特許第6036811号(P6036811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6036811二次電池用正極活物質及びそれを使用した二次電池
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  • 特許6036811-二次電池用正極活物質及びそれを使用した二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036811
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】二次電池用正極活物質及びそれを使用した二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20161121BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20161121BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-510012(P2014-510012)
(86)(22)【出願日】2012年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2012076547
(87)【国際公開番号】WO2013153690
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2015年9月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-92044(P2012-92044)
(32)【優先日】2012年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 (社)電気化学会電池技術委員会 刊行物名 第52回電池討論会 講演要旨集 発行年月日 平成23年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(74)【代理人】
【識別番号】100129610
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 暁子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 牧子
(72)【発明者】
【氏名】野口 健宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 英明
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−273899(JP,A)
【文献】 特開2001−202962(JP,A)
【文献】 特許第5958343(JP,B2)
【文献】 特開2009−176583(JP,A)
【文献】 特開2002−158008(JP,A)
【文献】 特開2003−197194(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014793(WO,A1)
【文献】 S. Rajakumar et al.,Electrochemical Behavior of LiM0.25Ni0.25Mn1.5O4 as 5 V Cathode Materials for Lithium Rechargeable Batteries,Journal of The Electrochemical Society,2009年,Vol.156,A246-A252
【文献】 R. Alcantara et al.,Synergistic Effects of Double Substitution in LiNi0.5-yFeyMn1.5O4 Spinel as 5 V Cathode Materials,Journal of The Electrochemical Society,2005年,Vol.152,A13-A18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
C01G 53/00
H01M 4/525
CA/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
Li(FeNiMn2−x−y−z)O (I)
(式(I)中、0.2<x≦1.2、0<y<0.5、0≦a≦1.0、0<z≦0.3である。Aは、Li、B、Na、Mg、Al、K及びCaからなる群から選択される少なくとも一種である。ただし、0.4≦x≦1.2、かつ0.2≦y<0.5である場合を除く。)
で表される二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記式(I)のxが、0.2<x≦0.6である請求項1に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記式(I)のyが、0<y≦0.3である請求項1または2に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記式(I)のAが、Li、Mg及びAlからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項5】
