(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
90℃の熱風で測定したフィルム主収縮方向の最大収縮応力が3MPa以上7MPa未満であり、かつ、測定開始から30秒後の収縮応力が最大収縮応力の70%以上100%以下である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後の幅方向の単位厚み当たりの直角引裂強度が150N/mm以上300N/mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
全ポリエステル樹脂成分中における非晶質成分となり得るモノマーの主成分が、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸のうちのいずれかである請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いるポリエステルは、エチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とするものである。エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましい。本発明のポリエステルを構成する他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等)をポリエステルに含有させる場合、含有率は3モル%未満(ジカルボン酸成分100モル%中)であることが好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸を3モル%以上含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、高速装着時のフィルム腰が不充分である。
【0024】
また、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)をポリエステルに含有させないことが好ましい。これらの多価カルボン酸を含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。
【0025】
ポリエステルを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。
【0026】
本発明で用いるポリエステルは、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の環状ジオールや、炭素数3〜6個を有するジオール(例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等)のうちの1種以上を含有させて、ガラス転移点(Tg)を60〜80℃に調整したポリエステルが好ましい。
【0027】
また、ポリエステルは、全ポリエステル樹脂中における多価アルコール成分100モル%中あるいは多価カルボン酸成分100モル%中の非晶質成分となり得る1種以上のモノマー成分の合計が15モル%以上、好ましくは16モル%以上、より好ましくは17モル%以上、特に好ましくは18モル%以上である。また非晶質成分となり得るモノマー成分の合計の上限は特に限定されないが、上限は30モル%が好ましい。
【0028】
非晶質成分となり得るモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらの中でも、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸を用いるのが好ましい。
【0029】
また、ε−カプロラクトンを用いることも好ましい。ε−カプロラクトン(ε−CL)は、便宜上多価アルコール成分としてカウントする。
【0030】
ポリエステルには、炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリン等)を含有させないことが好ましい。これらのジオール、または多価アルコールを含有するポリエステルを使用して得た熱収縮性ポリエステル系フィルムでは、必要な高収縮率を達成しにくくなる。また、ポリエステルには、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールをできるだけ含有させないことも好ましい。
【0031】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0032】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中には、フィルムの作業性(滑り性)を良好にする滑剤としての微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができるが、例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム等、有機系微粒子としては、例えば、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子等を挙げることができる。微粒子の平均粒径は、0.05〜3.0μmの範囲内(コールターカウンタにて測定した場合)で、必要に応じて適宜選択することができる。
【0033】
熱収縮性ポリエステル系フィルムを形成する樹脂の中に上記粒子を配合する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールまたは水等に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法、または混練押出し機を用いて、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法等によって行うのも好ましい。
【0034】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したりすることも可能である。
【0035】
次に、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに必要な特性について説明する。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、偏光ATR−FTIR法で測定した熱収縮性ポリエステル系フィルムの1340cm
-1での吸光度A1と1410cm
-1でのA2との比A1/A2(以下、吸光度比)が、フィルム主収縮方向(以下、長手方向)で0.55以上1以下、主収縮方向に直交する方向(以下、幅方向)で0.5以上0.9以下でなければならない。
【0036】
