(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記赤熱コークスの押出終了時における反対側の端部の赤熱コークスが前記バケット内に落下する押出末期段階で、当該バケットを、未乾留コークスに含まれる棚吊り形成材に対する遠心力の発生を抑制する前記通常回転速度より遅い低速旋回速度に制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のコークス炉バケット車のバケット旋回制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係るコークス炉バケット車のバケット旋回制御方法の一実施形態について図面を伴って説明する。
コークス炉1は、
図1に示すように、炉幅方向に多数併設されている。コークス炉1は、周知のように、
図2に示すように、石炭を貯留する炭化室1aと燃焼バーナーを燃焼する燃焼室1bとを交互に備えている。炭化室1aの炉頂部に設けられた装入口から石炭を装入し、燃焼室の顕熱で炭化室内の石炭を乾留してコークスを生成する。乾留後の赤熱コークスは、窯口の炉蓋を外した状態で、押し出し機1cにより炉外に押出される。
【0011】
ここで、押し出し機1cは、
図2に示すように、赤熱コークスを押し出すラムヘッド1dと、このラムヘッド1dに取付けられたラムロッド1eと、ラムロッド1eの上面に形成されたラック1fとを備えている。そして、ラック1fに図示しないモータで駆動されるピニオンが螺合され、モータを駆動することにより、ラック1f、ラムロッド1e及びラムヘッド1dが炭化室1aに対して進退駆動される。
【0012】
コークス炉1から所定距離離間した位置にCDQ(コークス乾式消火設備)2が配置されている。このCDQ2は、赤熱コークスを投入して冷却する冷却塔を備え、冷却塔内は、例えば上部の保持槽と、下部の冷却槽を備える。赤熱コークスは、バケット3によって冷却塔上部の保持槽に投入され、冷却されたコークスが冷却塔の下部から切り出しゲート、ベルトコンベヤを経て排出される。冷却槽では、下部から循環ガスが吹き込まれ、その循環ガスは冷却槽内のコークスの隙間を通過して上部から排出される。この間に、循環ガスとコークスとの熱交換が行われ、コークスが冷却される。
【0013】
コークス炉1から押し出された(窯出しされた)赤熱コークスは、
図2に示すように、コークガイド1gを経てバケット3に受骸される。バケット3は、
図1に示すように、消火電車4に牽引されるバケット車5上に搭載されている。バケット車5及びバケット3の具体的構成を
図3に示す。バケット3は、底部に排出ゲートと、前記排出ゲートを開閉する機能を有する吊りフレーム機構6とを備える。バケット車5は、赤熱コークスを受骸したバケット3を吊り上げ搭載すると共にバケット3を旋回させる旋回機構7とを備える。
【0014】
吊りフレーム機構6は、図示しないクレーンの吊りフックが係止される係止ピン8、係止ピン8の下方に延設された吊り金物9、吊り金物9に取付けられたフック10を備えて構成される。また、バケット3の外周面には排出ゲート開閉機構11が取付けられ、この排出ゲート開閉機構11にキャッチングブロック12が連設されている。クレーンの吊りフックを係止ピン8に係止して吊り金物9を吊り上げると、フック10がキャッチングブロック12に係合してバケット3を吊り上げることができる。バケット3をCDQ2の冷却塔上方に吊り上げたら、排出ゲート開閉機構11で排出ゲートを開き、受骸された赤熱コークスをCDQ2の冷却塔に投入する。
【0015】
旋回機構7は、バケット3をキャッチングブロック12や排出ゲート開閉機構11ごと旋回させる旋回部13と、旋回部13の回転軸を回転させる旋回モータ14とを備えて構成される。
旋回モータ14は、
図3に示すように、モータ制御装置15によって制御されるモータ駆動回路16によって回転制御される。このモータ制御装置15には、押出位置検出装置17で検出した押出位置情報STが入力されている。押出位置検出装置17は、押し出し機1cのラックストロークすなわちラムヘッド1dの押出位置を例えばピニオンの回転角を検出することにより検出している。
【0016】
そして、モータ制御装置15では、
図4に示すバケットの旋回制御処理を実行する。このバケットの旋回制御処理は、先ず、ステップS1で、押出位置情報STを読込み、次いでステップS2に移行して、押出位置情報STが炭化室1aの後端の押出開始位置ST1に達したか否かを判定する。
