特許第6036818号(P6036818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6036818導電性基板の製造方法、導電性基板および有機電子素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036818
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】導電性基板の製造方法、導電性基板および有機電子素子
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20161121BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20161121BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20161121BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20161121BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20161121BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20161121BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20161121BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   H01B13/00 503B
   H01B13/00 503D
   H01B5/14 A
   H01B5/14 B
   H05K3/12 610D
   H05K3/12 610C
   H05B33/14 A
   H05B33/26 Z
   H05B33/10
   H05B33/02
   H05B33/22 D
   H05B33/28
【請求項の数】7
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-515661(P2014-515661)
(86)(22)【出願日】2013年5月16日
(86)【国際出願番号】JP2013063621
(87)【国際公開番号】WO2013172399
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-114061(P2012-114061)
(32)【優先日】2012年5月18日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」共同研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 宏
(72)【発明者】
【氏名】松村 智之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌紀
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−302679(JP,A)
【文献】 特開2012−089718(JP,A)
【文献】 特表2007−534162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 5/14
H01L 51/50
H05B 33/02
H05B 33/10
H05B 33/26
H05B 33/28
H05K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくともアンカー層と導電性の金属細線パターンとを有する導電性基板の製造方法において、
前記基板上に、主に無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成する工程と、
前記アンカー層上に、金属ナノ粒子と金属錯体とを含む金属細線パターンを形成する工程と、
前記金属細線パターンをフラッシュ光照射により加熱焼成する工程と、
を備えることを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性基板の製造方法において、
前記基板を樹脂基板で構成することを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の導電性基板の製造方法において、
前記基板と前記アンカー層との間にバリア層を形成する工程を備えることを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性基板の製造方法において、
前記基板、前記アンカー層、前記バリア層が透明であることを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法において、
加熱焼成後の前記金属細線パターン上に、少なくともπ共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを含む導電性ポリマー含有層を形成する工程を備えることを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法により製造されたことを特徴とする導電性基板。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性基板の製造方法により製造された導電性基板と、
前記導電性基板と対向配置された第2の電極と、
前記導電性基板と前記第2の電極との間に形成された有機機能層と、
を備えることを特徴とする有機電子素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基板の製造方法、導電性基板およびそれを用いた有機EL(エレクトロルミネッセンス)、太陽電池等の有機電子デバイスに用いられる有機電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属細線パターンを有する導電性基板の製造方法として、これまでサブトラクティブ法やアディティブ法と言った方法が考案され、信頼性の高い手法として広く用いられてきた。最近では、様々な電子機器に導電性基板が使用されており、機器の高性能化に伴い、導電性基板内の金属細線パターンにもかなりの高密度化が要求されるようになっている。したがって、上記何れの方法を用いる場合でも、微細加工が可能なフォトリソグラフィー工程を使用して所望の金属細線パターンを形成することが一般的になっている。
フォトリソグラフィー工程では、レジストを基板全面に塗布しプリベークを行った後、フォトマスクを介して紫外線等を照射し、現像によってレジストパターンを形成する。この後、このレジストパターンをマスクとして不要な部分をエッチング除去して、金属細線パターンを形成する。しかしながら、従来のフォトリソグラフィー工程を用いた金属細線パターンの形成工程においては、パターン形成のための金属膜、及びレジストの材料の大部分が無駄になるという問題があった。また、フォトレジスト工程の工程数が多く、スループットが低下するという問題もあった。
【0003】
そこで近年、金属細線パターンを印刷により製造する試みがなされている。例えば、導電性金属粒子を含むインクを用いて、スクリーン印刷や、インクジェット印刷などの各種印刷法により導電層や絶縁層を形成して導電性基板を製造する方法が多方面で検討されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、銀や金、銅などのナノ粒子を含む金属ナノ粒子分散インク組成物を利用して金属ナノ粒子パターンを印刷描画し、その後、金属ナノ粒子相互の焼成(焼結)を施すことによって、金属細線パターンを有する導電性基板を得ることが可能となっている。
しかしながら、金属ナノ粒子を相互に焼成して金属ナノ粒子パターンの電気的な導通を確保するためには、200℃以上の熱処理が必要であるため、耐熱性の低い安価な樹脂基板に適用することは困難であるという問題があった。一方、ガラス系基板又は金属基板のような耐熱性の高い基板を用いる場合であっても、基板を薄くすると、高温の熱処理によって、基板に反りや歪みが生じるおそれがあるため、薄型化が困難であるという問題があった。また、基板の熱ダメージを避けるために熱処理温度を低くすると金属ナノ粒子の焼成に時間を要し、スループットが低下するという問題もあった。
【0004】
上記問題を解決する手段として、金属ナノ粒子より形成された導電性の金属細線パターンをフラッシュ光で加熱することによって焼成する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、局所加熱により焼成した金属細線パターン上にPEDOT/PSS層を設ける例が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。金属細線パターン上に導電性ポリマー含有層を設けることで、透明電極表面の平滑性が向上し、有機電子デバイスに用いる際において電極間の電流リークを抑えることができる。
【0005】
一方、発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDという)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)が挙げられる。無機エレクトロルミネッセンス素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、さらに、自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。また、有機EL素子は、自発光型ディスプレイとしてだけではなく、液晶用バックライト、照明等への応用も期待されている。
しかしながら、実用化に向けた取り組みにおいては、さらに低消費電力で効率よく高輝度に発光する有機EL素子の開発が課題となっている。
有機EL素子の発光効率は、内部効率と外部効率(または光取り出し効率)とに分けられる。有機EL素子においては、基板、電極、発光層など、積層された各構成層それぞれの膜界面での反射により素子内部に光が閉じこめられ、光取り出し効率を上げられないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−332347号公報
【特許文献2】特表2008−522369号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Organic PhotoVoltaics、Open Innovation Program ECN−Holst Centre,Netherlands、Large−area,Organic & Printed Electronics Convention、June 2,2010、Ronn Andriessen.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献2に記載されるような、フラッシュ光で金属細線パターンを加熱焼成する方法は、金属細線パターンを局所的に高温に加熱できるため導電性の向上に有効な方法であるが、金属細線パターン自体が非常に高温となるため、金属細線パターンと基板との界面およびその近傍で基板がダメージを受けやすく、特に耐熱温度の低い樹脂基板を用いる場合には、基板のダメージを抑制しながら金属細線パターンを十分に焼成して導電性の向上を図ることは困難であった。
この問題に対し前記特許文献2では、フラッシュ光の照射条件(エネルギー面密度とパルス長)の設定により、基板を損傷せずに金属膜を焼成できるとされているが、金属細線パターンの種類(材質や形状)や、使用する基板の種類によって、試行錯誤的に照射条件を設定しなければならず、非常に手間が掛かることが課題であった。
【0009】
その一方、金属細線パターンの導電性を向上させるためには、照射するフラッシュ光のエネルギーを高くすることが必要であるが、高エネルギーのフラッシュ光を照射すると金属細線パターンが基板から吹き飛ばされてしまうため、金属細線パターンを損傷させることなく十分に焼成することが非常に困難であった。
これは、高エネルギーのフラッシュ光を照射すると、金属細線パターンが瞬時に高温に熱せられるため、金属細線内部に残存する金属細線パターンを形成するために用いたインクの分散剤や溶媒等の有機物が瞬時に気化するためと推定される。