上記吸光度比は、分子配向のトランスコンフォメーション比率を表す。これまで、収縮率に関係する非晶配向は、ゴーシュコンフォメーション比率と考えられていた。しかし、上ノ町 清巳氏の論文(「熱収縮性ポリエステルフィルムの収縮特性制御」、成形加工、第6巻、第10号、1994年、p679−682)では、製膜条件を変更して収縮率を変化させても、ゴーシュコンフォメーション比率の変化はほとんどなく、製膜条件変更により変化したのはトランスコンフォメーション比率であった。
【0037】
また、本発明者等は、延伸温度等を変更することにより、トランスコンフォメーション比率の変化と収縮率が関係しているという実験結果を得ている。従って、熱収縮に関係する分子配向を表すのは、トランスコンフォメーション比率の方であると考えられる。トランスコンフォメーションは分子鎖の配向状態を表すものと考えられ、トランスコンフォメーション比率が高いと分子鎖の配向状態も高い。非晶モノマーを用いたポリエステルを原料とする場合は、分子鎖の構造(回転異性体の長さ)の違いで収縮の容易さが変化すると、上記論文では考えられている。このため、フィルム製造段階で、収縮が容易な分子鎖の配向が高いと、分子鎖にかかっている応力を緩和(=収縮)することのできるのに充分な熱を加えることによって、分子鎖の応力が緩和されて小さくなり(分子鎖の変化が大きくなり)、収縮率も高くなると考えられる。
【0038】
この論文の熱収縮性フィルムは、主収縮方向である幅方向のみに延伸された一軸延伸フィルムであり、熱収縮性ポリエステル系フィルムに要求される種々の特性を満足するものではない。そこで、本発明者等は、長手方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の二軸に延伸されたフィルムにおける分子配向(トランスコンフォメーション比率)に着目して、好適な熱収縮特性を示す分子配向とはどのようなものかについて、長手方向と幅方向のトランスコンフォメーション比率を検討し、本発明に到達した。
【0039】
また上記論文では、トランスコンフォメーションの吸光度比を795cm
-1と975cm
-1の比率で求めている。しかし、トランスコンフォメーション比率を測定する吸光度(波長)は他にも複数ある。本発明では、文献{Atlas of polymer and plastic analysis:Vch verlagsgesellschaft mbh, 370(1991)}を参考にして、複数の吸光度比からトランスコンフォメーション指数を求めた結果、1340cm
-1と1410cm
-1の吸光度比が最も値の差が大きかったので、トランスコンフォメーション比率をこの吸光度比で求めた。
【0040】
フィルム長手方向においては、吸光度比は0.55〜1でなければならない。フィルム長手方向の吸光度比が0.55未満では分子配向が低いため、90℃の収縮率が小さくなり好ましくない。吸光度比は、0.57以上がより好ましく、0.59以上がさらに好ましい。一方、フィルム長手方向の吸光度比が1を超えると、分子配向の度合いが高くなり過ぎて、収縮速度が速くなり(緩やかに収縮しない)、収縮後のラベルにシワや歪みが発生し易い。長手方向の吸光度比は、0.98以下がより好ましく、0.96以下がさらに好ましい。
【0041】
一方、フィルム幅方向においては、吸光度比は0.5〜0.9でなければならない。フィルム幅方向の吸光度比が0.5未満では分子配向が低いため、幅方向の引張破壊強さが小さくなり、直角引裂強度が大きくなる。また、収縮速度が速くなるため、収縮後のラベルにシワが入りやすくなる。フィルム幅方向の吸光度比は0.53以上がより好ましく、0.55以上がさらに好ましい。またフィルム幅方向の吸光度比が0.9より高くなると分子配向が高いため、幅方向の引張破壊強さも大きくなってこの点では好ましいが、フィルム幅方向の90℃温湯収縮率も高くなり過ぎ、その結果として、収縮後のラベルにシワや歪みが発生し易い。フィルム幅方向の吸光度比は0.87以下がより好ましく、0.84以下がさらに好ましい。
【0042】
本発明では後述するように、フィルム幅方向に延伸した後に、フィルム長手方向に延伸する。従来の熱収縮性フィルムは、一般に幅方向の一軸延伸フィルムであり、このような一軸延伸フィルムでは、延伸方向の配向、すなわち幅方向のトランスコンフォメーション比率(吸光度比)しか高くならないため、未延伸方向の強度が不充分であった。本発明では、幅方向と長手方向に延伸しているため、両方向のトランスコンフォメーション比率が近い値となり、強度のバランスに優れたフィルムとなる。
【0043】
フィルム長手方向のトランスコンフォメーション比率とフィルム幅方向のトランスコンフォメーション比率の差は0.13以下であることが好ましい。通常、二軸に延伸したフィルムは、一軸目と二軸目の延伸倍率が近ければ、最終延伸方向の配向が高くなるのが一般的だが、本発明では、長手方向と幅方向の配向差が小さいことが特徴である。一般的な二軸延伸フィルムの最終延伸方向の配向が高くなる理由は、二軸目に延伸する方向の延伸応力が一軸目の延伸応力よりも高くなるためである。
【0044】
本発明では、後述するように延伸条件を制御することによって、二軸目に延伸する方向の延伸応力が一軸目の延伸応力よりあまり高くならないようにしている。その結果、二軸目の延伸応力が小さくなって、幅方向と長手方向の配向度合い(吸光度比)の差が0.13以下と小さくなるものと推測される。そして、この幅方向と長手方向の配向度合い(吸光度比)の差が小さいということは、本発明のポリエステルの分子鎖が、どのように引き伸ばされているか、すなわち、幅方向と長手方向の両方に延伸されていることを示す指標となっていると考えられる。この幅方向と長手方向の吸光度比の差は、0.12以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の温湯中に、無荷重状態で10秒間浸漬し、フィルムを直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬させた後、収縮前後の長さから、下式1により算出したフィルムの長手方向(主収縮方向)の熱収縮率(すなわち、90℃の温湯収縮率)が、35%以上60%以下である。
【0046】
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
収縮量が小さくて、ラベルとして用いた場合に、熱収縮後のラベルにシワやタルミが生じるという状況の発生を防ぐために、90℃における長手方向の温湯収縮率は35%以上であることが好ましく、38%以上がより好ましく、41%以上がさらに好ましい。一方、緩やかに収縮できず、収縮後のラベルに歪みが生じるといった状況の発生を防ぐためには、90℃における長手方向の温湯収縮率が60%以下が好ましく、57%以下がより好ましく、54%以下がさらに好ましい。