このステップS2の判定結果が、押出位置情報STが押出開始位置ST1に達していないときには、前記ステップS1に戻り、押出位置情報STが押出開始位置ST1に達したときにはステップS3に移行する。
【0017】
このステップS3では、旋回モータ14に対して、遠心力を抑制して未乾留コークスに含まれるタールがバケット内面に付着することを防止する比較的低い低速旋回速度VLで旋回させる低速旋回速度指令VL
*をモータ駆動回路16に対して出力してからステップS4に移行する。
このステップS4では、押出位置情報STを再度読込み、次いでステップS5に移行して、押出位置情報STが予め設定した未乾留コークスが生じる可能性がある押出開始段階を終了する第2の押出位置ST2に達したか否かを判定し、押出位置情報STが第2の押出位置ST2に達していないときには、前記ステップS4に戻り、押出位置情報STが第2の押出位置ST2に達したときにはステップS6に移行する。
【0018】
このステップS6では、低速旋回速度VLに対して速く赤熱コークスのバケット内での偏析を防止する通常旋回速度VUで回転させる通常旋回速度指令VU
*をモータ駆動回路16に対して出力してからステップS7に移行する。
このステップS7では、再度押出位置情報STを読込み、次いでステップS8に移行して、押出位置情報STが炭化室1aの前端位置の押出終了位置STeに達したか否かを判定し、押出位置情報STが押出終了位置STeに達していないときには、前記ステップS7に戻り、押出位置情報STが押出終了位置STeに達したときにはステップS9に移行して、バケット3を吊手位置で位置決めして停止させる位置決め停止指令をモータ駆動回路16に出力してからモータ制御処理を終了する。
【0019】
次に、上記第1の実施形態の動作をバケットの旋回制御方法とともに説明する。
今、押し出し機1cが、
図2に示すように、乾留を終了した炭化室1aの後端に対向する位置に移動しており、炭化室1aの前端側にバケット車5に載置されたバケット3が位置しているものとする。
この状態で、押し出し機1cの押出モータ(図示せず)を回転駆動してピニオンを介してラック1fを移動させることによりラムロッド1eを前進させてラムヘッド1dを押出開始位置ST1に移動させると、押出位置が押出位置検出装置17で検出される。
【0020】
このため、モータ制御装置15で低速旋回速度指令VL
*がモータ駆動回路16に対して出力される。
このため、
図5に示すように、旋回モータ14が時点t1で回転駆動開始されて、時点t2から低速旋回速度VLで定速回転される。このとき、押し出し機1cでは、炭化室1aの前端側の未乾留コークスを含む可能性が高い赤熱コークスを押し出してバケット3に落下させている。この状態では、バケット3が低速旋回速度VLで駆動され、バケット3が遠心力を抑制した状態で回転している。このため、バケット3内で、未乾留コークスに含まれるタール等の棚吊り形成材が遠心力で飛散してバケット内面にこびり付くことがなく、棚吊り状態の発生を抑制することができる。
【0021】
その後、時点t3で押し出し機1cのラムヘッド1dが押出開始段階を終了する第2の押出位置ST2に到達すると、モータ制御装置15はバケット3を通常旋回速度VU(例えばVU=9rpm)で回転駆動する通常旋回速度指令VU
*をモータ駆動回路16に出力する。このため、バケット3の旋回速度が
図5に示すように上昇を開始し、時点t4で通常旋回速度VUに達し、その後通常旋回速度VUで定速旋回駆動される。このため、バケット3が通常旋回駆動されることにより、炭化室1aから押し出された赤熱コークスがバケット3内で偏析を生じることなく貯留される。
【0022】
その後、時点t5で押し出し機1cのラムヘッド1dが炭化室1aの前端に達して、押出位置情報STが押出終了位置STeに達すると、バケット3を吊手位置で位置決めして停止させる位置決め停止指令をモータ駆動回路16に出力する。このため、バケット3の旋回速度が減速されてバケット3を位置決め停止可能な低速旋回速度VLより低い位置決め用旋回速度まで低下され、吊手位置が所定の吊手停止位置に達したときに停止される。
【0023】
そして、赤熱コークスの受骸が完了すると、バケット3をCDQ2に移動させて、バケット3を吊り上げて、赤熱コークスをCDQ2の赤熱コークス受入れ部に投入する。このバケット3のCDQ2への移動はバケット3が位置決め用旋回速度で旋回されている状態で開始することができる。