この問題を解決する手段として前記特許文献2では、金属膜の膜厚を薄くすることや真空中でフラッシュ光焼成する方法が提案されている(実施例12)。しかし、前者の金属膜の膜厚については、金属細線パターンに求める性能に基づき設計すべきものであり、焼成プロセスによって制限されることは好ましくない。後者の光焼成を真空中で行う方法については、設備コストの増大や生産性の低下を招くため好ましい方法と言えない。
【0010】
また、前記特許文献2では、上記課題を解決する別の手段として、金属インクに結合材を添加する方法が提案され実施されているが(実施例13)、このような添加剤を用いた場合には、フラッシュ光照射後に得られる導電性が結合材を用いない場合に比較し顕著に低下してしまう。
さらに、前記特許文献2では、フラッシュ光を分割して照射し、初期のフラッシュ光照射で金属膜の剥離や損傷の原因となるガスを放出させた後、より高い強度のフラッシュ光で十分に焼成させる方法も提案されている(実施例15)。しかしながら、高強度のフラッシュ光を照射する段階では、金属膜の焼成がある程度進み熱伝導性が高くなっており、高強度のフラッシュ光照射によって金属膜と接している基板表面も高温になるため、耐熱温度の低い樹脂基板には適用することができない。
【0011】
以上の課題に鑑み、本発明の主な目的は、基板ダメージと金属細線パターンの損傷とを抑制・防止しながら、導電性に優れた導電性基板を製造することができる導電性基板の製造方法を提供することである。
さらに、本発明の他の目的は、面発光体として優れた特徴を有する有機EL素子などの有機電子素子において、光取出し効率の課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、金属ナノ粒子や金属錯体を含む金属細線パターンを形成し、金属細線パターンの焼成をフラッシュ光照射で行う場合に、基板上に主に無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成することによって、基板ダメージを抑制しかつ金属細線パターンの損傷も防止しながら金属細線パターンの導電性を向上できる、という想定外の効果を見出し、本発明に至った次第である。
なお、アンカー層として、主に有機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成した場合には、フラッシュ光照射でアンカー層がダメージを受けやすく、特に、金属細線パターンの導電性を向上するために高いエネルギーのフラッシュ光を照射した場合には、上記本発明に係るアンカー層と同様の効果を得ることはできない。
【0013】
ところで、インクジェット法で印刷する際にインクの吸収性を向上させるために、基材上に多孔質状のインクの受容層を設置することは一般に知られており、幾つかの方法が提案されている。
例えば、支持体上にケイソウ土や真珠岩粉末などの多孔質構造の粒子を含有する多孔質層を設ける方法(特開昭61−8385号公報)、相互に混和性の低いプラスチックを溶媒に溶解して塗布した後、凝固浴でプラスチックを凝固させ多孔層を設ける方法(特開昭62−197183号公報)、基材上にコロイダルシリカ粒子含有親水無機有機複合層からなる多孔質層を設ける方法(特開平2−147233号公報)、金属酸化物粒子とアルコキシド化合物の加水分解−縮合物を含むインク受容膜を設ける方法(特開2007−169604号公報)、金属酸化物粒子とポリイミド前駆体を含むインク受容膜を設ける方法(特開2010−161118号公報)などがある。
しかし、これらの従来技術においては、本発明で解決しようとしている課題の提示やその解決法の示唆は何らなされていない。
【0014】
このような状況において、本発明によれば、
基板上に、少なくともアンカー層と導電性の金属細線パターンとを有する導電性基板の製造方法において、
前記基板上に、主に無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成する工程と、前記アンカー層上に、金属ナノ粒子や金属錯体を含む金属細線パターンを形成する工程と、前記金属細線パターンをフラッシュ光照射により加熱焼成する工程と、を備えることを特徴とする導電性基板の製造方法が提供される。
かかる導電性基板の製造方法によれば、金属細線パターンをフラッシュ光照射によって焼成時する場合の基板ダメージを抑制するとともに、金属細線パターンの損傷を防止しながら、導電性に優れた導電性基板を製造することができる。
【0015】
本発明の製造方法においては、基板として耐熱性に劣る樹脂基板を用いた場合でも、高エネルギーのフラッシュ光照射による基板ダメージを防止することができる。これは、本発明に係るアンカー層が多孔質状であるため、基板と金属細線パターンとの間でアンカー層が断熱層として効果的に機能しているためと思われる。
【0016】
高エネルギーのフラッシュ光を照射すると、金属細線パターンが基板から吹き飛ばされたり損傷してしまうのは、フラッシュ光照射により金属細線パターンが瞬時に高温に熱せられ、金属細線内部に残存する金属細線パターンを形成するために用いたインクの分散剤や溶媒等の有機物が瞬時に気化するためと推定される。
この点、本発明の製造方法によれば、高エネルギーのフラッシュ光を照射した場合であっても金属細線パターンの剥離や損傷を防止することができる。これは、本発明に係る多孔質状のアンカー層により、上記のようにインクの分散剤や溶媒等の有機物が瞬時に気化した際に発せられるガスが、多孔質状アンカー層内の細孔を伝って金属細線パターンの周囲に拡散するため、ガスによる金属細線パターンへのインパクトを軽減(圧力を分散)できるためと思われる。
また、アンカー層が多孔質状であるため、金属細線パターンとの接着面積が大きくなることも、金属細線パターンの剥離防止に有効に作用していると思われる。
【0017】
また、本発明に係るアンカー層は主に無機化合物材料で構成されるため、高エネルギーのフラッシュ光照射によりアンカー層自体がダメージを受けることも無い。
以上のように、本発明に係るアンカー層は、従来知られたインクの吸収性を向上させるための受容層とは全く異なる機能と効果を発現するものである。
【0018】
さらに、本発明者は、本発明の方法により製造された導電性基板を透明電極として用いた有機EL素子では、一般的に用いられているITO基板を電極に用いた有機EL素子に較べて、光取出し効率が大幅に向上するという驚くべき効果をも見出した。この点も、本発明の優れた特徴の1つであり、前記のインク受容層に関する従来技術においてはこうした効果については全く触れられていない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板ダメージと金属細線パターンの損傷とを抑制・防止しながら、導電性に優れた導電性基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】導電性基板の概略構成を示す断面図である。
図2A】導電性基板の製造方法の一工程を説明するための断面図である。
図2B図2Aの後続の工程を説明するための断面図である。
図2C図2Bの後続の工程を説明するための断面図である。
図2D図2Cの後続の工程を説明するための断面図である。
図3】有機電子素子の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0022】
〔導電性基板(1)〕
図1に示すとおり、本発明の好ましい実施形態に係る導電性基板1は基板2、アンカー層6および金属細線パターン8を有しており、そのベースとなる基板2上に、少なくともアンカー層6と導電性の金属細線パターン8とを有している。
詳しくは、基板2上にはアンカー層6が形成され、アンカー層6中には金属細線パターン8が形成されている。アンカー層6は主に無機化合物からなる多孔質状を呈しており、金属細線パターン8は金属ナノ粒子と金属錯体とを含有している。金属細線パターン8はフラッシュ光照射により加熱焼成されている。
導電性基板1では、好ましくは基板2が透明な樹脂製の基板で構成され、これに加えさらに好ましくは基板2とアンカー層6との間に透明なバリア層4が形成され、これらに加えさらに好ましくは基板2、アンカー層6およびバリア層4が透明である。
導電性基板1では、導電性基板1の表面の平滑性を向上させこれを有機電子素子に使用した場合に電極間の電流リークを抑えるため、好ましくはアンカー層6および金属細線パターン8上に導電性ポリマー含有層10が形成される。
かかる導電性基板1を製造する場合は、基本的には、(i)基板2上にアンカー層6を形成し(図2A参照)、(ii)その後にアンカー層6上に金属細線パターン8を形成し(図2B参照)、(iii)最後に金属細線パターン8にフラッシュ光を照射してこれを加熱焼成する(図2C参照)。
バリア層4を形成する場合には、アンカー層6を形成する前に、基板2上にバリア層4を形成してバリア層4上にアンカー層6を形成すればよい(図2A参照)。
導電性ポリマー含有層10を形成する場合には、金属細線パターン8を加熱焼成した後に、アンカー層6および金属細線パターン8上に導電性ポリマー含有層10を形成すればよい(図2D参照)。
【0023】
以下、導電性基板の各部材の構成や特性、製造方法などについて説明する。
【0024】
〔基板(2)〕
本発明の導電性基板に用いられる基板は、本発明に係るアンカー層と金属細線パターンを形成し保持する機能を有していれば特に制限はなく、ガラス基板や樹脂基板等を用途に応じて適宜選択して用いることができる。
本発明に係る基板の透明性は、用途によって任意に選択することができるが、透明性が高いほど透明電極等への適用も可能になり用途拡大の観点で好ましい。
例えば、透明なガラスや、透明な樹脂基板や樹脂フィルム等を用いることが好ましく、さらには、生産性の観点や軽量性と柔軟性といった性能の観点から、透明な樹脂基板を用いることがより好ましい。
本発明に係る基板の全光線透過率は、70%以上、好ましくは80%以上であることが望ましい。全光線透過率は、分光光度計等を用いた公知の方法に従って測定することができる。
【0025】
好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム、等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。
中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレート樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム等の二軸延伸ポリエステル樹脂フィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレート樹脂フィルムであることがより好ましい。
【0026】
〔アンカー層(6)〕
本発明に係るアンカー層は、金属細線パターンへのフラッシュ光照射による基板ダメージと金属細線パターンの損傷を防止するため、および樹脂基板を用いた場合の基板の熱ダメージを防止するために用いられる。
アンカー層は、主に無機化合物からなり、多孔質状を呈している。
ここでいう無機化合物とは、一般に理解されているように有機化合物以外の化合物であり、具体的には単純な一部の炭素化合物と、炭素以外の元素で構成される化合物である。
本発明に係るアンカー層を構成する無機化合物の代表的な例として、マグネシウム、アルミニウム、珪素、チタン、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、錫、バリウム、タンタルなどの金属を少なくとも1種含む各種金属酸化物や、炭化物、窒化物、ホウ化物などを挙げることができるが、本発明に係るアンカー層は、少なくとも1種の透明な金属酸化物を含み構成されることが好ましい。
【0027】
アンカー層の特徴の1つである「多孔質」とは、窒素吸着法(BET1点法)で測定される比表面積が単位面積当たりに換算して30cm/cm以上であることを意味する。
本発明に係るアンカー層の単位面積換算の比表面積は、金属細線パターンへのフラッシュ光照射による金属細線パターンの損傷を効果的に抑制するために、30〜1000cm/cmであることが好ましい。