【0047】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記と同様にして測定されたフィルム幅方向(主収縮方向と直交する方向)の90℃の温湯収縮率が、−3%以上12%以下であることが好ましい。90℃における幅方向の温湯収縮率が−3%未満である(すなわち、加熱による伸長が大きい)と、ボトルのラベルとして使用する際に、ラベルに伸びが生じてシワになりやすく、良好な収縮外観を得ることができないので好ましくなく、反対に、90℃における幅方向の温湯収縮率が12%を超えると、収縮後のラベルに歪みが生じ易くなるので好ましくない。90℃における幅方向の温湯収縮率は、好ましくは−2%以上10%以下であり、より好ましくは−1%以上8%以下である。
【0048】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の熱風で測定したフィルム長手方向の最大収縮応力が3MPa以上7MPa未満であり、かつ、測定開始から30秒後の収縮応力が最大収縮応力の70%以上100%以下であることが好ましい。なお、収縮応力の測定は実施例に記載の方法で行うものとする。
【0049】
フィルム長手方向の90℃での最大収縮応力が3MPaを下回ると、ボトルのラベルとして使用する際に、ラベルが弛んでボトルに密着しないことがあるため、好ましくない。90℃の最大収縮応力は、3.3MPa以上がより好ましく、3.6MPa以上がさらに好ましい。反対に、90℃の最大収縮応力が7MPa以上となると、収縮時にラベルの接着部がめくれたり剥がれたりしやすくなるため、好ましくない。90℃の最大収縮応力は、6.5MPa以下がより好ましく、6MPa以下がさらに好ましい。
【0050】
フィルム長手方向の90℃の熱風中の測定開始から30秒後の収縮応力は、上記最大収縮応力に対して70%以上100%以下であることが好ましい。すなわち、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮し始めてから30秒後も最大熱収縮応力と同程度の収縮応力を示すという特異な熱収縮特性を示す。ボトルへラベルを被せて加熱収縮させる際に、ボトルが加熱により膨張した時のラベルの追従性が悪くなり、収縮後にボトルの温度が下がって熱膨張が無くなると、ラベルが弛んでしまうといった状況の発生を防ぐために、30秒後の収縮応力/最大収縮応力(以下、応力比)は70%以上であることが好ましい。上記応力比は、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。応力比は大きい方が、追従性が良好となるため好ましいが、30秒後の収縮応力が最大収縮応力を上回ることはあり得ないので、上限は100%である。
【0051】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃、80℃、70℃の各温度の温湯中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の温湯収縮率を測定したときに、90℃での温湯収縮率と80℃での温湯収縮率との差Δ
90-80と、80℃での温湯収縮率と70℃での温湯収縮率との差Δ
80-70との差の絶対値|Δ
90-80−Δ
80-70|が5%以下であることが好ましい。
【0052】
|Δ
90-80−Δ
80-70|が小さいほど、温度上昇に伴って緩やかに収縮率が増加する(収縮速度が遅い)ことを意味する。|Δ
90-80−Δ
80-70|は4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。なお、収縮率差の下限は0%である。
【0053】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後に、フィルム幅方向の単位厚み当たりの直角引裂強度を求めたときに、その幅方向の直角引裂強度が150N/mm以上300N/mm以下であることが好ましい。なお、幅方向の直角引裂強度の測定方法は実施例で説明する。
【0054】
上記直角引裂強度が150N/mmより小さいと、ラベルとして使用した場合に、運搬中の落下等の衝撃によって簡単に破れてしまう事態が生ずる可能性があるので好ましくなく、ラベルを引き裂く際のカット性(引き裂き易さ)が不良となるのを防ぐためには、直角引裂強度は300N/mm以下であることが好ましい。直角引裂強度は、155N/mm以上であるとより好ましく、160N/mm以上であるとさらに好ましく、165N/mm以上であると特に好ましく、170N/mm以上であると最も好ましい。また、直角引裂強度は、290N/mm以下であるとより好ましく、280N/mm以下であるとさらに好ましく、270N/mm以下であると特に好ましい。
【0055】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅方向の引張破壊強さが90MPa以上220MPa以下であることが好ましい。なお、引張破壊強さの測定方法は実施例で説明する。上記引張破壊強さが90MPaを下回ると、ラベルとしてボトル等に装着する際の“腰”(スティフネス)が弱くなるので好ましくなく、反対に、引張破壊強さが220MPaを上回ると、ラベルを引き裂く際の初期段階におけるカット性(引き裂き易さ)が不良となるので好ましくない。なお、引張破壊強さは、100MPa以上がより好ましく、110MPa以上がさらに好ましく、120MPa以上が特に好ましく、210MPa以下がより好ましく、200MPa以下がさらに好ましく、190MPa以下が特に好ましい。
【0056】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、特に限定されないが、厚みが10μm以上70μm以下であり、ヘイズ値が2%以上13%以下であることが好ましい。ヘイズ値が13を超えると、透明性が不良となり、ラベル作成の際に見栄えが悪くなる可能性があるので好ましくない。なお、ヘイズ値は、11%以下であるとより好ましく、9%以下であると特に好ましい。また、ヘイズ値は小さいほど好ましいが、実用上必要な滑り性を付与する目的でフィルムに所定量の滑剤を添加せざるを得ないこと等を考慮すると、2%程度が下限になる。
【0057】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す所定の方法により、二軸延伸して熱処理することによって得ることができる。なお、ポリエステルは、前記した好適なジカルボン酸成分とジオール成分とを公知の方法で重縮合させることで得ることができる。また、通常は、チップ状のポリエステルを2種以上混合してフィルムの原料として使用する。
【0058】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0059】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0060】