この第1の実施形態では、一般に、未乾留コークスは、炭化室の炉蓋近傍で発生し易いため、炭化室から赤熱コークスを押し出す際に、押出初期及び押出末期にバケット3の旋回速度を落とすことができるが、押出末期に押し出されるコークスは、バケット3の上部に堆積されることから、押出末期に未乾留コークスが排出されても、バケット3における棚吊りの原因になる可能性は、押出初期に比較して相対的に小さく、押出末期の未乾留コークスの棚吊り抑制を省略している。
【0024】
本発明者がコークス工場において、内径4.6m(直径)のバケットを用いて試験を行った結果、低速旋回速度VL時の回転数は、4.5rpm以下であれば、棚吊りを抑制する効果があることが認められた。
バケットの内径の違いを考慮する場合には、バケット3の内側面位置での遠心加速度の大きさ、またはコークスに作用する最大遠心力速度の大きさを基準に回転数を決めることができる。
【0025】
遠心加速度=バケット半径×角速度
2
であるので、上記例のようにバケット3の回転数が4.5rpmの場合、遠心加速度は、
2.3(m)×(2π×4.5/60(s
−1))
2=0.51〔m/s
2)
となるので、それ以下の遠心加速度が好ましいことが分かる。
【0026】
旋回速度が小さすぎれば、偏析の問題が発生する可能性があるが、押出初期の場合、偏析によりコークスがバケット3から溢れる懸念がないため、低旋回速度の下限は特に設ける必要はなく、バケット3が停止しない程度に旋回させればよい。
さらに、低速旋回速度VLとすべき期間は、押し出されるコークス中に未乾留コークスが含まれている間とすることが望ましい。未乾留コークスの存在は、例えば、排出されるコークスをサンプリングして、残留揮発分が多いほど未乾留であると判断することができる。また、コークス炉燃焼室の炉長方向の温度分布を測定し、設定された温度よりも温度が下がっている範囲で未乾留コークスが発生していると推定することもできる。
【0027】
本発明者の実炉測定の結果より、低速旋回速度VLとすべき期間は、押出開始から、炭化室のコークスの10〜20%の量が排出されるまでとすることが好ましいことを知見した。すなわち、押し出しを開始してから、押し出しラムの先端が炭化室の長さの10〜20%に相当する距離を進行している間において、低速旋回速度VLとすることが好ましい。
また、通常旋回速度VUについては、特に制約はない。低速旋回速度よりも大きく、設備制約による速度上限より小さければよい。上記例では4.5rpmを超え、15rpm以下の範囲が好適であった。
【0028】
〔実施例〕
長さ15.75m、幅435mm、高さ6.7の炭化室を有するコークス炉で試験を行った。バケット3は、内径(側面部)直径4.6mのものを使用した。本発明の実施例として、押出開始後、押し出しラム先端が2.5m(炭化室全長の16%の長さに相当)進行するまでの間、コークスバケットの旋回速度をVL=0.3rpmとした。その後、旋回速度を加速し、押し出し完了まで、VU=9.0rpmで旋回させ、その後に減速して回転を停止した。
【0029】
比較例として、同一設備で押し出し中の旋回速度を9.0rpm一定とした条件で操業を行った。
それぞれの条件での棚吊り量を、バケットからのCDQへのコークス排出前後のバケット重量変化から測定した。その結果、本発明例での棚吊り量は、2.2tであり、比較例での棚吊り量は2.9tであった。本発明の方法により、棚吊り量を約24%削減できるという効果が得られた。なお、どちらの例においても偏析の発生は問題とならなかった。
【0030】
このように、第1の実施形態によると、炭化室1aから押し出される赤熱コークスの未乾留コークスを含む可能性が高い炭化室1aの前側の赤熱コークスがバケット3に落下する際に、バケット3を低速旋回速度VLで回転させるので、未乾留コークスに含まれるタール等の棚吊り形成材が遠心力でバケット内面側に飛散してこびり付くことを抑制することができるとともに、未乾留コークスを含むことがない炭化室1aの中央部の赤熱コークスをバケット3に受骸する際には、偏析を防止する通常旋回速度VUに増加させて偏析を防止することができ、バケット3から赤熱コークスが溢れることを防止することができる。したがって、棚吊り状態の抑制と偏析防止との双方をバケットサイズの変更を行うことなく確実に行うことができる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態について