Feの3価と4価の価数変化による充放電領域を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の二次電池用正極活物質を含む二次電池用正極。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池用正極を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態はリチウム二次電池用正極活物質及びそれを使用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系電解液を用いるリチウムイオン二次電池は高い電圧が得られるためエネルギー密度が高い特徴を有しており、携帯電話、ノート型パソコン等の電源として広く用いられている。近年では、CO規制強化に伴い該二次電池の電気自動車等の大型用途への利用も注目されていることから、安全性向上、寿命向上、低コスト化等の課題解決が望まれている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、LiCoOがよく知られている。LiCoOは良好な特性を示すことから多くのリチウムイオン二次電池に用いられている。しかし、LiCoOは原料のCoが高価である上、資源が偏在しているため変動要因が多いこと等が問題とされている。特に、大型用途では、価格と資源の安定供給性は材料選びにおいて重要であるため、代替材料の検討は不可欠である。
【0004】
他の正極活物質としては、LiNiOが挙げられる。NiはCoと比べると資源的には豊富であるが、需要バランスによる価格変動が大きな原料である。また、LiNiOは、3価のNiが不安定で2価になりやすいため非化学量論組成になること、また2価のNiのリチウムサイトへの浸入が起こり得ることなどの理由から合成制御が難しい。更に、LiNiOは熱的に不安定なため二次電池の安全性を確保することが難しい。
【0005】
一方、コスト面や安全性の面から、三次元のリチウム拡散経路を持つスピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物であるLiMnが有望視されている。LiMnの原料であるMnは資源的に豊富に存在し、比較的安価である上、過充電時や高温時における熱分解が起こりにくいため、安全性確保の観点から有利である。しかしながら、LiMnは、サイクルに伴う劣化や高温で保存すると電解液中へMn溶出が生じること等が問題とされている。これは、Liの挿入に伴い増加する3価のMnのJahn−Teller(ヤーン・テラー)歪みに起因するものであり、これにより結晶構造の不安定化が起こり、サイクルに伴う性能劣化等が発生すると考えられている。
【0006】
このJahn−Teller歪みを減少させる目的で、3価のMnを異種元素で置換する試みがなされている。例えば特許文献1では、スピネル構造を有しMnの一部をAlで置換した、組成式LiMn(2−y)Al(0.85≦x≦1.15、0.02≦y≦0.5)のリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用いることにより、過放電時の容量維持率を向上できることが開示されている。更に、MgやCa(特許文献2)、Ti(特許文献3)、Co、Ni、Fe、Cr(特許文献4)等の元素により置換することで寿命向上等の効果が確認されている。
【0007】
更にリチウムマンガン複合酸化物は、放電電位が4.2V以下であるいわゆる4V級正極であり、放電容量も小さいため、高エネルギー密度化の点で技術的な課題があった。リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させる方法として、二次電池の作動電位を上昇させる方法が有効である。これまでに、LiMnのMnの一部をNi、Co、Fe、Cu、Cr等で置換することにより、5V級の動作電位を実現できることが知られている(例えば、特許文献5、非特許文献1、非特許文献2)。これらは5V級正極と呼ばれている。
【0008】
この中でもMnサイトの一部をNiで置換したリチウムマンガン複合酸化物は放電電位が平坦であり、4.5V以上の領域で高容量を示すことから、高電位正極活物質として期待されている。例えば、Mnサイトの一部をNiで置換した場合、Mnは4価の状態で存在し、Mn3+→Mn4+の反応に代わり、Ni2+→Ni4+の反応によって放電が起こる。Ni2+→Ni4+の反応はおよそ4.7V付近の高い電位を有することから、高電位の電極材料として機能する。
【0009】
一方、自動車業界を始めとする様々な産業分野においてリチウムイオン二次電池の需要が高まると予想される中で、置換元素にFeを用いたものは、資源面、環境面、コスト面において非常に有利である。Mnサイトの一部をFeで置換した場合、Mn3+→Mn4+の反応に代わり、Fe3+→Fe4+の反応が起こる。Fe3+→Fe4+の反応は4.9V付近で起こることが知られている。これまでに、Mnサイトの一部をFeで置換した高電位スピネル材料が開示されている(特許文献6、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平04−289662号公報