さらに、得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で幅方向に延伸し、その横延伸後のフィルムを熱処理した後に急冷し、次いで、所定の条件で長手方向に延伸し、再度、熱処理することによって、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となる。以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るための好ましい製膜方法について、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法との差異を考慮しつつ詳細に説明する。
【0061】
[本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製膜方法]
上述したように、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、通常、未延伸フィルムを収縮させたい方向(すなわち主収縮方向、本発明では長手方向)のみに延伸することによって製造される。本発明者等が従来の製造方法について検討した結果、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造においては、以下のような問題点があることが判明した。
・単純に長手方向に延伸するだけであると、上述の如く、幅方向の機械的強度が小さくなり、ラベルとした場合のミシン目開封性が悪くなる。その上、製膜装置の製品採取幅を広げることが困難で、生産性が悪い。
・また単純に長手方向に延伸するだけであると、上述の如く、長手方向の収縮応力と収縮速度が相反する事になり、ボトル飲料等のラベルとして収縮させる際の仕上り性と、収縮させた後のボトルとラベルの弛み(追従性)が不充分である。
・長手方向に延伸した後に幅方向に延伸する方法を採用すると、どのような延伸条件を採用しても、長手方向の収縮力を充分に発現させることができない。さらに、幅方向の収縮力が同時に発現してしまい、ラベルとした際に収縮装着後の仕上りが悪くなる。
・幅方向に延伸した後に長手方向に延伸する方法を採用すると、長手方向の収縮力は発現させることができるものの、幅方向の収縮力が同時に発現してしまい、ラベルとした際に収縮装着後の仕上りが悪くなる。
【0062】
さらに、上記従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造における問題点に基づいて、本発明者等が、ミシン目開封性が良好で生産性の高い熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることについてさらなる考察を進めた結果、次のような知見を得るに至った。
・ラベルとした際のミシン目開封性を良好なものとするためには、幅方向へ配向した分子をある程度残しておく必要があると考えられる。
・ラベルとした際の収縮装着後の仕上りを良好なものとするためには、幅方向への収縮力を発現させないことが不可欠であり、そのためには幅方向へ配向した分子の緊張状態を解消する必要があると考えられる。
・幅方向に配向した分子を残すことにより、長手方向に収縮する際の長手方向の分子配向の変化が遅くなり、収縮速度を遅くできると考えられる。
・幅方向に配向した分子を残すことにより、長手方向に収縮する際に発生する収縮応力の時間による減少を抑制し、追従性を改善できると考える。
【0063】
本発明者等は上記知見から、良好な収縮仕上り性と追従性の両立、さらにはミシン目開封性を同時に満たすためには、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させ、かつ適切な分子配向にする必要がある、と考えるに至った。そして、どのような延伸を施せば“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させることができるか、また、それをコントロールできるかに注目して試行錯誤した。その結果、幅方向に延伸した後に長手方向に延伸する、いわゆる横−縦延伸法によるフィルム製造の際に、以下の手段を講じることにより、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム中に存在させてコントロールすることを実現し、良好な収縮仕上り性、追従性とミシン目開封性を同時に満たす熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となり、本発明を完成するに至った。
(1)横延伸条件の制御
(2)横延伸後における中間熱処理
(3)縦延伸条件の制御
(4)縦延伸後の熱処理
以下、上記した各手段について順次説明する。
【0064】
(1)横延伸条件の制御
まず、横方向の延伸(横延伸)を行う。横延伸は、テンター(第1テンター)内でフィルム幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg以上Tg+20℃で、3.5〜5倍程度、行うことが好ましい。延伸倍率が3.5倍より低いと、厚みムラが起こりやすくなる上に、生産性が悪くなり好ましくない。延伸倍率が5倍より高いと、横延伸後のフィルムの配向結晶化が進み、縦延伸工程で破断が生じ易くなり、好ましくない。なお、横延伸の前には、予備加熱を行っておくことが好ましく、予備加熱はフィルム表面がTg以上Tg+30℃になるまで行うとよい。
【0065】
上記した温度や倍率で幅方向に延伸することにより、フィルム幅方向の吸光度比が0.45以上0.85以下となる。
【0066】
横延伸の後は、フィルムを積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンを通過させることが好ましい。第1テンターの横延伸ゾーンと中間熱処理ゾーンで温度差がある場合、中間熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸ゾーンに流れ込み、横延伸ゾーンの温度が安定しないためにフィルム品質が安定しなくなることがあるので、横延伸後で中間熱処理前のフィルムを、所定時間をかけて中間ゾーンを通過させた後に、中間熱処理を実施するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、フィルムの走行に伴う随伴流、横延伸ゾーンや中間熱処理ゾーンからの熱風を遮断すると、安定した品質のフィルムが得られやすい。中間ゾーンの通過時間は、1〜5秒程度で充分である。1秒を下回ると、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱の遮断効果が不足する。また、中間ゾーンの通過時間は長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0067】
(2)横延伸後における中間熱処理