単位面積換算の比表面積が30cm/cm以上、より好ましくは50cm/cm以上の場合には、フラッシュ光照射によりインクの分散剤や溶媒等の有機物が瞬時に気化した際に発せられるガスを金属細線パターンの周囲に拡散させることができ、また、金属細線パターンとの接着面積も大きくできるため、金属細線パターンの剥離防止に有効に機能することができる。さらに、金属細線パターンからの伝熱に対して断熱層として機能し、基板ダメージを防止できる。
単位面積換算の比表面積が1000cm/cm以下、好ましくは、300cm/cm以下の場合には、ガスの拡散がスムーズになるためアンカー層自体のダメージの防止や、樹脂基板等の可撓性の基板を用いた場合の基板屈曲時のアンカー層の割れの防止に効果的である。
【0028】
本発明に係るアンカー層の透明性は、用途によって任意に選択することができるが、透明性が高いほど透明電極等への適用も可能になり、用途拡大の観点で好ましい。本発明に係るアンカー層の全光線透過率は、70%以上、好ましくは80%以上であることが望ましい。
本発明に係るアンカー層の厚さは0.1〜30μmが好ましく、0.2〜10μmがより好ましく、0.3〜5μmがさらに好ましい。アンカー層の厚さが0.1μm以上の場合には、金属細線パターンへのフラッシュ光照射による基板ダメージを効果的に防止することができ、30μm以下の場合には、アンカー層に起因した透明性(ヘイズ)の劣化を抑制することができる。
【0029】
本発明に係るアンカー層の組成としては、主に無機化合物からなることを除き特に限定されるものではなく、例えば、特開2007−169604号公報に記載の組成(珪素系酸化物凝集体粒子)なども好ましく用いることができる。
当該珪素系酸化物凝集体粒子は、一次粒子径が2〜200nmであって、2個以上の粒子が結合した凝集体粒子25質量%以上を含む金属酸化物粒子である。
当該珪素系酸化物凝集体粒子としては、シリカ粒子単独でもよく、また、チタニア、ジルコニアおよびアルミナを含有したものでもよい。この様な粒子状物を用いることによって、アンカー層に孔を形成することができ、その結果、吸収性が付与される。
当該珪素系酸化物凝集体粒子は、一次粒子が2個以上結合してなる凝集体粒子を、全粒子中に25質量%以上を含むことが必要である。このような凝集体粒子をアンカー層中に含ませることにより、塗層加工性が向上し、層形成後のクラックを防止でき、さらに吸収性が向上する。該凝集体粒子の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
一次粒子の粒径は、孔形成性の点およびより高い透明性を保持する観点から、2〜200nm、好ましくは5〜50nm、より好ましくは10〜30nmである。また、連結した一次粒子数は少ないほど好ましいが、通常3〜100個、好ましくは5〜50個、より好ましくは7〜30個である。
前記凝集体粒子の形態としては、一次粒子が数珠状に連結した長鎖構造を有するもの、連結した凝集体粒子が分枝したものおよび/または屈曲したものなどを挙げることができる。
このような凝集体粒子は、従来公知の方法で作製することができる。例えば球状金属酸化物の一次粒子を、2価以上の金属イオン、例えばCa2+、Zn2+、Mg2+、Ba2+、Al3+、Ti4+などを介在させて連結することにより、得ることができる。数珠状のシリカゾルについては、例えばWO00/15552号公報に、その製造方法が記載されている。
当該粒子における、2個以上の粒子が結合してなる凝集体粒子の含有量の調整方法に特に制限はないが、例えば実質的に100%凝集している粒子と、実質的に凝集していない粒子を混合する方法が、簡便で好ましい。
【0030】
本発明において、アンカー層の組成が「主に無機化合物からなる」とは、アンカー層を構成するすべての材料のうち、70質量%以上、好ましく80質量%以上、より好ましくは90質量%以上が無機化合物材料から構成されていることを意味する。
アンカー層を構成する無機化合物材料の比率が高いほど、本発明に係る金属細線パターンをフラッシュ光照射により加熱焼成する際のアンカー層のダメージに起因したグリッド(金属細線パターン)の剥離を防止できる。
なお、本発明に係るアンカー層では、例えばアンカー層を構成する無機化合物材料間の結着性や、アンカー層と基板との結着性を向上するなどの目的で有機化合物が含有されてもよい。その場合、アンカー層を構成する有機化合物材料の比率としては、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。有機化合物材料の比率を30質量%以下に抑えることで本発明に係る金属細線パターンをフラッシュ光照射により加熱焼成する際のアンカー層のダメージを軽減することができる。
【0031】
本発明に係るアンカー層の形成方法は、任意の適切な方法を選択することができ、例えば、塗工方法として、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷、スクリーン印刷法、インクジェット印刷等の各種印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等の各種塗布法を用いることができる。
アンカー層をパターン状に形成することが好ましい場合には、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を用いることが好ましい。
本発明に係るアンカー層は、基板上に上記塗工法を用いて成膜した後、温風乾燥や赤外線乾燥などの公知の加熱乾燥法や自然乾燥などにより乾燥して形成することができる。加熱乾燥する場合の温度は、使用する基板に応じて適宜選択することができるが、樹脂フィルム基板の場合には一般に200℃以下の温度で実施することが好ましい。
本発明に係るアンカー層を形成する前に、基板あるいはバリア層との接着性を向上するために、シランカップリング剤などを用いて基板あるいはバリア層の表面に前処理を施すこともできる。
【0032】
〔金属細線パターン(8)〕
本発明に係る金属細線パターンは、金属ナノ粒子や金属錯体を含み形成される。金属ナノ粒子や金属錯体の金属元素は、導電性に優れていれば特に制限はなく、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム等の金属やそれらの合金でもよいが、導電性及び安定性の観点から銀を含むことが好ましい。
【0033】
本発明に係る金属ナノ粒子の平均粒径は1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であることがより好ましく、1nm以上30nm以下であることがより好ましい。
本発明における金属ナノ粒子の平均粒径は、金属ナノ粒子の電子顕微鏡観察から、円形、楕円形又は実質的に円形若しくは楕円形として観察できる金属ナノ粒子をランダムに200個以上観察し、各金属ナノ粒子の粒径を求め、その数平均値を求めることにより得られる。
ここで、本発明に係る平均粒径とは、円形、楕円形又は実質的に円形若しくは楕円形として観察できる金属ナノ粒子の外縁を2本の平行線で挟んだ距離の内最小の距離を指す。なお、平均粒径を測定する際、明らかに金属ナノ粒子の側面などを表しているものは測定しない。
【0034】
本発明に係る金属錯体は、一般的な理解と同様に金属イオンに配位子が配位した化合物をいう。
本発明に係る金属細線パターンを形成するための金属錯体としては、公知の材料を用いることができ、例えば、特表2008−531810号公報や、特開2011−126861号公報に記載されている有機銀錯体などを好ましく用いることができる。
【0035】
本発明に係る金属細線パターンの形状には特に制限はなく、例えば、パターン形状がストライプ状、あるいは正方格子やハニカム格子などのメッシュ状であってもよいが、開口率は透明性の観点から80%以上であることが好ましい。
開口率とは、単位面積当たりで金属細線パターンが存在しない面積比率を意味し、例えば、金属細線パターンがストライプ状であるとき、線幅100μm、線間隔1mmのストライプ状パターンの開口率は、90%である。
パターンの線幅は、10〜200μmが好ましい。細線の線幅が10μm以上だと、所望の導電性が得られ、また200μm以下だと、透明電極として用いる場合に十分な透明性が得られる。
細線の高さは、0.1〜5μmが好ましい。細線の高さが0.1μm以上だと所望の導電性が得られ、また5μm以下では、有機電子素子に用いる場合に、その凹凸差が機能層の膜厚分布に与える影響を軽減できる。
ストライプ状またはメッシュ状等の定形の金属細線パターンを形成する方法としては、金属ナノ粒子や金属錯体を含有するインクを所望の形状に印刷する方法が好ましい。印刷方法としては特に制限はなく、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷法により所望の形状に印刷し形成することができる。
かかる場合、金属ナノ粒子や金属錯体を含有するインクが多孔質状のアンカー層中に浸透するため、本発明に係る金属細線パターンは基本的にはアンカー層中に形成される。そのため、金属細線パターンは、本発明に係るアンカー層に埋没した状態で形成することもできるし(図1参照)、アンカー層から突き出た状態で形成することもできる。これらの状態は、金属細線パターンの高さやアンカー層の厚さ、金属ナノ粒子や金属錯体を含有するインクの粘度、アンカー層の細孔の度合いなどで調整することができる。
【0036】
〔フラッシュ光照射による加熱焼成〕
本発明に係るフラッシュ光照射による金属細線パターンの加熱焼成は、金属ナノ粒子や金属錯体を含む金属細線パターンを、フラッシュランプを用いた光照射により焼成して、その導電性を向上させるために行う。
本発明に係るフラッシュ光照射で用いられるフラッシュランプの放電管としては、キセノン、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の放電管を用いることが出来るが、キセノンランプを用いることが好ましい。
本発明におけるフラッシュランプの好ましいスペクトル帯域としては、240nm〜2000nmがフラッシュ光照射により本発明に係る基板に対して熱変形等のダメージを与えないため好ましい。
本発明のフラッシュランプの光照射条件は、光照射エネルギーの総計が0.1〜50J/cmが好ましく、0.5〜10J/cmであるのがより好ましい。光照射時間は10μ秒〜100m秒が好ましく、100μ秒〜10m秒で行うのがより好ましい。また、光照射回数は1回でも複数回でも良く、1〜50回の範囲で行うのが好ましい。これらの好ましい条件範囲でフラッシュ光照射を行うことにより、基板にダメージを与えることなく金属細線パターンを加熱焼成し、高い導電性を得ることができる。
【0037】
基板に対するフラッシュランプの照射は、金属細線パターンの印刷してある表側から照射することが好ましいが、基板が透明体である場合には、裏側から照射しても両側から照射することもできる。
本発明のフラッシュ光照射は大気中で行ってもよいが、必要に応じ、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気中で行うこともできる。
また、フラッシュ光照射時の基板温度は、基板の耐熱温度や、金属ナノ粒子や金属錯体を含有するインクの分散媒の沸点(蒸気圧)、雰囲気ガスの種類や圧力、インクの分散性や酸化性等の熱的挙動などを考慮して決定すればよく、室温以上200℃以下で行うことが好ましい。なおフラッシュ光照射を行う前に、金属細線パターンを形成後の基板を、あらかじめ加熱処理しておいても良い。
フラッシュランプの光照射装置は上記の照射エネルギー、照射時間を満足するものであればよい。
【0038】
〔バリア層(4)〕
有機EL素子などの有機電子素子は、素子内部に微量の水分や酸素が存在すると容易に性能劣化が生ずる。基板として樹脂基板を使用する場合には、樹脂基板を通して素子内部に水分や酸素が拡散することを防止するため、水分や酸素に対して高い遮蔽能を有するバリア層を形成することが有効である。
本発明係るバリア層の組成や構造およびその形成方法には特に制限はなく、シリカ等の無機化合物による膜を真空蒸着やCVD法により形成することができる。また、ポリシラザン化合物を含有する塗布液を塗布乾燥後、酸素及び水蒸気を含む窒素雰囲気下で紫外線照射により酸化処理してバリア層を形成することもできる。
ポリシラザン化合物の塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