【特許文献2】特開平03−108261号公報
【特許文献3】特開平08−17423号公報
【特許文献4】特開平04−282560号公報
【特許文献5】特開平09−147867号公報
【特許文献6】特開2000−90923号公報
【特許文献7】特開2010−97845号公報
【特許文献8】特開2000−235857号公報
【特許文献9】特開2002−42814号公報
【特許文献10】特開2002−158008号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H.Kawai等著、ジャーナル オブ パワー ソースイズ(Journal of Power Sources) 81−82巻、67−72頁、1999年
【非特許文献2】T.Ohzuku等著、ジャーナル オブ パワー ソースイズ(Journal of Power Sources) 81−82巻、90−94頁、1999年
【非特許文献3】R.Alcantara等著、ジャーナル オブ エレクトロケミカル ソサイエティ(Journal of The Electrochemical Society) 152巻(1)、A13−A18頁、2005年
【非特許文献4】S.Rajakumar等著、ジャーナル オブ エレクトロケミカル ソサイエティ(Journal of The Electrochemical Society) 156巻(3)、A246−A252頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
Mnの一部をFeで置換した場合、組成式Li(FeMn2−x)OにおけるFeの組成比がx=1のとき、理論的には全てのMnの価数が4価になるため、Fe3+→Fe4+の高電位での反応により高エネルギー密度化が期待される。しかしながら、Feの組成比xが1に近づくと構造が不安定となり、合成が困難になると同時に容量低下が起こる。このため、特許文献6、特許文献7においても、置換元素がFeのみの場合、十分な放電エネルギーは得られない。また、サイクルに伴う容量低下が生じる。
【0013】
Mnの一部をNiとFe等の各種元素で置換した5V級正極の開示例(特許文献8、特許文献9、特許文献10、非特許文献3、非特許文献4)があるが、これらのFeによる置換量はいずれもごくわずかであり、低コスト化において更なる改善が求められている。また、これらの文献においてはFeの価数変化に関する言及はなされておらず、Feによる置換量の増加に伴う放電エネルギーの低下、サイクルに伴う容量低下が生じる。さらに、これらの文献においては、Mnの一部を3種類以上の元素で置換した場合については言及されていない。
【0014】
本実施形態は、低コストで、サイクルに伴う容量低下の抑制が可能な二次電池用正極活物質及びそれを使用した二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本実施形態に係る二次電池用正極活物質は、下記式(I)
Li(FeNiMn2−x−y−z)O (I)
(式(I)中、0.2<x≦1.2、0<y<0.5、0≦a≦1.2、0<z≦0.3である。Aは、Li、B、Na、Mg、Al、K及びCaからなる群から選択される少なくとも一種である。)で表される。
【発明の効果】
【0016】
本実施形態によれば、低コスト化、サイクルに伴う容量低下の抑制を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る二次電池の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[二次電池用正極活物質]
Mnを他元素で置換する技術は4V級正極において数多くの開示例がある。しかしながら、これらが結晶構造の安定性を高めることを目的としているのに対し、本実施形態に係る二次電池用正極活物質では置換元素であるNiとFeの価数変化を利用し、高電位での動作を確保することを特徴とする。
【0019】
Feは原料コストや資源面で非常に有利な材料であるが、十分なエネルギー密度が得られていない。Niは原料コストの変動が大きいことと、Niの触媒作用により電解液の分解等が起こり易いことから長寿命化の面でも課題を有している。本実施形態に係る二次電池用正極活物質では、Mnの一部をFe、Niのみならず、元素Aでも置換することにより、低コスト化及びサイクルに伴う容量低下の抑制を実現できる。
【0020】
本実施形態係る二次電池用正極活物質は、下記式(I)
Li(FeNiMn2−x−y−z)O (I)
(式(I)中、0.2<x≦1.2、0<y<0.5、0≦a≦1.2、0<z≦0.3である。Aは、Li、B、Na、Mg、Al、K及びCaからなる群から選択される少なくとも一種である。)で表される。
【0021】
前記式(I)において、Feの組成比xは0.2<x≦1.2である。xが0.2以下の場合、低コスト化と長寿命化の観点から好ましくない。一方、xが1.2を超える場合、結晶構造が不安定になり容量低下が起きるため好ましくない。前記式(I)において、Feの組成比xは、好ましくは0.2<x≦1.0、より好ましくは0.2<x≦0.6、さらに好ましくは0.25≦x≦0.4である。
