質量%であった。
【0143】
(調製例2−3)
調製例2−1において、有機材料として、ポリメタクリル酸メチルの代わりに、溶媒に対して相溶しない架橋メタクリル酸メチル球状粒子(平均粒径5μm、積水化成品工業株式会社製、商品名「テクポリマーMBX−5」)を2.5質量部加えた以外は、調製例2−1と同様にして、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液3を調製した。有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液3のポリアミック酸の含有量は2.5質量%で、架橋メタクリル酸メチル球状粒子の含有量は2.5質量%であった。この溶液はスラリー状で、架橋メタクリル酸メチル球状粒子が球状の形体を保ったまま存在していることが確認できた。また、使用した架橋ポリメタクリル酸メチル球状粒子の400℃での揮発分量は、99.8質量%であった。
【0144】
(調製例2−4)
調製例2−1において、有機材料を使用しなかった以外は、調製例2−1と同様にして、有機材料を含まない第1のポリイミド前駆体溶液4を調製した。
【0145】
(調製例2−5)
調製例2−1において、ポリアミック酸の含有量を3.5質量%で、ポリメタクリル酸メチルの含有量を1.5質量%とした以外は、調製例2−1と同様にして、第1のポリイミド前駆体溶液5を調製した。この溶液は均一で、ポリメタクリル酸メチルが完全に溶解していることが確認できた。
【0146】
(調製例2−6)
調製例2−5において、重量平均分子量(Mw)を100,000に制御したポリメタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社、試薬)を使用した以外は、調整例2−5と同様にして、第1のポリイミド前駆体溶液6を調整した。この溶液は均一で、ポリメタクリル酸メチルが完全に溶解していることが確認できた。また、使用したポリメタクリル酸メチルの400℃での揮発分量は、ほぼ100質量%であった。
【0147】
(調製例2−7)
調製例2−5において、重量平均分子量(Mw)を350,000に制御したポリメタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社、試薬)を使用した以外は、調整例2−5と同様にして、第1のポリイミド前駆体溶液7を調整した。この溶液は、透明でポリメタクリル酸メチルが完全に溶解していることが確認できたが、2相に分離していた。撹拌すると細かいエマルジョン状態になり、しばらくはエマルジョン状態で安定であった。また、使用したポリメタクリル酸メチルの400℃での揮発分量は、ほぼ100質量%であった。
【0148】
(調製例2−8)
調製例2−5において、重量平均分子量(Mw)を75,000に制御したポリメタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社、試薬)を使用した以外は、調整例2−5と同様にして、第1のポリイミド前駆体溶液8を調整した。この溶液は均一で、ポリメタクリル酸メチルが完全に溶解していることが確認できた。また、使用したポリメタクリル酸メチルの400℃での揮発分量は、ほぼ100質量%であった。
【0149】
(調整例2−9)
DMAc95質量部に、テトラカルボン酸成分として2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「a−BPDA」と記す)を2.1質量部、ジアミン成分としてDADEを1.4質量部、有機材料としてポリメタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社、試薬一級、重量平均分子量(Mw)約100,000)を1.5質量部加え、1時間攪拌して、第1のポリイミド前駆体溶液9を調製した。この溶液は均一で、ポリメタクリル酸メチルが完全に溶解していることが確認できた。
【0150】
(調整例2−10)
DMAcに、ジアミン成分としてPPDと、有機材料としてポリメタクリル酸メチル(和光純薬工業株式会社、試薬、重量平均分子量(Mw)約100,000)を加えて攪拌溶解した。得られた溶液に、テトラカルボン酸成分としてs−BPDAを徐々に加え、第1のポリイミド前駆体溶液10を得た。ポリアミック酸濃度は12.6質量%、ポリメタクリル酸メチル濃度は5.4質量%であった。
【0151】
(調製例2−11)
調製例2−1において、有機材料として、ポリメタクリル酸メチルの代わりに、溶媒に対して溶解するカルボキシル基含有ポリアクリル酸−2−エチルヘキシル(綜研化学株式会社製:アクトフローCB3060、重量平均分子量(Mw)約3,000、酸価60mgKOH/g)を2.5質量部加えた以外は、調製例2−1と同様にして、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液11を調製した。有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液11のポリアミック酸の含有量は2.5質量%で、ポリアクリル酸−2−エチルヘキシルの含有量は2.5質量%であった。この溶液は均一で、ポリアクリル酸−2−エチルヘキシルが完全に溶解していることが確認できた。また、使用したポリアクリル酸−2−エチルヘキシルの400℃での揮発分量は、99.5質量%であった。
【0152】
(調製例2−12)
調製例2−11において、有機材料として、重量平均分子量(Mw)が約3,000、酸価98mgOH/gのカルボキシル基含有ポリアクリル酸−2−エチルヘキシル(綜研化学株式会社製:アクトフローCB3098)を使用した以外は、調整例2−11と同様にして、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液12を調製した。有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液12のポリアミック酸の含有量は2.5質量%で、カルボキシル基含有ポリアクリル酸−2−エチルヘキシルの含有量は2.5質量%であった。この溶液は均一で、カルボキシル基含有ポリアクリル酸−2−エチルヘキシルが完全に溶解していることが確認できた。また、使用したカルボキシル基含有ポリアクリル酸−2−エチルヘキシルの400℃での揮発分量は、99.5質量%であった。
【0153】
(調製例2−13)