ポリシラザン化合物の塗布方法は、任意の適切な方法を選択することができ、例えば、塗工方法として、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等の各種印刷方法に加えて、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷、スクリーン印刷法、インクジェット印刷等の各種塗布法を用いることができる。
バリア層をパターン状に形成することが好ましい場合には、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を用いることが好ましい。
【0039】
本発明で用いられるポリシラザンとは、珪素−窒素結合を持つポリマーで、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO、Siおよび両方の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
樹脂基板を用いる場合には、特開平8−112879号公報に記載されているように比較的低温でセラミック化してシリカに変性するものがよく、下記一般式(1)で表されるものを好ましく用いることができる。
【0040】
一般式(1);
【化1】
【0041】
一般式(1)中、R、R、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。
パーヒドロポリシラザンは、R、R、Rの全てが水素原子であり、オルガノポリシラザンは、R、R、Rのいずれかがアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基である。得られるバリア膜としての緻密性から、R、R、Rの全てが水素原子であるパーヒドロポリシラザンが特に好ましい。
【0042】
本発明係るバリア層は1層でもよいが、2層以上の積層構造を有していてもよい。積層構造を有する場合には、無機化合物の積層構造であってもよいし、無機化合物と有機化合物のハイブリッド被膜として形成してもよい。またバリア層の間に応力緩和層を挟んでもよい。
単層の場合でも積層した場合でも1つのバリア層の膜厚は、30nm〜1000nmが好ましく、更に好ましくは30nm〜500nm、特に好ましくは90nm〜500nmである。30nm以上とすると膜厚均一性が良好となり、優れたバリア性能が得られる。1000nm以下にすると、屈曲によるクラックが急激に入ることが極めて少なくなり、成膜時の内部応力の増大をとどめて、欠陥の生成を防止することができる。
本発明におけるバリア層のバリア性としては、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下であることが好ましく、さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−3ml/m・24h・atm以下(1atmは、1.01325×105Paである)、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m・24h)以下であることが好ましい。
本発明に係るバリア層を形成する前に、基板との接着性を向上するために、シランカップリング剤などを用いて基板の表面に前処理を施すこともできる。
なお、基板として樹脂基板を使用する場合でも、バリア層はなくてもよい。
【0043】
〔導電性ポリマー含有層(10)〕
本発明に係る導電性ポリマー含有層は、少なくとも、π共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを含む導電性ポリマーから形成される。
また、本発明に係る導電性ポリマー含有層は、第2ドーパントとして水溶性有機化合物、バインダー材料として樹脂成分、塗布助剤として各種添加剤などを含んでいてもよい。
【0044】
導電性ポリマー含有層の乾燥膜厚は、30〜2000nmであることが好ましい。尚、導電性の点からは100nm以上であることがより好ましく、本発明の導電性基板を有機電子素子に用いる場合には、本発明に係る金属細線パターンの凹凸差を平滑化し、機能層の膜厚分布への影響を軽減する観点から300nm以上であることがさらに好ましい。また、透明性の点から、1000nm以下であることがより好ましく、800nm以下であることがさらに好ましい。
本発明に係る導電性ポリマー含有層は、本発明に係るアンカー層に埋没した状態で形成することもできるし、アンカー層を被覆した状態で形成することもできる。この状態は、導電性ポリマー含有層の厚さやアンカー層の厚さ、導電性ポリマー含有層を形成する溶液の粘度、アンカー層の細孔の度合いなどで調整することができる。本発明の導電性基板を有機電子素子の電極として用いる場合には、電性ポリマー含有層がアンカー層を被覆した状態である方が電極表面を平滑にできるため好ましい。
【0045】
導電性ポリマー含有層の形成方法は、任意の適切な方法を選択することができ、例えば、塗工方法として、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷、スクリーン印刷法、インクジェット印刷等の各種印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等の各種塗布法を用いることができる。
アンカー層をパターン状に形成することが好ましい場合には、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を用いることが好ましい。
本発明に係る導電性ポリマー含有層は、少なくとも、π共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを含む導電性ポリマーを含有する液を、基板上に上記塗工法を用いて成膜した後、温風乾燥や赤外線乾燥などの公知の加熱乾燥法や自然乾燥などにより乾燥して形成することができる。
加熱乾燥する場合の温度は、使用する基板に応じて適宜選択することができるが、樹脂フィルム基板の場合には一般に200℃以下の温度で実施することが好ましい。
赤外線乾燥を用いる場合には、導電性ポリマー含有層を選択的に加熱するために、基板の吸収が少ない赤外線波長域を選択することが好ましい。例えば、基板がPETやPENフィルムの場合には、〜1500nmの近赤外線を用いることが好ましい。あるいは、迅速に加熱乾燥するために、水の吸収極大が存在する3μm近傍の赤外線波長域を選択することも好ましい。
【0046】
(1)導電性ポリマー
本発明に係る導電性ポリマーは、π共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを含んでなる。こうした導電性ポリマーは、後述するπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを、適切な酸化剤と酸化触媒と後述のポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合することによって容易に製造できる。
【0047】
(1.1)π共役系導電性高分子
本発明に用いられるπ共役系導電性高分子としては、特に限定されず、ポリチオフェン(基本のポリチオフェンを含む、以下同様)類、ポリピロール類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類、の鎖状導電性ポリマーを利用することができる。中でも、導電性、透明性、安定性等の観点、及び、金属ナノ粒子への吸着のしやすさから、ポリチオフェン類やポリアニリン類が好ましい。ポリエチレンジオキシチオフェンが最も好ましい。
π共役系導電性高分子の形成に用いられる前駆体モノマーは、分子内にπ共役系を有し、適切な酸化剤の作用によって高分子化した際にもその主鎖にπ共役系が形成されるものである。例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0048】
(1.2)ポリ陰イオン
本発明に用いられるポリ陰イオンは、遊離酸状態の酸性ポリマーであり、アニオン基を有するモノマーの重合体、あるいはアニオン基を有するモノマーとアニオン基を有しないモノマーとの共重合体である。遊離酸は、一部が中和された塩の形をとっていてもよい。置換もしくは未置換のポリアルキレン、置換もしくは未置換のポリアルケニレン、置換もしくは未置換のポリイミド、置換もしくは未置換のポリアミド、置換もしくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体であって、少なくともアニオン基を含むものである。
このポリ陰イオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させる可溶化高分子である。また、ポリ陰イオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
ポリ陰イオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
ポリ陰イオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
また、化合物内にさらにF(フッ素原子)を有するポリ陰イオンであってもよい。具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)等を挙げることができる。
【0049】
導電性ポリマーに含まれるπ共役系導電性高分子とポリ陰イオンの比率、「π共役系導電性高分子」:「ポリ陰イオン」は質量比で1:1〜20が好ましい。導電性、分散性の観点からより好ましくは1:2〜10の範囲である。
こうした導電性ポリマーは市販もされており、本発明においてはこうした市販材料も好ましく用いることができる。例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT−PSSと略す)が、Heraeus社からCleviosシリーズとして、Aldrich社からPEDOT−PSSの483095、560596として、Nagase Chemtex社からDenatronシリーズとして市販されている。また、ポリアニリンが、日産化学社からORMECONシリーズとして市販されている。
【0050】
(2)第2ドーパント
本発明で用いることができる水溶性有機化合物には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、酸素含有化合物が好適に挙げられる。前記酸素含有化合物としては、酸素を含有する限り特に制限はなく、例えば、水酸基含有化合物、カルボニル基含有化合物、エーテル基含有化合物、スルホキシド基含有化合物等が挙げられる。前記水酸基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等が挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。前記カルボニル基含有化合物としては、例えば、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。前記エーテル基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、等が挙げられる。前記スルホキシド基含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0051】
(3)樹脂成分
本発明の導電性ポリマー含有層は、少なくともπ共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを含んでなる導電性ポリマー以外に、成膜性や膜強度を確保するために、透明な樹脂成分や添加剤を含んでいてもよい。
透明な樹脂成分としては、導電性高分子と相溶又は混合分散可能であれば特に制限されず、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。
例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリウレア系樹脂、メラミン樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテル、アクリル系樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