“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させるためには、幅方向に配向した分子を熱緩和させることが好ましいが、従来、フィルムの二軸延伸において、一軸目の延伸と二軸目の延伸との間において、高温の熱処理をフィルムに施すと、熱処理後のフィルムが結晶化してしまうため、それ以上延伸することができない、というのが業界での技術常識であった。しかしながら、本発明者等が試行錯誤した結果、横−縦延伸法において、ある一定の条件で横延伸を行い、その横延伸後のフィルムの状態に合わせて中間熱処理を所定の条件で行い、さらに、その中間熱処理後のフィルムの状態に合わせて所定の条件で縦延伸を施すことによって、縦延伸時に破断を起こさせることなく、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させ得る、という驚くべき事実が判明した。
【0068】
すなわち、本発明の横−縦延伸法によるフィルムの製造においては、未延伸フィルムを横延伸した後に、テンター内でフィルム幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で、Tg+40℃以上Tg+70℃以下の温度で、5秒以上15秒以下の時間にわたって熱処理(以下、中間熱処理という)することが必要である。かかる中間熱処理を行うことによって、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させることが可能となり、ひいては、ラベルとした場合にミシン目開封性が良好で収縮斑が生じないフィルムを得ることが可能となる。なお、どのような横延伸を行った場合でも、“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させることが可能となるわけではなく、前述した所定の横延伸を実施することによって、中間熱処理後に、初めて“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”をフィルム内に存在させることが可能となる。そして、後述する所定の縦延伸を施すことによって、フィルム内に形成された“幅方向に配向しつつ収縮力に寄与しない分子”を保持したまま、長手方向へ分子を配向させて長手方向への収縮力を発現させることが可能となる。
【0069】
なお、中間熱処理の温度はTg+43℃以上がより好ましく、Tg+46℃以上がさらに好ましく、Tg+67℃以下がより好ましく、Tg+64℃以下がさらに好ましい。一方、中間熱処理の時間は、5秒以上15秒以下の範囲内で原料組成に応じて適宜調整する必要がある。中間熱処理はフィルムへ与える熱量が重要であり、中間熱処理の温度が低いと長時間の中間熱処理が必要となる。しかし中間熱処理時間があまりに長いと設備も巨大化するので、温度と時間で適宜調整するのが好ましい。
【0070】
中間熱処理の温度をTg+40℃以上に保つことにより、幅方向の分子配向度合いを大きくすることが可能となり、直角引裂強度を小さく保ちつつ、幅方向の引張破壊強さを大きく保つことが可能となる。一方、中間熱処理の温度をTg+70℃以下にコントロールすることによって、フィルムの結晶化を抑えて幅方向への延伸性を保ち、破断によるトラブルを抑えることが可能となる。また、フィルムの表層の結晶化を抑えて溶剤接着強度を大きく保つことができ、さらに、幅方向の厚み斑を小さくすることも可能となる。これにより、横一軸延伸ポリエステルフィルムが得られる。
【0071】
中間熱処理の際に、弛緩(リラックス)をしても構わないが、リラックス率が40%より高いと、分子配向度合いが低下し、幅方向の引張破壊強さが低下するので、リラックス率は40%以下とすることが好ましい。
【0072】
上記した温度で中間熱処理することにより、配向方向であるフィルム幅方向では、配向した分子鎖が加熱によって拘束されて結晶化が進み、その結果フィルム幅方向の吸光度比が0.55以上1.05以下となる。中間熱処理する前のフィルム幅方向の配向が高いと、中間熱処理後のフィルム幅方向の吸光度比の増加も大きくなる。また、中間熱処理の温度が高い方が、結晶化が進み易くなるので、フィルム幅方向の吸光度比の増加も大きくなる。一方、幅方向へのリラックスを実施すると幅方向の配向が低下するので、吸光度比は低下する。このように、中間熱処理する前のフィルムの配向、中間熱処理温度、幅方向へのリラックス率を調整することで、中間熱処理後のフィルムの幅方向の吸光度比の調整が可能となる。なお、フィルム長手方向については、中間熱処理の段階では未延伸であり、分子配向していないので、中間熱処理ではフィルム長手方向の吸光度比は変化が小さく、吸光度比も0.4以下と小さくなっている。
【0073】
(3)縦延伸条件の制御
縦収縮率を発現させるには、縦延伸が用いられてきた。一般的には縦収縮率を高くすると、縦方向の収縮応力も高くなる。縦方向の収縮応力を低下させるには、縦延伸時の延伸応力を低下させる必要がある。そして、縦延伸応力を低下させる方策の一つとして、縦延伸倍率を下げるという方法があるが、縦延伸倍率を下げると、物質収支の関係により、発現する収縮率も低下してしまうため、好ましくない。
【0074】
そこで本発明者等は、縦延伸倍率は高くして、縦収縮率を高く維持したまま、縦延伸応力のみを低下させる方法として、多段延伸と高温延伸に着目した。しかし、高温延伸を行うために予熱ロール温度を高めると、フィルムがロールに貼り付いてしまう。特に、本発明のフィルムは、非晶性の原料を多く用いているので、高温予熱ではフィルムが粘着力を持ち、ロールに貼り付き易くなり、好ましくない。そこで、本発明では、予備加熱ロールである程度予熱した後に、フィルムに接することなく加熱できる手段(赤外線ヒータ等)によって、フィルムを空中で加熱して延伸する方法を採用して、高温延伸を実施した。そして、高温延伸と多段延伸とを組み合わせることで、縦延伸応力と、縦方向の収縮応力を低くすることに成功した。
【0075】
具体的な縦延伸条件としては、中間熱処理後のフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度がTg以上Tg+20℃以下になるまで予備加熱した後、赤外線ヒータ等でフィルム温度がTg+20℃以上Tg+60℃以下となるように加熱し、トータル延伸倍率が2.2〜4倍となるように縦延伸することが好ましい。縦延伸ロールとして加熱ロールを用いてもよい。ここで、縦延伸は二段以上の多段延伸で行うことが好ましく、二段目は一段目よりも高温で行うことが好ましい。
【0076】
縦延伸の温度がTg+20℃より低いと、縦延伸する際の延伸応力が高くなり、長手方向の収縮応力が高くなり、トランスコンフォメーション比率が高くなって収縮速度が速くなるので好ましくない。また縦延伸が二段以上の多段延伸ではなく一段延伸を採用した場合や、4倍より高い延伸倍率で延伸した時も同様である。縦延伸温度はTg+23℃以上が好ましく、Tg+26℃以上がさらに好ましい。縦延伸温度は、フィルムのロールへの粘着等を防止するには、Tg+60℃が上限と考えられる。また縦延伸倍率はトータルで2.4倍以上3.8倍以下が好ましく、2.6倍以上3.6倍以下がさらに好ましい。
【0077】