調製例2−1において、有機材料として、ポリメタクリル酸メチルの代わりに溶媒に対して溶解するシリル基含有ポリアクリル酸ブチル(綜研化学株式会社製:アクトフローNE1000、重量平均分子量(Mw)約3,000、シリル基7%)を2.5質量部加えた以外は、調製例2−1と同様にして、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液13を調製した。有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液13のポリアミック酸の含有量は2.5質量%で、シリル基含有ポリアクリル酸ブチルの含有量は2.5質量%であった。この溶液は均一で、シリル基含有ポリアクリル酸ブチルが完全に溶解していることが確認できた。また、使用したシリル基含有ポリアクリル酸ブチルの400℃での揮発分量は、98.1質量%であった。
【0154】
(調製例2−14)
調製例2−1において、ジアミン成分として、PPDの代わりにDADEを原料に用い、テトラカルボン酸成分として、s−BPDAの代わりにPMDAを原料に用いた以外は調整例2−1と同様にして、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液14を調製した。
【0155】
(調製例2−15)
調製例2−1において、ジアミン成分として、PPDの代わりにPPDとDADE(モル比20:80)を原料に用い、テトラカルボン酸成分として、s−BPDAの代わりにBPDAとPMDA(モル比20:80)を原料に用いた以外は調整例2−1と同様にして、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液15を調製した。
【0156】
<ポリイミドフィルムの製造>
(実施例1)
調製例1−1で製造した有機材料を含む第2のポリイミド前駆体溶液を、最終乾燥後の厚みが50μmになるようにガラス板上に流延し、120℃で20分乾燥して第2の自己支持性フィルムを作成した。この第2の自己支持性フィルムに、調整例2−1で得られた第1のポリイミド前駆体溶液1を、12g/m
2となるようにバーコーターで塗工し、120℃で2分乾燥させた後、ガラス板から剥離した。剥離したフィルムを四方テンターに張替え、150℃×2分、200℃×2分、250℃×2分、450℃×2分の順で加熱乾燥、イミド化を行い、ポリイミドフィルムを製造した。最高加熱温度は450℃であった。得られたポリイミドフィルムの厚みは30μmであった。ポリイミドフィルムの表面には、直径1〜20μm程度のクレーター状の凹部が形成されていた。ポリイミドフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像(8000倍)を
図1に示す。
【0157】
(実施例2)
実施例1において、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−2で得られた有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液2を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径1〜20μm程度のクレーター状の凹部が形成されていた。
【0158】
(実施例3)
実施例1において、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−3で得られた有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液3を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径10〜50μm程度のクレーター状の凹部が形成されていた。ポリイミドフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)の観察画像(1000倍)を
図2に示す。
【0159】
(実施例4)
実施例1において、第2のポリイミド前駆体溶液を、最終乾燥後の得られたポリイミドフィルムの厚みが25μmになるようにガラス板上に流延した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.5〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0160】
(実施例5)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−6で得られた第1のポリイミド前駆体溶液6を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.5〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0161】
(実施例6)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−7で得られた第1のポリイミド前駆体溶液7を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径1〜20μm程度のクレーター状の凹部が形成されていた。
【0162】
(実施例7)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−8で得られた第1のポリイミド前駆体溶液8を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.5〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0163】
(実施例8)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−9で得られた第1のポリイミド前駆体溶液9を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.8〜5μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0164】
(実施例9)
調製例1−1で製造した第2のポリイミド前駆体溶液を、最終乾燥後の得られたポリイミドフィルムの厚みが50μmになるようにTダイ金型のスリットから連続的にキャスティングし、乾燥炉中の平滑な金属支持体上に押出して、薄膜を形成した。この薄膜を130℃で10分間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。
この自己支持性フィルムの上に、調整例2−1で得られた第1のポリイミド前駆体溶液1を14g/m
3厚みで、連続的に塗布し、80℃で2分間乾燥した。この乾燥フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉へ挿入し、200℃から徐々に昇温し、総滞留時間5分、炉内における最高加熱温度が500℃程度となる条件で当該フィルムを加熱、イミド化して、長尺状ポリイミドフィルムを連続的に製造した。