中でも水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂または水溶性バインダー樹脂とから形成されることが、高い透明性と導電性を保持したまま、高い表面平滑性が得られる点から好ましい。
【0052】
(3.1)水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂
水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂とは、水系溶剤に均一分散可能なものであり、水系溶剤中に凝集せずにバインダー樹脂からなるコロイド粒子が分散している状況であることを意味する。コロイド粒子の大きさは一般的に0.001〜1μm(1〜1000μm)程度である。
上記のコロイド粒子については、光散乱光度計により測定することができる。
また、上記水系溶剤とは、純水(蒸留水、脱イオン水を含む)のみならず酸、アルカリ、塩などを含む水溶液、含水の有機溶媒、さらには親水性の有機溶媒など溶媒であることを意味し、純水(蒸留水、脱イオン水を含む)、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、水とアルコールの混合溶媒等が挙げられる。
本発明に係る水系溶剤に均一分散可能なバインダー樹脂としては透明であることが好ましい。
本発明の水系溶剤に均一分散可能なバインダーとしては、フィルムを形成する媒体であれば、特に限定はない。水系溶剤に均一分散可能なバインダーとしては、例えば:アクリル系樹脂エマルジョン、水性ウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂等が挙げられる。
アクリル系樹脂エマルジョンは、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸−スチレンの重合体、或いはその他のモノマーとの共重合体からなる。また、酸部分がリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩とつい塩を形成したアニオン性、窒素原子を有するモノマーとの共重合体からなり、窒素原子が塩酸塩等を形成したカチオン性があるが、好ましくはアニオン性である。
水性ウレタン樹脂としては、水分散型ウレタン樹脂、アイオノマー型水性ウレタン樹脂(アニオン性)等がある。水分散型ウレタン樹脂には、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂があり、好ましくはポリエステル系ウレタン樹脂である。
アイオノマー型水性ウレタン樹脂には、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂等があり、好ましくはポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂である。
水性ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分とポリオール成分とから合成される。
多塩基酸成分とは、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸、ドデカン二酸などであり、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、特に好適に用いることのできる多塩基酸成分としては、工業的に多量に生産されており、安価であること等から、テレフタル酸とイソフタル酸が特に好ましい。
ポリオール成分として代表的なものを挙げれば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールなどであり、これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、特に好適に用いることのできるポリオール成分としては、工業的に量産されているので安価であり、しかも樹脂被膜の耐溶剤性や耐候性が向上等、諸性能にバランスがとれていることから、エチレングリコール、プロピレングリコールあるいはネオペンチルグリコールが特に好ましい。
上記水系溶剤に均一分散可能なバインダーは1種でも複数種でも使用することができる。
水系溶媒に分散可能なポリマーの使用量は、透明性と導電性の観点から好ましくは導電性高分子に対して50〜1000質量%であり、より好ましくは導電性高分子に対して100〜900質量%であり、更に好ましくは導電性高分子に対して200〜800質量%である。
【0053】
(3.2)水溶性バインダー樹脂
水溶性バインダー樹脂としては、下記一般式(2)で表される構造単位を含む水溶性バインダー樹脂であることが好ましい。
【0054】
一般式(2);
【化2】
【0055】
一般式(2)中、Rは水素原子、メチル基を表し、Qは−C(=O)O−、−C(=O)NRa−を表す。Raは水素原子、アルキル基を表し、Aは置換または無置換アルキレン基、−(CHCHRbO)xCHCHRb−を表す。Rbは水素原子またはアルキル基を示し、xは平均繰り返しユニット数を表す。
こうした樹脂は導電性ポリマーと容易に混合可能で、また、前述の第2ドーパント的な効果も有するため、該水溶性バインダー樹脂を併用することにより、導電性、透明性を低下させることなく、導電性ポリマー含有層の膜厚を上げることが可能となる。
水溶性バインダー樹脂とは、水溶性のバインダー樹脂であり、水溶性バインダー樹脂が、25℃の水100gに0.001g以上溶解するバインダー樹脂を意味する。前記溶解は、ヘイズメーター、濁度計で測定することができる。
水溶性バインダー樹脂としては透明であることが好ましい。
水溶性バインダー樹脂は、前記一般式(2)で表される構造単位を含む構造を有することが好ましい。前記一般式(2)で表されるホモポリマーであってもよいし、他の成分を共重合されていてもよい。他の成分を共重合する場合は、前記一般式(2)で表される構造単位を10モル%以上含有することが好ましく、30モル%以上含有することがより好ましく、50モル%以上含有することがさらに好ましい。
また、水溶性バインダー樹脂は、導電性ポリマー含有層中に40質量%以上、95質量%以下含まれていることが好ましく、50質量%以上、90質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明の水溶性バインダー樹脂の数平均分子量は3,000〜2,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは4,000〜500,000、さらに好ましくは5000〜100000の範囲内である。
本発明の水溶性バインダー樹脂の数平均分子量、分子量分布の測定は、一般的に知られているゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により行うことができる。使用する溶媒は、バインダー樹脂が溶解すれば特に限りはなく、THF(テトラヒドロフラン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、CHClが好ましく、より好ましくはTHF、DMFであり、更に好ましくはDMFである。また、測定温度も特に制限はないが40℃が好ましい。
【0056】
〔有機電子素子(20)〕
本発明に係る有機電子素子は、本発明の方法で製造された導電性基板と有機機能層とを有する。
例えば、図3に示すとおり、本発明の方法で形成された透明な導電性基板を第1電極部22として、この第1電極部22の上に有機機能層24を形成し、さらにこの有機機能層24の上に対向配置された第2電極部26を形成することによって、有機電子素子20を得ることができる。
有機機能層24としては、有機発光層、有機光電変換層、液晶ポリマー層など特に限定無く挙げることができるが、本発明は、有機機能層24が薄膜でかつ電流駆動系のものである有機発光層、有機光電変換層である場合において、特に有効である。
【0057】
以下、本発明の有機電子素子が、有機EL素子および有機光電変換素子である場合のその構成要素について説明する。
【0058】
(1)有機EL素子
(1.1)有機機能層構成(有機発光層)
本発明において、有機機能層としての有機発光層を有する有機EL素子は、有機発光層に加えて、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層、ホールブロック層、電子ブロック層などの発光を制御する層を有機発光層と併用しても良い。
本発明の透明電極上の導電性ポリマー層は、ホール注入層として働くことも可能であるので、ホール注入層を兼ねることも可能だが、独立にホール注入層を設けても良い。
構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
(i)(第1電極部)/発光層/電子輸送層/(第2電極部)
(ii)(第1電極部)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/(第2電極部)
(iii)(第1電極部)/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/(第2電極部)
(iv)(第1電極部)/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/陰極バッファー層/(第2電極部)
(v)(第1電極部)/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/陰極バッファー層/(第2電極部)
【0059】
ここで、発光層は、発光極大波長が各々430〜480nm、510〜550nm、600〜640nmの範囲にある単色発光層であってもよく、また、これらの少なくとも3層の発光層を積層して白色発光層としたものであってもよく、さらに発光層間には非発光性の中間層を有していてもよい。本発明の有機EL素子としては、白色発光層であることが好ましい。
また、本発明において有機発光層に使用できる発光材料またはドーピング材料としては、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチルベンゼン誘導体、ジスチルアリーレン誘導体、および各種蛍光色素および希土類金属錯体、燐光発光材料等があるが、これらに限定されるものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を90〜99.5質量部、ドーピング材料を0.5〜10質量部含むようにすることも好ましい。
有機発光層は上記の材料等を用いて公知の方法によって作製されるものであり、蒸着、塗布、転写などの方法が挙げられる。
【0060】
(1.2)電極
本発明の導電性基板は、上記の第1電極部または第2電極部で使用されるが、第1電極部が本発明の透明な導電性基板であり、かつ陽極であることが好ましい態様である。
第2電極部は導電材単独層であっても良いが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。第2電極部の導電材としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。
このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第2金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
第2電極部の導電材として金属材料を用いれば第2電極側に来た光は反射されて第1電極部側にもどる。第2電極部の導電材として金属材料を用いることで、この光が再利用可能となりより取り出しの効率が向上する。
【0061】
(2)有機光電変換素子
有機光電変換素子は、第1電極部、バルクヘテロジャンクション構造(p型半導体層およびn型半導体層)を有する光電変換層(以下、バルクヘテロジャンクション層とも呼ぶ)、第2電極部が積層された構造を有することが好ましい。
本発明の透明電極は、少なくとも入射光側に用いられる。
光電変換層と第2電極部との間に電子輸送層などの中間層を有しても良い。
【0062】
(2.1)光電変換層