また、多段延伸においては、二段目以降を一段目よりも高温で行い、延伸倍率も二段目以降を一段目よりも高倍率にすることが、収縮率を高くしつつ延伸応力を低下させるためには好ましい。
【0078】
上記した温度や倍率で長手方向に延伸することにより、フィルム長手方向の吸光度比を0.53以上0.98以下とすることができる。一方、フィルムを長手方向に延伸することで、フィルム幅方向の配向の一部が長手方向に配向するため、フィルム幅方向の配向が若干低下し、フィルム幅方向の吸光度比は0.5以上0.9以下となる。
【0079】
(4)縦延伸後の熱処理
縦延伸後のフィルムは、テンター(第2テンター)内でフィルム幅方向の両端際をクリップで把持した状態で、Tg℃以上Tg+40℃以下の温度で、5秒以上10秒以下の時間にわたって最終的に熱処理されることが必要である。幅方向へのリラックス(弛緩)はこの熱処理と同時に任意で実施してもよい。リラックスを行う場合は、0%超30%以下が好ましい。幅方向へのリラックス率が30%を超えると、フィルム幅方向のトランスコンフォメーション比率が低くなり過ぎて、幅方向の直角引裂強度や引張破壊強さが低下してしまうため好ましくない。幅方向へのリラックス率は27%以下がより好ましく、24%以下がさらに好ましい。
【0080】
熱処理温度がTg+40℃より高いと、長手方向の収縮率が低下し、90℃の長手方向の熱収縮率が35%より小さくなるため好ましくない。また、熱処理温度がTgより低いと、長手方向の分子配向の熱緩和が充分に行えず、最終的な製品を常温下で保管した時に、経時で長手方向の収縮(いわゆる自然収縮率)が大きくなり好ましくない。また、熱処理時間は長いほど好ましいが、あまりに長いと設備が巨大化するので、10秒以下とすることが好ましい。
【0081】
分子配向が高い長手方向は、上記の最終熱処理工程の加熱により僅かに結晶化して分子配向が拘束されるので、フィルム長手方向の吸光度比は0.55以上1以下となる。
【0082】
本発明の包装体は、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られたミシン目またはノッチを有するラベルが、包装対象物の少なくとも外周の一部に被覆して熱収縮させて形成されるものである。包装対象物としては、飲料用のPETボトルを始め、各種の瓶、缶、菓子や弁当等のプラスチック容器、紙製の箱等を挙げることができる。なお、通常、それらの包装対象物に、熱収縮性ポリエステル系フィルムから得られるラベルを熱収縮させて被覆させる場合には、当該ラベルを約5〜30%程度熱収縮させて包装体に密着させる。なお、包装対象物に被覆されるラベルには、印刷が施されていても良いし、印刷が施されていなくても良い。
【0083】
ラベルを作製する方法としては、長方形状のフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着してラベル状にするか、あるいは、ロール状に巻き取ったフィルムの片面の端部から少し内側に有機溶剤を塗布し、直ちにフィルムを丸めて端部を重ね合わせて接着して、チューブ状体としたものをカットしてラベルとする。接着用の有機溶剤としては、1,3−ジオキソランあるいはテトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。この他、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素やフェノール等のフェノール類あるいはこれらの混合物が使用できる。
【0084】
本願は、2013年6月11日に出願された日本国特許出願第2013−123027号に基づく優先権の利益を主張するものである。2013年6月11日に出願された日本国特許出願第2013−123027号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0085】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。なお、フィルムの評価方法を以下に示す。
【0086】
[吸光度比]
FT−IR装置「FTS 60A/896」(バリアン社製)を用いて、測定波数領域650〜4000cm
-1、積算回数128回で、ATR法で偏光をかけて、赤外吸収スペクトルを測定した。1340cm
-1での吸光度A1と1410cm
-1での吸光度A2との比A1/A2を吸光度比とした。
【0087】
[熱収縮率(温湯収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定温度±0.5℃の温水中に無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から引き出してフィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記式(1)にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。
【0088】
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) 式1
[収縮応力]
熱収縮性フィルムから主収縮方向の長さが200mm、幅20mmのサンプルを切り出し、東洋ボールドウィン社製(現社名オリエンテック)の加熱炉付き強伸度測定機(テンシロン(オリエンテック社の登録商標))を用いて測定した。加熱炉は予め90℃に加熱しておき、チャック間距離は100mmとした。加熱炉の送風を一旦止めて加熱炉の扉を開け、サンプルをチャックに取付け、その後速やかに加熱炉の扉を閉めて、送風を再開した。収縮応力を30秒以上測定し、30秒後の収縮応力(MPa)を求め、測定中の最大値を最大収縮応力(MPa)とした。また、最大収縮応力に対する30秒後の収縮応力の比率(百分率)を応力比(%)とした。
【0089】
[収縮率差]
熱収縮率を求める方法と同様にして、90℃、80℃、70℃の各温度における主収縮方向の温湯収縮率を測定した。90℃での温湯収縮率と80℃での温湯収縮率との差Δ
90-80と、80℃での温湯収縮率と70℃での温湯収縮率との差Δ
80-70との差の絶対値|Δ
90-80−Δ
80-70|を収縮率差とした。
【0090】
[直角引裂強度]
所定の長さを有する矩形状の枠にフィルムを予め弛ませた状態で装着する(すなわち、フィルムの両端を枠によって把持させる)。そして、弛んだフィルムが枠内で緊張状態となるまで(弛みがなくなるまで)、約5秒間にわたって80℃の温水に浸漬させることによって、フィルムを長手方向に10%収縮させた。この10%収縮後のフィルムから、JIS−K−7128−3に準じて、
図1に示す形状の試験片を切り出した。なお、試験片を切り出す際は、フィルム幅方向が引き裂き方向になるようにした。次に、万能引張試験機(島津製作所製「オートグラフ」)で試験片の両端(長手方向)を掴み、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行い、フィルムが幅方向に完全に引き裂かれたときの最大荷重を測定した。この最大荷重をフィルムの厚みで除して、単位厚み当たりの直角引裂強度を算出した。