【0022】
前記式(I)において、Niの組成比yは0<y<0.5である。y=0、即ちNiを含まない場合、高容量化の観点から好ましくない。一方、yが0.5以上の場合、長寿命化の観点から好ましくない。前記式(I)において、Niの組成比yは、好ましくは0<y≦0.4であり、より好ましくは0<y≦0.3であり、さらに好ましくは0.1≦y≦0.3である。
【0023】
Mnの置換元素であるFeは放電状態において3価であることが好ましく、Niは2価であることが好ましい。このとき、MnをFeで置換した場合、前記式(I)において、Feの組成がx=1のときMnは全て4価になるのに対し、MnをNiで置換した場合、Niの組成がy=0.5のときMnは全て4価になる。本実施形態においてはMnをFeとNiの両方で置換するため、前記式(I)において、x+2y=1であることが好ましいが、FeとNiの総置換量が増えると、Liと遷移金属元素のカチオンミキシングが起こり易くなることと、単相のスピネルが得られにくくなることで、容量低下を招くことがある。このことから、FeとNiの置換量の和は0<x+y≦0.7であることが好ましく、0<x+y<0.7であることがより好ましく、0.4≦x+y<0.7であることがさらに好ましく、0.5≦x+y≦0.6が特に好ましい。
【0024】
前記式(I)において、Liの組成比aは0≦a≦1.2である。Liの組成比aは0.8≦a≦1.1であることが好ましい。
【0025】
本実施形態に係る二次電池用正極活物質は、Mnの一部が元素Aで置換されている。元素Aには、1価〜3価の価数をとり、かつMnよりも軽量な金属である、Li、B、Na、Mg、Al、K及びCaからなる群から選択される少なくとも一種が用いられる。元素Aを導入することにより、Mnの価数変化を防止して高い動作電位を実現しつつ、電極の軽量化、サイクルに伴う容量低下の抑制を実現できる。サイクルに伴う容量低下の抑制効果が得られるのは、Mnを元素Aで置換することにより、結晶構造をより安定化させることができるためと推測される。元素Aは、Li、Mg及びAlからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。前記式(I)において、元素Aの組成比zは0<z≦0.3である。元素Aの組成比zは0.01≦z≦0.2であることが好ましい。
【0026】
本実施形態における二次電池用正極活物質は、Feの3価と4価の価数変化による充放電領域を有することが好ましい。Feの3価と4価の価数変化はリチウム基準電位に対して4.8V以上で生じる。なお、該充放電領域を有するか否かは、対象とする正極活物質を用いた二次電池の放電曲線より判断することができる。
【0027】
本実施形態における二次電池用正極活物質の比表面積は0.01m/g以上、3m/g以下であることが好ましく、0.05m/g以上、1m/g以下であることがより好ましい。該比表面積が3m/g以下であることにより、正極の作製において結着剤が多量に必要ではなくなり、正極の容量密度の観点から有利になる。なお、前記比表面積はBET法により測定した値である。
【0028】
本実施形態における二次電池用正極活物質の原料としては、特に限定されないが、例えばLi原料としては、LiCO、LiOH、LiO、LiSO等を用いることができる。この中でも、LiCO、LiOHが好ましい。Mn原料としては、電解二酸化マンガン(EMD)、Mn、Mn、CMD(chemical manganese dioxide)等の種々のMn酸化物、MnCO、MnSO等を用いることができる。Fe原料としては、Fe、Fe、Fe(OH)、FeOOH等を用いることができる。Ni原料としては、NiO、Ni(OH)、NiSO、Ni(NO等を用いることができる。元素Aの原料としては、元素Aの酸化物、炭酸塩、水酸化物、硫化物、硝酸塩等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
これらの原料を目的の金属組成比となるように秤量して混合する。混合は、ボールミル、ジェットミル等により粉砕混合することにより行うことができる。得られた混合粉を400℃から1200℃の温度で、空気中又は酸素中で焼成することによりリチウムマンガン複合酸化物である正極活物質が得られる。それぞれの元素を拡散させるために焼成温度は高い方が好ましいが、焼成温度が高すぎると酸素欠損を生じ電池特性が低下する場合がある。このことから、焼成温度は450℃から1000℃であることが好ましい。なお、前記式(I)における各元素の組成比は、各元素の原料の仕込み量から算出した値である。
【0030】
[二次電池用正極]
本実施形態に係る二次電池用正極は、本実施形態に係る二次電池用正極活物質を含む。本実施形態に係る二次電池用正極は、例えば以下の方法により作製することができる。本実施形態に係る正極活物質を導電性付与剤と混合し、更に結着剤を混合して集電体上に塗布する。
【0031】