光電変換層は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を構成していることが好ましい。p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。
ここで、電子供与体および電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体および電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
p型半導体材料としては、種々の縮合多環芳香族化合物や共役系化合物が挙げられる。
縮合多環芳香族化合物としては、例えば、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、クリセン、ピセン、フルミネン、ピレン、ペロピレン、ペリレン、テリレン、クオテリレン、コロネン、オバレン、サーカムアントラセン、ビスアンテン、ゼスレン、ヘプタゼスレン、ピランスレン、ビオランテン、イソビオランテン、サーコビフェニル、アントラジチオフェン等の化合物、およびこれらの誘導体や前駆体が挙げられる。
共役系化合物としては、例えば、ポリチオフェンおよびそのオリゴマー、ポリピロールおよびそのオリゴマー、ポリアニリン、ポリフェニレンおよびそのオリゴマー、ポリフェニレンビニレンおよびそのオリゴマー、ポリチエニレンビニレンおよびそのオリゴマー、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、テトラチアフルバレン化合物、キノン化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、フラーレンおよびこれらの誘導体あるいは混合物を挙げることができる。
また、特にポリチオフェンおよびそのオリゴマーのうち、チオフェン6量体であるα−セクシチオフェンα,ω−ジヘキシル−α−セクシチオフェン、α,ω−ジヘキシル−α−キンケチオフェン、α,ω−ビス(3−ブトキシプロピル)−α−セクシチオフェン、等のオリゴマーが好適に用いることができる。
【0063】
その他、高分子p型半導体の例としては、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリカルバゾール、ポリイソチアナフテン、ポリヘプタジイン、ポリキノリン、ポリアニリンなどが挙げられ、さらには特開2006−36755号公報などの置換−無置換交互共重合ポリチオフェン、特開2007−51289号公報、特開2005−76030号公報、J.Amer.Chem.Soc.,2007,p4112、J.Amer.Chem.Soc.,2007,p7246などの縮環チオフェン構造を有するポリマー、WO2008/000664、Adv.Mater.,2007,p4160、Macromolecules,2007,Vol.40,p1981などのチオフェン共重合体などを挙げることができる。
さらに、ポルフィリンや銅フタロシアニン、テトラチアフルバレン(TTF)−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体、ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン(BEDTTTF)−過塩素酸錯体、BEDTTTF−ヨウ素錯体、TCNQ−ヨウ素錯体、等の有機分子錯体、C60、C70、C76、C78、C84等のフラーレン類、SWNT等のカーボンナノチューブ、メロシアニン色素類、ヘミシアニン色素類等の色素等、さらにポリシラン、ポリゲルマン等のσ共役系ポリマーや特開2000−260999号に記載の有機・無機混成材料も用いることができる。
【0064】
これらのπ共役系材料のうちでも、ペンタセン等の縮合多環芳香族化合物、フラーレン類、縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、金属フタロシアニン、金属ポルフィリンよりなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい。また、ペンタセン類がより好ましい。
ペンタセン類の例としては、国際公開第03/16599号パンフレット、国際公開第03/28125号パンフレット、米国特許第6,690,029号明細書、特開2004−107216号公報等に記載の置換基をもったペンタセン誘導体、米国特許出願公開第2003/136964号明細書等に記載のペンタセンプレカーサ、J.Amer.Chem.Soc.,vol127.No14.4986等に記載の置換アセン類およびその誘導体等が挙げられる。
【0065】
これらの化合物の中でも、溶液プロセスが可能な程度に有機溶剤への溶解性が高く、かつ乾燥後は結晶性薄膜を形成し、高い移動度を達成することが可能な化合物が好ましい。そのような化合物としては、J.Amer.Chem.Soc.,vol.123、p9482、J.Amer.Chem.Soc.,vol.130(2008)、No.9、2706等に記載のトリアルキルシリルエチニル基で置換されたアセン系化合物、および米国特許出願公開第2003/136964号明細書等に記載のペンタセンプレカーサ、特開2007−224019号公報等に記載のポルフィリンプレカーサー等のような、プレカーサータイプの化合物(前駆体)が挙げられる。
これらの中でも、後者のプリカーサータイプの方が好ましく用いることができる。これは、プリカーサータイプの方が、変換後に不溶化するため、バルクヘテロジャンクション層の上に正孔輸送層・電子輸送層・正孔ブロック層・電子ブロック層等を溶液プロセスで形成する際に、バルクヘテロジャンクション層が溶解してしまうことがなくなるため、前記の層を構成する材料とバルクヘテロジャンクション層を形成する材料とが混合することがなくなり、一層の効率向上・寿命向上を達成することができるためである。
p型半導体材料としては、p型半導体材料前駆体に熱・光・放射線・化学反応を引き起こす化合物の蒸気に晒す、等の方法によって化学構造変化を起こし、p型半導体材料に変換された化合物であることが好ましい。中でも熱によって科学構造変化を起こす化合物が好ましい。
【0066】
n型半導体材料の例としては、フラーレン、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物を骨格として含む、高分子化合物が挙げられる。
中でも、フラーレン含有高分子化合物が好ましい。フラーレン含有高分子化合物としては、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン(円錐型)等を骨格に持つ高分子化合物が挙げられる。フラーレン含有高分子化合物では、フラーレンC60を骨格に持つ高分子化合物(誘導体)が好ましい。
フラーレン含有ポリマーとしては、大別してフラーレンが高分子主鎖からペンダントされたポリマーと、フラーレンが高分子主鎖に含有されるポリマーとに大別されるが、フラーレンがポリマーの主鎖に含有されている化合物が好ましい。
これは、フラーレンが主鎖に含有されているポリマーは、ポリマーが分岐構造を有さないため、固体化した際に高密度なパッキングができ、結果として高い移動度を得ることができるためではないかと推定される。
【0067】
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。
本発明の光電変換素子を、太陽電池などの光電変換デバイスとして用いる形態としては、光電変換素子を単層で利用してもよいし、積層(タンデム型)して利用してもよい。
また、光電変換デバイスは、環境中の酸素、水分等で劣化しないように、公知の手法によって封止することが好ましい。
【0068】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【実施例1】
【0069】
《透明導電性基板ACF−1の作製》
(金属細線パターンの形成)
両面にハードコート層を設けた厚さ110μm、大きさ180mm×180mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に、銀ナノ粒子インク(TEC−PR−030;InkTec社製)を用いて、30μm幅、0.75mmピッチ、正方形格子状のグラビア版パターンにて、焼成後の細線の平均高さが0.8μmになるようにグラビア印刷法で金属細線パターンの印刷を行った。印刷装置として小型厚膜半自動印刷機STF−150IP(東海商事社製)を用いた。パターンを印刷するエリアは150mm×150mmとした。
(金属細線パターンの焼成)
上記金属細線パターン印刷後に、ホットプレート上で120℃で30分熱処理を施して、透明導電性基板ACF−1を作製した。
【0070】
《透明導電性基板ACF−2の作製》
ACF−1の作製において、金属細線パターンの焼成を以下の様に変更した。
それ以外はACF−1と同様にして、透明導電性基板ACF−2を作製した。
(金属細線パターンの焼成)
金属細線パターン印刷後に、250nm以下の短波長カットフィルターを装着したキセノンフラッシュランプ2400WS(COMET社製)を用いて、照射エネルギー2.5J/cmのフラッシュ光を、金属細線パターン印刷面側から照射時間2m秒で1回照射して加熱焼成を行った。
【0071】
《透明導電性基板ACF−3の作製》
(アンカー層の形成)
両面にハードコート層を設けた厚さ110μm、大きさ180mm×180mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に、前記特開2007−169604号公報に記載の実施例2,10(段落0065、0078)等を参考にして、乾燥後の平均膜厚が0.8μmになるように、90質量%の無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成した。
詳しくは、珪素系酸化物凝集体粒子を含む「分散液」を調製した。分散液の調製方法は下記のとおりである(珪素系酸化物凝集体粒子を含む分散液は後続のサンプルでもこれと同様のものを使用した。)。
これとは別に、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン306.84gとチタンテトライソプロポキシド266.87gをエチルセロソルブ257.26gに溶解させ、これに濃硝酸100.68g、水31.61gおよびエチルセロソルブ36.75gの混合液を滴下したのち、30℃にて4時間反応させることにより、固形分濃度30質量%の「バインダー液」を調製した。
その後、上記分散液360g中に、攪拌しながらシクロヘキサノン620g、次いで上記バインダー液20gを滴下し、室温にて1時間攪拌することにより、固形分濃度6質量%の「塗布液」を調製した。
その後、両面にハードコート層を設けた厚さ110μm、大きさ180mm×180mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に、バーコート法により、乾燥後の平均膜厚が0.8μmになるように、上記塗布液を塗布し、120℃で1分間加熱後、60℃で3日間エージングを行い、90質量%の無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成した。
【0072】
(分散液の調製)
市販のJIS3号水ガラス(SiO/NaOモル比3.22、SiO濃度28.5重量%)に純水を加えて、SiO濃度3.6重量%の珪酸ナトリウム水溶液を得た。別途用意された商品名アンバーライト120Bの陽イオン交換樹脂充填のカラムに、上記珪酸ナトリウム水溶液を通すことにより、SiO濃度3.60重量%、pH2.90、電導度580μS/cmの活性珪酸のコロイド水溶液を得た。
上記活性珪酸のコロイド水溶液888g(SiO含量32.0g)をガラス製容器に投入し攪拌下に純水600gを加えて、SiO濃度2.15重量%、pH3.07の活性珪酸のコロイド水溶液とした。次いで、これに10重量%の硝酸カルシウム水溶液(pH4.32)59g(CaO含量2.02g)を攪拌下に室温で添加し、30分間攪拌を続行した。添加した硝酸カルシウムはCaOとしてSiOに対して6.30重量%であった。