【0091】
[引張破壊強さ]
測定方向(フィルム幅方向)が140mm、測定方向と直交する方向(フィルム長手方向)が20mmの短冊状の試験片を作製した。万能引張試験機「DSS−100」(島津製作所製)を用いて、試験片の両端をチャックで片側20mmずつ把持(チャック間距離100mm)して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強さとした。
【0092】
[Tg(ガラス転移点)]
セイコー電子工業社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgを、−40℃から120℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をTg(℃)とした。
【0093】
[ラベルの収縮歪み]
熱収縮性フィルムに、予め東洋インキ製造社製の草色・金色・白色の各インキで、3色印刷を施した。印刷したフィルムの両端部を重ねて、ヒートシーラーで120℃、0.5秒の条件で接着することにより、チューブ状のラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向としており、外周長が装着するボトルの外周長の1.1倍であるチューブ状のラベル)を作製した。そのチューブ状のラベルを、500mlのPETボトル(胴直径62mm、ネック部の最小直径25mm)に被せて、Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式;SH−1500−L)を用いて、通過時間2.5秒、ゾーン温度80℃で熱収縮させることにより、ラベルをボトルに装着した。なお、装着の際には、ネック部においては、直径40mmの部分がラベルの一方の端になるように調整した。収縮後の仕上り性の評価として、装着されたラベル上部の360度方向の歪みをゲージを使用して測定し、歪みの最大値を求めた。以下の基準に従って評価した。
◎:最大歪み 1.0mm未満
○:最大歪み 1.0mm以上2.0mm未満
×:最大歪み 2.0mm以上
[ラベル密着性]
上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件で、PETボトルにラベルを装着した。ラベル密着性を以下の基準に従って評価した。
◎:装着したラベルとPETボトルで弛み無く、ボトルのキャップ部を固定してラベルをねじったときに、ラベルが動かない。
○:ボトルのキャップ部を固定してラベルをねじったときはラベルが動かないが、ラベルとPETボトルの間に少し弛みがある。
×:ボトルのキャップ部を固定してラベルをねじったときに、ラベルがずれる。
【0094】
[ラベルのシワ]
上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件で、PETボトルにラベルを装着し、シワの発生状態を、以下の基準に従って評価した。
◎:大きさ2mm以上のシワの数が零。
○:大きさ2mm以上のシワの数が1個以上2個以下。
×:大きさ2mm以上のシワの数が3個以上。
【0095】
[ラベル接着部の剥離]
上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件で、PETボトルにラベルを装着した。収縮後のラベルの接着部のめくれや剥がれを、目視で、以下の基準に従って評価した。
○:2mm以上の接着部のめくれや剥がれがない。
×:2mm以上の接着部のめくれや剥がれがある。
【0096】
[ミシン目開封性]
予め主収縮方向と直交する方向にミシン目を入れておいたラベルを、上記したラベルの収縮歪みの条件と同一の条件でPETボトルに装着した。ただし、ミシン目は、長さ1mmの孔を1mm間隔で入れることによって形成し、ラベルの縦方向(高さ方向)に幅22mm、長さ120mmにわたって2本設けた。その後、このボトルに水を500ml充填し、5℃に冷蔵し、冷蔵庫から取り出した直後のボトルのラベルのミシン目を指先で引裂き、縦方向にミシン目に沿って綺麗に裂けなかったり、ラベルをボトルから外すことができなかった本数を数え、全サンプル50本についてのミシン目開封不良率(%)を算出した。
【0097】
<ポリエステル原料の調製>
合成例1
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート(DMT)100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール(EG)100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステルAを得た。このポリエステルAはポリエチレンテレフタレートである。
【0098】
合成例2
合成例1と同様にして、表1に示したポリエステルB〜Fを得た。なお、表中、BDは1,4−ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4−シクロヘキサンジメタノール、DEGは副生するジエチレングリコール、ε−CLはε−カプロラクトンである。なお、上記ポリエステルFの製造の際には、滑剤としてSiO
2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。ポリエステルB,C,D,E,Fの固有粘度は、それぞれ、0.72dl/g,0.80dl/g,1.20dl/g,0.77dl/g,0.75dl/gであった。なお、各ポリエステルは、適宜チップ状にした。
【0099】
実施例、比較例で使用したポリエステル原料の組成、実施例、比較例におけるフィルムの樹脂組成と製造条件を、それぞれ表1、表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
実施例1
上記したポリエステルA、ポリエステルB、ポリエステルDおよびポリエステルFを質量比25:60:10:5で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ324μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。また、未延伸フィルムのTgは67℃であった。
【0102】
得られた未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されていた。
【0103】
そして、テンターに導かれた未延伸フィルムを、フィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後、横延伸ゾーンで横方向に70℃で4倍に延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、115℃で8秒間に亘って熱処理することによって厚み81μmの横一軸延伸フィルムを得た。