前記導電性付与剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、繊維状炭素、黒鉛等の炭素材料の他、Al等の金属物質、導電性酸化物の粉末等を用いることができる。前記結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を用いることができる。前記集電体としてはAl等を主体とする金属薄膜を用いることができる。
【0032】
前記導電性付与剤の添加量は正極活物質に対して1〜10質量%であることが好ましい。導電性付与剤の添加量を1質量%以上とすることにより、導電性を十分とすることができる。また、導電性付与剤の添加量を10質量%以下とすることにより、正極活物質の含有割合が大きくなるため質量あたりの容量を大きくすることができる。
【0033】
前記結着剤の添加量は正極活物質に対して1〜10質量%であることが好ましい。結着剤の添加量を1質量%以上とすることにより、電極剥離を抑制することができる。また、結着剤の添加量を10質量%以下とすることにより、正極活物質の含有割合が大きくなるため質量あたりの容量を大きくすることができる。
【0034】
[二次電池]
本実施形態に係る二次電池は、本実施形態に係る二次電池用正極を備える。
【0035】
(二次電池の構成)
本実施形態に係る二次電池の一例としては、本実施形態に係る二次電池用正極と、電解液と、該電解液を介して対向配置される負極とを備える。本実施形態に係る二次電池の具体的な構成としては、例えば、本実施形態に係る二次電池用正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、該正極と該負極との間に挟まれ該正極と該負極との電気的接続を起こさないセパレータと、該正極、該負極及び該セパレータが浸漬されるリチウムイオン伝導性の電解液と、が電池ケースの中に密閉された構成とすることができる。
【0036】
本実施形態に係る二次電池の形態は特に制限されず、例えばセパレータを挟んで対向した正極、負極を巻回する巻回型、セパレータを挟んで対向した正極、負極を積層する積層型等の形態を取ることができる。セルには、コイン型、ラミネートパックを用いることができる。セル形状としては、角型セル、円筒型セル等を用いることができる。
【0037】
図1に本実施形態に係る二次電池の一例として、ラミネートタイプの二次電池を示す。本実施形態に係る正極活物質を含む正極活物質層1と正極集電体3とからなる正極と、負極活物質層2と負極集電体4とからなる負極との間に、セパレータ5が挟まれている。正極集電体3は正極リード端子8と接続され、負極集電体4は負極リード端子7と接続されている。外装には外装ラミネート6が用いられ、二次電池内部は電解液で満たされている。
【0038】
(電解液)
前記電解液には、溶媒に電解質としてリチウム塩を溶解させた溶液を用いることが出来る。溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステル等の非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。これらは一種又は二種以上を混合して使用できる。これらの中でも、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを単独で又は混合して用いることが好ましい。
【0039】
前記リチウム塩としては、例えばLiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCCO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類等が挙げられる。これらは一種又は二種以上を混合して使用できる。
【0040】
前記電解液の電解質濃度は、例えば0.5mol/lから1.5mol/lとすることができる。電解質濃度が1.5mol/l以下であれば、電解液の密度と粘度の増加を抑制することができる。また、電解質濃度が0.5mol/l以上であれば、電解液の電気電導率を十分とすることができる。なお、前記電解液に代えてポリマー電解質を用いてもよい。
【0041】
(負極)
前記負極は、例えば以下の方法により作製することができる。負極活物質を導電性付与剤と混合し、更に結着剤を混合して集電体上に付与する。
【0042】
前記負極活物質としては、リチウムを吸蔵放出可能な材料として、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料、Li金属、Si、Sn、Al、SiO、SnO、LiTi12等を単独で又は混合して用いることができる。前記導電性付与剤としては、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、繊維状炭素、黒鉛等の炭素材料の他、導電性酸化物の粉末等を用いることができる。前記結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を用いることができる。集電体としてはAl、Cu等を主体とする金属箔を用いることができる。
【0043】
(二次電池の作製方法)
本実施形態に係る二次電池の作製方法としては、例えば、乾燥空気又は不活性ガス雰囲気において、本実施形態に係る二次電池用正極及び負極を、セパレータを介して積層した積層体を、電池缶に収容して作製することができる。また、該積層体を合成樹脂と金属箔とを積層した可とう性フィルム等によって封口して作製することができる。なお、該積層体の代わりに、該積層体を捲回したものを用いることもできる。