一方、平均粒子径(窒素吸着法/D2)20.5nmの酸性球状シリカゾルスノーテックスO−40(日産化学工業(株)製)(比重1.289、粘度4.10mPa・s、pH2.67、電導度942μS/cm、SiO濃度40.1重量%)2000g(SiO含量802g)を別のガラス容器に投入し、これに5重量%の水酸化ナトリウム水溶液6.0gを攪拌下に添加し、30分攪拌を続行して、pH4.73、SiO濃度40.0重量%の酸性シリカゾルを得た。
このシリカゾルの動的光散乱法による測定粒子径(D1)は、35.0nmでありD1/D2値は、1.71であった。また、電子顕微鏡観察によると、このシリカゾル中のコロイダルシリカ粒子は球状であり、単分散に近い分散を示し、コロイド粒子間の結合、凝集は認められなかった。
前記硝酸カルシウムを添加した活性珪酸のコロイド水溶液[混合液(a)]に、上記20.5nmの酸性球状シリカゾルを攪拌下に添加し、30分間攪拌を続行した。得られた混合液(b)は、酸性球状シリカゾルに由来するシリカ含量(A)と活性珪酸のコロイド水溶液[混合液(a)]に由来するシリカ含量(B)の比A/B(重量比)が25.1であり、pH3.60、電導度2580μS/cmであり、混合液(b)中の全シリカ含量(A+B)はSiO濃度として23.5重量%であった。液中のカルシウムイオンはCaOとしてSiOに対して0.242重量%であった。
次いで得られた混合液(b)に1.97重量%の水酸化ナトリウム水溶液330gを攪拌下に10分間かけて添加し、更に1時間攪拌を続行した。この水酸化ナトリウム水溶液の添加により得られた混合液(c)はpH9.22、電導度3266μS/cmを示し、SiO濃度21.5重量%、SiO/NaOモル比163.5であった。この混合液(c)中には少量のシリカゲルが観察された。
次いで、上記アルカリ性の混合液(c)1800gをステンレス製のオートクレーブに仕込み、145℃で攪拌下3時間加熱した後、冷却して内容物1800gを取り出した。得られた液は透明性コロイド色のシリカゾル[数珠状シリカゾルA]であり、これを、珪素系酸化物凝集体粒子を含む分散液として使用した。
数珠状シリカゾルAは、SiO濃度21.5重量%含有し、SiO/NaOモル比200、pH9.62、比重1.141、粘度91.7mPa・s、電導度3290μS/cm、透過率59.0%であり、動的光散乱法による測定粒子径(D1)は177nmであった。
従って、D1/D2比は8.63である。電子顕微鏡観察によると得られたシリカゾル中のコロイダルシリカ粒子は球状コロイダルシリカ粒子とそれを接合するシリカからなり、球状コロイダルシリカ粒子が、一平面内に数珠状に5個〜30個つながった数珠状コロイダルシリカ粒子であり、3次元のゲル構造粒子は認められなかった。このゾルの乾燥物の水銀ポロシメーターにより測定した累積細孔容積は1.23cc/g、平均細孔直径は49nmであった。
【0073】
(金属細線パターンの形成)
次いで、アンカー層付きPETフィルムのアンカー層形成面側に、ACF−1と同様にして金属細線パターンの印刷を行った。
(金属細線パターンの焼成)
金属細線パターン印刷後に、ホットプレート上で120℃で30分熱処理を施して、透明導電性基板ACF−3を作製した。
【0074】
《透明導電性基板ACF−4の作製》
ACF−3の作製において、金属細線パターンの焼成を以下の様に変更した。
それ以外はACF−3と同様にして、透明導電性基板ACF−4を作製した。
(金属細線パターンの焼成)
金属細線パターン印刷後に、250nm以下の短波長カットフィルターを装着したキセノンフラッシュランプ2400WS(COMET社製)を用いて、照射エネルギー2.5J/cmのフラッシュ光を、金属細線パターン印刷面側から照射時間2m秒で1回照射して加熱焼成を行った。
【0075】
《透明導電性基板ACF−5〜ACF−11の作製》
ACF−4の作製において、前記特開2007−169604号公報に記載の実施例(ACF−3の作製におけるアンカー層の形成方法)を参考にして、アンカー層の無機化合物の重量構成比や比表面積が異なる平均膜厚が0.8μmの多孔質状のアンカー層を形成した。
それ以外はACF−4と同様にして、透明導電性基板ACF−5〜ACF−11を作製した。
【0076】
《透明導電性基板ACF−12の作製》
ACF−4の作製において、前記特開2007−169604号公報実施例に記載の比較例4(段落0076)を参考に、乾燥後の平均膜厚が0.8μmになるように調整してアンカー層を形成した。
詳しくは、珪素系酸化物凝集体粒子を含む「分散液」を調製した。その後、上記分散液120g中に、攪拌しながら水670g、次いでポリビニルアルコール20質量%を含む水溶液210gを滴下し、室温にて1時間攪拌することにより、固形分濃度6質量%の「塗布液」を得た。その後、バーコート法により、乾燥後の平均膜厚が0.8μmになるように、上記塗布液を塗布し、120℃で1分間加熱後、60℃で3日間エージングを行い、30質量%の無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成した。
それ以外は、ACF−4と同様に金属細線パターンの形成と金属細線パターンの焼成を行い、透明導電性基板ACF−12を作製した。
【0077】
《透明導電性基板の評価》
上記のように作製した各透明導電性基板の、アンカー層の比表面積、金属細線パターンの平均線幅、金属細線パターンの剥離の有無、シート抵抗、屈曲処理後のシート抵抗を以下のように評価し、得られた結果を表1に示す。
(1)アンカー層の比表面積
各透明導電性基板のアンカー層形成後の基板から、100×50mmのサンプルを2枚切り出し、比表面積測定装置フローソーブII2300(島津製作所製)を使用して窒素吸着法(BET1点法)で測定し、単位面積あたりの値に換算して求めた。
(2)金属細線パターンの平均線幅
CNC画像評価システムNEXIV VMR−1515(NIKON社製)を用いて、各透明導電性基板の細線パターンの任意の100箇所の線幅を測定し平均値を求めた。
(3)金属細線パターンの剥離の有無
各透明導電性基板から適当な大きさの試験片を切り出し、20mm×20mm□の面積における金属細線パターンの剥離箇所の数を、電子顕微鏡Miniscope TM−1000(日立社製)を用いてカウントし以下のように分類した。
◎:剥離箇所が無い場合
○:剥離箇所が1〜5箇所の場合
△:剥離箇所が6箇所以上の場合
×:殆ど剥離している場合
(4)シート抵抗
抵抗率計ロレスタGP(ダイアインスツルメンツ社製)を用いて、四端子法で測定した。
(5)屈曲処理後のシート抵抗
各透明導電性基板を、直径3cmの円柱棒に10回巻き付けた後で、上記(4)と同様に測定した。
【0078】
【表1】
【0079】
(6)まとめ
表1に示す結果から、アンカー層がないか、フラッシュ光が照射されなかった導電性基板ACF1−1〜3や、これら条件が満たされても、アンカー層が多孔質状を呈しない(比表面積が30cm/cm未満である)導電性基板ACF1−11、アンカー層が主に無機化合物からなるものでない(無機化合物の構成比率が70質量%未満である)導電性基板1−12は結果が劣っているのに対し、本発明の製造方法で製造された導電性基板ACF−4〜10は優れた導電性を有することが判る。
これは、本発明に係るアンカー層によって、金属細線パターンのフラッシュ光照射による加熱焼成時の金属細線パターン剥離が防止され、高いエネルギーのフラッシュ光で十分に加熱焼成できたためと考えられる。
また、係るアンカー層の効果を得るためには、アンカー層の無機化合物の構成比や比表面積が重要な要件になっていると思われる。
以上から、導電性基板の製造に際し、主に無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成し、フラッシュ光を照射することが有用であると推定される。
【実施例2】
【0080】
実施例1の金属細線パターンの形成において、使用するインクを銀錯体インク(TEC−IJ−010;InkTec社製)に変更し、金属細線パターンの印刷法をインクジェット法に変更した。
それ以外は実施例1と同様に試料を作製し評価したところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【実施例3】
【0081】
《有機EL素子AOL−30の作製》
(透明導電性基板ACF−30の作製)
厚さ0.7mm、大きさ80mm×80mmの清浄な無アルカリガラス基板の一方の面に、常法に従いスパッタ法を用いて平均膜厚150nm、大きさ50mm×50mmのITO透明導電層を製膜し、透明導電性基板ACF−30を作製した。
透明導電性基板ACF−30の透過率とシート抵抗は、84%と12Ω/□であった。
【0082】
(有機EL素子の作製)
上記、透明導電性基板ACF−30を第1電極(陽極)に用いて、有機EL素子AOL−30を以下の手順でそれぞれ作製した。
第1電極としての透明導電性基板ACF−30の上に、PEDOT−PSS CLEVIOS P AI 4083(固形分15%)(Heraeus社製)を、塗布幅50mmのアプリケーターを用いて、乾燥膜厚が30nmとなるようACF−30の導電面上に塗布し、50mm×50mmの面積になるよう不要な周辺部分を拭き取ったのち、乾燥させた。
【0083】
次に、ACF−30を市販の真空蒸着装置内にセットし、真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製またはタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
次いで、以下の手順で各有機化合物層を設けた。
まず、真空度1×10−4Paまで減圧した後、下記α−NPDの入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、30nmの正孔輸送層を設けた。
下記Ir−1が13質量%、下記Ir−14が3.7質量%の濃度になるように、Ir−1、Ir−14および下記化合物1−7を蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、発光極大波長が622nm、厚さ10nmの緑赤色燐光発光層を形成した。
次いで、下記E−66が10質量%になるように、E−66および化合物1−7を蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、発光極大波長が471nm、厚さ15nmの青色燐光発光層を形成した。
その後、下記M−1を膜厚5nmに蒸着して正孔阻止層を形成し、さらにCsFを膜厚比で10%になるようにM−1と共蒸着し、厚さ45nmの電子輸送層を形成した。
各層形成に用いた化合物を下記に示す。
【0084】
【化3】
【0085】
形成した電子輸送層の上に、第1電極用外部取り出し端子および50mm×50mmの第2電極(陰極)形成用材料としてAlを5×10−4Paの真空下にてマスク蒸着し、厚さ100nmの第2電極を形成した。
さらに、第1電極および第2電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除き第2電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムを基板としAlを厚さ300nmで蒸着した可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させ封止膜を形成し、発光エリア50mm×50mmの有機EL素子AOL−30を作製した。
接着剤として、2液性エポキシ配合樹脂(スリーボンド社製)2016Bと2103を100:3の割合で配合したものを用いた。
【0086】
《有機EL素子AOL−31の作製》
上記、有機EL素子AOL−30の作製において、透明導電性基板の作製方法を以下の様に変更し、第1電極(陽極)に用いた。
それ以外はAOL−30と同様にして、有機EL素子AOL−31を作製した。
【0087】
(透明導電性基板ACF−31の作製)
厚さ0.7mm、大きさ80mm×80mmの清浄な無アルカリガラス基板の一方の面に、前記特開2007−169604号公報に記載の実施例2(段落0065)等を参考にして、アンカー層の塗布液を調液し、塗布幅50mmのアプリケーターを用いて塗布した。
詳しくは、珪素系酸化物凝集体粒子を含む「分散液」を調製した。これとは別に、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン306.84gとチタンテトライソプロポキシド266.87gをエチルセロソルブ257.26gに溶解させ、これに濃硝酸100.68g、水31.61gおよびエチルセロソルブ36.75gの混合液を滴下したのち、30℃にて4時間反応させることにより、固形分濃度30質量%の「バインダー液」を調製した。