得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.8〜2.5μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0165】
(実施例10)
調製例2−10で製造した第1のポリイミド前駆体溶液を、最終乾燥後の厚みが50μmになるようにガラス板上に流延し、120℃で20分乾燥して自己支持性フィルムを作成した。この自己支持性フィルムをガラス板から剥離した後、四方テンターに張替え、150℃×2分、200℃×2分、250℃×2分、450℃×2分の順で加熱乾燥、イミド化を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径3〜20μm程度のクレーター状の凹部が形成されていた。
【0166】
(実施例11)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−11で得られた第1のポリイミド前駆体溶液11を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.3〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0167】
(実施例12)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−12で得られた第1のポリイミド前駆体溶液12を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.3〜3μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0168】
(実施例13)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−13で得られた第1のポリイミド前駆体溶液13を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.3〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0169】
(実施例14)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−14で得られた第2のポリイミド前駆体溶液14を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.3〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0170】
(実施例15)
実施例4において、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−15で得られた第2のポリイミド前駆体溶液15を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.3〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0171】
(実施例16)
実施例4において、第2のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例1−2で得られた第2のポリイミド前駆体溶液2(PMDA−DADE)を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.1〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0172】
(実施例17)
実施例4において、第2のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例1−2で得られた第2のポリイミド前駆体溶液2(PMDA−DADE)を用い、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−14で得られた第1のポリイミド前駆体溶液14(PMDA−DADE)を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.1〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0173】
(実施例18)
実施例4において、第2のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例1−3で得られた第2のポリイミド前駆体溶液3(PMDA−s−BPDA−DADE−PPD)を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.1〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0174】
(実施例19)
実施例4において、第2のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例1−3で得られた第2のポリイミド前駆体溶液3(PMDA−s−BPDA−DADE−PPD)を用い、第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、調整例2−15で得られた第1のポリイミド前駆体溶液15(PMDA−s−BPDA−DADE−PPD)を用いた以外は、実施例4と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面には、直径0.1〜2μm程度のクレーター状の微細な凹部が形成されていた。
【0175】
(比較例1)
実施例1において、有機材料を含む第1のポリイミド前駆体溶液1の代わりに、有機材料を含まない第1のポリイミド前駆体溶液4を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、ポリイミドフィルムを製造した。得られたポリイミドフィルムの表面は平面性を維持しており、クレーター状の微細な凹凸形状が形成されなかった。
【0176】
実施例1〜19のポリイミドフィルムのクレーター部の形状について、表1にまとめて記す。
【0177】
【表1】
【0178】
(実施例20)
実施例12で得られたクレーター状の微細な凹部が形成されているポリイミドフィルムに、銀ナノ粒子(三星ベルト社製、Mdot)を含むインクを印刷し、250℃で30分間焼成した。得られたポリイミド−銀複合体をJISK5400に従い碁盤目剥離試験で密着性を評価した。その結果、剥離部分は0/100であり完全に密着していることが確認できた。
【0179】
(比較例2)
比較例1で得られた、クレーターが形成されていないポリイミドフィルムを用いて、実施例23と同様にしてポリイミド−銀複合体を調製し、碁盤目剥離試験を行った。その結果、剥離部分は100/100であり、全面剥離した。