【0104】
さらに、その横延伸したフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が80℃になるまで予備加熱した後に、赤外線ヒータでフィルム温度が90℃になるまで昇温し1.5倍延伸した後、赤外線ヒータで再度加熱してフィルム温度が95℃になるまで昇温して2倍(計3倍)に縦延伸した。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0105】
冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で95℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理した。同時に、幅方向に10%のリラックスを施した。その後、冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。カット性、収縮仕上り性が良好なフィルムであった。また、収縮応力曲線を
図2に示した。
【0106】
実施例2
ポリエステルBをポリエステルCに変更した以外は実施例1と同様の方法で厚さ30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。未延伸フィルムのTgは67℃であった。評価結果を表3に示す。実施例1と同様に優れたフィルムであった。
【0107】
実施例3
ポリエステルDをポリエステルEに変更し、最終熱処理温度を98℃に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。実施例1と同様に優れたフィルムであった。
【0108】
実施例4
実施例1における幅方向へのリラックスを、最終熱処理工程ではなく、中間熱処理工程で行った。加えて、最終熱処理温度を98℃に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。評価結果を表3に示す。実施例1と同様に優れたフィルムであった。
【0109】
実施例5
実施例4において、ポリエステルAとポリエステルBの比率を変更して非晶質成分のモノマー量を変更した以外は、実施例4と同様にして、厚さ30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。評価結果を表3に示す。実施例4と同様に優れたフィルムであった。
【0110】
実施例6
実施例4において、ポリエステルAとポリエステルDの量を変更し、最終熱処理温度を100℃に変更した以外は、実施例4と同様にして、厚さ30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。評価結果を表3に示す。実施例4と同様に優れたフィルムであった。
【0111】
比較例1
ポリエステルBとポリエステルFとを質量比90:10で混合して押出機に投入した。この混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さ360μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約20m/minであった。また、未延伸フィルムのTgは67℃であった。
【0112】
得られた未延伸フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、この第1テンターにおいては、横延伸ゾーンと中間熱処理ゾーンとの間に位置した中間ゾーンの長さが約40cmに設定されていた。また、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されていた。
【0113】
そして、テンターに導かれた未延伸フィルムを、フィルム温度が90℃になるまで予備加熱した後、横延伸ゾーンで横方向に75℃で4倍に延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、130℃の温度で2秒間に亘って熱処理することによって厚み90μmの横一軸延伸フィルムを得た。
【0114】
さらに、その横延伸したフィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が95℃になるまで予備加熱した後に、表面温度が95℃に設定された縦延伸ロール間で3倍に延伸した。その後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0115】
冷却後のフィルムをテンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で95℃の雰囲気下で2秒間に亘って熱処理した。その後、冷却し、両縁部を裁断除去して幅500mmでロール状に巻き取ることによって、厚さ30μmの二軸延伸フィルムを所定の長さにわたって連続的に製造した。得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。長手方向の吸光度比が高く、熱収縮応力も高く、収縮時にラベル接着部が剥がれ易いフィルムであった。
【0116】
比較例2
縦延伸工程で赤外線ヒータを用いず(90℃への昇温を行わない)、かつ二段延伸を一段延伸に変更した以外は、実施例1と同様の方法で厚さ30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。評価結果を表3に示す。実施例1のフィルムに比べ、長手方向の吸光度比が高く、収縮率差や収縮応力が高くなった。また、収縮後のラベルの収縮歪み、シワ、接着部のめくれや剥がれの特性が、実施例1よりも劣るフィルムであった。
【0117】
比較例3
未延伸フィルムの厚みを198μmとし、最終熱処理工程の代わりに、横延伸後の中間熱処理工程で45%のリラックスを行った以外は、実施例1と同様の方法で厚さ30μmの二軸延伸フィルムロールを得た。評価結果を表3に示す。実施例1のフィルムに比べ、幅方向の吸光度比が低く、直角引裂強度、幅方向の引張破壊強さが劣っていた。収縮後のミシン目開封不良率も、実施例1より劣るフィルムであった。
【0118】
比較例4
未延伸フィルムの厚みを90μmとし、横延伸工程をなくして、縦延伸時の1段目と2段目のフィルム温度を80℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で厚さ30μmの一軸延伸フィルムロールを得た。評価結果を表3に示す。実施例1のフィルムに比べ、幅方向の吸光度比が低く、直角引裂強度、幅方向の引張破壊強さが劣っていた。また、収縮後のミシン目開封不良率も、実施例よりも劣っていた。さらに、収縮率差が高く、収縮後の収縮歪みやシワが、実施例1より劣るフィルムであった。比較例4の収縮応力曲線を
図2に併せて示した。
【0119】
【表3】