その後、上記分散液360g中に、攪拌しながらシクロヘキサノン620g、次いで上記バインダー液20gを滴下し、室温にて1時間攪拌することにより、固形分濃度6質量%の「塗布液」を調製した。
その後、上記塗布液を、厚さ0.7mm、大きさ80mm×80mmの清浄な無アルカリガラス基板の一方の面に、塗布幅50mmのアプリケーターを用いて塗布した。
次いで、塗布液の不要な周辺部分を拭き取って50mm×50mmのパターンを形成し、120℃で1分間加熱後、60℃で3日間エージングを行って、乾燥後の平均膜厚が0.8μm、90質量%の無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成した。形成したアンカー層の比表面積は125cm/cmであった。
次いで、アンカー層上に、銀ナノ粒子インキ(TEC−PR−030;InkTec社製)を用いて、30μm幅、0.75mmピッチ、正方形格子状のグラビア版パターンにて、焼成後の細線の平均高さが0.8μmになるようにグラビア印刷法で金属細線パターンの印刷を行った。印刷装置として小型厚膜半自動印刷機STF−150IP(東海商事社製)を用いた。パターンを印刷するエリアは50mm×50mmとした。
金属細線パターン印刷後に、250nm以下の短波長カットフィルターを装着したキセノンフラッシュランプ2400WS(COMET社製)を用いて、照射エネルギー2.5J/cmのフラッシュ光を、金属細線パターン印刷面側から照射時間2m秒で1回照射して加熱焼成を行った。加熱焼成後の金属細線パターンのシート抵抗は、2Ω/□であった。
フラッシュ光照射による加熱焼成後の金属細線パターン上に、金属細線パターンの印刷幅に合わせて、導電性高分子としての、PEDOT:PSS(ポリスチレンスルホン酸)=1:2.5の分散液であるCLEVIOS PH510(Heraeus社製、固形分濃度1.89%)に、下記の様に合成して調製した水溶性バインダー樹脂を、全体に対する固形分比として75%となるように添加した導電性ポリマー液CP−1を、塗布幅50mmのアプリケーターを用いて、導電性ポリマー含有層として、乾燥平均膜厚が500nmとなるよう塗布し、金属細線パターンの印刷領域と同じになるよう不要な周辺部分を拭き取った。その後、アドフォス社のNIR(R)エミッターを光源とする乾燥装置で、PETフィルムの光吸収が小さい可視〜近赤外光を用いて乾燥処理を施し、透明導電性基板ACF−31を作製した。
透明導電性基板ACF−31の透過率とシート抵抗は、83%と0.8Ω/□であった。
尚、同様に作製した透明導電性基板の断面を電子顕微鏡で観察したところ、導電性ポリマー含有層はアンカー層に浸透し、かつアンカー層の表面を被覆していることが確認された。
【0088】
(水溶性バインダー樹脂の合成)
300ml三ツ口フラスコにTHF(テトラヒドロフラン)200mlを加え10分間加熱還流させた後、窒素下で室温に冷却した。2−ヒドロキシエチルアクリレート(10.0g、86.2mmol、分子量116.12)、アゾイソブチロニトリル(2.8g、17.2mmol、分子量164.11)を加え、5時間加熱還流した。室温に冷却した後、2000mlのMEK(メチルエチルケトン)中に反応溶液を滴下し、1時間攪拌した。MEKをデカンテーション後、100mlのMEKで3回洗浄後、THFでポリマーを溶解し、100mlフラスコへ移した。THFをロータリーエバポレーターにより減圧留去後、50℃で3時間減圧乾燥した。その結果、数平均分子量22100、分子量分布142の水溶性バインダー樹脂を9.0g(収率90%)得た。
構造、分子量は各々1H−NMR(400MHz、日本電子社製)、GPC(Waters2695、Waters社製)で測定した。
【0089】
<GPC測定条件>
装置:Waters2695(Separations Module)
検出器:Waters 2414 (Refractive Index Detector)
カラム:Shodex Asahipak GF−7M HQ
溶離液:ジメチルホルムアミド(20mM LiBr)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
得られた水溶性バインダー樹脂を純水に溶解し、固形分20%の水溶性バインダー樹脂水溶液を調製した。
【0090】
《有機EL素子AOL−32の作製》
上記、有機EL素子AOL−31の作製において、透明導電性基板の作製方法を以下の様に変更し、第1電極(陽極)に用いた。
それ以外はAOL−31と同様にして、有機EL素子AOL−31を作製した。
(透明導電性基板ACF−32の作製)
上記、透明導電性基板ACF−31の作製において、ガラス基板上にアンカー層を設けずに、金属細線パターンを直接ガラス基板上に形成した。それ以降のプロセスは、ACF−31と同様に実施し、透明導電性基板ACF−32を作製した。
透明導電性基板ACF−32の透過率は85%、シート抵抗は金属細線パターンが剥離していた影響で測定できなかった。
【0091】
《有機EL素子AOL−33の作製》
上記、有機EL素子AOL−30の作製において、透明導電性基板の作製方法を以下の様に変更し、第1電極(陽極)に用いた。
それ以外はAOL−30と同様にして、有機EL素子AOL−33を作製した。
(透明導電性基板ACF−33の作製)
下記の様に作製したバリア層付き透明フィルム基板のバリア層面に、常法に従いスパッタ法を用いて平均膜厚150nm、大きさ50mm×50mmのITO透明導電層を製膜し、透明導電性基板ACF−33を作製した。
透明導電性基板ACF−33の透過率とシート抵抗は、82%と35Ω/□であった。
【0092】
(バリア層付き透明フィルム基板の作製)
(バリア層の形成)
パーヒドロポリシラザン(PHPS、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製アクアミカ NN320)の20質量%ジブチルエーテル溶液を、乾燥後の平均膜厚が0.3μmとなるように、両面にハードコート層を設けた厚さ110μm、大きさ80mm×80mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一方の面に塗布した後、温度85℃、湿度55%RHの雰囲気下に1分間保持して乾燥処理を行い、さらに温度25℃、湿度10%RH(露点温度−8℃)の雰囲気下に10分間保持して除湿処理を行った。
除湿処理を行った試料を下記の条件で改質処理を行い、バリア層付き透明フィルム基板を作製した。改質処理時の露点温度は−8℃で実施した。
<改質処理装置>
株式会社エム・ディ・コム製エキシマ照射装置(MODEL:MECL−M−1−200、波長172nm、ランプ封入ガスXe)を用いた。稼動ステージ上に試料を固定してその試料に対し以下の条件で改質処理を行った。
<改質処理条件>
エキシマ光強度 60mW/cm2(172nm)
試料と光源の距離 1mm
ステージ加熱温度 70℃
照射装置内の酸素濃度 1%
エキシマ照射時間 3秒
作製したバリア層付き透明フィルム基板の水蒸気透過率をCa法で評価したところ、2×10−5(g・m・day)であった。
【0093】
《有機EL素子AOL−34の作製》
上記、有機EL素子AOL−31の作製において、透明導電性基板の作製方法を以下の様に変更し、第1電極(陽極)に用いた。
それ以外はAOL−31と同様にして、有機EL素子AOL−34を作製した。
(透明導電性基板ACF−34の作製)
透明導電性基板ACF−33と同様のバリア層付き透明フィルム基板のバリア層の面に、前記特開2007−169604号公報に記載の実施例2(段落0065)等を参考にして、アンカー層の塗布液を調液し、塗布幅50mmのアプリケーターを用いて塗布した。
詳しくは、珪素系酸化物凝集体粒子を含む「分散液」を調製した。これとは別に、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン306.84gとチタンテトライソプロポキシド266.87gをエチルセロソルブ257.26gに溶解させ、これに濃硝酸100.68g、水31.61gおよびエチルセロソルブ36.75gの混合液を滴下したのち、30℃にて4時間反応させることにより、固形分濃度30質量%の「バインダー液」を調製した。
その後、上記分散液360g中に、攪拌しながらシクロヘキサノン620g、次いで上記バインダー液20gを滴下し、室温にて1時間攪拌することにより、固形分濃度6質量%の「塗布液」を調製した。
その後、上記塗布液を、上記バリア層付き透明フィルム基板のバリア層の面に、塗布幅50mmのアプリケーターを用いて塗布した。
次いで、塗布液の不要な周辺部分を拭き取って50mm×50mmのパターンを形成し、120℃で1分間加熱後、60℃で3日間エージングを行って、乾燥後の平均膜厚が0.8μm、90質量%の無機化合物からなる多孔質状のアンカー層を形成した。形成したアンカー層の比表面積は122cm/cmであった。
アンカー層を形成したバリア層付き透明フィルム基板を、ACF−31のガラス基板の代わりに使用した以外は、透明導電性基板ACF−31と同様にして、透明導電性基板ACF−34を作製した。
透明導電性基板ACF−34の透過率とシート抵抗は、82%と0.8Ω/□であった。
【0094】
《有機EL素子AOL−35の作製》
上記、有機EL素子AOL−34の作製において、透明導電性基板の作製方法を以下の様に変更し、第1電極(陽極)に用いた。
それ以外はAOL−34と同様にして、有機EL素子AOL−35を作製した。
(透明導電性基板ACF−35の作製)
上記、透明導電性基板ACF−34の作製において、バリア層付き透明フィルム基板上にアンカー層を設けずに、金属細線パターンを直接バリア層の上に形成した。それ以降のプロセスは、ACF−34と同様に実施し、透明導電性基板ACF−35を作製した。
透明導電性基板ACF−35の透過率は84%、シート抵抗は金属細線パターンが剥離していた影響で測定できなかった。
【0095】
《有機EL素子の評価》
上記のように作製した各有機EL素子の光取出し効率を以下の方法で評価した。
(1)発光効率の測定
有機EL素子AOL−30〜AOL−35について、KEITHLEY製ソースメジャーユニット2400型を用いて、直流電圧を印加し300cdで発光させたときの発光効率(ルーメン/W)を測定し、AOL−30の発光効率を100としたときのそれぞれの相対値を表2に示した。
AOL−30〜AOL−35の有機層構成は同一であるから、発光効率の違いは主として光取出し効率の違いと見なすことができる。
尚、AOL−32とAOL−35は、第1電極と第2電極間の短絡が発生しており発光しなかった。おそらく剥離した金属細線パターンが原因と思われる。
【0096】
【表2】
【0097】
(2)まとめ
表2に示す結果から、本発明の製造方法で製造された透明導電性基板を第1電極に適用した有機EL素子AOL−31,34は、従来のITO透明電極を用いた有機EL素子AOL−30,33や、アンカー層がない有機EL素子AOL32,35に較べて、光取出し効率が大幅に向上することが判る。
本発明の製造方法で製造された透明導電性基板により、光取出し効率が向上する機構は明らかではないが、主に無機化合物からなる多孔質状のアンカー層の内部にも導電性ポリマー含有層が形成されることにより、無機化合物とポリマー成分の屈折率差によってアンカー層で光散乱が生ずるためと推定され、本発明によってもたらされる予想しえない効果である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、基板ダメージと金属細線パターンの損傷とを抑制・防止しながら、導電性に優れた導電性基板を製造するのに特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 導電性基板
2 基板
4 バリア層
6 アンカー層
8 金属細線パターン
10 導電性ポリマー含有層
20 有機電子素子
22 第1電極部
24 有機機能層
26 第2電極部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3