図6及び
図7を伴って説明する。
この第2の実施形態では、炭化室からコークスを押し出す際に、押出初期に加えて押出末期でもバケット3を低旋回速度で旋回させるようにしたものである。
この第2の実施形態では、モータ制御装置15で実行するバケットの旋回制御処理が、
図6に示すように変更されている。
【0032】
すなわち、
図6のバケットの旋回制御処理において、ステップS1〜ステップS6の処理及びステップS7〜ステップS9の処理は、前述した第1の実施形態のステップS1〜ステップS6及びステップS7〜ステップS9の処理と同じ処理を行うが、ステップS6とステップS7との間に、押出末期の低速旋回速度制御を行うステップS10〜ステップS12の処理が挿入されている。
【0033】
ここで、ステップS10では、押出位置情報STを読込み、次いでステップS11で押出位置情報STが炭化室1aの前端側の未乾留コークスが形成される可能性がある前端側の押出位置の手前の減速開始位置ST3に達したか否かを判定し、押出位置情報STが減速開始位置ST3に達していないときには、前記ステップS10に戻り、押出位置情報STが減速開始位置ST3に達したときに、ステップS12に移行する。
【0034】
このステップS12では、第1の実施形態で設定した低速旋回速度VLと等しい低速旋回速度VLでバケット3を開始させる低速旋回速度指令VL
*をモータ駆動回路16に出力してからステップS7に移行する。
ここで、減速開始位置ST3の設定は、本発明者の試験による知見に基づいて、炭化室1aのコークスが80〜90%以上排出された後(または、押出ラムの先端が炭化室1aの全長の80〜90%進行した後以降)に低速旋回速度VLとなるように設定することができる。このとき、押出末期では、偏析を防止することを考慮する必要があるため、低速旋回速度VLの下限値は0.05rpm程度とすることができる。
【0035】
この第2の実施形態によると、
図6に示すように、第1の実施形態と同様に、炭化室1aの押出初期の時点t11〜t13でバケット3を低速旋回速度VLで旋回させて未乾留コークスに含まれるタール等の棚吊り形成材に対する加速度を抑制して棚吊り状態の発生を抑制した後、通常旋回速度VUまで加速し、この通常旋回速度VUを時点t15まで維持して偏析を防止する。
【0036】
その後、時点t15で押出位置情報STが減速開始位置ST3に達すると、低速旋回速度指令VL
*をモータ駆動回路16に出力して減速を開始し、時点t16からバケット3を低速旋回速度VLで定速旋回させて、未乾留コークスに含まれるタール等の棚吊り形成材に対する加速度を抑制して棚吊り現象の発生を抑制する。その後、押出末期の未乾留コークスの押し出しが完了する時点t17で押出位置情報STが押出終了位置STeに達すると、位置決め停止指令をモータ駆動回路16に出力して、バケット3を位置決め用旋回速度で旋回させながら、吊手位置が所定の吊手停止位置に達したときに停止される。
【0037】
この第2の実施形態によると、炭化室1aからのコークスの押出末期でも、バケットを低速旋回速度VLで旋回させることにより、未乾留コークスに含まれるタール等の棚吊り形成材に対する加速度を抑制して、棚吊り形成材がバケット3の内面に飛散されることを抑制し、棚吊り形成材のバケット3の内側への付着量をより抑制することができる。
なお、上記第2の実施形態においては、バケット3の押出初期及び押出末期での旋回速度を同一の低速旋回速度VLに設定する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、押出初期及び押出末期で異なる旋回速度に設定するようにしてもよい。
【0038】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、低速旋回速度VLが一定速度である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、コークス棚吊りが抑制できる旋回速度以下の範囲で低速旋回速度VLを経時的に変化させるようにしてもよい。
さらに、上記第1及び第2の実施形態においては、押出位置情報STが押出終了位置STeに達したときに位置決め停止指令を出力してバケット3を位置決め用旋回速度で旋回させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、位置決め用旋回速度での旋回を省略するようにしてもよい。