【実施例】
【0044】
以下に本実施形態の実施例を詳述する。
【0045】
[実施例1]
正極活物質の原料として、MnO、Fe、NiO、LiCO、ならびに、Bの原料としてはB、Caの原料としてはCaO、Kの原料としてはKO、Mgの原料としてはMgO、Naの原料としてはNaO、およびAlの原料としてはAlを表1に示す金属組成比になるように秤量し、粉砕混合した。原料混合後の粉末を800℃で8時間焼成して正極活物質を作製した。
【0046】
(放電容量、放電平均電圧評価)
作製した正極活物質と導電性付与剤である炭素(商品名:VGCF、昭和電工(株)製)とを混合し、N−メチルピロリドンに結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解させた溶液に分散させ、スラリーとした。正極活物質、導電性付与剤、結着剤の質量比は92/4/4とした。Al集電体上に該スラリーを塗布した。その後、真空中で12時間乾燥させて、電極材料とした。該電極材料を直径12mmの円に切り出した。その後、3t/cmで加圧成形した。これにより正極を作製した。負極にはLi金属箔を用いた。セパレータにはポリプロピレン(PP)のフィルムを使用した。セパレータを介して正極と負極とを対向配置させ、ラミネートセル内に配置し、電解液を満たして密閉した。電解液には、溶媒EC/DMC=4/6(vol.%)に電解質LiPFを1mol/lの濃度で溶解させた溶液を使用した。
【0047】
以上のようにして作製した二次電池について電池特性を評価した。評価の際、0.1Cの充電レートで5.2Vまで充電を行い、0.1Cのレートで3Vまで放電を行った。表1に放電容量、リチウム金属に対する放電平均電圧、及びリチウム金属電位に対する正極活物質質量あたりの放電エネルギーを示す。
【0048】
(サイクル特性評価)
前記正極を使用して、サイクル特性を評価した。負極は以下のようにして作製した。負極活物質としてのグラファイトに、導電性付与剤である炭素(商品名:VGCF、昭和電工(株)製)を混合し、N−メチルピロリドンにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解させた溶液に分散させ、スラリーとした。負極活物質、導電性付与剤、結着剤の質量比は90/1/9とした。Cu集電体上に該スラリーを塗布した。その後、真空中で12時間乾燥させて、電極材料とした。該電極材料を直径13mmの円に切り出した。その後、1.5t/cmで加圧成形した。これにより負極を作製した。セパレータにはPPのフィルムを使用した。セパレータを介して正極と負極とを対向配置させ、コインセル内に配置し、電解液を満たして密閉し、二次電池を作製した。電解液には、溶媒EC/DMC=4/6(vol.%)に電解質LiPFを1mol/lの濃度で溶解させた溶液を使用した。
【0049】
サイクル特性の評価は20℃の恒温槽中で、1Cの充電レートで5.1Vまで充電を行い、その後、5.1Vで定電圧充電を行った。充電時間の合計は150分とした。次に1Cのレートで3Vまで放電を行った。これを繰り返して500サイクル後の容量維持率を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例2〜16、比較例1〜9]
表1に示す組成の正極活物質を実施例1と同様に調製した以外は実施例1と同様に二次電池を作製し、放電容量、放電平均電圧評価及びサイクル特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示したように、実施例1〜16は前記式(I)の組成の正極活物質、比較例1〜2はMnの一部を1種類の元素のみで置換した正極活物質、比較例3〜9はMnの一部を2種類の元素で置換した正極活物質を、それぞれ用いた場合の結果である。
【0053】
実施例1〜16に示すように、比較例1〜2と比較して、前記式(I)の組成では放電エネルギーが増加することが確認された。
【0054】
実施例1〜16に示すように、比較例3〜9と比較して、前記式(I)の組成ではサイクル後の容量維持率が向上することが確認された。結晶構造の安定化とMn溶出の抑制等の効果により、サイクル後の容量維持率が向上したと推察される。
【0055】
実施例10〜13に示すように、前記式(I)において元素Aによる置換量zを変化させた場合においても、サイクル後の容量維持率が向上することが確認された。
【0056】
実施例1〜8に示すように、前記式(I)において元素AをLi、B、Ca、K、Mg又はNaとした場合においても、サイクル後の容量維持率が向上することが確認された。
【0057】
実施例14〜16に示すように、前記式(I)において元素Aを2種類以上の元素とした場合においても、サイクル後の容量維持率が向上することが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1 正極活物質層
2 負極活物質層
3 正極集電体
4 負極集電体
5 セパレータ
6 外装ラミネート
7 負極リード端子
8 正極リード端子
図1